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帝国書院 | 高校の先生のページ 高等学校 世界史のしおり 2009年 4月号

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Academic year: 2018

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とを意味している。初代長官は映画にも登場し た、プロテスタント強硬派のウォルシンガムであ る。実際にウォルシンガムはスコットランド元女 王メアリ=ステュアートの動向を逐一探知してお り、最後はメアリを処刑に追い込んだ。彼の反カ トリック強硬姿勢は筋金入りで、実はユグノー戦 争中の1572年8月24日未明に起きたサン=バルテ ルミ虐殺事件を当時駐仏大使であったウォルシン ガムは目撃していたのである。以後、ウォルシン ガムらエリザベス側近たちはメアリ=ステュアー トらカトリック勢力と闘う決意を固めていった。  エリザベスの首を飾るラフ(襞襟)は当時のイ ギリス服飾の最も目立つ部分である。もともとイ タリアやフランスで始まったもので、エリザベス 1世期に上流階層で大流行した。このラフにとめ られた手袋のブローチは家臣たちの忠誠と愛を、 女王の胴着に描かれた花々はエリザベスの治世を “春”とみたてて縫い込まれている。女王の左袖 を飾る、王冠を被り赤いハートを口にくわえたヘ ビは、賢明さをもって正義を司る王者を象徴して いる。

 女王が右手に掴んでいるものは何だろうか。そ の答えが女王の右手上方に記されている“ノン・ シネ・ソル・イリス(Non Sine Sole Iris)”と いう銘である。意味は“太陽なくして虹はない”。 太陽が女王と考えれば、女王が掴んでいるものは 虹ということになる。虹は「平和」の象徴で、そ の由来は大洪水の後ノアが最初に見たものがエメ ラルド色の虹であったという『旧約聖書』「創世記」 の洪水神話にある。高く結い上げた髪型はギリシ ア北部テッサロニキの花嫁姿と考えられ、ここで はエリザベスを“イギリスの善良な民と結婚した 花嫁”と見立てている。その「花嫁」の20代と思 われる顔だちは、どう見ても70になろうとするエ リザベスのものではない。

 総じて《虹のポートレート》は女王の長い統治 とその威光を讃えると同時に、この作品を依頼し たロバートとその父ウィリアムが2代続けて女王 の宰相となりこの繁栄を支えてきた、というセシ

ル家の自負と栄光を誇示したものともなってい る。作者のアイザック=オリヴァーはイギリス・ ルネサンスを代表する画家ニコラス=ヒリヤード (《白貂のポートレート》の作者にして金銀細工師・

細密肖像画家)の弟子で、次代のジェームス1世 期には師匠を上回る人気を得た画家であった。彼 の両親は、北仏の港町ルーアンから迫害を逃れ、 幼い息子を連れてロンドンに亡命したユグノー で、ここにも歴史の刻印は刻まれている。

■ 映画シーンの教材化 ■

 最後に『エリザベス ゴールデン・エイジ』の 映画シーンについて、授業でぜひ取り上げてみた い場面をいくつか紹介してみたい。まずは冒頭の フェリペ2世が歩くシーン、場所はマドリードの エスコリアル宮殿、“日の没することなき帝国” と呼ばれたスペイン帝国の中枢にあたる建物であ るが、全体に流れる宗教的荘厳さに注目させたい。  次はウォルター=ローリがじゃがいもとタバコ を献上したシーン、大航海時代の説明には最適だ ろう。エリザベスが客人たちと外国語で話すシー ンも女王の教養の高さと女王の下で華開いたイギ リス・ルネサンスを語る契機になるだろう。乗馬 とダンスが得意であったことも映画シーンを使っ て指摘することができる。1588年のアルマダ海戦 は授業に使えるシーンのオンパレードだ。のろし をあげて敵船襲来を知らせるシーン、火船による 不意打ちのシーン、そして白馬にまたがり、銀の 兜・鎧の出で立ちで兵士を鼓舞したティルベリー 演説のシーンなどいずれも史実をしっかり踏まえ て作られており、海戦の経過と意義を話すには もってこいの教材となっている。

 現存する3種の《アルマダ・ポートレート》の いずれにも女王の背後左右には海戦の転換点とな る戦闘場面が描き込まれている。アルマダ海戦は エリザベス神話化の原点であったというのが、こ の映画制作の基本的スタンスだったのではなかろ うか。その総仕上げを象徴する絵画として《虹の ポートレート》が選ばれたのかもしれない。 ■ 一瞬の登場 ■

 その場面は一瞬であった。死期の迫った廷臣 ウォルシンガムを見舞い、抱擁するエリザベス1 世。カメラは一瞬、上方の壁に向けられ、オレン ジ色の上着を着たエリザベスの肖像画が全体の シーンの一部分を構成する。本当にほんの一瞬 にすぎないが(実際の肖像画は1601 〜 1603年に かけてのエリザベス最晩年に描かれており、ア ルマダ戦争後の1590年とは時代がかみあわず、映 画ならではのフィクションとして挿入されたと考 えられる)、この映画全体を流れる主要旋律—the Golden Age—を象徴する作品として監督はこの絵 画を採用したのだろう。このあと画面はサッと入 れ替わり、ウォルター=ローリと女官エリザベス= スロックモートンとの間に生まれた赤子(これは 史実でローリはこのためにしばらくロンドン塔に 幽閉された)をエリザベスが抱いて祝福を与える ことで映画全体が the End を迎えることにな る。“死と生”、衰退するスペイン帝国と興隆する イギリス王国の交代劇をまさに暗示するラスト シーンであった。

 では、この映画で瞬間的に取り上げられた通称 《虹のポ−トレート》はどのような経路で、どの ような意図で、どのような内容を持って描かれた のだろうか。エリザベスと肖像画の関係にも言及 しながら、レポートを進めていきたい。

■ エリザベスと肖像画 ■

 エリザベス1世は専属の宮廷画家を雇わず、臣 下が画家に依頼して自分の肖像画を制作させるよ うに仕向け、それを臣下の館の目立つところに展 示させたり、自分に寄贈させたりして家臣の忠誠

度を測ったといわれている。財政難解消をめざす 倹約家・吝嗇家のエリザベスらしいやり方である。 政治家のイメージ戦略は今では当たり前である が、そのイメージ戦略を16世紀後半のヨーロッパ で自ら意識して推し進めた君主こそがイギリス女 王エリザベス1世である。彼女の肖像画は中年に 入った1580年代以降見る者に年齢を感じさせなく なっていく。専門家は、この頃からの肖像画は女 王サイドからの規制によって10ケースほどのパ ターン化したものに固定化されていくと分析して いる。各種宝石類(真珠・ルビーなど)・装飾品 のちりばめられた衣装を着た女王、真珠を飾りつ けた鬘と思われる髪の女王、世界地図の上に立つ 女王、聖母マリアを思わせる白く無機質の顔の女 王等々。顔といえば、あのエリザベス1世の顔の 白さは異常である。画家がわざと白く描いたもの でもないようだ。女王はイタリアや東方由来の アーモンドをベースにした特別のクリームを持っ ていたといわれるが、詳細はわかっていない。  エリザベスの肖像画の中でとくに有名なものに は《白貂のポートレート》・《アルマダ・ポートレー ト》・《ディッチリー・ポートレート》・《虹のポー トレート》などがあるが、今回取り上げるのは上 述の《虹のポートレート》である。

 それにしても仔細に見ると不思議な絵である。 依頼主のロバート=セシルによって画家のアイ ザック=オリヴァーに指示があったのか、この作 品にはエリザベス1世の治世を讃える象徴が満ち あふれている。まず気になるのがオレンジ色のビ ロード生地に染めつけられた目と耳である。この 目と耳には国を治めるための情報獲得の重要性が 暗示されており、具体的にはエリザベスの時代に イギリスで初めて秘密諜報機関が設置されたこ

世 界 史 芸 術 鑑 定 団

10

世界史のしおり 2009年4月号付録

《虹のポートレート》はなぜ

映画『エリザベス ゴールデン・エイジ』に登場したのか

(アイザック=オリヴァー作 1601 〜 1603年頃 ハットフィールド・ハウス蔵)

参照

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