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水産学部・大学院水産科学研究院

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Academic year: 2017

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(1)

海産無脊椎動物の生態を調べる

大学院水産科学研究院・大学院水産科学院 准教授

和田

さとし

(水産学部海洋生物科学科)

専門分野 : 生態学,海洋生物学

研究のキーワード : 環境応答,行動,社会関係,水圏,生活史 HP アドレス : http://rose.hucc.hokudai.ac.jp/~s16828/

なにを研究しているのですか?

海産無脊椎動物の生活史や社会関係を研究しています。生活史とは、生物の生き方のこ とです。具体的には、生物が生まれる時期や生まれたときの大きさ、成長パターン、性成 熟タイミングや産卵回数、生存率などを指し

ます。そして社会関係とは、生物同士の付き 合い方のことです。具体的には、生物が、自 分の親や子ども、競争相手、捕食者や餌とす る生物に対して、どのような行動を示すのか といった個体間の関係を指します。海産無脊 椎動物には、例えばイソギンチャクのように

(図1)、興味深い社会関係を示す動物がたく さんいるのですが、陸上動物に比べて、彼ら の生態はほとんど調べられていません。私が おもな研究対象としているのはヤドカリなの で、今回はヤドカリの研究を紹介します。

ヤドカリの研究を始めたきっかけは何ですか?

きっかけは、大学4年のとき先輩の調査を手伝うために出かけた海岸で、調査の合間に ヤドカリを観察したことです。大きなヤドカリが小さなヤドカリをつかまえて持ち歩いて いる行動や、自分が背負っている貝殻で、別のヤドカリが背負っている貝殻をコンコンと 叩いている行動を見て興味を持ちました。

じつは、これら2種類の行動のうち、前者 は繁殖行動の一部である交尾前ガード行動で、 大きなヤドカリはオス、小さなヤドカリは交 尾・産卵間近なメスです(図2)。後者は貝殻 をめぐる競争の一場面であり、貝殻闘争行動 と呼ばれています。彼らは、コップに海水を 入れた程度の簡単な飼育条件下でも、これら の興味深い行動をみせてくれるので、社会関 係の実験に適しています。

出身高校:大阪府立高槻北高校 最終学歴:北海道大学大学院水産学研究科

図2 ホンヤドカリの交尾前ガード行動

図1 コモチイソギンチャクの親子。赤い大型個体が母親 で、子が母親に付着している。

いきもの

水産

(2)

現在はどんな研究をしているのですか?

現在はヤドカリの繁殖行動、とくに配偶者選択について研究しています。オスは、同種 のメスであれば誰でも持ち歩くわけではなくて、メスの体の大きさや交尾・産卵までに要 する時間(成熟度)を基準にメスを選びます。他のオスとの優劣関係も、配偶者選択に影 響することがあります。劣位オスは、優

位オスにメスを奪われないようにするた めに、優位オスとは異なる基準でメスを 選ぶのです(図3)。さらに一部の種のオ スは、メスとの遭遇頻度を記憶・認識で きるようです。いつも一緒にいるメスに 比べて、めったに会えないメスのほうを 早めにつかまえて持ち歩こうとするから です。ヤドカリの研究を通して、彼らの 社会関係が複雑で精妙であることに、私 はいつも驚かされます。

函館の海岸にはホンヤドカリの近縁種だけでも6種います。複数の種を研究対象として、 社会関係や生活史を調べていくと、ヤドカリの異種間における共通点や違いが分かってき ます。私は、様々な動物を研究対象とすることによって、最終的には動物の社会関係と生 活史のつながりや、それらが進化してきた理由を明らかにしたいと願っています。

研究は楽しいですか?

楽しいです。研究という営みのなかには、調査や実験だけでなく、データを解析したり、 論文を読んだり研究計画について議論したり、学会で発表したり論文を書いて投稿するこ となどが含まれます。私は野外調査が好きですが、論文を読むことも書くことも楽しいし、 発表や議論をすることも楽しいと思っています。どの作業でも、体力的・精神的にツライ ことだってありますが…。私にとって、研究することは、学校で勉強することよりも、む しろスポーツをすることや楽器を演奏することとよく似ていると感じています。研究室で の活動も、学校のクラスよりも、むしろ部活動に似ています。

水産学部では水産食品となる生物を研究する印象がありますが?

もちろん、水産学部海洋生物科学科の多くの研究室では、水産業で扱われている生物も 研究していますし、希少動物の保全を目的とした研究もおこなわれています。私自身も、 例えばタラバガニの種苗生産効率を高めるために、稚ガニの共食いを抑制する研究にも携 わっています。けれども、海洋生物科学科は、水圏に関わりのある生物なら、どんな生物 でも研究対象としているという印象を私は抱いています。海洋生物科学科では、魚の研究 だけでなく、プランクトンの研究から海棲ほ乳類や海鳥類の研究までおこなわれています。 研究対象は意外と幅広いのですよ。

キャプション

図3 テナガホンヤドカリのオスによる配偶者選択。メスをめ ぐる競争で優位な大型オスと劣位な小型オスでは、配偶者 選択の基準が違う。

水産

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深海に存在する膨大な魚類資源

大学院水産科学研究院・大学院水産科学院 准教授

安間

洋樹

(水産学部海洋資源科学科)

専門分野 : 水産資源学

研究のキーワード : 魚類,水産学,中深層性魚類,海洋生態系,定量化 HP アドレス : http://finfo.fish.hokudai.ac.jp/

何について研究しているのですか?

外洋の深度2001000mの中深層と呼ばれる層には、表層の数十倍にも達する魚類バイ オマスが存在すると考えられています。中深層性魚類(写真1)には、光のほとんど届か ない深海で自らが発光してコミュニケーションをとることや、大きな水圧変化に対応でき る特殊な鰾(うきぶくろ)構造を持つことなど、多くの特徴的な生態が見られます。中で も、夜間に餌の多い表層へ大移動して摂餌する日周鉛直移動は、表層と中深層の物質循環 において大きな役割を果たしていると考えられています。近年、海洋生態系のより深い理 解のため、また、来るべき資源枯渇に向けた未利用資源として、中深層にどんな魚種が、 どれくらいの量で存在するのかを正確に把握することの重要性が叫ばれています。

私の研究では、中深層性魚類の量を測る(定量化)技術の開発を行っています。また、 この技術を用い、主に太平洋海域において、日周鉛直移動の有無や規模、地理的分布の季 節変動などを定量的にモニタリングする手法へと発展させています。

どんな装置を使って、どんな実験をしているのですか?

定量化とは、ある海域における個体数(又は重量)を示すことです。しかし、深い海の 中は直接見て観察することができませんし、カメラなどを使っても広い範囲での観察は不 可能です。また、水中では光や電波の減衰が激しく、レーザー光や電波による計測もでき ません。これに対し、音は水中での減衰が少なく、空気中の約4倍の速度で伝搬すること から、音響測深器や魚群探知機等、海洋計測の多くの場面で利用されています。私の研究

写真1 太平洋の代表的な中深層性魚類

出身高校:日本大学第一高校(東京都) 最終学歴:東京大学大学院農学生命科学研究科

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でも、この音響計測技術が中深層の魚を「見る」ための主要な方法として使われています。 音響計測では、海中に超音波を発し、反射してきた音の強さや性質により、魚種や魚群 量、分布深度を推定します。中深層性魚類の定量化を実現するうえで必要不可欠なのは、 計量魚群探知機という音響計測機器です。計量魚群探知機は、漁業でも使われる通常の魚 群探知機を高精度化したもので、複数の周波数の超音波を送受信できることや、条件が良 ければ、個体単位での音響反射を探知することも可能です。

水中から反射してきた超音波は、様々な生物の反射波が合成されたものです。この合成 成分を種ごとの周波数特性をもとに振り分け、それぞれの種の一個体辺りの反射強度で割 ると個体数を求めることができます。この、種ごとの周波数特性や反射強度は、音響反射 の主要要因である鰾の形態や魚体の形状、遊泳姿勢、筋肉の化学成分組成といったパラメー タにより知ることができます。そのため、ある魚種の定量化技術を確立するためには、解 剖、組織観察、行動観察といった様々な実験も必要となります。

図1はエコーグラムといい、計量魚群探 知機で得られた昼夜別の音響反射を画像化 したものです。ここでは、道東沖の主要な 中深層性魚種であるトドハダカの例を示し ます。2周波の反射情報をもとに、ターゲッ トのトドハダカを他の主要生物であるオキ アミやスケトウダラと分離しています。分 離後のエコーグラムをもとに、それぞれの 個体数を求めることも可能です。この調査 では、当海域のトドハダカのバイオマスが 従来考えられていた量の数十~数百倍に及 んでいること、本種が夜間に300m近い大 規模な鉛直移動を行っていることが明らか となりました。この結果は、本海域の生態 系構造の概念を大きく変えるものとなり、 国内外より多くの反響をいただいています。

次に何を目指しますか?

見えない海の中を探るわけですから、より精度の高い定量化は音響計測のみでは実現で きません。音響計測自体の高精度化はもちろんですが、直下の中深層性魚類の種組成や分 布密度をできるだけ忠実に再現できるような採集ギアの開発や、生体を観察する技術の確 立も同時に行う必要があります。

また、言うまでもなく量を知ることは最終的な目標ではありません。ある魚種の資源量 変動は他の生物との相互関係や環境変動の結果として現れます。中深層性魚類の時空間的 な量的変動をとらえ、それが表層を含めた海洋生態系や漁業に影響を及ぼすメカニズムを 明らかにしていくことが、今後の課題だと考えています。

図1 2つの周波数で得られた昼夜のエコーグラム(上2 段)と分離後のトドハダカの音響反射(下段)。昼間の生息 深度は約300m、夜間に表層へ上昇しているのがわかる。

(5)

『ウロコから目』 魚がひらく再生医療の未来

大学院水産科学研究院・大学院水産科学院 教授

たか

やす

あ き

(水産学部増殖生命科学科)

専門分野 : 魚類生理学

研究のキーワード : コラーゲン,再生医療,魚類,養殖,水産学

HP アドレス : http://www2.fish.hokudai.ac.jp/modules/labo/content0048.html

何を目指しているのですか?

私たちの研究グループでは、再生医療に使用する様々な材料を、魚類のコラーゲンを用 いて合成するために必要となる基礎研究を推進しています。水産学部で再生医療?!、と 思 わ れ た 方 、 ぜ ひ 水 産 学 部 の 各 学 科 紹 介 の ホ ー ム ペ ー ジ を ご 覧 に な っ て く だ さ い

(http://www2.fish.hokudai.ac.jp/modules/article/content0122.html水産学部では、 洋環境から人間の健康に役立つ化学物質まで、また対象となる生物はクジラから深海微生 物まで、『海』をキーワードに幅広い分野で基礎から応用(産業化)にわたる研究をおこなっ ていることがわかります。

再生医療といえば、様々な細胞に分化できる幹細胞や、iPS細胞(人工多能性幹細胞) という言葉を思い浮かべる方も多いでしょう。これらの細胞は再生医療の主役となること が期待される細胞ですが、細胞が効率的に働くためには、細胞に足場を与え、その活動を サポートする細胞外基質と呼ばれる材料が必要です。コラーゲン分子がたくさん集合して できるコラーゲン線維は、その主役となるものです。たとえば、幹細胞を増殖させ、骨の 再生に必要な造骨細胞に分化させる細胞外基質を人工的に造ることができれば、それは優 秀な人工骨として利用できます。私たちは、魚のコラーゲンを用いて人工骨や人工軟骨、 人工角膜などを造ることを最終目標に、魚のコラーゲンの特性やその線維形成を制御する タンパク質に関する研究をおこなっています。主役であるコラーゲンを豊富に含む組織が 魚のウロコです。しかも、ウロコのコラーゲン線維は角膜と同じような特殊な並び方をし ています。ウロコからコラーゲンを抽出し、それを線維にし、そしてウロコと同じ配列を 再現して人工角膜を造る研究ということで、この原稿のタイトル『ウロコから目』が生ま れました。ウロコは普段は食べることなくゴミとして捨てられる組織です。ウロコのコラー ゲンを有効利用すれば、ゴミを出さない環境に優しい水産業の実現に一歩近づきます。

出身高校:群馬県立桐生高校 最終学歴:北海道大学大学院

水産学研究科

生体工学/食料生産

電子顕微鏡観察用の切片作成(左)と透過型電子顕微鏡観察の様子(右)

(6)

どんな装置を使ってどんな実験をし

ているのですか?

私たちの研究室では、遺伝子実験、タ ンパク質実験、電子顕微鏡を用いた実験、 細胞培養実験をおこなっています。

まず魚のコラーゲンなどの遺伝子ク ローニングをおこないます。クローニン グとは目的とする遺伝子の塩基配列を明 らかにすることです。たとえば、魚のコ ラーゲンの遺伝子をクローニングし、そ の塩基配列からアミノ酸の配列を推測し、 これを哺乳類のコラーゲンと比べること で、魚のコラーゲンの特徴を明らかにし ます。また、目的タンパク質を分離して 純粋なタンパク質を取り出す精製という 作業をおこない、その性質を試験管中で 調べます。たとえば、ウロコから純粋な

コラーゲン分子を精製し、試験管中でコラーゲン線維を作り、それを哺乳類のコラーゲン 線維と比べることで、魚のコラーゲン線維の特徴を解明します。線維の観察には電子顕微 鏡が活躍します。試験管中で作成した線維と生体内の線維の形状を比較することで、どの ような条件で線維化させれば生体に近い線維を作らせることができるかを明らかにします。 さらに、試験管中で作成したコラーゲン線維を用いて細胞培養をおこなうことで、そのコ ラーゲン線維が細胞の増殖活性や機能発現にどのような影響を与えるかを調べます。こう して、目的に適した材料を合成するための情報を蓄積してゆくのです。

次に何を目指しますか?

今、チョウザメのコラーゲンの研究を進めています。チョウザメからは高価なキャビア がとれますが(卵の塩漬けがキャビアです)、それには10年以上かかるため、養殖を産業 化するのが困難です。10年以上餌を与えて飼育するには膨大な餌代がかかるので、いくら キャビアが高く売れても儲けが出にくいのです。そこで、これまで捨てていた部分からコ ラーゲンを精製し、それを医療用に販売することができれば、膨大な餌代を回収してチョ ウザメ養殖を産業化できると考えられます。チョウザメは古代魚とも呼ばれる、大昔の形 質を持つ魚です。そのため、他の魚とは異なる特徴を持つコラーゲンを精製することがで きます。この特殊なコラーゲンの性質を徹底的に解明することが今後の目標です。

参考書

(1) 八代嘉美・中内啓光著,『再生医療のしくみ』,エスカルゴサイエンス,日本実業出版社 (2) 東嶋和子著,『人体再生に挑む再生医療の最前線』BLUE BACKS,講談社

キンギョのウロコとその電子顕微鏡写真。Dにはウロコのコラー ゲン線維が観察できる。写真Dの上半分では、線維が左右方向 に向かって走行するため、コラーゲンは横に走行するロープの ように見える。写真Dの下半分では写真の奥から手前に向かって 線維が走行するため、線維の断面が見える。

(7)

海洋生物の酵素がひらく世界

大学院水産科学研究院・大学院水産科学院 准教授

井上

い の う え

あきら

(水産学部増殖生命科学科)

専門分野 : 海洋分子生物学

研究のキーワード : タンパク質, 酵素, バイオテクノロジー, 褐藻類 HP アドレス : http://mmb.fish.hokudai.ac.jp/

何を目指しているのですか?

酵素は私たちの暮らしの中のさまざまな場面で広く活用されています。例えば、セル ラーゼやリパーゼは洗剤に加えることで衣類の汚れを落とす力を向上し、味噌や醤油など に代表される発酵食品も微生物の酵素の作用によるものです。酵素の本体は一部の例外を 除いて、アミノ酸が連なったタンパク質です。そのため、自然を汚染しない生分解性の特 徴をもち、温和な条件で効率的に化学反応を触媒することができます。

私たちの研究室では、図1で示した海洋生物由来の新規な酵素の探索とその有効利用を 目指しています。海洋の環境は陸上とは大きく異なることから、海洋生物が作り出す酵素 には地上の生物には見られな

いユニークな特徴が見られま す。近年、ゲノム解析技術の 進歩により、目的の酵素のア ミノ酸配列は比較的容易に知 ることができますが、配列か ら酵素の性状を詳しく知るこ とは難しく、実際に酵素タン パク質を使ってその性質を細 かく検討することにより真の 機能・性質を明らかにするこ

とができます。また、希少な生物や培養が困難な生物の酵素を調べる場合には、それらの 生物から目的の酵素の遺伝子を取り出して、バイオテクノロジー技術により、本来の生物 を使用せずに目的の酵素を作り機能を調べています。

特にターゲットとしている酵素は、多糖類分解酵素と呼ばれるグループのものです。こ れには上で述べたセルロースを分解するセルラーゼも含まれますし、コンブやワカメなど 褐藻類のネバネバの成分であるアルギン酸やフコイダンを分解する酵素も含まれます。ア ルギン酸は褐藻類と一部の細菌でしか生産されない多糖類ですが、人体に無害であり汎用 性も高いことから食品、化粧品、医薬品、パルプ工業などに幅広く使用されている有用物 質です。一方で、そのネバネバな性質が邪魔になる場面も多く、それを分解する酵素をア ワビ、アメフラシ、海洋細菌などから精製した後、その性質を詳細に調べ理解した上で、 応用・利用方法を模索しています。

出身高校:北海道苫小牧東高校 最終学歴:北海道大学大学院水産学研究科

生体工学/水/ミクロの世界

(8)

今後、どのような成果が期待できますか?

アワビ由来のアルギン酸分解酵素の応用例を2つ紹介します。アワビはご存知のように 高価な食材としても知られています。そこで酵素を取り出すためだけにアワビを消費する のは極めて効率が悪いため、遺伝子を使って目的の酵素だけを昆虫の細胞に作らせるよう にしました。この酵素を使っ

て、マコンブの細胞を単細胞

(プロトプラスト)化する方 法を検討したところ、従来の 方法よりも効率良くプロトプ ラストが得られました(図2)。 コンブ類では、クローン化技 術が未だに確立されていませ

んが、この方法で得た細胞を使用し、培養・分化方法を検討することで有用品種のクロー ン化による大量生産や種の保存に貢献できます。

さらに、この酵素はコンブの種判別にも応用されています。コンブ類は乾燥、細断、加 熱などのさまざまな加工が施されたものが店頭に多く並んでいます。加工前のそのままの 状態では目視でコンブの種類

の判別は比較的容易ですが、 加工後のものは非常に困難で す。これを克服するためには、 DNAを利用した判別技術が 有効ですがネバネバの成分が DNAの抽出を妨げます。そ こで、アルギン酸分解酵素を 使ってネバネバ成分を分解・ 除去すると高品質なDNAが 得られ、PCR法による遺伝子 の増幅も可能となりました。 その結果、図3で示すように

マコンブとガゴメの違いなどが容易に判別できるようになりました。

次に何を目指しますか?

2011年3月を境に日本はおそらく戦後最も困難な時期になりました。エネルギー問題も 今まで以上にその解決策が求められています。現在、私たちの研究室では他大学の研究者 とも協力して、これまでに培った海洋生物由来の酵素の知見をもとに、海藻の中で最も豊 富なバイオマス資源である褐藻類の糖質をバイオエタノールに変換する技術の構築に取り 組み始めています。一朝一夕で出来るものではありませんが、私たちの研究が微力ながら も貢献できることを期待して研究を進めています。

(9)

海洋生物の毒とくすり

大学院水産科学研究院・大学院水産科学院 教授

酒井

隆一

りゅういち

(水産学部資源機能化学科)

専門分野 : 水産科学,有機化学,ケミカルバイオロジー

研究のキーワード : 水産学,海洋生物,生理活性物質,神経活性物質,共生 HP アドレス : http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~c20323/index.html

何を目指しているのですか?

海洋生物には食べられるものもありますが、フグのように猛烈な毒を持つものもありま す。毒は悪者のように見えますが、実は生きる為に重要な機能(例えば神経伝達や細胞の 分化)を我々にいろいろ教えてくれる道しるべなのです。これまで、医学や生理学の研究、 医薬品の開発に生物由来の毒はいろいろな役割を果たしてきました。例えばフグ毒のテト ロドトキシンは1mgで人を殺す猛毒ですが、神経伝達の要であるメカニズムに特異的に 作用するため、神経の研究に欠かせない化合物として利用されています。私の研究室では

「海洋生物に眠る第2、第3のテトロドトキシンを見つけること」を目指しています。「そ の化合物なくしては解明できなかった新しい生理機能」を指し示してくれる、そんな化合 物を発見したいのです。

写真1 練習船うしお丸 写真2 津軽海峡に浮かぶ渡島小島でのフィールドワーク

どんな実験をしているのですか

私の研究室の実験は海から始まります。世界中の海に潜ってそこにすむ海洋生物を観察 し、採集します。北海道沿岸では練習船のうしお丸を使ってダイビング旅行に出かけます。 北海道の海も実はカラフルですよ。採集した海洋生物を抽出して、その成分が動植物や細 胞に何らかの作用を示すかを調べます。これを生物検定といいます。

検定の結果、興味深い作用を示した抽出物をクロマトグラフィーで分離・精製し、原因 物質を単離します。生物に微量で強い作用を引き起こす物質を生理活性物質といいますが、 生理活性物質の研究は、こうして純粋な化合物を得る事から始まります。純物質を用いれ ば、化学の手法を用いた研究が行えます。すなわち、分子の構造がどのようなものかを調 べるのです。ここでは質量分析装置や核磁気共鳴スペクトル、X線構造解析という分子構

出身高校:神奈川県立瀬谷高校 最終学歴:イリノイ大学大学院化学研究科

水/生命進化/医療

(10)

造を調べる装置で分子の形を明らかにします。

これまでの研究で私たちはミクロネシア産の海綿から新規のアミノ酸ダイシハーベイン やプリン化合物、沖縄産海綿から新規のレクチンと呼ばれるタンパク質、ペプチド毒等を 見出してきました(写真3、図1)。これらの化合物は脳における神経伝達に影響を与える ことが海外の神経生理学研究者との共同研究で明らかになりました。

写真3 海綿の水中写真 図1 当研究室で海綿から見出した生理活性物質

次に何を目指しますか?

新しい生理現象の発見に繋がるような生理活性物質を見つけ出すことは今後とも研究の メインテーマになると思います。しかし、海洋生物がなぜどのようにして生理活性物質を 作り出すのかという素朴な疑問も持っています。もしそれがわかれば、海洋生物の作り出 す化合物をもっと大量に作ることが可能になるかもしれません。また、化合物の構造を改 変したりできるかもしれません。最近、海綿に含まれる多くの化合物が海綿の細胞や組織 中に共生する微生物が作り出すものであることがわかってきました。もしそうであれば微 生物を取り出して培養することで化合物を作らせたり、微生物の遺伝子操作を行い新たな 化合物を作り出させることも可能でしょう。しかし、実際には共生微生物は共生状態を離 れてしまうと全く生育しなくなる場合がほとんどです。なぜかはわかっていません。この ように、「微生物と海洋生物の親密な関係」についてもっと深く研究しなければ、それらを より有効に利用することはできないのです。今後は、共生微生物と物質生産についてより 深い研究を行い、海洋生物のもつ物質生産能力を医薬品の開発などの産業に生かせるよう な基礎を作ってゆきたいと考えています。

参考書

(1)Anthony T. Tu・比嘉辰夫(共著)『海から生まれた毒と薬』,丸善(2012

参照

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