自然保護助成基金成果報告書 vol. 25 (2017)
2014 年度 直接助成
第 12 回生物多様性条約締約国会議(CBD/COP12)における世
界の NGO・市民社会の貢献にむけた共同活動
NPO 法人ラムサール・ネットワーク日本
柏木 実・浅野正富・後藤尚味・花輪伸一・呉地正行・
堀 良一・安藤よしの・陣内隆之・菅波 完
はじめに
この活動は,2014 年 10 月 6 ~ 17 日に韓国 カンウォン(江原)道のピョンチャン(平昌) で開催された第 12 回生物多様性条約締約国会 議(CBD/COP12)参加の取り組みである. CBD/COP12 の最大の目的は 2011 - 2020 の 10 年間に生物多様性の減少傾向を食い止める という愛知目標の実施に関する中間評価であっ た.
この会議に私たちラムサール・ネットワーク 日本 ( ラムネットJ ) は NGO オブザーバーと して参加した.条約は国と国との約束事を決め る会議であるが,特に近年,環境条約は目的達 成のため政府以外の利害関係者の役割を重視し ている.私たちは以下の目的を持って COP12 に参加した.
1. 生物多様性条約の実施と生物多様性の保全 活動における NGO・市民社会の役割を明らか にし,NGO・ 市民社会からの意見を COP12 の 決議等の文書に反映させるように,締約国その 他に働きかけること.
2. 生物多様性条約の 2011-20 戦略計画(愛知
生物多様性目標)を支える,「国連生物多様性 の 10 年」の枠組みの中で私たちが取り組んで いる,水田の生物多様性向上(田んぼ 10 年計 画)や,地域の生物多様性向上のための活動( 湿地のグリーンウェーブ)について,世界の NGO の生物多様性保全活動に関するイベント の中で発表し,共有すること.
3. 生物多様性と環境に関して共通の問題を持 つ日本と韓国の湿地 NGO が継続してきた,湿 地の生物多様性の保全に関する問題意識の共有 と,協力活動を,今後湿地だけでなく,その他 の共通した問題に関する草の根レベルの運動の 共同行動に拡げる契機とすること.
この目的に向け,ラムネットJは,日本で は国連生物多様性の 10 年市民ネットワーク( UNDB 市民ネット),IUCN 日本委員会と,ま た国際的には韓国湿地 NGO ネットワーク( KWNN)や韓国 CBD 市民ネットワーク,また CBD に関わる世界の地域 NGO や市民団体の集 合体である CBD アライアンス,ラムサール条 約における地域 NGO の組織である世界湿地ネ ットワーク(WWN)などと連携 ・ 協力して取
2015.7.22 受付 2016.
キーワード:生物多様性の保全,日韓市民の連携,国連生物多様性の 10 年,多国間環境条約における市 民運動,湿地の保全
り組みを行なった.取り組んだ活動は,生物多 様性保全における NGO・市民社会の役割とそ の貢献をテーマとして条約交渉に参加し,また 以下のようにシンポジウム,サイドイベントや ブース展示,記者会見などを共同して,また独 自に実施した.
Ⅰ.ポジションペーパーの作成と代表団の派遣 ラムネット J はこれまで湿地保全のためにさ まざまな活動を行なってきた.CBD/COP12 に は,これらの活動の条約における役割,重要性 を強調する立場を表明し,締約国代表にこの立 場を明確に表現し,また条約交渉にあたって, 同様な考えを持つ個人・団体と協力して交渉に 関与する資料とすることを目的として,ポジシ ョンペーパーを作成し,会議場において配付し た(図 1).
参加したメンバーは条約交渉と関連プログラ ムに積極的に関与するために,本会議に役員 9 名が参加した.その他にサイドイベントのスピ ーカーなどとして,8 名のメンバー ・ 関係者が 参加した.
Ⅱ.広報の手段および展示ブースの設置 会議参加者に対する広報手段として作成したも のは,チラシ ・ 冊子などの印刷物と,展示用の タペストリーやポスターである.同時に展示ブ ースを申請し,韓国 NGO 湿地ネットワークと 共同で掲示・配付し,コミュニケーションの場 として活用した(図 2).
印刷物はポジションペーパーの他,「田んぼ 10 年プロジェクト」,「湿地のグリーンウェーブ」 を説明するパンフレット ・ 冊子を作成し,ラム ネットJの活動を紹介するタペストリー,およ びチラシを作成する共に,各地の会員団体が湿 地に関連して取り組むさまざまな問題を展示, 配布した.会議場のセキュリティーエリアの外 にある展示ブースには各国代表,NGO などだ けでなく,地域の人々,拡声なども訪れ,来訪 者とよいコミュニケーションを図ることができ た.
図 1 ポジションペーパー.韓国語,英語の 2 か国語で作成 した.
図 2 展示ブース.会場から離れたテントの中に展示用ブー スが用意されていた.
Ⅲ.サイドイベントの開催
韓国湿地 NGO ネットワークと共同で,日本 と韓国のみならずアジア湿地保全における問題 と世界の NGO の役割について,10 月 9 日およ び 10 日夕方にサイドイベントを実施した. 9 日の,「アジアの湿地の現状」をテーマと するサイドイベントは韓国湿地 NGO ネットワ ークと連携して行なった.日本と韓国に関して は,諫早湾に関する攻防,韓国の 4 大河川開発 という大規模公共工事による湿地の生物多様性 破壊の事例.東南アジアについては,ラムネッ ト J が事務所を共有しているメコンウォッチに よる,住民の生活破壊につながるメコン川流 域の開発の事例.そして,WWN の南アジア準 地域代表は,ネパールにおける湿地保全の問題 と,WWN の世界の湿地保全にむけた NGO の 取り組みの事例についての発表を行ない,ディ スカッションをした.この情報交換を通して
,アジアの湿地に対する脅威の多様さと共に
,市民の声を聞かない行政の姿勢とそれに対す る NGO の問題提起の重要性が浮き彫りにされ
,また同時に,市民が湿地の保全と再生に向け て活動することの大切さが確認された(図 3). 10 月 10 日のサイドイベントは,「島嶼にお
ける軍事基地による生物多様性に対する圧力を 考える」をテーマとして,二つの島で活動して おられる方々をスピーカーとして,日本の沖 縄・韓国のチェジュという島嶼における軍事基 地による生物多様性への脅威を事例として発表 が行なわれた.これらの島嶼が本土と離れてい るために人権の問題にも,自然や生きものの問 題にも目をつぶり,基地の軍事目的の強権下に 破壊されていることが明らかにされた.このサ イドイベントには CBD の先住民・地域住民( Indigenous and Local Community:ILC) グ ル ー プの方々が自分たち先住民の抱える問題と同じ であるとして,多くの人々が参加してくれた( 図 4).
Ⅳ.記者会見
上記 2 つのサイドイベントは,特に,4 大河 川開発と ,チェジュ道カンジョン村の基地と いう韓国における開発に関わるものであったの で,会議場の記者会見室を利用してそれぞれ翌 日に記者発表を行い,KWNN,ラムネットJ など日韓 NGO と WWN の主張を各国代表,そ の他,会議参加者およびマスコミに伝える場を 設けた.
図 3 サイドイベント アジアの湿地の状況.サイドイベント 参加者たち 「水の流れを妨げずに解き放て!」
図 4 サイドイベント 島嶼の生物多様性.沖縄の軍事基地 問題の発表.
4 大河川開発については会議参加者による現 地視察も計画され,現地での韓国マスコミによ る取材も受け, その様子は全国に向け紹介され た(図 5, 6).
Ⅴ.国際シンポジウムおよびエクスカーション の共同開催
韓国 CBD 市民ネットワークは,CBD 事務 局の ILC グループ担当者とコンタクトをとり, ILC グループ等と共同で韓国および他の国の地 域住民および先住民による生物多様性保全の活 動に関して,「生物多様性と持続可能な開発に 向けた地域住民の能力向上」をテーマとした週 末イベントを 10 月 11-12 日に実施した.ラム ネットJはこのイベントに,UNDB 市民ネッ トと共に企画段 階から参加した.
11 日は「文化を考える日」として午前中は, 朝鮮半島の非武装地帯での地域住民の生物多様 性保全につながる農業実践を行なっている「月 精寺」をエクスカーションとして訪れた(図 7
).ここでは仏教者の生物多様性に対する思い を聞き,文化を体験した.午後,COP 会場に 戻って発表を聞いた.12 日は「生物多様性を 考える日」として先住民,地域住民の生物多様 性保全のための伝統的な知恵を利用した取り組 みや地域住民による保全の取り組みについて発 表と討議を行なった.
ラムネットJは,12 日の生物多様性の日の 発表の一つとして,田んぼの 10 年計画につい て,広く市民を巻き込んで行なうことの出来る 生物多様性保全の取り組みとして紹介した.
図 5 記者会見 1 四大河川.田んぼの生物多様性向上の取 り組みを発表する.
図 6 記者会見 2 チェジュ島カンジョン村の生物多様性. カンジョン村の軍事基地問題を訴える韓国の NGO
図 7 週末イベントのエクスカージョンで訪れた月精寺.お 堂に集まり座して生物多様性を語った.
図 8 記者会見 2 チェジュ島カンジョン村の生物多様性. カンジョン村の軍事基地問題を訴える韓国の NGO.
Ⅵ.CEPA フェア
会期が終わりに近づいた 14 日は生物多様性 の日とされており,CEPA フェアが行なわれた
.これは生物多様性の大切さを伝え,社会の主 流とするための普及啓発活動(Communication, Educaion, Participation and Awareness-raising: コ ミュニケーション,教育,参加,啓発活動)を 考える一連の行事が行なわれた.
IUCN 日本委員会は,日本の中で愛知目標を 実現するための取り組みを増やすキャンペーン として推進している「にじゅうまるプロジェク ト」の取り組みを発表し,他の国への浸透を図 るイベントを実施した.ラムネット J はここで も「田んぼ 10 年プロジェクト」に関する発表 の機会を持った.このプロジェクトは愛知目標 達成に向けた NGO の活動として,IUCN-J の にじゅうまるプロジェクトに参加しており,愛 知目標に対応する水田目標を設定し,具体的な 活動を提起しているという意味で,その代表的 な取り組みとと見なされていたからである(図 9).
Ⅶ.まとめ
2010 年 COP10 で,私たちは「国連生物多様 性の 10 年」という枠組みを提案し,CBD 市民
ネットの一員として会議における採択を支えた
.愛知目標は,締約国だけでなくすべてのセク ターの主体的取組みが必要だからであった.田 んぼ 10 年計画はそれを受けた私たちの取組で ある.この取り組みについて,さまざまな形で 発表する場を得ることができたことは,私たち のこの活動を確かなものとし,今後更に拡げて いく上での示唆を得ることになった.
日本と韓国の湿地 NGO は 1990 年代前半か ら交流を持ってきた.特に諫早湾の閉切りに前 後して,密接な連絡を取り合い,互いに協力 活動を続けてきた.ラムサール COP10 ,CBD/ COP10 における共同活動は両条約の水田の生 物多様性に関する決議 ・ 決定の採択に大きな力 となってきた.
今回韓国で CBD/COP12 が開かれるにあたっ て,湿地以外の NGO にはこの会議が政府の政 策のみを利するものであり自然保護 ・ 生物多 様性保全のためには会議に参加することが否 定的に捉えられる傾向が主流であった.しか し,日本を含む世界の NGO がその主張を COP に伝えるには,主催国の NGO との連携作業が 不可欠であり,このためラムネットJとしては KWNN と共に韓国の湿地以外の NGO に働きか けてきたことで,得ることのできたのが今回の 成果である.
この意味で全体を通して,連携のため多くの 時間を割く必要があり,議案や議事に対する準 備・対応ができず,またそれを可能にする人的 余裕がなかったことが極めて残念であった. しかし,サイドイベント等では,多様な参加 者の積極的な参加があり,良い形での働きかけ ができたように思う.また,韓国の NGO との つながりも,UNDB 市民ネットとの協力もあ って若い人々の積極的な関わりの姿が見えてき て,湿地だけでなく,今後にも続く幅広いつな がりができたことは大きな成果と言える.
図 9 記者会見 2 チェジュ島カンジョン村の生物多様性. カンジョン村の軍事基地問題を訴える韓国の NGO.
Annual Report of Pro Natura Foundation Japan vol. 25 (2017)
2014 Direct Grant Programme
Joint activities toward a contribution of international NGO/civil
societies at the twelfth conference to the Convention on Biological
Diversity (CBD/COP12)
KASHIWAGI Minoru, ASANO Masatomi, GOTO Naomi,
HANAWA Shin’ichi, KURECHI Masayuki, HORI Ryouichi,
ANDO Yoshino, JINNAI Takayuki and SUGENAMI Tamotsu
Ramsar Network Japan
Key words: Convention of Biodiversity, Japan/Korea cooperation, United Nations Decade on Biodiversity, civil society in multilateral environmental agreement, wetland conservation and wise use