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所得課税における税収弾性値についての一考察

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(1)

11

所得課税における税収弾性値

についての一考察

石橋英宣

要 旨

(2)
(3)

1

はじめに

バブル崩壊前後において,国の税収1)は増収基調から低迷へと大きくそ の姿を変える.1970 年度決算においては国の税収は 7.3 兆円程度であった が 1980 年度決算においては 26.9 兆円,1990 年度においては 60.1 兆円と, ほぼ単調増加であった.しかしながら 90 年代半ばにかけては景気低迷およ び累次の減税政策により 50 兆円台半ばないしはそれ以下の水準でほぼ横ば いで推移した後,2003 年度決算においては 90 年以降最低の水準となる 43.2 兆円まで下落する.それ以降は景気回復および定率減税の廃止等により税収 は回復したものの,2006 年度決算においては 49.1 兆円と 90 年代前半の水 準すら回復していない2)

このような税収の低迷は,バブル崩壊後の景気とどのように関連していた のであろうか.国の税収と経済成長の相関関係としては,名目 GDP 弾性値 が政策上多く用いられるが,後述するように政府税調答申においては「国の 税収弾性値は 1.1」,すなわち名目 GDP の伸び率かける 1.1 が国の税収伸び 率と考えられてきた.しかしその理由,とくに景気変動に対して弾力的と考 えられる所得税,法人税といった所得課税がどの程度弾力的なのかについて は必ずしも明らかとなっていない3)

よって,本稿においてはバブル崩壊前後における所得課税に焦点を当て, その弾性値の推移および変動の原因について検証したい.なお,本稿におい

1) 国の一般会計における「租税及び印紙収入」を指す.以下,とくに断らないかぎり国の税収と は同概念とする.

2) 2004 年度以降は税源移譲により,所得税の一部が所得譲与税(地方譲与税の一部)として一 般会計を経由せずに地方に配分されている点に注意.04 年度以降 06 年度までそれぞれ 4,249 億 円,1 兆 1,159 億円,3 兆 94 億円が配分された.よってこの分を単純に所得税に足し戻せば 06 年度は 52.1 兆円となる.

(4)

ては 1970 年度を起点として分析している.その理由としては 1974(昭和 49)年度に大規模な所得税減税が行われているためであり,そこまで視野に 入れた方が,80 年代後半および 90 年代後半以降に行われた税制改正等の特 徴がより明らかになるからである.

2

先行研究

4)

先行研究については北浦・長嶋[2007],石橋[2007]においてまとめられて いるが,その内容について再考したい(図表 11 1).税収弾性値という概念 自体が行政需要から派生したものであるために,先行研究は行政ないしはそ の周辺部において蓄積されている.内閣府[2007a]においては構造的・循環 的財政収支が推計されているが,構造的財政収支は経済の長期的趨勢である トレンド GDP と整合的な歳入と定義され,その推計のために税目ごとの弾 性値が別途推計されている.西崎・水田・足立[1998],OECD[2000],西 崎・中川[2000]もまた構造的財政収支の推計のために税目ごとの税収弾性値 を推計している.トレンド GDP は通常実質値で定義されるために,上記諸 研究の弾性値は基本的に実質 GDP 弾性値であることに注意が必要である. 推計結果は図表 11 1 のようにまばらであり,法人税と所得税の弾性値の大 小関係は必ずしも明確ではないことがわかる.

林[1997]においてはクロスセクションデータを用い,弾性値が限界税率の 平均税率に対する比率であることに着目して分析が行われ,所得税の構造と して,控除は所得比例の部分が大きいほど,また税率が累進的であるほど, 経済成長によって弾性値が大きくなる可能性が高まると論じている.また所 得税弾性値が計測されているが,わが国においては,税率構造よりも所得控

(5)

除により弾性値が決定されていると結論している.北浦・長嶋[2007]はマク ロの時系列データを用いて所得税,法人税等の個別弾性値を推計の上,それ ら個別弾性値を税収構成比でウェイトして国の税収の名目 GDP 弾性値を求 めることを主眼としている.内閣府[2007b]の試算においては税目ごと(所 得税,法人税,消費税,タバコ税,酒税,相続税等,その他間接税,印紙 税)に税収関数を設定した上で将来シミュレーションを行い,その結果得ら れた税収の試算値と名目 GDP の関係から事後的に弾性値を計算している. よって想定している経済状況や政策に応じてその弾性値は変動しうる.

政府税制調査会[2000]答申においては,税制改正等における増減収要因を 調整した国の税収の伸び率と名目 GDP の伸び率の比を税収弾性値と定義し て 1975(昭和 50)年度から 1998(平成 10)年度の単年度弾性値を試算して いる(図表 11 2).なお,同答申においては,「過去の長期的な平均値は国税 1.1,地方税 1.0」とされているが,具体的な計測期間については明示され ていないので,仮に 10 年間の期間平均をとった場合,国の税収の弾性値が 1.1 程度となるのは 1985 年度までの過去 10 年間と 1992 95 年度までの過去 10 年間の期間平均となり,必ずしも 1.1 が支配的ではない.

税収弾性値を用いた財政シミュレーションとしては,財務省「後年度影響

試算」(財務省[2007])がある.国の一般会計に対象を絞っているが,名目

GDP 成長率を仮定した上で,名目 GDP 弾性値を 1.1 と置いて税収の将来推 計がなされている.参考として諸外国における財政シミュレーションを見る と,財政制度等審議会[2007]において米国(CBO, OMB),英国,ドイツ, EU 委員会による財政シミュレーションがまとめられているが,推計期間が

図表 11 1 税収の GDP 弾性値

所得税 法人税 税収全体

内閣府[2007a] 1.20 1.30 ―

内閣府[2007b] ― ― 1.1 程度

財務省[2007] ― ― 1.1

北浦・長嶋[2007] 1.26 or 1.46 1.00 1.07 or 1.13

法専[2005] ― ― 1.17

西崎・中川[2000] 1.69 (可変) ―

OECD[2000] 0.4 2.10 ―

(6)

45 年から 75 年間という超長期に及ぶものであるために,米国(CBO, OMB), ドイツにおいては対 GDP 比を一定として将来推計がなされている.

3

分析の枠組み

3.1 制度改正の時期・規模

本項においては,税収時系列の特徴を明らかにするために,70 年度以降 の所得税および法人税における税制改正等の時期・規模を概観したい.戦後 の制度改正等の詳細については石[2008]にまとめられているので,通史的な 記述は本稿においては省略し,時系列分析上重要となる増減収効果が大きい

図表 11 2 政府税制調査会[2000]における税収弾性値

(弾性値以外は%)

年度 国の税収の伸率 名目 GDP 伸率 弾 性 値

原系列 税制改正調整後 単年度 10 年平均

1975 −8.5 −3.5 10.0 −0.35 ―

1976 13.9 12.3 12.4 0.99 ―

1977 10.7 12.4 11.0 1.13 ―

1978 26.5 10.0 9.7 1.03 ―

1979 8.3 14.4 8.0 1.80 ―

1980 13.2 10.9 9.0 1.21 ―

1981 7.8 3.3 6.2 0.53 ―

1982 5.4 4.0 4.8 0.83 ―

1983 6.1 5.9 4.5 1.31 ―

1984 7.9 7.4 6.8 1.09 0.92

1985 9.4 5.6 6.3 0.89 1.09

1986 9.6 8.8 4.6 1.91 1.16

1987 11.8 16.0 4.8 3.33 1.33

1988 8.6 13.3 6.8 1.96 1.44

1989 8.1 10.5 7.1 1.48 1.40

1990 9.4 8.2 8.0 1.03 1.38

1991 −0.5 0.2 5.6 0.04 1.33

1992 −9.0 −9.9 1.9 −5.21 1.13

1993 −0.6 −1.3 1.0 −1.30 1.07

1994 −5.7 2.3 0.4 5.75 1.11

1995 1.8 2.4 2.3 1.04 1.13

1996 0.2 0.4 3.0 0.13 0.97

1997 3.6 −4.2 0.6 −7.00 0.54

1998 −8.4 −6.8 −2.0 3.40 0.00

(7)

税制改正等に絞って概観したい.

税制改正等の規模を知る上で重要なのが,各年度改正等においてまとめら れる増減収額であるが,公表資料として存在しているのは各年度の予算編成 時点でまとめられる税制改正要綱である.これは税制改正による増減収の予 測値であり,実績額ではないが,本稿においては制度改正における増減収額 の近似値として用いる.なお,時系列の整理には財務総合政策研究所『財政 金融統計月報 租税特集』を用いて 1971 年度まで遡及した.

また,以下の分析で用いられる増減収額はいずれも平年度ベースである. すなわち当該年度に行われた税制改正等が後年度に長期間にわたって効力を 発揮する場合でも,当該年度の増減収効果として一括して計上してある.こ れは各税制改正等の規模を計る上では有効であっても,実際の増減収効果の 発現とは乖離するという欠点があるものの,議論の簡便化のために平年度 ベースの効果を見る.

まず所得税について制度改正等による増減収を概観する.図表 11 3,11 4 において,各年度における税制改正等による増減収額の名目値を単年度分 および累積額とそれぞれプロットしたが,70 年代以降,一貫して所得税減 税が行われていたことがわかる.名目の累積額を 2004 年度時点で見ると 20 兆円を超える減税超過となり,その改正の主なポイントは①オイルショック 後の 74 年度改正,②消費税導入(89 年度)前の 88 年度税制改正,③バブ ル経済崩壊後の 94 99 年度改正となる.その規模を見るために決算税収額に 対する減収額を算出すると(図表 11 5),74 年度改正においては決算税収の 約 33%が失われたこととなる.また 88 年度改正においては決算税収の約 10%,94,98,99 年度はそれぞれ約 19%,18%,29%の大幅な減税であっ たことがわかる.なお,74 年度改正と 88 年度改正の間に小刻みな減税が繰 り返されているものの,両税制改正間においては大きな制度変更はないこと から,税収時系列としてはこの期間においては制度要因一定の理想的な税収 系列であるといえる.しかしながらバブル崩壊後,とくに 94 年度以降は大 規模な減税が繰り返されることとなり,大きく税収が下振れするとともに, 税収系列としても,税目上は「所得税」と称されているものの,制度要因が 大きく修正された時系列といえる.

(8)

25,000(10億円:減税をプラス表示)

20,000

15,000

10,000

5,000 0

−5,000

1970 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度)

累計額 単年度増減税額

図表 11 3 税制改正等による所得税の増減税措置および累計額(平年度ベース)

40,000(10億円) 35,000

30,000 25,000 20,000 15,000 10,000 5,000 0

1970 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度)

実績値 増減税反映後

図表 11 4 所得税収の実績および増減税措置を戻した場合

(%:減税をプラス表示) 35

30 25 20 15 10 5 0 −5 −10

1970 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度)

その他改革等 特別措置等

税率 控除

図表 11 5 所得税における税制改正等の規模および内容(対決算比)

(9)

は税率変更による減収があるものの,その大部分は控除,とくに給与所得控 除の大幅な拡充によるものであり,その規模は当時の名目額で約 1 兆円にも 上るものであった.しかしながら消費税導入前の 88 年度改正においては, 配偶者控除を中心とした諸控除の拡充が行われたものの,中心となったのは 税率改正である.バブル崩壊後の 94 年度改正においては,税率改正および 控除の拡充による減税措置がとられたものの,98,99 年度においては定率 減税等の特別措置等による一時的な減税措置がとられることとなった.

同様に法人税における税制改正等について増減収を概観すると(図表 11 6, 11 7,11 8),70 年代から 80 年代半ばにかけて対決算比で 5%に届かない比 較的小規模な増税が繰り返され,87,88 年度改正によって税率改正による 減税措置がとられていた.そのために,90 年代半ばまでは増税超過であっ たことがわかる.しかし 98 年度以降は税率改正および損金算入の特例措置 による大規模減税が実施され,近年は減税超過となる.なお,2003 年度に おいては対決算比で 10%を超える大規模減税が行われたが,これは研究開 発費にかかる税額控除および IT 投資促進のための特別償却等によるもので あり,税率改正をともなわない税制改正としては最大規模のものとなる.

以上を踏まえ,所得税+法人税の対決算税収比で 10%を超える大規模減 税は 74 年度に実施されて以降,94 年度までは行われなかったが,94,98, 99 年度と 10%超えの大規模減税が行われ,税収を下押ししていることがわ かる(図表 11 9,11 10).とくに 99 年度は対決算比で 25%を超える大規模 減税となり,70 年代以降最大規模の減税であったことがわかる.

3.2 税収系列の整理

(10)

4,000(10億円:減税をプラス表示) 3,000

2,000 1,000 0 −1,000 −2,000 −3,000 −4,000

1970 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度)

累計額 単年度増減税額

図表 11 6 税制改正等による法人税の増減税措置および累計額(平年度ベース)

20,000(10億円) 18,000

16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0

1970 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度)

実績値 増減税反映後

図表 11 7 法人税収の実績および増減税措置を戻した場合

(%:減税をプラス表示) 25

20

15

10

5

0

−5

−10 −15

1970 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度)

その他の改革等 特別措置等 税率

図表 11 8 法人税における税制改正等の規模および内容(対決算比)

(11)

法人税に関しては,98 年度までは実績値以下,それ以降は実績値を上回る 系列ができる5)

70 年代以降の以上のような税収系列を踏まえると,弾性値は図表 11 11,

5) 本節のような「自然体」を仮定した議論は,部分均衡的なものである.比較的規模が小さい場 合には是認されうるが,大規模減税の際には必ずしも是認されるものではない.近年においてこ の点が問題となるのは,94 年度以降の大規模減税である.Hori and Shimizutani[2002]において は,パネルデータを用いて,94 年度,96 年度,98 年度の減税効果,つまり限界消費性向引き上 げ効果は一時的であったと結論されており,本稿のような部分均衡分析に一定の妥当性はあるも のと考えられる.

60,000(10億円) 50,000

40,000 30,000 20,000 10,000 0

1970 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度)

実績値 増減税反映後

図表 11 9 所得課税(所得税+法人税)の実績および増減税措置を戻した場合

(%:減税をプラス表示) 30

25

20

15

10

5

0

−5

1970 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度) 法人税増減税

所得税増減税

図表 11 10 所得課税(所得税+法人税)における税制改正等の規模(対決算比)

(12)

11 12 のように,制度改正の有無によって大きくその値を変えることとなる. 80 年代までを見た場合,所得税においては約 0.3 ポイントその値が変わる こととなるが,累積で見た制度改正の効果が比較的小さい法人税においては, 税制改正等による増減収効果を考慮しても,その差は約 0.1 ポイントとさほ ど大きな弾性値の変化は見られない.しかしながら 90 年代以降を見た場合, 前述の減税により税収は大きく下振れするために,自然体と比較した場合, 所得税は約 4 ポイント,法人税は約 3 ポイントも下方修正され,弾性値を大 きく引き下げていたことがわかる.

単年度の弾性値を見ると(図表 11 13,11 14,11 15),所得税に関しては, 単年度では 80 年代まではさほど自然体と実績値において大きな乖離が生じ ないものの,90 年代以降は大きく両系列が乖離し,2000 年度においては実 績値の弾性値が 24 へと大きく跳ね上がる.法人税に関しては,90 年代後半 以降の数年のみが実績値と自然体の乖離が生じるものの,他の期間において

図表 11 11 所得課税の名目 GDP 弾性値(実績値,期間平均)

期間(年度) 所得税+法人税 所得税 法人税

1970 2004 0.88 0.96 0.78

1970 1990 1.24 1.35 1.11

1990 2004 −4.55 −4.80 −4.20

1970 1980 1.17 1.28 1.06

1980 1990 1.36 1.48 1.21

1990 2000 −2.98 −2.60 −3.56

2000 2004 11.84 18.29 2.24

図表 11 12 所得課税の名目 GDP 弾性値(自然体(増減税調整後),期間平均)

期間(年度) 所得税+法人税 所得税 法人税

1970 2004 1.29 1.53 0.87

1970 1990 1.40 1.66 1.01

1990 2004 −0.38 −0.11 −1.17

1970 1980 1.39 1.76 0.86

1980 1990 1.43 1.48 1.29

1990 2000 −0.23 0.36 −2.14

2000 2004 1.17 4.87 −11.92

注) 1.内閣府『国民経済計算年報』,財務総合政策研究所『財政金融統計月報 租税特集』各年度版, 財務省主計局『決算の説明』各年度版より作成.図表 11 11 も同じ.

(13)

25(弾性値) 20

15 10 5 0

−10 −5

1970 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度) 実績値 自然体

図表 11 13 所得税の名目 GDP 弾性値

30(弾性値)

20

10

0

−10

−30 −20

1970 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度) 実績値 自然体

図表 11 14 法人税の名目 GDP 弾性値

20(弾性値) 15

10 5 0 −5

−15 −10

1970 72 74 76 78 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度) 実績値 自然体

図表 11 15 所得課税(所得税+法人税)の名目 GDP 弾性値

(14)

は両者の動きはほぼ同じものとなる.そのために所得税+法人税で見ると, 90 年代以降の単年度弾性値は,所得税の変動に大きく影響を受けるために, 実績値と自然体が大きく乖離する.

3.3 課税標準の推計

以上,税制改正等による増減税措置を考慮する影響について検証してきた が,本項においては両税の課税標準を SNA 統計を用いて定式化した上で名 目 GDP との関係を分析し,弾性値について考察を深めていきたい.

SNA と課税標準との関係を分析したものとしては森信[2002]があげられ るが,所得税のみが分析対象となっているために,SNA 統計における家計 受取のみが取り上げられている.本稿においては,所得税および法人税の課 税標準を包括的に扱うために,国民所得(NI)を分類して所得税,法人税 の課税標準の時系列を定義する.国民所得(NI)は SNA 年報においては図 表 11 16 のように作成されているが,一般的には国民所得とは要素費用表示, すなわち生み出された付加価値(すなわち所得)をどの主体がいくら報酬と して受け取ったのかを示すものであり,大きく分けて被用者の取り分(雇用 者報酬),株主(非企業)等の取り分(財産所得),企業の取り分(企業所 得)となる.さらに企業は法人企業と個人企業に分類される(一部公的企業 にも分類).所得課税とはこれら所得から政府への再分配であるから,SNA においてはこれら所得系列が課税標準となるのである.

まず,所得税の課税標準を SNA 上にて定義したい.所得税における所得 は図表 11 17 のように 10 種類に分けられるが,概念的には

所得≡収入額−必要経費≒生産額−中間投入=付加価値

(15)

11

所得課税における税収弾性値についての一考察

387

1.雇用者報酬

⑴ 賃金・俸給 所得税(YWIV)

⑵ 雇主の社会負担 a.雇主の現実社会負担 b.雇主の帰属社会負担 2.財産所得(非企業部門)

⒜ 受取 ⒝ 支払 ⑴ 一般政府

a.利子 ⒜ 受取 ⒝ 支払

b.法人企業の分配所得(受取)

⒜ 配当(受取) 法人税 (YCVDIV)

⒝ 準法人企業所得からの引き出し(受取) c.保険契約者に帰属する財産所得(受取) d.賃貸料

⒜ 受取 ⒝ 支払

⑵ 家計 所得税(YIEV)

a.利子 ⒜ 受取

⒝ 支払(消費者負債利子)

b.配当(受取) 法人税 (YCVDIV)

c.保険契約者に帰属する財産所得(受取) d.賃貸料(受取)

⑶ 対家計民間非営利団体 所得税(YIEV)

a.利子 ⒜ 受取 ⒝ 支払

b.配当(受取) 法人税 (YCVDIV)

c.保険契約者に帰属する財産所得(受取) d.賃貸料

⒜ 受取 ⒝ 支払

3.企業所得(法人企業の分配所得受払後) ⑴ 民間法人企業

a.非金融法人企業 b.金融機関 ⑵ 公的企業

a.非金融法人企業 b.金融機関

⑶ 個人企業 所得税(YFSEV)

a.農林水産業

b.その他の産業(非農林水産・非金融) c.持ち家

4.国民所得(要素費用表示)(1+2+3) (参考)民間法人企業所得(法人企業の分配

所得受払前) 法人税(YCVB)

民間法人企業所得に対する所得・富 等に課される経常税

対応する税目 (推計上の変数名) 項 目

対応する税目 (推計上の変数名) 項 目

国民所得・国民可処分所得の分配

(16)

当する6).その他の主な所得は,図表 11 17 のように賃貸料(家計,対家計 民間非営利),企業所得(個人企業,除持ち家)があげられ,これらが国民 所得上の所得税の課税標準に該当する.前者は財産所得の内数であるが,後 者についてはまとめて「家計の営業余剰・混合所得」と以下称する.なお森 信[2002]にもあるように,SNA 統計上はキャピタルゲインを独立して扱っ ていないために,譲渡所得は把握不可能である点には注意が必要である.

続いて法人税であるが,法人税においても課税標準は益金−損金で計上さ れる付加価値と定義されるため,SNA 上の付加価値概念と整合的となる. これに対応する国民所得上の系列は民間法人企業所得(法人企業の分配所得 受払前)に非企業部門の配当受け取りを加えたものとなる.注意すべきは, 企業所得を分配所得受払前(すなわち企業間の配当のやり取りの前)で把握 することである.配当とは税引後利益の分配であるために,課税標準として は配当前の所得が該当する.なお,益金事項,損金事項をそれぞれ図表 11 18 に掲げてあるが,所得税のところでも述べたように,SNA 統計上はキャ ピタルゲインを独立して扱っておらず,有価証券譲渡益,および有価証券譲 渡損に該当する統計項目はないために,企業の資本取引にともなう収益は把 握していないことが大きな問題点となる.この点は法人税収関数の推計を行 う際に分析したい.

以上を踏まえ,これら所得税・法人税の課税標準と GDP との関係を見る と,以下のことがわかる(図表 11 19)7).法人税の課税標準の GDP に占め る割合は 1980 年度以降ほぼ横ばいで推移してきた.これは課税標準の変動 が税収の GDP 弾性値に与える影響はほぼ無視できるものであることを意味 する.一方で,所得税の課税標準は 1990 年代以降緩やかではあるが低下局 面であった.1991 年度には 0.69 であった割合が,2004 年度では 0.56 へと, 約 1 割程度そのシェアを落とすこととなる.すなわち,所得税の課税標準の

6) なお,法人に対して支払われる利子・配当等も源泉徴収の対象であるために,利子所得,配当 所得に関しては法人も所得税の納税義務者となる.これら法人(非金融法人,金融機関)の利子 所得,配当所得に関しては主要系列表 2 では企業所得(法人企業の分配所得受払後)として計上 してある.一方で,これらは所得支出勘定において個別に把握されているが,本稿においては国 民所得表の分解を優先するために,他の勘定表の分析は割愛する.

(17)

11

所得課税における税収弾性値についての一考察

389

所得の

種類 定義・例 金額の計算方法

徴収額 (10 億円)

[シェア] SNA 上の概念(主要系列表 2) 利子

所得 (所税 23 条 1 項)公社債及び預貯金の利子等 利子等の収入金額(23 条 2 項) [4.9]762 利子受取(家計,対家計民間非営利)〔注:非金融法人,金融機関は所得支出勘定に掲載〕 配当

所得 (所税 24 条 1 項)法人から受ける利益の配当,剰余金の分配等 配当等の収入金額.但し,元本取得のための負債の利子は控除可(24 条 2 項) 1,185[7.6] (家計,対家計民間非営利)〔注:非金融法人,金配当受取及び保険契約者に帰属する財産所得受取 融機関は所得支出勘定に掲載〕

不動産

所得 不動産,不動産の上に存する権利等の貸付による所得(所税 26 条 1 項) 不動産所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額(26 条 2 項) [4.6]628 賃貸料(家計,対家計民間非営利) 事業

所得 農業,漁業,製造業,卸売業,小売業,サービス業等から生じる所得(所税 27 条 1 項) 事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額(27 条 2 項) [3.4]536 企業所得(個人企業)(除持ち家)[所得支出勘定・家計(個人企業含む)の混合所得] 給与

所得 (所税 28 条 1 項)俸給,給料,賃金,賞与等に係る所得 給与等の収入金額から給与所得控除額を控除した残額(28 条 2 項) 10,391[66.5] 賃金・俸給 退職

所得 退職手当等,退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与に係る所得 (所税 30 条 1 項)

退職手当等収入金額から退職所得控除額を 控除した残額の 2 分の 1 に相当する金額 (30 条 3 項)

340

[2.2] 雇主の帰属社会負担

山林

所得 (所税 32 条 2 項)山林の伐採又は譲渡による所得 山林所得に係る総収入金額から必要経費,特別控除を控除した金額(32 条 3 項) [0.0]0 企業所得(個人企業)(除持ち家)〔所得支出勘定・家計(個人企業含む)の混合所得〕 譲渡

所得 資産の譲渡による所得(所税 33 条 1 項) 総収入金額から資産の取得費,譲渡に要した費用及び特別控除額を控除した金額(33 条 3 項)

650

[4.2] ―

一時

所得 (所税 34 条 1 項,金子[2006])上記以外の所得のうち一時的・偶発的な所得 総収入金額からその収入を得るために支出した金額及び特別控除を控除した金額(34 条 2 項)

24

[0.2] ―

雑所得 上記いずれにも該当しない所得 (所税 35 条 1 項)

例:公的年金等,原稿料等

・公的年金等の収入金額から公的年金等控 除額を控除した残額(35 条 2 項 1 号) ・雑所得に係る総収入金額から必要経費を 控除した金額(35 条 2 項 2 号)

公的年金等 269[1.7] 原稿料等

839[5.4]

公的年金等:その他経常移転(純)原稿料等:企 業所得(個人企業)(除持ち家)〔所得支出勘定・ 家計(個人企業含む)の混合所得〕

注) 1.「所得税法(昭和 40 年法 33 号)」,『国税庁統計年報書』(国税庁),『国民経済計算年報』(内閣府),金子[2006]より作成.

2.納税義務者は原則個人(所税 5 条 1 項 2 項,7 条 1 項 1 号 3 号)であるが,法人に対して支払われる利子・配当等も源泉徴収の対象であるために(212 条 3 項),法人も所得税の納税義務者となる(5 条 3 項 4 項).

(18)

図表 11 18 法人税法における益金,損金の分類 ①益金として計上する事項

取 引 内容(特に記す必要がある場合に記述.以下同じ) SNA 上の概念(主要系列表 2)

資本等取引以外の取引による全ての収益

(法税 22 条 2 項,金子[2006]) ―(注 1)

有価証券譲渡益(法税 61 条の 2 第 1 項) ―(注 2)

②益金に含まれない事項

取 引 内 容 SNA 上の概念(主要系列表 2)

資本等取引(法税 22 条 2 項 3 項) 法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引 と,法人が行う利益又は剰余金の分配(22 条 5 項)

法人が行う利益又は剰余金の分配:財産所得(非企業 部門)配当(受取)

その他:―(注 2) 受取配当等(法税 23 条 1 項等) 法人が内国法人から受ける利益の配当,剰余金の

分配等の全部または一部(金子[2006]) 〔法人企業間の粗の配当,剰余金受取は非計上〕―

資産の評価益(法税 25 条 1 項) ―(注 2)

還付金(法税 26 条 1 項 1 号) 企業所得(法人企業の分配所得受払後)民間法人企業

③損金として計上する事項(金子[2006]より主要なものを計上)

取 引 内 容 SNA 上の概念(主要系列表 2)

売上原価(法税 29 条 1 項) 棚卸資産の売上原価の費用計上 〔中間投入に該当〕 減価償却資産の償却費(法税 31 条 1 項) 減価償却資産(有形および無形)(2 条 23 号,法税

令 13 条)の減価額の費用計上 〔固定資本減耗に該当〕 繰延資産の償却費(法税 32 条 1 項) 繰延資産(創業費,開業費等)(2 条 24 号,法税令

14 条)の減価額の費用計上 〔固定資本減耗に該当〕

人件費 使用人(従業者)に対して支払う給与は原則全て

損金算入(金子[2006]) 賃金・俸給 寄付金(法税 37 条 1 項) 国または地方団体および公益法人等に対する寄付

(19)

11

所得課税における税収弾性値についての一考察

391

算入せず 租税・公課

(損金算入不可の租税・公課を限定列挙) 以下のものは損金に算入されない.①法人税および法人住民税(法税 38 条 1 項) ②公益法人等に課される相続税および贈与税(38

条 2 項 1 号)

等(詳細は金子[2006]参照.消費税は損金算入可)

生産・輸入品に課される税

圧縮記帳(法税 42 条 1 項) 補助金により固定資産を取得した場合,その補助

金相当額は損金算入可(同) 補助金

引当金(法税 52 条 1 項 2 項,53 条 1 項) 貸倒引当金(52 条 1 項 2 項),返品調整引当金(53 条 1 項)のみを損金算入(退職給与引当金は含ま ず)

〔中間投入に該当〕

繰越欠損金(法税 57 条 1 項) 過去 7 年以内に発生した欠損金を繰越し,当該期

の益金と相殺可とする(同) 〔当該期の付加価値を生み出すための投入要素ではない〕―

有価証券譲渡損(法税 61 条の 2 第 1 項) ―(注 2)

④損金に含まれない事項

取 引 内 容 SNA 上の概念(主要系列表 2)

資産の評価損(法税 33 条 1 項) ―(注 2)

役員賞与等(法税 35 条 1 項) 賃金・俸給

準備金 ただし,租税特別措置法において損金算入を認め

るものがある(金子[2006]) 〔当該期の付加価値を生み出すための投入要素ではない〕― 交際費等(租特 61 条の 4 第 1 項) 資本金 1 億円以上の法人については交際費は全額

損金不算入. 〔中間投入に該当〕

使途不明金(使途秘匿金)(法基通 9 7

20) 法人が交際費,機密費,接待費等の名義をもって支出した金銭でその費途が明らかでないものは, 損金の額に算入しない(同).

― 〔扱い不明〕

備考)「法人税法(昭和 40 年法 34 号)」,『国民経済計算年報』(内閣府),金子[2006]より作成.

注) 1.直接に収益に該当する勘定項目は存在せず,所得概念として民間法人企業所得(法人企業の分配所得受払前)がある.

(20)

変動は税収の GDP 弾性値を引き下げる方向に作用してきたといえる.続い て所得税の課税標準を分解すると(図表 11 20),賃金・俸給はやや下降トレ ンドを示しているものの,その程度はわずかである(1980 年度 0.48,2004 年度 0.44).一方,財産所得の受け取りは 1990 年度に 0.14 とピークを打っ た後,2004 年度には 0.03 と 1 割強下落していることから,財産所得の下落 が最大の要因であったことがわかる.

3.4 税収関数の推計

本項においては,弾性値変動の要因分解を定量的に行うために,課税標準

0.70 0.80

0.60 0.50 0.40 0.30 0.20

0.00 0.10

1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度) 所得税の課税標準

法人税の課税標準

図表 11 19 所得税および法人税の課税標準の名目 GDP に占める割合

0.60

0.50

0.40

0.30

0.20

0.00 0.10

1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度) 賃金・俸給

財産所得(家計等) 家計の営業余剰・混合所得

(21)

と税収の関係を推計する.

所得税

従来より所得税の税収弾性値を推計するためにとられてきた方法は,たと えば西崎・水田・足立[1998],西崎・中川[2000]にあるように,所得税を給 与所得部分と利子所得部分に分割し,後者に関しては GDP 弾性値をゼロと 置く手法であった.これは GDP と金利の関係は与えられるショックの種類 に依存するからであり,いわば金利変動を不問に付すためにとられた措置で あった.またこれは現行の利子所得の源泉分離課税に合致する手法でもある. しかしながら前述のとおり,家計の財産所得受け取りは 90 年代以降趨勢的 に低下傾向にあることから,利子所得部分を弾性値ゼロで置くことは必ずし も妥当でないと考えられる.よって所得税収関数の定式化として,実際の税 制とは矛盾するものの,内閣府[2007c]を参考として,所得税収と課税標準 の長期的な関係を把握するために,仮想的に総合課税方式の定式化

税収=税率×課税標準×弾性値

を行い大幅に単純化して議論を進める.

内閣府[2007c]によれば,所得税関数の推計式は,従属変数を上述の「自 然体」の税収,すなわち税制改正等による減収措置等がなかった場合の税収 としており,これを課税標準で回帰することにより,課税標準の拡大から得 られる過去の平均的な所得税収の伸び率を得ている.また内閣府[2007c]に おいては,両辺を伸び率形(対数差分形)とされているが,そのメリットは, ①パラメータが課税標準に対する税収の弾性値を示すこととなり解釈が容易 となること,②名目値の変数がもつトレンド性を緩和すること,があげられる.

以上より,以下の推計式を得る.推計方法は OLS である(パラメータの 括弧内はt値)8).

GR(TXAADJ,1) =1.605×GR(YWIV+YIEV+YFSEV,1) (11.1) (16.14)t値)

(22)

推計期間:1971 2004 年度,R2C=0.884,D.W.=0.853 TXAADJ:所得税(利子所得税収含む「自然体」の系列),YWIV:賃金・ 俸給総額,YIEV:家計および対家計民間非営利団体の財産所得(純), YFSEV:家 計 の 営 業 余 剰・混 合 所 得(持 ち 家 の 帰 属 家 賃 を 含 む),GR ( 1):一期前からの伸び率

法人税

続いて法人税関数の定式化を行うが,所得税の累進税率構造と違い,法人 税の場合は資本金等の額により基本税率(30%)ないしは軽減税率(22%) のどちらかが適用されるために,国税庁「税務統計から見た法人企業の実態 ――会社標本調査結果報告」より求めた資本金 1 億円未満法人の算出税額と 1 億円以上法人の算出税額を用いて実効税率(基本税率と軽減税率の加重平 均)を作成し,マクロにおける

法人税収=実効税率×課税標準

の関係を想定した((11.2)式).このようにして税収から実効税率を用いて 課税標準を逆算すれば,この課税標準額と前述の SNA 上の課税標準との違 いは,各年度の税制改正等による損金算入ルールの変更とキャピタルゲイン の反映の有無となる.前者に関しては税率改正以外の税率改正等による増減 収額を上記実効税率を用いて割り戻せば損金算入額の規模がわかるために, これを別途変数として追加する.後者については SNA 統計では直接は把握 できないために,SNA 課税標準に対する弾性値ととらえ,以下の定式化と する.

TXB= YCVS

1 +YCVSS

RTYCVH+RTYCVL×YCVSS

(11.2)

(23)

YCVB:民間法人企業所得(法人企業の分配所得受払前),YCVDIV:非企 業部門の配当受取

推計は OLS を用いるが,関数形は所得税の推計式と同様伸び率形(対数

差分形)へと変更する.推計結果は以下のとおり(パラメータの括弧内はt

値).

GR(YCVS+YTCSV,1) =0.621×GR(YCVB+YCVDIV,1) (11.4) (3.31)(t値)

推計期間:1981 2004 年度,R2C=0.293,D.W.=1.858

すなわち,実際の法人税収から逆算した課税標準の伸び率は,SNA 上の 課税標準の伸び率の 6 割程度しかないことになる.その理由を直感的に説明 するために,(11.3)式の左辺の右辺に対する比率,すなわち法人税収から 逆算した課税標準(制度改正要因調整後)の SNA 課税標準に対する比率

(図表 11 21)を見ると,80 年代前半は 0.8 程度で推移し,80 年代後半に 1.2 まで上昇するものの,90 年代以降下落し,近年では 80 年代前半の水準 を割り込むまでに低下し続けていることがわかる.この変動はキャピタルゲ インによってもたらされたと考えられ,低いパラメータ値になった要因であ ると考えられる.

1.40

1.20 1.00 0.80

0.60 0.40

0.00 0.20

1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度) 図表 11 21 法人税収から逆算した課税標準/ SNA 課税標準

(24)

4

分析結果

今までの分析において明らかになったように,所得税の課税標準において は財産所得の比率の低下,法人税の課税標準においてはキャピタルゲインの 大幅な上昇にともなう剝落が,バブル崩壊後の特徴である.よって部分均衡 的にこれらの変動が生じなかった場合,すなわち①家計の財産所得が減少せ ずにある一定水準で推移した場合(分配要因),②大幅なキャピタルゲイン 増およびその剝落がなかった場合(キャピタルゲイン要因),に所得税・法 人税がどのように推移し,また弾性値がどのように変動したのかについて検 証する.

4.1 分配要因

まず,家計の財産所得が減少せずに 80 年代と同様に対 GDP 比が一定で あった場合を想定して所得税・法人税の変動を分析する.図表 11 20 にもあ るように,80 年代は財産所得の対 GDP 比は約 0.1 であり,かつ 94 年度以 降減少傾向にあることから,本項においては 94 年度以降の家計の財産所得 受け取りが対 GDP 比で 0.1 であったと仮定して分析をすすめる.なお,家 計の財産所得の源泉は企業が生み出す付加価値であることから,家計財産所 得の受け取り増イコール企業所得(SNA 課税標準)の減と仮定し,同額の 企業所得減も同時に仮定して議論を進める.

このような所得税・法人税に対する対称的なインパクトを(11.1), (11.4)の税収関数にかけると,各税収は図表 11 22,11 23 のように変化す る.対 GDP 比 0.1 の財産所得のインパクトは,財産所得を追加的に約 33 兆円(2004 年度時点)変化させる.このために所得税の課税標準は同額増 加し,これによって追加的に所得税が 5.2 兆円程度(同時点,財産所得変動 分に対して 16%程度)増加することとなる.利子所得の税率は 20%である ことを考えれば,おおむね妥当な変化と考えられる.

(25)

21 にあるように,企業の課税標準は SNA 課税標準の 7 割程度(同時点)で あることから,モデル上は財産所得の減少分が割り引かれて課税標準が減少 する.そのために税収減が小さく算出される.

以上を踏まえると,家計の財産所得受け取り増による所得税の増収は,法 人税の減収によってほぼキャンセルされることがわかる(図表 11 24).その ために所得税+法人弾性値は 1.31 と,財産所得の変動に対して所得課税お よびその弾性値は中立であることがわかる(図表 11 25).

4.2 キャピタルゲイン要因

続いて,キャピタルゲインの変動による税収変動がなかった場合,すなわ

30,000

25,000

20,000

15,000

10,000

1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度) (10億円)

インパクト後

実績値

図 11 22 所得税の実績値とインパクト後の税収

20,000

15,000

10,000

5,000

0

1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度) (10億円)

インパクト後

実績値

図表 11 23 法人税の実績値とインパクト後の税収

(26)

ち SNA 課税標準と整合的に法人税の課税標準が変動した場合を分析する. 図表 11 21 にもあるように,バブル発生・崩壊以前にも SNA 課税標準と法 人税から逆算される課税標準にはレベルの齟齬があることから,(11.4)式 においてパラメータを 1,すなわち左辺の伸び率が右辺と同じケースを想定 して,キャピタルゲインによる影響を除いた税収を推計する.結果は図表 11 26 であるが,バブル期においてはキャピタルゲインの上昇にともない税 収はより高く伸びていくが,バブル崩壊期においては SNA 課税標準の落ち 込みよりも早く税収が落ち込んでいくことがわかる.その後 90 年代半ばか ら 2000 年代にかけて実績値と推計値が交差するが,80 年度以降の両者の累

図表 11 25 所得課税の名目 GDP 弾性値(自然体,財産所得調整後,期間平均)

期間(年度) 所得税+法人税 所得税 法人税

1970 2004 1.31 1.60 0.77

1970 1990 1.40 1.66 1.01

1990 2004 0.06 0.93 −2.90

1970 1980 1.39 1.76 0.86

1980 1990 1.43 1.48 1.29

1990 2000 0.07 1.10 −3.62

2000 2004 0.19 2.62 −11.34

注) 1.内閣府『国民経済計算年報』,財務総合政策研究所『財政金融統計月報 租税特集』各年度版, 財務省主計局『決算の説明』各年度版より作成.

2.所得税収,法人税収およびその和の期間平均伸び率と名目 GDP の期間平均伸び率の比率.

45,000 40,000 35,000 30,000 25,000 20,000 15,000 50,000 (10億円)

10,000

1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度) 実績値

インパクト後

(27)

計額を見ると,推計値の累計額が実績値の累計額を 6.3 兆円程度下回り,単 年度で平均すると 0.3 兆円程度の差としかならず,弾性値に対する影響は軽 微となる(図表 11 27).

5

おわりに

本稿においては,税収弾性値を計測するにあたっての制度改正要因の影響, 課税標準の定式化と推計,およびそれに基づく税収関数推計を通じて税収弾 性値を定量的に分析した.その変動に影響を与えていると考えられる要因

図表 11 27 所得課税の名目 GDP 弾性値(自然体,キャピタルゲイン

調整後,期間平均)

期間(年度) 所得税+法人税 所得税 法人税

1970 2004 1.27 1.53 0.82

1970 1990 1.40 1.66 0.99

1990 2004 −0.52 −0.11 −1.79

1970 1980 1.39 1.76 0.86

1980 1990 1.41 1.48 1.23

1990 2000 −0.32 0.36 −2.63

2000 2004 1.58 4.87 −11.29

注) 1.内閣府『国民経済計算年報』,財務総合政策研究所『財政金融統計月報 租税特集』各年度版, 財務省主計局『決算の説明』各年度版より作成.

2.所得税収,法人税収およびその和の期間平均伸び率と名目 GDP の期間平均伸び率の比率.

20,000

18,000

16,000

14,000

12,000

10,000

8,000

1980 82 84 86 88 90 92 94 96 98 2000 02 04(年度) (10億円)

キャピタルゲイン除去 実績値

図表 11 26 法人税の実績値とキャピタルゲインを除去した場合の税収

(28)

(分配,キャピタルゲイン)を除去した場合についても分析を行ってきたが, 図表 11 11,11 12 で示した弾性値の姿を大きく変える要因は見つからな かった.その意味において所得課税の弾性値 1.29(自然体,実績値では 0.88)は大きく否定されるものではないと考えられる.

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図表 11 18 法人税法における益金,損金の分類 ①益金として計上する事項 取 引 内容(特に記す必要がある場合に記述.以下同じ) SNA 上の概念(主要系列表 2) 資本等取引以外の取引による全ての収益 (法税 22 条 2 項,金子[2006]) ― (注 1) 有価証券譲渡益 (法税 61 条の 2 第 1 項) ― (注 2) ②益金に含まれない事項 取 引 内 容 SNA 上の概念(主要系列表 2) 資本等取引 (法税 22 条 2 項 3 項) 法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引 と

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