岡山市監査委員公表第15号
地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第1項の規定に基づき提出さ れた岡山市職員措置請求書に係る監査の結果について,別紙のとおり請求人に通知 したので,これを公表する。
平成15年4月30日
岡山市監査委員 服 部 輝 正
同 松 井 健 二
同 土 肥 啓 利
岡 監 起 第 4 5 号 平成15年4月30日
請求人氏名 省略
岡山市監査委員 服 部 輝 正
同 松 井 健 二
同 土 肥 啓 利
同 磯 野 昌 郎
岡 山 市 職 員 措 置 請 求 に 係 る 監 査 の 結 果 に つ い て ( 通 知 )
平成15年3月3日付けで地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第 1項の規定に基づき提出された岡山市職員措置請求書について,監査した結果を同 条第4項の規定により下記のとおり通知する。
記 第 1 請求の受付
1 請求人の住所氏名 省略 2 請求書の提出日
本件請求書は,平成15年3月3日に提出された。 3 請求の要件審査
第 2 請求の要旨
請求人が提出した「岡山市職員措置請求書」による請求の要旨は,次のとおり である。
1 岡山市立病院の平成12年度の決算における「収支差額」(病院事業収益か ら病院事業費用(ただし減価償却費等を除く。)を差し引いた額)は,24, 100,977円の赤字,平成13年度の「収支差額」は346,485,4 13円の黒字で,平成13年度の「収支差額」は平成12年度と比較すると, 370,586,390円改善したことから,岡山市長職務代理者は,岡山市 病院事業管理者の給与に関する条例(以下「給与条例」という。)附則第2項 に基づき,岡山市病院事業管理者に対し,平成15年3月14日,平成14年 度期末手当加算額として金74,117,200円を支払うことになっている。 2 地方公営企業法違反
( 1) 地方公営企業法(以下「公企法」という。)は地方公営企業の「組織,財 務,及びこれに従事する職員の身分取扱いその他の企業の経営の根本基準」 を定める法律である。
公企法は第4条において,「地方公共団体は,地方公営企業の設置及びそ の経営の基本に関する事項は,条例で定めなければならない。」と規定し, 地方公営企業の設置や経営の基本事項の定めを地方公共団体の条例に委ねて いるが,第3条において,「地方公営企業は,常に企業の経済性を発揮する とともに,その本来の目的である公共の福祉を増進するように運営されなけ ればならない。」と定めるとともに,第5条において,「地方公営企業に関 する法令並びに条例,規則及びその他の規程は,全て第3条に規定する基本 原則に合致するものでなければならない。」と定めている。
このことは,条例による定めに対し,公企法の基本原則に合致しなければ ならないという外枠をはめているものと解される。
病院事業管理者が特別職であり,その給与の定めが条例に任されていると しても,同時に地方公営企業の業務の執行責任者であり,設置の根拠が公企 法にある以上,その給与を定めるに当たって,地方公営企業の「組織,財務 及びこれに従事する職員の身分取扱いその他企業の経営の根本基準」を定め る公企法の外枠を超えることはできず,これを超える条例の定めは,裁量権 の行使の範囲を逸脱した違法なものとなるのは当然である。
ア 公企法第38条第3項は,「企業職員の給与は,生計費,同一又は類似 の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与,当該 地方公営企業の経営の状況その他の事情を考慮して定めなければならな い。」と定めている。
イ 病院事業管理者は,特別職公務員であり,法の規定上は,「企業職員」 と区別されているが,一方,当該地方公共団体の長の業務の執行補助者で あり,常勤でなければならないとされ,給料や諸手当が行政職の公務員に 準じて定められていることからすると,病院事業管理者の給与の種類,基 準,金額等を当該企業の経営の状況や同種または類似の公務員や民間企業 従業員のそれと全く無関係に定めることができると解することは相当でな い。
病院事業管理者の給与内容の決定に当たっては公企法第38条第3項が 準用されるものと解すべきである。
ウ 本件加算額のように,病院事業管理者に対して通常の給与・手当に加え て「収支差額」の改善幅に機械的に比例した高率の「成功報酬」的な特別 手当を支給する例は,全国に多数存在する公営病院事業においても皆無で あり,また,民間病院事業について考えてみれば,当年度収支が大幅な赤 字状態にあり,累積赤字が巨額に達している状態で,このような「成功報 酬」的な特別手当を支給するなど,非常識も甚だしいものである。
エ 岡山市長の給料月額は,1,240,000円,期末・勤勉手当4.7 か月分を加算した年額は20,708,000円であり,市長の補助者で ある助役が月額990,000円,年額16,533,000円,収入役 が月額860,000円,年額14,362,000円であって,市長の 年額でさえ,本件加算額の約3分の1,病院事業管理者に対する給料,勤 勉・期末手当等の合計支給額の約4分の1である。本件加算額が他の公務 員の給与と比べていかに高額であるかは一目瞭然である。
( 3) 公企法第7条の2第6項違反
ア 事業管理者は,広汎な権限を有すると同時に当該地方公共団体の長の執 行補助者であり重大な責任を負っていることから,当該地方公営企業の通 常の執務時間内には当該地方公営企業の事業所内において執務することが 義務づけられ,常勤でなければならないとされているものと解されるとこ ろ,病院事業管理者は,公企法第7条の2第6項の定める事業管理者とし ての執務義務を果たしていない。
イ 給与条例は,公企法同条の定める執務義務を果たしていない病院事業管 理者に対して法外な特別加算手当を支給するものにほかならず,違法であ る。
( 4) 公企法第17条の2違反
ア 公企法第17条の2第2項は,地方公営企業の特別会計においては,そ の経費は同条第1項に定める場合を除き,当該地方公営企業の経営に伴う 収入をもって充てなければならないと定めており,第1項は例外的に,性 質上収入をもって充てることが適当でない経費と収入をもって充てること が客観的に困難であると認められる経費に限って,一般会計あるいは他の 特別会計から,出資,長期貸付,負担金の支出等の形で負担できるとして い る 。
イ 本件加算額は,平成14年度の岡山市病院事業会計の経費として補正予 算により承認され,給与条例により支給されるものであるが,補正予算の 承認時点において,病院会計は赤字であることが見込まれることから,本 件加算額に見合う収入は,医業収入以外の一般会計等からの負担金等によ り行われることは必定である。本件加算額について補正予算を承認した議 会の議決は,議会の裁量の範囲を越えた違法なものである。
( 5) 公企法第32条違反
ア 公企法第32条第1項は,地方公営企業は,毎事業年度利益を生じた場 合において,前事業年度から繰り越した欠損金がある時は,その利益をも ってその欠損金を埋め,なお残額あるときは公企法施行令に定めるところ により減債積立金又は利益積立金として積み立てなければならないと定め ている。
の期末手当に改善額の20パーセントを加算して支給するというものであ り,民間企業における役員賞与に類するものと解されるが,仮に当年度に おいて利益が生じたとしても累積された欠損金がある場合にはその穴埋め に使用しなければならないとするのが公企法第32条第1項の趣旨であり, 当年度において利益が生じておらず,しかも累積欠損が存在しているよう な場合に,病院事業管理者に対し賞与の意味合いを持つ成功報酬を支払う ようなことを同条項はもとより予定していないのである。
ウ 岡監第174号の監査請求において監査委員は,本件加算額は利益処分 の対象ではなく,あくまで費用に該当するのであるから,公企法第32条 とは関係がないと指摘した。
確かに,本件加算額等が名目上医業費用(のうち給与費)に計上されて いるとしても,「収支差額」の改善という結果に対する成功報酬というの が本件加算額の実体である。
仮に当年度において利益が生じたとしても累積された欠損金がある場合 には利益をその穴埋めに使用しなければならないとする公企法第32条第 1項の趣旨からすると,当年度において利益が生じておらず,しかも累積 欠損が存在しているような場合に,病院事業管理者に対し賞与の意味合い を持つ成功報酬を支払うようなことを,公企法は制度的に認めていないこ とは明らかである。
3 自治法及び地方財政法違反
( 1) 病院事業管理者の給与について地方自治法(以下「自治法」という。)第 204条の規定が適用されること,特別職である病院事業管理者には地方公 務員法の給与に関する諸規定が直接適用されないことは岡監第174号の監 査請求において監査委員の指摘したとおりで,特に異論はない。
ところで,自治法第204条第3項は,特別職の給与をどのように定める かを地方公共団体の議会の裁量に委ねた規定となっているが,条例によれば どのような内容の定めも可能かというとそうではない。
地方公共団体の議会の裁量権といえども無制限ではなく,これを限定する 法律の外枠は存在するのであり(憲法第92条,自治法第1条,第2条), 法律の外枠を超えた内容の条例の定めは裁量権の濫用として違法となるのは 当然である。
ては,住民の福祉の増進に努めるとともに,最少の経費で最大の効果を上げ るようにしなければならないと定めている。
また,地方財政法第4条第1項は,地方公共団体の経費は,その目的を達 成するため必要かつ最少の限度を越えて,これを支出してはならないと規定 している。これらは,いずれも地方公共団体の財政の健全化確保という趣旨 から規定されたものであり,自治法第2条第16項,第17項の法意に照ら すと,単に執行担当職員に対して事務のあり方を示すにとどまるものではな く,上記各法条の趣旨が著しく損なわれ,社会通念上も著しく妥当性を欠く と認められる場合には,法令に反する条例の定めあるいは条例に基づく行為 も無効となると解するべきである。
( 3) 仮に,病院事業管理者が就任後,収支改善のためにそれなりに努力をし, その結果,赤字幅が減少したとしても,常勤とは言えない勤務状態にあった 病院事業管理者に対し,岡山市の収入役を超える給与を支払ったうえに,累 積赤字が80億円を超えている状態であるのに,しかも前年度も今年度も収 支が赤字であるのに,前々年度と前年度の収支が改善さえしていれば,収支 の改善内容や改善に対する病院事業管理者の貢献の程度等を全く考慮するこ となく,常勤者としての高額な給与を支給している病院事業管理者に対し, さらに「収支差額」の20パーセントを機械的に成功報酬として支払うとい う給与条例の定めは,社会通念上著しく妥当性を欠いており,自治法や地方 財政法の各法条に違反している。
4 措置請求
上記期末手当加算額の支払いは,公企法,自治法及び地方財政法の各法条に 違反するものであり,その支払いを放置することは,岡山市に多大な損害を与 えることとなるので,岡山市長職務代理者に対し支払いを差し止められるよう 請 求 す る 。
第 3 監査対象部局
1 総務局職員部人事課 2 病院局経営総務課
第 4 請求人への証拠の提出及び陳述の機会の付与
2 陳述の概略は,次のとおりであった。
( 1) なぜ総費用から減価償却費,資産減耗費,繰延勘定償却を差し引いている のか疑問である。
( 2) 病院事業管理者が選任されてから損益の面を過去の歴史から見るとかなり 減ってきてはいるが,赤字という事実は変わらない。結局平成13年度の赤 字はプラスされ,病院事業管理者が新しく変わってどこが変わったのかとい うことが全然感じられない。
( 3) 地方自治は最少の費用で最大の効率を発揮するということからすると,病 院事業管理者は重要な職務ではあるが,最高裁長官よりも高い給与の定めは, 違法である
( 4) 成功報酬的なものと常勤である病院事業管理者の職務給というものとは相 容れない。
( 5) 岡山市病院事業管理者期末手当検討委員会の結果を見てもわかるとおり2 0%を前提にしてそれが妥当かどうかを検討しているだけである。前回監査 委員が具体的な意見をしているにもかかわらず全然努力をしていない。 ( 6) 一定の経営改善はされているがこれは,多くの職員の協力があってのこと
であり,その職員の期末手当がカットされている事情の中,病院事業管理者 に多額の報酬を支払うというのは市民常識に反する。
第 5 監査の実施
措置請求書,事実を証する書面の記載事項及び関係書類を調査し,また,平 成15年4月3日に関係職員の出頭を求め,事情聴取を行い,合議により慎重 に監査した。
第 6 監査の結果及び判断
監査の結果,病院事業管理者への平成14年度期末手当加算額の支払が違法 であるとする本件請求には理由がないと判断した。以下,その理由について述 べる。
1 措置請求書に記載している事項及び請求人の陳述などから,請求人の主張の 内容を次のとおり解した。
( 1) 公企法第7条の2第6項違反
病院事業管理者は,公企法に定める執務義務を果たしていないので期末手 当加算額を支給することを規定した給与条例は違法である。
補正予算の承認時点において,病院事業会計は赤字であることが見込まれ ることから,本件期末手当加算額に見合う収入は,医業収入以外の一般会計 等からの負担金等により行われることは必定であり,公企法第17条の2に 違反する。
( 3) 公企法第32条第1項違反
仮に当年度において利益が生じたとしても累積された欠損金がある場合に は利益をその穴埋めに使用しなければならないとする公企法第32条第1項 の趣旨からすると,当年度において利益が生じておらず,しかも累積欠損が 存在しているような場合に病院事業管理者に対して役員賞与の意味合いを持 つ成功報酬を支払うようなことを制度的に認めていない。
( 4) 公企法第38条第3項違反
給与条例附則第2項は,岡山市病院事業の経営の状況に反し,また,同一 又は類似の職種の国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与 の状況を全く無視したもので,公企法第38条第3項に違反する。
( 5) 自治法,地方財政法及び公企法の基本原則違反
ア 地方公共団体の議会の裁量といえども無制限ではなく,社会通念上著し く妥当性を欠き,自治法等の本旨を越えた内容の条例の定めは裁量の濫用 として違法である。
イ 病院事業管理者は特別職であり,その給与の定めは自治法第204条が 適用され条例に委任されているとしても,同時に地方公営企業の業務の執 行責任者であり,設置の根拠が公企法にある以上その給与を定めるに当た って,「組織,財務及びこれに従事する職員の身分取扱いその他企業の経 営の根本基準」を定める公企法の基本原則を逸脱することはできない。 ウ 病院事業管理者が就任後,収支改善のため努力し,その結果赤字幅が減
少したとしても,常勤者として高額な給与を支給されている病院事業管理 者に対し,収支差額の20パーセントを機械的に成功報酬として支払う給 与条例の定めは,社会通念上妥当性を欠いており,自治法や地方財政法の 各法条に違反している。
2 以下,請求人の主張の内容について検討する。 ( 1) 公企法第7条の2第6項違反
所内において執務することが義務づけられ,常勤でなければならないと解さ れると主張している。
病院事業管理者は,地方公務員法第3条第3項により特別職の地方公務員 という位置づけとなっており,勤務時間に関する特段の規定はない。また, 常勤かどうかの判断は,職務の内容によって判断されるものであり,請求人 が主張するように通常の執務時間内に事業所内において執務することが義務 づけられていると解することは相当ではない。病院事業管理者としての職務 の内容は確保されていることから常勤であると判断する。したがって,公企 法第7条の2第6項に違反しているとの請求人の主張には,理由がない。 ( 2) 公企法第17条の2違反
請求人は,補正予算の承認時点において,病院事業会計は赤字であること が見込まれることから,期末手当加算額に見合う収入は,医業収入以外の一 般会計等からの負担金等により行われることは必定であると主張しているが, 平成14年度岡山市病院事業会計補正予算(第2号)及びその附属文書であ る予算に関する説明書にあるとおり,一般会計負担金等は,公企法に基づき 政令で定められた,費用の性質上企業に負担させることが適当でない経費及 び企業の性質上企業に負担させることが困難な経費(救急医療の確保に要す る経費,結核病棟運営に要する経費,高度医療に要する経費等)であり,期 末手当加算額に補てんされるものではない。したがって,公企法第17条の 2に違反しているとの請求人の主張は,失当である。
( 3) 公企法第32条第1項違反
公企法第32条第1項は,毎事業年度終了後に決算において明らかになる 剰余金の処分について定めたものであり,平成13年度病院事業会計では, 剰余金は生じていない。また,条例に定める基準により支払われる期末手当 は,公企法第20条にいう費用に該当するものであり,平成14年度岡山市 病院事業会計補正予算(第2号)においても,管理者期末手当は医業費用の 給与費に計上されており,性格的にも期末手当加算額の支給は剰余金の処分 とは全く異質なものである。したがって,本件期末手当加算額の支給が公企 法第32条第1項に違反しているという請求人の主張は,失当である。 ( 4) 公企法第38条第3項違反
事者の給与,当該地方公営企業の経営その他の事情を考慮して定めなければ ならない。」と定められている。一方,同法第15条において,「企業職 員」について,「管理者の権限に属する事務の執行を補助する職員(以下 「企業職員」という。)は,管理者が任免する。」と定められている。
つまり,公企法にいう企業職員とは,補助職員のことを指し,管理者を含 まないと解するのが相当である。また,管理者の給与については自治法第2 04条の適用を受け,企業職員の給与について規定している公企法第38条 は適用されない。したがって,病院事業管理者の給与の決定に当たっては, 公企法第38条第3項に違反しているとの請求人の主張は,失当である。 ( 5) 自治法,地方財政法及び公企法の基本原則違反
病院事業管理者の就任前の病院事業会計の状況は,昭和63年度以降13 年度連続の単年度赤字となっており,平成11年度の総収益と総費用との差 額は,10億円を超える赤字であった。就任後平成12年度5億4千万円余, 平成13年度1億5千万円余の赤字額となり,大幅に改善された。特に平成 13年度の赤字額は昭和62年度以降最少となっていることなどから,病院 事業管理者の就任が病院経営の改善に貢献していると認められる。
特別職の報酬等は,一般職の給与とはおのずからその性格を異にするもの の,その職務について,これを適正に評価した額となるよう条例で定めるべ きである。
現状の期末手当加算額は,収支改善額に100分の20を乗じて得た額と のみ規定されており,職務に対する適正な評価の手続きを経るものになって いない。このような期末手当加算額の支給は,病院経営の危機的な状況に鑑 み,いわば緊急避難的なものとして支給される限りにおいて違法と評価され ないと考える。
第 7 監査の結果に基づく意見
う。)見込みが,平成13年度と比べ下回ることが明らかとなっている現時点 で,その評価を反映せず,7,400万円余の期末手当加算額を支給すること は,本来長期的な評価に基づき支給される額と乖離するものとなり,相当では ないと判断する。
2 したがって,以下のとおり改善されるよう求める。
( 1) 平成14年度決算の収支差額と平成13年度の収支差額を比較して下回っ たものが反映された支給額とすること。