近年、疾患の臨床研究では非侵襲的なサンプル源として、 Liquid biopsy が注
目されています。中でも体液中に含まれる細胞外小胞エクソソームに含まれる
マイクロ RNA ( miRNA )は、生体内の RNase による分解を免れ、細胞から細
胞へ運搬されていることから、疾患の進行のメカニズム解明やバイオマーカー
として役立てられないか探索が進められています。
アジレントのバイオアナライザは DNA や RNA 、タンパクを高感度に検出でき
る装置で、使用するキットを変えることで様々な濃度のサンプルを泳動するこ
とが可能です。体液中に含まれる RNA は、分光光度計で測ることが困難なほ
ど濃度が低いことが多く、そのような低濃度サンプルの場合、 RNA 6000 ピコ
キットが適しています(定性範囲 50 ~ 5,000 pg/uL )。またアジレント miRNA
マイクロアレイは、組織や培養細胞由来、あるいは FFPE 由来 total RNA に含
まれる miRNA の解析に実績があり、 5 ケタのダイナミックレンジで miRNA の
発現差を検出することが可能です。
本アプリケーションノートでは、 健常人の血清に含まれるエクソソーム由来
RNA を市販の 3 種類のキットで抽出し、バイオアナライザでの泳動を行いまし
た。また抽出キットで使用が推奨されているスパイクインの検出を行いました。
次に抽出したエクソソーム由来 RNA をアジレント miRNA マイクロアレイにハ
イブリダイズし、再現性や抽出キットの違いによる影響を検証しました。
福岡 弥生小髙 アラン 田谷 敏貴
アジレント・テクノロジー株式会社 ゲノミクス部門
アジレント miRNA マイクロアレイおよび
バイオアナライザを用いた
exosomal miRNA の検出
アプリケーションノート
要旨
著者
はじめに
血漿由来
miRNA
の白血病マーカー探索 など を はじ めとして(Tanaka M. et al.,
2009
)、体液中に含まれるRNA
が病 態 の変化に関与していることが知られてい ます。近年ではさらに、体液中の細胞外 小胞、特にエクソソームに含まれるRNA
が細胞間の情報交換を担っているという 報 告 が な さ れ て い ま す(Kosaka N.,
2016
)。エクソソーム由来RNA
の生体内 での詳しい作用機序(メカニズム)はい まだ不明な点が多く、様々な病態で解明 が期待されます。アジレントmiRNA
マイ クロアレイを用いた報告としては、乳がん が脳へ転移する際に特定のmiRNA
が脳 関 門 を 破 壊 す る メ カ ニ ズ ム の 解 明(
Tominaga N. et al., 2015
)や、2
型糖尿 病のマーカーmiRNA
探索などがあります(
Delić D. et al., 2016
)。これまでエクソソーム由来
RNA
は、さま ざまな抽出方法が検討されていますが、 エクソソーム中のRNA
含有量が少なく、 抽出が難しいといった問題がありました。 最近、エクソソーム由来RNA
を抽出する ためのキットが市販されるようになりま したが、RNA
の抽出量が少なく、UV
分 光光度計での検出・定量が困難となるこ とから、total RNA
のように一般的な質 を確認するための基準がない、さらには 続く実験に必要な量のRNA
を確保でき ないといった課題があります。このアプリケーションノートでは、複数種 の抽出キットで健常人のエクソソーム由 来
RNA
を抽出し、アジレントの電気泳 動装置バイオアナライザを用いた分析を 行い、抽出キットの差が見られることを 確認しました。必要なRNA
量の確保に は満たないものの、全てのサンプルをア ジレントmiRNA
マイクロアレイで解析し た結果、同一抽出キットを用いた場合、 同一人物由来RNA
のデータは再現性良 く取得された一方、抽出キットによるデー タ差も検出されました。表
1
計18
回の抽出の内訳抽出キット 抽出回数 抽出血清量(
mL
) カラム溶出量(uL
) 得られた液量(uL
)exoRNeasy Serum/
Plasma Midi Kit
ヒト
A, B, C
各
2
回1 14 10
~12.8
exoRNeasy Serum/
Plasma Maxi Kit
ヒト
A, B, C
各
2
回3.7 14 11.8
~12.6
Total Exosome isolation
from serum
およびTotal
Exosome RNA & Protein
Isolation Kit
ヒト
A, B, C
各
2
回1 100 85.6
~100
実験
RNA 抽出
健常人
3
名分(A
~C
、白人女性、70
歳 代)の血清をPromedDx
社から購入し、 株式会社DNA
チップ研究所にて3
種類 の市販キットを用いてエクソソーム由来RNA
を抽出しました。夾雑物を除くため、 –80
℃にて保 存されていた血 清を融 解 後、φ0.22
µm
のフィルターでろ過し、血清3.7 mL
からはexoRNeasy Serum/Plasma
Maxi Kit
(キアゲン社)を用いて、血清1 mL
か ら はexoRNeasy Serum/Plasma
Midi Kit
( キアゲ ン 社 ) あ るい はTotal
Exosome isolation from serum
とTotal
Exosome RNA & Protein Isolation Kit
の 組み合わせ(サーモフィッシャーサイエン ティフィック社、以後Total exosome Kit
と表記)でRNA
を抽出しました。抽出 はそれぞれのメーカー推奨プロトコルに 従い、exoRNeasy
キットが提供しているmiRNeasy Serum/Plasma Spike-In control
(キアゲン社)を
2
種類のexoRNeasy
キッ トの他、Total exosome Kit
での抽出時に も、スタート血 清 量 が 同じexoRNeasy
Midi Kit
と同条件で添加しました。3
人 の血清サンプルから、3
種類のキットで、 テクニカルレプリケートとして独立して2
回ずつ、計18
回抽出を行いました。そ れぞれの血清量やカラム溶出量、最終的 に得られた液量を表1
にまとめました。バイオアナライザでの電気泳動
溶出したサンプル溶液
1.5 uL
を72
℃2
分 で熱変性した後、Agilent RNA6000
ピコ キット(Agilent P/N 5067-1513
)を用い てRNA
の電気泳動を行いました。Total
exosome Kit
で抽出したサンプルは、溶 出量が多く検出できなかったため、濃縮 した後に再度泳動を行いました(図1
)。 またRNA 6000
ピコキットでの泳 動は、 抽出時のバッファや塩の影響を受けやす いため、ポジティブコントロールとして、9
種 の ヒト 組 織 お よ び 細 胞 由 来 のUniversal Human miRNA Reference RNA
(
Agilent P/N 750700
)もチップごとに泳動 しました。サンプルの濃縮
exoRNeasy Midi Kit
あるいはexoRNeasy
Maxi Kit
で抽出したRNA
はバイオアナ ライザでの泳動や定量PCR
に用いた残り の溶液を濃縮遠心機で濃縮し、Nuclease
Free Water
(NFW
)で7 uL
に調整しまし た。Total exosome Kit
で抽出したRNA
は、 原液を泳動した後、全量を濃縮し、NFW
で4 uL
に調整しました。0.5 uL
を希釈し バイオアナライザで泳 動した後、NFW
で7 uL
に調製しました。qRT-PCR 実験
エクソソームから
RNA
を抽出する際に添 加した、miRNeasy Serum/Plasma Spike-
In control
(キアゲン社)を検出するためqRT-PCR
を行いました。exoRNeasy Midi
Kit
あるいはexoRNeasy Maxi Kit
で抽出し たRNA
は原液を1.5 uL
、Total exosome
Kit
で抽出したRNA
は濃縮後のRNA
溶液1.5 uL
をテンプレートとし、exoRNeasy Kit
に含まれるCe_miR-39_1 miScript Primer
Assay
およびmiScript II RT Kit
(キアゲン 社)を用いて逆転写反応を行いました。 その後、miScript SYBR Green PCR Kit
(キ アゲン社)を用い、AriaMx
リアルタイムPCR
システム(Agilent P/N G8830A
)で リアルタイムPCR
反 応 を行 いました。AriaMx
リアルタイムPCR
システムはFast
タイプの装置のため、サーマルプロファ イルはキアゲン社推奨のプロファイルか ら変更しました。また定量範囲を検証するため、
miRNeasy
Serum/Plasma Spike-In Control
を10
~10
6copies
となるように調整し、検量線 を得ました。エクソソーム由来RNA
サン プルおよび検 量 線のデータはトリプリ ケートでデータを得ました。マイクロアレイ実験
miRNA
マイク ロ ア レ イ 実 験 は、Input
RNA
量の 変 更を除いてAgilent miRNA
microarray protocol Version 3.1.1 August
2015
(G4170-90011
)の和文プロトコルに 従いました。通常、アジレントmiRNA
マ イクロアレイのプロトコルでは、吸光度 測定結果をもとにtotal RNA 100 ng
をラ ベル化に用いますが、本検討ではエクソ ソーム由来RNA
サンプルについては、濃 度に関わらず濃縮遠心後の7 uL
のうち2 uL
をラベル化に用いました。miRNA Complete Labeling and Hyb
キット(
Agilent P/N 5190-0456
)を用いてラベ ル 化 を 行 う際、 各RNA
サンプル に はmicroRNA Spike In
キット(Agilent P/N
5190-1934
)に含まれるLabeling Spike-In
を添加しました。またラベル化反応後、Hyb Spike-In
を 添 加 し、3
スラ イド のSurePrint G3 Human miRNA
マイクロアレ イ8
×60K Rel.21.0
(Agilent P/N G4870C
) にハイブリダイゼーションしました。 マイクロアレイ実験に問題が生じた際、 サンプル溶液の影響かどうかを判断するた め、Universal Human miRNA Reference
RNA
(Agilent P/N 750700
)をポジティブ コントロールとして、エクソソーム由来RNA
と同時にラベル化反応を行い、1
ス ライドごとに2
アレイずつハイブリダイズ しました。 マイクロアレ イは 洗 浄 後、SureScan
マイクロアレイスキャナ(Agilent
P/N G4900DA
)でスキャンし、スキャナ 付属のFeature Extraction
ソフトウェアver.11.5
で数値化を行いました。スポット 位置の自動認識がずれたデータは、マ ニュアルでスポット位置の修正を行いまし た。 ま たFeature Extraction
がDetected
とコールしたmiRNA
を、バックグラウン ドと区別して検出されたmiRNA
として扱 いました。マイクロアレイのデータ解析
Feature Extraction
から出力された数値 化テキストファイルをGeneSpring GX
ソ フトウェアver.14.5
(Agilent
)に取り込み、 解析を行いました。組織あるいは培養細 胞由来のtotal RNA
を解析する際は、90
percentile
のシグナル 強 度 でpercentile
shift
を行うアレイ間補正が推奨されてい ますが、本検討では、全体のシグナル強 度が低いこと、またサンプル間の違いが マイクロアレイデータに及ぼす影響を検 証するため、アレイ間補正は行わずデー タの解析を行いました。結果と考察
バイオアナライザでの電気泳動
exoRNeasy Serum/Plasma Midi
あるい はMaxi Kit
で抽出したエクソソーム由来RNA
をAgilent RNA 6000
ピコキットで 泳動すると、small RNA
領域にピークが 見られた一方、高分子側にもスメアなピー クが観察されました(図1 a
およびb
)。 一部のサンプルはスメアなピーク中に階 段状のピークが検出され、濃度も高く算 出されました。階段状のピークがサンプ ル溶液中のバッファ由来か判断するため、3
倍に希釈し泳動したところ同様な泳動 結果が得られました(data not shown
)。またラダや
Uni ver sal Human miR N A
Reference RNA
、ブランクレーンに異常 は見られないため、泳動に問題は生じて おらず、サンプルの特性であると判断し ました。Total exosome Kit
で抽出したRNA
は原 液ではバイオアナライザRNA 6000
ピコ キットの検出限界を下回り、ピークが観 察されなかったので、濃縮後再度泳動を 行いました(図1 c
)。その結果、ヒトA
およびC
についてsmall RNA
領域にわずかにピークが検出されましたが、ヒト
B
の2
サンプルに関してはノイジーになりま した。サンプルレーン以外は正常に泳動 できているため、ノイズはサンプル溶液 由来と判断しました。またいずれのサン プルも、便宜上濃度は算出されましたが、RNA 6000
ピコキットの検出範囲以下の 濃度となりました。また全体の傾向として、抽出した血清量 が多いほど、濃度が高くなり、より多くの
RNA
が得られていることが示されました。図
1.
エクソソーム由来RNA
の泳動図a.
血清1 mL
からexoRNeasy Serum/Plasma Midi Kit
で抽出b.
血清3.7 mL
からexoRNeasy Serum/Plasma Maxi Kit
で抽出c.
血清1 mL
からTotal Exosome isolation from serum
とTotal Exosome RNA & Protein Isolation Kit
で抽出(濃縮後のサンプル)miRNA UniRef
:Universal Human miRNA Reference RNA
A~C
:正常人3
名濃度:
RNA 6000
ピコキットの測定値a.
c.
b.
776 pg/uL
17 pg/uL
1458 pg/uL
189 pg/uL
14 pg/uL
282 pg/uL 220 pg/uL
14 pg/uL
335 pg/uL
298 pg/uL
15 pg/uL
150 pg/uL 778 pg/uL
7 pg/uL
1439 pg/uL
72 pg/uL
11 pg/uL
185 pg/uL 200 n
t
200 n t
500 n t
500 n t 500 n t
1000 nt
1000 nt
4000 nt
2000 nt
4000 nt
1000 nt 2000
nt 4000
nt 500 n
t 200 n
t
3452 pg/uL
3987 pg/uL 4251 pg/uL
定量 PCR による SpikeIn の検出
各抽出の成否を判断するために抽出時に 添加した
miRNeasy Serum/Plasma Spike-In
control
の検出を行いました。まず、このSpike-In control
を 用 いて 検 量 線 を 得、 定量性が保たれている範囲を検証したと ころ、今回の実験系では20
~32 Cq
で 直線性が得られました(図2 a
)。exoRNeasy Serum/Plasma Midi
あるいはMaxi Kit
で抽出した各サンプルのCq
値 は、検量線で直線性が得られた範囲で 検出され、抽出は成功していることを確認 できました(図2 b
)。一方、Total exosome
Kit
で抽出したサンプルはCq
値32
を超 え、定量範囲内では検出できませんでした。血清
1 mL
から抽出したexoRNeasy Midi
Kit
使用時と同じ条件でmiRNeasy Serum/
Plasma Spike-In control
を添加しました が、溶出量が多いこと、濃縮し溶液量を 調節したことなどから、検出できなかった ことが考えられます。17 19 21 23 25 27 29 31 33 35
10 1000 100000
0 5 10 15 20 25 30
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M axi
A, Q iage
n M axi
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M axi
B, Q iage
n M axi
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M axi
C, Q iage
n M axi
図
2. miRNeasy Serum/Plasma Spike-In control
の検出a. Spike-In control
を用いた検量線b.
各サンプル中のSpike-In control
のCq
値a. b.
copies
Cq(∆Rn) Average Cq(∆Rn)
miRNA マイクロアレイ
シグナル強度
本検討では、推奨プロトコルよりも少な い
RNA
量をラベル化・ハイブリダイズし ていること、エクソソーム由来RNA
はmiRNA
含有量が少ないことが予想される ことから、シグナル強度の確認を行いま した。マイクロアレイに搭載されているmiRNA
の90 percentile
のシグナル強度 を確認したところ(図3 )、ポジティブコン トロールのUniver sal uman
RN A
Reference
NA
を除き、全てのサンプルで、 有意なシグナル強度ではないことを示す0.1
となりました。一方99
ercentile
ではシ グ ナ ル 強 度 が 観 察 さ れ( 図3
b
)、miRNA
が検出されていることが示唆され ました。ただし、Tota
lxosom
eit
で抽 出されたヒトB
の2
サンプル のみ、9
9percentile
のシグナル強度も0.1
となりま した。図
3
.iRNA
マイクロアレイで検出されたシグナル強度a
.90ercentile
のシグナル強度b
.99ercentile
のシグナル強度0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 65.7
61.0 58.0
55.5 50.1 52.1
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0 70.0
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M axi
A, Q iage
n M axi
A, T otal e
xoso me
A, T otal e
xoso me
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M axi
B, Q iage
n M axi
B, T otal e
xoso me
B, T otal e
xoso me
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M axi
C, Q iage
n M axi
C, T otal e
xoso me
C, T otal e
xoso me miR U
niRe f
miR U niRe
f
miR U niRe
f
miR U niRe
f
miR U niRe
f
miR U niRe
f
a.
6.5 8.6 18.4 19.4
4.1 4.0
10.7 10.6 53.9
48.1
0.1 0.1 27.4
7.2 7.2 25.6
2.5 1.8 0.0
10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 60.0
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M axi
A, Q iage
n M axi
A, T otal e
xoso me
A, T otal e
xoso me
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M axi
B, Q iage
n M axi
B, T otal e
xoso me
B, T otal e
xoso me
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M axi
C, Q iage
n M axi
C, T otal e
xoso me
C, T otal e
xoso me miR U
niRe f
miR U niRe
f
miR U niRe
f
miR U niRe
f
miR U niRe
f
miR U niRe
f 1746
.2 1556
.1 1585
.5 1289
.0 1481
.4 1805
b.
.590 percentile signal intensity99 percentile signal intensity
ヒト
A
ヒト
A
ヒト
B
ヒト
B
ヒト
C
ヒト
C
exoRNeasyidiit exoRNeasyxiit Tota xosomit miRNAniRef
マイクロアレイ結果の QC
本検討で用いた
microRNA Spike In
キッ ト(Agilent P/N 5190-1934
)は、ヒトに は相同miRNA
が存在しない、人工合成RNA
の混合物です。Labeling Spike-In
はRNA
サンプルに添加しラベル化反応を行 い、Labeling Spike-In
に対応したマイク ロアレイ上のシグナル強度を確認するこ とで、ラベル化反応の成否を判断するこ とができます。同様にHyb Spike-In
はラ ベル化反応後、ハイブリダイズ時にサン プルに添加することで、ハイブリダイゼー ション以降の実験ステップを評価するこ とができます。今回の結果では
Hyb Spike-In
は添加した すべてのアレイで基準の2.5
を超え、ハ イブリダイズ以降の実験ステップに問題 が生じていないことが示されました(図4
b
)。一方、Labeling Spike-In
を添加した サンプルのうち、ヒトB
のエクソソーム 由来RNA
をTotal exosome Kit
で抽出し たデータは、Labeling Spike-In
が検出さ れず負の値となりました(図4 a
)。またアレイ内の再現性は
CV15%
以下が 目安となります。アレイ全体のシグナル 強度が低いので、アレイ内再現性が悪く なることが予測されましたが、Universal
Human miRNA Reference RNA
だけでは なく、エクソソーム由来RNA
のデータも15%
下回りました。ただしヒトB
のエク ソソーム由来RNA
をTotal exosome Kit
で 抽 出した サン プル は、 検 出さ れ たmiRNA
数が少なく、正しく計算されず負 の値となりました(図4 c
)。-1 0 1 2 3 4
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M axi
A, T otal e
xoso me
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M axi
B, T otal e
xoso me
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M axi
C, T otal e
xoso me miR U
niRe f miR U
niRe f miR U niRe
f 0
1 2 3 4 5
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M axi
A, T otal e
xoso me
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M axi
B, T otal e
xoso me
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M axi
C, T otal e
xoso me
miR U niRe
f miR U
niRe f miR U
niRe f
図
4. miRNA
マイクロアレイのQC
a. Labeling Spike-In
のシグナル強度b. Hyb Spike-In
のシグナル強度c.
アレイ内CV%
a.
-2 0 2 4 6 8 10 12 14 16
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M axi
A, Q iage
n M axi
A, T otal e
xoso me
A, T otal e
xoso me
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M axi
B, Q iage
n M axi
B, T otal e
xoso me
B, T otal e
xoso me
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M axi
C, Q iage
n M axi
C, T otal e
xoso me
C, T otal e
xoso me miR U
niRe f
miR U niRe
f
miR U niRe
f
miR U niRe
f
miR U niRe
f
miR U niRe
f
c.
b.
Labeling Spike-Inのシグナル強度アレイ内CV% Hyb Spike-Inのシグナル強度
ヒトB ヒトC ヒトB ヒトC
ヒトA ヒトA
ヒトB ヒトC ヒトA
exoRNeasy Midi Kit exoRNeasy Maxi Kit Total exosome Kit miRNA UniRef
マイクロアレイの検出感度
各サンプルで検出された
miRNA
数を比 較 するため、Detected
とコールされたmiRNA
(バックグラウンドとくらべ、シグ ナル強度が有意に差があると判定されたmiRNA
)をまとめました(図5
)。その結 果、若干の差はあるものの、同一人物か ら同じキットで抽出したサンプルでは似 た傾向を示しました。一方で、同一人物由来でも抽出キットが 異なると検出数に違いが生じることが示 されました。特にヒト
B
のエクソソーム 由来RNA
をTotal exosome Kit
で抽出し たサンプルは、2
回のデータとも検 出miRNA
数が少なく、前述のマイクロアレ イのQC
結果と合わせ、サンプル溶液中 にmiRNA
が少なかった、あるいは何ら かの要因でラベル化反応がうまくいかな かったことが考えられます。再現性
同じ抽出キットを用いた各
6
データで検出 されたmiRNA
から算出したcorrelation
値をGeneSpring GX
ソフトウェアを用い て比較しました(図6 a
~c
)。その結果、 同一条件で抽出した同一人物由来の2
回 のアレイデータは再現性は高く、個人間 の違いが捉えられていることが示されま した。また図
1 a.
のバイオアナライザのデータ では同一人物由来でも、small RNA
領域 のみに検出されたサンプルと、階段状の スメアピークが検出されたサンプルがあ りましたが、このピーク形状の違いは、 アレイデータの再現性との関連性は見い だされませんでした(図6 d
)。抽出キット間の比較
本検討に用いた、健常人
3
名を3
つの抽 出キットで抽出したことのアレイデータへ の影響を確認するため、PCA
を行いました。PCA
ではマイクロアレイ実験のポジティブ コントロールとして用いたUniversal Human
miRNA Reference RNA
およびラベル化 がうまくいっていないと思われる、ヒトB
の エクソソーム由来RNA
をTotal exosome
Kit
で抽出した2
データを除き、残り16
データで解析しました。また16
データ 中8
データで検出された115
個のmiRNA
で解析しました(図7
)。その結果、個人 間差よりも用いた抽出キットの違いが、 マイクロアレイデータに影響を与えるこ とが示されました。このことから、抽出 方法は比較したい一連のサンプルで、統 一することが望ましいことが示唆されま した。99 128 128 141
69 76 89 106 223 195
6 12 153
92 111 162
55 47
740 736 766 711 720
0 100 200 300 400 500 600 700 800
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M idi
A, Q iage
n M axi
A, Q iage
n M axi
A, T otal e
xoso me
A, T otal e
xoso me
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M idi
B, Q iage
n M axi
B, Q iage
n M axi
B, T otal e
xoso me
B, T otal e
xoso me
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M idi
C, Q iage
n M axi
C, Q iage
n M axi
C, T otal e
xoso me
C, T otal e
xoso me miR U
niRe f miR U
niRe f miR U
niRe f miR U
niRe f miR U
niRe f miR U
niRe f 747
図
5. Detected
とコールされたmiRNA
の数ヒト
A
ヒトB
ヒトC
exoRNeasy Midi Kit exoRNeasy Maxi Kit Total exosome Kit miRNA UniRef
a. b.
ヒトA ヒトA ヒトB ヒトB ヒトC ヒトC ヒトA
1.00 0.94 0.84 0.88 0.80 0.86
ヒトA0.94 1.00 0.73 0.83 0.71 0.81
ヒトB0.84 0.73 1.00 0.93 0.95 0.91
ヒトB0.88 0.83 0.93 1.00 0.91 0.91
ヒトC0.80 0.71 0.95 0.91 1.00 0.91
ヒトC0.86 0.81 0.91 0.91 0.91 1.00
ヒトA ヒトA ヒトB ヒトB ヒトC ヒトC ヒトA
1.00 0.99 0.95 0.94 0.71 0.89
ヒトA0.99 1.00 0.94 0.93 0.68 0.88
ヒトB0.95 0.94 1.00 1.00 0.70 0.92
ヒトB0.94 0.93 1.00 1.00 0.72 0.92
ヒトC0.71 0.68 0.70 0.72 1.00 0.86
ヒトC0.89 0.88 0.92 0.92 0.86 1.00
図
6.
アレイ間の再現性a. exoRNeasy Midi Kit
で抽出したレプリケート間のCorrelation
値(67 miRNAs
)b. exoRNeasy Maxi Kit
で抽出したレプリケート間のCorrelation
値(75 miRNAs
)c. Total exosome Kit
で抽出したレプリケート間のCorrelation
値(51 miRNAs
)d.
ヒトA
のエクソソーム由来RNA
をexoRNeasy Maxi Kit
で抽出したテクニカルレプリケートのスキャタープロット(アレイ間補正なし、両アレイで検出された
124 miRNAs
を表示)c. d.
Log10 signal intensity
ヒト A
ヒト A
Log10 signal intensity
ヒトA ヒトA ヒトB ヒトB ヒトC ヒトC ヒトA
1.0 0.9 -0.1 -0.3 0.8 0.6
ヒトA0.9 1.0 -0.1 -0.2 0.8 0.7
ヒトB-0.1 -0.1 1.0 0.9 0.0 0.1
ヒトB-0.3 -0.2 0.9 1.0 -0.2 0.0
ヒトC0.8 0.8 0.0 -0.2 1.0 0.7
ヒトC0.6 0.7 0.1 0.0 0.7 1.0
結論
最近では次世代シーケンサによる
small
RNA
の解析も報告されるようになりまし たが、解析手法に関わらず、試料となるRNA
の確認は重要です。Agilent 2100
バ イオアナライザ電気泳動システムを用い ることで、エクソソーム由来RNA
が抽出 できているかという確認や、抽出キット による泳動パターンの違いを検出するこ とができました。またバイオアナライザ のデータが次に続く実験の成否に関連す ることが示唆されました。アジレント
miRNA
マイクロアレイでは、 通常プロトコルで推奨されている、組織 や培養細胞由来のtotal RNA
を想定した 量には満たないRNA
量でもデータが得 られることが示されただけでなく、個人 間の再現性や抽出キットの違いを捉えら れることも判明しました。エクソソーム 由来RNA
をアジレントmiRNA
マイクロ アレイを用いて解析することで、迅速・ 簡便に疾患などサンプル特有のmiRNA
発現差を検出できることが期待されます。参考文献
1. Tanaka M. et al. (2009) Down-regulation of miR-92 in human plasma is a
novel marker for acute leukemia patients. PLoS ONE 2009;4(5):e5532
2. Kosaka N. (2016) Decoding the Secret of Cancer by Means of Extracellular
Vesicles. J Clin Med. 2016 Feb 4;5(2).
3. Tominaga N. et al., Brain metastatic cancer cells release microRNA-181c-
containing extracellular vesicles capable of destructing blood-brain barrier.
Nat Commun. 2015 Apr 1;6:6716.
4. Delić D. et al., (2016) Urinary Exosomal miRNA Signature in Type II Diabetic
Nephropathy Patients. PLoS One. 2016 Mar 1;11(3):e0150154
謝辞
本アプリケーションノートの作成にあたり、株式会社
DNA
チップ研究所の 上田由美様、石澤洋平様にはRNA
の抽出をはじめ、多大なご協力を頂きました。 ここに感謝の意を表します。図
7.
マイクロアレイのPCA
データColor by Kit
Shape by Individual
Total exosome
exoRNeasy Maxi exoRNeasy Midi
A
C
B
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アジレント・テクノロジー株式会社
© Agilent Technologies, Inc., 2016 Published in Japan, Oct. 3, 2016 5991-7468JAJP