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宮城教育大学機関リポジトリ 佐々木健太郎 知的障害児の就労後

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宮城教育大学機関リポジトリ

知的障害児の就労後も活用しうる人間関係の構築・

拡大を基盤とした移行支援の実践的研究―仲間関係

の拡大が顕著に見られたある事例の長期的な分析か

ら―

著者

佐々木 健太郎, 野口 和人, 村上 由則

雑誌名

宮城教育大学特別支援教育総合研究センター研究紀

11

ページ

47- 57

発行年

2016- 06- 01

U

RL

ht t p: / / i d. ni i . ac . j p/ 1138/ 00000724/

(2)

< 研 究 報 告 >

知的障害児の就労後も活用しうる人間関係の構築・拡大を基盤とした

移行支援の実践的研究

一 仲 間 関 係 の 拡 大 が 顕 著 に 見 ら れ た あ る 事 例 の 長 期 的 な 分 析 か ら

-佐 々 木 健 太 郎 (

宮 城 教 育 大 学 附 属 特 別 支 援 学 校 )

野口

和人(

東北大学大学院教育学研究科)

村 上

由則(

宮城教育大学教育学部)

要旨

本 研 究 で は , 学 校 卒 業 後 を 見 据 え , 知 的 障 害 児 の 仲 間 関 係 の 構 築 を 目 的 と し , 知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 高 等 部 在 籍 生 徒 及 び 卒 業 生 を 対 象 と し た 校 外 余 暇 支 援 活 動 の 実 践 ( さ さ け ん ク ラ ブ ) を 行 っ た . 在 学 中 か ら 継 続 的 に 参 加 す る 一 事 例 を 取 り 上 げ , さ さ け ん ク ラ ブ へ の 参 加 の 様 子 , 学 校 で の 仲 間 関 係 の 変 遷 に つ い て 継 続 的 に 調 査 を 行 っ た . そ の 結 果 , さ さ け ん ク ラ ブ へ 参 加 開 始 当 初 , 対 象 者 の 関 心 の 対 象 は 活 動 内 容 で あ っ た が , 高 等 部 2 年 生 に な り 一 緒 に 参 加 す る 友 達 へ と 拡 大 さ れ た . 同 期 的 に 学 校 で も 休 み 時 間 等 の 自 由 時 間 に 友 達 と か か わ る 場 面 が 散 見 さ れ る よ う に な っ た . 高 等 部 3年 生 に な る と , 本 人 の 希 望 に よ り 放 課 後 や 休 日 に も 友 達 と の か か わ り が 拡 大 し て い っ た . さ さ け ん ク ラ ブ の 場 等 を 通 し て , 卒 業 後 も 友 達 と の か か わ り を 継 続 す る こ と に よ り , 職 場 で の ス ト レ ス を 発 散 す る ニ と が で き , 就 労 の 継 続 に 対 し で も 肯 定 的 な 影 響 を も た ら し た . 以 上 の 結 果 よ り , 在 学 中 か ら 卒 業 後 に 渡 っ て 仲 間 関 係 の 構 築 , 維 持 を 組 織 的 に 支 援 す る こ と に よ り , 間 接 的 に 就 労 の 安 定 が 図 ら れ る こ と が 示 さ れ , 移 行 支 援 の 一 つ の 視 点 と し て 重 視 し て い く 必 要 が あ る こ と が 示 さ れ た .

I 問 題 と 目 的

知 的 障 害 児 の 特 別 支 援 学 校 卒 業 か ら 就 労 へ の 移 行 期 に お け る 支 援 は , 新 し い 生 活 環 境 や 職 場 へ の 適 応 及 び 就 労 の 定 着 に 向 け て 大 変 重 要 で あ る 。 従 来 の 移 行 支 援 の 取 組 は , 就 労 面 に お い て は , 在 学 中 の 就 業

体験の充実,ジョブコーチ支援の整備など,職場への適応や定着に関するものが中心で、あった( 障害者職

業総合センター, 2013) . こ の 他 , 直 接 就 労 に は か か わ ら な い 間 接 的 な 支 援 と し て は , 卒 業 後 の 学 習 を 保 障する取組( オープンカレッジや公開講座等; 平井,2006) , 種 々 の 余 暇 活 動 を 体 験 す る 機 会 を 提 供 す る 取

組 (NP O や大学等主催の余暇支援活動; 笠原・村中,2003) などがなされてきた.

以 上 の 取 組 は , ス ム ー ズ な 移 行 と 卒 業 後 の 生 活 の 充 実 を 図 ろ う と し た も の で あ る が , 東 京 都 内 の 知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 の 進 路 指 導 担 当 者 を 対 象 と し た 調 査 で は , 就 労 時 に 職 業 上 の ス キ ル は 一 定 程 度 獲 得 さ れ て い る も の の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ンj に 関 し て の 課 題 が 半 数 近 く 見 ら れ る こ と が 報 告 さ れ た ( 東 京 都 社会福祉協議会, 2008) . 障 害 者 職 業 総 合 セ ン タ ー ( 2013) は , 一 般 就 労 し た 知 的 障 害 者 本 人 を 対 象 と し

た調査を行い,入社時に比べて現在( 調査時) に重視していることとして“ 人間関係( 人間関係がよしゅグ

/

4

(3)

という項目が最も高くなっており,人間関係がうまくし、かないことは本人にとってのストレス経験をも た ら す こ と が 示 さ れ た . 東 京 都 社 会 福 祉 協 議 会 ( 2008) に よ る 離 職 経 験 の あ る 卒 業 生 へ の 調 査 で は , 離

職 の 理 由 と し て 人 間 関 係 が う ま く い か な か っ たJ ということが最も高い割合を示していた. つまり,

就労先へ適応し,維持していくためには人間関係を良好に保っていくことが大きな課題となっている.

余暇生活においても,同世代の人間関係の拡大が課題として指摘されていた。例えば,今井 ( 2011) は,

グループ。ホームに居住する軽度知的障害者を対象に余暇生活に関する調査を行ったところ,一人で過ご

す余暇が多いことを報告しており,対象者の中には,気の許せる仲間や何でも言える仲間がし1てほしい

というニーズが挙げられていた. 郷間・藤川・所 ( 2007) は , 通 所 授 産 施 設 に 通 所 す る 在 宅 の 知 的 障 害

者 を 対 象 に 同 様 の 調 査 を 行 っ た と こ ろ , 余 暇 活 動 そ の も の は 充 実 し て き て い る も の の 外 出 は ほ と ん ど が 家 族 と と も に 行 わ れ て お り , 友 人 や 仲 間 と の 外 出 が 少 な い と い う 結 果 を 示 し て い た . つ ま り , 卒 業 後 の

余 暇 生 活 に お い て も 人 間 関 係 の 維 持 , 拡 大 が 困 難 で あ る こ と が 大 き な 課 題 と な っ て い る . 以 上 の 先 行 研 究より,大きな人間関係の変化が伴う特別支援学校から社会への移行期においては,いかに安心できる 人 間 関 係 を 維 持 し つ つ , 新 し い 人 間 関 係 を 構 築 し , 適 応 し て い く か と い う こ と が 喫 緊 の 課 題 と な っ て い

ると言えよう.

筆者らは, 2010 年 10 月より現任校の知的障害特別支援学校高等部の生徒及びきょうだいを対象とし

た校外余暇支援活動を開始した. 2012 年 4 月からは,卒業生も参加の対象として拡大した. これまで5

年 間 の 実 践 の 中 で , 在 学 中 か ら 卒 業 後 に 渡 っ て 多 く の 参 加 者 同 士 の 仲 間 関 係 が 構 築 さ れ て い き , 卒 業 後

も継続的に活動に参加しながら就労を維持していた. 本研究では,在学中から余暇支援活動に継続的に

参 加 す る 一 事 例 を 取 り 上 げ , 在 学 中 か ら 卒 業 後 の 変 容 を 追 跡 す る こ と に よ り , 仲 間 関 係 の 拡 大 の プ ロ セ ス を 明 ら か に す る と と も に , 構 築 さ れ た 人 間 関 係 が , 本 人 の 生 活 に ど の よ う な 影 響 を も た ら す の か , 実

証的に明らかにする. また,そこで得られた知見を基に,本実践の意義について検討することを目的と

する.

E 方 法

1. 校外余暇支援活動( 以下,“ ささけんクラブ" ) の 実 践

宮城教育大学附属特別支援学校高等部在籍生徒及び卒業生を対象とした校外余暇支援活動を開始した.

活動の頻度は年間5 回 ( 6,8 , 10, 1, 3 月) とし 2016 年 1 月現在まで通算 26 回の実践を行った. 活

動内容は,大学を活用した日中活動であった. 8 月のみ泊付きの活動とした. 毎回の活動毎に事前に学校

を通じて高等部在籍生徒全員に案内を配布し,参加者を募った. 卒業生に対しては,希望者に対してメ

ーノレ等で、案内を行った. 希望者のみ参加する形態を取った. 活動内容については,筆者が大学教員等に

直接連絡を取り依頼・調整を行った. 具体的な内容としては,野外調理会( 芋煮会など) やもちつきなど

の 季 節 の 活 動 や 大 学 教 員 に よ る 理 科 の 実 験 , 美 術 の 創 作 活 動 , 技 術 の も の づ く り の 活 動 な ど の ほ か , 大

学祭への参加なども行った. 2013 年 3 月以降は,卒業生からの要望もあり,一般就労した卒業生を中心

とし, 日中活動の終了後に夕食会を行った. 活動後には,参加者及びその保護者,学生ボランティアに

事後アンケートを配布し,活動の改善を図った.

(4)

-2 . 対象者

知的障害( 自問的傾向あり) と診断された21 歳の男性 A さんで、あった( 以下, A さんと記す) . 学校卒

業 後 , 大 手 小 売 店 で 一 般 就 労 し て い る . 高 等 部 よ り 特 別 支 援 学 校 に 入 学 し た . 音 声 言 語 に よ る や り 取 り が 可 能 で あ り , 指 示 理 解 や 質 問 に 対 す る 受 け 答 え も で き る . 他 者 , 特 に 大 人 と 会 話 す る こ と を 好 み , 教 員 や 大 学 生 ボ ラ ン テ ィ ア 等 に 対 し て 自 ら 積 極 的 に 話 し 掛 け る 様 子 が 見 ら れ る . 中 学 生 時 代 ま で は , 特 別 支 援 学 級 に 在 籍 し て い た . 当 時 は , 同 年 齢 の 友 人 と 対 等 な 関 係 を 築 く こ と が で き ず 友 人 は ほ と ん ど い

なかった. 高等部入学当初も,同級生へのかかわりはあまり見られなかった.

A さんが入学した 2010 年の 10 月よりささけんクラブが開始された. それ以来,ほぼ毎回休まずに活

動に参加している. 筆者は,ささけんクラブで、のかかわりに加えて, A さんが高等部在学時の 1,2年 生

の時には学級担任として, 3 年生の時には教科担当として学校生活でのかかわりももっていた.

3 . 記録及び分析方法

( 1) ささけんクラブの事後アンケー卜及びささけんクラブにまつわるエピソード

保護者を対象としたアンケート調査を行った. 調査の内容は,活動に参加しての参加者の様子や感想、,

継 続 的 に 参 加 す る 中 で 変 化 し て き た と 感 じ た こ と な ど に つ い て で あ っ た . Aさんの保護者から回収する ことができた, 2010 年 10 月, 2011 年 1 月, 6 月, 8 月, 10 月, 2012 年 1 月, 6 月の計 7 回分のアン ケ ー ト 結 果 を 分 析 の 対 象 と し た . ま た , 卒 業 後 の さ さ け ん ク ラ ブ へ の 参 加 の 様 子 に つ い て , 特 徴 的 で あ ったエピソードについてまとめた。

(2 ) 連絡帳への教師及び保護者の記述

A さんが高等部在学中であった 3 年間,約 570 日分の連絡帳での保護者と学級担任とのやり取りの内

容 を 分 析 の 対 象 と し た . 保 護 者 と 学 級 担 任 に よ る 記 述 か ら , ① 授 業 場 面 の 中 で のA さんと友達のかかわ

りについて記載されたもの,②自由な場面でのA さ ん と 友 達 と の か か わ り に つ い て 記 載 さ れ た も の , ③

学校外でのA さんと友達のかかわりについて記載されたもの,④A さんの友達に対する捉え方に関わる

ものを抽出した. 以上の記述内容の回数の変化を月ごとに整理した。

(3) 本人に対する聞き取り調査

2015 年 3 月に A さん本人への聞き取り調査を行った. 調査は約 100 分間の半構造化面接法で、行った.

聞き取りの内容としては,特別支援学校高等部入学以前から現在まで、の仲間関係について,高等部在学 中 の 学 校 生 活 全 般 に つ い て , さ さ け ん ク ラ ブ に 対 す る 捉 え 方 に つ い て , 就 労 先 で の 悩 み や そ の 解 消 法 に

ついてであった. 加えて,在学中に友達とのかかわりの中で、特徴的だ、ったエピソードについて

A

さん

自身がどのように感じていたか聞き取りを行った. 聞き取りの内容については,本人の許可を得て, I C

レコーダーにて全て記録し,後日逐語録を作成した.

(5)

-( 4 ) 分析方法

高 等 部 入 学 時 か ら 卒 業 後 に 渡 るA さ ん の さ さ け ん ク ラ ブ へ の 参 加 の 様 子 と 学 校 で の 仲 間 関 係 の 変 遷 に つ い て 時 系 列 に 整 理 し , 相 互 の 同 期 的 な 関 連 に つ い て 分 析 を 加 え ,

A

さ ん の 仲 間 関 係 の 拡 大 の プ ロ セ ス に つ い て 検 討 し た . ま た , 本 人 へ の 聞 き 取 り 調 査 の 結 果 を 基 に , 就 労 後 に お け る 仲 間 関 係 の 維 持 がA さ

ん に と っ て ど の よ う に 意 味 付 け さ れ て い る か に つ い て 分 析 を 加 え た .

4 . 倫 理 的 配 慮

本 研 究 を 進 め , 本 稿 を 作 成 す る に あ た り , 対 象 者 本 人 及 び そ の 保 護 者 に 本 研 究 の 趣 旨 と 内 容 に つ い て

説明を行い,同意を得た.

E 結 果

1. さ さ け ん ク ラ ブ の 事 後 ア ン ケ ー ト 及 び さ さ け ん ク ラ ブ に ま つ わ る エ ピ ソ ー ド

ささけんクラブの事後アンケートの結果は次の通りで、あった. 2010 年 10 月( 第1 回 ) で は 全 て の

活動が楽しく新鮮で、充実した1 日を過ごしてきたようです. 家ではたくさんの話しをしてくれました」と

記載されていた. 2011 年 1 月( 第2回 ) で は 家 に 帰 っ て か ら の 話 は , も ち つ き の 話 が 多 か っ た で す . も ち つ き の 達 人 が 来 た こ と . 今 ま で 見 た こ と も な い お 雑 煮 が と て も お い し か っ た こ と . も ち つ き の 体 験 も し た こ と . 教 育 実 習 に 来 て い た 学 生 さ ん た ち と 再 会 で き た こ と も う れ し か っ た よ う で し たJ と記載さ れ て い た . 同 年6 月( 第3 回 ) で は 毎 回 参 加 す る こ と を と て も 楽 し み に し て い ま す . 今 回 は 就 業 体 験 後 で 不 安 も あ り ま し た が , 早 寝 早 起 き し て 元 気 に 出 か け て 行 き , 元 気 に 楽 し か っ た と 帰 っ て き ま し た . お み や げ の ロ ー ル ケ ー キ も と て も お い し く い た だ き ま し た 」 と 記 載 さ れ て い た . 同 年8月( 第4回) では,

「 毎 回と ても 楽 しみ にしてい ます. 空 手,色の実験,流しそうめん が特に 楽しかっ たようで す. 今 回 は 高

等 部 の 友 達 の 誰 が 来 る の か な ? と い う こ と も 楽 し み に す る よ う に な り ま し た 」 と 記 載 さ れ て い た . 同 年 10 月( 第 5回 ) で は 毎 回 と て も 楽 し み に し て い ま す . 今 回 は , 芋 煮 会 が 楽 し か っ た と の こ と で し た . 今 回 は 何 を す る の か な ? と い う 楽 し み の 他 に 誰 が 来 る の か な ? と い う こ と も 楽 し み に す る よ う に な り ま し たj と記載されていた. 2012 年 1 月( 第6 回 ) で は も ち つ き , ず ん だ 作 り , ダ ン ス と , 学 校 で 火 ・ 木 に や っ て い た 朝 の 体 操 . 毎 回 の こ と で す が と て も 楽 し く 参 加 さ せ て い た だ い て い ま す . 今 回 は 特 に ず ん

だ作り ( 豆 腐 を入 れたこ となど ) が 楽しかったようです. 友達の名 前がよ く話題に 出てくる よう に な り ま

した J と記載されていた. 同年6月( 第 8回 ) で は 今 回 は 卒 業 し た 先 輩 の 参 加 が あ り , と て も う れ し か っ た よ う で す . 夏 の 「 さ さ け ん ク ラ ブ 」 で , あ れ が や り た い な あ , こ れ が や り た い な ぁ と い ろ い ろ と 話 題 に 上 が り ま す 」 と 記 載 さ れ て い た . 以 上 の よ う に , 活 動 参 加 開 始 当 初 A さ ん の 興 味 関 心 は 活 動 の 内

容に関すること中心で、あった. 第4 回 の 活 動 ( A さんが高等部2年生時) 以降,一緒に参加する友達へと

関 心 が 拡 大 し て い っ た . 第 6 回 の 活 動 後 に は , 友 達 の こ と が 家 で も 話 題 に 上 が る よ う に な っ た . 第 8 回 の活動 ( A さんが高等部 3 年 生 時 ) に は , 卒 業 生 と の か か わ り を 好 意 的 に 感 じ て お り , 活 動 内 容 に 対 し て

も自ら積極的に希望を語るようになった.

A さ ん の 学 校 卒 業 後 の 参 加 の 様 子 は 次 の 通 り で あ っ た. A さ ん は , 学 校 卒 業 後 も 毎 回 欠 か さ ず さ さ け

U

(6)

んクラブの活動に参加しており,ささけんクラブがあるときのみ有給休暇を自ら上司に申請するなど,

卒業後の生活において優先順位が非常に高かった. 2013 年 6 月に行われた卒業後の最初の活動の際,後

輩の一人が「夏のキャンプでスイカわりがしたいですJ との声を耳にすると,同年 8 月に行われたキャ

ンプでは,自分の給料でスイカを差し入れした. この差し入れは,その後, 2 年間継続されていた. 2 0 1 4

年 3 月より,ささけんクラブ活動後に卒業生のみで、夕食会を行っている. この活動にもA さんは毎回欠

かさず参加していた.

2 連絡帳の教師及び保護者のコメント

A さんが在学していた3 年間の連絡帳において,友達とのかかわりに関して記載された内容は, 5 3 件

あった. そのうち,授業内で教師によって意図的に設定されたかかわりについての内容は27 件,休み時

間等の自由時間のかかわりについての内容は17 件,学校外での友達とのかかわりについての内容が 7 件,

友達に対するA さんの捉え方についての内容が 2件あった. 以上の結果を Fi g. 1 に示した. 学年ごとの

内訳は次の通りで、あった.

高等部 1 年生時については,入学時は,授業以外での友達とのかかわりの場面の記述が見られたが, 5

月以降は全て授業内でのかかわりに関するもので、あった. 具体的な内容は次の通りで、あった.

4

月は,授

業内でのかかわりと休み時間等でのかかわりがそれぞれ 3 件あった. 内容としては,前者については,

担任による記述された I(学部の対面式で) 1年生の出番では,得意の野球のピッチャーをみんなに披露し

てくれました. 球の速さにみんなびっくりでした」など, A さんの行動に周囲が反応したものであり,

個別的なかかわりで、はなかった. 後者については,担任による記述から「ゲームの本を持ってきていて,

周りの友達も興味を示しており,貸してあげたり,一緒に見たりして楽しんでいましたJ などであった.

5 月は授業内でのかかわりが 1 件であった. 担任による記述から, V T R による作業学習の振り返りの場

面で,友達の行動に対して意見を発表していた. 6 月は記述が見られず, 7 月以降,全て授業内のかかわ

りに関する記述であり, 7月から 11 月まで各 1 件, 12 月に 2 件, 1 月に 1 件, 2 月に 3 件, 3 月に 1 件

であった. 内容としては,担任による記述から「みんなとバレーボールをしたのですが,試合に負け,

自分がミスしたのを気にして落ち込んでいた」といったネガティブなものから, I( 就業体験の) 壮行式で,

『みんなも頑張ろうね

!j

とみんなのことも励ましてくれましたJ などのポジティブなものもあった.

高等部2 年生時には, 11 月までは 1 年生時と同様に授業内でのかかわりに関する記述が中心であった

が, 12 月以降,自由時間でのかかわりに関する記述が中心となった. 具体的な内容は次の通りであった.

4 月は,授業内でのかかわりが 1 件であった. 5 月には,授業内でのかかわりと休み時間等でのかかわり

が各 1 件で、あった. 6 月から 8 月まで記述が見らなかった. 9 月, 10 月は,授業内でのかかわりが 2 件

ず つ あ っ た . こ の 時 期 , 担 任 に よ る 記 述 か ら , 運 動 会 の チ ー ム リ ー ダ ー に な り 友 達 の 先 頭 に 立 っ て 整 列 をするなどの役割が与えられ,授業時間や他の場面でも同様の行動が自発的に生じるようになったこと

が記述内容の中心となっていた. 11 月は記述が見られなかった. 12 月は,授業内でのかかわりと自由時

間のかかわりに関する記述が各 2 件ずつあった. 担任による記述から,授業以外での友達とのかかわり

に関して,就業体験実習を終えたA さ ん の 今 後 の 目 標 と し て 友 達 と 一 緒 に 遊 ぶ こ とj が位置付けられ

(7)

-たことが記述されていた. 1月は,授業内でのかかわりに関する記述が 1件,自由時間等でのかかわりに

関する記述が 2件 あ っ た . こ れ ら に 加 え て A さんの友達に対する捉え方に関わる記述が 1 件あった.

具 体 的 に は , 保 護 者 よ り 「 家 で の 会 話 の 中 で 『 卒 業 し て 仕 事 を す る 時 は , ぼ く は ひ と り ぼ っ ち に な る ん

だよね? J l と聞いてきました. 卒業したらみんなそれぞれの道に進むこと,みんなと一緒にいることがで

きるのもあと 1 年なんだと気づきはじめた様に感じています」との記述で、あった. 当時 A さんの担任で

あ っ た 筆 頭 筆 者 が , こ の 家 庭 で の エ ピ ソ ー ド に つ い て 尋 ね た と こ ろ で も , 友 達 と の 楽 し い 思 い 出 が あ

るから大丈夫です! J と答えた. 2 月には自由時間でのかかわりに関する記述が5 件あった. 1 月以降,

連 絡 帳 で や り 取 り さ れ た 内 容 は , 授 業 以 外 で の 自 由 な 場 面 で の か か わ り に 関 す る 内 容 が 中 心 と な り , 担

任より 「毎休み時間ホールで野球をしています」などの記述が見られ,学校生活全体を通して友達とか

かわり合う場面が散見された. 3 月に は,保護者の記述か ら , 家 庭 に お い て I B くん( 同級生) 大活躍

の話で

c

くんはスポーツが得意なんだと感心していましたJ というA さんの友達に対する捉え方に関

わる内容の記述が1件あり,家庭でも友達のことが具体的に話題に上がっていたようだった.

高等部 3年生時には,本人の希望により,放課後や休日にヘルパー支援を利用して友達と一緒に活動

す る よ う に な り , 友 達 と の か か わ り が 学 校 外 に も 拡 大 さ れ た . こ れ に 伴 い , 連 絡 帳 の 記 述 も , 休 み 時 間 等 で の か か わ り に 関 す る 記 述 に 加 え て , 学 校 外 で の 友 達 と の か か わ り に つ い て も 保 護 者 か ら 記 述 さ れ る

ようになった. 具体的な内容は次の通りであった. 4月には,休み時間等でのかかわりが2件あった. 具

体的な内容としては,保護者及び担任それぞれから, 2 年生時と同様に毎休み時間友達と野球をしている

というもので、あった. 5 月には,休み時間等でのかかわりと学校外でのかかわりに関する記述がそれぞれ

1 件あった. 6 月は記述が見られなかった. 7 月は,学校外でのかかわりに関する記述が 1 件あった. 8

月, 9 月は記述がなかった. 10 月は,学校外でのかかわりに関する記述が 1 件, 11 月は自由時間でのか

かわりに関する記述が 1 件で、あった. この時期の記述内容は,保護者による記述から,友達とのかかわ

りに関して悩んでいたものであり,休日のヘルパー支援の利用を一時停止するというもので、あった. 12

月は授業内でのかかわりに関する記述が 1 件あった. 担任による記述から,作業学習において,班長と

して周囲に指示を出すといったものであった. 1 月は学校外でのかかわりに関する記述が 1 件あった. 保

護者の記述から,この頃から再び、ヘルパー支援の利用し,休日の友達とのかかわりを再開したことが記

されていた. 2月は授業外でのかかわりに関する記述が 2件あった. 3月は,授業内でのかかわりと学校

外でのかかわりに関する記述がそれぞれ1 件あった . 2 月以降は,保護者より休日の友達とのかかわりも

楽 し ん で い る 様 子 が 記 述 さ れ て い た . な お , ヘ ル パ ー 支 援 を 利 用 し た 友 達 と の か か わ り は , 学 校 卒 業 後 も継続されていた.

(8)

-匂匂' ¥ セ@ セB|NB

LY

B|Nセ@

匂 唱 。

...,

r レ.:

セセ@

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"

- a

遣に対する鍵え方に鱒わるIe 逮

・学績外でのかかわりに自書する箆述

ミーI iI I b 誇積書毒のかかわりに自書する髭逮

・授業量寺鰐におけるかかわりに憶する箆逮

‘ ' 0へ

、 .

.

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句'

Fi g. 1 A さんの保護者と担任教員の連絡帳でのやり取りの内容の内訳

3. 本人への聞き取り調査の結果( 括弧内は筆者による補足及び質問)

本人への聞き取り調査の結果は次の通りであった. 高等部在学中について, 1年生の頃については, 1僕

は中学校の時代の時は全然( 友達と) 遊んでなくて. それで,中学校卒業した時からはこうだ、ったんです.

( 高等部の最初は緊張してたの? ) そのまま緊張していましたね」と語った. 中学校で仲間関係を築くこと

が 少 な か っ た 経 験 や 特 別 支 援 学 校 高 等 部 に 入 学 し た こ と に よ る 環 境 の 変 化 か ら , 積 極 的 に 友 達 と か か わ

っていないことがうかがえた. 2 年生の頃については, 1だんだんとみんなと遊ぶようになって来ました.

高校の 2 年の時は,確か,友達と遊ぶということを頭の中ではもう考えたので. 後輩とかが来たときに

遊ぶようになったんですよ. 高校 2 年の時は D くんやE くんやF くんたちが来てくれたおかげで遊べ

るようになりました. 3 人が来てくれたおかげで勇気がわいてきました」と語った. 高等部の環境にも慣

れ , 後 輩 が 入 学 し た こ と で 積 極 的 に か か わ る こ と が で き る よ う に な っ た こ と が う か が え た . ま た , 高 等

部2 年生の時の「卒業後ひとりぼっちになる」との発言については, 1みんなとバラバラになるのはちょ

っと寂しいっていう気持ちがあって,それでお母さんはG くんのお母さんに( ヘルパーの利用を) お願い

したんですJ と振り返った. ヘルパー支援を利用して友達と放課後等もかかわるようになった事に対し

て は 友 達 と 一 緒 に い た 方 が 自 分 に は 幸 せ な 感 じ で し た . 友 達 と 一 緒 に 幸 せ だ 、 っ て い う こ と が 自 分 に 分

かったのは自分の判断で決めましたj と語っていた. 高等部3年 生 の 卒 業 前 の 時 期 に つ い て は 仕 事 や

っていけるかどうか,そしてうまくいくかどうかは少し不安でしたね. 新しく一緒に仕事する人達とう

ま く い く か ど う か は , 私 に は 不 安 で し た 」 と 語 っ て お り , 少 な か ら ず 就 労 後 の 環 境 や 人 間 関 係 の 変 化 に 対 す る 不 安 を 抱 い て い た こ と が う か が え た . 就 労 後 の 生 活 に つ い て は 仕 事 や 新 し い の を や る と 結 構 ス

トレスがたまっちゃうんですよ. 難しいこととかもストレスがかなりたまってしまいますが,それなり

に僕は慣れて乗り越えて行ってます. ( 友達と会う機会が) なかった場合は辞めていたかもしれません.

で , 新 し い 仕 事 を 探 し て い る か も し れ ま せ ん . こ っ か ら 先 と か も 不 安 な と き も あ り ま す が , 結 構 僕 は 前

向きな気持ちで、行っています. 僕はそれなりにはちゃんと乗り越えてがんばるっていう気持ちはあるん

ですが」と語っていた.

(9)

-N 考察

本 研 究 で は , 筆 者 ら が 主 宰 す る 知 的 障 害 特 別 支 援 学 校 高 等 部 在 籍 生 徒 及 び 卒 業 生 を 対 象 と し た 校 外 余

暇支援活動に在学中から継続的に参加し,学校卒業後一般就労したある知的障害者 1 名を対象とし,学

校内の友達との仲間関係の変遷を追跡した. 結果は,次のようにまとめられた. 高等部に入学当初, A

さ ん は , 中 学 校 時 代 に 仲 間 関 係 を 十 分 に 築 け な か っ た 経 験 や 新 し い 環 境 で 緊 張 し て い た こ と か ら , 学 級

の友達とのかかわりは授業内における設定された場面が中心であった. 高等部1 年生の 10 月より開始さ

れ た さ さ け ん ク ラ ブ に 対 し て は , 意 欲 も 高 く , 毎 回 欠 か さ ず 積 極 的 に 参 加 し て い た . 活 動 開 始 当 初 の A

さんの興味関心は,ささけんクラブの活動内容が中心であった. 高等部2 年生の 8 月以降,ささけんク

ラブへの興味関心の対象が,活動内容に加えて一緒に活動する参加者へと拡大され始めた. 1 月以降には,

家庭で友達の名前が話題に上がるようになってきた. 同期的に学校においても,就業体験実習後の 12 月

に は , 友 達 と 一 緒 に 遊 ぶ こ と を 学 校 生 活 の 目 標 と し て 自 ら 設 定 す る 様 子 が 見 ら れ , 授 業 以 外 の 場 面 で 友

達とかかわる様子が少しずつ見られるようになってきた. 1月には,卒業後,友達と離ればなれになるこ

とを想起し,その寂しさを母親に吐露するエピソードがあり,よりいっそう仲間関係に対する意識が高 ま っ た こ と が う か が え た . こ の 出 来 事 を 境 に , 学 校 で は 休 み 時 間 等 の 友 達 と か か わ り に 関 す る 連 絡 帳 で

のやり取りの頻度も上がり,実際に友達と遊ぶ様子も頻繁に見られるようになった. 高等部 3 年生にな

る と , 本 人 の 希 望 に よ り , ヘ ル パ ー 支 援 を 利 用 し て 放 課 後 や 休 日 も 友 達 と か か わ る よ う に な っ た . こ の か か わ り は , 卒 業 後 も 継 続 さ れ て い た . 一 方 , さ さ け ん ク ラ ブ に つ い て も 卒 業 後 も 継 続 的 に 参 加 し て い た . 就 労 後 は , さ さ け ん ク ラ ブ が あ る と き の み 自 ら 上 司 に 有 給 休 暇 を 申 請 す る な ど , 生 活 の 中 で の 優 先

順位は高くなっていた. 活動に際しては,後輩が夏のキャンプでスイカわりをしたいとの希望を聞くと,

自 ら 給 料 で 差 し 入 れ を す る な ど , よ り 積 極 的 に 活 動 に か か わ る よ う に な っ て き た . さ さ け ん ク ラ ブ の 活

動後に卒業生だけで行われる夕食会にも毎回参加し,友達とのかかわりを維持していた. 就労先では,

新しい仕事を任された際などにストレスを感じているものの,ささけんクラブやヘルパー支援で、友達と 会 う こ と で ス ト レ ス が 発 散 さ れ , 仕 事 に も 前 向 き に 取 り 組 む こ と が で き て い た . こ の よ う な 友 達 と の か か わ り が な け れ ば , 就 労 を 維 持 す る こ と が 困 難 で あ っ た か も し れ な い と も 考 え て い た . 以 上 のA さんの

仲間関係の変遷や就労先で、の様子について, Fi g. 2 にまとめた.

4

.

(10)

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※網揖Itは、ささけんクラブに参加した月

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制 こ

掻り返つての言葉

Fi g. 2 A さんの仲間関係の変遷と就労先での様子

本研究の結果より,次の2 点が示された. 1 点目は,学校卒業後も学校時代の仲間関係を維持すること

で間接的に就労の継続を支援することができたということで、あった. 就労後の人間関係の充実に関して,

寄林・高橋

( 2012)

は,青年学級への参加者に対して聞き取り調査を行ったところ,継続的な参加を通

して,青年学級は障害者にとっての居場所となり,人間関係の量的な広がりがもたらされ,就労を継続

する上でも肯定的な影響をもたらしている,と報告した. 本研究では,在学中から卒業後に渡って長期

的に対象者の仲間関係を追跡したことで,上記のことがより実証的に示されたと言えよう. ただし,本

研究における対象者が,ささけんクラブ等の場を通して友達とのかかわりを継続していたこと,それ以 外の場で友達とかかわる機会は特に持ち合わせていなかったことからも,知的障害児が学校卒業後も仲

間関係を維持していくためには,第三者による組織的な支援の必要性があると言えよう. この組織的な

支援に関して,ささけんクラブという場は,卒業生にとって生活の中心が職場となった後も,学校と接

続されており,学校の仲間関係を再確認できる場となっていた. そのため,ささけんクラブが定期的に

行われることにより,職場で生じる対人関係上のストレスを解消するための安心感を得られる場となっ

ていた. 松井( 1990) は,友人関係は,青年の生活において重要な役割を果たしており,友人とのつき

あいを通じて自己の成長を果たし,精神を安定させたり,生活の充実感を得たりしていることを報告し

ている. 定型発達のみならず 知的障害児においても仲間関係は同様の機能を持っており,当人らもそ

れを求めており支援していく必要性が示された. 2 点目は,在学中におけるささけんクラブの場が,学

校の仲間関係を活性化させた可能性が示唆されたことで、あった. 明確な因果関係を示すことは難しいも

のの,対象者においては学校での友達とのかかわりが拡大するのに先行して,ささけんクラブでの仲間 関係への関心の拡大が確認されたことから,校外における学校の友達とのかかわりの経験が,仲間関係

の構築,拡大の契機となっていたことが考えられた. この点に関しては,スポーツ少年団などの学校か

ら離れた異学年集団での活動が持つ仲間意識を向上させる機能( 笠井・村松,

2007)

と類似しており,

ささけんクラブは活動内容にとらわれないより緩やかな形で、のつながりを作っていたのだと考えられた.

J

(11)

最 後 に , 本 研 究 か ら 得 ら れ た 知 見 を 基 に , 今 後 の 移 行 支 援 の 在 り 方 に つ い て 検 討 す る . 本 研 究 の 結 果 よ り , 在 学 中 に 仲 間 関 係 を 構 築 す る こ と , そ れ ら を 卒 業 後 も 維 持 す る こ と が , 卒 業 後 の 就 労 の 安 定 を も た ら す こ と が 示 さ れ た . 従 来 の 移 行 支 援 の 中 心 に 据 え ら れ て い た 個 別 の 移 行 支 援 計 画 は , 学 校 と 社 会 の 接 続 期 に あ る 知 的 障 害 児 に 対 す る 支 援 に 連 続 性 を 持 た せ る こ と が 目 的 と な っ て い る ( 全 国 学 校 長 会 , 2001) . 学 校 , 職 場 , 支 援 機 関 等 で 情 報 を 共 有 し て い く こ と は 確 か に 有 意 義 な こ と で あ ろ う . し か し な が

ら , こ れ ら に 加 え て , 支 援 者 側 の 連 続 性 だ け で は な く , 知 的 障 害 児 本 人 が 在 学 中 か ら 卒 業 後 も 変 わ ら ず に 活 用 で き る 資 源 と し て 仲 間 関 係 を 形 成 し , そ れ を 本 人 が 明 確 に 認 識 で き る よ う に , 確 認 し , 維 持 す る 仕 組 み が 必 要 で あ る と 考 え ら れ た . 近 年 , 特 別 支 援 学 校 で も 推 進 さ れ て き た キ ャ リ ア 教 育 は , 職 業 観 や 勤労観を醸成することを主要な目的としており,指導の対象の中心は卒業後の職業生活が中心で、あった.

そ の ア プ ロ ー チ の 仕 方 も , 人 間 関 係 形 成 能 力 を 始 め と し た 4領 域 8能 力 と い う 形 の , 個 人 の 能 力 に 還 元 す る よ う な 方 向 性 で 、 あ っ た . そ の た め , 就 労 後 に 生 じ る 種 々 の 困 難 に 対 し て も , そ の 場 だ け で 知 的 障 害

児 本 人 の 力 で 解 決 す る 方 向 で 考 え ら れ て い る 。 し か し な が ら , 知 的 障 害 児 本 人 の 調 整 能 力 に の み 依 存 す る こ と は そ の 解 決 に と っ て 不 十 分 で あ り , 実 際 , 先 行 研 究 に 見 ら れ る よ う に 就 労 後 の 人 間 関 係 に 関 す る 課 題 が 山 積 し て い た . 本 研 究 の 結 果 を 鑑 み る と , 就 労 先 以 外 に も 安 心 で き る 人 間 関 係 を 形 成 す る こ と に よ り , 就 労 の 維 持 を 図 っ て い く こ と が で き る こ と が 示 さ れ た . ま た , 従 来 の い わ ゆ る 生 活 支 援 に 関 す る 取組についても,本人の卒業後のニーズを把握する,在学中から相談機関の職員と顔合わせをするなど, 学 校 生 活 か ら 就 労 後 の 生 活 に 向 け て の 切 り 替 え を し て い く た め の 準 備 と し て の 取 組 が 中 心 で あ っ た ( 東 京都社会福祉協議会, 2008) . こ れ に 対 し て , 本 研 究 よ り , 在 学 中 の 仲 間 関 係 を 卒 業 後 の 一 つ の 資 源 と し て 捉 え 構 築 し て い く こ と , そ れ ら を 維 持 す る た め の 学 校 か ら 社 会 に 渡 っ て 知 的 障 害 児 が 同 じ よ う に 活 用 で き る 支 援 の 仕 組 み が 新 た な 移 行 支 援 の 視 点 と し て 提 案 で き ょ う .

今後の検討課題としては,次の 3 点が挙げられた. 1 点目は,事例の数を増やして検討を重ねていくこ

とである. 本研究では, 1 事 例 の み を 取 り 上 げ て 考 察 を 加 え た た め , 他 の 事 例 に お い て も 同 様 の 経 過 を たどるのか検証していくことで,知的障害児における仲間関係の構築のフ。ロセスがより明らかとなり, 在 学 中 の 学 校 で の 取 り 組 み も 含 め た 包 括 的 な 支 援 の 方 策 を 検 討 す る こ と が 可 能 に な る と 考 え ら れ る . 2

点目は,仲間関係を構築する上での本実践のような校外で、の取組の必要性についてさらに検証していく こ と で あ る . 今 回 の 事 例 に つ い て は , さ さ け ん ク ラ ブ へ の 参 加 の 様 子 の 変 化 と 学 校 に お け る 友 達 と の か

かわりの変化の同期性は見られたものの,明確な因果関係を示すことは困難で、あった. 学校内で設定さ

れ た 活 動 の 経 験 と 学 校 外 で 設 定 さ れ た 活 動 の 経 験 の 質 の 違 い に つ い て 検 討 を 加 え て い く こ と で , 仲 間 関 係 を 構 築 す る た め の 要 件 に つ い て 明 ら か に な る も の と 考 え ら れ る . 3 点 目 は , さ さ け ん ク ラ ブ の 場 を 通 し て 在 学 中 に 構 築 さ れ た 仲 間 関 係 を 就 労 後 も 維 持 す る こ と と , 就 労 先 へ の 適 応 や 定 着 と の 関 連 を さ ら に 追 究 し て い く こ と で あ る . 本 校 卒 業 生 に 対 し て 卒 業 後 の 就 労 生 活 や 余 暇 生 活 に 関 す る 調 査 を 行 い , さ さ け ん ク ラ ブ の 活 動 が 開 始 さ れ た 2010 年 前 後 の 結 果 の 相 違 点 に つ い て 検 討 を 加 え て い く こ と で , 就 労 後 の 生 活 に お け る , さ さ け ん ク ラ ブ の よ う な 場 が 果 た し た 役 割 や 就 労 後 に 求 め ら れ る 支 援 の 内 容 に つ い て

より明らかになっていくものと考えられる.

(12)

-文 献

1 ) 郷間英世・藤川聡・所久雄 ( 2007) 知 的 障 害 者 の 余 暇 活 動 に つ い て の 調 査 研 究 - 通 所 授 産 施 設 に 就 労 し て い る 人 を 中 心 に 奈 良 教 育 大 学 紀 要 人 文 ・ 社 会 科 学 , 5 6(1), 67- 70.

2) 平 井 威 ( 2006) 知的障害者の生涯学習支援. 発達障害研究,28( 3) ,202・207.

3) 今 井 優 香 ( 2011) 軽 度 知 的 障 害 者 へ の グ ル ー プ ホ ー ム に お け る 余 暇 支 援 の 在 り 方 . 滋 賀 大 学 大 学 院 教 育学研究科論文集,( 14) , 49・57.

4) 笠原芳隆・村中智彦 ( 2003) 学 校 卒 業 後 に お け る 障 害 の あ る 青 年 の 余 暇 支 援 の 意 義 と 課 題 一 上 越 地 域 に

お け る 大 学 の 余 暇 支 援 の 実 践 か ら 上 越 教 育 大 学 研 究 紀 要 , 2 3(1), 91・103.

5) 笠 井 達 夫 ・ 村 松 昌 弘 ( 2007) 学 童 期 に お け る 異 年 齢 集 団 活 動 と 社 会 的 ス キ ル の 習 得 . 徳 島 文 理 大 学 研 究紀要,74,43・53.

6) 松井豊( 1990) 友 人 関 係 の 機 能 斉 藤 耕 二 ・ 菊 池 章 夫 ( 編 ) 社 会 化 の 心 理 学 ハ ン ド ブ ッ ク 川島書居, 282・296

7) 社 会 福 祉 法 人 東 京 都 社 会 福 祉 協 議 会 ( 2008) 福 祉 、 教 育 、 労 働 の 連 携 に よ る 知 的 障 害 者 の 就 労 ・ 生

活支援 連続性のあるチーム支援モデ、ルの提案

8) 障 害 者 職 業 総 合 セ ン タ ー ( 2013) 障 害 の 多 様 化 に 応 じ た キ ャ リ ア 形 成 支 援 の あ り 方 に 関 す る 研 究 - 第

1分 冊 ア ン ケ ー ト 調 査 編

9) 障 害 者 職 業 総 合 セ ン タ ー ( 2013) 障 害 の 多 様 化 に 応 じ た キ ャ リ ア 形 成 支 援 の あ り 方 に 関 す る 研 究 一 第

2 分 冊 ヒアリング調査編一.

10) 障 害 者 職 業 総 合 セ ン タ ー ( 2013) 障 害 の 多 様 化 に 応 じ た キ ャ リ ア 形 成 支 援 の あ り 方 に 関 す る 研 究 - 第

3分 冊 キャリア形成支援モデ、ル編一.

11 ) 寄林結・高橋智 ( 2012) 生 涯 学 習 時 代 に お け る 障 害 者 青 年 学 級 の 役 割 - 障 害 者 青 年 学 級 参 加 の 本 人 の ニ ー ズ 調 査 か ら 東 京 学 芸 大 学 紀 要 総 合 教 育 科 学 系ll ,63, 31・55.

参照

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