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第 3 章 単純なモデル系
この章では、数学的取り扱いが比較的容易なモデル系を題材にして、量 子力学の考え方や計算手順に慣れることを目的とする。具体的には、自 由粒子、1∼3 次元の箱型ポテンシャル、および周期系を扱う。これらは 極めて単純化されたモデルではあるが、得られる結果には、より複雑な 系にも引継がれる定性的描像が多く含まれる。
3.1 Schr¨ odinger 方程式 (1 次元 )
まず、波動関数の決定方程式であるSchr¨odinger 方程式を天下りに与え る。しかも、ただ一つの粒子がポテンシャル中で定常状態にある場合に 限定する。詳細と簡単な導出は、第7 章で概説する。
質量m の粒子が 1 次元 (座標を x とする) 方向に運動し、ポテンシャル V (x) 中にあるとする。この粒子の定常状態を記述する波動関数 ψ(x) は
Schr¨odinger 方程式 (定常状態, 1 粒子 1 次元)
✓ ✏
Hψ(x) = Eψ(x)ˆ (3.1)
H = −ˆ ¯h
2
2m d2
dx2 + V (x) (3.2)
✒ ✑
により決定される。式(3.1) は、「定常状態のSchr¨odinger 方程式」または
「時間に依存しないSchr¨odinger 方程式」と呼ばれる。
式(3.2) 右辺の第 1 項は、式 (3.1) の左辺における ψ(x) のように右側に 書かれた関数の二階微分を計算するという意味である。第2 項の V (x) は、 単に掛け算される。よって、上式の実際は
−¯h
2
2m d2ψ
dx2 + V (x)ψ = Eψ (3.3) という微分方程式になる。
H は Hamilton 演算子または Hamiltonian と呼ばれる。式 (3.2) の右辺ˆ 第1 項は、この粒子の運動エネルギーを表す。(これは第 7 章で説明され る。) よって、 ˆH は運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの和であ り、粒子の全エネルギーを表す演算子である。このことと式(3.1) より、 E は全エネルギーの値であることが分る。
上のSchr¨odinger 方程式により、波動関数 ψ(x) とともに、状態のエネ ルギー値E も決定される。すなわち、上式は m と V (x) が与えられたと きにψ(x) と E を決定する方程式である。¯h は Planck 定数と呼ばれる物 理定数h を 2π で割ったもの (¯h = h/2π) である。(ここでは、ある重要な 定数という程度の理解でよい。)
式(3.1) のように、
✓ ✏
ある演算子をある関数に演算した結果が、その関数を定数倍する結 果になるとき、その関数をその演算子の固有関数、定数を固有値と 呼ぶ。
✒ ✑
式(3.1) で言えば、 ˆH の固有関数が ψ(x)、固有値が E である。与えられ た演算子について、固有関数と固有値を求めることを、固有値問題を解 くという。
時間に依存しないSchr¨odinger 方程式を解くことは、Hamilton 演算子 の固有関数(波動関数) とエネルギー固有値を求める固有値問題である。
3.2 自由粒子 (1 次元 )
粒子が外力を受けずに1 次元方向に運動する系を考える。これを 1 次 元の「自由粒子」と呼ぶ。外力を受けないので、ポテンシャルは定数で あり、V (x) = 0 としてよい。よって、Schr¨odinger 方程式 (3.3) は
−¯h
2
2m d2
dx2ψ(x) = Eψ(x) (3.4) となる。これを次のように書き換える。(ψ の 2 階微分を ψ′′と書く。)
ψ′′(x) = −k2ψ(x) (3.5) ただし、k =
√2mE/¯h とおいた。自由粒子ではエネルギーは運動エネル ギーのみなのでE ≥ 0 となるから、k は 0 以上の実数である。
3.2. 自由粒子 (1 次元) 43
式(3.5) の解は一般に
ψ(x) = Aeikx+ Be−ikx (3.6) または
ψ(x) = C sin kx + D cos kx (3.7) と書ける。この段階ではA, B, C, D は任意の定数である。次節で見るよ うに、これらは系の持つ境界条件と波動関数の規格化条件によって決定 される。
練習問題 式(3.6) と (3.7) が互いに等価であることを説明せよ。また、こ れらが式(3.5) の解となっていることを確かめよ。
注意 上のように、式(3.6)と(3.7)が式(3.5)の解となっていることを示すのは 容易だが、これらが「一般解」となっている、すなわち、全ての解が式(3.6)ま
たは(3.7)の形で表されることを示すのは、さほど容易ではない。ここではそれ
は省略して先に進むことにする。
ところで、波長がλ の正弦波、余弦波は sin2πx
λ , cos 2πx
λ と書かれる。よって、
✓ ✏
eikx = cos kx + i sin kx (3.8) は波長λ = 2π/k の波を表す。k は「波数」と呼ばれる。
✒ ✑
今の自由粒子の問題では、k の値には実数であること以外に何の制限も ない。任意の実数k に対して式 (3.6) と (3.7) は Schr¨odinger 方程式 (3.4) の解であり、そのエネルギー固有値は
E = ¯h
2k2
2m (3.9)
となっている。これは、E ≥ 0 なる任意の値をとり得る。このことを、
「連続固有値」あるいは「連続スペクトル」を持つという。これに対し、 粒子が有限領域に束縛されるようなポテンシャルの下にあると、離散的 なエネルギー固有値(スペクトル) となる。その典型例を次節で見る。
3.3 箱型ポテンシャル (1 次元 )
前節の粒子を長さL の箱の中に閉じ込める。そのために、箱の内側 0 < x < L では V (x) = 0、箱の両端および外側では V (x) は +∞ とする。
V (x) =
{ 0 (0 < x < L)
+∞ (x ≤ 0, x ≥ L) (3.10) まず、箱の内部はV (x) = 0 なので自由粒子の解 (3.6) または (3.7) が使 える。一方、箱の外側(x ≤ 0 および x ≥ L) でポテンシャルエネルギー V が発散するので、この領域に粒子がゼロでない確率で存在するのは物理 的に受入れられず、両端で波動関数は消えるべきであるという境界条件
ψ(0) = ψ(L) = 0 (3.11) が課される。
注意 ここで、「ポテンシャルV が+∞」という部分に惑わされ過ぎるのは得 策でない。より自然に扱うには、式(3.10)の+∞の代りに有限の正定数V0と し(これを「有限井戸型ポテンシャル」と呼ぶ)、この有限の問題を解いた結果の 波動関数においてV0→ +∞の極限を考える。古典力学では、壁の高さV0より も運動エネルギーの小さい粒子は壁の外側に出ることができない。しかし、量 子力学では波動関数は壁の外側にも有限の滲み出しを持つ(これはトンネル効果 の一種である)。この滲み出しは、壁V0が高くなると急速に減衰する。そして、 V0→ +∞の極限で、滲み出しはゼロとなり、式(3.11)が得られる。しかし、こ の計算を実行するのは煩雑で、むしろ式(3.11)を最初から設定する方が遥かに 容易なので、ここではそうしている。
境界条件(3.11) から係数 A と B (または C と D) の間の関係が定まり、 波数k の取り得る値も制限されることを見ていこう。式 (3.6) と (3.7) の いずれから出発してもよいが、以下では前者を選ぶことにする。
まず、ψ(0) = 0 と式 (3.6) より A + B = 0 が得られるので、ψ(x) = 2iA sin(kx) となる。これと ψ(L) = 0 より、sin(kL) = 0 となる。よって
kL = nπ (n = 0, 1, 2, · · · ) (3.12) でなければならない。ここで、式(3.5) の下で指摘したように k ≥ 0 であ ることから、負のn は除外した。これより、波動関数は
ψn(x) = A sin(nπ L x
) (n = 1, 2, · · · ) (3.13)
3.3. 箱型ポテンシャル (1 次元) 45
となる。ただし、定数2iA を改めて A と書いた。また、n = 0 は ψ = 0 を与えるので除外した。
式(3.13) の定数 A は、Schr¨odinger 方程式からは決まらない。これを決 めるのは、波動関数の確率解釈と結び付いた「規格化条件」である。粒 子を領域[x, x + dx] に見出だす確率が |ψ(x)|2dx に比例するのだから、確 率の総和が1 であること、すなわち粒子はどこかにあるということより、
波動関数の規格化条件
✓ ✏
∫ L 0 |ψ
n(x)|2dx = 1 (3.14)
✒ ✑
が要請される。積分範囲は、一般には座標空間全体[−∞, +∞] だが、今 の場合は箱の中[0, L] としてよい。式 (3.13) について上式を計算すると、 n によらず A = √2/Lと定まる。
補足 式(3.13)の解は、波動関数を箱の長さLにぴったりと収めるという考え
方で、実は上のような計算なしで直ちに書き下せる。すなわち、x = 0に節があ るのでcos kxの成分は消えてsin kxのみが残るはずだし、波を丁度収めるため にLが半波長の整数倍となることから
L = λ
2 × n (n = 1, 2, · · · ) (3.15) となる。これは式(3.12)と等価である。
練習問題 上で得た波動関数のエネルギーを次の二通りの方法で確かめ よ。(a) 式 (3.13) で得た ψnを式(3.4) に代入する。(b) 条件 (3.12) を式 (3.9) に代入する。
解
En= ¯h
2π2
2mL2n
2 = h2
8mL2n
2 (n = 1, 2, · · · ) (3.16)
上式でǫ = h2/8mL2 とおくと、エネルギーはn = 1, 2, · · · について ǫ, 4ǫ, 9ǫ, 16ǫ, · · · (3.17) のように飛び飛びの値をとることが分かる。このように、
図 3.1: 一次元箱型ポテンシャルのエネルギー準位 (左) と波動関数 (右)
✓ ✏
粒子を有限の領域に閉じ込めるとエネルギーは離散化される。これ をエネルギーの「量子化」といい、番号(ここでは n) を「量子数」と いう。
✒ ✑
Enと式(3.13) の波動関数を図示したのが図 3.1 である。波動関数の節 の数は、下から一つずつ増えており、n − 1 に等しい。
ǫ は m と L2に反比例している。よって、
✓ ✏
軽い粒子を狭い領域に閉じ込めると、エネルギー間隔が大きくなる。
✒ ✑
これは、微視的粒子がポテンシャルによって有限領域に束縛される場合 に、一般的に見られる性質である。
補足 式(3.9)で、自由粒子のエネルギーは連続的であることを示した。代りに、
自由粒子とは箱の長さLが十分に大きな場合に相当するものと考えてもよい。
ǫ ∝ L−2だから、十分大きなLに対しては、エネルギーは連続的と見なせる。
注意 式(3.16)のEnはn2に比例する。よって、エネルギー間隔はnに沿って 増大する。これは、箱型ポテンシャルの特徴である。これに対し、2.4.1節でも触 れ次章でも見るように、水素類似原子のエネルギーは主量子数をnとして−1/n2 に比例する。よって、エネルギー間隔はnに沿って減少する。この二つの例の 間の相違は、ポテンシャルの空間的広がりの様子の違いに起因する。
3.4. 多次元の場合 47
3.4 多次元の場合
2 次元の場合の Hamilton 演算子は、式 (3.2) の代りに H = −ˆ ¯h
2
2m ( ∂2
∂x2 +
∂2
∂y2 )
+ V (x, y) (3.18)
で与えられる。3.1 節でも指摘したように、 ˆH の微分演算子の項は粒子の 運動エネルギーを表す。上式の第一項は、x 方向と y 方向の自由度の運動 エネルギーの和を表すもので、古典力学では、
m 2(v
2
x+ vy2) =
1 2m(p
2 x+ p2y)
に対応する。ただし、vx,yは速度、px,yは運動量である。これについては、 第7 章で補足される。
2 次元の箱型ポテンシャル
3.3 節の問題を 2 次元に拡張する。変数を x, y とし、長さ Lx, Lyの長方
形領域をD とする。
D = {(x, y) : 0 < x < Lx, 0 < y < Ly}
粒子の受けるポテンシャルV (x, y) は、D の内部でゼロ、D の外側で +∞ とする。
V (x, y) =
{ 0 ((x, y) ∈ D)
+∞ ((x, y) /∈ D) (3.19) D の内部での Hamilton 演算子は、
H = −ˆ h¯
2
2m ( ∂2
∂x2 +
∂2
∂y2 )
(3.20)
となる。これをTˆx + ˆTy として、運動エネルギー演算子Tˆx, ˆTy を定義す る。このように、 ˆH が x のみに関する演算子と y のみに関する演算子の 和に分解されるので、Schr¨odinger 方程式
Hψ(x, y) = Eψ(x, y)ˆ (3.21)
の解は変数分離形ψ(x, y) = f (x)g(y) を仮定してよい∗。その上で、 Tˆxf (x) = Exf (x), Tˆyg(y) = Eyg(y) (3.22)
を解いて、E = Ex+ Eyとすればよい。
練習問題 式(3.22) が成り立つとき、ψ(x, y) = f (x)g(y) が式 (3.21) を満 たすことを確かめよ。
上記のように、この問題は1 次元の問題に分解されるので、前節の結 果をそのまま用いることができて
ψnx,ny(x, y) = 2
√LxLy
sin( nxπ Lx
x )
sin( nyπ Ly
y )
(3.23)
Enx,ny = h
2
8m ( n2x
L2x + n2y L2y
)
(nx, ny = 1, 2, · · · ) (3.24)
となる。自由度数が2 であることに伴い、量子数も nx, nyの二つとなる。
これらの量子数は互いに独立に任意の正整数値を取ることができる。最 低エネルギー状態は(nx, ny) = (1, 1) で、波動関数 ψ1,1(x, y) は節のない 山型となる。ψ1,2(x, y) は x 軸に平行な節面を一つ、ψ2,1(x, y) は y 軸に平 行な節面を一つ、ψ2,2(x, y) は x 軸と y 軸に平行な節面を一つずつ持つ。 (図 3.2)
図 3.2: 二次元箱型ポテンシャルの波動関数 (等高線)
∗与えられた境界条件の下での独立な解としては、変数分離法により得られた解で十
分である(全ての解を尽くす) ことを示すことができる。
3.4. 多次元の場合 49
3 次元の場合
3 次元への拡張は、1 次元から 2 次元への拡張と全く同様で、z 方向の運 動エネルギー演算子が追加され、ポテンシャルが3 変数の関数 V (x, y, z) となる。よって、Hamilton 演算子は
H = −ˆ ¯h
2
2m ( ∂2
∂x2 +
∂2
∂y2 +
∂2
∂z2 )
+ V (x, y, z) (3.25)
となる。これについては、次の記法がよく用いられる。 Hamilton 演算子 (1 粒子 3 次元)
✓ ✏
H = −ˆ ¯h
2
2m∇
2+ V (x, y, z) (3.26)
∇2 = ∂
2
∂x2 +
∂2
∂y2 +
∂2
∂z2 (3.27)
✒ ✑
∇2はLaplace 演算子または Laplacian と呼ばれる。これは、量子力学以 前から熱伝導、拡散、電磁気学などで知られていた。
3 次元の箱型ポテンシャル
粒子が体積V = LxLyLz の直方体領域に閉じ込められ、その内部で V = 0、外部で +∞ であるような場合も、2 次元の場合と同様に変数分離 できて、波動関数とエネルギーは、
ψnx,ny,nz(x, y, z) =√ 8 V sin
( nxπ Lx
x )
sin( nyπ Ly
y )
sin( nzπ Lz
z )
(3.28)
Enx,ny,nz =
h2 8m
( n2x L2x +
n2y L2y +
n2z L2z
)
(nx, ny, nz = 1, 2, · · · ) (3.29)
となる。
練習問題 2 次元の場合の式 (3.20)–(3.22) の議論を 3 次元に拡張し、上 の解が得られることを確かめよ。
自由度数が3 なので、量子数は nx, ny, nz の三つとなり、これらは互 いに独立に任意の正整数値を取ることができる。最低エネルギー状態は (nx, ny, nz) = (1, 1, 1) である。このときの波動関数 ψ1,1,1(x, y, z) には節が
ない。ψ1,1,2(x, y, z) は z 軸に垂直な節平面を一つ、ψ1,2,1(x, y, z) は y 軸に 垂直な節平面を一つ、ψ2,1,1(x, y, z) は x 軸に垂直な節平面を一つ持つ。二 次元の場合の図3.2 を基に三次元の場合を想像するのは難しくないだろ う。これらは、原子の問題ではs 軌道および三つの p 軌道 (pz, py, px) に 相当する。
3.5 周期的境界条件
前節で見たように、粒子がポテンシャルにより有限の領域に束縛され ると、波動関数の波長の取り得る値に制限が付き、離散的なエネルギー へ量子化される。本節では、
✓ ✏
ポテンシャルによる有限領域への束縛がなくても、座標に関する周期 性が要請されると、エネルギーが離散化される
✒ ✑
ことを見る。このことは、回転運動の量子化とも関連している。周期的境 界条件が適用される典型例は、固体結晶中の電子状態や格子振動である。
前節と同様、ポテンシャルはゼロ(V = 0) とする。ポテンシャル壁を境 界に置く代りに、後述の周期的境界条件を設定する。V = 0 なので、箱 型ポテンシャルの場合と同様に変数分離が可能となり、1 次元で考えれば 十分である。
Schr¨odinger 方程式は、自由粒子の場合の式 (3.4) と同じなので、一般 解は式(3.6) または (3.7) となる。ここでは、前者を使う。
ψ(x) = Aeikx+ Be−ikx (k ≥ 0)
周期的境界条件とは、長さL の周期で同じものが繰り返されるという 条件である。すなわち、L の平行移動で元と等しくなることから、
周期的境界条件
✓ ✏
ψ(x + L) = ψ(x) (3.30)
✒ ✑
と表される。これより、
Aeik(x+L)+ Be−ik(x+L) = Aeikx+ Be−ikx
⇒ eikL = e−ikL = 1 (3.31) よって、
kL = 2πn (n = 0, 1, 2, · · · ) (3.32)
3.6. 調和振動子 51 エネルギーは
En= h
2
2mL2n
2 (n = 0, 1, 2, · · · ) (3.33) となる。このように、
✓ ✏
周期性によって波数(すなわち波長) の取り得る値に制限が付くこと に起因して、エネルギーが量子化される。
✒ ✑
ここで扱ったのは並進運動の周期性だが、回転運動も、その周期性の ために量子化される。ただし、運動エネルギー演算子を回転角による微 分演算子で書き直す必要があることから、数学的な取扱いに違いが生じ る。これについては、第10 章で扱う。
補足 波動関数の規格化の条件は、
|ψ(x)|2 = (A∗e−ikx+ B∗eikx)(Aeikx+ Be−ikx)
= |A|2+ AB∗e2ikx+ A∗Be−2ikx+ |B|2
を[0, L]で積分したものを1とおくことにより、
|A|2+ |B|2= 1/L
となる。よって、係数A, Bはこの条件下で任意の複素数値を取り得る。実際に は、AまたはBの一方をゼロとおいて
ψ+(x) = √1 Le
ikx, ψ
−(x) =
√1 Le
−ikx
を基底として考えることが多い。
3.6 調和振動子
3.6.1 古典力学
まず、調和振動子の古典論を要約する。質量m の質点の Newton 方程式 md
2x
dt2 = F
において、質点がばね定数k のばねにつながっているとすると、平衡位 置からのずれをx として
F = −kx
と表される。このとき、運動方程式は d2x
dt2 = −ω
2x, ω =√ k
m (3.34)
となる。この解は、
x(t) = Aeiωt+ Be−iωt または
x(t) = C sin ωt + D cos ωt と表される。(式 (3.5)–(3.7) との類似に注意。)
F = −dVdx
を与えるポテンシャルエネルギーは、 V (x) = k
2x
2 = mω2
2 x
2 (3.35)
である。
3.6.2 量子力学
上のポテンシャルV (x) の下で
調和振動子のHamilton 演算子 (1 次元)
✓ ✏
H = −ˆ ¯h
2
2m d2 dx2 +
mω2 2 x
2 (3.36)
✒ ✑
となる。ここで、新たな変数として y =√ mω
¯
h x (3.37)
とおく。
df dx =
df dy
dy dx =
√ mω
¯h df dy などに注意して変数変換すると
H =ˆ ¯hω 2
(
− d
2
dy2 + y
2
)
(3.38)
3.6. 調和振動子 53
となる。ここで、
H =ˆ ¯hω
2 Hˆy, Hˆy = − d2 dy2 + y
2
により、演算子Hˆy を定義する。
練習問題 次の関数がHˆyの固有関数であることを示せ。 ψ0(y) = e−y2/2
ψ1(y) = y e−y2/2
ψ2(y) = (1 − 2y2) e−y2/2
略解 Hˆyψ0 = ψ0, Hˆyψ1 = 3ψ1, Hˆyψ2 = 5ψ2
上の練習問題の結果より、ψ0, ψ1, ψ2はH の固有関数であり、対応すˆ る固有エネルギーは
E0 = 1
2hω,¯ E1 = 3
2¯hω, E2 = 5 2¯hω となっている。第8 章で記述するように、一般の固有関数は
ψn(y) = (y の n 次多項式) e−y2/2 の形をしており、固有エネルギーは
調和振動子の固有エネルギー
✓ ✏
En= (
n + 1 2
)
¯
hω (3.39)
となる。Enが間隔¯hω の等間隔になっていることが、調和振動子の特 徴である。
✒ ✑
補足 上で(yのn次多項式)と書いた部分は、次式で定義されるHermite多項 式と呼ばれる関数で表される。
Hn(y) = (−1)ney2 d
n
dyne
−y2 (3.40)
第8章で示すように、規格化された波動関数は、 ψn(x) =(mω
π¯h
)1/4 1
√2nn!Hn(y) e
−y2/2, y ≡√ mω
¯h x
となる。
3.7 ポテンシャル形状とエネルギー間隔
3.7.1 束縛状態
式(3.16) が示すように、1 次元箱型ポテンシャル中の粒子のエネルギー 固有値はn2に比例し、ǫ = h2/8mL2とおくと、
E1 = ǫ, E2 = 4ǫ, E3 = 9ǫ, E4 = 16ǫ, · · · のように、エネルギー間隔は拡大していく。
水素類似原子の場合には、最低エネルギーを−ǫ とおくと、 E1 = −ǫ, E2 = −ǫ/4, E3 = −ǫ/9, E4 = −ǫ/16, · · · のように−1/n2に比例し、エネルギー間隔は密になっていく。
調和振動子の場合には、
E0 = ǫ/2, E1 = 3ǫ/2, E2 = 5ǫ/2, E3 = 7ǫ/2, · · · のようにn + 1/2 に比例し、エネルギー準位は等間隔となる。
上の三者の相違は、ポテンシャルV の形状に由来する。これは、次の ように定性的に解釈される。まず、最も基本的な箱型ポテンシャルの場 合、エネルギーの単位ǫ = h2/8mL2は箱の長さL の二乗に反比例する。 すなわち、粒子を束縛するポテンシャルの幅が大きくなると、エネルギー 間隔は小さくなる。これをもとに水素類似原子を考えると、原子核から 電子までの距離をr として V (r) ∝ −1/r2なので、エネルギーが高くなる とポテンシャル幅は急速に拡がる。この効果が支配的になるために、エ ネルギー準位間隔は減少すると解釈される。調和振動子の場合は、ポテ ンシャルの拡がりが然程ではないので、中間的な状況として等間隔にな ると解釈される。