担当:鹿野(大阪府立大学)
2013 年度後期
はじめに
前回の復習
条件付き期待値関数 (CEF)。
回帰分析=母回帰関数の推定。
今回学ぶこと
回帰分析の根源的仮定 :外生性と標本の独立性。
モーメント法(MM)による回帰係数の推定。
テキスト該当箇所 :10.1章。東大出版会(1991)のp216も参照。
1 回帰分析の根源的仮定
1.1 確率的説明変数と根源的仮定
確率的説明変数:回帰分析の目的(講義ノート#18)⇒線形の母回帰関数
E(Yi|Xi) = α + βXi (1)
の、母回帰係数(α, β)を統計的に推測。
⊲ コレはあくまで Yiの期待値 とXiの関係。⇒データとして観測されるYi自体と Xiの関係を、これまで通り 回帰式
Yi= α + βXi+ ui (2)
で表す。(uiは誤差項。)
⊲ 注意:Xiは 確率的説明変数 。
Remark:Xiは、分析者にとってYiと同じくランダム。
⊲ ∴古典的仮定(講義ノート#08:Xiは非確率的)よりも、経済・経営学で扱うデータ
( 非実験データ )にマッチした状況。
⊲ 例:母集団分布h(x, y)から、年齢Xiと所得Yiの標本(Xi, Yi)をn人分抽出。 1
⊲ 回帰式右辺に、 二つの確率変数Xi、ui。
⊲ どんな前提条件を満たせば、うまく回帰係数を推定できるか?⇒Xiとuiに、古典的 仮定に代わる仮定が必要。
以下の仮定を、 回帰分析の 根源的仮定 (fundamental assumptions、FA)と呼ぶ。
⊲ FA1(外生性):説明変数Xiは、 外生変数 である。
E(ui|Xi) = 0 (3)
⊲ FA2(独立標本):標本中の異なる観測(Xi, Yi)と(Xj, Yj)は、 互いに独立 である。
1.2 外生性と直行条件
FA1(外生性)の意味:uiの期待値は、いかなるXiの値でもゼロで 一定 。
⊲ ∴ uiは、Xiと重複する情報を含んでいない。⇔Xiからuiの値は 予測できない 。 誤差uiはあくまで、無情報のノイズ。
⊲ 外生性のもとで回帰モデル(2)式の条件付き期待値をとれば、 E(Yi|Xi) = (α + βXi+ ui|Xi)
= α + β E(Xi|Xi)
=Xi
+ E(ui|Xi)
=0
= α + βXi . (4)
∴外生性は、回帰モデルが母回帰関数(1)式と整合的であるために必要。
Xiとuiの直行条件:Xiが外生変数ならば、
E(ui) = 0 , E(Xiui) = 0 . (5)
これを「Xiとuiは互いに 直行 する」と言う。
⊲ ∴外生性は、古典的仮定で直接仮定した 「E(ui) = 0」を含む。
⊲ 証明:繰り返し期待値の法則 (講義ノート#18) および外生性の仮定FA1より、 E(uiXi) = EXi[E(uiXi|Xi)] = EXi[XiE(ui|Xi)
=0
]
= EXi(Xi·0) = 0. (6) E(ui) = 0は、復習問題で。
Xiとuiの無相関:外生性が成立するならば、Xiとuiの共分散は
Cov(ui, Xi) = 0 . (7)
両者は無相関。
⊲ 証明:Xiが外生ならばE(uiXi) = 0。よって Cov(ui, Xi) = E(uiXi)
=0
−E(ui)
=0
E(Xi)
= 0 − 0 · E(Xi) = 0. (8)
Remark:外生性FA1は、古典的仮定に代わり今後の分析で核となる仮定。派生する性 質をまとめると
外生性FA1 E(ui|Xi) = 0
⇓
(Xi, ui)の直交条件 E(u) = 0, E(uiXi) = 0
⇓ (Xi, ui)の無相関 Cov(ui, Xi) = 0
⊲ (Xi, ui)の直交条件の役目は?⇒回帰係数α, βを推定する際の「手がかり」に使える。
⊲ (Xi, ui)の無相関の役目は ?⇒得られた推定量の性質を調べる際、 重要。
1.3 互いに独立な標本
標本の独立性:独立標本の仮定FA2を数学的に定義すれば、 異なる観測iとjに関し Pr(Xi = xi, Xj = xj, Yi= yi, Yj = yj)
= Pr(Xi = xi, Yi= yi) Pr(Xi = xi, Yi = yi) = h(xi, yi)h(xj, yj). (9) ここでh(·, ·)は母集団分布。
⊲ 例: 無作為抽出 による社会調査 (アンケート)。 無作為に選ばれたi番目の個人 の回答と、j番目の個人の回答は独立。
Remark:独立標本ならば、ある観測の関数s(Xi, Yi)の値を、X1, X2, . . . , Xnで予測できな いはず。よって
E[s(Xi, Yi)| X1, X2, . . . , Xn
全観測のXi
] = E[s(Xi, Yi)|Xi] . (10)
⊲ 特にs(Xi, Yi) = ui= Yi− α − βXiと置けば、
E(ui|X1, X2, . . . , Xn) = E(ui|Xi) . (11)
⊲ ∴独立標本の仮定と外生性FA1を合わせれば
E(ui|X1, X2, . . . , Xn) = E(ui|Xi) = 0 . (12)
2 モーメント法( MM )による推定
2.1 母回帰係数の MM 推定
推定の方針:標本(Xi, Yi)から、どうやって母回帰係数を推定する ?
⊲ OLS(残差2乗和の最小化、講義ノート#06) で大丈夫か?
⊲ ... 実は、推定のヒントは(5)式に示されている !⇒モーメント法を使用。
母集団モーメント :誤差項ui = Y − α − βXiを(5)式に代入すれば
E(Yi− α − βXi) = 0, E(Yi− α − βXi)Xi = 0. (13) これを 母集団モーメント と呼ぶ。
⊲ ∴外生性のもとでは、二つのパラメータα、βは理論上、 連立方程式の解 でなけ ればならない。
⊲ 実際に解くと、
α = E(Yi) − βE(Xi), β = E(XiYi) − E(Xi)E(Yi) E(Xi2) − E(Xi)2 =
Cov(Xi, Yi)
Var(Xi) . (14) ... どこかで見たような格好。(証明⇒宿題#04)
モーメント法 :母集団モーメントは母集団上 ・理論上の関係。⇒実際は、 解くことがで きない。
⊲ 期待値を平均値で代理 ・推定した 標本モーメント 1
n
(Yi−α − ˆˆ βXi) = 0, 1 n
(Yi−α − ˆˆ βXi)Xi= 0 (15)
ならば、データから計算可能。
⊲ 標本モーメントを見たす( ˆα, ˆβ)を母集団モーメントの解(α, β)の推定量とする推定法 を、 モーメント法 (method of moments、 MM )と呼ぶ。
⊲ 注意:あくまで推定量なので、 一般にα αˆ 、β βˆ 。
Remark:MM推定は、「母集団で成立する関係式は、サンプル数nが 十分大きければ
標本でも成立するだろう」 という 類推原理 に基づく。
⊲ 実際、大数の法則(講義ノート#17)より、n → ∞のとき(15)式は(13)式に近づく。
∴(15)式の解は、(13)式の解の良い近似となるはず !
⊲ MM推定は、回帰モデル以外の推定にも使える。
⊲ 例:標本平均は、母平均のMM推定量と解釈できる。 E(Xi− µ) = 0 ⇔ µ = E(Xi)
=母集団モーメント、未知母数 µ
MM 推定
−−−−−−−→ 1 n
(Xi− ˆµ) = 0 ⇔ ˆµ = 1 n
Xi
=標本モーメント、推定量 ˆµ
.
(16)
MM-OLS推定量:(15)式の両辺にnをかければ
(Yi−α − ˆˆ βXi) = 0, (Yi−α − ˆˆ βXi)Xi = 0. (17) ...コレは残差2乗和最小化の1階条件(講義ノート#06) と全く同じ。
⊲ ∴αˆ、βˆについて解けば
β =ˆ (Xi− ¯X)(Yi− ¯Y)
(Xi− ¯X)2 = SXY
SXX, α = ¯ˆ X − ˆβ ¯Y. (18) MM推定は、結局 OLS推定 と同じデータの使い方 !
⊲ 異なる推定原理が出発して、 全く同じ推定量にたどり着くこともある。
2.2 MM-OLS 推定量の性質
MM-OLS推定量は「直観的には」 正しそう(類推原理)。
⊲ 古典的仮定CA1∼CA4のもとでは、OLSは一致性、有効性(講義ノート#08)、一致 性(講義ノート#17) を持つ素晴らしい推定量。
⊲ 現状は古典的仮定が 成立せず 、根源的仮定FA1、FA2だけが生きている。
⇒根源的仮定のもとで、OLSは良いパフォーマンスを発揮できるのか ?
Remark:母集団のいかんに関わらず、 代数的な性質は成立⇒OLSを
β = β +ˆ wiui, wi = Xi− ¯X
SXX (19)
と書き換えて良い。(wiはOLSウェイト、講義ノート#08)
⊲ sXu= n−11 (Xi− ¯X)(ui−¯u)と置けば、上式はさらに
β = β +ˆ 1 SXX
(Xi− ¯X)ui= β +
1
n−1(Xi− ¯X)(ui−¯u) 1
n−1SXX
= β + sXu
s2x . (20)
注意:uiは観測できないので、 標本共分散sXuは 計算できない 。
不偏性:FA1、FA2が成立すれば、OLS推定量はβの 不偏推定量 。
E( ˆβ) = β. (21)
⊲ ∴古典的仮定よりかなり 緩い 前提でも、OLSは不偏性を持つ。
⊲ 証明:全観測の説明変数{X1, X2, . . . , Xn}が与えられたもとで、ˆβの条件付き期待値は E( ˆβ|X1, X2, . . . , Xn) = β +E(wiui|X1, X2, . . . , Xn)
= β +
wiE(ui|X1, X2, . . . , Xn)
=0
= β +
wi·0 = β. (22)
(wiは{X1, X2, . . . , Xn}の関数なので、条件付き期待値の外に出せる。)繰り返し期待 値の法則より
E( ˆβ) = EE( ˆβ|X1, X2, . . . , Xn)= E(β) = β. (23)
一致性:FA1、FA2が成立すれば、OLS推定量はβの 一致推定量 。
plim ˆβ = β. (24)
⊲ ∴同様に、かなり 緩い 前提でも、OLSは一致推定量になる。
⊲ 証明:大数の法則によりplim sXu= Cov(ui, Xi)、plim s2
X = Var(Xi)なので、(20)式の
確率極限は、
plim ˆβ = β + plim sXu plim s2X = β +
Cov(ui, Xi)
Var(Xi) . (25)
ここで(7)式より、FA1が成立すればCov(ui, Xi) = 0なので、 plim ˆβ = β + 0
Var(Xi) = β. (26)
Remark:とりあえずFA1、FA2が成立するデータならば、OLS推定量は最低限クリア
しなければならない 「品質基準」をパスする。
⊲ 不偏性(有限標本): E( ˆβ) = β 。
⊲ 一致性(漸近理論): plim ˆβ = β 。
⊲ ∴OLSは、広範囲のデータに適用可能。
⊲ ˆβの分散は?分布型は?仮説検定は?⇒次回検証。
まとめと復習問題
今回のまとめ
回帰分析の根源的仮定 :外生性と標本の独立性。
MM-OLS推定と、その不偏性・一致性。
復習問題
出席確認用紙に解答し (用紙裏面を用いても良い)、 退出時に提出せよ。 1. (5)式のE(ui) = 0を証明せよ。(ヒント:繰り返し期待値の法則。) 2. OLSの一致性・別解:直接(18)式のβˆの確率極限をとり、
plim ˆβ = β (27)
を示せ。(ヒント:母集団モーメントの解によると、β =?)