理論ゼミ 第 13 章 II
藤井涼平
2016 年 6 月 20 日
1 色磁気相互作用
1.1 ポジトロニウムのスピン―スピン相互作用
Vss
(
e+e−)
−2µ03 µ1· µ2δ
(
x)
(1)で表される. ここで, x は電子と陽電子の相対座標. µ1, µ2は電子と陽電子の磁気モーメント:
µi
±e
ℏ
2meσi (2)
である1).
Proof. 電子はポテンシャル
A
(
r)
−(
−µ1× ∇)
1r (3)
をつくる. 従って,陽電子の磁気モーメントと電 子の作る磁場の相互作用項は
Vss µ2· B
(
r)
µ2·[∇ × A
(
r)
]µ2·
[
∇ ×(
µ1× ∇) ]
1 r
[
µ2·{
µ1∇2− ∇(
∇ · µ1) } ]
1 r
[
µ1· µ2∇2−(
µ2· ∇) (
µ1· ∇) ]
1 r (4)1)猪木, 川合「量子力学 II」では µi|e |ℏσi/2meと定義さ れていることに注意.
となる. s状態での摂動は,
⟨Vss⟩
∫
|ψ
(
r)
|2·
[⟨
µ1· µ2⟩
∇2−⟨ (
µ2· ∇) (
µ1· ∇) ⟩]
1 rdr(5) s状態は球対称だから,
⟨ (
µ2· ∇) (
µ1· ∇) ⟩
1 3
⟨
µ1· µ2⟩
∇2 (6)∴
⟨Vss⟩ 2 3
∫
|ψ
(
r)
|2⟨
µ1· µ2⟩
∇21 r−2 3
∫
|ψ
(
r)
|2⟨
µ1· µ2⟩
·4πδ(
r)
(7) ここで, ∇2(
1/r)
−4πδ(
r)
を使った. 自然単位 系ではµ04πだから,⟨Vss⟩ −2µ0 3
∫
|ψ
(
r)
|2⟨
µ1· µ2⟩
δ(
r)
(8) よって,Vss−2µ0
3 µ1· µ2δ
(
x)
□
1
(2)を代入することで, (1)は
Vss
(
e+e−)
e2
ℏ
2µ 06m2e σ1· σ2δ
(
x)
ℏ
2µ06m2e e2 4πϵ0
ℏ
c4πϵ0
ℏ
cδ(
x)
ℏ
2α 6me2µ0ϵ0·4π
ℏ
cδ(
x)
2π
ℏ
3 3c ασ1· σ2
me2 δ
(
x
)
(9)となる.
1.2 クォーコニウムのスピン―スピン相互作用 クォークの色電荷には,色磁気相互作用と呼ばれ るスピン―スピン相互作用が働く. クォーコニウム は強い相互作用で束縛されているから,ポジトロニ ウムに比べて粒子間の距離が短い. 従って,クォー コニウムのスピン―スピン相互作用はポジトロニウ ムのそれに比べてはるかに強い.
クォーコニウムのスピン―スピン相互作用ポテン シャルは, (9)を4/3倍しα → αsとすることで得
られる. 因子4/3は,クォークが3つの色ををもつ ことに起因する(13.6式も参照).
Vss
(
q ¯q)
8πℏ
3
9c αs σq· σ¯q
mqm¯qδ
(
x)
(10)ここで, σq· σ¯qの期待値は
σq· σ¯q
4
ℏ
2sq· s¯q
4
ℏ
21 2
[ (
sq+s¯q)
2− s2q− s2¯q]
2
ℏ
2[
S(
S + 1)ℏ
2−sq(
sq+1)ℏ
2−s¯q(
s¯q+1)ℏ
2]
2
[
S(
S + 1)
−sq(
sq+1)
−s¯q(
s¯q+1) ]
(11)S 0 or 1, sqs¯q1/2だから,
σq· σ¯q
{
−3(
S 0)
+1
(
S 1)
(12)エネルギー分裂は,
∆Ess
∫
dxψ∗Vss
(
q ¯q)
ψ
∫
dx8π
ℏ
3
9c αs
mqm¯q|ψ
(
x)
|2δ
(
x)
[1 −(
−3)
]32π
ℏ
3 9cαs
mqm¯q|ψ
(
0)
|2 (13)
となる.
ΔESS (S=0) ΔESS (S=1)
ΔESS
図1 エネルギー分裂
チャーモニウムの13S1→11S0への遷移2)は磁気
的遷移であり,クォークのひとつがスピン・フリッ プすることに対応する. この時に放出される光子の エネルギーは∆Ess120MeVである.
2 ボトモニウムとトッポニウム
図2 チャーモニウムとボトモニウムの準位(抄)
■ボトモニウム さらに重心系エネルギーが高い e+e−衝突で, 10GeV近傍の共鳴が見つかった.これ らはb ¯bの束縛状態(ボトニウム)と解釈される.
2)n2S+1L
Jのように表すのだった(P.176 参照).
2
チャーモニウムのスペクトルとボトモニウムのス ペクトルはよく似ている. このことから,クォーク
―反クォーク間のポテンシャルはフレーバーに依ら ないことがわかる.
クーロンポテンシャルのみが働く場合(ポジトロ ニウム)の準位は
En−α
2mc2
2n2 (14)
で与えられる. この場合, n 1とn 2のエネル ギー差は換算質量に比例する.
一方,チャーモニウム
(
m ∼ 1GeV/c2)
とトッポ ニウム(
m ∼ 4GeV/c2)
の1S, 2S状態のエネルギー 差はほとんど同じである. これは,エネルギー準位 の質量依存性を, +krの項が打ち消しているからと のこと.■トッポニウム トップクォークは質量が大きいの で寿命が大変に短い. 従って,トッポニウムは存在 しない(もし存在したとしても,エネルギー幅が広 すぎて識別できない).
3 クォーコニウムの崩壊
3.1 崩壊パターンクォーコニウムの崩壊パターンは4つある. (a). 光子を放出することで励起準位が変わる(電磁
相互作用). 13P1 →13S1+γなど.
(b). クォーク―反クォーク対が対消滅して, 実光 子,グルーオン,仮想光子になる. 13S1 → 2γ, 13S1 → 3g →ハドロン, 13S1 → 仮想光子→ ハドロンまたはレプトン など.
(c). 真空からq ¯q対をつくり,それらと結合すること で中間子を形成する(強い相互作用). c¯c+u ¯u → D0+D¯0など.
(d). クォーコニウムを形成するクォークの片方ま たは両方が崩壊する(弱い相互作用). c¯c → D−s +e++νeなど.
3.2 閾値以下の場合
(c)は, 軽いq ¯qをクォーコニウムの励起エネル ギーから生成する必要があるので,あるエネルギー の閾値を超えた場合のみ起こる.
(d)は十分遅く,無視できる. 従って,閾値以下の クォーコニウムには(a), (b)の可能性しかない.
電磁気的過程(a)は比較的遅い. (b)は初期状態の クォークが終状態に残っていないから, OZI則によ り崩壊確率が小さい. 従って,閾値以下でのクォー コニウムの寿命は長く,崩壊幅は小さい.
αs≫αにも関わらず, 13S1は(b)のうち70%の
割合で強い相互作用により崩壊し, 30%の割合で電 磁相互作用により崩壊する. この理由について考 える.
(b)のうち,強い相互作用による崩壊では,色と荷 電共役変換(q → ¯q)に伴うパリティ(C-パリティ) が保存する必要がある.
13S1のC-パリティは−1である3). グルーオンの C-パリティは−1だから, C-パリティを保存するた めには奇数個のグルーオンに崩壊する必要がある. また,色の保存のため, 1つのグルーオンに崩壊する ことはできない. 従って, 13S1 は3つ以上の奇数個
のグルーオンに崩壊する.
r
r
r
g g b b
r
図3 3グルーオン放出時の色の流れ(例)
この過程では因子α3s がかかるので,崩壊確率が それほど大きくない.
一方, (b)のうち,電磁相互作用で崩壊する場合は, 光子2つ以上に崩壊すれば十分である4). この過程
3) これは, q ¯q の空間波動関数のパリティが(−1)L+1である こと(P.180 参照)から説明がつく. S 軌道だから, 空間波 動関数のパリティは −1. S 1 だから, スピン波動関数の パリティは 1. よって P −1. また, 強い相互作用だから T 1. よって CPT 1 より C −1.
4)光子 1 つだと運動量保存則を満たさない.
3
では因子α2がかかる.
以上の理由から, αs ≫ αにも関わらず, 13S1 は
70%の割合で強い相互作用により崩壊し, 30%の割 合で電磁相互作用により崩壊する.
3.3 閾値を超えた場合
閾値を超えると(c)が起こりやすく,崩壊幅が大 きい. u, dクォークが軽いので,まずはこれらが真 空から対生成され中間子になる.
c¯c → c ¯u + ¯uc (15) さらに高く励起しているクォーコニウムは, sクォー クを対生成して中間子をつくる.
c¯c → c¯s + ¯cs (16) この場合,できた中間子は最終的に弱崩壊する.
4 崩壊幅による QCD のテスト
11S0のC-パリティは1だから5),偶数個(主に2
個)のグルーオンに崩壊する.また, 2個の光子にも 崩壊する.
11S0 → 2γの崩壊幅は, ポジトロニウムの場合
(13.5)に3 つの色を持っていることを考慮にいれ
れば
Γ
(
11S0→2γ)
3 · 4πz4cα2
ℏ
3mc2c |ψ
(
0)
|2
(
1 + ϵ′)
(17) となる.
11S0 →2g →ハドロン の崩壊幅は Γ
(
11S0→2g →ハドロン)
8π 3
αs
ℏ
3m2cc|ψ
(
0)
|2
(
1 + ϵ′′)
(18)である.
これらの比を取ると, Γ
(
2γ)
Γ(
2g)
8 9
α2
α2s
(
1 + ϵ)
(19) となる.実験からαs≃0.25 ± 0.05が得られ,これは チャーモニウムのスペクトルから得られた値と一致 する.5)脚注 3) と同じ方法で確かめられる.
様々な崩壊チャネルにおける比を取ることで,よ り正確にαsを求めることができる.
q ¯qの対消滅は,電磁相互作用の場合も強い相互作 用も同じように記述できることがわかった. 対消滅 が起こるのは短距離だから,これはQCDが短距離 に適用できることを意味している.
参考文献
[1] 量子力学II川合光 猪木慶治 講談社2007
4