− 14 − − 15 − 評価の研究では、いわゆる「4つの観点」相互4 4
の関係4 4 4、とくに「思考・判断」と「資料活用」お よび「知識・理解」の関係に十分留意することが 重要と考える。また、生徒の学習を評価するため には、その前提として、予想される学習者の思考 類型をあらかじめモデル化4 4 4 4しておく作業が必要で ある。ここでは、大航海時代から19世紀にいたる 世界史A「2部 一体化に向かう世界」の授業に おいて、筆者が作成した評価用問題を事例に用い、 これらの点について私見を述べる。
大航海時代を扱う際、生徒の「関心・意欲」を 引き出すため、筆者はチョコレートを教材化し「カ カオと砂糖きびの出会いの歴史」と題した授業を しばしば実施する。そして授業の“山場”で次の ような問題を課し、生徒の「思考・判断」の力を 試している。
[問題例]チョコレートを「作る力」のもとは?
スペインは、チョコレートの原料のカカオの産地すな
わち今のメキシコ・ユカタン半島の低湿地帯も、砂糖
きびの移植先すなわち今のキューバなどカリブ海諸島
も、大航海時代に植民地化した。にもかかわらず、チ
ョコレートの生産力は弱く、やがてポルトガルやオラ
ンダ・フランス・イギリスなどに追い抜かれていく。
なぜスペインはチョコレートの生産を独占できなかっ
たのか。
このような問題を出すと生徒はどのような答え 方をするだろうか。そして、それらはどのような 「思考」の状態を示しているのだろうか。生徒の
出した答えをレベルに分けてモデル化してみると、 次のようになる。
<学習者思考モデル・レベル1>・チョコレートを 生産する力がスペインにはなかったから。(0点)
<学習者思考モデル・レベル2>・カカオ・砂糖きび・ チョコレートをうまく作る技術がスペインにはなかったか
ら。(1点)・作る技術を他の国に盗まれたから。(1点)
<レベル1>は、「生産力」という概念を具体 的にイメージできていない思考の状態であり、低 い評価しか与えられない。<レベル2>は、「生 産力」イコール「作る技術」と考えている状態で あり、誤りではないが、この問題の場合「作る力」 のもとは別の所にある。
<レベル1>や<レベル2>のような生徒に対 しては、砂糖きびやカカオを大量に生産するプロ セスが具体的にわかる資料や、生産技術だけでな く過酷な条件でも長く安価に機能する労働力の確 保が生産力の中核となることがわかる資料を与え ることが必要と考える。
<学習者思考モデル・レベル3>・カカオや砂糖き びを作ってくれる人がスペインにはいなかったから。(2
点)
生産力の中核として労働力に着目できている点、 <レベル1・2>とは質的に異なる思考であり、 若干評価の点数があがる。ただし、その労働がど のような人々によって担われていたかは、わかっ ていない思考状態である。このレベルの学習者に 対しては、西アフリカに注意を向けるような工夫 を入れた環大西洋の地図資料を与えてヒントとす ると、効果的に思考がすすむものである。
さて、「思考・判断」の問題に対して、生徒は「∼ ∼だから、∼∼∼なのでは?」と自分なりの仮説 を立て推論することが多い。この「推論」を単な
「2 部 一体化に向かう世界」
「思考・判断」から「資料活用」「知識・理解」へ
愛知県立成章高等学校 西 牟 田 哲 哉
は じ め に
「思考・判断」の問題例と学習者思考モデル
「思考・判断」における仮説・推論から 「資料活用」へ
− 14 − − 15 − る思いつきに終わらせず、歴史的・科学的なもの に近づけていくために「資料活用」の意義はある のだ、と筆者は考える。つまり、「思考4 4」を深め4 4 4 たり修正したりするために4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4「資料4 4」は活用される4 4 4 4 4 4 べき4 4なのであり、したがって、両者はセットにな っていなければいけない。近年センター試験等で、 グラフ読み取りなどの「資料活用」問題が新傾向 として目立つ。しかし、その資料がどのような仮 説の検証と対応しており、どんな「思考」を深め るための資料問題なのか、不明瞭なものが多いの は残念なことである。
さて、先のヒント(西アフリカを示した地図資 料)を与えると、生徒の中にはさらに上の段階の 思考と思われる答え方をする者が出てくる。次の ようなものである。
<学習者思考モデル・レベル4>・砂糖きびやカカ オを作る人、すなわち西アフリカの黒人との関係がスペイ
ンは弱かったから。(3点)
この状態まで思考が進んだ生徒には、別の地図 資料を与えてみる。そして、大西洋上に引いた縦 の破線の意味と ? 条約の中に入るものを答え させたい。正解の「トルデシリャス条約」は、知 っていなければ答えられないわけで、その意味で これは「知識・理解」の問題である。強調したい のは、「トルデシリャス条約でスペインは西アフ リカをポルトガルに譲った」という知識が、以上 の文脈で問えば先の「思考」を深めることに役立 つという点である。つまり、「知識・理解」もや はり「思考・判断」とセットになることが、学習 を効果的にするカギなのである。
「思考・判断」と「資料活用」および「知識・ 理解」の関係がバラバラなまま新傾向の出題を増 やしても、生徒は従来の「覚える」勉強に、意味 連関を感じない「資料問題」等が加わるだけで、 受験生の負担のみが倍増されてしまいかねない。 さて、最後に「関心・意欲・態度」と他3つと の関係について簡潔に指摘しておく。先の「トル
デシリャス条約」の他、たとえば「オランダ独立 の年号」「スペイン継承戦争の結果」といった、 一見細かそうに感じる知識は、実は大西洋奴隷貿 易においてそれぞれポルトガル・オランダ・イギ リスが優位に立つことに関連するものばかりであ る。生産力の基盤である西アフリカの黒人奴隷を 確保する国が、「19世紀に向かって一体化する世 界」において覇権をにぎっていったわけである。 知識を利用することで思考が深化すれば、さらに 追究しようと新たな関心・意欲がわいてくるもの である。
また、「年表」資料をうまく活用すれば、この 時代フランスでルイ14世が活躍していたことに気 づく生徒も出てくる。「コルベールの重商主義」 や「ナントの勅令廃止」といった知識も、先の「思 考・判断」の問題と関わりが深いのだ、と気づけ ば、ここでもやはり新たな興味・関心がわいてく るのではないだろうか。
このように、「関心・意欲・態度」とは単に導 入段階だけで終わるものではなく、「思考・判断」 「資料活用」「知識・理解」のいずれの場面におい4 4 4 4 4 4 4 4 4
ても継続的に機能するもの4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4 4なのではないか、と考 える。
以上をまとめてみる。いわゆる「4つの観点」 のうち実践の中心軸を作るのは、「思考・判断」 であると筆者は考えている。それに対し「資料活 用」および「知識・理解」は、中心軸の両翼に位 置するいわば車の両輪の役割を果たす。この際、 「思考・判断」との対応関係を明確に意識し、そ れぞれ両者がセットになっていることが重要だと 指摘してみた。他方、「関心・意欲・態度」は各 方面に向かってまんべんなく広がり、かつ、恒常 的に機能している状態が理想だ、といえよう。
参考文献 S.コウ他『チョコレートの歴史』
河出書房新社、1999年など
「思考・判断」と「知識・理解」の関係
「関心・意欲・態度」の位置