従事者による虐待の防止
高齢者虐待防止アドバイザー 淑徳大学短期大学部兼任講師
1.虐待とは何か(その1)
1) 虐待は、高齢者・障害者の基本的人権侵害の具体的なカタチ。 (1) 基本的人権の概念は「生き物」同様に「発達」する。
例:生存権、社会権、経済権、文化権、市民権、環境権、信 仰権等
(2 )尊厳≒基本的人権 ※尊厳を守る≒基本的人権を守る。 (3) 高齢者虐待防止法と障害者虐待防止法
1.虐待とは何か(その2)
2) 対象:高齢者( 65 歳以上)、障害者
3) 行為者類型:
(1) 「養護者」=現に養護する者(経済的虐待のみ親族も)。
1.虐待とは何か(その3)
4) 行為類型:養護者と従事者や使用者では異なる(他法との関係)。 (1) 身体的虐待:身体に外傷が生じ又は生じさせる恐れのある暴行。 ※障害者虐待防止法では「不当な身体拘束」を含む。
(2) 介護や世話の放棄放任:衰弱させる様な減食又は長時間の放置、 (1)(3)(4) の放置。ネグレクト。
(3) 精神的虐待:著しい心理的外傷を与える言動。 (4) 性的虐待:わいせつな行為をする、させる。
1.虐待とは何か(その4)
(6) 「セルフ・ネグレクト」は含まれないが、現に対応は迫られる 。
(7) 障害者虐待では「差別」も含まれる。
(8) 「緊急やむを得ない場合」を除き、不当な身体拘束は虐待に該 当。
1.虐待とは何か(その5)
5) 障害者虐待について
(1) 「場(学校、保育所、医療機関等)における虐待」を含むが 、
定義も具体的対応も、規定はなし。
6) 法の機能:
「不当な身体拘束」を防ぐには(その
1)
1) 委員会等が、「緊急やむを
得ない場合」の身体拘束につ
いて手続き 等を定める。
2) 関係者が幅広く参加した会
議において以下の3要件を満
たすか否か判断する。
(1) 切迫性:利用者や他者の生命
又は身体が危険にさらされる可能
性が著しく高い。
(2) 非代替性:身体拘束その他の
行動制限を行う以外に代替する介 護方法がない。
(3) 一時性:身体拘束その他の行
「不当な身体拘束」を防ぐには(その
2)
3) 利用者や家族に、身体拘束
の内容、目的、理由、時間、期
間等を説明し同意を得る。
(1) 説明手続きや説明者につい
て事前に明文化しておく。
(2) 実際に身体拘束を行う時点
で、必ず個別に説明する。
(3) 常に観察、再検討し、要件
に該当しなくなった場合には
「不当な身体拘束」を防ぐには(その
3)
4) 身体拘束に関する記録をと
り保存し情報を共有する
。
(1) 身体拘束等の態様と時間、利用
者の心身状況、緊急やむを得な
かった理由等を記録。
(2) 利用者の状態観察と身体拘束の
必要性や方法の再検討を行うごと
に記録を加える。
(3) 職員間、施設全体、家族等関係
2.実態 1)高齢者虐待(その1)
(1) 厚労省「法律に基づく対応状況に関する調査(平成 25 年度)」から ①相談・通報 962 件(前年比 30.7 %増)
②虐待確認 221 件(前年比 40.2 %増)
(2) 相談・通報から初動対応について、法令や窓口の周知が未徹底。
(3) 事実確認調査について
①約3分の1が「判断に至らず」⇒教育のポイント
②虐待に該当する「身体拘束」が存在する。
2.実態 1)高齢者虐待(その2)
(4) 虐待発生の仕組みと対応の機序について
①居宅系事業所従事者による虐待もある
・経済的虐待の割合が高い⇒教育のポイント
・密室性の高い「場」において虐待は好発⇒啓発のポイン
ト
②被虐待者:被虐待と認知症との関連は深い
2.実態 1)高齢者虐待(その3)
③虐待者:男性の割合、 30 歳未満の者(男女とも)の割合が
高い
・「支配」、「ストレス」、「感情」のコントロール⇒教
育のポイント
④蔓延性:虐待者や被虐待者が多数乃至不特定多数の事例が
ある
・施設全体として取組む姿勢が希薄 ⇒運営適正化のポイ
2.実態 2)障害者虐待(その1)
(1) 厚労省「法律に基づく対応状況に関する調査(平成 25 年度)」から ①従事者による虐待: 263 件(虐待者 325 人、被虐待者 455 人)、 ・前年 80 件から大幅増。
②相談・通報は、「本人」 33.0 %、「家族・親族」 16.5 %、「当該 施設・
・事業所の設置者、職員、元職員」合わせて2割超。
③虐待者は、「男性」 66.8 %、「女性」 33.2 %
2.実態 2)障害者虐待(その2)
④被虐待者は、「男性」 62.2 %、「女性」 37.8 %
・「 20 代」 25.3 %、「 30 代」 20.9 %、「 40 代」 21.5 %
・「知的障害」 78.8 %、「身体障害」 29.2 %、「精神障害」
14.1 %
・「区分6」 23.5 %、「区分5」 17.4 %、「区分4」 12.7 %
・「行動障害あり」 21.3 %
⑤身体 56.3 %、心理 45.6 %、性 11.4 %、ネク 4.6 %、経済 6.8 %
3.虐待発生の仕組み(その1)
1) 何かに囚われると「クールな心とホットな頭」
⇒手加減がなくなる。
2) 囚われやすいもの(虐待のリスク要因)
(1) 文化(家父長制、ジェンダー、差別、隠蔽等)への囚われ
⇒問題意識が麻痺
(2) 制度やサービス(不備、不知、誤解など)への囚われ
3.虐待発生の仕組み(その2)
(3) 役割や人間関係への囚われ
例:強者・弱者の関係固定⇒強者の自制力が減退・無力化
例:無報酬の依存関係
⇒依存される側のストレスのはけ口が依存する側に
例:主題妨害⇒職業的客観性の欠如
例:体験の転移⇒「倍返し」や「八つ当たり」の合理化
3.虐待発生の仕組み(その3)
(4) 健康問題への囚われ⇒私利優先、他者への共感性減退
例:心身の疾病や障害、嗜癖(飲酒や博打)など
(5) 生活資源(経済、物資、情報)への囚われ⇒私利優先
例:生活費、借金、相続
例:物理的隠蔽性
例:情報の秘匿、情報の歪曲
4.虐待への対応の前提
1) 地域でも施設でも、
ネットワーク(見守り、対応、対応支援)の構築と機能化
2) 地域でも施設でも、
一・二・三次予防のマネジメント・サイクルを確立
3) 目指すは「ケアの改善と改革」
(1) 改善:ケアを標準化し、その枠組内で改善
5.発生予防と早期発見のために
1) 発達的危機と状況的危機への手当が効果的⇒自己肯定感の強化 2) 早期発見の勘所
(1) 要注意は、思い込みと勉強不足
⇒偏見は捨て、想定外を想定する。
(2) 自分がもし高齢者・障害者なら「耐え難い」は、虐待可能性あり ⇒予防策
虐待の
兆候
:1.事業所全体について
1) 不適切なケアの延長線上に発生し易く、事故への取組み姿勢等が指標に (1) 利用者の心身機能の衰えが原因だから仕方ない
(2) 心身機能の低下にあった介護を検討し具体策を取る (3) 個人の不注意に止めている
(4) 不注意の発生要因や手順の問題を検討し、全体の見直しにつなげている (5) 誰もいないところで起きた事故は、原因不明として扱う
(6) 関係者に確認し、推測できる原因を話合い、改善に結びつけようとしてい る
虐待の
兆候
:2.虐待者について(その
1)
1) 以下のような人格的な問題がある
(1) 風変わりで自閉的で妄想を持ちやすく奇異で閉じこもりが
ち
(2) 感情の混乱が激しく演技的で情緒的
(3) ストレスに脆弱で他人を巻き込むことが多い
(4) 不安や恐怖心が強い
虐待の
兆候
:2.虐待者について(その
2)
2) 精神疾患や知的障害や人格障害がある 3) 飲酒や賭博などの依存問題がある
4) 身体的な障害がある
5) 被虐待者に対する否定的感情(嫌いなど)がある
6) 保健医療福祉及び法令に関する知識・技術の不足や偏りがある 7) 保健医療福祉及び法令に関するアドバイスに対する拒否がある
虐待の
兆候
:2.虐待者について(その
3)
9) 同僚との関係が悪いか希薄などで、孤独化乃至孤立している
10) 経済的問題がある ( 例 ) 低所得、借金
11) 住み所や居場所がない(例)立退きを迫られている
12) 住環境が劣悪(例)動物の飼育、異臭、ゴミの散乱等で非衛 生
13) 家族関係が悪い又は悪かった(例)無視、嫌がらせ、脅し、
暴力
6.情報
収集
(その1)
1 )不安除去と信頼関係構築を同時進行 2) 問題ないし問題状況の明確化
(1) 当事者の主訴や希望、証拠(人的・物的、直接・間接・補助) 3) 参加性(介入拒否など)の評価
(1) 過大な期待:相談の構造化(安易な保証や気休めは禁物) (2) 諦観:心のコップが水で一杯⇒まずは水を出して余裕を
6.情報
収集
(その2)
4) 緊急性の評価:1ヶ月未満で、時、日、週単位にどう行動す
るか?
(1) 弁護士、医師など自律性の高い専門職の意見が必要か?
5) 記録の重要性
(1) 妥当性:
「◯◯の事実を◯◯と判断、◯◯したところ、◯◯となっ
た」が基本
7
.事前
評価
(その1)
1) 問題発生のしくみは物語として把握
2) 当事者化する仕組み(好発の構図)
(1) 被虐待者の条件該当者+虐待者条件の該当者+密室性
(2) 被虐待者条件:力の弱さ、コミュニケーションに支障
(3) 虐待者条件:リスク要因⇒囚われ⇒虐待的言動の強い動機
(4) 密室性:物理的隠蔽性、人的隠蔽性(「観客」や「傍観者」
7
.事前
評価
(その2)
3) 支援性と問題化の方向性
(1) 支援性と阻害性
①キーパーソンだけでなく、当事者の「重要他者」を忘れ
ずに。
(2) 問題化の方向性
①自分に向く:逃避>屈従
8
.防止
計画
の立
案
1) 落としどころは?(ゴールを設定する)
2) 支援のツボを探す⇒T字分析(負の要素と正の要素)
3) 支援計画は、「ステップ・バイ・ステップ」のシナリオ
※「3ヶ月を5段階」程度が目安
4) 手当の順番は、緊急課題、介入拒否、正の要素、負の要素。
9
.防止
計画
の実行(その1)
1) 組織的な対応が必要
2) 個別対応シナリオの一般的な構造
(1) 問題や問題状況の明確化(主訴や希望や証拠、紹介の検
討)
(2) 緊急課題や介入拒否への手当
(3) 信頼関係構築(パーソナリティ障害への対応)
9
.防止
計画
の実行(その2)
(5) 対応の方向性
①虐待の告知と個別対応のスタイル(以下の4つ)
a. 洞察促進、 b. エンパワー、 c. 解決構築、 d. 認知行動変
容
②基本的な技能
褒める、労う、教えて貰う、
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.
終結
と事後
評価
1) 終結は、ゴールを達成後、一定期間のフォローアップを行っ
てから。
2) 事後評価:事例実態、対応実情、対応結果を要約し、できれ