第
3
章 交換による価値の創造
● 〇〇〇〇〇
1.1
交換と取引価値の創出
限りある資源をどう配分するのが望ましいのか?
経済学では,社会という人間の集合体を考える時に,その社
会を構成する「
一個人」や「一企業」の動きに注目
する.
個人や企業の経済活動の基本は「
交換
」「
取引
」
〇●〇〇〇〇
1.1
交換と取引価値の創出
1日24時間をどのように使うか?
時間という自分の資源をさまざまな活動に配分.
自分の貯金で何を買うか?どれだけ残すか?
自分の所有しているお金という資源をさまざまな財・サービ
スの購入に配分する行為.
あるモノを自由に処分してよい権利を
所有権
という.
所有権が確定している社会では,人々は自らが所有するモ
ノをいかに利用するかについて意思決定し行動する.
自発的に何かを交換しようとする前提には,社会において
〇〇●〇〇〇
1.1
交換と取引価値の創出
所有権が確立している社会では,ある資源を利用するためにはその
資源の所有者の許可が必要.
自分以外の人が所有する資源を利用する場合,自分の資源を相
手に提供する代わりに,相手の資源を提供してもらう
交換・取引
を
行う必要がある.
資源は交換・取引を通じて必要とする人に配分される.
取引・交換では必ず双方向に資源が移動する.
1対1とは限らず1対3とか1対10の割合で交換することもある.
〇〇〇●〇〇
1.1
交換と取引価値の創出
交換の形態
物々交換
…モノとモノと直接交換する行為.
物々交換をするには,相手を探すのが大変.
自分の欲しいモノを持っている人が,自分の提供できるモノ
を欲しいと思う(欲望の二重一致)時のみ交換が成立.
⇒ 「
貨幣
」という交換を仲介するための専門の財を使う.
貨幣
とは日本銀行券(お札)や硬貨,銀行預金などをいう.
財やサービスと交換される対価となる貨幣の量を
〇〇〇〇●〇
1.1
交換と取引価値の創出
交換・取引の例
自動販売機で120円を払って缶コーヒーを買うという行為
売り手は120円受け取ることができれば缶コーヒーを手放
してもよいと考えている.
売り手
缶コーヒーの価値
≦ 120円の価値
買い手
は
缶コーヒーを受け取ることができるならば,120円
手放してもよい
と考えている.
〇〇〇〇〇●
1.1
交換と取引価値の創出
交換・取引の例
取引が実現するのは,
取引しない状況よりも売り
手・買い手の状況が良くなるから
.
●
1.2
価格と資源配分の効率性
市場取引が売り手と買い手の両者に利益をもたらすことを
留保価格という考え方を利用してもう少しはっきりと確認し
よう.
「
留保価格
」
買い手が缶コーヒーにいくらまでなら払ってもよいと考え
ているのか?
売り手が缶コーヒーをいくら以上なら売ってもよいと考え
● 〇〇
留保価格と余剰
缶コーヒーの取引で,
売り手は缶コーヒーを
100円以上ならば売ってもよいと考え
ているとする.(売り手の留保価格は100円)
買い手
は缶コーヒーが
130円までなら買ってもよい
と考えて
いるとする.(
買い手の留保価格は130円
)
缶コーヒーを
価格120円
で取引するということは,
売り手にとっては
120円(価格)
-
100円(留保価格)
= 20円
買い手にとっては
1 30円(留保価格)
-
120円(価格)
= 10
円
得をしたことを意味する.
〇●〇
留保価格と余剰
売り手の20円分の得を「生産者余剰」という.
買い手の10円分の得を「
消費者余剰
」という.
生産者余剰と消費者余剰の合計を「
社会的余剰
」という.
社会的余剰がなるべく大きくなることが「効率性」の観点
から望ましい.
〇〇●
留保価格と余剰
缶コーヒーの留保価格が異なる人がいたときに,両者が缶
コーヒーと貨幣を交換する.
両者の留保価格の差(30円)が社会的な余剰として生み
出された.
この30円は取引が行われていなければ,社会的に実現し
なかった価値.
取引はそれ自体新たな社会的価値を作り出す
行為である.
● 〇〇〇〇〇
価格と資源配分の効率性
取引利益を追求することは,社会の資源配分を効率的なもの
にする働きがある.
例:買い手が2人,缶コーヒーが1本しかない場合を考える.
売り手は100円以上ならば売ってもよいと考えている.
買い手 A は120円までなら買ってもよい
と考えている.
買い手 B は140円までなら買ってもよい
と考えている.
この状態で缶コーヒーを120円で取引する場合
買い手 A ・ B 両者とも缶コーヒーを買いたいと思う.
〇●〇〇〇〇
価格と資源配分の効率性
缶コーヒーという希少な資源をいかに配分するか?
買い手 A と取引する場合,社会的余剰は
20円
,
買い手 B と取引する場合,社会的余剰は
40円
.
買い手 B と取引する
ほ
うが効率性の観点から社会的に望まし
い.
買い手 A と取引すると,本
当
はもっと
高
い価格でも買いたいと
思っていた買い手 B が買えないから.
120円で取引をする場合,売り手の生産者余剰は
,買い手 A に
売っても買い手 B に売っても,
20円で変わらない
.
〇〇●〇〇〇
価格と資源配分の効率性
市場取引が効率的な配分を
達
成するにはどうすればよいか?
買い手 A の留保価格が120円,買い手 B の留保価格が140
円という
情報
を売り手が
知
っていたら
問題
ない
.
売り手は,買い手 B と取引すれば120円より
高
い価格で取
引することができることを
知
っていれば,買い手 B と取引し
ようとするはず.
情報
は資源を効率的に配分する上で重要な
役
割を
果
たす
.
しかし,売り手が
常
に買い手の留保価格を
知
っているとは限ら
〇〇〇●〇〇
価格と資源配分の効率性
売り手と買い手が可
能
な限り自分に
都
合のよい
条件
で取引
に
応
じてくれる相手を探そうとすることが,効率的な資源配分
をもたらす.
買い手 A が120円という価格でならば買ってもよいと
言
っ
ているという
事
実
は,他にもっと
高
い留保価格を持っている
人もいるかもしれないという可
能
性を
示唆
する.
〇〇〇〇●〇
価格と資源配分の効率性
売り手が買い手 B を見つけだし,価格130円で缶コーヒーを取
引したとする.
生産者余剰は130円 - 100円 =
30円,
消費者余剰は140円 - 130円 =
10円
,社会的余剰は40円.
価格が120円から130円に上
昇
しても,社会的余剰は
不
変.
価格の上昇により,
缶コーヒーにより大きな価値を
置
いている
人に対して配分するという望ましい状況が
達
成される
.
とはいえ,取引相手を
見つけるには,それなりの困難さが伴う.
これを「
取引費用
」という.
〇〇〇〇〇●
価格と資源配分の効率性
より良く機
能
する市場とは,
効率的な資源配分を
達
成するために自分の売りたい財・サービ
スに対して
少しでも
高
い
評
価を
与
えてくれる人を
見
つけられる
仕
組
み
のこと.
少しでも得をしたいと考える人々が取引利益を追求することで,
全
体としての資源配分を「効率性」の観点から望ましいものにし
ている.
アダム
スミスの「
見
えざる手」
● 〇〇〇
2.1
インセンティブ
取引行動の背後にある
意志決定
について理解したい.
経済学では,人が自主的・自発的に何らかの行動をするならば
,その背後には
何らかの「動機」があるはず
と考える.
120円で缶コーヒーを販売したい売り手→120円を獲得
することで,他の何かを購入したいと考えているだろう.
120円で缶コーヒーを購入したい買い手→缶コーヒーを飲
むことで気分をすっきりさせたいと考えているのかも.
人間の背後にある明示的あるいは隠された動機
を
インセンティ
〇●〇〇
2.1
インセンティブ
人間関係において他人の行動の真の動機を理解するこ
とは非常に重要.
同じように,
人間行動を正しく理解するために,
経済
学では
人間は必ず何らかの動機をもって行動する存在
である
と考える.
〇〇●〇
2.1
インセンティブ
経済学では,
何かを「選択」する際「合理的」に行おう
とするはずと考える.
合理的な選択とは
1.
あらゆる選択肢について,望ましさの順番を付けるこ
とができる.
2.
取り得る選択肢の中から,もっとも望ましい選択肢を
選ぶ.
つまり,
選択肢に望ましさが対応している.
〇〇〇●
2.1
インセンティブ
例えば,部活帰りの空腹時にハンバーガーショップに寄った
とき,何を注文するかは
多様な選択肢がある
.
誰かがチーズバーガーを注文したとする.
選択可能なモノの中から,最も望ましい選択肢を選ぶ.
ハンバーガーショップで牛丼を選択することはできないし,
ハンバーガーショップにスペシャルチーズバーガーがあって
も,手持ち資金が足りないなら選択可能とはいえない.
多様なメニューにそれぞれ望ましさの順序をつけ,
その中で
● 〇〇
2.2
合理的選択
「あらゆる選択肢について,望ましさの順番を付けるこ
とができる」ということは,
何を選択するかによって自
分の望ましさが変わる
ということ.
経済主体の「選択」と「望ましさ」を数学的に表現した
「目的関数」を考えることが重要.
何かを購入して使用している経済主体
の
「消費量」の
選択
と
消費することが得られる満足度
との関係を表し
たものを
効用関数
と呼ぶ.
〇●〇
2.2
合理的選択
効用関数や利潤関数
いろいろな形状が考えられうる.
分析対
象
の状
況
に応じてその性
質
をうまく
捉
えるような
適
切
な関数形を
当
てはめればよい.
効用関数の例
経済主体が「お金があればある
ほど
うれしい」と
感
じる
状
況
は
お金の量の
増加
に対して,満足度が
単調
に
増加
す
るような1
次
関数で表現
すればよい.
経済主体が「
食べ
る量が
増
えればうれしいが,
食べ過ぎ
〇〇●
2.2
合理的選択
選択肢と望ましさとの関係を数学的な関数
と
み
なすことで
,意思決定の
問題
を数学的な
問題
に
置
き換えることができ
る.
経済主体にとって望ましさが最も
高
くなるような選択肢
を選ぶのならば,
⇒
目的関数の数学的な最
大
値が
ど
こか
?
を
探
す.
ただし,選択可能な範囲でしか
経済主体は選択できない
.
● 〇〇〇
トレードオフと機会費用
「選択可能なものの中から,最も望ましい選択肢を選
ぶ」
ときには,
選択可能な範囲をしっかり
認識
することも重要だが
〇●〇〇
トレードオフと機会費用
選択可能性と
トレ
ー
ドオフ
との関係を考えよう
.
財布
に
8
00円しか入っていない状
況
で,1
個
20
0円のハンバーガーを買うか
ど
うか
?
ハンバーガーの購入
個
数を,手
元
に
残
しておく
残
金
を,ハンバーガーの価格を200円とすると,
1
次
関数で
予算
(
所
持金)と購入する
品物
の費用と
〇〇●〇
トレードオフと機会費用
を
と
書
き換えて,
平面
に
図
示すると
1 2 3 x y 6 5 10 0〇〇〇●
トレードオフと機会費用
ハンバーガーを買うことで
残
金が
減
り,
他に買えたであろうも
のが買えなくなる
という
トレ
ー
ドオフ
の関係が
み
える.
1
個
200円,これは
通
常「金
銭
的費用」と呼ばれているが,
トレ
ー
ドオフ
を
前提
とすると「機
会
費用」とも解
釈
できる.
x
y
意味
0
800
ハンバーガーを
1
個
も買わないと
残金
は
800
円
1
600
ハンバーガーを
1
個
買うと
残金
は
600
円
2
400
ハンバーガーを
2
個
買うと
残金
は
400
円
3
200
ハンバーガーを
3
個
買うと
残金
は
200
円
● 〇
合理的意思決定と最適な選択
合理的意思決定とは,
トレ
ー
ドオフ
を
前提
として
ある選択から得られる
便益
と費用を考
慮
した上で
最も望ましい選択を行う
こと.
選択には
トレ
ー
ドオフ
がつきもの.
同時に,選択には望ましさが
割
り
当
てられる.
〇●
合理的意思決定と最適な選択
ハンバーガーを1
個増
やすことで得られる望ましさは,いく
らの金
額
を手
元
に
残
しておくことの価値に
相当
するのか
?
ハンバーガーが0
個
から1
個
に
増
やすと,
残
金は
8
00円
から
6
00円となる.それでも,ハンバーガー1
個
を買う
か
?
ハンバーガーを
3個
にして1
個我慢
する
残念
さと200円
を
残
すことから得られる
安心感
を
比べ
ると
ど
っちがよい
?
●
市場経済と国家・政府・中央銀行の役割
所有権
の
確立
が重要
所有権
の
侵害
に対して
罰則
を
与
える
力
が必要.
このような
力
を
独占
的に行使する主体を
国家
・
政府
と呼ぶ.
取引を円
滑
に行うためには
貨幣
が重要
貨幣
が交換の対価として
受
け入れることを
強制
する,または
受
け入れる価値があると
信
用させる主体が必要.
このような主体が中
央銀
行.
国家権力
が
弱
体
化
した
国
では経済活動が
立
ち行かない
国家権力
が
脆弱
な
国
(
内戦
状
態
の
国
)では
所有権
が
守
られず
,
貨幣
価値が
安
定しない.
●
取引利益の追求と人類の歴史
国家
の範囲やその
力
は経済活動により変
化
する
(
世界
史)
中
東地域
に
オ
ス
マ
ン
帝国
により
ヨ
ーロッ
パ
・ア
ジ
ア
貿易
の取引費用が
増大
した.
取引費用
削減
のためア
ジ
アとの交
易路
を
求
め
大西洋
に
乗
り
出し,
アメ
リカ大陸
が
ヨ
ーロッ
パ
の
国家
に
組み込
まれた
.
(日
本
史)
米
の取れない
北海道
は重要な
地域
でなかった.
関
西地域
で
綿花
な
ど
の
商品作物
が活発になったことでニシ
ンな
ど
の
北海道
産の
海
産
物
を利用した
肥料
が注目.
本州
と
北海道
で
米
と
海
産
物
の取引
が行われはじめ,
北海道
を日
本
の
領土
として
組み込
む
原
動
力
に.
● 〇〇
経済体
制
と資源配分のメ
カ
ニズ
ム
20
世紀
の
歴
史は資源配分のメ
カ
ニズ
ム
重要さの
教訓
資源配分を市場取引にゆだ
ね
る
国
(市場経済体
制
)
と,
政府
が
計
画
的に行おうとする
国
(
計画
経済体
制
)
に分かれていた.
市場経済体
制
(資
本
主
義
体
制
)は
英
,
米
,日
本
な
ど
.
計画
経済体
制
(
社会
主
義
体
制
)は
ソ連
(ロシア),中
国
な
ど
.
な
ぜ
か
?
1
8世紀
の
産
業革命以降
,
工
場や機
械設備
が重要
になった.
希少
な機
械設備
を
所有
する資
本家
が多くの
所
得
を得て,
労働者
の間で
貧富
の格
差
が
広
がった.