適応行動論 講師:長谷川寿一/斎藤慈子(木1)文責:岡崎
この授業は長谷川寿一先生と斎藤慈子先生が交代でテキストに沿った講義を、発展的な内容を 交えながら行うという形式のものでした。
なので、このシケプリにおいては教科書の順番通りのまとめをするのではなく、授業中触れら れた補足的な解説を組み込みながら、論理を追うという形にいたしました。
試験問題に事細かな知識を問うマーク式が含まれる以上、指定のテキスト(→*)を読むこと が最善の試験対策であると考えられますが、展開を追う際にこのシケプリがお役に立てば幸い です。また、図や写真や表に関してはテキストとパワポを参照してくださるようお願いします。
*テキスト『進化と人間行動』長谷川寿一・長谷川眞理子(東京大学出版会)
試験
①マーク式 25問程度 ②記述式 2問程度
第1章 総論
講義の目的
人間とは何かという大問題について自然科学からアプローチすること。
人間はどんな存在であると考えるか(人間観)が社会の運営に大きく関わっているため、この 作業は社会の運営のために大きな意味を持つ。
ex) •人間は本質的に善か悪か?(性善説/性悪説) →法律、社会制度のあり方
•子供とはどういう存在か?(子供観) →教育の理念、方法
•性の違いとはどのようなものか?(男性観/女性観) →法律、社会制度、家族のあり方、考え方
この作業を行うにあたっては、人文社会学系の学問(ex 哲学、社会学)だけでは不十分である。
講義の手法
進化生物学の理論的枠組みを利用する
講義の前提
ヒトは生物である
→ヒトは生物である以上、ヒトのあり方(心理、行動 etc)も進化の産物である。
→ヒトは他の生物と同様、適応的な進化の過程によって形作られてきた
→生物に共通の[進化と適応の原理]を学ぶことは人間理解に大きく貢献する
→ヒトを説明する上で、進化理論が不可欠な基本原理である
人間観の変遷
*基本構造
遺伝論 vs.環境論
[遺伝論]ヒトの身体の構造/生理的過程のみならず、ヒトの心理も遺伝的に決まってお り、後天的な影響は非常に少ない
[環境論]ヒトの身体の構造/生理的過程は先天的だが、ヒトの心理は環境(文化、学 習)
によって後天的に形成される
歴史的変遷
古来の「氏か育ちか」という議論 ↓
19世紀(中期) 〈自然科学〉と〈人文社会学〉の分離 *科学者(scientist)という言葉が誕生
19世紀(後期) 遺伝決定論が支配的となる⇨優生主義の台頭 +1900 年 メンデルの法則の再発見によって遺伝 現象が以前よりもよく理解できるようになる
→単純な遺伝決定論の流行
【優生主義】←単純な遺伝決定論+ナイーヴな社会 改良運動
個人の性質がすべて遺伝で決まっている という、単純な遺伝決定論 。
人権の概念がない
悪い遺伝子を持った人の繁殖を制限し、
よい遺伝子を持った人の繁殖を奨励する ことによって、社会悪を追放し社会を改 良できるという信念
• 精神遅滞者、精神異常者、貧乏人、犯罪者、 乱暴者、社会の「やっかい者」は、遺伝で決 まる
• そういう人々が子沢山であり、悪い遺伝 子を増やしている
• そうすると、人類全体が劣化する • それを阻止せねばならない
西欧、アメリカの知識人(優生学会、社会の指導者 や政治家、学者)の間で非常な人気を博す
健康優良児の表彰/犯罪者の断種法
20世紀 優生主義の終焉
世界大恐慌(1929 年〜)
裕福だった人が没落し、貧乏になり犯罪を犯すようになる
=犯罪は遺伝ではなかった
ナチス•ドイツの優生主義の正体が暴露される
「生物学嫌い(biophobia)」の蔓延 社会学、文化人類学、心理学の発展
•優生主義に対する嫌悪(人間を生物的にとらえ ようとするのは間違いである)
•経験至上主義(人間は遺伝的、生物的要素では なく、経験によって形作られる)
•文化相対主義(文化に優劣はない)
→以来、〈自然科学〉と〈人文社会学〉は完全に分断
〈人文社会学〉の諸学問の間では、ヒトを生物学的側面から理解することに対する反発が非常 に大きい。また、反発ではないにしても、ヒトを生物として理解するとはどういうことかに対 する無知、誤解も多い。
誤解 ex)社会進化論(社会ダーウィニズム)
by20世紀の大資本家、思想家ハーバード•スペンサー etc
文明、文化に価値序列をつけ、西欧文化が一番高く、あ
とのものは、社会進化の段階の劣るものという考え。 自文化中心主義を生物学(進化)で正当化。
ダーウィンの進化理論を単純に人間の社会にあてはめ ただけ。
ex) 「母系社会」→「父系社会」→「国民国家」 「未開」→「文明」→「西欧文明」
(これは進化理論の誤解、誤用
→◯進化は価値とは無関係の現象であり、あくまで遺伝的な変化を伴う過 程
である)
〈自然科学〉は進化生物学、自然人類学、心理学、脳神経科学、認知科学などがヒトのからだ や脳と心について多くを明らかにしてきたが、それらの成果が人文社会系の学問に取り入れら れることはあまりなかった。
↓↓↓
でも、もうそんな時代ではない。
〈社会生物学(Sociobiology)〉 byエドワード•ウィルソン
動物の行動の進化に関する画期的な理論
人間の社会や行動をも同じように分析しようと試みる ex)家族、社会の成り立ち/利他行動/性行動/
人間も進化の産物である以上、人間の行動や社会について考える学問にはすべて進化的視点 が必要
「人文学も社会科学も、やがて生物学の一分野に統合されるだろう」
批判
from〈人文社会学〉文化や学習の重要性を無視した、不当な遺伝決定論に違いない 人間の活動すべてを遺伝子に還元しようとする極端な暴論だ
→but
「現状を説明することは」現状を肯定することになる」という 考
えや完全二分法(遺伝 vs 文化 etc)は論理的に間違い
from〈自然科学〉人間の活動を遺伝で説明するのは、人間社会の現状(差別、不 平等、搾取 etc)に遺伝的な根拠があるとすることに等しく、 現状打破の努力を無にする暴論だ
→but
「遺伝的基盤のあることは変えようのない運命だ」 という考えは論理的に間違い
最近では
進化生物学の発展によって人間を研究する学問の一部にも変化が起こってきている 人間性の進化的基盤を探求する研究の興隆
ex)<進化心理学>
すべてのヒトが普遍的に備えている心理メカニズムは 何か、そして個人がそれぞれ異なることの原因は何か を探る学問
*標準社会科学モデル
(Standard Social Science Model)
• 赤ん坊はみな同じ発達可能性を持つ =tabula rasa • すべての成人はみな異なる
• 赤ん坊が同じである部分は遺伝要因、成人が異なる 部分は文化、教育、学習などの環境要因による • 個性を形成する社会、文化的要因は個人の外部に 先験的に存在する
• 人間生活の複雑さを作るのは文化である • 文化を作り出すのは社会であって個人ではない • 文化はそれ自体が自律的な実体である
環境決定論 vs 遺伝決定論の二項対立は不毛かつ無用である 実際は遺伝子と環境の柔軟な相互作用によって進化が起こる
第2章 進化の概念
進化とは何か
*基本用語*
前提:生物は全て遺伝子の情報から作られている
【形質】生物の個体が持っている特徴
形態の特徴/生理学的特徴/行動的特徴 【表現型】形質の種類
ex)前足が 太い/細い
【遺伝子型】表現型を作り出しているもとである遺伝子のタイプ
【進化】集団中の遺伝子頻度が時間とともに推移する過程
=集団中の遺伝的形質が変化する過程
【遺伝子頻度】ある集団の中に存在する特定の遺伝子の割合。 遺伝子頻度は一世代中には変化しない
誰が、次の世代に子供をどれだけ残すか(個体の繁殖成功度)で変化する
=適応遺伝子の増減は個体の増減を通じて行われる
進化の様々なレベル
1 【大進化】交配できないほど遺伝的変異が大きくなった進化 ex)種分化:魚類から新しい生物群である両生類が進化すること、
単一の種であったシクリッド(ヴィクトリア湖に生息する固有の淡水 魚)
が分岐→魚食/動物プランクトン食/藻類食
遺伝子型 発生・発達 表現型 環境
恐竜が絶滅する
2 【小進化】交配可能な範囲で生じた進化
ex)形質の変化:テントウムシの斑点の数、フィンチの嘴の形、二枚貝の 模
様
進化を引き起こすメカニズム
【遺伝的浮動】=偶然
しばしば小集団で起こる確率的な過程
ex)大陸から島に赤毛の集団が移住する(創始者効果)
【自然淘汰】生存や繁殖に有利な形質が集団の中に広まっていく過程 =適応の過程
By Charles R. Darwin『種の起源』(1859)
【適応】ある特定の条件(=淘汰圧)のもとで、生存・繁殖上有利な 形質(=適応的形質)を身につけること
【適応度】生存率×繁殖率
自然淘汰の条件
⑴ 生物には生き残るより多くの子が生まれる
ex)アミブトゴミムシ(架空の昆虫)はたくさんの子を生む
⑵生物には、同じ種に属していても様々な変異が見られる ex)アミブトゴミムシには前足が太いものと細いものがいる
⑶変異の中には生存や繁殖に影響を及ぼすものがある
ex)前足が太いほうが餌を運ぶのに有利であり、生き残る確率が高い
⑷そのような変異の中には、親から子へと遺伝するものがある ex)前足を太くする遺伝子を持った個体の子孫が増える
進化をめぐる誤解
① ×「自然淘汰には目的がある」 ○「自然淘汰に目的はない」
遺伝子は常に変異(遺伝子の突然変異/組み換え)の可能性をはらんでい る
変異の方向はランダムである
自然淘汰はランダムに生じてくる様々な変異のなかで、その時の環境に有利であるものを 拾い出す過程である
変異の量と、変異に必要な時間の長さは人間の想像を絶する
② ×「進化=進歩である」
○「進化は没価値的な過程である」
進化は完成に近づく過程ではない 複雑化するだけが進化ではない
(時間がたつほど適応が働くことによって、複雑な形質が生まれる可能性が高まる、と いうだけのこと)
変わらない状態も「進化」の一つ
進化的に身につけたものを失う「退化」も「進化」の一つ
現在地球上に存在しているすべての生物は、どれもみな進化の最先端にいる
③ ×「人間は進化の頂点に立つ」
○「種分化は枝別れの過程であり、全ての生物は進化の最前線にいる」
進化は梯子のように直線的、不可逆的に起こってきたのではなく、枝分かれを繰り返す ように起こってきた(梯子型モデル/枝分かれモデル)
チンパンジーが人になるわけではない
④ ×「適応は万能である」
○「適応は妥協である」
⑤ ×「進化論は解釈である(あくまで主観的なものであるから信じるに値し ない)」
○「進化論は実証的な科学の理論である」
今のところ適応という現象を最もうまく説明できる理論が、自然淘汰論
*進化生物学は多岐にわたる分野に及ぶ”ゼネコン”である(遺伝学/古生 物学/生態学/生理学…)
第3章 遺伝子と行動
遺伝子と形質の関係
*基本用語*
前提:生物=タンパク質のかたまり
いつ、どのようなタンパク質を作るかを規定することによって形質を支配しているのが遺伝 子
【遺伝子】DNA
アミノ酸配列(タンパク質のあり方)を規定する 【行動】内的状態/外的刺激に応じて適切な反応を起こすこと
自然淘汰の過程
組み換え/突然変異によって遺伝子が変わる ↓
あるタンパク質の組成/作られる量が変わる ↓
特定の神経伝達ルートが変わる ↓
形質(=身体の構造/生理機構/行動 etc)が変わる ↓
形質が自然淘汰の対象となる 行動に関しては
さまざまな行動戦略が生じ、それぞれの行動戦略をとる個体間に生 存率/繁殖率の差が生じれば、適応度の高い行動戦略が集団内に広ま っていく=【最適化(optimization)】
行動
の進化行動には利益(benefit)だけでなく損失(cost)が伴う。
【行動戦略】ある特定の効果を達成するために取り得る行動のセット
ex)採食戦略/繁殖戦略/逮捕食者戦略 【代替戦略】行動のオプション
ex)戦う/逃げる
【最適化】異なる行動戦略間に自然淘汰が働いた結果、その条件のもとでの最適行動 を身につけるようになっていくこと
最適戦略は一つに決まるとは限らない
*「遺伝子」と「形質」の関係は、「ケーキのレシピ」と「出来上がったケーキ」の関係に等しい。 レシピの一語一語はケーキのどこかに一対一で対応しているわけではないが、レシピが変われば確実に出 来上がりのケーキも変わる。
同様に、一つ一つの遺伝子は生物の形質(ex 行動)と一対一で対応しているわけではないが、遺伝子が 変われば確実に形質(ex 行動)も変わる。
遺伝子が行動を規定する具体例
・カッコウの雛(托卵/鳴き声を規定する遺伝子)
【托卵】自分で子育てをせず、別の種の巣に卵を産んで育てさせること。 実親と実子の接点はない。
・鶏♀(隠れた配偶者選択を規定する遺伝子)
複数の雄と交尾後にランクの低い雄の精子を捨て、ランクの高い雄の精子だけを残す
・げっ歯類=ラット・マウス(社会行動を規定する遺伝子)
社会行動に影響を与える物質:オキシトシン(OT)/バソプレシン(AVP) 下垂体後葉から血中に分泌され受容体が受け取る *AVP受容体の欠陥は人間の自閉症(←社会性
の欠如)に関わる。
社会行動 ①社会的記憶:既知の個体か未知の個体かの区別
←社会行動の第一歩。
新しい個体を見ると刺激される(脱馴化)が、しばらく すると慣れる(馴化)。=馴化‐脱馴化パラダイム 新奇な個体に対して嗅覚的な探索行動を行う。
AVP/OTの受容体がノックアウトしていると、その個 体は新奇個体と既知個体との区別ができない。
②母性行動 :散らばっている子どもを回収し、子供の上に覆いかぶさ る親行動
←親が子育てをする哺乳類では、子育て行動は自分の子 孫を残していくうえで重要な行動である。
OTの受容体がノックアウトしていると、その個体は母 性行動が野生型よりも劣る。
③配偶者選好:配偶形態(一夫一妻/一夫多妻)≒空間把握能の性差 一度つがった相手を選好するか、常に新しい相手を選好 す
るか。
近縁種でありながら、配偶形態が全く異なる種がある。 *近縁種は遺伝子の違いを突き詰めるのに適している。 ex)プレーリーハタネズミ:一夫一妻。生涯相手と社会的絆
を形成する。両親による子育てが 営まれる。社会的で、複数世代が 同じ群に生息。
♂♀で同じくらいの領域を縄張り とする=空間把握能力に性差なし モンターンハタネズミ:一夫多妻。社会的絆は形成されな い。単独性、子の世話は比較的短 期間。雌のみが子育てする。
♂のほうが縄張りが広い
=空間把握能力に性差あり。 プレーリーのほうがモンターンよりも受容体が
発達している。
・霊長類(色覚を規定する遺伝子)
哺乳類のほとんどが2色型色覚だが、霊長類だけが3色型色覚を持つようになった。 (霊長類の中でも2色型色覚が維持されているグループ /高頻度で見られるグループは
存在する)
*色覚について
【色覚】光の波長の識別
錐体細胞(異なる分光吸収特性を持つ細胞。複数種類存在する。) が色覚を司る。(cf. 桿体細胞は色の明暗を司る)
錐体の波長弁別閾の違いによって知覚できる色が変わってくる。 錐体の種類←錐体視物質の種類←遺伝子の種類
基本3色…B 青/G 緑/R 赤
弁別閾の値が大きい=弁別できる色の種類が少ない
→2色型色覚(G と R の区別がつかない etc) カモフラージュしたものの検出に有利
弁別閾の値が小さい=弁別できる色の種類が多い
→3色型色覚(B/G/R の区別ができる) 緑の葉の中の赤い果実の検出に有利
*【選択交配】人工的な選別実験
選択交配することによって注目する形質を誇張した個体を作ることも可能。虫やラッ トは大量の個体を相手に何世代にもわたる実験を行うことができるため、好材料であ る。
ex)ラット(迷路を正しく通り抜ける学習能力を規定する遺伝子/探索行動を規定する遺伝 子)
ショウジョウバエ♂(交尾時間を規定する遺伝子) コオロギ♂(求愛コールの頻度を規定する遺伝子) キツネ(親和性を規定する遺伝子)@ロシア キツネの家畜化
人間と遺伝子
行動のみならず、心や意思決定についても遺伝的基盤から逃れられない 個人差
人間の行動の個人差に遺伝がどれだけの影響を与えているかは双生児研究に よって明らかになる
【双生児研究】一卵性双生児と二卵性双生児の相関係数の比較 【一卵性双生児】遺伝子を 100%共有している双子
【二卵性双生児】遺伝子を 50%共有している双子
【相関係数】双子の形質(身体的/心理的)の相関の度合いを示す係数 身体的形質:身長、体重 etc
心理的特徴:知能、宗教性、学業成績、想像性 etc *性格特性の5因子モデル(Big Five) 外向性(Extraversion)
調和性(Agreeableness)=社交性 誠実性(Conscientiousness)
神経症傾向(Neuroticism)=情緒の安定性 開放性(Openness)=思考の豊かさ
【遺伝率】個体差に寄与する遺伝的要因/環境的要因(共有環境/非共有環境)の相対 的な影響
={(一卵性双生児の相関係数)-(二卵性双生児の相関係数)}×2 ex)テキスト p.64/パワポ「遺伝子と行動」p.52 参照
別々に育てられた双生児
注意点 相関係数には誤差がある
遺伝率はあくまで個人差がどの程度遺伝によって説明されるかを示す指標であって、形質自 体の発生や発現がどれだけ強く遺伝的に規定されているかを示す指標ではない
第4章 利己的遺伝子
「遺伝子は利己的である」…遺伝子が持っている複製効率のよさを表す言葉 擬人化してとらえてはならない
遺伝子の変異とは、より生存率、繁殖率の高い遺伝子が残り、受け継 が
れていくランダムな過程のこと。
遺伝子=複製する分子
遺伝子の複製には個体が生存・繁殖することが必要(生物は複製しな ければ残らない)
※ただし、同じゲノムの中で、他の遺伝子をさしおいて自分だけが増えよ うとする本当の「利己的遺伝子」もある
遺伝子はアミノ酸、たんぱく質をコーディングしているだけ
� 遺伝子自身に意志はないし、目的も持っていない つまり
進化に目的はない=進化は種の利益のために起こるのではない
=「種の保存論」は間違いである
[種の保存論] 個々の動物は種の保存(全体の利益)のために行動している、 と
いう理論=群淘汰(集団選択)の理論 By)コンラート・ローレンツの著作
ウィン=エドワードの論文
【群淘汰(group selection)】自然淘汰の単位は集団(種)
問題とされているのは<異なる適応度を持った集団同士の 適応度の差>
⇔自然淘汰
問題とされるのは<異なる遺伝子型同士の適応度の差>
群淘汰は論理的に矛盾だらけである。
①集団の中に「種の利益のために自己犠牲する」という遺伝子と「自己犠 牲しない」という遺伝子とが、二つのタイプの変異として出現したときに は、自然淘汰により前者のタイプは絶滅してしまう。
つまり集団の絶滅が起こって集団間淘汰が働くよりも先に、遺伝子淘汰が 働く。
②たとえ、あるときに集団の全ての個体が「種の利益のために自己犠牲す る」遺伝子しかもっていなかったとしても、突然変異で適応度の高い、
「自己犠牲しない」遺伝子が生じてくる可能性を消し去ることができない。
③集団は複製の単位となれない。集団間淘汰を働かせるほどの徹底した近 親婚は現実には存在し得ない。
④そもそも「種」という概念があいまいである。競争の単位となる集団の 範囲が明確でない。
→群淘汰は働かない
ex)・レミングの集団自殺
個体数が増えすぎると大量に自殺する
群淘汰が働いたのではなく、単に事故死しているだけ ・ラングールの子殺し
1雄が複数の雌と暮らす、ハーレム型一夫多妻 まわりにあぶれ雄がたくさんいる
あぶれ雄がハーレムの雄に挑戦し、ハーレムを乗っ 取
る
その直後に、前の雄の子どものうち、離乳前の子を 殺す
子を殺された雌は、すぐに発情を再開
子を殺した雄と交尾し、その雄の子どもが生まれ る
子が殺されなければ、離乳には1年2ヶ月ほどか かり、
その間に雌は発情しない(授乳性排卵抑制) なぜ?子殺しはだれの利益?
①群淘汰の考え(子殺しと個体密度)
子殺しをする集団は、個体数を調節 できるので資
源を食い尽くさず、子殺し をしない集団は増えす
ぎて自滅するので、子殺し をする集団が淘汰上有
利となる
→butなぜ個体群調節が、雄が乗っ取り直後に子 殺し
をするという行動でなされるのかが説明できない
&他の動物での子殺しにあてはまらない
→×
� ②遺伝子淘汰の考え(子殺しと雄間競争の強度) 子殺し雄の適応度は、子殺ししない雄の適応度 よりも高いので、子殺しが集団中に広まる →◎
第5章 ヒトの進化
生物の分類 真核生物 【界】動物界
【門】脊椎動物門
【網】哺乳網
【目】霊長目
【科】ヒト科
【属】ヒト属
【種】ヒト種
生物界におけるヒト
生物界におけるヒトの位置を知ること
=ヒトが進化的に背負っている制限要因を知ること
ヒトがなぜどのように特殊な生物であるのかを知る機軸を得ること
霊長類におけるヒト
【霊長類】6500 万年前に出現した分類群 <分類>
原猿類
真猿類(旧世界猿/新世界猿/類人猿) *ヒトもここに分類される
<特徴> ・寿命が長い ・繁殖速度が遅い
・妊娠期間、出産間隔も長い
・成長速度が遅く、繁殖期まで(子供期)が長い (←脳の発達、学習に影響)
・社会の中での学習を通じて得られる「文化的行動」あり
①手足
・拇指(ぼし)対向性…親指が他の 4 本の指と向き合って いる。 例外)ヒトの足(地上生活への二次的適応) ・平爪(⇔鉤爪)、指紋と汗腺を備える
・把握力は手より足のほうが強い →樹上生活への適応「樹上適応説」
基本は樹上生活、地上生活は二次的な対応に過ぎない
②視覚
目が比較的大きく、顔面の前方に位置する 両目で見るため奥行き(立体)知覚が発達 →知覚情報の処理能力大=捕食者
(⇔目が頭の両側=視野が広いため捕食者からは逃げやす い=被捕食者)
→夜間の昆虫の捕食が可能「 The arboreal predation 仮 説」
③体の大きさ
小サイズ=相対的に基礎代謝率が高い=エネルギー要求が 高い=高エネルギーな食物の要求が高い
・小型霊長類:昆虫/果実/樹液
・中型霊長類:おもに果実
・大型霊長類:おもに葉
④脳の大きさ
霊長類はほかの哺乳類よりも相対的に大きな脳を持ち、そ れゆえ高い知能を持つ。
しかし、大きな脳を持つことには極めて大きな生存上のコ ストがかかる。
・脳の重さは全体重の 2%
but脳が消費するエネルギーは全代謝の 20% ・電気的情報伝達…電気勾配に逆らったイオン
のくみ出しが行われる
・化学的情報伝達…神経伝達物質の生産がおこな
われる
大きなコストに値するだけのメリットとは? (仮説1)食生活に伴う適応
ex)果実は草や葉に比べて供給にムラがある ため予測/記憶の能力が必要
(仮説2)「社会脳仮説」=「マキャベリ的知性仮説」 霊長類の社会性が脳の発達(esp.新皮質) を促す
社会性大=新皮質大
相手の心の状態/社会関係を推定、推理し ながら自分の社会行動を選択
esp.真猿類
集団内で互いに個体識別 ex)鳴き声
社会的順位がありそれを相互に認 識
ex)血縁関係を他の個体が認知
*戦略的欺き…「自分がある行動をすると、相手 はそれをどう受け取るか」を想定し、相手を だますような社会的な戦略。
「その場面では自分がどう思うか」を推定し、 相手も同じように思うだろうと類推し、その 結果を思い描く能力が必要。
ex)テキスト p.94
*ヒトの新皮質の大きさから推測される集団サ イズ=150 人(他者との関係の認知が行われ る
最大の数)
ex)・伝統社会(狩猟採集/粗放農工 社会)のクラン(氏族)
・近代軍隊の中隊
・情報提供を依頼できる知人、友人の数
真猿類は毛づくろい BUT ヒトの集団 150 人で は
時間がかかりすぎる→会話 一度にたくさん
の人と社会情報交換可能(言語の起源?)
ヒトの進化
(大型)類人猿 →ホモ属(ホモ・ハビリス/ホモ・エレクトゥス)→ホモ・サピエンス
*基本用語*
【人類 hominid】常習的に直立二足歩行する霊長類の仲間
【ホモ属】人類の中で特に脳容量が大きい種類
【ヒト】人間の生物学的和名
【人間】生物学的意味を超えたより広い概念での人間
Ⅰ.類人猿(ape)
尾のない大型霊長類
小型類人猿(lesser apes)
EX) テナガザル類(東南アジア)
大型類人猿(great apes)
EX) オランウータン(ボルネオ、スマトラ) ゴリラ(アフリカ)
チンパンジー・ボノボ(アフリカ)
• すべて熱帯森林性(exp ゴリラは高山帯、チンプは疎開林にも) ・樹上性が強い←解剖学的性質
移動様式は brachiation(手で木の枝にぶらさがって移動する) →前肢が後肢より長い
→上肢の可動性大
→背骨と脚部がまっすぐに伸びる
(ヒトはこの形態から進化した。
∵直立するとより重いものを支えられる→脳の発達)
=4 足歩行と2足歩行の橋渡し
(ただしゴリラは地上性が強い) ・社会構造
社会構造を決める要因 捕食圧
食物の分布 社 会 生 活 の 利益&損失
メスの分布 オスの分布
ex)テナガザル一夫一妻 オランウータン単独
ゴリラ単雄複雌一夫多妻のハーレム型〔両性分散〕 チンパンジー複雄複雌〔雌分散〕
・認知能力 ①道具の使用
使用法を学習している
行動パターンと目標達成との間の因果関係が認識されている 行動の調整が柔軟に行われる
という点で認知的。
類人猿は特に道具使用のバラエティーも頻度も非常に高い。 地域ごとの文化性あり。
ex)チンパンジーの蟻釣り/木の実割/スポンジによる摂水
②シンボル思考
音声、ジェスチャーによるコミュニケーションが発達。 記号操作は可能。
しかしカテゴリー化/概念の理解はできない。 ③社会的認知
同種他個体、異種他個体を区別。
④自己意識
自分自身の行動や心の働きに気づき、それを監視すること。 他者の心の状態を推測したり、自分と他者の関係を理解すること と
深く関連。
*動物の自己意識の有無を調べる実験=鏡実験
(1)社会的反応(他個体とみなす)
(2)物理的に鏡を探索 (3)繰り返し鏡を試す
(4)自分に向けた行動=自己意識あり
Ⅱヒト
人間は 猿人→原人→旧人→新人 という風に直線的に進化してきたのではなく、 枝分かれ的に進化してきた=似たような種が同時代的に存在した、ということに注 意。
*分類には諸説ある。 ヒトと他の類人猿の違い=直立二足歩行説
その他の全ての説には反例あり(ex チンパンジー) ex) 狩猟者説/道具製作者説/食物分配者説/文化の担い手説
しかし、なぜ人間が二足歩行を始めたのか(進化的意味)は謎のまま ex)運搬モデル(物の運搬のため)
警戒モデル(頭を持ち上げるため)
熱放射モデル(直射日光を浴びる割合 down、風当たり up のた め)
エネルギー効率モデル(エネルギー効率 up のため) ディスプレーモデル(雄間競争の威嚇のため) 採集モデル(高い所に手が届くようにするため)
人類の変遷
原始人類(600~400 万年前) 直立二足歩行
狩猟採集
脳のサイズはチンパンジーと変わらない
ex)サヘラントロプス・チャデンシス(アフリカ、チャド) オロリン・チュゲネンシス(アフリカ、ケニア)
アルディピテクス・ラミドゥス(アフリカ、エチオピア)
猿人 (370~250 万年前)
370 万年前~ アウストラロピテクス属の出現
アウストラロピテクス・アファレンシス(アフリカ、エチオピア)
(=アファール猿人)「LUCY」
300 万年前~ 地球規模での寒冷化 →アフリカ地域の乾燥化 →猿人の種分化
アウストラロピテウス・アフリカヌス(南アフリカ) アウストラロピテクス・ロブストス(南アフリカ) アウストラロピテクス・ボイセイ(タンザニア)
臼歯巨大化、顔面骨大
250 万年前~ ホモ属の出現
脳容量が増加(600~700cc)、 顔の部分が相対的に縮小=咀嚼器の退化 打製石器の使用
ホモ・ハビリス(タンザニア) 原人
180~30 万年前
脳容量が増加(800~1000cc) 身長 180cm
複雑な加工石器の使用←咀嚼器の退化 火の使用
ハンター or スカベンジャー(死肉あさり)
ホモ・エレクトゥス 「TURCANA BOY」
「出アフリカ」各地に広がる
50 万年前~ 脳容量が増加(1000~1400cc)
ホモ・ハイデルベルゲンシス(アフリカ~ヨーロッパ)
旧人 20~3 万年前 脳容量が増加(1200~1700cc)
ホモ・ネアンデルタレンシス(ヨーロッパ)
(=ネアンデルタール人)
*ネアンデルタール人と現代人の心の相違
ネアンデルタール人…それぞれの知能の領域
(EX
言語知能、社会的知能)が分断され、 別々に存在する
現代人…さまざまな知能の領域が相関・融合して いる=認知的流動性を持つ
新人 14 万年前~ 脳容量が増加(1400) 華奢な体型
現代人と同じ形態を獲得
*現代人は 10 数万年前の脳を使って現代を生き ている(∵人間の脳は段階的に発達してき た)
ホモ・サピエンス
5 万年前 二度目の「出アフリカ」 急速に拡散 「文化のビックバン」
洞窟芸術、彫刻、特殊化した道具の出現
1 万年前 農耕牧畜の開始 ↓
(現代環境)
食料の蓄積、富の蓄積→権力 都市、国家の出現
人口過密化 技術の発達
しかしヒトの脳と体はこの急激な変化に合わせて進化 していない(進化環境と現代環境の断絶)
(進化環境)
小規模集団=約 150 人 血縁関係、婚姻関係 集団内における協力
集団間における対立葛藤の基本単位
*脳容量は継続的ではなく段階的に増加してきた *現代人のルーツに関する二つの説…単起源説/多起源説 単起源説 多起源説
(つぎは第 6 章)