「ルーカスの批判」と現代経済学 ∗
安田 洋祐
†初出: 2006 年 8 月
3点シュートとの意外な関係
経済学で大学院まで進んだことのある方なら,まず間違いなく耳にしたことが あるであろう「ルーカスの批判」.今日は現代マクロ経済学に絶大なる影響を与 え,大きな転換を巻き起こしたこのルーカス批判を,一見何の関係もなさそうな バスケットの 3 点シュートと関連付けて説明してみようと思います.
さて,まずはルーカス批判について辞書的な説明を行います.以下は日経文庫 の『経済学用語辞典』からの引用です.
ルーカス批判 — ルーカスが 1976 年に公刊された論文 “Econometric Policy Evaluation: A Critique”で行った,それまでの伝統的なマクロ 経済学における政策評価方法に対する批判.伝統的な手法では,経済 主体の行動を表現した方程式を過去のデータを用いて推定し,それを 用いて将来取るべき政策の評価を行っていた.(中略)こういった伝統 的な手法にルーカスが行った批判は,現在の政策変更は将来の政策に 関する人々の期待に影響を与える結果,人々の行動も変える可能性が あるので,過去のデータに基づいて推計された行動を不変なものと仮 定して政策評価を行うことはできない,というものである.(中略)こ のようなルーカスによる伝統的なマクロ経済学に対する批判以降,個々 の経済主体の最適化を明示的に考慮するいわゆるミクロ的基礎を持っ たモデルを用いたマクロ経済分析が主流になっていった.
∗本稿は『ECONO 斬り!!』 http://blog.livedoor.jp/yagena/ の掲載記事「ルーカス批 判その1:3点シュートとの意外な関係」(2006/8/2),「ルーカス批判その2:ケインズとバロー」 (2006/8/4),「ルーカス批判その3:増殖するバロー」(2006/8/8) を統合・微修正したものです.
†やすだ・ようすけ — 大阪大学大学院経済学研究科准教授
さて,上の説明では「方程式」「最適化」「ミクロ的基礎」など,一般の方が聞 くと気分が悪くなりそうな単語が並んでいますが,一番重要なポイントはシンプ ルで,中段で述べられている
現在の政策変更は将来の政策に関する人々の期待に影響を与える結果, 人々の行動も変える可能性がある
という指摘でしょう.前半部分の「期待」の役割を強調した点がルーカス批判の 偉大なところなのですが,期待についてはまた次回のエントリで触れることにし て今日は後半部分の「政策というルールの変更が人々の行動自体を変え得る」と いう点について考えてみたいと思います.経済政策に限らずルールを代えると参 加者の行動は多かれ少なかれ変わるものですが,ここではかなり根本的に参加者 の行動が変わってしまうために,当初のルール変更の目論見が達成されないよう なケースをイメージして下さい.経済政策で例を挙げるならば
1. 「減税をしたもののほとんど消費が伸びなかった」
2. 「低所得者や失業者に対する優遇を手厚くしたところかえって所得の差が拡 大した」
3.「借家人の権利を増やしたら住宅供給が減ってしまい借家人の厚生が下がった」 などの失敗例が知られています.1. の減税については次回詳しく述べる予定です ので,ここでは残りの二つについて簡単に解説したいと思います.
2.に関しては,一見すると所得の格差が減ってめでたしめでたしのような気が しますが,ここで見落としているのは人々の働く意欲(インセンティブ)です.例 えば,失業保険の額や期間を増やすと失業のメリットが増してしまうので,マジ メに働く意欲が減ってしまうことが考えられます.結果として本当に失業が増え ると,もともと意図した所得格差の是正には全くつながらない危険がある,とい うわけです.セーフティーネットや弱者保護は経済的な視点のみならず社会的・倫 理的にも必要ですが,いきすぎた保護はよくない,ということをこの例は示唆し ています.
3.は(経済学者にとっては)悪名高い「借地借家法」に関するものです.これ も,もともとの意図は「立場的に弱い借家人の権利を保障して彼らの厚生を改善 する」というものだったと思われますが,あまりにも借家人を優遇しすぎたため に大家さんの魅力が下がり,(借り家の)住宅供給自体が減ってしまったと言われ ています.結果として,家を探すコストや家賃の高騰が起きて借家人の厚生自体 も下がってしまった可能性があります.日本が諸外国と比べて家族向けの賃貸物件 が異常なまでに少ないのはこの法律が招いた意図せざる副作用と言えるでしょう.
さて,ここまではやや堅い経済の話をご紹介しましたが,実はスポーツ界でも
「ルーカス批判」があてはまる例が知られています.それは 1994 年に NBA で行わ れた「3 点シュートエリアの変更」です.私はバスケットについてそこまで詳しく はないのですが,NBA は得点の増加(とそれにともなう人気アップ)を意図して 94年シーズンから 3 点シュートの距離を短くしたらしいのです.このルール変更 によって,変更前に 3 点シュートのエリアギリギリで 2 点だったシュートが 3 点に 変わるため,当然得点は増えるような気がします.小学生でも分かるシンプルな 理屈ですよね.しかし,実際には期待とは裏腹に得点が全く伸びず(むしろ減少 したという話を聞いたことがありますが残念ながらデータが見つかりませんでし た),3 年後にはもとの 3 点シュートの距離に戻すことになりました.
では,この例で NBA が見落としていたのは一体何だったのでしょうか?ここま で「ルーカス批判」に触れてきたみなさんならもうお察しのことと思いますが,実 際には「3 点シュートの距離が短くなることによって,選手のプレースタイルや チームの戦術が大きく変化した」らしいのです.具体的にどのように変わったの かについてはバスケット・ファンに説明を委ねたいのですが,3 点ゾーン内がタイ トになって通常の 2 点シュートが決まりにくくなったことや,3 点シュートが得意 でない選手まで 3 点シュート狙うようになったこと,などが理由として挙げられて いるようです.得点が伸び悩んだ原因についてはバスケットに詳しくない私には どれが正解なのかは分かりませんが,この NBA の例は,スポーツ界において「単 純な理屈に基づくルール変更が実は意図せざる結果を生んでしまう」典型的な例 と言えるでしょう.
以上の例が教えてくれるポイントをまとめると
経済政策のみならず,ルール変更がどのような結果をもたらすかをき ちんと予測するためには,各人のインセンティブとそれに基づく行動 の変化をきちんと予測しなければならない
となります.
実はこの点が,現代マクロ経済学のキー・ポイントである「ミクロ的な基礎付 け」に繋がってきます.一般の方には聞きなれない専門用語だと思いますが,ここ で言う「ミクロ的な基礎」とは噛み砕いて言うと「参加者がどのようなインセン ティブを持っているかを明示的に考慮する」ということです.ルーカスが批判の 対象とした「ケインズ経済学」と言われる当時の主流派の考え方では,この「ミ クロ的な基礎」が与えられていませんでした.今でも学部時代に教えられるマク ロ経済学はケインズ経済学が主体ですが,大学院へ進むと一転してこの「ミクロ 的な基礎」を叩き込まれる背景には,こういった理由があります1.
1「ミクロ的基礎」があることのもう一つの大きいメリットは,政策変更によって各人がどれだ け得(あるいは損)をしたかを客観的に評価できるという点です.ミクロ経済学でおなじみの「効
ケインズとバローどちらが正しい?
前節では「ルーカス批判」によって指摘された
現在の政策変更は将来の政策に関する人々の期待に影響を与える結果, 人々の行動も変える可能性がある
というポイントの後半部分を中心に解説を行い,前半部分の「期待」の役割につ いては触れませんでした.今回はこの「期待」について,しばしば引用される「減 税」の例を用いながら考えていきたいと思います.ところで,最初にみなさんに 質問ですが,政府が減税を行うとどのような効果が生じると思いますか ?
回答例 — 「GDP が増える」「消費が増える」「いや,むしろ GDP 消費 も減る」「財政破綻のリスクが増してとんでもないことが起きる」「一時 的な減税か恒久的な減税かで効果が異なる」「政府の支持率が上がる」
「金利が上がる」「減税するなら職をくれ!」「桶屋が儲かる」「やって みるまで分からない」「オレ様には興味がない」「萌え∼」
など,いろいろな答えがありそうですね.ひとまず,金利や政治的な影響などを 脇に追いやって消費と GDP に与える影響だけを考えると,当時の主流派ケインズ 経済学では「GDP と消費は減税によって増える」とされています.背後にあるロ ジックは
ケインズ経済学のロジック
減税によって増えた(税引き後の)所得の何割かを家計が消費する
↓
その消費が別の家計の所得となり,この新たに増えた所得の一部がま た消費に回る
↓
同上(以下,繰り返し)
というものです.家計が「所得アップ → 消費アップ → 所得アップ →・・・」と繰 り返すことによって,当初の減税分を超えたプラスの効果が生じる点が興味深い ですね.ちなみにこれを専門用語で「乗数効果」と呼んだりします.GDP は家計 の総所得と一致しますので,上記のサイクルによって消費と GDP の両方が減税に よって増加することになります.
用」,あるいは「効用関数」を使うことによって,どの政策変更がどの程度の厚生の変化をもたら すかを評価できるようになります.
一見するとこのケインズ経済学のストーリーは非常にもっともらしい気がしま すが,(問題があるとすれば)どこに問題があるのでしょう ? 「ルーカス批判」が 主張するように,「将来の政策に関する人々の期待」を考慮に入れると異なった結 論が出てくるのでしょうか ? 以下は「ルーカス批判」の影響を受けてバロー教 授が出した答え2なのですが,驚くことに彼の結論は
減税は消費にもGDPにも影響を与えない というものでした.彼のロジックを簡単に説明すると
バローのロジック
政府はいくらでも自由に借金できるわけではない(= 政府にも動学的 な予算制約がある)
↓
よって今期の減税(とそれに伴う公債発行)は将来の増税を必然的に 招く
↓
家計がこのことを織り込むと,将来の増税に備えるため今期の消費を 増やさない
↓
消費が変わらないので GDP も変わらない(= 減税の効果がない)
となります.実はこのロジック自体はバロー教授のオリジナルではなく,経済学 の巨人リカードにが大昔に主張しているものなのですが,バローによって現代風 の厳密なモデルにおいて証明が与えられた点が重要です3.
上記のバローによる議論の中で,「ルーカス批判」で強調された「期待」が具体 的にどの部分に対応するかと言うと
将来の増税を織り込む
という点になります.ケインズ経済学では,家計はあたかも機械のように増えた 所得の一部を消費に回すと仮定されていましたが,バローのストーリーでは家計 はきちんと将来の増税に備えて増えた所得を貯蓄に回す,というわけです.
2実際にはバローの当該論文 “Are Government Bonds Net Welth?”(JPE, 82) はルーカス批判 以前の 1974 年に出版されていました.ということで,「影響を受けた」という表現は不適切かもし れません.バローのアプローチがケインズ経済学とは異なり「ルーカス批判で指摘された問題点を 克服している」と解釈して下さい.
3そのため,この主張は「リカード=バローの中立命題」と呼ばれることもあります.モデルに よる厳密な証明の他にバローの行った重要な貢献としては「将来の増税が自分の子供達の世代に行 われる場合であっても,遺産動機があれば依然として中立命題が成り立つ」という点が挙げられま す.
さて,ここまでケインズ経済学とバローの両方のストーリーを簡単にご紹介し てきましたが,みなさんはどちらの議論がしっくりくるでしょうか ? 私自身は,
「ルーカス批判」やバローのアプローチのように,家計の「インセンティブ」や「期 待」という要素を考えることは重要だと思いますが,バローの導いた結論自体は やや極端なものにうつります.この点に関して,ケインズ経済学とバローを繋ぐ アイデアをちょっと考えているので,次節でご紹介したいと思います.
ちなみに,バローが行ったように「将来の政策に関する人々の期待」を明示的 に扱うためには,モデル自体が動学的である必要があります.前節では
参加者のインセンティブを明示的に考慮するために「ミクロ的な基礎」 が必要である
ということを述べましたが,本節のポイントは
将来の政策に関する人々の期待を明示的に考慮するためには「モデル の動学化」が必要である
と言えるでしょう.大学院で学ぶマクロ経済モデルの大半は,この「ミクロ的な基 礎」と「動学」の両方の要素を兼ね備えています.その代表とも言えるのが,現在最 もポピュラーなモデルである「動学的確率的一般均衡理論 (Dynamically Stochastic General Equilibrium Theory = DSGE)」なわけです4.ひとたび大学院に進学する と「猫も杓子も DSGE」となる背景には,約 40 年前の「ルーカス批判」の影響が あったのですね.ということで,DSGE アレルギーの大学院生のみなさんはルー カスを恨みましょう(笑)
増えるバローと非対称合理性
前節では「ルーカス批判」で指摘された「期待」の役割を考えるために,減税 の例を用いてケインズ経済学とバロー・モデルの解説を行いました.そこで強調 された(期待に関する)両者の違いをかいつまんで言うと
ケインズ経済学 — 家計は将来の増税を予想せずにナイーブに増えた 所得(の一部)を消費に回す
バロー・モデル — 家計は将来の増税を予想して将来の支払いに備える ため増えた所得を貯蓄に回す
4外生的な確率ショックがモデルに加えられているため「確率的」と表現されます.
となります.ここで便宜的に,前者のタイプを「ナイーブ」な家計,後者を「バ ロー」タイプと呼ぶことにします.ケインズ経済学では,全ての家計が「ナイー ブ」であるのに対し,バロー・モデルでは家計はみんな「バロー」のように賢い と仮定されるわけです(笑)
こうして整理してみると,どちらもかなり極端なストーリーを考えているよう な気がしますね.もちろん,理論は単純であることが非常に重要ですので,仮定 が極端であるという点だけで両者を批判することはできません.
余談ですが,「ルーカス批判」とそれに伴うマクロ経済理論の転換に際してケイ ンズ学派の多くが示した拒絶反応は「仮定が極端・非現実的」というものだったよ うです.たしかに,ルーカスを中心としてサージェント,バローなどが出した一連 の研究成果は非常に極端で,当時としては(現在でも ? )受け入れがたい結論だっ たかもしれませんが,それに対して「モデルの仮定の非現実性」で一蹴しようと する態度は生産的でないばかりか,経済学自体を危機に陥れる危険すらあります. 実際,経済学批判の多くは「人々は効用なんて計算しない」「経済学者が考えるほ ど人間は賢くない」「そんな怪しい土台に基づいた経済学は役に立たない」といっ た「仮定に対する拒絶反応」です.当時のケインズ学派がとった態度はこれとま さに同じで,自らが「ルーカス批判」を乗り越える代替案を出す代わりに,アプ ローチの違い自体を超越的な視点から議論する方法論論争へと突っ込んでいって しまったのはマクロ経済学の不幸だったと言えるかも知れません.その結果,世 間一般でのマクロ経済学の信頼が低下し,オールドファッションなケインズ経済学 が学界で影響力を失っていったのも当然かもしれません5.
さて,脱線してしまいましたが話を元に戻しましょう.ケインズ経済学もバロー・ モデルもそれぞれ家計行動の一側面を捉えているもののかなり極端である,とい うところまでお話しました.現実には,全ての家計が「ナイーブ」あるいは「バ ロー」であることはなく,どちらのタイプの家計もいると考えるのが自然な気が します.よって,減税効果をきちんと予測するためには,どれくらいの家計が「ナ イーブ」(または「バロー」)なのかを調べる必要があるでしょう.
理論的には,将来の政策変化を考慮に入れずに行動を決定する「ナイーブ」な 家計と,将来の政策変化を全て考慮に入れつつ動学的な最適化を行う「バロー」タ イプが共存するモデルが考えられます.バロー・モデルの枠組みでこういった試 みがなされているかどうかは知りませんが,例えばファイナンス理論の「ノイズ・
5主流派のアプローチを批判する際に,代替案をきちんと提示することの重要性はマクロ経済学 のみならず他の分野でも当てはまります.例えば,そこまで賢くない人間像を考える「限定合理 性」の分野では,「進化ゲーム理論」や近年流行している「行動経済学」など,代替案の提示をきち んと行っている分野が成功を収めている一方で,「複雑系」や「経済物理学」などはっきりしたアプ ローチの姿が見えてこない分野は未だに市民権を得ているとは言いがたい状況です.マクロ経済学 では,「ルーカス批判」を乗り越え代替案を提示した「ニュー・ケインジアン」と呼ばれる学派は生 き残りましたが,IS–LM 分析に代表されるような古いケインズ経済学は完全に(学界での)主役 の座を追われています.
トレーダー・モデル」はこの考え方に非常に近く,利益最大化を行う「合理的な投 資家」と短期的な資金需要で取引を行う「ノイズ・トレーダー」の 2 種類の参加 者を想定します.この理論の面白い点は
「ノイズ・トレーダー」の投資行動はあらかじめ機械的に仮定されてい るものの,「合理的な投資家」の投資戦略はこの「ノイズ・トレーダー」 の行動によって大きく変化する可能性がある
という点です6.
減税の例に即してお話しすると,全ての家計が「バロー」タイプである時は「減 税を行っても彼らの消費は増えない」という結論が導かれましたが,「ナイーブ」な 家計がいる場合には彼らが消費を増やすため,物価やバロー・タイプの家計の所 得に影響を与えます.この影響を考慮に入れると,「バロー」の消費行動,そして 家計全体の消費やGDPも変化する可能性があるわけです.
ここで,私自身のちょっとしたアイデアをご紹介したいのですが,それはこの
「ナイーブ」と「バロー」の2タイプの割合が時間を通じて変化する,というもの です.例えば,減税などの政策の変化が初期(t = 0)に起こったとしましょう.上 記のノイズ・トレーダー・モデルでは,ノイズ・トレーダーの割合は時間を通じて 一定だと仮定されますが,ここでは時間を通じて「バロー」タイプが増えていく, と仮定します.具体的には,t 期における「バロー」の割合を B(t) としして以下 の仮定をおきます.(「ナイーブ」な家計の割合は 1 − B(t) となります)
• B(t)は t に関して非減少
• B(0) = 0
• B(∞) = 1
この B(t) の関数の形自体は外生的に与えられるとします.B(t) に関する上記の 仮定の解釈としては
減税が起きた直後はほとんどの家計が将来の増税に備えたりしないが, だんだんと将来の増税を意識する家計が増えていき,十分長い時間が 経つと全員が増税の効果を織り込む
6ゲーム理論においても動学的な問題を考える際に,短期利潤を最大化する「Short-run Player」 と長期利潤を最大化する「Long-run Player」の共存を考えると,どちらか片方のケースとは結論 が大きく変わることが知られています.今回紹介した減税の例のように,マクロ経済学の問題を考 える際にも,このアプローチは使えるかもしれません.
というものが考えられます.消費計画を立てる際に素早く将来の予想を取り込む 家計もいれば,そういった計算に時間がとてもかかる家計もいる,といったイメー ジですね.マスコミ等の報道を通じて,普段はナイーブに行動する家計も増税の 危機が目前に迫ってくると消費行動を変える,というストーリーも考えられます. いずれにせよ
バロー・タイプの割合が一定ではなく時間を通じて増加する
というのが私のアイデアのポイントです.私自身,どこまでこのアイデアが面白 いか自信がありませんが,ひとつ強調できる点として以下が挙げられます.
減税の起きた直後はケインズ経済学モデルがあてはまるが,十分長い 時間が経つとバロー・モデルに移行する
つまり,単一のモデルで両者を自然な形で融合することができるかもしれない, というわけです.また,ここから先は実際にモデルを解いてみないとなんとも言 えませんが
ある程度の時間が経ってすべての家計がバロー・タイプになった状態 と,最初からすべての家計がバローである(B(0) = 1)場合を比較す ると,消費や GDP の水準に違いが出てくる可能性がある
ということも言えるかも知れません.最終的にバロー・モデルに行き着くとして も,そこに到達する前の過程が影響を与えると,到達した先がバロー的な世界かど うかは分からないわけです.また,別の論点として,外生的に与えられる G(t) に 関しては,実験経済学で明らかにされつつあるプレイヤーの学習スピードに関す る成果を応用することができるかもしれません.実証的には,データを元に G(t) を推計する,という研究も考えられます.
と,やや大風呂敷を広げすぎた気がしますが,私自身はマクロ経済学の専門家 ではないので,非常に的外れなアイデアである危険性は十分に感じています.門 外漢が思いつくアイデアなど,多くの場合は「勘違い」か「既に誰かにやられて いる」ものですし(苦笑).ということで,専門家の方からのご意見や参考文献の ご紹介などをいただけるとありがたいです7.
7本節の研究アイデアを発展させる際に,プリンストンでマクロ・金融を研究する J 君との議論 が非常に参考になりました.私の能力と字数の問題で,この記事に反映することができたのは彼の 有益なコメントの本当に一部でしかありませんが,彼との議論がなければそもそも「ルーカス批 判」について書いていなかったかもしれません.この場を借りて改めて感謝します!