数学補講:3日目
定義1 (固有値:Eigenvalue、固有ベクトル:Eigenvector) n × n行列Aに対して、スカラー(実数)λは、
Ax= λx,
すなわち、
(A − λIn)x = 0.
を満たす0でないn次元列ベクトルxが存在するとき、Aの固有値と呼ぶ。またxを固有ベクトルと呼ぶ。
もしλがAの固有値で、xがその固有値に対応するAの固有ベクトルならば、 Ax= λx ⇒ x′Ax= λx′x
⇔ λ = x
′Ax
x′x
固有値λに対応する固有ベクトルx全体が張る空間を固有値λの固有空間と呼び、この空間の次元をλの 幾何学的重複度と呼ぶ。
また、スカラーλはλが以下の方程式(特性方程式と呼び、右辺を特性多項式と呼ぶ) det (A − λI) = 0.
の解のときかつそのときに限って、n × n行列Aの固有値である。 特性多項式pは
p(λ) = (−1)n(λ − λ1)γ1· · · (λ − λk)γkq(λ) (1)
の形の一意な表現を持つ。γ1, ..., γkは正の整数で、qはいかなる実数根ももたない多項式である。式(1)の中 の因数(λ − λi)γ
i
の指数γiを固有値λiの代数的重複度と呼ぶ。
さらに、x1, x2, ..., xmをn次元ベクトルとし、X = (x1, x2, ..., xm)とする。もし対角行列Dが AX = XD
を満たすならば、x1, x2, ..., xmはAの固有ベクトル、またd1, d2, ..., dmはx1, x2, ..., xmに対応する固有値 である。
補題1
λをn × n行列Aの固有値、xをλに対応する任意の固有ベクトルとする。このとき、次のことが成り立つ。
1. 任意の正の整数kに対して、λkはAkの固有値であり、xはλkに対応するAkの固有ベクトルである。
2. もしAが非特異ならば、1/λはA−1の固有値であり、xは1/λに対応するA−1の固有ベクトルで ある。
証明
1. この証明は数学的帰納法による。定義より、λ
1
はA
1
の固有値であり、xはλ
1
に対応するA
1
の固有ベ クトルである。いま、λk−1がAk−1の固有値であり、xがλk−1に対応するAk−1の固有ベクトルであると 仮定する。このとき、
Akx= Ak−1Ax= Ak−1(λx) = λAk−1x= λλk−1x= λkx
である。
2. Aを非特異と仮定する。このとき、
x= A−1Ax= A−1(λx) = λA−1x
であり、よってA−1x= (1/λ)xである。
□ 定理1 (対称行列の固有値)
対称行列の特性方程式のすべての解は実数値をとる。すなわち、固有値である。 証明
Aをn次の対称行列とする。
det(A − λI) = 0
の解を1つとり、λ0とする。(λ0はもしかしたら虚数かもしれない。)λ0を以下のn個の同時方程式に代入 すると、
(A − λ0I)
x1 x2
... xn
=
0 0 ... 0
. (2)
x1, ..., xn について解くと、解は一般的には複素数であるが、解くことができる。方程式の解x∗1, ..., x∗nを式 (2)に代入すると、
A
x∗1
x∗2
... x∗n
= λ0
x∗1
x∗2
... x∗n
複素共役x¯∗1, ..., ¯x∗nを用いて式を書き直すと、
( x¯∗1 x¯∗2 · · · ¯x∗n ) A
x∗1
x∗2
... x∗n
=( ¯x∗1 x¯∗2 · · · x¯∗n ) λ0
x∗1
x∗2
... x∗n
これらの行列は1 × 1なので、転置行列は元の行列に等しい。したがって、
( x∗1 x∗2 · · · x∗n ) A
¯ x∗1
¯ x∗2
...
¯ x∗n
= λ0
( x∗1 x∗2 · · · x∗n )
¯ x∗1
¯ x∗2
...
¯ x∗n
両辺に複素共役をとると、
( x¯∗1 x¯∗2 · · · ¯x∗n ) A
x∗1
x∗2
... x∗n
= ¯λ0
( x¯∗1 x¯∗2 · · · x¯∗n )
x∗1
x∗2
... x∗n
よって、
λ0
( x¯∗1 x¯∗2 · · · x¯∗n )
x∗1
x∗2
... x∗n
= ¯λ0
( x¯∗1 x¯∗2 · · · x¯∗n )
x∗1
x∗2
... x∗n
式を書き直すと、
(λ0− ¯λ0)(x∗1x¯∗1+ · · · + x∗n¯x∗n) = (λ0− ¯λ0)(|x∗1|2+ · · · + |x∗n|2) = 0
|x∗1|2+ · · · + |x∗n|2̸= 0より、
λ0= ¯λ0
したがって、λ0は実数値である。
□ 定理2
もしn × n対称行列Aの2つの固有ベクトルx1, x2が相違なる固有値に対応していれば、x1, x2、は直交し ている。
証明
λ1, λ2をx1, x2が対応する固有値とする。このとき、定義より、Ax1= λ1x1, Ax2= λ2x2である。これ らの2つの式の最初の式の両方にx′
2を、2番目の式の両辺にx′
1をそれぞれ乗じると、
x′2Ax1= λ1x′2x1 x′1Ax2= λ2x′1x2
を得る。Aが対称なので、
λ1x′2x1= x2′A′x1=(x′1Ax2)′=(λ2x′1x2)′= λ2x′2x1 となり、よって
(λ1− λ2) x′2x1= 0
であり、従って、もしλ1̸= λ2ならば、x′
2x1= 0である。よって、もしλ1̸= λ2ならば、x1, x2は直交し
ている。
□ 定義2 (対角化:Diagonalization)
n × n行列Aはn × n非特異行列Qが存在して、適当な対角行列Dに対してQ−1AQ= Dとなるとき、 対角化可能であるといい、この場合QはAを対角化するという。また、
Q−1AQ= D ⇔ AQ = QD ⇔ A = QDQ−1
であることに注意。n × n行列Aは、それが直交行列で対角化可能なとき、すなわち、n × n直交行列Qが 存在してQ′AQが対角行列となるとき、直交対角化可能という。
定理3
あらゆる対称行列は直交対角化可能である。
したがって、もしAが対称行列ならば、Aは次のように書き換えられる。 A= XDX′
ここで、Dは要素が固有値の対角行列、Xは各列が固有値に対応した固有ベクトルになっている行列である。 また、XはX′X = XX′= Iとなる行列である。
定理4 (直交行列の固有値)
もしスカラー(実数)λがn × n直交行列P の固有値ならば、λ ± 1である。
証明
λをP の固有値と仮定する。このとき、定義より、ベクトルx̸= 0が存在して、P x= λxであり、よって x′x= x′Inx= x′P′P x= (P x)′P x= (λx)′(λx) = λ2x′x
である。x̸= 0なので、x′x̸= 0であり、上の等式をx′xで割ると、λ
2= 1すなわちλ ± 1となる。
□ 定理5 (冪等行列の固有値)
n × n冪等行列Aは0と1以外のいかなる固有値も持たない。
証明
スカラーλをAの固有値と仮定する。このとき、定義より、ベクトルx̸= 0が存在して、Ax= λxであり、 よって、
λx = Ax = A2x= A(Ax) = A(λx) = λ Ax = λ2x
である。x̸= 0なのて、λ = λ
2
すなわちλ(λ − 1) = 0であり、従って、λ = 0あるいはλ = 1である。
□ 定理6 (非負定値行列、正定値行列の固有値)
非負定値行列のあらゆる固有値は非負である。正定値行列のあらゆる固有値は正である。
証明
λを行列Aの固有値、xをλに対応するAの固有ベクトルとする。このとき、定義より、x ̸= 0であり、 よって、x′x> 0であり、さらにAx= λx、したがってx′Ax= λx′xを考慮すると、
λ = x′Ax x′x
である。いま、もしAが非負定値ならば、x′Ax≥ 0、よってλ ≥ 0である。また、もしAが正定値ならば、 x′Ax> 0、よってλ > 0である。
□
したがって、Aが対称で非負定値行列ならば、Aは次のように書き換えられる。 A= XDX′
= XD12D12X′