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金属Vol86 No7 631638pdf 最近の更新履歴 wwwforumtohoku3rd

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(1)

高橋 禮二郎,日野 秀逸,大村  泉,松井  恵 

井上明久氏による特許の不正出願疑惑と

JST 東北大学の対応

(1)下記の 2 つの特許の出願書類に明記されたバルク金属ガラス作製の実施例は,大型で特殊な溶解鋳

造工程を有する装置が必要不可欠である.当該実験装置が東北大学に納入されたのは1995 年 2 月であ ったことが確認されている.しかし,両特許の出願は,装置の納入以前,すなわち1994 年 10 月 14 日 および1995 年 1 月 25 日になされていた.両特許の出願書類に明記された実施例は,どのようにして 得た結果であるのか極めて疑問であり,架空であったことが強く疑われる.

(2)同上装置の作製費用は新技術事業団(現 科学技術振興機構,以下 JST)が提供し,同装置を井上氏に

貸与したことが確認されている.JST はこの装置に関連する特許出願を行い,井上氏は発明者として

名前を連ねた.ところが,この特許の出願前に,井上氏はJST に秘匿し,JST 抜きで民間企業と共同 で同種の特許出願を行っていた.そのためJST の特許は不成立となった.このことは JST に対する重

大な背信行為である.JST の予算は,国税から出されているから,国民は重大な関心を持っている.

(3)JST が上記の事実関係を知り得たのは,特許庁から,JST を出願人とする特許について,2005 年 10

月31 日付で―つまり出願後 11 年近く経ってから―,拒絶理由通知を受けたことによってであった.

拒絶理由は,JST を出願人とする特許は,先願されていた井上氏を出願人兼発明者とする特許の「発明

と同一」であることにあった.

(4)この通知を受ける以前には,JST は井上氏の背信行為に気づかず,同上装置の作製費用は無論,そ

れ以降,ERTO プログラム・井上過冷金属研究プロジェクト(1997 ∼ 2002 年)に対する約 18 億円を筆

頭に,多額の研究費を井上氏に提供していた.また,JST が太鼓判を押したために,他の機関も井上

氏に多額の予算を支給した.

(5)しかし,JST は井上氏の背信行為を知って以後も,調査は無論,井上氏に抗議をすることも,ペナ

ルティーを科すこともしていない.JST は井上氏の背信行為のいわば犠牲者だが,JST が井上氏に提

供した研究費の原資が国税である以上,JST が事態をこのまま放置することは,タックスペイヤーに

対するJST の社会的な説明責任放棄とならざるを得ないであろう.

【特願平  6-249254】(以下,本稿では「井上特許」という) 発明の名称:差圧鋳造式金属ガラスの製造法

 出願日:1994 年 10 月 14 日  出願人:井上明久,㈱真壁技研  発明者:井上明久,張涛

 代理人:弁理士 渡辺望稔(外1 名)

【特願平  7-28720】 (以下,本稿では「JST 特許」という)

発明の名称:金型で鋳造成形された棒状または筒状のZr 基非晶質合金および製造方法

 出願日:1995 年 1 月 25 日  出願人:新技術事業団

 発明者:井上明久,増本健,張涛,篠原吉幸  代理人:代理人:弁理士 小倉亘

(2)

はじめに

 井上明久東北大学前総長(現 城西国際大学教 授)は,捏造・改ざん,多重投稿など多くの研究不 正疑惑が指摘されている.これらの詳細はすでに 本誌2∼6 月号で論じられている.井上氏に関す る多数の論文不正の調査過程で,同氏の特許出願 にも明らかな倫理違反と思われる点が判明した. 本稿では,同氏の特許出願に認められる倫理違反 行為の事実関係と,それに対する科学技術振興機 構(以下,JST)および東北大学の対応について述 べ,読者の公正な判断を仰ぎたいと考える.  なお,本稿が依拠した特許情報や雑誌記事,東 北大学の開示情報,我々の研究不正告発等へのア クセス方法は,本稿巻末の「参考文献,文書,資 料の出典」を参照されたい.

 我々は,井上氏が日本金属学会欧文誌に公表し た,吸引鋳造法による直径16mm,長さ 70mm あ るいは直径30mm 長さ 50mm の Zr 基のバルク金 属ガラスの作製に関する研究論文に,例えば200g の原料に基づいて240g のバルクサンプルができ た等という質量保存則に反する記述や,5.3kPa と いう常識的には考え難い低いアルゴンガス圧力雰 囲気下でのアーク溶解の実験条件等に疑問を見出 し,論文のほか,関連する吸引鋳造法(同氏は,こ のバルク金属ガラスの鋳造方法を「差圧鋳造法」 とも呼んでいる.両者は同一方法である)による特 許も調査していた.しかし,特許申請の手続きそ のものに重大な問題点があることには,気づいて いなかった.ところが,『週刊金曜日』2015 年 11 月27 日号に掲載された三宅勝久氏の記事「まぼろ しのノーベル賞 東北大学“井上合金事件”」にお いて,井上氏は,1994 年 10 月 14 日付けで「差圧 鋳造式金属ガラスの製造法」の特許出願をしてい たが,この出願書類に「実施例」として盛り込まれ た実験が,実は架空の実験,つまり「カラ実験」で あったと報じられた.三宅氏は,この事実関係を, 井上氏本人と,東北大学に問い合わせ,両者の文

書回答の内容が明らかに齟齬することによって確 認している.

 一方,我々は,2009 年 10 月 9 日付けで,井上 氏を研究不正で東北大学に告発した際,「井上特 許」の【0032】に,図 5(X 線回折図形)は,本実施 例において,アーク式差圧鋳造法により製造され た2 種の…」とあるが,その図 5 のデータは,石 英管に保持した液体合金の水焼入れ法により製造 した結果を報告した論文(Mater. Trans. JIM, Vol.34 (1993), 1234-1237)の Fig.3 と同一であり,虚偽の データを使用して特許申請がなされていたことを 指摘していた.これに対して,東北大学はこの図 面の流用という事実は認めたが,捏造にはあたら ない旨を公表した.その根拠は,元特許庁審判長 青山紘一氏が意見書で述べた,「問題の図面は,特 許出願の代理人が,申請時に本来の図面と取り違 えて誤って添付したもの」であって,「本来の図面 と実際に添付した図面の『X 線回折パターン』はほ とんど違わないものである」,であった.すなわち 東北大学は,井上氏の特許出願における疑惑の責 任を出願代理人= 弁理士に帰したのであった.  このような経緯もあり,我々は三宅氏の『週刊 金曜日』の記事を看過できなかった.そこで我々 は,告発以来情報開示請求などによって収集した 文書を含めて井上氏の特許不正疑惑を再検討した. その結果,井上氏の当該特許出願に関連して,さ らに深刻な疑惑や問題が浮上した.

井上特許, JST 特許が架空実験に

基づくものであったことの根拠

(1)2 つの特許の実施例を真の実験結果であ ると判断できない理由

 繰り返しになるが,ここで再度再確認しておく.

「井上特許」の出願日は1994 年 10 月 14 日であり,

「JST 特許」の出願日は,1995 年 1 月 25 日である.  『週刊金曜日』の記事の著者である三宅勝久氏 が,井上氏と東北大学に,「井上特許」の【実施例】 として記されている実験について質問したところ,

「井上氏と東北大学は,実験は東北大学の研究室で

(3)

やり,実験装置の搬入は95 年 2 月だった旨それぞ れ回答した」とある.この井上氏が研究室で行っ た実験に使用した装置(差圧鋳造法あるいは吸引 鋳造法)の搬入が95 年 2 月だったという点は,東 北大学の2 つの開示文書,すなわち平成 7 年(1995 年)2 月 28 日付けの東北大学と新技術事業団との

(「㈱真壁技研製汎用金属ガラス鋳造試験装置一式」 に関する)「物品使用賃借契約書」(以下,「契約書」, と略記)および1994 年 11 月 2 日付け,新技術事 業団発信のファクス「汎用金属ガラス鋳造試験装 置製作仕様書」(以下,「仕様書」,と略記)によっ て裏付けられる.例えば,「仕様書」に示されてい る,装置の納入期限は当初平成6 年(1994 年)12 月20日となっているが,手書きで平成7年(1995年) 2 月 20 日に訂正されている.図 1 に,この「仕様 書」の当該箇所を示す.なお,「契約書」では,こ の日付はさらに訂正され装置の貸借期間は「平成 7 年 2 月 28 日から平成 7 年 3 月 31 日」となり,更 新可能とされているが,これらの「仕様書」およ び「契約書」の装置の納入時期の日付は,三宅氏の 記事で言う東北大学の「実験装置の搬入は95 年 2 月だった」と整合する.

 「井上特許」の出願日:1994 年 10 月 14 日,およ び「JST 特許」の出願日:1995 年 1 月 25 日は,「実 験装置の搬入は95 年 2 月だった」という東北大 学の言明に明白に先行する.三宅氏の「井上特許」 の【実施例】として記されている実験に関する質問

に対して,井上氏は「実験は東北大学の研究室で やった」と回答したというが,装置が東北大学に 搬入される前に,どのように実験を遂行できたと いうのだろうか.極めて疑問というほかない.三 宅氏の疑問は「井上特許」に限定されるが,我々は,

「JST 特許」についても,同じ疑問を見出さざるを 得ない.

(2)青山氏意見書と井上氏の特許訂正審判 請求との齟齬

 本稿「はじめに」で述べたように,我々は,東北 大学に対して「井上特許」の実施例として与えら れている図5 のデータは,申請した差圧鋳造法で 作製したサンプルのデータではなく,井上氏らが 1993 年に公表した水焼入れで作製した Zr 基のバ ルク金属ガラスの論文のデータと同一であり,捏 造図であると2009 年 10 月に告発した.これに対 して,東北大学対応委員会は,青山氏の意見書に 基づいて,井上氏の特許出願におけるこの疑惑の 責任を出願代理人= 弁理士に帰したのであった. しかし,この青山氏の意見書の内容を否定する「井 上特許」の「訂正審判請求」(請求日:2009 年 11 月 26 日付け)が,井上氏自身から特許庁に提出され ていたのであった.

 「井上特許」の実施例として与えられている図5 のデータについて,井上氏は,上記「訂正審判請 求」を特許庁に提出した.青山氏の意見書どおり 図1 「仕様書」で装置の納期期限を示すページ部分

(4)

ならば,井上氏は「井上特許」の図5 の図面につ いては,特許出願の代理人が申請時に間違えてし まった本来の図面と差し替えればよいだけのはず である.しかも,青山氏の意見書によれば,「本来 の図面と実際に(代理人が誤って)添付した図面の

『X 線回折パターン』はほとんど違わない」という のだから,「本来の図面」は井上氏の手許にあった はず―「ほとんど違わない」という言葉は,両者 を比較しない限り書けない言葉であり,「本来の 図面」があったはずと考えられる―であり,なお さらのこと,差し替えで済むことである.しかし, 井上氏の「訂正審判請求」は,図5 の削除であった. この図5 の削除が意味するところは,差圧鋳造法 で確かに金属ガラスができたことを示す図5 の『X 線回折パターン』について,「本来の図」は,実は 存在しなかったことを井上氏自身が自己申告した ことに相当する.青山氏の意見書の内容は正しく ないことが,井上氏によって明らかにされたのも 同然である.しかも,この2009 年 11 月 26 日付の

「訂正審判請求」は,青山氏の意見書の日付,2009 年11 月 14 日から 2 週間も経たない時点で提出さ れていたことは驚きである.

特許申請における井上氏の JST に

対する背信行為

 当該の2 つの特許については,さらに指摘して おくべき重要なポイントがある.第1 に,井上氏 は,公的機関であるJST を巻き込んで,架空実験 に基づいて特許出願するという倫理違反疑惑を抱 かせることになった.それだけではなく,第2 に, 2 つの特許出願に関わって JST と東北大学の信頼 関係を根底から揺るがす恐れがある背信行為をし ていた.

 「契約書」に明記されているように,井上氏が 1995 年 2 月末以後,実験に用いた装置は新技術事 業団が東北大学に貸与したものであった.「JST 特 許」の出願書類を見ると,JST を出願人とするこ の特許の出願は,「井上特許」の出願日(1994 年 10 月14 日)よりも前の 1994 年 10 月 8 日に開催され

た日本金属学会秋季大会の講演概要を踏まえてい ることが明記されており,この10 月 8 日の時点で 井上氏は,新技術事業団が特許出願の意向を有す ることを知っていたと考えられる.しかし,井上 氏はその事実を知りながら,新技術事業団を出願 人とする「JST 特許」に先立って,1994 年 10 月 14 日付で,同一内容の特許出願を井上氏自身および 真壁技研㈱を出願人として出願していたのである. この出願の事実は新技術事業団に秘匿していたの で,1995 年 1 月 25 日付で出願された新技術事業 団を出願人とする「JST 特許」は,特許法第 29 条 第2 項により不成立となった.発明の名称からは 異なる特許のようにも見えるが,図2 の「拒絶理 由通知書」のとおり,特許庁によって両特許出願 は同一の発明と判断されている.

 特許出願に係る装置の予算措置は新技術事業団 であり,装置の製作は真壁技研であった.「井上特 許」および「JST 特許」によれば,「井上特許」では 井上氏は出願人と発明者であり,「JST 特許」では 井上氏は発明者であった.「JST 特許」の特許出願 に係る第1 の責任は,全ての関係を知る立場にあっ た井上氏にあることは間違いない.前述のとおり, 特許出願に係る装置の予算措置は新技術事業団が 行い,かつ新技術事業団は出願人として「JST 特許」 の申請を行った.ところが,井上氏自身がこの「JST 特許」の出願に先立って,同一内容の「井上特許」 を,自らを出願人として行っていた.そのため,「JST

(「JST 特許」)の請求項に係る発明は,その出願の 日前の特許出願であって,その出願後に出願公開が された(「井上特許」)の願書に最初に添付された明 細書又は図面に記載された発明と同一0 0 0 0 0であり,しか も(「JST 特許」)の発明者がその出願前の(「井上特 許」)に係る上記の発明をした者と同一ではなく,ま た,この(「JST 特許」)出願の時において,その出願 人が上記特許(「井上特許」)の出願人と同一でもない ので,特許法第2 条 9 条の 2 の規定により,特許を 受けることができない.

図2 「拒絶理由通知書」抜粋,( ) 内,太字,傍点は抜 粋者

(5)

特許」は特許法第29 条第 2 項により不成立となっ た.したがって,井上氏は新技術事業団の特許権 を横取りした疑いが濃厚であり,井上氏は新技術 事業団に対して重大な背信行為をしたと言わざる を得ない.

 井上氏は権利を取得した「井上特許」について 2009 年(= 平成 21 年)11 月 26 日に訂正審判を請 求していた.既述のように,この請求の趣旨は同 特許の図5 の削除であり関連する記述変更である. これは我々の同年10 月 9 日付け研究不正告発で, 同図が特許申請した作製法による実施例ではなく, 全く別の作製法による金属ガラス試料のデータを 利用した;すなわち同図は捏造であるとの指摘を 受け,その事実関係を認めることを余儀なくされ たことから行われたものと推断される.この井上 氏の訂正申請を拒絶した特許庁の審判文書による と,井上氏の請求理由は,特許の文書が「瑕疵の あることを理由に全部について無効審判を請求さ れる恐れがあるので,そうした攻撃に対して備え る意味において瑕疵のある部分を自発的に事前に 取り除いておこう」とするためであった,という. 言葉を換えれば,井上氏は,たとえ当該特許が架 空実験という如何に不正かつ違法な手段で得たも のであったとしても,さらにこの特許が新技術事 業団に対する反倫理的手段を用いて得られたもの であったとしても,そこから生じる権益だけは何 としても守ろうと考えていたことになる1).あき れてしまう対応である.

JST は,タックスペイヤーの負託に

応え,事の次第を明らかにし,井上

氏にペナルティーを科すべきである

 井上氏の当該研究を支援した新技術事業団に対 する井上氏の背信行為は,出願した特許が出願後 20 年を経過して権利がすでに失効しているので, 責任を問うても実害がない等の理由で,放置すべ きものでは決してない.我々は昨年12 月にこの問 題について濱口道成JST 理事長に対して文書によ る通報を行い,本年2 月 9 日には,JST の東京本 部を訪問し,JST 総務部長ら幹部職員 5 氏と意見 交換する機会をもった.

 意見交換の席上,JST の幹部職員5氏は,次の 2 点を確認した.

 (1)我々の 2 つの特許に記載された実施例が架 空であるとの認識は,JST もまた否定できないこ と.すなわち現存するエビデンスで最も重要な東 北大学とJST との「契約書」(平成7 年 =1995 年 2 月28 日付け)を否定する文書が存在しない以上, 我々のように考えざるを得ないこと.

 (2)「JST 特許」の出願は「井上特許」の出願に 先立って構想されていた.しかし井上氏は,自身 が発明者となり特許申請を主導した「JST 特許」の 出願に際し,「井上特許」の出願についてJST に秘 匿していた.結果的に,「JST 特許」は,「井上特許」 によって拒絶査定された.この我々の認識につい て,JST の幹部職員諸氏は,これを肯定し,①井

注1) 井上氏の特許にまつわる研究者倫理を疑われるよ うな例は,他にもある.参考までにその一例を示す.例 えば,井上氏と三菱マテリアル,独立行政法人産業技術 総合研究所(以下,産総研)の三者が共同で出願した特許

(特開2004-169117)には「手続き補正書」があり,この特 許の「発明者欄」が「錯誤」訂正されていることを公文書 から知ることができる.すなわち,この「補正書」には,

「本願の出願当初の願書において発明者の記載に誤りが ありました.即ち,本件発明者の真の発明者は『喜多晃一, 原重樹,伊藤直次』の3 名であるところ,錯誤により『井 上明久,木村久道』を記載しました.従いまして,この たび,発明者『井上明久,木村久道』を削除する次第で

あります.」と記され,井上氏ら関係者の押印がある「宣 誓書」がこれに添えられて公表されている.またこれら の特許権に関する井上氏から三菱マテリアル,産総研に 対する「譲渡証書」も公表されている.

 特許出願書類の「発明者」欄を「錯誤」訂正するのは極 めて異例のことだと思われる.そもそも特許の「発明者」 欄の作成で「錯誤」があったと言うこと自体,一般の理解 を超える.当該特許の真の発明者の知らないところで,あ るいは彼らの許可なしに,井上氏らが特許申請を行ってし まった結果の補正措置だと考えると理解しやすい.いず れにしても,このケースでは,関係者が井上氏の不可解 な行動に責任ある対応をした結果であると推断できる.

(6)

上氏が「井上特許」の出願をJST に秘匿して行って いたこと,②「井上特許」の出願に一定期間先だっ て事業団から井上氏に対する特許出願装置に関す る開発費支給の内諾があったと推断される,と述 べた.

 こうして,昨年末から今春にかけての,二度に わたる我々のJST への通報は,共通の事実認識を 確認する点では成果はあったが,JST がこの問題 について何ら社会的な説明責任を果たしていない, という大きな問題が残ったままである.すなわち, JST は,第 1 に,「JST 特許」が拒絶査定されるこ とになった上記経緯について,社会的説明責任を 果たしていない,第2 に,「JST 特許」の出願で, 新技術事業団は,公的機関でありながら,明白な 違法脱法行為を犯していた,という疑念を否定し きれず,この点について,現時点でJST は経緯を 熟知しながら,ここでも問題の社会的説明責任を 果たしていない.

 我々は,この2 つの問題に関する第 1 の責任は 井上氏の側にあると考える.しかしだからといっ て,当該特許がJST の前身である新技術事業団に よって出願された事実を変更することはできない. 加えて,その出願内容が架空の実施例に基づくこ とについて,根拠を示して否定できないというの だから,JST は,虚偽のデータをもって権利を主 張したことに対する責任を免れるものではない. したがって,JST は社会的説明責任を果たすべき であり,井上氏に対して適切な対応を取るべきで ある.

おわりに

 2 つの特許,【特願平 6-249254】および【特願平 7-28720】の出願には,井上明久氏の関与は明白で ある.両特許の出願書類には実施例が記載されて いる.ところが,この実施例を得たはず実験装置 が東北大学に納入されたのは,両特許の出願日よ りも後である.これは明らかに矛盾する.井上氏 の「(実施例に関する)実験は東北大学の研究室で 行った」という説明とは全く整合性がない.また,

これらの2 つの特許の間には,井上氏の JST に対 する背信行為も認められ,JST 側の職員もその事 実関係を把握しているはずだが,いまだにJST 側 のアクションがないことは誠に残念である.我々 は本年2 月 9 日の意見交換を踏まえて,2 月 15 日 付けで濱口道成JST 理事長に申し入れを行い,そ の末尾で次のように述べたことを紹介しておく. JST が一刻も早く「幹部間で協議中」の返答レベ ルを返上して,社会的説明責任を果たすことを期 待し,かつ切望している.

 「井上氏の当該特許取得やその後のその保全 に係る対応は,井上氏が利用したJST の制度 の趣旨に明らかに反するのではありませんか. JST の予算は税金を原資にしています.井上 氏の対応は,税金を使って私益を求めるもの であり,この点に関して,事柄が露見したと きは無論,現在も,JST が抗議もしなければ ペナルティーも科さない,と言うのでは,JST は国民の負託に応えることには決してならな いのではないでしょうか.さらに幾つもの新 たな事実を知り得た現在も,引き続き放置し 続けることは,タックスペイヤーに対する責 任回避になりませんでしょうか」.

[ 補足1] 東北大学に対する監査請求(2016 年3 月 22 日付け)

 本稿で指摘した特許出願に係る井上氏の問題は, 井上氏が東北大学金属材料研究所所長,東北大学 総長補佐,副学長そして総長職を歴任したことに 鑑み,本年3月22日付けで,東北大学監事に対して,

①一連の事実を確認調査すること,②東北大学が 井上執行部時代に青山氏意見書を踏まえて我々の 告発事項を不問視したことを再検討すること,③ 特許出願における提携先への背信行為防止策の策 定,④JST への東北大学としての謝罪,等を骨子 とする監査請求をおこなった.請求書は,同大学 の秘書氏に直接渡し,監事に確実に届けること, 監事から受領した結果を文書で知らせて貰えるよ うに依頼し,快諾を得た.しかし,東北大学の監 事小林邦英氏および藤田宙靖氏からは,本稿校正

(7)

時点(本年6 月 7 日)でも,請求を受領したとの返 信すらない.

[補足2]吸引鋳造法(差圧鋳造法)における 特異なハース形状

 「井上特許」,および「JST 特許」の出願内容に虚 偽があることの,さらなる根拠として,装置に付 された特異なハース形状がある.この場合,ポイ ントとなるのは,前掲「仕様書」3 ページの鋳型に 関する記述である.そこには,「B)性能 4)鋳型,ロ) 鋳込み形状φ 10mm ×500mm,φ 20mm× 200mm, φ 30mm ×100mm」と明記されている.この点が特 に重要である.差圧鋳造プロセスの模式図は,「井 上特許」と「JST 特許」出願書類のそれぞれ図 2 と 図1 として示されている.両者は基本的に同じで あるので前者を用いて説明する.図3に「井上特許」 出願書類の「図2」を示す.この「井上特許」の図 2(a)は溶解工程で,図 2(b)は鋳込み工程を示す. 38 と記される溶融合金は 12a と記される移動底部 で支えられている.この移動底部が下方に移動す ると,図2(b)のアモルファス(ガラス)合金と記 される鋳塊(インゴット)39 が得られる.

 しかし図3 の模式図は不十分な書き方のため, 必ずしも容易に理解できない可能性がある.そこ で実際の装置の図面を用いて説明する.図4「組 立図」は,我々の告発に対して,東北大学から伊 藤貞嘉研究担当理事名義で送られてきた回答書に 添付された図面で,図には「㈱真壁技研製の差圧 鋳造式金属ガラス作製装置Φ30 ハース組立図」と 記されている.なお,図4 では,この名称部分は 紙幅の関係でカットし,当該作製装置図面のみを 紹介している.ここでΦ30 と記された円筒状の物 体は下方に移動することができるピストンである. アーク溶解中,ピストンは溶融合金を支える役割 を果たす.②は,ガイドチューブ,つまりシリンダー である.ピストンが下方に引かれると,円筒状の 空間が生じ,ここに溶湯が流れ込んで凝固し,鋳 塊(インゴット)ができる仕組みである.鋳塊のサ イズは,上記の円筒状の空間の大きさによって決 まるが,その大きさの最大限は,「仕様書」に記さ

れたφ 10mm×500mm,φ 20mm×200mm,φ30mm

×100mm である.長さは短くなることはあり得る が,直径は,φ10mm φ 20mm φ 30mm と一定で, これら3 種類以外の直径をもつ成果物は,「仕様書」 図3 「井上特許」出願書類の「図2」

4 「組立図」(抜粋)

(8)

に記された「汎用金属ガラス鋳造試験装置」では, 作製できないはずである.

 「井上特許」の実施例【0025】には,直径 16mmΦ

× 長さ 200mm の大型アモルファス合金塊を鋳造 したと記されている.「JST 特許」の実施例【0013】 に は,「 直 径16mm,断 面 積 201mm2及 び 長 さ 50mm の丸棒試料と,外径 16mm,内径 8mm,断 面積151mm2及び長さ50mm の筒状試料」を作製 したとなっている.この直径16mm という「汎用 金属ガラス鋳造試験機」の作製仕様書に含まれて いないサイズの試料が作製できたと特許出願に記 載していることは,特許出願書に記された事項に 明らかな虚偽があり,装置の納入前に実験が行わ れなかったことを強く裏付ける証拠の一つでもあ る.

参考文献,文書,資料の出典

1. 本稿が取り上げた 2 つの特許,すなわち

1) 「井上特許」(【特願平 6-249254】,発明の名称:「差圧 鋳造式金属ガラスの製造法」)

2) 「JST 特許」(【特願平 7-28720】,発明の名称:「金型 で鋳造成形された棒状または筒状のZr 基非晶質合金 および製造方法」)

および上記「井上特許」に対する井上氏の

3) 「訂正審判請求」(請求日:2009 年 11 月 26 日付け). 4) 特許庁のこの請求に対する「審決」書面(確定日:

2010 年 5 月 17 日付け). および上記「JST 特許」に対する

5) 特許庁発信,新技術事業団出願代理人宛の「拒絶理 由通知書」(起案日:2005 年 10 月 31 日付け). 6) この通知が確定したことを示す「拒絶査定」文書(起

案日:2006 年 2 月 27 日付け).

 これら6 つの特許出願書,および関連文書は,いずれ

も特許庁の下記「特許情報プラットホーム」からダウ ンロードできる.

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage) 2. 本稿,脚注 1)で示した事例についても,上記特許庁

の「特許情報プラットホーム」から全て検索可能であ る.

3. 『週刊金曜日』2015 年 11 月 21 日,27 日,12 月 4 日号)   以上3 号の同誌は,下記サイトで全文公表されてい

る.

 http://chikyuza.net/archives/58536

4. 本稿で引証した東北大学の開示資料,すなわち 1) 東北大学と新技術事業団との(「㈱真壁技研製汎用金

属ガラス鋳造試験装置一式」に関する)「物品使用賃借 契約書」(平成7 年(1995 年)2 月 28 日付け). 2) 「汎用金属ガラス鋳造試験装置製作仕様書」(1994 年

11 月 2 日新事業団発信のファクス).

3) 「㈱真壁技研製の差圧鋳造式金属ガラス作製装置Φ30 ハース組立図」.

この3 点は,いずれも我々の下記 HP でオリジナルの写 しを掲げている.

https://sites.google.com/site/wwwforumtohoku3rd/ 5. その他

1) 「井上特許」の X 線回折図家に関する我々の 2009 年 10 月 9 日付け告発は,我々の上記 HP からダウンロー ドできる.

2) 青山紘一氏の意見書は,下記東北大学 HP から,ま た我々のHP からもダウンロード可能である.  https://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/

20091120_01.pdf

たかはし・れいじろう TAKAHASHI Reijiro

元東北大学教授.工学博士.専門:金属工学,環境工学. ひの・しゅういつ HINO Shuitsu

東北大学名誉教授.医学博士,経済学博士.専門:医療経済学. おおむら・いずみ OMURA Izumi

東北大学名誉教授.経済学博士.専門:政治経済学,研究倫理. まつい・めぐむ MATSUI Megumu

仙台弁護士会所属弁護士.専門:ハラスメント,人権問題.

参照

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