労働経済学2(第 7 回)
広島大学国際協力研究科
川田恵介
選考にあたって特に重視した点
(日本経連 アンケート調査(11))
復習:隠された情報の問題
• プリンシパル(企業)がエージェント(応募者)の情報の 一部を知らない。⇒
• エージェントには、自身の情報をプリンシパルに伝えよ うとするインセンティブが存在する(シグナルリング)。
• 同時に、自身に有利となるように嘘をつくインセンティブ も存在する⇒
応用問題
• ある求人に応募することは、シグナルになりうるか?
• ある産業の応募には、タイプに関わらず、一定の費用c が発生する。
• タイプhはこの企業で働くことに対して内発的動機をもっ ており、採用された場合報酬からの効用に加え、精神
的効用Hを感じる。また熱意を持って仕事に取り組み、 も高い。
応用問題
• 応募しなかった場合のエージェントの効用は、Aとする。
• Aは、労働市場全体の状況(他の産業からの求人状 況)を表している。Aが高い⇒
• 自己選択メカニズムが機能する(タイプhのみ応募する) ためのIC条件は、
1. タイプhが応募する: 2. タイプlが応募しない:
応用問題
• 合わせると、
• Hが十分に高ければ、自己選抜メカニズムは機能する。
• cがあまりに高いor低いと機能しなくなる。
cが高い:応募費用が高すぎ、タイプhも応募しない。 cが低い:応募費用が安すぎ、タイプlも応募する。
• Aがあまりに高いor低いと機能しなくなる。
Aが高い:市場環境がよいので、タイプhも応募しない。 Aが低い:市場環境が悪いので、タイプlも応募する。
応用問題
• 新卒市場の状況の悪化、情報技術の発展等に伴う応 募費用の低下は、学生の自己選抜メカニズムを低下さ せうる。
⇒応募が能力指標として機能しにくくなり、結果採用活動 における「組織に適さない人材は、獲得しない」という目的 を達成しにくくなる。
注意点
• 最初のモデルのパラメータを、
と書き換えたモデル と同じ構造
• 学生の内発的動機と企業にもたらす便益との間に、正 の相関を仮定している。
• 負の相関(例:応募費用とは機会費用であり、タイプhの ほうが機会費用が高い等)の場合、能力指標として機 能しない。
応募時点でのスクリーニング
• プリンシパル側が、エージェントに採用条件を課す(スク リーニングを行う)ことができる。
(例)資格の有無、面接試験の突破、コネの有無
• シグナルとして機能している指標(エージェントの能力と 相関している)を条件として課すことで、組織にとって望 ましいエージェントを雇用できる。
現実のエージェントの選抜
エージェントによる指標の取得
応募時点でのスクリーニング
応募後のスクリーニング 面接時点
採用後
応募後のスクリーニング
• 応募者に対してスクリーニングを行う場合もある(面接 等)。
• 一般にスクリーニングを行うためには、 が掛かる。
• 採用者は、重点的なスクリーニングを行うか、決定する。
• 行った場合応募者のタイプが完全にわかるが、行わな かった場合追加的な情報は、得られない。
モデル
• 応募者のなかでタイプhの割合は�ℎ、タイプlの割合は 1 − �ℎである予測しているとする。
• 追加的な情報がない場合の、期待便益は
• 採用した場合の賃金はw(Ey > � > ��)であるとする。
⇒タイプlであると判明したら雇わない。
• 採用者がスクリーニングを行う条件は、
モデル
• 書き換えると、
• ��が小さいor�が大きいと、スクリーニングを行うインセ ンティブが強い⇐タイプlを雇用することの損失が大きい。
• �ℎが小さいと、スクリーニングを行うインセンティブが強 い⇐タイプlの割合が多いので、スクリーニングを強化す る必要がある。
自己選択メカニズムとスクリーニング
• 応募時点での 場合、スクリーニングを行う誘因が強くなる。
• 応募者に対するスクリーニングに費用が掛かる場合
(例:応募者が多い)、応募時点でのスクリーニングを強 化し、自己選択メカニズムで絞り込むインセンティブが 強くなる。
• 段階的なスクリーニングを行うことで、費用を抑える ケースもある。
スクリーニングと労働市場
• 先のモデルでは、労働市場は不完全な状態にある。
• 完全競争的な労働市場の場合、期待生産性=賃金
• スクリーングを突破したエージェントの賃金は、
• 採用者が応募者のスクリーニングを行う条件は、
労働市場の競争度と採用課程
• (1)市場が完全競争的である、(2)各企業が行ってい るスクリーニングの水準が市場の共有知識になってい る、ならば労働者を引き抜く企業は、最初に雇用した企 業が行ったスクリーニングに が可能にな り、スクリーニングは行われなくなってしまう。
• 採用者はスクリーニングを行わなくなり、応募者が費用 をかけて行うシグナリングを重要視する。
QUIZ:採用後のスクリーニング
• 今2人の学生(A,B)が最終面接に残ったとする。
• 学生Aは、確率50%で組織に正の利得100、50%で 負の利得-50をもたらすと予想される。
• 学生Bは、確実に組織に正の利得25をもたらすと予想 される。
• 学生の能力は、採用後1年立てば、確実に判明する。
• どちらを採用する?
QUIZ:答え
• 解雇がより容易ならば、 を採用することが有利になる。
• 解雇が容易ならば、負の利得がもたらせる場合解雇し、 組織の利得は0となる。
• よって学生Aを雇った場合、
⇐学生Bを雇った場合よりも、高い。
まとめ:採用時の面接の重要度
• 面接時点でのスクリーニングが重要な状況は、
• 応募時のスクリーニングが十分に機能していない。
• 解雇が困難であり、採用後の選抜が行えない。
• 労働市場があまり競争的ではない
まとめ:採用における「隠された情報
の問題」
• 採用時においてプリンシパルは、エージェントの情報の 一部を知らないケースは多い。
• プリンシパルは、エージェントから上手く情報を引き出す 必要がある。
• 採用のプロセスの中で、もっとも容易に引き出せる段階 において、重点的なスクリーニングを行うインセンティブ が存在する。