乳幼児の不思議な世界をさぐる

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乳幼児の不思議な世界をさぐる

大学院教育学研究院・大学院教育学院 准教授

川田

かわた

まなぶ

(教育学部教育学科)

専門分野 : 発達心理学

研究のキーワード : 乳幼児,発達,他者理解,子育て,幼児教育

HP アドレス : http://www.edu.hokudai.ac.jp/(教育学研究院)

http://cdee.edu.hokudai.ac.jp/wordpress/(乳幼児発達論研究室)

何を目指しているのですか?

英語で乳児を意味するinfantの語源は、“もの言わぬ者”です。人間を定義するときの 1つの重要な側面は言語の使用だと言われますが、私たちの人生はその定義から外れたと

ころから始まるのです。私が専門とする発達心理学では、乳児期を0歳から2歳頃までと

しますが、あなたは2歳より前の記憶をどの程度持っていますか?おそらく、ほとんどの

人はその時期の記憶にアクセスすることができないでしょう。記憶機能そのものは、胎児

期の後半には存在しているのです。しかし、後年になって想起可能なかたちに加工されて

はいません。

古いアルバムやビデオ映像の中の自分を見ると、不思議な気

分になるものです。確かに身体は存在していたようだ、しかし、

この幼い自分の心の世界が、今の自分にまで繋がっているとい

う実感はどうしても得られない・・・。もし、あなたがこの不

思議な感覚に共感できるなら、それはすでに人間発達の科学的

探究への扉を開いています。

私はこれまで、乳幼児が身の回りの世界をどう認識し、その

認識をどう発達させていくのかについて研究を行ってきまし

た。特に、自己意識や他者理解というものがどのようなしくみ

やプロセスで発達していくのかを中心的なテーマとしてきました。自分は何者であるか、

他者とは何であるかという問いは、私たち人類にとって最も根源的なものです 。そうした

問いは、乳幼児の段階ですでに立ち上がっていくのです。不思議でしょう?

どのように研究するのですか?

乳幼児の心に対する探究は魅惑的ですが、研究をする上で大きな問題となるのは、より

大きな子どもや大人と同じような方法を採用することができないということです。大人で

あれば、感じていることや考えていることを言語で報告してもらったり、パソコンの画面

上に特定の刺激映像が現れたらボタンを押してくださいというような言語的教示によって

反応してもらうという方法を用いることができます。特に乳児にはこうした方法が使えな

いため、乳児の視線、刺激への馴れと関心の回復、表情、身体動作などをもとに、乳児の

心的世界を推測することになります。

出身高校:神奈川県立座間高校 最終学歴:東京都立大学大学院

人文科学研究科 こころ/教育

乳児はいったい何を思い、感 じているのだろう?

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乳幼児というと、「幼稚園の先生」とか「保育士さん」といった柔らかいイメージの職

業が連想されるかもしれません。たしかに、乳幼児の研

究は子育てや幼児教育の実践にも示唆を与えるもので

すし、私も現場と協働して実践に示唆を与える研究を大

切にしています。しかし、乳幼児の研究は動物の行動研

究とも相通じ、実験方法を開発したり、映像機器を携え

てフィールドワークに出かけたり、乳幼児の行動や反応

を測定するための材料(玩具的なもの)を製作するなど、

マルチな能力を必要とする分野であり、それが醍醐味で

もあります。

最近の研究にはどのようなものがありますか?

擬似酸味反応という現象についての研究を紹介しましょう。擬似酸味反応というのは、

例えば梅干を食べたことのある人が、他者が梅干を食べようとしている場面を見て、思わ

ず酸っぱそうな表情をしてしまうといったものです。私はこうした反応が乳児期にすでに

見られるのではないかと考え、生後5~14か月の赤ちゃんたちに協力してもらい、レモン

を用いて実験を行いました。

その結果、レモンを食べた経

験のある赤ちゃんは、実験者が

真顔のままレモンを食べようと

する場面を見ると、酸っぱそう

に顔をゆがめたり、頭をかきむ

しったり、のけぞったりといっ

た特徴的な反応を示しました。

こうした反応は、レモンを食べ

たことのない赤ちゃんには観察

されませんでした。ちなみに、

赤ちゃんたちにはレモンのみを

提示する時間も設けましたが、いずれの群の赤ちゃんもあまり反応を示しませんでした。

レモン摂食経験のある赤ちゃんたちは、なぜ他者のレモン摂食場面の観察だけで、自分

が酸っぱいような反応を示したのか?ここから先は、心理学研究者にとって最も楽しみな

時間です。色々な解釈可能性があります。理論や先行知見を踏まえながら、研究者として

のアイデンティティをかけた独自の理論化へと進むのです。

今後の課題は?

乳幼児の発達研究は、社会に子どもの不思議さを伝え、子どもへの敬意と配慮を育てて

いくことが使命であると考えています。研究のための研究に陥らず、常に社会的な課題を

視野に入れながら、基礎研究と実践研究をまたぐスタンスを維持したいと願っています。

1、2歳児の実験で使用する材料の 一例(タモ網とサカナ)

事前にレモンを食べた経験のある乳 児に、実験者が真顔のままレモンを食

べるところを見せる 顔をゆがめる

頭をかく 舌を出す

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参照

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