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金融論
unit 3 リスク・ファイナンス
リスク・シェアリング:天候によるリスク
ある事業家がアイスクリームを売る事業を考えており、また、 他の事業家は、ラーメンを売る事業を考えているとする。 それぞれの事業に100万円の投資をする必要があるが、この 資金はそれぞれの事業家がはじめから保有しているとする。
リスク・シェアリング:天候によるリスク
それぞれの事業からの収益は、その日の気温に依存する。 アイスクリームを売る事業を行なっている人の収益は、気温 が上がれば増加し、気温が下がれば減少する。
ラーメンを売る事業を行なっている人の収益は、気温が下が れば増加し、気温が上がれば減少する。
ここでは、例示として、気温が高いか低いかの2つの状態を 考えることにする。
リスク・シェアリング:天候によるリスク
アイスクリームを売る事業からは、気温が高いときには50 万円の利益が上がり、低いときには20万円の損害が発生す るとする。
ラーメンを売る事業からは、気温が低いときには50万円の利 益が上がり、高いときには20万円の損害が発生するとする。 アイスクリームを売る事業からの収益のパターンは図3-1、 ラーメンを売る事業からの収益のパターンは図3-2に、まと めている。
リスク・シェアリング:天候によるリスク
リスク・シェアリング:天候リスクのシェアリング
それぞれの事業の収益のパターンを眺めてみると、気温が高 い場合と低い場合で、収益のパターンが逆であることに気 づく。
この様な場合には、これら2人と事業者が金融契約を締結し て、収益の平準化を図ることができる。
たとえば、気温が高いときには、アイスクリーム業者がラー メン業者に35万円を支払い、気温が低いときには、ラーメ ン業者がアイスクリーム業者に35万円を支払う、という契 約を結べば、両方の業者とも気温と無関係に15万円の利益 を出すことができる。
この契約によって、気温の高低による利益の増減がなくな
リスク・シェアリング:状態間の資金移転
アイスクリーム業者の貨幣の受取り額を考えてみると、リス ク・シェアリングが行なえないときには、天候(気温の高 低)によって、おおきく変動する。
暑いときには50 万円のネットの受取りがあり、寒いときには 20 万円のネットの支払いがある。
このような変動がもとになって、消費水準も変動する。 つまり、天候の状態によって、消費水準が変動してしまう。
受取額が多いときは消費も大きくなるが、受取額が少ないと きは消費も小さくなる。
unit 2 で、資金貸借が起こる原動力として、限界効用の逓減
があることを見てきたが、ここでも同様の議論を行なうこと ができる。
リスク・シェアリング:状態間の資金移転
この業者がラーメン業者とリスク・シェアリングを行なうこ とができたとすると、暑いときにも寒いときにも、15万円と いう一定の利益を出すことが可能になる。
その結果、消費の変動も抑えることができる。 同様のことはラーメン業者に対しても言える。
このような契約によって、両者の効用が増加し、資源配分が 効率化する。
リスク・シェアリング:状態間の資金移転
リスクがある状態において、期待効用という概念を用いる。 期待効用とは、効用の期待値であり、いま考えている例では、 暑くなる確率と寒くなる確率を事前に予測し、この確率を用 いて事後的な効用を事前に期待値で把握することになる。 重要ポイント「期待効用とリスク回避的な個人」をよく理解 すること。
リスク・シェアリング:状態間の資金移転
リスク・プーリング:ケガをするリスク
ある個人がケガをするというリスクについて考える。 ある個人がケガをすると、その治療費が必要になり、その治 療費の分だけ支出が増大する。
この支出の増大をリスクと考えることができる。
通常は、貯めてある資産を取り崩して治療費にあてることが できる。
運悪く長い間入院することになった場合などは、その治療費 も莫大な金額になることがあり、この場合は、貯めてある金 額では足りない場合も考えられる。
リスク・プーリング:ケガをするリスク
大ケガをした場合、図3-4に図示してあるように、100万円 の支出が必要であるとする。
この100万円の治療費をみずからが用意する場合には、常に 100万円の資金をケガの治療費として予備的に用意しておく 必要がある。
この資金は、事業をはじめるなど、他の目的に使用すること はできない。
リスク・プーリング:ケガをするリスク
リスク・プーリング:ケガをするリスク
各個人にとっては、大ケガをする状態としない状態の2つの 状態がある。
各個人が、大ケガをするという状態が起きたときのために資 金を用意しておくことは、合理性がある。
しかし、よく考えてみると、大ケガをするのは大変稀なこと である。
稀なことが起きるのを見越して、多額の資金を遊ばせておく のは無駄であることが予想される。
ところが経済全体で見てみると、各個人にとっては、ある小
リスク・プーリング:大数の法則
たとえば、各個人が大ケガをする確率は0.1%であるとする。 経済全体で見ると、多数の個人が存在しているので、0.1%の 人が安定的に大ケガをしていることになる。
このように、多数の人について考えると、その一定割合に損 害が発生することを、大数の法則 (low of large number)と 呼ぶ。
この大数の法則が働くリスクに対しては、リスク・プーリン グ(risk pooling)を行なうことが可能になる。
リスク・プーリング:大数の法則
個々人にとっては、0.1%の確率で100万円の支出が必要にな るので、期待値としては、毎年1000円の支出が必要になる。 したがって毎年1000円の拠出を行い、大ケガをした人が100 万円を受け取るという契約を締結することが可能になる。 たとえば、10万人が集まったとすると、拠出金として1億円 が集まる。
図3-5のように、大数の法則が働けば、10万人のうち毎年 100人が不幸にも大ケガをしてしまう。
これらの人々に、1億円の拠出を使用して、それぞれに100 万円を支払うことが可能になる。
このリスク・プーリングは、生命保険や損害保険に使用され
リスク・プーリング:大数の法則
リスク・プーリング:大規模災害
ここまで説明したリスク・プーリングは、短期間に多数の事 例が生じる場合にその効果を発揮できる。
たとえば、交通事故に関して保険金を支払う損害保険を考 える。
交通事故は、毎日多数の事故が発生している。
したがって、たとえば、1年程度の期間についてリスクを プーリングすると、保険契約に加入している人の中で、事故 を起こす割合が安定してくる。
したがって、大数の法則が比較的短いタイムスパンで成立
リスク・プーリング:大規模災害
このような世の中で頻繁に起きている事故に対して、地震や 台風などの自然災害は、ごく稀にしか起きない。
たとえば、ある地域に大規模な地震が起きる事例は、50年に 1度とか100年に1度などと言われている。
このような、ごく稀れにしか起きない事象に対しては、大数 の法則が効きにくいので、リスクをプーリングすることが困 難である。
リスク・プーリング:大規模災害
時間を使ってリスクをプーリングするイメージは、図3-6に 図示している。
交通事故と同じような形でプーリングを行なうには、1000年 以上の長いタイムスパンを設定する必要があり、民間の事業 会社が取り扱うには、無理が生じることが予想される。 大規模災害には、このようなリスク特性があるため、大規模 災害を保険するためのリスク・マネーの供給は、その需要に 比べて限られてしまっていると言うことができる。
リスク・プーリング:大規模災害
リスク・プーリング:大規模災害
実際の保険契約の現場においても、たとえば地震災害に対す る保険を掛けたい個人や事業者が、その必要としている額ま で保険を掛けられないという事態が発生している。
また、その保険の料率も、比較的高い水準に設定されてしま いがちになる。
このような減少は、大規模災害においては、リスクのプーリ ングがスムーズに行なわれないという、大規模災害に特有の リスク特性によるものである。
リスク・コントロール:リスクの種類
リスクを大きく分けると、 信用リスク
市場リスク
オペレーショナル・リスク
に分けることができる。
リスク・コントロール:リスクの種類
信用リスクとは、債務者の破綻にかかわるリスクであり、 unit 2 で説明した。
たとえば、ある企業が発行した債券を購入した場合に、その 債券を発行した企業が破綻すると、債券が契約通りに償還さ れないことが起こる。
この場合に、資金の受取り額が減少することを信用リスクと いう
リスク・コントロール:リスクの種類
市場リスク (market risk)とは、資産の市場における価格にか かわるリスクのことを言う。
債券を購入した場合に、その債券の満期まで保有することも あるが、途中で市場で売却することも考えられる。
とくに、市場性の高い債券であれば、短期的な資金の運用を 目的として、その債券を購入することがある。
この場合、資金が必要になったときに債券を売却することを、 債券の購入時に予定していると考えられる。
しかし、債券の価格はその時々の市場要因によって変化する。 債券価格の変動によって、債券を売却することによって得る ことができる資金の額も変動する。
この変動のリスクが市場リスクと呼ばれるものである。
リスク・コントロール:リスクの種類
オペレーショナル・リスク (operational risk)とは、信用リス クや市場リスク以外の多様なリスクの総称である。
横領などの内部者の不正行為 窃盗などの外部者の不正行為 大規模災害による物的資産の損傷
ソフトウェアやハードウェアの障害などによるシステム障害
リスク・コントロール:リスク・コントロールとリス
ク・ファイナンス
これらのリスクに対する対処法としては、まずリスクそのも のを減らす試みがあげられる。
信用リスクに関しては、貸出しを行なう場合や債券を購入す る場合には、貸出し先や債券の発行者の健全性を調査するこ とが必要になる。
市場リスクに関しては、市場価格の動きに絶えず注意を払う 必要がある。
オペレーショナル・リスクに関しては、不正行為の発生を未 然に防止するために、社内監査体制を確立しておくことや、 地震による損害を宰相にするために、建物を免震構造にした りバックアップ・オフィスを離れたところに設置しておくこ となどが考えられる。
これらの措置は、リスク・コントロール(risk control) と呼ば れる。
リスク・コントロール:リスク・コントロールとリス
ク・ファイナンス
次に、リスクに対する保険を掛けておくことが考えられる。 このことは、リスク・ファイナンス (risk finance)と呼ば れる。