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知的財産活動における中国語、韓国語への対応 「特技懇」誌のページ(特許庁技術懇話会 会員サイト)

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抄 録

国語・

国語

への

対応

 グローバル化にともない知的財産の面からも東アジア地域が注目されています。ところが、東アジア 地域、特に中国・韓国に対する知的財産活動で障壁となるのが言語です。知的財産活動はその企業の内 部環境および外部環境で異なってきますが、本稿では、当社積水化学工業における言語の障壁に対する 取り組みを参考までに紹介させていただきます。

積水化学工業株式会社 コーポレート 知的財産部担当課長  太田 宜衛

知的財産活動における

中国語、韓国語への対応

1. はじめに

 「権利要求がクレームで、対比文献が引用例で……」と 中国語の出願書類を見始めた約10年前の当時の状況を懐 かしく思い出しながらこの原稿を書いています。東アジア 地域の市場を目指してビジネス展開が拡大するにつれ、出 願業務の増加のみならず、他社特許の調査やウォッチング などで中国語文献および韓国語文献を目にする機会、さら には権利活用や交渉といった機会なども増え、知的財産活 動の範囲は急速に広がりました。これら知的財産活動を行 なう上での障壁の一つは、言語です。本稿では、知財の世 界で重要なポジションを占めるに至った中国語および韓国 語にフォーカスして、この問題に対する当社の取り組みを 紹介したいと思います。本題の前に、周知のことかと思い ますが、まず東アジア地域、特に中国、韓国を取り巻く情 勢を簡単におさらいします。

 過去30年に亘って東アジア諸国は驚異的な経済発展を 続けています。80年代に高度経済成長を遂げた NIES(韓 国、台湾、シンガポール、香港)に始まり、ASEAN4(タイ、 インドネシア、フィリピン、マレーシア)、そして社会主 義市場経済を導入した中国、ベトナムが東アジア地域の経 済発展を牽引しています。

 東アジア地域でダントツの巨大市場を有し、安価な労働 力を提供する中国においては、00年ごろより日本企業を 含む先進国企業によるビジネス展開が加速しました。一 方、中国国内企業に目を向けますと、先進国から最新の技 術、設備およびノウハウを導入することによる技術革新 と、合理的な経営機構や制度の導入によるマネジメント革 新とにより、飛躍的に成長を遂げた企業があります。そし て今や、中国市場に参入した外資系企業に打ち勝つまでに 成長した中国国内企業が多々現れています。

 他方、韓国においては、70、80年代に財閥を中心とす る多角化・海外展開が進み、途中97年末に経済危機を迎

えたものの見事に復興を遂げました。00年代に入ってか ら、韓国国内企業は、日本を初めとする先進国企業と世界 を舞台にしのぎを削りあい、競争に打ち勝つようになりま した。そして今や世界中で韓国ブランドを築き上げ、日本 に比肩する、分野によっては日本を凌駕する技術立国とな りました。

 これら事実は、知的財産の世界でもデータとして示され ています。中国における急激なビジネス展開を示すものの 一つとして、図1が挙げられます。2009年の出願件数で 比較すると、日本国特許庁への出願件数が約35万件、中 国特許庁への出願件数が約31万件となっています。また 中国政府がイノベーション主導型社会の建設を目指して特 許出願を後押ししている点と、表1に示された出願件数の 伸び率からしますと、中国特許庁への出願件数が日本国特 許庁へのそれを超えるのは時間の問題と思われます。中国 国内企業および韓国国内企業の技術力の向上を示すものの 一つとして、図2が挙げられます。中国語または韓国語で しか読めない特許文献の割合は、1996年にはわずか 9% でしたが2009年には39%にまで急増しています。一方、 日本語で読める特許文献の割合は 1996年に 65%だった のが2009年には24%にまで減少しています。

特許庁別出願件数

0 100 000 200 000 300 000 400 000 500 000

United States of America

Japan China Republic

of Korea EuropeanPatent O ce

特許庁

2006 2007 2008 2009

図1

(2)

から構成されます。3つのカンパニーとは、1)セキスイ ハイム(60年以上安心して快適に住み続けることのでき る住まい)を提供する「住宅カンパニー」 2)環境と次世 代インフラに関するシステムおよびサービスを提供する 「環境・ライフラインカンパニー」 3)エレクトロニクス・ 自動車・メディカル分野などで樹脂ソリューションを提供 する「高機能プラスチックスカンパニー」です。

 図3に示すように、売上は 2011年3月期連結ベースで 約9,000億円であり、そのうち住宅カンパニーが 46%、 環境・ライフラインカンパニーが21%、高機能プラスチッ クスカンパニーが31%を占めています。

 また当社は、世界のひとびとの暮らしと地球環境の向上

2. 積水化学工業について

 本稿のテーマである中国語および韓国語への対応につい ては、中国、韓国における事業活動や知財活動の現状、こ れまでの経緯および今後の戦略などその企業における内的 要因および外的要因によって最適解が異なります。そこで 本章では、当社の事業と知的財産部門についてまずご紹介 いたします。

2.1 事業の概要

 当社は、コーポレート(本社機能)と 3つのカンパニー

China 32.9 21.4 16.5 18.2 8.5 42.1 30.8 25.1 27.1 17.7 23.6 10.4 4.4 3.4 -10.3

European Patent

Office 4.1 5.1 4.1 3.8 -7.9 4.1 5.1 4.1 3.8 -7.9

Japan 0.9 -4.3 -3.0 -1.3 -10.8 -0.1 -5.7 -3.9 -1.0 -10.5 8.1 4.2 1.9 -3.0 -12.8

Republic of Korea 14.8 3.3 3.8 -1.1 -5.0 16.1 2.7 2.6 -1.2 -0.2 11.1 5.1 7.5 -0.6 -19.0

United States of

America 9.5 9.0 7.1 0.0 0.0 9.7 6.7 8.8 -4.0 -4.4 9.2 11.7 5.2 4.6 4.4

出典:world intellectual property indicater 2010 WIPO

0 200 000 400 000 600 000 800 000 1 000 000 1 200 000 1 400 000

2009 2008 2007 2004 2005 2006 2001 2002 2003

2000 1997 1998 1999 1996

日本 9

9

夼 特許文献 増 の墶

2 65

図21) 世界の特許文献  出典:特許庁作成

図3 当社の事業展開および売上構成

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国語・

国語

への

対応

す。次に特許出願へ目を移しますと、国内出願は約1000 件/年で、そのうち約10%の発明を事業進出国などへ外 国出願しています。

 これらのことから、事業の面でも知的財産活動の面で も、東アジア地域への対応の歴史はまだ浅く、現状やっと 基盤が完成したレベルであることをご理解いただけたかと 思います。以下では、これまでの基盤作りの過程で、中国 語および韓国語に対してどのように対処してきたかを紹介 したいと思います。

3. 出願・権利化での対応

3.1 翻訳された明細書の質向上

 中国や韓国へ出願する際、リスクの一つは誤訳です。誤 訳によって本来あるべき権利範囲を確保できていなけれ ば、多大なコストと労力をかけたにもかかわらず、特許権 の効力が全く発揮できないことが起こりえます。7,8年前 にこの問題が大きく取り上げられてから、当社においても リスクヘッジすべく、翻訳の質の向上について検討を始め ました。当時は権利活用時での問題ということでクレーム の誤訳に注目が集まっていましたが、当社知的財産部では、 課題を少し広げて検討を行なうことにしました。そのとき は、グローバル化に向けて知的財産活動のレベルアップを 検討し始めたころであり、外国出願の明細書の質向上とい う観点での対策が十分取れていなかったからです。さらに、 誤訳に関して、権利活用可否の問題だけではなく、本来な ら不要な中間処理が発生してしまう問題もありました。翻 訳した明細書が読みにくければ、審査官および現地代理人 に発明の内容を正しく理解してもらえず、拒絶理由通知の 増加をもたらします。ひいてはコストと手間の増加および 包袋禁反言リスクの増加を招いてしまうからです。この問 題への対処として、翻訳後の明細書などが意図したものと へ貢献するという積水化学グループビジョンにもとづき事

業のグローバル化を進め、ここ5年で海外売上比率を倍増 させることができました。図4に示すように、ようやく海 外売上は1,800億円、海外売上比率は、19.7%となりまし たが、今後さらに 3年で海外売上を 3000億円に飛躍させ る予定です。

 東アジア地域に関しましては、当社は 02年に現地生産 化や販売チャネル構築のための関係会社を設立し本格的に ビジネス展開を始めました。事業のグローバル化に向けて アクセルを踏み込んでから 10年が経過し、日本を除くア ジアエリアの売上は 676億円となりました。特に中国に おいては、水インフラ、車両材料、メディカル関連分野を 中心に現在事業を展開しており、中国での売上高は 325 億円となっています。

 中東や北アフリカでは民主化革命が勃発し原油が値上が りするなど、グローバル経済においては様々な外部環境リ スクが発生していますが、東アジア地域をはじめとする新 興国主導の世界経済拡大の流れは変わらず、このうねりを 当社も確実に捕らえて事業を成長させようとしているとこ ろです。

2.2 知的財産部

 コーポレートと3つのカンパニーそれぞれが知的財産部 を有しています。事務管理部門の人員も含めて、部員総数 は約50名です。当社知的財産部では、開発初期段階の調 査・分析、商標および契約に関する業務を除き、基本的に は部門担当制を採っており、知的財産部員は担当するR& D部門や事業部門のほぼ全ての知的財産管理業務を担当し ています。また、コーポレート知的財産部では、中国人1 名、米国人1名が在籍しています。彼らには担当部門の知 的財産管理業務はもとより、全社横断的に海外知財管理の レベルアップを図る仕組み作りも担当してもらっていま

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産部で定着するよう運用面からも検討を行ないました。一 つ目として、明細書作成者である国内代理人へガイドライ ンに沿った日本語明細書を作成するよう協力をお願いしま した。知的財産部員がこのガイドラインに沿って明細書の 案文をチェックするのはもちろんですが、元の案文が不明 晰であれば、チェックにかかる負担は減りません。そこで、 当社が明細書作成をお願いしているほぼ全ての国内代理人 にガイドラインを提供し、さらにその内容を理解してもら うよう説明会を開きました。国内代理人には、このガイド ラインに沿って、所定レベルの社内評価が得られる明細書 の案文を作成してもらっています。

 二つ目として、知的財産部員複数名により検討チームを 作り、このチームで実際の案文をガイドラインに沿って月 一回チェックするようにしました。知的財産部員に向けて も明晰日本語ガイドラインの解説を行いましたが、必ずし も部員の全てが十分理解できるわけではありません。そこ で、メンバー一人一人が校正案を考えてチームで議論し最 適な修正案を作り上げていく課程で、明晰日本語力を身に 付けてもらうようにしました。もちろん、チームで作り上 げた修正案を、案文を作成した国内代理人にもフィード バックすることで、国内代理人には明晰日本語明細書の作 成能力を向上させてもらっています。

 三つ目として、外部翻訳者に日本語明細書が明晰か否か 評価をお願いしました。明晰日本語に不慣れな知的財産部 員にとっては、専門家からの指摘が必要だったからです。 具体的には、重要な発明にかかる明細書について、外部翻 訳者にとって翻訳しにくい箇所がないかどうかチェックし てもらい、その結果を知的財産部員および国内代理人へ フィードバックする仕組みとしました。そして上述した三 例をもう少し具体的に紹介いたします。

3.1.1 翻訳の元となる日本語明細書に対して

 まず、一つ目は、誤訳の事例を体系的に分類し、併せて 正誤の事例を紹介する「明晰日本語ガイドライン」の作成 とその運用です。日本語から中国語または韓国語へ翻訳す る際、翻訳者は頭の中で元の日本語から翻訳用の日本語に 一旦変換して翻訳する場合と、元の日本語を文言通り忠実 に翻訳する場合の2パターンがあるかと思います。前者に おいては、元の日本語が不明晰であればあるほど、翻訳者 が如何に正しい翻訳用の日本語を思い浮かべるかという不 確定要素(もちろん技術への精通も不確定要素ですが)が 翻訳文の質に大きな影響を与えます。他方、後者において は、元の日本語が不明晰であれば翻訳文も不明晰であるこ とは言うまでもありません。いずれにしましても、元の日 本語が明晰であるということは、翻訳文の質にとって非常 に重要であることに変わりはありません。

 明晰日本語ガイドラインの作成にあたっては、特許抄録 の機械翻訳に関する調査報告書2)を参考にしました。機械

で翻訳できる日本語であればそれは一義的であり、すなわ ち元の日本語は明晰であると言えると考えたからです。こ の報告書では、機械翻訳に好適な日本語について事例が紹 介されています。たしかにこの報告書は機械翻訳を目的と していますが、人手翻訳にも当てはまる事例が取り上げら れており、誤訳の体系作りに役立ちました。そして、当社 における、誤訳の事例および翻訳者にとって理解しがたい 文章、文言の事例を現地代理人および翻訳者などに依頼し て集め、これら事例を分類・体系化しました。これに併せ て、明晰日本語化した正解例を用意し正誤の事例を対比で

2)「日英自動翻訳システムに関する総合的調査」財団法人未来工学研究所

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国語・

国語

への

対応

討しはじめたところです。

3.1.3 その他

 すでに当たり前のことも含まれますが、この節では上記 2点以外の対策を紹介します。一つ目は、現地語を母国語 とする翻訳者へ翻訳を依頼することです。翻訳者自体に関 係する点に限りますと翻訳の質は、①現地語の理解レベル ②日本語もしくは英語(翻訳元となる明細書の言語)の理 解レベル ③技術の理解レベル で決まってくると考えら れます。このうち語学力に関わるものは上記①と②です が、現地審査官や代理人などにとって読みやすい翻訳文を 作成する能力は、上記②より①にかかってきます。英語を 学んだ日本人にとって、一般的に日→英翻訳より英→日翻 訳の方が簡単であることを考えてもらえれば、納得してい ただけるかと思います。そこで当社知的財産部では、現地 語を母国語とする翻訳者に翻訳を依頼しており、管理の容 易性から現地代理人事務所へ翻訳を依頼しています。な お、当社では、日本語から直接現地語へ翻訳してもらって いますが、英語訳が準備できている場合には、日本語が不 明晰である場合の参考資料として英語訳を翻訳者へ提供し ています。

 二つ目は、現地代理人および翻訳者に技術理解を深めて もらうことです。翻訳者は、技術的内容で不確かなことが あれば、まず現地代理人に質問します。ここでもし現地代 理人が、技術理解が不十分なまま回答すれば、誤訳となっ てしまうおそれがあります。そこで当社では、技術理解を 深めてもらうため、現地代理人の来社時や知的財産部員が 現地代理人を訪問した際に、技術説明会を開催していま す。前者においては、R&D部門や製造部門へ行き、発明 品や現場などを現地代理人に見てもらうようにしていま す。また後者においては、現地代理人だけでなく翻訳者に も技術説明会に参加してもらい、技術理解を深めてもらっ ています。その他にも、技術分野毎に担当現地代理人を決 めることで、現地代理人には、特定技術分野の特許出願を 集中的に取り扱ってもらっています。こうすることで、技 術理解の深度化はもちろん、その技術分野での権利化実務 にも精通してもらえるメリットがあります。

 三つ目は、PCTルートでの出願です。PCTを利用するメ リットは多々ありますが、そのうちの一つが、中国出願に おいて誤訳訂正できる点です。例えば日本語の国際出願を 中国に国内移行した場合には、その国際出願すなわち日本 語の記述に基づいて中国語の翻訳文を訂正することが可能 です。ただし、実施細則第113条に基づく期間と拒絶理 由通知への対応時に誤訳訂正が可能ですが、前者において は時期的制限が厳しく後者においては拒絶理由通知で指摘 された事項に関係しなければならない、すなわち内容的制 限が厳しいという問題があります。当社においては、上述 しましたように特定の中国出願については中国人知財部員 つの活動を1年程度行い、明晰日本語ガイドラインの活用

を業務フローの一つとして定着化させました。

3.1.2 翻訳後の明細書に対して

 次に翻訳後の明細書への対応を紹介します。一つ目は、 出願前の翻訳チェックです。今や多くの出願人が利用して いるかと思いますが、当社知的財産部でも、国内翻訳業者 が提供するクレーム翻訳チェックのサービスを利用してい ます。具体的には、現地代理人に翻訳してもらった中国、 韓国への出願前の翻訳クレームと、元になる日本語クレー ムとを国内翻訳業者に比較してもらい、翻訳が適正か否か のレポートを提出してもらっています。その報告内容は、 現地代理人にフィードバックし、国内翻訳業者の指摘に基 づき現地代理人が修正の必要性などを判断します。また、 特定の中国語翻訳文については、中国人知財部員がクレー ム翻訳をチェックし必要に応じて中国代理人に修正の指示 を出しています。さらに、重要な案件については中国人知 財部員が全文翻訳チェックを行なっています。

 当初の予定では、国内翻訳業者からの指摘がほぼ無く なった時点で、クレーム翻訳チェックを止めるつもりでし た。ですが、韓国語など他言語の翻訳と比べてみますと、 中国語翻訳に対する国内翻訳業者からの指摘は現在も多い です。当社におきましては、国内翻訳業者の指摘箇所が、 現地代理人による誤訳なのか、国内翻訳業者のミスなのか までかは判断できていません。この点について、中国人知 財部員を活用するなどしてきちんと社内で判断できるよう になることが今後の課題の一つと考えています。また、も し現地代理人による翻訳の質に問題があるのなら、日本企 業による中国への特許出願が右肩上がりで増え続けている ので、優秀な翻訳者の確保が難しくなっていることが原因 の一つとして考えられます。その場合は、国内翻訳業者の レポートを元に翻訳者の質を評価し、適切な翻訳者を指名 しなければならないと考えています。

(6)

4.2 外部調査機関の活用

 当社におきましては、侵害性調査も含めて中国や韓国に おける先行文献調査をはじめたころから、ほとんどのケー スで現地の調査機関(代理人事務所を含む)を利用してい ます。調査を依頼する際、技術や知財の専門用語を使って 調査機関の担当者と詳細な摺り合わせを行なう必要があ り、ここでも言語が障壁となります。そこで当社では、現 地代理人などに調査機関を紹介してもらい、日本語でビジ ネスレベルの会話ができる調査機関を選定しました。この ような調査機関であれば、報告書も日本語で作成してもら えるので、検索範囲が広く開発部門も巻き込んで先行文献 を抽出しなければならないときなどには、好適です。

4.3 社内での調査

 当社においても、韓国語や中国語の先行文献を調査する 頻度が高まり、調査報告のスピードや低コストが開発部門 や事業部門より求められるようになりました。そこで、社 内で先行文献が調査できないか検討を進めてきました。こ こで問題になったのは、言語の障壁およびサーチツールで す。後者につきましては、日本のサーチツールと同様の調 査環境を提供するものがそもそも無いということが問題で すが、本稿では主旨が異なりますので詳細な解説は割愛さ せていただきます。前者につきましては、調査フローの観 点から見ますと、2箇所で言語の障壁が存在します。一つ 目は、検索式作成時の過程です。検索式を作成する際、ほ ぼ全てのケースでキーワードを利用しますが、その選定や 翻訳で手間がかかります。特に技術用語には、類義技術用 語が存在する場合があり、日本語を直訳しただけではキー ワード検索として不十分な場合があります。二つ目は、検 索後の対象案件抽出の過程です。利用するサーチツールに よって、日本語、現地語(韓国語や中国語)および英語で 検索結果が得られます。このとき、調査担当者がどの言語 であれば、検索結果を読解し絞り込みなど次の工程に移れ るかという検討が必要です。サーチツールの検索の質から すれば、高いほうから、現地語ツール→英語ツール→日本 語ツール となるのですが、言語の観点からしますと、一 般的には利用のしやすさは逆転し、高いほうから、日本語 ツール→英語ツール→現地語ツール となります。

4.3.1 韓国特許調査

 まず韓国特許の調査ついてですが、前節で述べたとおり 機械翻訳の精度が高いため言語の障壁は低いです。よっ て、サーチツールとしましては、韓国特許情報院提供の 訳訂正できるメリットを十分享受できるような仕組み作り

に至っておらず、その検討および仕組みの改善が今後の課 題と考えています。

4. 先行文献調査での対応

 1章で説明したとおり、中国語もしくは韓国語でしか読 めない文献の比率は増えており、今後ともこの傾向は続く と考えられます。言い換えますと、日本語文献を調査する だけでは不十分でこれらの文献を調査しなければならない ときがすぐそこに迫っているということです。当社でも、 これらの文献をいかに調査するかという問題に対処しなけ れば抜き差しならない状況に陥ってしまうと認識してお り、少しずつ課題解決に向けた取り組みを行なっていま す。このテーマについては、当社知的財産部の大きな課題 の一つであり、まだ当社の実状にあった仕組み作りができ ていませんが、参考までに簡単に紹介したいと思います。

4.1 機械翻訳の利用

 中国語や韓国語の文献を読み込もうとしますと、まず機 械翻訳の利用が思い浮かびます。

 中国語と日本語は同じ漢字を利用するため、一見すると 比較的理解しやすいと感じます。しかしながら中国語と日 本語においては、文法は異なり、同じ漢字であっても意味 が異なることが多々あります。前者について、中国語の文 法は、①主語−述語−目的語・補語が基本文型である ② 語形変化はなく、語順で意味が決まる などという点で日 本語よりむしろ英語のそれに近いです。また後者について は、日中同形異義語の割合は同形語のうち8割あるといわ れています。

 一方韓国語では、①主語−目的語・補語−述語が基本文 型である ②語形変化がある などの理由から、日本語の 文法と非常に似ています。

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国語・

国語

への

対応

です。言語の障壁と検索結果の質とのトレードオフが生じ るからです。当社では、中国語の原文で中国語文献を調査 する際、中国国家知識産権局(SIPO)を主に利用しますが、 このときは、中国人知財部員が調査を行います。もちろん 中国人知財部員にも、キーワードを検討してもらいます が、中国語のキーワード選定は上述したように PATENT SCOPEの多言語検索も利用できます。よって検索式作成 時の過程での言語の障壁は比較的低いのですが、このケー スでは、検索後のスクリーニングの過程で非常に高い言語 の障壁が残ります。ヒットした対象案件を中国人知財部員 が絞り込むのならまだ良いのですが、いずれにせよ、最終 的には中国語を人手翻訳しなければならず、コストの面で 問題があります。もちろん、中国人知財部員の負担も大き く、多数の調査をこなすわけにはいきません。

 次に英語ツールの利用ですが、言語の障壁と検索結果の 質との面から比較的バランスがよいと思われます。しか し、中国語での検索と比べるとはるかに低いですが、検索 後のスクリーニングの課程においては英語であっても言語 の障壁が残ります。調査範囲が広い場合には、開発部門や KIPRIS(Korea Intellectual Property Rights Information

Service)を利用しています。キーワードにつきましても、 機械翻訳が利用できます。また、類義技術用語の問題に対 しては、WIPO提供の PATENT SCOPEのうち 2010年に 公開された「多言語検索」3)を利用することもできます(図

6参照)。ここで「電気自動車」をキーワードとして検索し た結果を図7に示します。当然検索結果が表示されます が、その先頭には、類義技術用語を含めたキーワードの翻 訳が表示されます。このキーワードの翻訳を利用すること で、KIPRISでのキーワード検索の質はぐっと高まります。  ただ、PATENT SCOPEは多言語検索機能以外にも、高 品質な機械翻訳システムを備えるため、検索からスクリー ニングまでの作業を比較的シームレスに行なうことができ ます。よって当社におきましては、韓国特許の検索は、 KIPRISからPATENT SCOPEへ移りつつあります。

4.3.2 中国特許調査

 上述しましたように中→日機械翻訳の質が高いとは言い がたいため、サーチツールの選定は非常に悩ましいところ

3)WIPO「PATENT SCOPE」 http://www.wipo.int/patentscope/search/en/search.jsf

 解説としては、2010 年 11 月の特許情報フェアでの資料がある。「WIPOPATENTSCOPE®検索システム」ChristopheMazenc、本田正史

図6

(8)

ションが取れることを選定の重要要件としました。例えば JETRO北京事務所、上海事務所5)やJETROソウルセンター 6)を訪問して最新の情報を入手したり、模倣品事件を経験

した他社や日本代理人からも情報を入手したりして、要件 に合う候補を絞り込みました。そして、現地代理事務所な どを訪問して面談を行い、最終的にいくつかの代理事務所 を選定しています。

 その後、当社でも数件の模倣品事件が発生し、選定した 代理事務所へ対応をお願いしましたが、当初心配していた 言語の問題は全く感じませんでした。代理事務所と当社事 業部門の担当者が直接遣り取りする場合もありましたが、 その場合でも同様です。いくつもの代理事務所と比較した わけではありませんが、日本企業と協力して事件に対応し た実績の多い代理事務所を選定したからか、仕事の進め方 やアウトプットにつきましても問題はありませんでした。

6. 最後に

 本稿では、グローバル化へ向けた知的財産活動で必ず大 きな問題となる中国語、韓国語の言語の障壁について、当 社の取り組みを紹介いたしました。この問題への対処は、 取り巻く環境や社内の事情およびそれらの変化など外部環 境と内部環境に応じて企業ごとに異なり、目指すべき共通 の最適解があるわけでもありません。しかしながら、言語 の障壁から派生するさまざまなリスクは、事業がグローバ ル化するにつれ加速度的に巨大化していくのは間違いない ところです。当社知的財産部では、それ以上の速度で言語 障壁に対する改善・改革を進め、より強固に事業と一体化 した知的財産活動を進めていきたいと考えます。

語に長けた人材が不足していることがあり、英語といえど も対象案件の絞り込みで苦労することがあります。なお、 キーワード選定におきましては、PATENT SCOPEの多言 語検索を利用したり、米国人知財部員にチェックしても らったりしています。

 最後に日本語ツールの利用ですが、検索やスクリーニン グの課程で言語の障壁がないという長所はありますが、検 索結果の質について懸念があります。一番の理由は、日本 語への翻訳が機械翻訳であることです。実際機械翻訳から は発明の内容を理解しがたいケースもあります。中国語や 英語のツールと比較しますと精緻な調査には向かないです が、日本語で利用できるメリットは大きく、予備的な位置 づけで中国語文献を調べる際には、非常に有効であると考 えています。

 本節で紹介しましたとおり、当社の中国特許調査におい ては、これといった最適な運用が決められているわけでは なく、ケースバイケースで何かしら負担やリスクを負いな がら調査をしているのが実情です。また当社知的財産部員 のみならず技術者など調査担当者の語学力不足が問題とな ることもあります。全社的に語学研修の提供、TOEIC受験 の奨励などさまざまな施策を社員に向けて展開していると ころですが、皆が皆業務に必要なレベルの語学力を有する には至っておりません。とはいえ、このまま現状を放置す る訳にはいきませんので、サーチツールの進化などの外部 環境や、語学力向上などの内部環境を勘案しながら、今後 この課題に取り組む予定です。

5. 模倣品対策での対応

 当社において東アジア地域に展開しているビジネスモデ ルは BtoBです。よって、模倣品事件とは縁遠いと以前は 考えていました。一方、ハイエンドモデルを東アジア地域 でも展開していますので製品単価は高く模倣業者に狙われ る可能性があること、および BtoBのビジネスモデルを展 開する他の日本企業においても模倣品事件が発生しはじめ たことから、当社でも他人事ではなくなりました。模倣品 事件に備えてまず取り掛かったことは、事件を取り扱うこ とのできる代理事務所や調査会社の選定です。その選定に 際しては、文献4)等で解説がなされていますが、我々が懸

念していたことの一つは、やはり言語の問題です。英語で

4)例えば、「中国知財リスク対応マニュアル」がある http://www.jpo.go.jp/torikumi/mohouhin/mohouhin2/manual/pdf/china4.pdf 5)JETRO 北京事務所知的財産部ホームページ http://www.jetro-pkip.org/index.html

 JETRO 上海事務所ホームページ http://www.jetro.go.jp/jetro/overseas/cn_shanghai/ 6)JETRO ソウルセンター http://www.jetro-ipr.or.kr/

p

rofile

太田 宜衛

(おおた たかえ)

1996 年  大阪府立大学大学院工学研究科電子工学専攻 修 士課程修了

1996 年 積水化学工業株式会社入社 知的財産部配属 2004 年 -2005 年 米国特許法律事務所派遣

参照

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