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パルスレーザ照射により改質された材料表面の解析 あいち産業科学技術総合センター|研究成果|研究報告書

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Academic year: 2018

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(1)

1共同研究支援部 シンクロトロン光活用推進室 2共同研究支援部 シンクロトロン光活用推進室(現 尾張繊維技 術センター) *3産業技術センター

研 究 論 文

パルスレーザ照射により改質された材料表面の解析

中 西 裕 紀

1

、 野 本 豊 和

1

、 加 藤 一 徳

2

、 河 田 圭 一

3

Analysis of Material Surface Modification Induced by Pulsed Laser

Irradiation

Yuuki NAKANISHI

*1

, Toyokazu NOMOTO

*1

,

Kazunori KATO

*2

and Keiichi KAWATA

*3

Research Support Department*1*2 Industrial Research Center*3

ダ イ ヤ モ ン ド コ ー テ ィ ン グ 切 削 工 具 は 表 面 を レ ー ザ 処 理 す る こ と に よ り 、 そ の 加 工 性 能 が 向 上 す る と い わ れ て い る が 、 レ ー ザ 加 工 部 は 微 小 領 域 で あ る た め 、 そ の 分 析 に は 困 難 な 面 が あ っ た 。 今 回 シ ン ク ロ ト ロ ン 光 を 用 い た 測 定 を 行 い 、 レ ー ザ 処 理 の 有 用 性 を 評 価 し た 。 そ の 結 果 、 レ ー ザ 処 理 に よ る ダ イ ヤ モ ン ド コ ー テ ィ ン グ 層 の 結 晶 性 や 化 学 状 態 の 違 い が 分 析 で き た と と も に 、 表 面 微 小 領 域 の 分 析 に お い て 、 シ ン ク ロ ト ロ ン 光 を 用 い た 測 定 が 有 益 な 分 析 手 段 で あ る こ と が わ か っ た 。

1.はじめに

市販されているダイヤモンドコーティング切削工具 は高硬度、高熱伝導率、高安定性といったダイヤモンド の特性を持ちながら、近年の化学気相成長(CVD)法によ る合成の発達により、安価に製作が可能となったため、 その利用の拡大が進んでいる。最近の研究 1)により、そ の工具のダイヤモンドコーティング層にレーザ処理する ことで、工具の加工性能が向上することがわかってきた が、その性能が向上する機構についてはわかっていない。

そこで本研究では、レーザ処理することが切削工具の ダイヤモンドコーティング層にどのような影響を与えて いるのかを明らかにすることを目的とした。具体的には、 ①表面改質を目的としたフェムト秒レーザ処理した試料 と②コーティング部の刃先の丸みを鋭利にする加工を目 的としたナノ秒レーザ処理した試料を用意し、①では表 面改質によりダイヤモンドコーティング層にどのような 化学変化が起きているかを、②では切削加工がダイヤモ ンドコーティング層に悪影響を及ぼしていないのかを高 度計測機器(ラマン分光測定装置及びX線回折装置)やシ ンクロトロン光を用いて分析した。

2.実験方法

2.1 分析試料

約 20μm 厚のダイヤモンドがコーティングされた切 削工具(母材WC-Co:タングステンカーバイド)のダイヤ モンドコーティング層に表1で示す照射条件でフェム

ト 秒 レ ー ザ(IMRA AMERICA 社 製 FCPAμJewel

D-1000)による表面改質処理した試料(試料 1)とナノ秒

レーザ(Spectra-Physics 社製 Explorer)による切削加工 処理した試料(試料2)を分析対象とした(図1)。また切削 加工処理の概念図とレーザ処理部のSEM 画像を図2に 示す。

発信波 パルス幅 出力 周波数

フェムト秒

レーザ 1045nm 700fs 400mW 100kHz

ナノ秒

レーザ 349nm 5ns 90mW 1kHz

表 1 パルスレーザ照射処理条件

(■:レーザ照射部)

図1 ダイヤモンドコーティング切削工具 (左:フェムト秒レーザ処理 右:ナノ秒レーザ処理)

レーザ処理部

図2 ナノ秒レーザによる切削加工概念図(左)と レーザ処理部のSEM画像(右)

(2)

2.2 測定手法

当センターの実験室装置による試料の測定は、化学状 態 を 分 析 で き る ラ マ ン 分 光 測 定 装 置(日 本 分 光 社 製 NRS-5100)及 び 、 結 晶 性 を分 析 で きる X 線 回 折装 置 (Rigaku社製 Smart-Lab)を使用した。

またシンクロトロン光を用いた測定では、化学状態の 分析には、あいちシンクロトロン光センター (以下、あ

いちSR)の真空紫外分光 (BL7U)を使用し、炭素のK吸

収端の領域においてX線吸収分光測定 (XAS)を行った。 結晶性の分析には、あいちSRの薄膜X線回折 (BL8S1) を使用し、波長1.353ÅでX線回折測定 (XRD)を行った。

なお、測定箇所は各試料のレーザ照射部分と未照射部 とした。

3.実験結果及び考察

3.1 フェムト秒レーザ処理サンプルの分析

実験室装置で試料1の化学状態を測定した結果を図3

に、結晶性を測定した結果を図4に示す。図3の 1330 cm-1 付 近 に 現 れ る ピ ー ク は ダ イ ヤ モ ン ド の ピ ー ク

(D-Peak)を示し、そのピーク強度が増加していることか ら、炭素の一部がダイヤモンド構造へと改質された可能 性を示す結果となったが、全体的にバックグラウンドが 高いため、その変化を明瞭に捉えることはできなかった。

結晶性についても、レーザ処理した箇所が微小域であ るため、回折信号強度が弱く、その結晶性を評価するこ とはできず、実験室装置では解析するには不十分な結果

であった。

シンクロトロン光を用いた測定において、あいち SR のBL7Uでは、XASによる試料1の化学状態を評価し た。その結果を図5に示す。図5の~285 eV、~292.5 eV 付近に観測されるピークは、それぞれ炭素の反結合π* 軌道と反結合σ*軌道に起因するピークであり、287eV 付近に観測されるピークは、C-Oの化学状態に起因する ピークである。レーザ照射前後で比較すると、酸化され た部分が減少し、ダイヤモンドの結合であるσ*結合が増 えていることがわかる。このことから、フェムト秒レー ザを照射することにより、表面の酸化物が除去されたこ とや、表面に存在している炭素の一部がダイヤモンド構 造に改質されたことが示唆され、その変化を実験室装置 よりも明瞭に捉えることができた。また図5に○印で示 す立ち上がりは、ダイヤモンド特有なものでもあること からも表層部がダイヤモンド構造に改質されたことが示 唆される。

BL8S1ではXRD測定を行い、試料1の結晶性を評価

した。その結果を図6に示す。図6に示す 2θ/θ 測定 法では、X線の侵入が深くなるため、およそ20μm厚と いわれるダイヤモンドコーティング層を超えて、母材 (WC-Co)の回折ピークが検出された。本測定結果では、 母材に含まれているCo のピークと目的であるダイヤモ ンドのピークが重なり、分離できないため、本測定法で はダイヤモンドの結晶性を評価することはできなかった。

照射部

未照射部

(

c

p

s)

ラマンシフト(cm-1

図3 ラマン分光装置による試料1の 化学状態測定結果

回折角度 2θ(deg)

(

c

p

s)

図4 X線回折装置による試料1の 結晶性測定結果

光エネルギー(eV) 未照射部

照 射

図5 シンクロトロン光XASによる試料1の 化学状態測定結果

(3)

そこで、より表層の情報だけを取り出すために入射角

を0.2 degと浅い角度で固定した斜入射測定法を行った。

その結果を図7に示す。2θ/θ 測定法で検出された母材 のピークが斜入射測定法では見られないことから、この 方法であれば表面コーティング層のみの結晶情報が得ら れることがわかった。斜入射測定法によるダイヤモンド ピークの中から、面指数(111)のピークを拡大した図を図 8に示す。レーザ照射部と未照射部の結果を比較すると、 レーザ照射部の方がダイヤモンドのピーク強度が増加し ていることから、コーティング層のダイヤモンドの結晶 性が高まっていると考えられる。ダイヤモンドの各ピー クについて、照射/未照射の積分強度の計算(表2)から、 その割合は2割程度増加していると考えられる。

これらの実験結果から、フェムト秒レーザ処理による 工具性能の向上は、CVDで作製されたダイヤモンドコー ティングに多く含まれているといわれる非晶質炭素の一 部が結晶性になったことに起因している可能性が示唆さ れた。

3.2 ナノ秒レーザ処理サンプルの分析

次に試料2について、XASによる化学状態を測定した 結果を図9に示す。レーザ照射部と未照射部で比較する と、表面酸化された部分の減少が見られたが、図9に○ 印で示すようにダイヤモンドの結合であるσ*結合に変 化は見られなった。

このことからナノ秒レーザの照射では、表面の酸化物 は除去されるものの、フェムト秒レーザで起きたような 表面改質が起きていないと考えられる。

面指数 (220) 面指数

(111)

面指数 (311)

面指数 (111)

未照射部 照射部

回折角度 2θ(deg)

(

c

p

s)

未照射部 照射部

回折角度 2θ(deg)

(

c

p

s)

図8 試料1の結晶性測定結果の拡大図 (斜入射測定法)

光エネルギー 未照射部

照射部

図7 シンクロトロン光XRDによる試料1の 結晶性測定結果(斜入射測定法)

図9 シンクロトロン光XASによる試料2の 化学状態測定結果

回折角度 2θ(deg)

(

c

p

s)

図6 シンクロトロン光XRDによる試料1の 結晶性測定結果(2θ/θ測定法)

表2 試料1の照射、未照射積分強度比

C の面指数 (111) (220) (311)

積分強度比

(照射/未照射) 1.25 1.2 1.21

(4)

試料2の結晶性をXRDの斜入射測定法により測定し た結果を図10に、ダイヤモンドの面指数(111)のピーク の拡大図を図11に示す。これらの測定結果やダイヤモ

ンドの各ピークの積分強度の比較(表3)からわかるとお り、ダイヤモンドピーク積分強度に変化はなく、コーテ ィング層のダイヤモンドの結晶性は変わっていないこと

が伺える。

加工を目的としたナノ秒レーザによる照射では、照射 表面が酸化や炭化する恐れがあったが、これらの実験結

果から、表面の化学状態を変質することなく、刃先の丸 みを鋭利にする加工が行えることが確認された。

4.結び

本研究の結果をまとめると以下のとおりである。 (1)フェムト秒レーザ処理による工具性能の向上はダイ

ヤモンドコーティング層にある非晶質炭素の一部が 結晶性に表面改質されたことに起因している可能性 が示唆された。

(2)ナノ秒レーザによる切削加工は表面の化学状態や結 晶性を変えることなく切削加工が行えことが確認さ れた。

(3)微小域(面積・厚さ)の測定にシンクロトロン光が有益 な分析手段であることがわかった。

謝辞

本研究を遂行するにあたり、本研究に使用したフェム ト秒レーザ処理した試料をご提供いただいた名古屋工業 大学の糸魚川先生、井上様、XAS 測定、XRD 測定でサ ポートいただいたあいちシンクロトロン光センターの仲 武様、山本様、酒井様、また、顕微ラマン分光でご協力 いただいた山田様、村松様に厚くお礼申し上げます。

文献

1)井上京士,糸魚川文広,小野信吾,中村隆:名古屋 工業大学 2016 年度精密工学会秋季大会学術講演会 CD-ROM論文集,629-630(2016)

4

照射部 未照射部

面指数 (111)

面指数 (220)

面指数 (311)

0 4 8

(

c

p

s)

回折角度 2θ(deg)

図10 シンクロトロン光XRDによる試料2の 結晶性測定結果(斜入射測定法)

(×1000)

40 38

(

c

p

s)

面指数 (111)

照射部

未照射部

0 4

2 6

(×1000)

回折角度 2θ(deg)

図11 試料2の結晶性測定結果拡大図 (斜入射測定法)

表3 試料2の照射、未照射の積分強度比

C の面指数 (111) (220) (311)

積分強度比

(照射/未照射) 1.06 1.02 0.9

参照

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