ミクロ経済学第 2 回課題解答
今井 陽介
2016
年11
月8
日1 基礎問題
1.「労働の限界生産性」とは、ある投入計画から労働投入量をさらに1単位増やしたときの生産量の増分 を指す。
2. 生産投入量を一律t倍(t > 0)したときの生産量が、もとの生産量のt倍を上回る場合を「規模に関し て収穫逓増」という。それに対して、もとの生産量のt倍と等しくなる場合を「収穫一定」、下回る場 合を「収穫逓減」という。
3. 小問3, 4では、資本量K ∈ ℜと労働量L ∈ ℜを投入して、1財のみを生産する場合を考える。生産関 数をf : ℜ2→ ℜ、生産物価格、資本価格と名目賃金率の組を(p, r, w) ∈ ℜ3とする。このとき、要素需 要関数x : ℜ3→ ℜ2と供給関数y : ℜ3→ ℜは以下の様にして定義することができる。
(xK(p, r, w), xL(p, r, w)) ≡ argmax
(K,L)∈ℜ2
[pf (K, L) − rK − wL]
y(p, r, w) ≡ f(xK(p, r, w), xL(p, r, w))
4. 生産水準をq ∈ ℜと表すと、費用関数C : ℜ3→ ℜと生産量条件付き要素需要関数z : ℜ3→ ℜ2は以 下の様に定義できる。
C(r, w, q) ≡ min
(K,L)∈V (q)[rK + wL]
(zK(r, w, q), zL(r, w, q)) ≡ argmin
(K,L)∈V (q)
[rK + wL]
ただしV (q) ≡{(K, L) ∈ ℜ2f (K, L) = q}
5.「限界費用」とは、ある生産量から1単位さらに生産量を増やしたときにかかる費用の増分を指す。他 方で「平均費用」とは、生産が行われるときに総費用を生産量で割った値を指す。
6.「可変費用」とは、生産量に応じて変化しうる費用のことである。これに対して、「固定費用」とは生産 量に関わらず企業が支払わなくてはならない費用を指す。
2 標準問題
2.1
『ミクロ経済学演習』(抜粋)【同書の解答・解説を参照】
2.2
政府の課税と生産1. 市場価格532が175より高いので、演習問題2.4(3)(b)より従量税導入前の最適生産量は22である。 つぎに従量税を入れたときの企業行動を考える。従量税導入後の費用関数は(x3− 30x2+ 400x +
4000) + 132xとなる。固定費用がすべてサンクされないため、生産量がゼロ(x = 0)のときの費用は
4000、利潤は-4000となる。他方で、x > 0のとき、一階条件は 532 = p = 3x2− 60x + 532
となり、これより最適生産量は20となる。このときの費用はC(20) = 10640で利潤は0となるので、 課税後の企業の最適生産量は20となる。以上から企業の最適生産量は、従量税の導入によって22から 20へと減少した。■
2. 政府による直接課税は、企業がいかなる生産活動をしたとしても課せられるものである(たとえ生産量 がゼロであっても課せられる)。よって、企業の生産活動に直接的に影響を与えることはないため、最 適生産量は22からは変化しない。■
3 発展問題
1. (i)ρ = 1のとき
f (K, L) = αK + (1 − α)Lは明らかに線形関数である。□ (ii)ρ → 0のとき
log[ lim
ρ→0f (K, L)] = lim
ρ→0log[f (K, L)] (∵ logの連続性)
= lim
ρ→0
log[αKρ+ (1 − α)Lρ]
ρ (1)
= lim
ρ→0
log[αKρ+ (1 − α)Lρ] − log[αK0+ (1 − α)L0] ρ
= d
dρ[log[αK
ρ+ (1 − α)Lρ]]
ρ=0
=αK
ρlog K + (1 − α)Lρlog L αKρ+ (1 − α)Lρ
ρ=0
(∵合成関数の微分公式)
= log[KαL1−α]
∴lim
ρ→0f (K, L) = KαL1−α
【別解】
牛刀をもって鶏を割くようではあるが、(1)式にロピタルの公式を利用することもできる。
(1) = lim
ρ→0 d
dρ[log[αK
ρ+ (1 − α)Lρ]] d
dρ[ρ]
= lim
ρ→0
αKρlog K + (1 − α)Lρlog L αKρ+ (1 − α)Lρ
= log[KαL1−α] □
(iii)ρ → −∞のとき
一般性を失わずにmin[K, L] = Kを仮定する。このとき
ρ→−∞lim f (K, L) = K lim
ρ→−∞[α + (1 − α)(L K)
ρ]1ρ
= K (∵ K ≤ Lから(L
K)
ρ→ 1 as ρ → −∞)
∴ lim
ρ→−∞f (K, L) = min[K, L]■
2. CES型生産関数規模に関して収穫一定であることを示すには、∀t > 0, f (tk, tL) = tf (K, L)を満たす ことを示せばよい*1。いま任意のt > 0について
f (tK, tL) = [α(tK)ρ+ (1 − α)(tL)ρ]1ρ
= t[αKρ+ (1 − α)Lρ]ρ1
= tf (K, L)■
3. {
fK(K, L) = αKρ−1[αKρ+ (1 − α)Lρ]1−ρρ
fL(K, L) = (1 − α)Lρ−1[αKρ+ (1 − α)Lρ]1−ρρ (2) (2)式より、ζKLの分子は以下の通りとなる。
fK(K, L)/fL(K, L)
K/L =
α 1 − α(
K L)
ρ−2
またζKLの分母についても(2)式から以下の様に計算できる。
∂[fK(K, L)/fL(K, L)]
∂[K/L] =
∂
∂[K/L] [ α
1 − α( K
L)
ρ−1] = α(1 − ρ)
1 − α ( K
L)
ρ−2
∴ζKL= 1 1 − ρ 次にρの経済学的な含意を考える。いま
ζKL= −
∂[K/L] K/L
∂[fK(K, L)/fL(K, L)] fK(K, L)/fL(K, L)
(3)
と変形すると、(3)式の分子は資本・労働比率の変化率を表すことがわかる。また分母は、資本の労働 に対する(技術的)限界代替率の変化率を指す。利潤最大化問題おける一階条件から、分母は資本と労 働の価格比に等しい*2。よってζは、資本と労働の価格比の変化率に対する、資本・労働の投入量比率 の変化率を表す。これを「代替の弾力性」という。CES型関数はその名前の通り、この弾力性が常に
1
1−ρ に一定に保たれる特殊な関数である。故に、ρも価格比率の変化に伴う資本・労働比率のある種の
「相対的な反応度」を表しているといえる。■
*1このような関係を満たす関数を、1 次同次な (homogenous of degree one) 関数という。
*2奥野正寛編『ミクロ経済学』p.111-112 を参照。
4. 生産水準をq ∈ ℜとおくと、費用最小化問題は以下の様に定式化できる。
minK,L[rK + wL]
s.t.f (K, L) = [αKρ+ (1 − α)Lρ]ρ1 = q
ラグランジュアンL(K, L, r, w, q, λ) ≡ rK + wL + λ{q − f (K, L)}を設定して、LをK, Lについて 偏微分すると、以下の一階条件が導出される。
{r = λfK(zK, zL)
w = λfL(zK, zL) (4)
∴ zK zL =
{ (1 − α)r αw
}ρ−11
(5)
(5)式を制約式f (K, L) = qに代入すると、以下の条件付き要素需要関数を求めることができる。
zK(r, w, q) = (αw)
1 ρ−1
x(r, w) q zL(r, w, q) = {(1 − α)r}
ρ−11
x(r, w) q
(6)
ただしx(r, w) ≡ [α{(1 − α)r}ρ−1ρ + (1 − α)(αw)ρ−1ρ ]1ρ さらに(6)式を目的関数rK + wLに代入すると、以下の費用関数を得る。
C(r, w, q) = {x(r, w)}
ρ−1
α(1 − α) q
■ 5. (4)式を変形すると
r
fK(zK, zL)= λ = w fL(zK, zL) となる。ここで、λ = f w
L(zK,zL)に注目する。するとfLは、労働投入量を1単位増やしたときの生産 量の増分を表すのであった(労働の限界生産性)。よって f 1
L(zK,zL) は、最適な資源投入が達成されて いるもとで、さらに(労働力だけを使って)1単位生産量を増やすときに新たに必要となる労働投入量 を表す。つまりλは、1単位余分に生産を行ったときの「最小化された費用」の増分を指すことにな る*3。f r
K(zK,zL) = λについても同様のことが言える。一階条件からも明らかなように、最適な労働・ 資本投入量においては、1単位の生産量増加を資本投入のみで賄ったときの「最小化費用」の増分と、 労働投入量のみで賄ったときのそれとが等しくなっている。■
*3実は効用最大化問題でのラグランジュ乗数にも、同様の経済学的な含意(「シャドウプライス」)がある。この含意に興味のある人 は、奥野正寛編『ミクロ経済学』p.46-47 や神取道昭著『ミクロ経済学の力』p.44-47 を参照してほしい。
6. 小問4での費用関数を用いると、利潤最大化問題は以下の様に定式化できる。
maxq [pq − C(r, w, q)] = max
q
[
p − {x(r, w)}
ρ−1
α(1 − α) ]
q
供給関数と利潤関数をそれぞれy(p, r, w), Π(p, r, w)と表す。Πがqに関する線形関数であるので、単 純にqの係数の正負で場合分けをすればよい。故に
y(p, r, w) =
φ if p > {x(r, w)}
ρ−1
α(1 − α) t ∈ ℜ+ if p = {x(r, w)}
ρ−1
α(1 − α) 0 if p < {x(r, w)}
ρ−1
α(1 − α)
Π(p, r, w) =
+∞ if p > {x(r, w)}
ρ−1
α(1 − α)
0 otherwise
■