エコロジカルネットワークの改善と内水氾濫抑制に対する
レインガーデンの効果
阿野晃秀
キーワード:都市の生物多様性、気候変動、内水氾濫、エコロジカルネットワーク、レインガーデン
1. 背景・目的:都市の生物多様性の保全と気候変動への適応に資するレインガーデン
近年、都市の生物多様性から得られる生態系サービスの重要性に注目が集まっている。本研究では、気候
変動に伴う内水氾濫の増加 1)
に対して都市を適応させる手段の一つとして、生物多様性の向上と環境に配慮
した雨水管理の両者に資する取り組みであるレインガーデン(以下雨庭と記載)を扱った。雨庭とは不透水
性舗装に降った雨水を溜めるための浅い窪地型の植栽空間である。その効果として、排水系統への雨水流出
量を減少させることによる洪水の抑制や、その植栽での地域の生物多様性の向上などが挙げられる 2)
。米国
や欧州等では雨庭の普及が進みつつあるが、日本では本格的な施工例はなく認知度も低い状況にあるため、
日本における適用可能性と効果を検証するために雨庭導入のシミュレーション研究を行った。
2. 方法
大阪府守口市の淀川鶴見緑地間の南北5 kmを対象地とした。Google Map 2012を参照し、透水性土地利用
域を抽出し、不透水性土地利用域で雨庭を導入できる場所を特定した。雨庭導入前後のエコロジカルネット
ワークの状況はナミアゲハ(Papilio Xuthus)を指標種として評価した。雨水の流出抑制効果は、対象エリア
において樹林や草地等から計54サンプルの透水係数を測定し、10年や100年確率の降雨等に対しての流出
抑制量を評価した。
3. 結果・考察:日本の大阪におけるレインガーデンの効果
対象エリアの約2%の面積の道路脇や駐車場隅等の空間を雨庭に変えることで、ナミアゲハからみたエコ
ロジカルネットワークが分断された面積を半分以下にまで下げられることがわかった。一方で、100 年確率
等の降雨に対しては流出抑制効果は小さく、内水氾濫の抑制対策の中では補助的な取り組みとして位置づけ
られることも分かった。一方で、災害から日常的な雨水管理に視点を移すと、夕立のような10 mm/時前後の
短時間の雨ならば、ほとんど流出させることなく雨水を土壌に還すことが可能なこともわかった。以上から、
災害対策としては補助的ではあるが、エコロジカルネットワークの改善と日常的な雨水の管理において、雨
庭は効率的かつ効果的な取り組みであると考えられる。ゆえに、日本が環境先進国として国際的な地位を向
上させていくためにも、生態系に配慮した雨水の管理方法として雨庭を導入、普及させていくことが望まし
いと考えられる。
3. 引用文献
1)内水ハザードマップ作成の手引き(案).2008. 国土交通省都市・地域整備局下水道部