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……… 第46回関東理科教育研究発表会
1 はじめに
水素を身近なエネルギーとし、低炭素社会の実現、エネルギーセキュリティの改善、エネルギー効率の向 上など様々なメリットを享受しようとする動きが盛んになっている。燃料電池自動車やグリーン電力スト レージなどの研究が進められている一方、コストや規制、住民の理解など、課題も山積している。日本政府 は、2014年に定めた「エネルギー基本計画」の中で、新たな二次エネルギー源として水素を活用する方針を 定めた。これまで水素は工業プロセスの中で産業ガスとしてしか利用されなかったが、水素を一般消費者の 身近なシーンで利用することによって、低炭素社会の実現、エネルギーセキュリティの改善、エネルギー効 率の向上など様々なメリットを享受することを目指すとしている。そのような状況の中で、高校教育では燃 料電池を作成し、説明する機会が少ないように感じた。そこで、簡易的で安価な燃料電池作成を目指すこと にした。
2 使用器具
ニッケル金網、プラスチック容器、500mLビーカー、マグネチックスターラー、洗濯ばさみ、炭素電極 (長め)、割り箸、ガムテープ、安定電源装置、はさみ、みのむしリード線、セロハン、ソーラー用モーター、
テスター
3 使用試薬
純水、濃塩酸2mL、塩化パラジウム0.1g、グルコース5g、2.0mol/L水酸化カリウム50mL
4 実験方法
① 500mLビーカーに濃塩酸2mL、塩化パラジウム0.1gを入れてできるだけ溶解させておく。純水を加 えて全体を450mLとし、マグネチックスターラーで塩化パラジウムが完全に溶解するまで撹拌し(約 10分)、これをパラジウムメッキ浴とする。
② 目の細かいニッケル金網を準備する。みのむしリード線に接続する部分(引き出し線)として、金網 の端の一部を事前に切り出しておく。その後、油などの汚れを取り除くため、薄い洗剤液に入れて軽く 洗浄したのち、純水ですすぐ。
③ ニッケル金網をパラジウムメッキ浴のビーカー内壁に、丸めるようにして洗濯ばさみで固定し、切り 出し線を直流電源(DC)の陰極(負極につないだ線)に接続する。
④ また、炭素棒を金網に触れないように割り箸とガムテープでビーカー中央に固定し、陽極(正極につ ないだ極)に接続する。
⑤ 次にマグネチックスターラーで撹拌しながら電圧3V、10分間電気メッキを行う。電流は0.1A~ 0.2A 程度に維持される。
⑥ 電気メッキ終了後、ニッケル金網を純水で洗浄し、はさみで均等に2枚(正極・負極)に切り分ける。
実 験 「 燃料 電池」
山梨県立都留高等学校
鶴田 雄介
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千葉大会
⑦ ニッケル金網が十分に入る大きさのプラスチック容器に、ニッケル金網(負極)を敷き、その上に金 網の2倍以上広いセロハンを重ね、さらにもう一枚のニッケル金網(正極)を重ねることで三層構造の 電池セルを作る。
⑧ 両極の金網の引き出し部分にみのむしリード線を接続し、ソーラー用モーターを回路に組み込む。最 下層の金網(負極)にピペットを使ってグルコース5gを溶解させた2.0mol/L水酸化ナトリウム水溶 液50mLを静かに注ぐ。
⑨ モーターの駆動を確認後、テスターで電流や電圧を計測してみる。
【補足】
●電圧が下がってきたら純水を陽極面にかけるとよい。それでも回復しない場合は、全体を水で洗い流し てやり直す。
●実験終了後、電極用金網は洗浄乾燥してから保管する。チューブ状のセロハンを使うことができれば電 解質液が混合しないのでさらに有効である。
●グルコースの代わりにジュースやコーラなどのグルコース入りドリンクを用いて、50mLに対して水酸 化カリウム結晶4gを直接溶かして使うこともできる。ただし、誤飲を避けるため、そのドリンクはす べて使い切ること。
5 参考文献
実験マニア「糖分で動く燃料電池」 著 山田暢司 2013