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地球環境と空調技術 ~特許庁庁舎の空調システムを通して~ 「特技懇」誌のページ(特許庁技術懇話会 会員サイト)

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(1)

1. はじめに

 環境技術を考える時、日本の技術力は国際的に高い 評価があるようです。それは、日本がバックグラウン ドとして持っている特殊な事情によるところが大きい といえます。日本は2度の大きなオイルショックを経験 していること、国土が狭いため汚染物質の発生源と住 環境が隣接していること、多くの資源を持たないこと など、産業界において省エネルギー技術・環境技術を 開花させなければ競争力を維持していけない、ある意 味厳しい “試練” が存在したためと思われます。そして、 そのエネルギー効率の高さは単位GDP(国内総生産) あたりの一次エネルギー使用量の統計にも大きく現れ ています(表1参照)。

2. 空調設備が地球環境に与える影響

 近年の地球環境問題の代表といえば地球温暖化問題 です。上述のように日本の省エネルギー技術は世界で もトップランクの技術力を備えていますが、温室効果 ガスの排出量は世界で第4位となっています。また、京 都議定書の温室効果ガス削減目標6%(1990年の排出 量に対する2008−2012年の排出量)に対して2006年 現在、逆に6.2%の増加となっています。

 この増加の大きな原因がいわゆる民生部門(オフィ スビル・住宅など)からの二酸化炭素排出量の増加で あり、産業部門、運輸部門と比較して高い伸びを示し ています。この民生部門だけで日本の二酸化炭素排出 量の25%を占め、1990年比において業務分野(オフィ

特許審査第二部冷却機器 審査官

  武内 俊之

地球環境と空調技術

〜特許庁庁舎の空調システムを通して〜

1.0 1.9 2.0 2.4 3.1 3.2

6.0 6.0

8.1 8.6 7.9 17.4

3.0

0.0 2.0 4.0 6.0 8.0 10.0 12.0 14.0 16.0 18.0 20.0

日本 E27 国 国 タイ 中東

インドネシア

中国 インド ロシア

表1 GDP当たりの一次エネルギー供給の各国比較(2005年)

出典:エネルギー白書2008

(2)

 もう一点大きな問題として取り上げられるのがヒー トアイランド問題です。ヒートアイランドとは、人工 排熱の増加や緑地の減少などによって都市エリアにお いて気温が異常に上昇してしまう現象のことです。こ のヒートアイランドの原因としてやはり空調設備から の排熱が大きな要因となっていることが指摘されてい ます。建築物からの排熱は全体の実に50%にも及び、 その伸び率も非常に大きいものがあります(表3参照)。 これは、近代建築(特にオフィスビル)が密閉された 執務空間に多くの内部発熱因子(パソコンやサーバ、 照明器具など)を詰め込み、それらすべてを空調によっ て冷却しているためです。特に東京都心の発熱量はす さまじいものがあり、大手町・丸の内・日本橋エリア の単位面積あたりの発熱量は太陽からの日射量の実に2 倍に達する量となっています(図1参照)。そして、乱 スビル等)で+45%、住宅分野で+37%も増加してい

ます(表2参照)。民生部門の排出量のうちおよそ1 / 3にあたるのが空調設備から排出されるもので日本の排 出量の約8%を占めています。これは運輸部門(自動車・ 船舶等)からの排出量の半分近くに達する量です。さ らに、温室効果ガスにはフロンやメタンも含まれてお り、エアコンや冷蔵庫等に使用されるフロンは同量の 二酸化炭素に対して1000倍以上の地球温暖化係数(温 暖化への影響度)を備えていることから、空調設備か ら排出される温室効果ガス(二酸化炭素やフロン)の 影響は想像以上に大きいものとなっています。そして、 日本の民生部門のエネルギーの消費は他国に比べて相 対的に低いことから、地球規模で見ても空調設備から 排出される温室効果ガスの影響度が高いことが予測さ れます。

表2-1 二酸化炭素の排出量推移

国立環境研究所温室効果ガスインベントリのデータをもとに作成

表2-2 エネルギー使用内訳

出典:(財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧2007」 0

100 200 300 400 500

エネルギー転換( 油 等)

家庭 業務(オフィスビル等)

運輸( ・ 等)

産業(工 等)

産業

435

運輸

250

業務

165

家庭

137

転換

69

2005 2000 1995 1990

2010年度 としての

トンCO2

4.5

2.7

30.6

21.4

12.1

・ の

51.3

給 用 16.7

用 20.9 用 11.1

・ の 41.2

給 用 29.5

用 27.0

用 2.4

業務 家庭

表3 東京23区の8月の人工排熱の変化

出典:ヒートアイランド(東洋経済新報社)尾島俊雄著

0 200 400 600 800 1000 1200

1999 年 1972 年

人間 工 建物

図1 都市排熱の様子(東京・夏季12時)

(3)

す。平成元年の計画時点で出願業務の完全ペーパレス 化を視野に入れていたこともあり、サーバの容量増大 やコンピュータの台数増からの発熱量増を見越した冷 房計画が盛り込まれたと思われます。

 まず、導入エネルギー源について空調設備に供給さ れるのは電気もしくはガスというのが一般的ですが、 特許庁庁舎のエネルギー源は蒸気と電気の組み合わせ を採用しています。この蒸気に関しては庁内で作られ たものではなく、隣の新霞ヶ関ビルの地下プラントか ら供給を受けているものです。この霞ヶ関エリアは蒸 気を熱媒とする地域冷暖房の供給対象地域となってい ます。地域冷暖房とは、一箇所の熱供給プラントから 周辺の複数の建築物等に主に空調・給湯用熱媒を供給 する事業のことです。東京都内の大規模オフィス街(大 手町・新宿・品川・渋谷など)にはこの地域冷暖房シ ステムが採用されています。

 では、実際に冷房・暖房を行う際にどのように冷熱・ 温熱が生み出され室内に搬送されてくるのかを見てい きましょう。この庁舎の各フロアを冷房・暖房するた めの冷温熱の搬送は「水」によって行われています。 この冷水・温水を作り出している場所は特許庁庁舎の 空調設備の心臓部である地下3階の熱源機械室です。熱 源機械室には地域冷暖房から供給される高圧蒸気の受 け入れ設備をはじめ、空調用冷水・温水を生成する各 種冷凍機や熱交換器、冷水や温水を上の各フロアに搬 送するポンプ、システムを制御する自動制御盤などが 配置されています。特許庁の空調システムフローが図 3です。熱源機械室内に引き込まれた蒸気は主に吸収 式冷凍機といわれる大型冷凍機と温水用熱交換器に供 給され、冷水と温水が作り出されます。吸収式冷凍機 は蒸気を熱源に吸収式冷凍サイクル(水の気化熱を利 用した熱回路)を利用して冷水を生成する機械です。 また、もう一つのエネルギー源としての電気は、ター ボ冷凍機という家庭用エアコンと同じ圧縮式冷凍サイ クルを利用した、やはり大型冷凍機に投入され冷水を 作り出します。このターボ冷凍機は主に夜間に運転さ れ、安価な深夜電力(昼間に対して4割程度の電気料金) を使用して地下4階レベルの冷水蓄熱槽(3000㎥の巨 大プール)に約5℃の冷水を夜間の約10時間をかけて 蓄えておきます。このプールの冷水を昼間の膨大な冷 房負荷に供給しています。これらの冷凍機で冷水を生 成したときに出る排熱は屋上にある冷却塔に冷却水を 立する高層オフィスは海風を遮断し、都心で発生した

汚染ガスを都市上空に上昇させオキシダントとして郊 外のベットタウンに着地させる大きな循環気流を形成 しています(図2参照)。

3. 特許庁庁舎の空調設備

 このように空調設備の運転は、地球温暖化問題やヒー トアイランド問題に代表される地球環境問題に対し多大 な影響を与えてしまうことがご理解頂けたと思います。  それでは、我々が普段業務を行っている特許庁庁舎 の空調設備はどのようなシステムを採用し、地球環境 に対してどの程度配慮した設計となっているのかを考 えてみます。

 特許庁庁舎は平成元年に竣工したオフィスビルです。 竣工から20年が経過し霞ヶ関エリアでも新しくはない 建物ですが、竣工当時として最新・最高の空調設計が 採用されています。  

 建物規模は地上16階地下3階述べ床面積8.8万㎡の大 規模オフィスビルです。建築計画としての特徴は、柱 の配置間隔を20mまで長スパン化した大空間執務室の 採用、光庭による自然採光計画、窓面を建物内部側に 後退させた省エネルギーペリメータ(建物の外皮)計画、 東西にエレベータ・機械室等の縦動線を配置したセパ レートコアプランなどが挙げられます。外観は石張り の重厚なもので周囲のオフィスビルと一線を画してい ると言っていいでしょう。

 特許庁の空調設備は一般的な霞ヶ関の庁舎と大きく 異なる計画が行われています。それは冷房負荷対策で 図2 ヒートアイランド現象に伴う汚染物質の伝播イメージ

(4)

図3 特許庁空調システムフロー図

冷却水

C

C C C

冷水

温水

8 2

給 加 蒸気

一 務室 ( )

C(1コイル)

一 務室

リメーター

フ ンコイル ト

( ) C(1コイル)

一 務室 OA対 ( のみ)

C(1コイル)

24 電算 C (C)

(3コイル)

一 電算 C

(2コイル)

( 式)

( 式)

( 式) 700

700

700

D

P ( による排熱を に放出)

55 42 8 37.5 32 15 55 42 46 40 15 8 15 8

ロリー メーター

シェルアンド ーブ 熱 3 電算

2次ポンプ ( 制 )

42 55

ドレン

供給 D C 46 40 37 5 13 13 6 8 15 15 9

ヒートポンプ 温

温 時 出 ター 250 式

ター 600 用プレート 熱 3

電力

電力

温 蓄熱 250 ( A 37 ) 蓄熱 3000 (5 )

電力

熱媒流体凡例

︶↓

︶↓

ロリーメーター

(新 ビル プラントより)

夜電力 の蓄熱 により 間電力の ークシフトを実現 CO2排出量 、

(5)

4. 特許庁空調設計における省エネルギー計画

 それでは、大きな空調負荷を持つこの庁舎にどのよ うな省エネルギー手法が採用されているのかを見てい きましょう。

 近年のオフィスビルの執務室は内部発熱の増加から 窓際の一部のエリアを除いて年間冷房要求があります。 特許庁も例外ではなく気密度の高い執務空間は冬季の 朝の立ち上がりを除いては冷房要求が支配的です。そ のため、室内は暑いのに室外は涼しいという期間(春 や秋など)がかなりの割合で出現します。この涼しい 外気を強制的に室内に供給するシステムが外気冷房で す。上記のように各フロアの四隅に配置された空調機 には外気の状態を検知して、冷水による冷房ではなく 外気による冷房を選択する制御が組まれています。一 般的にこの外気冷房だけで年間10%以上の省エネル ギーが可能になります。また、冷水・温水による冷暖 房の期間は、室内から空調済みの冷たい空気や暖かい 空気をそのまま外気に捨ててしまうのはもったいない 介して搬送され大気に放出されます。霞ヶ関の省庁街

をYahoo!地図の航空写真で見ると特許庁の屋上の半分 が冷却塔に埋め尽くされており、周囲の同規模のオフィ スビルと比べて膨大な排熱を出していることが見て取 れます。

 特許庁の建築平面計画は光庭を中央に配置したロの 字型のプランです。一般事務室系統の空調計画はこの ロの字の四隅に配置された空調機械室に地下の熱源機 械室で作り出した冷水・温水を縦配管により搬送する 計画となっています。そして、各フロアを4つにゾーン 分けし四隅の空調機械室内に配置された空調機で冷水・ 温水から冷風・温風を熱交換して作り出し室内に供給 しています(図4参照)。設計当初の室内計画温度は夏 季で26℃、冬季で22℃です。またサーバ等が設置され る電算室系統は年間を通して24℃で計画されています。 この電算室系統は温度だけではなく湿度も厳重に管理 されるため、複数の熱交換コイルによる質の高い空調 が行われています。

図4 特許庁空調平面計画概要図

温 温

空調 室

空調 室 空調 室

空調 室

B3 より B3 より B3 より

56.2

執務室 ・温 ・温 空調

ーン 空調ーン

執務室

・温 ・温

空調

ーン 空調ーン B3 より

(6)

ので、全熱交換器という熱交換器で排熱回収をしてか ら捨てています(図5参照)。

 熱源計画としては、蒸気と電気をミックスしたエネ ルギー計画が挙げられます(図3参照)。蒸気は上述の ように地域冷暖房から供給されています。地域冷暖房 は複数の需要建築物に同時に熱を供給することで各建 築物のピーク負荷が分散され大型の蒸気発生機を高効 率で運転することができるメリットがあります。この ことにより各建築物に小型の熱源を分散配置し細かい 容量制御を行うよりも需要建築物全体としてエネル ギー効率を高めることが可能になります。もう一点は 深夜電力を利用した蓄熱システムの採用です。深夜電 力をターボ冷凍機で冷熱として蓄熱槽に蓄えることで 深夜の原子力発電の比率の高い(火力発電の割合の低 い)電力の利用が可能となり二酸化炭素の排出量を抑 えることができます(表4参照)。また、昼間に蓄熱槽 の熱を利用することでピーク冷房負荷を下げることが 可能となり熱源設備全体の容量を小さくすることがで きると共に、発電所のピーク負荷も低減することがで きます(図6参照)。

 熱搬送計画として採用されている技術は、部分負荷 運転時(100%全開運転以外)の容量制御運転技術に特 長があります。一般的なオフィスビルでは水系・空気 系を合わせた搬送動力は空調動力の1 / 3近くを占める 大きな負荷となっています。また、年間の運転の中で

図5 特許庁執務室空調フロー図

表4 発電方式による二酸化炭素排出量

出典:エネルギー白書2004

資料:電力中央研究所

(注)1. 発電燃料の燃焼に加え、原料の採掘から発電設備等の建設・ 燃料輸送・情報・運用・保守等のために消費される全てのエ ネルギーを対象としてCO2排出量を算出。

   2. 原子力については、現在計画中の使用燃料国内再処理・プル サーマル利用(1回リサイクルを前提)・高レベル放射性廃棄 物処理等を含めて算出。

図6 夜間蓄熱利用のイメージ

出典:(財)ヒートポンプ蓄熱センターウェブサイト . . 執 務 室

天井内

C. .

コイル コイル

I I

機械室

用空調 変 量 ( A )(室内熱 により 量を変 )

排熱回 用全熱 換 ( イ ス回 ) メイン空調

(フ ンイン ータによる空 送 力の ) 供給空

り空

用 空

リメータ 面用フ ンコイル ト

B3 熱 室より

55 8

退

回 により ・ は による を う

0 200 400 600 800 1000

(g-CO2/ 送電 )

力発電

発電燃料燃焼 設備・運用

発電

熱を 作 て蓄える ための運

使う 熱を作る ための運 蓄えて

いた 熱を使用

﹂し

8 18

22 22時

(7)

でいます(表5参照)。消費エネルギーの内訳は空調に 起因する地域熱供給と電力で全体の約60%、サーバー・ パソコンの電源消費で約20%、照明その他で20%と なっており、一般のオフィスビルに比べて空調とコン ピュータ系の消費が高い比率になっています。  そして、竣工当時としては教科書通りの良くできた 特許庁の空調システムも、20年の月日の経過とともに 古くなってきていることは否めません。そこで次章で は最新オフィスの空調システムについてご紹介します。

5. 最新オフィスに採用される空調システムの紹介

 21世紀に入り、東京では様々な地域で大規模な再開 発事業が行われました。代表例としては、丸の内・品川・ 汐留・六本木などが挙げられます。これらの再開発事 業で中心として建設されたのがオフィスビルです。こ れら最新オフィスビルはOA化に伴う内部発熱を処理す るため様々な空調技術が投入されています。

 そこで採用されている技術のキーワードが、自然エ ネルギーの積極採用・ペリメータレスシステム(窓面 専用空調を省略するシステム)・パーソナル化(個人空 調)・高効率熱源の採用・ビルエネルギーマネージメン トシステム(BEMS)などに代表される最新空調技術で す。これらの技術は特許庁庁舎が竣工した時代の後に 実現されてきた技術です。図7の最新オフィスビルの一 100%全開運転以外の出現時間が大半を占めるため、こ

の容量制御技術が非常に重要になります。まず冷水・ 温水搬送ポンプに採用されているのが複数台ポンプの 台数制御とインバータによるモータの回転数制御です。 これは、空調機の負荷容量(要求水量)に合わせてポ ンプの吐出圧力をきめ細かく変化させる変流量制御で、 例えば要求水量が1 / 2になれば理論値上の動力は1 / 8となることでもわかるように効果が大きい制御技術で す。そして、空気系では室内の空調負荷に合わせ、天 井からの吹出し風量を調整する可変風量装置(VAV) が天井内に配置されています。そして、この可変風量 装置の開度に合わせて空調機の送風機をインバータに より回転数制御しています(図5参照)。この送風機の 変風量制御も上述のポンプと同じ省エネルギー効果が あります。

 さらに冷水・温水を搬送する際には、空調機側の熱 交換器で往き還りの温度差を大きく取り(冷水側で通 常5℃差のところを7℃差)、搬送水量自体を同一熱量で あれば3割以上削減しています。

 このような、様々な省エネルギー技術の採用の成果 と し て、 特 許 庁 の 年 間 一 次 エ ネ ル ギ ー 消 費 量 は 約 1600MJ /㎡・年と一般的なオフィスビルの2000MJ /㎡・年と比較しても良好なエネルギー効率を誇って います。しかし、特許庁の年間エネルギー消費は、上 述のような冷房負荷の処理を背景に本省を大きく凌い

表5 経済産業省全体及び特許庁のエネルギー使用量の現状(平成13年度及び平成16年度実績)

エネルギー使用量( :G )

電 92 421

69 91 194

71

熱供給 39 633

30

熱供給 34 842

27 計134 497G

計128 255G

本省 82 405

32

特許庁 134 497

52 計261 091G

方 等 44 189

17

計253 706G

本省 75 781

30

特許庁 128 255

51

方 等 496 550 20

13年度 13年度 16年度 16年度

の 2 438 2

の 2 219 2

空調 45

サー ー 26

(8)

 高効率熱源としては近年大きく進歩を遂げている ヒートポンプ技術が挙げられます。ヒートポンプは主 に大気を採熱源とし上述した圧縮式冷凍サイクルによ り採熱源から熱を汲み上げる技術です。主にフロンや 二酸化炭素を熱媒とし、圧縮機をインバーターで容量 制御することで部分負荷特性に優れた性能を備えてい ます。次章で詳しく記しますが、特許庁にも導入され ているターボ冷凍機は近年のヒートポンプ技術の革新 で、投入エネルギー 1に対して5以上の冷熱出力を得る ことが可能になっています。

 そして、空調設備全体を制御する中央監視設備にも 変化があります。ビルエネルギーマネージメントシス テム(BEMS)に代表される監視システムは、ビル運用 中の空調・照明・動力などのエネルギー消費をデータ として保存・分析し、ビル全体としてより高効率な運 用が可能となるように管理するものです。設計時点の 目標性能が実際に出ているか? エネルギー消費にロス はないか?効率の悪い機器はないか? など、その膨大 な監視点数の中から分析・判断することができます。  これらの技術革新を背景に地球環境に配慮した空調 設備の計画・設計が実現されてきています。特許庁で も今年度、2大熱源機器である蒸気熱源吸収式冷凍機と ターボ冷凍機の両方を最新の機器に入れ替える改修工 事を行っています。地球環境への影響度を下げるため には、新築の建物に良いシステムを採用することは当 例を参考にいくつかの技術を見ていきます。

 まず、自然エネルギーの積極採用ですが、外界から の負荷変動を最小限に抑えるダブルスキン(二重窓) 計画が挙げられます。これは窓を二重化しその内部に 外気を流通させたり密閉したりすることで夏季と冬季、 中間季(春・秋)の切り替えを行い、外部からの外乱 を抑制するペリメータ(建物の外皮)計画です。一般 的に窓面は断熱するのが難しく、直射日光も透過する ので、空調の負荷として大きな割合を持っています。 近年のオフィスビルは窓面積も大きいため、窓面の計 画次第で空調計画まで影響を与えます。この外気導入 型ダブルスキンは外界と建物の調和を図り、必要時に は密閉された執務空間を積極的に外界に開放し冷房負 荷を削減する効果もあります。

 次に、空調設備のパーソナル化が挙げられます。こ れは床吹き出し空調などで人間の存在する場所のみの 吹出口を各自が好みの開度だけ開き、部分的に空調を 行うシステムです。

 これにより必要部分のみの空調が可能となり、また、 各自の温熱感に即した空調を行うこともできます。  この床吹き出し空調に付随した空調方式が置換空調 方式です。置換空調は執務室の下層半分(人間が居る 領域)のみに冷気を溜め、上層半分の空気条件は成り 行きとする空調方式です。ゆっくりとした吹き出し速 度により室内に温度成層を形成します。

図7 最新オフィスビル空調フロー例

冬 夏

春・秋

C. .

コイル

コイル I

. .

ブルス ン

フリーアクセスフロア内を 空調空 送ルートとして利用

ー ル( 人)空調

室内 処理空調 処理空調 排熱回 用全熱 換

との調 の

要部 のみ空調

人体領域のみの 置換空調 (28℃保証)

ブルス ン(全面 ガラス) 全面ガラス りによる 放 電 ブラインド

リメータレスシステム

(9)

湯を沸かすため熱効率が100%を超えることは理論上 ありえません。しかし大気から熱を汲み上げるヒート ポンプ給湯器では圧縮機の入力に対して3〜4倍の熱量 を得ることが可能です。これはヒートポンプサイクル を利用して空気の熱を水に移動させているためです。 近年のヒートポンプの効率改善は目覚ましく、家庭用 エアコンでは圧縮機の入力に対して5〜6倍の冷温熱量 を出力として得ることが可能となっています(図8参 照)。また、圧縮機の容量制御により出力を自在に調整 できる点も特徴です。大型空調熱源としてはインバー ターターボ冷凍機などが高効率ヒートポンプ熱源とし て注目されています。採熱源としては空気だけではな く、海水・河川水・地下水などの天然水や、下水や人 工排熱などの未利用エネルギーからも熱を汲み上げる ことが可能です。

 ここでもう一点ヒートポンプ技術として注目しなけ ればならないのが動力源となる電気の二酸化炭素排出 量です。電気を作るときの二酸化炭素排出量は表4のよ うに1次エネルギーの種類によって全く異なります。つ まり、原子力や太陽光、水力、風力などのエネルギー 源によって作られた電気を使いヒートポンプで熱を作 然として、実は特許庁のような既存の膨大な建物群(ス

トック)に最新のシステムを導入していくことが今後 非常に重要になるといわれています。そういう意味で も今回の熱源改修はモデルケースになり得る意義を 持っていると思われます。

6. 空調関連技術の動向

 冒頭で日本の省エネルギー技術・環境技術は国際的 にも高い評価があると述べましたが空調関連技術にも 評価の高い技術が存在します。日本は機器等のトップ ランナー方式(もっとも効率の高い機器を標準品とす る規制)を採用することで分野によってはここ数年で 大きな効率改善を遂げています。

 その1つがヒートポンプ技術です。ヒートポンプは身 近なところで家庭用エアコンに用いられているほか、 冷蔵庫、ヒートポンプ給湯器(エコキュート(登録商標)) などにも採用されている技術です。ヒートポンプ技術 がなぜ地球環境に良いのかというと、熱をゼロから作 り出すのではなく、熱を採熱源から汲み上げる点にあ ります。例えば燃焼式給湯器ではガスを燃焼させてお

図8 ヒートポンプの仕組み

出典:中部電力株式会社ウェブサイト

表6  ヒートポンプ・蓄熱システムのCO2排出抑制のポテ ンシャル

(10)

ギーシステムです。

 分散型エネルギーシステムとして実績のある技術が、 天然ガスコージェネレーションです(図9参照)。天然 ガスコージェネレーションは、天然ガスを燃焼させて ガスエンジンやガスタービンを駆動し発電を行うとと もに、燃焼排熱を回収し蒸気や高温水を得る技術です。 このような熱のカスケード利用により電気と熱を同時 に出力させることで総合エネルギー効率を80%程度ま で高めることが可能となります。この排熱は需要家の すぐ傍で発生するためそのまま冷暖房熱源や給湯熱源 として利用することができます。また、発電した電気 は一般電源やヒートポンプ機器のコンプレッサ動力と して利用可能です。

 コージェネレーションの新しい技術として近年実用 化されてきているのが燃料電池です(図10参照)。上記 の天然ガスコージェネレーションは比較的大型の需要 化向けのシステムですが、燃料電池は個人住宅にも導 入可能な製品となっています。燃料電池は、天然ガス などの化石燃料を改質して得た水素を空気中の酸素と 反応させ水を合成する過程で電力と熱を同時に得る技 術です。燃料電池の発電原理は水の電気分解と逆の反 応であり、反応生成物は水のみというクリーンな発電 り出せば二酸化炭素排出量が限りなくゼロに近い冷温

熱を得ることができます。逆にどんなに効率的なヒー トポンプを使っても、電気を作る段階で大量の二酸化 炭素を排出したのでは意味がないことになります。ヒー トポンプ技術はそこに投入される電気の発電効率とペ アで考えるべき技術です。日本のヒートポンプ技術は 他国の追随を許さない高効率なものであり、発電効率 との掛け算でも非常に有効な環境技術となっています。 また、夜間蓄熱と組み合わせることで二酸化炭素発生 量抑制の大きなポテンシャルを秘めています(表6参 照)。

 2つ目に挙げられるのが分散型エネルギーシステムで す。一般的な需要家(オフィス・工場・住宅など)が 必要とするエネルギーは電気と熱ですが、従来電気に 関しては大型発電所から送電線で供給を受けてきまし た。しかし、発電の大きなウェイトを占める火力発電 所の発電効率は40〜50%程度であり、発電ロスとして の熱は需要家から距離が遠いため利用されることなく 排熱として海水等に捨てられています。これに加えて 送電時のロスも見逃せません。そこで各需要家の近く で発電を行い、そのとき発生する排熱をも同時に冷暖 房や給湯の熱源として利用する技術が分散型エネル

図9 ガスコージェネレーションシステム

出典:(社)日本ガス協会ウェブサイト

図10 燃料電池システム

(11)

技術です。発電した電気は照明やエアコン、冷蔵庫等 の電源となります。そして、排熱は給湯に利用するこ とができます。

 また、自然エネルギーを利用した、太陽光発電、太 陽熱利用、風力発電、地熱発電、バイオマスエネルギー 利用なども分散型エネルギーシステムの一例です。

7. 環境技術の今後の展望

 このように日本の持つ省エネルギー技術・環境技術 は空調関連技術に絞って見ても先進的なものです。そ して何より実績のある技術として製品化されているも のが多く存在します。これらの技術を地球環境の改善 のために世界的に普及させていくことが今後重要に なってくると思われます。特に上述のような単位GDP (国内総生産)あたりの二酸化炭素排出量の高い国や、

経済発展の速度の早い新興国にこれらの環境技術を移 転し、地球全体の温室効果ガスの排出量を抑えていく 努力が必要です。新興国では現在公害問題がクローズ アップされており、省エネルギー技術・環境技術を移 転するインセンティブは存在しています。そして、日 本から海外へ環境技術の移転を安定的に行うために、 各国での知的財産権の活用もさらに重要になると思わ れます。

 最後に、これはよく言われていることですが、技術 がいくら進歩しても人間の意識が変わらなければ低炭 素社会や低環境負荷社会の実現はむずかしいと思われ ます。実際に日本の住宅やオフィスビルなどからの二 酸化炭素排出量は、近年の高い技術の進歩にもかかわ らず大きな伸びを示しています。これは私たち使う側 が、より快適な環境を求めて資源を消費している部分 があるようです。地球環境を維持していくために大き な社会構造の変化が求められていますが、その前に各 個人が考え、少しずつ努力をしていくことが必要となっ ています。

p

rofile

武内 俊之(たけうち としゆき)

平成6年4月〜平成17年4月

参照

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予測の対象時点は、陸上競技(マラソン)の競技期間中とした。陸上競技(マラソン)の競 技予定は、 「9.2.1 大気等 (2) 予測 2)