都市交通シミュレーションによる交通解析
An analysis of urban traffic simulation
内種岳詞
1,2∗伊藤伸泰
1,2,3Takeshi Uchitane
1,2Nobuyasu Ito
1,2,31
理化学研究所
2JST CREST
3東京大学
Abstract: In order to solve a social problem, e.g. urban traffic jam, it is expected to analyze social phenomena using numerical simulation. This study is an early step to solve such problems. Our target phenomenon is urban vehicle traffic. An analysis is performed to make ensure that there are some relationships between traffic demand in each road. From the result of the analysis, we can show that such relationship may be existed. At the last session, we have a discussion to guarantee the possible existence of such relationship in the real world.
1 はじめに
災害など社会問題の対処,解決には状況を多角的に 捉えた判断が必要とされる.しかし,情報不足などの 理由で適切な状況判断が困難である場合が多い.問題 解決のために,より詳細な社会情報を集めるインフラ 整備が必要なのはもちろん,問題を引き起こしている 原因を特定することや問題の特徴を知ることは大切で ある.一方で,計算機シミュレーションを利用した仮想 社会実験を行なうことで,有用な知見を得る試みが行 われている.社会現象は多くの要因によって引き起こ されることが想定され,また,社会現象の評価は多角的 に行われる.そのような社会現象のシミュレーションに 用いられるモデルの特徴の1 つは,多数の入力(要因) と多数の出力(評価)を持つことである.特に,複雑 かつ大規模なシステムのシミュレーションでも,スー パーコンピュータを利用すれば実現可能であると考え る.また,そのようなシステムに対する多変量解析を 行い,社会の制御や将来予測,解決策の発見などに応 用できると考える.
社会現象の1 つである都市交通では,人の移動につ いて人数,ルート,手段,出発時刻など多くの要因が 渋滞の場所や規模などの現象に影響を与えていること が予想される.しかし,都市交通においてもすべての 自動車の移動記録を得ることは難しく,どの要因が渋 滞に関与しているのかを解明することや,渋滞の起こ り方といった法則を限られた情報から発見することは 困難である.本研究では,計算機シミュレーションの 利用により渋滞を解消するための最初のステップとし て.渋滞パターンに関する普遍的な法則を,都市にお
∗連絡先:理化学研究所
神戸市中央区港島南町7-1-26 E-mail: [email protected]
ける自動車交通シミュレーションから発見することを 目的とする.渋滞パターンには多様な捉え方が存在す るが,ここでは道路の交通需要を渋滞パターンとして 捉え,ある道の交通需要の変化が他の道の交通需要に 関係するかを検証する.すなわち,ある道の交通需要 の変化と他の道の交通需要変化に相関関係が存在する ことを明らかにする.そのような相関関係が普遍的に 存在することが示されれば,交通を評価する指標とし て利用できるのはもちろん,相関パターンをモデル化 することで渋滞の予測や制御に応用できると考える.
2 都市交通シミュレーション
都市における自動車交通の特徴である網の目のよう な道路構造と複雑な交差点構造を扱えることを考慮し,
“Simulation of Urban MObility”(SUMO) [1] を利用す る.SUMO は,自動車をエージェントと見立て,また, 信号や道路ネットワークを環境と見立て,エージェン ト間の相互作用およびエージェントと環境の相互作用 を考慮した交通シミュレータである.そのため,自動 車の発生時間やルートがわずかに変化しただけでも渋 滞発生のパターンが変化するといった現象を再現でき ると考える.
SUMO を利用して都市の自動車交通のシミュレー ションを行なうには,できる限り正確な地図データと 自動車の発生データ,および,自動車の移動ルートの データが必要である.まず,地図データ作成には,株 式会社ゼンリンの神戸市の地図情報を利用した.カー ナビゲーションシステムに利用できる高精度な地図情 報から作成された仮想地図は,以下に示す現実の道路 構造と同じ特徴を備えている.
図1: 神戸都心およびその近郊の地図と地域分割が示さ れる.地域はarea1 から area6 に分割され,area2 と area3 を合わせて都心と考える.
• 交差点およびその位置関係が現実と一致している.
• 交差点間の移動の可否(一方通行)が現実と一致 している.
• 地図上のある地点から別の地点へ移動するルート が必ず存在する.
以降,交差点間をつなぐ道路を「道」と呼び,自動車 が目的地へ向かい通過する複数の道を「ルート」と呼 ぶ.次に,自動車の発生データでは,発生位置と時間 を定める.「都市の概況と人の移動実態」および「想定 される課題」(平成 24 年 8 月 7 日神戸市都市計画総局 調べ) [3] から以下の項目を参考に,自動車の発生デー タを作成した.
• 都心の流入出交通需要は 24 時間で約 100,000 台 である.
• 神戸市の中心を通過する交通が全交通需要の 7 割 である.
これらの情報から,神戸の都心近郊を図1 のように6 地域に分割し,地域間を移動する自動車の台数を表1 に 定める.
図1では,area2 と area4 を合わせて都心と考える. 表1では,シミュレーション時間を6 時間と定めた時に, 各地域から発生する自動車の台数が示されている.たと えば,area1 から area4 へ移動する自動車は,area1 内 の道に6 時間で 8750 台発生する.そして,表1 は 24 時間で 100,000 台自動車が発生する条件と,都心を その7 割が通過する条件を満たす.発生時間は,シミュ
表 1: 6 時間分の地域間交通需要 Arrive to
a1 a2 a3 a4 a5 a6
Departfrom
a1 250 250 250 8750 250 250 a2 250 250 250 250 250 250 a3 250 250 250 250 250 250 a4 8750 250 250 250 250 250 a5 250 250 250 250 250 250 a6 250 250 250 250 250 25
レーション時間内に一様乱数を用いてサンプリングす る.また,発生場所は,主要な道ほど多いと考えられ るので,地域ごとに含まれる道の車線数の2 乗に比例 した発生確率を設定しサンプリングする.よって,自 動車が短時間に同じ地域に複数台発生することや,自 動車線数の多い幹線道路が含まれる地域ではその付近 で多くの自動車が発生することが起こりうる.同様に, 自動車の目的地についても道の車線数の2 乗に比例し た確率でサンプリングされる.なお,自動車が目的地 に到達する時刻は,シミュレーションの結果によって のみ得られる.
ルートは様々な条件により決定可能であるが,SUMO の付属ツールであるduaIterate[2] を利用した.duaIterate は,平均移動時間が他のルートを選択しても減らない ように個々の自動車のルートを調整するツールである. すなわち,duaIterate の調整ではシミュレーションを 繰返し行い,前回渋滞していた道を避けてルートを決 定する.なお,duaIterate を用いたルート調整回数は 5 回とした.
上記の条件の下,SUMO による交通シミュレーショ ンの結果の概要を示す.図2 は,ある 1 試行における シミュレーション内時間とその時間における自動車の 台数の関係を示している.ルート調整1 回目と 3 回で は,地図上に存在する自動車の台数が増加している.そ のため,渋滞パターンは定常状態に達していないと考 えられる.一方,ルート調整5 回目では,地図上に存 在する自動車の台数がほぼ一定に保たれている.よっ て,渋滞パターンは何かしらの定常状態に達している と考える.
3 交通解析
道の間の関係を通過する台数の相関として捉える.相 関が有意に存在ことを検証するため,帰無仮説を「道 を通過する台数間に相関がない,式(1)」と定めた仮説 検定を行なう.
rij= 0, (i = 1, 2, . . . , n, j = 1, 2, . . . , n) (1)
図 2: シミュレーション内時間 (横軸・秒) に対し,地 図上に存在する自動車の台数(縦軸・台数) が示される.
ここで,rij, n はそれぞれ,i 番目の道と j 番目の道 における通過台数のピアソン相関係数と地図に存在す る道の本数(35952 本) を表す.ルート調整を 5 回おこ なったシミュレーション20 試行分の結果に対し,有意 水準5 %で仮説検定を行った.自動車両がほとんど通過 しない道はノイズの影響を受けやすく解析が困難なた め,交通需要が十分にある道を選択することを考える. ここでは,1 時間あたりの通過台数が 450 台を超える 道,すなわち,6 時間分のシミュレーションで 2700 台 以上通過する道を十分な交通がある道として考え,20 回のシミュレーションの内 1 度でも 2700 台以上自動 車両が通過した道を選択する.選択された道間の相関 関係を図3 に示す.図 3 では,対角成分は自己相関係 数なので必ず1 となり,相互相関係数については仮説 検定により有意に0 でないと判定できた道の組にのみ 値が示される.また,需要の多い道で,かつ,道がつ ながっている場合には,一連の道が何かしらの形で判 別できることが望ましい.そこで,相関行列は,他の 道における通過台数と正の相関関係を持つ場合が多い 道に対して降順に,また,他の道における通過台数と 負の相関関係を持つ場合が多い道に対して昇順に並べ 替えた.
図3 より,十分な自動車両通過数がある道は,53 本 であった.また,行列要素の並べ替えにより,相関関係 が存在する道の本数が同じ道の集合があつめられてい る.そのような道の集合(以降,単に集合と呼ぶ)は, 自動車が順に移動できる道であることが予想される.ま た,集合の間に正の相関や負の相関関係があるように 見える.
シミュレーション20 試行分の結果から得られた道 の数は,地図に含まれるすべての道の約1.5% でしか ない.より多くの条件でシミュレーションを行なうこ
図 3: 20 試行の結果に対する相関行列が示される.左 から,95% 信頼区間の下限の相関行列,推定値の相関 行列,95% 信頼区間の上限の相関行列がそれぞれ示さ れる.
図4: 160 試行の結果に対する相関行列が示される.
とにより,より多くの道の関係を発見できると考える. そこで,シミュレーション160 試行分の結果から得ら れた相関行列を図4 に示す.
図4 では,十分な車両通過がある道は,85 本で,地 図に含まれる道の本数の約2.4% であった.また,図 3 と同様に,正の相関関係,負の相関関係にある道が 示されている.しかし,図4 では,図 3 で示されたよ うな道の集合はほとんど見えない.
4 考察
道の関係をモデル化できれば,渋滞の予測や交通制 御に利用できると考える.解析結果より,特定の道の間 に交通需要に関する何かしらの関係があることが解析 結果より示唆された.また,道路の集合が存在してい るように見えることから,道のグルーピングができる 可能性がある.図3 で集合間に負の相関があるように 見えることから,高速道路や幹線道路のような主要な ルートの間で需要の分散が起こっている可能性がある.
図4 において,多くの道の間に関係性が発見された が,相関行列の要素の並べ替えでは十分にクラスタリ ングができていない.また,道路間の関係が実際の地 図上でどのような配置になっているのかも明らかでは ない.道の交通需要や道のつながりの関係をクラスタ リングし,よりわかりやすく示す方法についても考え る必要がある.
5 おわりに
本研究では,計算機シミュレーションにより社会問 題を解決する方法を考察し,その一例として都市交通 を取り扱った.都市交通の渋滞パターンとして道路間 の交通需要の相関関係が存在している可能性を示した. このような相関関係が地図,交通需要,ルート選択戦 略などに依存せず存在すれば,道路間の交通需要をモ デル化できる可能性がある.
なお,SUMO を利用した神戸市のシミュレーション を現実の交通現象として見ることの妥当性については, 本研究では言及しない.なぜなら,この妥当性を示す ために,実社会のデータを検証内容に合わせて収集す ることは困難である.そのため,本研究で示した道路 間の交通需要の関係が現実でも見つかるとは断言でき ない.しかしながら,異なる地図,交通需要,ルート 選択戦略など様々な条件のもとで検証することにより, シミュレーション結果に潜む普遍性の発見や因果関係 の予想を積み重ねることで,発見した関係の妥当性を 主張する方法は実社会での実験が行えない社会問題に おいて1 つの解決策であると考える.よって,多様な 多変量解析により普遍的な関係を調べつくすことが重 要である.
しかし,すべての要因と結果との関係性を発見する ためのパラメータの組み合わせ数は容易に爆発するの で,すべてのをパラメータ空間を調べ尽くすことはスー パーコンピュータを利用しても不可能である.そのた め,1.「膨大な数の要因や影響の組み合わせから,調 べるべきパラメータ空間を選択する」ことは重要な課 題であると考えられる.また,膨大なパラメータ空間 から調べるべきパラメータ空間を選択するために,2.
「一部のパラメータ空間の調査から影響を分析し,その 分析結果をパラメータ空間の選択に利用する」ことが 考えられる.さらに,パラメータ空間を限定しても,3.
「シミュレーション結果に対する様々な解析」を試さな ければならないなど,多くの課題が考えられる.これ らの課題についても効率的な方法を模索したい.
謝辞
本研究は,OACIS“Organizing Assistant for Com- prehensive and Interactive Simulations”[4, 5] を利用 して行われた.ここに感謝の意を表する.
参考文献
[1] Daniel Krajzewicz, Jakob Erdmann, Michael Behrisch, and Laura Bieker. “Recent Develop- ment and Applications of SUMO - Simulation
of Urban MObility”, International Journal On Advances in Systems and Measurements, 5 pp. 128-138, December 2012.
[2] http://sumo.dlr.de/wiki/Demand/Dynamic_ User_Assignment
[3] 神 戸 市 都 市 計 画 総 局 調, “「 都 市 の 概 況 と 人 の 移 動 実 態 」お よ び「 想 定 さ れ る 課 題 」”, http://www.city.kobe.lg.jp/ information/project/urban/sogokotsu/ img/1-4.genkyo-kadai_0807.pdf, 2012 [4] Y. Murase, T. Uchitane, and N. Ito, “A tool for
parameter-space explorations”, proceedings of 27’th CSP workshop, (2014) arXiv:1404.3867v1 [physics.comp-ph]
[5] OACIS, https://github.com/crest-cassia/ oacis.