産業組織 II
Part II: 価格差別
若森 直樹
東京大学経済学部 2017年度 A2ターム
Part II で扱う内容
1. 価格差別の概要 2. 第一種価格差別 3. 第三種価格差別 4. バンドリング 5. 第二種価格差別 6. 実証分析の紹介
2-1: 価格差別の概要
価格差別の概要 (1/3)
▶ 今までのモデルでは,単一価格の設定を仮定
▶ しかし必ずしも企業は単一価格を提示しているわけではない
▶ 学生割引
▶ 数量によるディスカウント
▶ 同一の財に対して異なる価格がついている状況: 価格差別
▶ 研究関心: 価格差別が行われているような状況で... 1. 企業はどのように利潤を増加させているのか? 2. 消費者からすると価格差別は望ましいのか? 3. 社会的厚生は増加しているのか?
価格差別の概要 (2/3)
▶ 第一種価格差別 (完全価格差別):
売り手が,それぞれの買い手に,それぞれ異なる価格をつける ことができる場合
▶ 第二種価格差別:
売り手が,買い手の属性を直接は観察できないため,価格のメ ニューを提示することにより,消費者自身が自己選択により差 別化させられる場合
▶ 第三種価格差別:
売り手が,買い手の観察可能な属性(性別,年齢,居住地域な ど)に応じて,異なる価格をつけることができる場合
価格差別の概要 (3/3)
現実で価格差別が用いられていると考えられる例: 1.
2. 3. 4. 5. 6. 7. 8.
2-2: 第一種価格差別
第一種価格差別 (1/8): 設定
▶ 独占企業がある財を独占的に消費者に提供
▶ n人の消費者は各々その財を1単位だけ需要
▶ 各消費者i, i = 1, . . . , n,の 支払い用意をvi: v1≥ v2 ≥ · · · ≥ vn
▶ 仮定
▶ 独占企業は消費者各人の支払い用意を知っている
▶ 限界費用はc
▶ 独占企業はどのような価格を設定すべきか?
▶ そのような価格設定は社会的に見て効率的か?
第一種価格差別 (2/8): グラフィカルなイメージ
P
Q v1
v2
v3
v4
v5
v6
v7
v8
mc
第一種価格差別 (3/8): 社会的余剰
▶ 企業の最適戦略:
▶ この時,社会的余剰は最大化されている.なぜか?
▶ 価格差別ができない状況下では,独占企業はトレード・オフに 直面している:
▶ 価格を下げて販売量を増加させる
▶ 価格を下げると1単位当たりの利潤は減少
▶ 第一種価格差別では,各々の消費者に異なる価格をせっていで きるため,このようなトレード・オフが生じない
▶ よって,(消費者余剰をゼロだが)社会的余剰は最大化される
▶ このような状況は望ましいのだろうか・・・?
▶ この結論は需要関数の形状に依存しているのか?
第一種価格差別 (4/8): 価格設定の演習問題
演習問題3.1
独占企業が教科書を販売している.今5人の学生i = 1, . . . , 5がい て,各々の学生の支払い用意は1000i 円であるとする.一冊あたり の印刷代(限界費用)は1500円であり,第一種価格差別が行える 場合,独占企業はどのような価格設定をするか?また,価格差別で きない場合はどのような価格を設定するか?それぞれの時の利潤を 求めなさい.
演習問題3.2
アイスクリームをある企業が独占的に販売しており,アイスクリー ムをqkg作るコストは10qであると仮定する.今1人の消費者が
P(q) = 20 − 5qという需要関数を持っている.この時,独占企業は
どのような価格設定をすべきか?また,その時の利潤を求めなさい.
第一種価格差別 (5/8): あなたの答えと解答例
第一種価格差別 (6/8): 二部料金
▶ 二部料金(Two-Part Tariff): T (q) = A + pq
▶ A: 基本料金(参加費用)
▶ p: 単位当たりの料金
▶ 従来の価格設は線形料金(T (q) = pq)とみなすことができる P
Q p(q):個人の逆需要関数
MC(Q) pU
Sc
最適な(A, p)は {A∗ = Sc,
p∗= pU.
第一種価格差別 (7/8): 規制と社会厚生の変化
演習問題.2(続き)
政府がアイスクリームを独占している企業に一単位あたり同一の価 格になるような規制を導入する.この時,消費者余剰,生産者余剰, 社会的余剰はどのように変化するか?その結果を用いて,このよう な規制の是非を論じよ.
▶ 同一価格規制の下での価格:
▶ 消費者余剰:
▶ 生産者余剰:
▶ 社会的余剰:
第一種価格差別 (8/8): まとめ
▶ 第一種価格差別とは個別の消費者にそれぞれ価格を設定
▶ 第一種価格差別の下では社会的余剰は最大化される
▶ 転売と裁定(Arbitrage)行為
▶ 価格差別を行うには,転売や裁定行為を阻止する必要がある
▶ 先ほどの教科書の例で考えると・・・
▶ 実例1:
▶ 実例2:
▶ ただし,取引費用は転売を妨げる可能性もある
▶ サービスなどは転売などの可能性は少ない
2-3: 第三種価格差別
第三種価格差別 (1/7): イントロダクション
▶ 第一種価格差別は現実的ではない
▶ 独占企業は恐らくすべての情報を把握していない
▶ 独占企業は恐らく複雑な価格設定を遂行できない
▶ 「観察可能な消費者属性」を用いて,差別化する可能性はある
▶ 需要のタイプに応じた価格設定を「第三種価格差別」と呼ぶ
▶ 消費者を観察可能な属性に応じてグループ分けする
▶ 企業は各々のグループに各々の価格を設定する
▶ Market Segmentation (市場のセグメンテーション)とも呼ぶ
▶ 例を挙げてみよう:
▶
▶
▶
第三種価格差別 (2/7): 一般的なモデル
▶ m個のグループ別需要: Di(pi), for i = 1, 2, . . . , m
▶ 独占企業の利潤は以下の通り:
π =
m
∑
l=1
plDl(pl) − C ( m
∑
l=1
Dl(pl) )
▶ 一階の条件から
pi− C′(Q) pi
= 1 εi
, where εi = pi Di(pi)D
i′(pi), Q= m
∑
l=1
Dl(pl)
▶ 需要の価格弾力性に応じた価格設定をするべし εi < εj → pi > pj
第三種価格差別 (3/7): 演習問題 3.3
演習問題3.3
あるサービスの需要が年齢により異なっており,若年者の需要が QY(p) = 50 − p,高齢者の需要がQO(p) = 100 − pで与えられて いるとする.若年者と高齢者の人口比率は1:1で,限界費用は0だ と仮定する.
1. 第三種価格差別が許されている場合,独占企業はのどのような 価格を提示するか?
2. 第三種価格差別が許されていない場合,独占企業はどのような 価格を提示するか?
3. この場合,第三種価格差別は社会的効率性を阻害しているか? 4. 仮に若者の需要がQY(p) = 20 − pだとして,上記の1-3を繰
り返せ.
第三種価格差別 (4/7): 演習問題 3.3 のあなたの解答
第三種価格差別 (5/7): 演習問題 3.3 の解答例
第三種価格差別 (6/7): 演習問題 3.3 の解答例(続き)
第三種価格差別 (7/7): 議論
▶ 総生産量が演習問題3.3で変わらないのは,線形需要・費用の 関数形に依存していて,一般には異なる値になる
▶ 第三種価格差別が社会厚生を上がる条件は,総生産量が上昇し ていることである
▶ 演習問題3.3(4)のように,均一価格下では学生にはまったく販
売しないこともあり得るので,価格差別がパレートの意味での 改善を促すこともある
2-4: バンドリング
バンドリング (1/5): イントロダクション
▶ 企業が二つの異なる製品を販売している状況を考える
▶ そのような状況下で,二つの財を同時に販売する時,「バンド リング」(抱き合わせ)と呼ぶ
▶ 実際に Microsoft Office の生協販売価格は...
▶ Word/Excel/PowerPoint/Access単品 各15,984円
▶ 全部が入っている抱合せ品の価格30,024円
▶ この価格設定は本当に利潤を高めているのか?
バンドリング (2/5): バンドリングの例題 1
演習問題3.4
2タイプの消費者(各タイプは同人数)がそれぞれ以下のような WTPを持っている.限界費用が0の時,最適な販売方法は?
Word Excel 法学部生 10,000円 2,000円 経済学部生 4,000円 9,000円
▶ 単品販売する場合:
▶ バンドリングする場合:
▶ 結論:
バンドリング (3/5): バンドリングの例題 2
演習問題3.5
2タイプの消費者(各タイプは同人数)が各映画に以下のような WTPを持っている.限界費用が0の時,最適な販売方法は?
アクション アニメ A-Type 1,200円 1,000円 B-Type 800円 1,200円
▶ 単品販売する場合:
▶ バンドリングする場合:
▶ 結論
バンドリング (4/5): バンドリングの例題 3
演習問題3.6
2タイプの消費者(各タイプは同人数)が各映画に以下のような WTPを持っている.限界費用が0の時,最適な販売方法は?
アクション アニメ A-Type 1,500円 1,000円 B-Type 1,200円 800円
▶ 単品販売する場合:
▶ バンドリングする場合:
▶ 結論
バンドリング (5/5): 議論
▶ 多くの状況においてバンドリングは利潤を高める
▶ 人々の財に対するWTPが負の相関を持っている場合は顕著
▶ ただし,正の相関・独立の時に利潤を高める場合も存在
▶ 消費者余剰や社会的余剰に対するバンドリングの効果は曖昧
2-5: 第二種価格差別
第二種価格差別 (1/17): イントロダクション
▶ 第一・三種では企業が消費者の情報を知っていることが前提
▶ もし,それらの情報が無いと価格差別はできないか?
▶ 何も観察できなくとも「第二種価格差別」は遂行可能
▶ 企業はいくつかの料金体系を提示
▶ 消費者はメニューを選ぶことで自己選択を行う
▶ 消費者の選択行動を基に,企業は価格差別を行う
第二種価格差別 (2/17): 二部料金(再掲)
二部料金(Two-Part Tariff): T (q) = A + pq P
Q p(q):個人の逆需要関数
MC(Q) pU
Sc
最適な(A, p)は {A∗ = Sc,
p∗= pU.
こ のような2部料金は需要のタイプが増えても可能か?
第二種価格差別 (3/17): 直観的なイメージ
P
Q PH(q)
PL(q)
mc
qH∗ qL∗
p∗
第二種価格差別 (4/17): 直観的なイメージ ( 続き )
P
Q PH(q)
PL(q)
mc
qH∗ qL∗
p∗
˜ p
˜ qH
˜ qL A
B C D
第二種価格差別 (5/17): 直観的なイメージの解説
▶ (A, p) = (A + B + C , p∗)としたとき
▶ H,Lタイプはそれぞれ(q∗
H, qL∗)を消費
▶ 利潤は2人から基本料金をとり2(A + B + C )
▶ (A, p) = (A, ˜p)としたとき
▶ H,Lタイプはそれぞれ(˜q
H, ˜qL)を消費
▶ 利潤は2人から基本料金2Aととり,さらにHタイプからは
˜
qH(˜p− p∗), Lタイプからはq˜L(˜p− p∗)をとる
▶ 図より,それらはB, (B+C+D)である.
▶ よって利潤は2A + B + (B + C + D) = 2(A + B) + C + D
▶ 上記の二つのどちらが良いかは C ⋚ D に依存
第二種価格差別 (6/17): 演習問題
演習問題3.7
2タイプの消費者(各タイプは同人数)がいて,それぞれの財に対す る需要関数がDH(p) = 10 − p, DL(p) = 6 − pで与えられ,限界費 用が0だとする.独占企業は二つの価格メニュー(pH, qH), (pL, qL) を提示するとき,どのような価格と数量を選ぶべきか?
▶ T(q) = A + pqという形ではないことに注意
▶ もしタイプが観察可能であれば,独占企業は2つのメニュー
(価格と数量の組み合わせ)を提示:
▶ (p
H, qH) = (50, 10)
▶ (p
L, qL) = (18, 6)
(上の例では,10単位の財を50円というメニュー1か,6単位 の財を18円というメニュー2)
第二種価格差別 (7/17): 重要な制約条件
企業はメニューを提示する際に,企業が意図している商品を消費者 に購入してもらうために,2つの条件を考慮する必要がある
1. 参加制約(Participation Constraint, PC)
▶ 消費者が購入した時にゼロ以上の効用を受け取る
▶ Individual Rationality Constraintとも言う
2. 誘因両立制約(Incentive Compatibility Constraint, IC)
▶ H-typeの消費者にはH-typeの製品を購入した時の方が効用が 大きくなり,L-typeの消費者にはL-typeの製品を購入した時の 方が効用が大きくなる
▶ 自己選択(Self-selection)のメカニズム
第二種価格差別 (8/17): 問題の定式化
(pH,qmaxH),(pL,qL) pH+ pL subject to
(PCH) 1
2(10 + 10 − qH)qH− pH ≥ 0 (PCL) 1
2(6 + 6 − qL)qL− pL≥ 0 (ICH) 1
2(10 + 10 − qH)qH− pH ≥ 1
2(10 + 10 − qL)qL− pL
(ICL) 1
2(6 + 6 − qL)qL− pL≥ 1
2(6 + 6 − qH)qH− pH
第二種価格差別 (9/17): 制約条件の置き換え
▶ (ICH)と(ICL)から,qH ≥ qL
▶ (PCL)と(ICH)の二つは(PCH)を含意
▶ (PCL)は等号で成立
▶ (ICH)は統合で成立
▶ (ICH)とqH ≥ qLは(ICL)を含意
以上の観察より,問題は非常にシンプルに再定式化できる
第二種価格差別 (10/17): 問題の再定式化
(pH,qmaxH),(pL,qL) pH+ pL subject to
(PCL) 1
2(6 + 6 − qL)qL− pL= 0 (ICH) 1
2(10 + 10 − qH)qH− pH = 1
2(10 + 10 − qL)qL− pL
制約条件は以下のように書き換えることもできる (PCL) (6 − qL/2)qL− pL = 0
(ICH) (10 − qH/2)qH− pH = (10 − qL/2)qL− pL
第二種価格差別 (11/17): 問題の解答
▶ 制約条件をpH, pLについて解き,最大化問題に代入すると
qmaxH,qL
2(6 − qL/2)qL+ (10 − qH/2)qH− (10 − qL/2)qL
▶ これを解くと,(qH, qL) = (10, 2)を得る
▶ よって,提示すべきメニューは
{(˜pH, ˜qH), (˜pL, ˜qL)} = {(42, 10), (10, 2)}
▶ 一般にHタイプの誘因両立制約とLタイプの参加制約は等号 で成立し,その他の制約条件はバインディングにはならない
第二種価格差別 (12/17): 比較
▶ タイプがわかる場合とわからない場合の比較
{(p∗H, qH∗), (pL∗, q∗L)} = {(50, 10), (18, 6)} {(˜pH, ˜qH), (˜pL, ˜qL)} = {(42, 10), (10, 2)}
▶ 情報レント(Information Rent): 情報を明らかにするためには 費用がかかり,一般に高い需要を持っている人は若干の情報レ ントを得ることが可能
▶ 実際に,上の例でH-typeは同じ単位だけ消費しているのに8 だけ支払いが下がっている!
▶ L-typeはいずれにせよ0の消費者余剰を得る
第二種価格差別 (13/17): グラフィカルな解説
支払総額
総消費量
第二種価格差別 (14/17): グラフィカルな解説 2
支払総額
総消費量
第二種価格差別 (15/17): グラフィカルな解説 3
支払総額
総消費量
第二種価格差別 (16/17): グラフィカルな解説 4
支払総額
総消費量
第二種価格差別 (17/17): Damaged Goods
▶ 今の例でqは量だったが,これを品質と解釈することも可能
▶ PCのメモリーやHDD容量
▶ 飛行機のエコノミー・ビジネス・ファーストクラス
▶ その他
▶ 利潤を高めるため,あえて品質の悪い財を作る可能性がる
▶ そのような財を Damaged Goodsと呼ぶ
2-6: 実証分析の紹介
Leslie (2004, RAND) - Broadway Tickets (1/3)
▶ アメリカ・ブロードウェイの価格差別を研究
▶ 独占? - Yes
▶ 同じ公演でもチケットの価格には差があることに着目し,価格 データを収集
▶ 正規料金(H, M, L)
▶ クーポン割引,ブースチケット(当日半額)
Leslie (2004, RAND) - Broadway Tickets (2/3)
▶ 人々の効用関数のパラメータ(δ1, δ2, η, τ)を(構造)推定:
Uij =
qih[δ1yiδ2− ph]η, if H seat qim[δ1yiδ2− pm]η, if M seat qil[δ1yiδ2− pl]η, if L seat qib[δ1yiδ2− pb− τ yi]η, if booth qic[δ1yiδ2− pc]η, if coupon
実際の人々の行動(データ)と,このモデルが予想する人々の 行動を合致させるようなパラメーターを求める
Leslie (2004, RAND) - Broadway Tickets (3/3)
推定されたモデルを使って均一価格規制を導入した時の利潤を求め ると・・・
Table: Table 5 from Leslie (2004)
Experiment π CS Num pl pm ph pb pc
現状 4.70 NA 662 17 29 55 28 31 均一料金 8.02 3.60 810 50 50 50 – – ブース無くす 6.73 3.58 873 17 29 55 – 43 Booth not 50% 8.45 3.59 850 24 41 54 38 46
McManus (2007, RAND) - Specialty Coffee
▶ University of Varginia のコーヒーショップのデータ
▶ Sweet Espresso, Regular Espresso, Drip Coffeeを考えたとき, どれを購入する人から最も消費者余剰を搾取しているか?
▶ 人々の効用関数のパラメータ(βxi, γxi, α, δ)を(構造)推定: Uijlt = βxiqjγx − αpj + δDjl + ξj + εijlt
▶ 推定された各種のマークアップは...
Table:Table 4 from McManus (2007)
Mean ∆P − ∆C
Product Line All Drinks Smallest Largest
Drip Coffee 0.22 0.16 0.29
Regular Espresso 0.23 0.29 0.21 Sweet Espresso 0.08 0.13 0.06