労働経済学 第 5 回
広島大学国際協力研究科 川田恵介
1 Payroll taxes
Payroll taxe: 給与税や所得税、社会保険費等、労働者が雇用された場合に発生する税金 指標:
Average tax wedge: 平均的な所得を得ている労働者についての、所得に占める税負担の割合 Marginal tax wedge: 追加的な所得に対する税率
Value-added taxes: 付加価値税(消費税)の税率
国際比較: 下記の図参照
• 国によって大きな差がある。例えば Average payroll tax rate, Marginal tax rate とも、ドイツ はアメリカに比べ2倍近い水準になっている。
• すべての国において、Average payroll tax rate よりも, Marginal tax rate のほうが高い水準に ある。累進的な課税体系になっていることを意味している。
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Total net income: 平均賃金に対する、税金、補助金を含む実質的な所得
国際比較: 上記の図参照(H1: 誰も働いていない状態から一人が平均所得の 67 パーセントを稼ぐ状態へ 移行した家計、H2: 配偶者が働いている状態で非労働状態から平均所得の 67 パーセントを稼ぐ状態 へ移行した家計、H3: 配偶者が働いておらず、自身が平均所得の 67 パーセントを稼いでいる状態か ら、100 パーセントを稼ぐ状態へ移行した家計)
• 一人親世帯は、単身世帯に比べ、total net income は高い
• 夫婦とも働いていない状態からどちらかが働く状態に移行した場合の限界税率よりも、夫婦のう ち一方が働いている状態から共働きの状態に移行した場合の限界税率のほうが低い傾向にある。
• 夫婦のうち一方が働いている状態から共働きに移行した場合の限界税率よりも、一人だけ働い ている状態のまま賃金が増大した場合の限界税率のほうが、低い傾向にある。、
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2 理論モデル
2.1 企業への課税
完全競争モデルを想定する。政府は、雇用している労働者一人当たり τ だけ課税(従量税)を行う。
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2.2 労働者への課税
完全競争モデルを想定する。政府は、働く場合 τ だけ課税を行う。
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2.3 累進課税
所得の高い労働者に、高い税率を課す。労働供給の賃金弾力性は、所得の増大とともに減少するとする。
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3 実証研究
• 課税が労働供給に与える影響に関しては、膨大な研究がなされている。多くの研究で、男性の労働供 給は課税に対してあまり反応しないのに対し、女性の労働供給は大きな影響を受ける、ことが示され ている。
• Eissa (1995, NBER):1986 年のアメリカにおいて高所得者への課税のみが減税された政策変更を利 用した、実証研究がなされた。結果、この減税によって、女性の労働供給が増加したことが確認さ れ、労働供給の所得弾力性は、0.8 と推計された。また女性の労働供給の増加は、労働時間の増大で はなく、労働参加の増大という形でなされた。
• Eissa abd Liebman (1996, Quarterly Journal of Economics):減税によって、一人親家計の労働供 給が増大する。
• Gruber (1997, Journal of Labor Economics):チリにおける企業への減税は、労働者の賃金を大きく 増大させ、結果雇用はあまり増えていない。
• Disney (2000, IMF working paper):Survey によって、税額の変更は、正規雇用でかつフルタイム の労働者の労働供給にはあまり影響を与えない。
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