• 検索結果がありません。

17「イギリス文化論」 英国の恋愛と結婚 xapaga

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2018

シェア "17「イギリス文化論」 英国の恋愛と結婚 xapaga"

Copied!
18
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

「愛こそすべて」

――同性婚/パートナーシップ制度と「善き市民」の拡大――

青山  薫

(神戸大学)

要旨

昨年、全米で法制化されるなどして話題になった「同性婚」1。日本では、その法制化 が現実味を帯びないうちに賛否両論が出 った感がある。本稿は、この議論をふまえ、 「同性婚」やこれに準ずる「同性パートナーシップ」を想定することが、現在の世界と日

本社会でどのような意味をもつのかを考察する。

そのために本稿は、まず、世界で初めて同性カップルの「登録パートナーシップ」を法 制化したデンマーク、やはり初めて同性同士の法律婚を可能にしたオランダ、特徴的な 「市民パートナーシップ」制度を創設したイギリス、そして「婚姻の平等」化で世界に影 響を与えたアメリカにおける、「同性婚」制度の現代史を概観する。そしてこれら各国の 経験に基づいて、「同性婚」が何を変え、何を温存するのかを考察する。そこでは、「同性 婚」が近代産業資本主義社会の基礎としての異性婚に倣い、カップル主義規範を温存させ ることを指摘する。また、「同性婚」が、異性婚の必然であった性別役割分業・性と生殖 の一致・「男同士の絆」(セジウィック)を変化させる可能性についても論じる。次に本稿 は、近年の日本における「同性婚」に関する賛否両論を概観する。そこでは、賛成論が、 同性婚の1)自由・平等の制度的保証面、2)国際法的正当性、3)象徴的意義、4)実生活 の必要性に依拠していること、反対論が、同性婚の1) 性的少数者の中のマイノリティ排 除、2)経済的弱者の排除、3)社会規範・国家法制度への包摂、4)新自由主義経済政策と の親和性を問題視していることを指摘する。

そのうえで本稿は、異性愛規範が脆くなってきた今、抗し難い「愛」の言説を通じて 「LGBT」が結婚できる「善き市民」として社会に包摂されるとき、他のマイノリティを 排除していること、さらに、日本における包摂には、欧米の「同性婚」議論では「愛」と 同様に重要視されてきた自由と平等の権利さえ伴っていないことに注意を注ぐよう、読者 に呼びかける。

1.「同性婚」/「パートナーシップ」の現代史概観

1.1.「同性パートナーシップ」の始まりと PACS

1989年10月1日、デンマークが国家として世界で初めて、同性カップルに婚姻とほぼ同等の関 係を認める法律「登録パートナーシップ法」を施行した。エイギル・アクスギルら当事者が1948 年という早い段階で運動団体(現在の「LGBTデンマーク」)を創り、40年間ロビィングを続けて 勝ち取った成果だった(Krieger 2014)。当初は、カップルの一方がデンマーク国籍かつ双方がデン

G

(2)

マーク居住者であること、パートナーの実子を含む養子を取ることと生殖補助医療の利用ができな い、キリスト教会での承認が得られない、という異性間の婚姻にはない制約があったものの、これ ら以外は、不動産の共同所有や遺産相続などの権利と離婚後の相手方への扶助料負担を含む義務に おいて、同性カップルを異性婚カップルと同等に扱う世界初の「平等化」法だった。その後、詳細 は異なるが、ノルウェー、スウェーデン、アイスランド、フィンランドが続き、2000年代初頭に は、異性同士の婚姻に準ずる関係を同性に対しても法制化する、いわゆる「同性パートナーシッ プ」北欧モデルがヨーロッパに広がった(Lund-Andersen 2003;Savolainen 2003)。

本稿が一括して「同性パートナーシップ」と称する同性間の婚姻に準ずる法的関係は、「市民間 /民事連合」、「市民/民事パートナーシップ」、「同性パートナーシップ」、「登録パートナーシッ プ」と、さまざまに呼ばれる。欧米比較家族法学者のユヴァル・メーリンによれば、ヨーロッパと 北米では、この法的関係は3種類に分類できるという。「登録パートナーシップ」、「域内パート ナーシップ」、「同棲」(の法的承認)である。典型的な「登録パートナーシップ」は当初の北欧モ デルに見られたように、市民権または国内に滞在する権利をあらかじめ有する者にだけ開かれてお り、子どもを養育する権利に制限があり、宗教的承認を得られないという限界がある。典型的な 「域内パートナーシップ」は、全国レベルの法規ではない。たとえば全米で「同性婚」が法制化さ れる前のアメリカの州法のように、扶養家族手当のような経済的手当てや年金相続のような社会保 障上の権利を担保し、日常生活における近親者の扱いを認めるに留まる。具体的に何が保証される かは当該地域の判断に任されており、配偶者同士の包括的な権利義務を規定するものではない。典 型的な「同棲」の法的承認はハンガリーなどに見られ、排他的安定的永続的な一対一の性関係を一 定期間以上続けているカップルに、婚姻した配偶者同士に準じて相続権などの権利を法が認めるも ので、性別や性指向を限定しない場合(国)もある。とくに前2種は、異性間に認められた婚姻を 基準にして、同性カップルを意図的に差別するものとなっている(Merin 2002:2-5;55 - 58)。

フランスのPACS(民事連帯契約)は、上記の分類では「同棲」の法的承認に入るが、同性間の パートナー関係を法的に保証するか否かの議論の成果であるにも関わらず、「同性パートナーシッ プ」と言うことはできない点で特徴的だ。この契約が、大人同士であれば異性愛者カップルにも、 性的関係はないが生活を共にする2人にも開かれているからだ。したがってPACSは、排他的性的 関係だけが法的に保証されることの恣意性も、性的でも性的でなくても「2人=カップル」単位の 関係にこだわることへの疑問も浮き彫りにする。この点の議論は一般的な形で後述することにし て、婚姻との対比に限って言えば、婚姻が家族を射程に入れる法的関係でありかつ象徴的意味づけ であるのに対し、PACSは(少なくとも子どもを持つことについての制限が多かった当初は)カッ プルだけに焦点を当てた法的関係であり、因習を引きずる婚姻と違うことの象徴的意味が大きいと いう区別が専門家の間にはある(Sáez 2011:125 - 127)。いわば「しがらみの少なさ」のためか、 1999年にPACSが施行されて以来、異性間の婚姻数が減少し続ける一方で異性間のPACSは増加 し続けている。割合を見ても、当初は76パーセント、5年後からは9割超、2013年にフランスで 「同性婚」が法制化される前後は96パーセントと、この契約関係に入る人は異性同士が圧倒的に多

い(INSEE 2015)。

1.2.「同性パートナーシップ」の改正と「同性婚」の法制化

デンマーク

(3)

形で改正が進み、その延長線上に、あるいはそれと並行して「同性婚」の法制化が現われてくる。 世界初の「同性パートナーシップ」国デンマークの例で見てみよう。

デンマークでは、まず1999年に、外国から養子を得た場合に同性パートナーの双方が親権を持 つことが法改正でなく行政命令で可能になった。そして、これが2000年代初頭に何度も法案が提 出されることになる、同性カップルが子どもを持ち養育する権利に関する議論に結びついた。結果 として、2009年の抜本的法改正で、同性カップルが養子を迎えることと共同親権を持つことが異 性カップルと平等に認められた。また、やはり1999年に行政命令で国籍条項がなくなり、「同性 パートナーシップ」が定住者または同様の法制度をもつ国の国籍者に対して開かれたものになっ た。次に問題となった人工授精2の可否の点は、「登録パートナーシップ」法制の問題だけではな く、生命倫理と性と生殖の権利の問題として議論が繰り返され、1997年には、結婚しているか男 性と生計を共にしている女性以外には(つまり、すべてのレズビアンと独身女性には)、国として 人工授精を許可しない「人工授精及び胚保護法」の改正が成立した(Lund-Andersen 2003:19 - 21;

Sáez 2011:116 - 117)。しかし、この改正は、女性差別であるだけでなく、国が認可する生殖補助

医療施設から排除された女性たちが海外の精子バンクに頼って感染症のリスクが高まるなど、健康 問題を惹起した。最終的には、1948年に創設されて以来活動を続ける国連NGO「LGBTデンマー ク」などの運動の成果もあり、2007年には、すべての女性が国の認可施設で人工授精を受けられ ることになった(LGBT Denmark 2016)。

キリスト教が多大な影響力をもつ欧米諸国では、教会が同性間の性関係をどう受け止めるかが大 きな政治的争点となる。ルター派国教会会員が国民の8割を占め、キリスト教党が政権に就くこと もあるデンマークでも、国教会が同性パートナーシップを「祝福(承認)する」かどうかは重要な 問題であった。国教会内の意見は二分されていたが、個々の牧師が徐々に同性間の関係を祝福し始 め、1997年には、内部専門委員会が「登録パートナーシップ」を支持することを明言した。法的 には、教会で承認を受けられるか否かという点が、異性間の婚姻と同性のパートナーシップの間の 違いとして最後まで残されたていたが、2012年に「性別に中立な婚姻法」が成立すると、(牧師や 神父個人は信仰の自由によってこれを拒否することができるが)国教会を含むどの教会も、異性婚 同性婚の差別なく法的に承認を行うべき施設となった(Lund-Andersen 2003:22;Sáez 2011: 117;LGBT Denmark 2016)。

デンマークでは、「登録パートナーシップ」と異性間の婚姻の差がなくなったことにより、「性別 に中立な婚姻法」の制定後「登録パートナーシップ法」は廃止された(Frioriksdottir 2013:168 -169;178)。

オランダ

「同性パートナーシップ」は過渡的なものに過ぎず、婚姻の平等が達成されれば必要がなくなる という論理は北欧モデルの特色であり、ノルウェー、スウェーデン、アイスランドも「性別に中立 な婚姻法」制定と引き換えに「登録パートナーシップ法」を廃止している(フィンランドは2017 年に「同性婚」法を施行予定)(Frioriksdottir 2013:178 - 179)。北欧モデルはこの論理を含めて、 ヨーロッパと南北アメリカにそれぞれの社会的背景を みながら広がってきた。しかし、別の論理 も散見される。PACSを創ったフランスを別格とすれば、世界で初めて「同性婚」を法制化したオ ランダがその代表例と言える。

(4)

る。まずオランダでは、同性婚ができないのはヨーロッパ人権条約違反の人権侵害であるという当 事者の訴訟から議論が始まった。この訴訟は当事者側の敗訴に終わったが、結審直後の1990年代 初頭、同性カップルの「婚姻届」の提出を受け付ける地方自治体が文字通り百出し、法的効力はな くても象徴的・政治的圧力を発揮することとなった。同時期に性的指向を理由にした差別を禁止す る刑法改正が行われ、政府はデンマーク型「登録パートナーシップ法」導入を検討し始める。そし て1998年に「登録パートナーシップ法」が施行されたときには、別途「同性婚」を検討していた 下院の委員会が「同性婚」の早急な法制化を求め、2000年には婚姻法が「同性カップルに開く」 形で改正され、翌年施行されることとなった(Sáez 2011:3 - 4;Yee and Lee 2010:18 - 19;Maxwell 2001:142 - 147)。

この婚姻法の改正によって、オランダではカップルが異性同士でも同性でも、「婚姻」、「登録 パートナーシップ」、「同棲」の3つの法的関係を選択できることになった(Boele-Woelki 2003: 41)。ここで、同棲しているが法的に登録していない事実婚カップルが多数存在するため、「同棲」 カップルに対する法的権利義務については不明確さが避けられないのに対して、「婚姻」と「登録 パートナーシップ」を結んだカップルについては、養子を取る条件を初めとする両者の差が数年の うちに改善された。現在では、一方のパートナーが自動的に他方が「産んだ」子どもの親になる 「配偶者の子推定」の前提に当てはまらない(どちらも子どもを産まない)、男性同士カップルにの み親になりにくい不利益が残されている(Sáez 2011:3 - 4;Government of the Netherlands 2016)。 しかしオランダは、両者の差がほとんどなくなっても、カップルの法的登録の選択肢として「婚 姻」も「パートナーシップ」も残している。両方の象徴的意味の違いを現在まで重く見ているとい うことの現れなのだろうか。

イギリス

「同性婚」が達成されても「同性パートナーシップ」を残している国は南米に多い傾向で、ヨー ロッパでは、オランダと、オランダと共通点の多いベルギーとルクセンブルグ以外には、いまのと ころイギリスのみである。イギリスは、デンマークに遅れること15年を経て、まずイングランド とウェールズで2004年に「市民パートナーシップ法」を制定した。この法律は、生活を共にする 同性カップルの関係に対して、当時異性間にしか認められていなかった婚姻と同等の法的認知と規 制をする目的をもって創られた法律である。そのため、経済面でも、国籍条項でも、親になる権利 義務面でも、手続き面でも、あらかじめ婚姻を規定する法規と同等の内容を備えていた。この点で は、イギリスの「市民パートナーシップ」は、遅れてきたからこそ、北欧やオランダの「登録パー トナーシップ」よりも平等化に近いものだった。では何が「婚姻」と違うのかと言えば、やはり 「婚姻」に込められた宗教性あるいは伝統をふくむ象徴性が「市民パートナーシップ」にはないと

いう点である(Sáez 2011:116 - 117;HMSO 2004)。

(5)

る(Sáez 2011:116 - 117)。現在でも、実質的に「市民パートナーシップ」を「婚姻」と分けてい る法の規定は4つ――伝統的儀式によって定められた言葉で関係を誓わないこと、宗教的誓約に よって関係が結ばれないこと(宗教施設で儀式を行うこと自体は現在は禁止されていない)、性感 染症が関係無効の条件にならないこと、「不貞(第三者との性交)」が関係解消の条件にならないこ と、である(Department for Culture, Media & Sport 2013)。イギリスの制度は、「市民パートナー シップ」を伝統と宗教から明示的に切り離しつつ性関係から暗示的に遠ざけることで、伝統と宗教 に裏打ちされた一対の男女の排他的永続的性関係の法制化である「婚姻」にキリスト教会が承認を 与え続けることと、同性カップルに異性カップルと同等の法的権利義務を保証することを同時に成 立させたのである。

しかし、「市民パートナーシップ法」施行後5年を経て、政府の予想の5倍のカップルがパート ナーシップ契約を結び世論の6割がこれを肯定するようになると、唯一「婚姻」と違う宗教的・伝 統的裏付けを望む当事者の「同性婚」への要求も高まり、2012年3月から6月からにかけて行っ た公聴会に基づいて、政府は「同性婚」法案を提出する。法案は一年間かけて上下両院で議論さ れ、上院では国教会議員らが「同性婚」阻止の改正案を提出したものの否決され、2013年7月、 超党派の圧倒的多数で、やはりイングランドとウェールズを皮切りに俗に「同性カップル法」と呼 ばれる改正「婚姻法」が成立したのである(Government Equality Office 2012;The Church of

England 2013)。法的に「婚姻」が同性カップルに開かれ「平等」なものとなった現在も、国教会

は原則として同性同士の結婚を承認していない。しかし、だからこそ、一般社会では議論は先に進 み、いまや異性愛者の側が「平等化」を求めているのが興味深い。上記のように「歴史的文化的な お荷物」を背負っている「婚姻」とは一線を画しつつ、生涯にわたるコミットメントを表明し法的 経済的安定を手に入れられる「市民パートナーシップ」契約を結びたい異性カップルが、「平等な 愛」運動の一環として政府を相手取った訴訟を起こしている(BBC News 2010)。

アメリカ

独立以前から婚姻については州が法規制をしてきたアメリカでは、前述したメーリンの分類でい う「域内パートナーシップ」が、州ごとの文脈で発展してきた。しかし、「同性パートナーシップ」 あるいは「同性婚」は、何度も国(連邦)レベルでの司法判断と立法を求め、その合憲性が問わ れ、大統領選の争点にもなるような、全米を巻き込む政治イシューとなった。司法判断に従って全 米で最初に「同性婚」を認めたのは2003年のマサチューセッツ州だが、この数か月前には、「合意 のある成人間のいかなる私的な行為も公権力の介入を受けない」という、いわゆるプライバシー権 を「同性婚」問題の前面に出した歴史的最高裁判決が出されていた。当時、同性カップルの婚姻届 を受理せずこの判決で敗北したテキサス州をふくむ13の州で、まだソドミー法が生きており、こ の判決は同性(主に男性同士)間の性関係を犯罪から個人の権利へと転換させた判決と言える(Lee and Yee 2010:26;Rauch 2004:177 - 178)。

(6)

その後2009年に、バーモント州はやはり全米で初めて「同性婚法」を法制化する州となる。し かし、1990年代から2010年代にかけての議論と裁判・政治闘争の中で、バーモントのように同性 カップルと異性カップルの婚姻における平等を順調に認めた州は少数派であった。ここには大きく 連邦レベルの立法が影響している。1996年に制定された、各州の「同性パートナーシップ」を他 州では無効とし、婚姻を男女間に限定したDOMA(婚姻防衛法)である。州レベルでのゲイライ ツの勝利に対する反動とも言われるこの連邦法は、「同性パートナーシップ」を公的に認知するこ とこそ不法だと訴える訴訟やキャンペーンを誘発し、多くの州が州版の「婚姻防衛法」を制定して 「同性婚」を防ぐことにつながった(Pew Research Center 2012;Rauch 2004:179 - 180)。背景には ヨーロッパと同じくキリスト教各派および一般信者の圧力があり、「同性婚」の法制化は、「子ども を産み育てるための男女の結びつきが婚姻である」という信仰の自由を侵害するとして訴訟等が起 こされたのである。2008年にいったん州最高裁が「同性カップルが婚姻できないのは違憲」とし たカリフォルニアなどは、わずか4か月後に州民投票の意向を受けた「カリフォルニア婚姻保護 法」が成立し、結婚が男女間のものに限定され、翌年には州最高裁も後者を採用するという浮き沈 みを経験している(Lee and Yee 2010:30)。

しかし、2012年にはふたたび大きな転機が訪れた。カリフォルニアを含むいくつかの控訴裁判 所がDOMAを部分的に否定すると、オバマ大統領も同性カップルの婚姻の権利支持を表明する。 前年の2011年にニューヨーク州が「同性婚」を法制化したことの影響も大きかっただろう。2013 年には、連邦最高裁判所が「カリフォルニア婚姻保護法」を否定すると同時にDOMAをも部分的 に否定し、各州は他州の同性カップルの「婚姻」や「パートナーシップ」を認めなければならなく なった。結果として、2014年には、「同性パートナーシップ」または「同性婚」を違法とする州の 方が一挙に少数派になった(Pew Research Center 2015;2012)。

そして記憶に新しい2015年6月26日、連邦最高裁判所が州が「同性婚」を否定することに違憲 判決を出す(Supreme Court of the United States 2015)。オバマ大統領がこれを受けて行った演説 は、「同性婚」でなく、「憲法は婚姻の平等(marriage equality)を保証している」という言葉を使 い、「よってすべてのアメリカ人が平等に法の保護を受け、愛する相手が誰かにかかわらず平等に 扱われ」、したがって、最高裁判決は「生まれながらに自由なすべてのアメリカ人の勝利である」 と謳い、さらに、同性婚に反対する「信仰の自由」にも忘れずに言及している(The White House 2015)。同性愛者のノーマライゼーション(あるいは一級市民化)と、これを利用した従来のアメ リカ的価値の称揚が同時に行われた形である。

2.「同性婚」の権利が示唆する変化

2.1.「同性婚」制度の保守性

ヨーロッパの特徴的な各国とアメリカにおける制度の歴史を概観すると、「同性パートナーシッ プ」や「同性婚」が何に挑戦したのか、しなかったのか、したがって、何を変え、何を温存する可 能性があるのかが垣間見える。

(7)

ろであった。

そう考えると、まず目につくのが「同性婚」/「パートナーシップ」制度の保守性――何に挑戦 しなかったのか、何を温存する可能性があるのか――である。同制度化が求めた「愛、性関係、家 族形成、子どもを産み育てること、経済と福祉、自由と平等」は、近代産業資本主義社会におい て、異性間の婚姻と固く結びついてきた概念であり規範に即した現実でもあった。つまり、同性 カップルによる「愛、性関係、家族形成、子どもを産み育てること」の追求は、「愛と性と生殖と が結婚を媒介とすることによって一体化され」近代家族規範の重要な一角をなしながら、異性カッ プルの間では大きく揺いでいるとも言われる「ロマンティックラヴ・イデオロギー」(千田2011:

16 - 18;ショーター1987:176;214 - 215)をなぞっている。「経済と福祉」への権利追求は、婚姻

と家族が公的な制度によって財政的に支えられる必要があるという主張に他ならない。それは、性 別役割分業と公と私の分離によって、「外で」働いて賃金を得る男性と「うちで」無償の家事育児 を担う女性の組み合せである異性カップルとかれらの子どもから成る核家族が、近代産業資本主義 における生産を支える再生産の単位であったことに追随している。そして、同性カップルの婚姻の 「自由」が婚姻をする権利における異性カップルとの「平等」を意味する以上、異性婚の意味や規 範を大いに逸脱することは、「同性婚」や「同性パートナーシップ」制度の意図するところではあ り得ない。哲学者でありゲイライツ啓発者のジョン・コルビノは、アメリカの当事者運動は「同性 婚」でなく「婚姻の平等」という言葉を好んで使うことで、新しい制度をつくるのではなく現行の 婚姻制度を拡大したい意図を示したと言う(Corvino and Gallagher 2012:7 - 8)。「同性婚」の承認 と権利の追求に内在する保守性を端的に表した表現と言える。

アメリカでは、この保守性ゆえにこそ、「婚姻の平等」が最高裁判決にも大統領演説にもそのま ま利用される言葉となり、「同性婚」はまさに市民権を得た。デンマークで「登録パートナーシッ プ」が「平等化」と、「同性婚」が「性別に中立な婚姻」と位置づけられていたこと、オランダで 「登録パートナーシップ」が「差別禁止」に基礎づけられ、婚姻が「同性カップルにも開かれる」

ものとなったこと、イギリスで(上述した通り、性関係を曖昧にしている点は例外的であるが) 「婚姻法」が「平等」なものになり、「市民パートナーシップ」については異性カップル側が「平等

化」を求めていることにも同様の傾向があるだろう。

もう一度整理すると、近代産業資本主義社会の基礎単位としての家族のそのまた基礎である婚姻 は、愛と性とコミットメントと子どもの養育の制度的財政的保証であった。落合恵美子(2004)と 千田有紀(2011)の議論を乱暴にまとめれば、このような「近代家族」が日本でも戦後から高度経 済成長期に大衆化したと言えるだろう。そして、そこで当然とされている規範は、少なくとも意図 としては排他的で永続的な一対一の性愛関係を是とするモノアモリーであった。「カップル主義」 と言ってもよい。「同性婚」/「パートナーシップ」は、同性カップルを包摂することでこれらを 温存する制度と言える。

2.2.同性婚制度の「革新性」

(8)

いられない。「同性婚」の承認と権利追求は、ジェンダー/セクシュアリティ規範に挑戦しこれを 変えたのだろうか、だとすれば、そこからさらに何を変える可能性があるのだろうか。

性別役割分業

そもそも近代家族とその基礎となる婚姻が公的な制度によって保証されてきたのは、男性が「外 で」働いて賃金を得(生産を担い)、女性が「うちで」無償の家事育児ケア(再生産)を担う性別 役割分業を通して、近代産業資本主義を支えるためであった。単純に考えれば、男同士、女同士の カップルがそれぞれに家族を形成し、子どもを持ち、必要に応じて賃労働に従事することは、当事 者の家庭内のみならず社会においてそれまで異なる性にあてがわれた役割をこなす人間が必ず出て くるということである。それだけなら、女性の就労や男性の主夫業が近代家族の役割分業を部分的 に崩してきたことと大差ないが、カップル/家族というユニットとして、「外とうち」の分業を目 に見える性別とは違うどんな理由で行うのか、行わないのかを、自らにも他者にも問う点で、同性 カップル家族は性別役割分業の根幹に迫る。例えば、日本では、同性カップルが知り合ったばかり の人に「どちらが料理するの?」と かれることは日常茶飯事である、と言えばわかりやすいだろ う。他方、「同性婚」/「パートナーシップ」先進国である北欧、オランダ、イギリスはOECD諸 国の中でも女性の就業率が2000年代を通じて高いこと、それら欧米OECD諸国では(韓国や日本 と異なり)出産育児世代の女性労働力率が下がるいわゆる「M字カーブ」現象が見られないこと、 男性の育児休暇取得率が比較的高いこと(北欧と英米ではかなり差があるが)、女性管理職の割合 が大きいことなどの客観的状況からも(労働政策研究・研修機構2015:53;77;89)、性別役割分 業の緩和は「同性婚」/「パートナーシップ」の制度化と何らかの関係がある、と言えそうだ。

この変化はしかし、当面は資本主義自体のダイナミズムの範囲内で起こっているだけなのかもし れない。アメリカ史家ジョン・デミリオが主張するように、産業資本主義の発達によって、家庭が 第一次産業的生産共同体ではなくなり、都市における労働市場で単身者が生活の糧を稼ぐことが可 能になり、再生産の意義も「生存のため」から「愛情と涵養のため」にシフトして性と生殖が徐々 に切り離され、ゲイ・レズビアン・アイデンティティとコミュニティの成立を助けたとすれば

(D Emilio 1998:11 - 13;155)、近代産業資本主義は、一方で性別役割分業家族に支えられながら同

時に「同性愛者」とホモフォビアを生み出し、近代は終わったとも終わろうとしているとも言われ るいま、同性カップル家族を生み出し、性別役割分業を変化させているのだろうから。

性と生殖の分離

性と生殖の分離に注目すると、前節で、いま同性カップルによる「愛、性関係、家族形成、子ど もを産み育てること」の追求がこれをなぞっていると述べた「ロマンティックラヴ・イデオロギー」 のカラクリが見えてくる。異性カップルにおいては、「唯一無二の相手と愛し合い、結婚し、セッ クスをして子どもをつくる」イデオロギーはすでに多数派の現実ではない。それは、欧米でも日本 でもおおむね1970年代からのトレンドとなっている法的婚姻の減少、離婚率の上昇、婚外子の増 加などにも表れている(社会実績データ図録2016;Pew Research Center 2014;厚生労働省2006)。

しかし、このイデオロギーを現実の人間関係の中で実践するのは、最初から至難の業だったので はないだろうか。初期のヨーロッパ近代家族論を総括した宮崎靖子によれば、「家族の情緒化」 (ショーター1987)を特色とする近代家族は、むしろ性と生殖を切り離すことで成立し、かつ最初

(9)

果としての母子関係重視を呼び、前後して夫婦の間の性愛が重要になり、そして、女性たちが子へ の愛と夫への性愛の間で板挟みになったと言うのである(宮坂2010:163 - 165)。つまり、ロマン ティックあるいはエロティックな性愛と、産みの苦しみから始まり飲食糞尿発熱嘔吐の始末と危険 の回避が日常である子の養育をもたらす生殖とは、感情的に永続的には両立しがたい組み合わせで あって、それをとくに女性に対して隠ぺいし、異性カップル家族を産業資本主義を支えるユニット として継続するためにイデオロギーの媒介と制度的財政的保障が必要だったわけだ。そのことが、 貧困率が高いとはいえ、結婚しないで生活できる女性が増加した現実によって照らし出されたのが 現代であろう。

翻って、「同性婚」が異性婚と平等に子どもをもち育てる権利を保障する制度として求められた ことは、性と生殖の切り離しをいっそう推し進めた。

今のところ、同性間での性交はそこに愛があろうがなかろうが生殖を結果しない。同性カップル がセックスをすることは、ショーターの用語でいえば純粋に「情緒的」な結びつきであり、かれら が子どもを欲しいと思えば、医療を使うにせよ精子バンクを使うにせよ代理母あっせんを頼むにせ よ友人知人で済ませるにせよ、カップルの性的結びつきとは別に、生殖に適切な相手や手段を探さ なければならない。すると、性愛と、家族を形成し子どもを産み育てる欲望をつなぐには、同性 カップルにこそイデオロギーの媒介と制度的財政的保障、およびそのための科学技術が必要とな る。しかし、そこで同性カップルがロマンティックラヴ・イデオロギーをなぞる際に異なっている のは、異性カップルの婚姻においてロマンティックラヴ・イデオロギーが隠ぺいしようとしていた 性と生殖の分離を、自らと社会に明らかにし、性と生殖が切り離された関係をあらためて家族とし て承認し、させる点であろう。そして、この点に最後まで抵抗しているのが、婚姻を、「一対の男 女の排他的永続的性関係」や創世紀以来の「子どもを産み育てるための男女の結びつき」と現在で も信じている宗教主義者たちである。そこには18世紀以前のヨーロッパの非情緒的な婚姻/生殖 観が反映されており(宮坂2010:162)、前近代、近代、現代と続く道が保守から革新への一本道 ではないことがよくわかる。

「男同士の絆」

(10)

ゆる形態の権力を操作する、新しく非常に有効な道具が手に入った」ことを意味する、とセジ ウィックは言う(ibid. 87)。3

では、婚姻が男性同士、女性同士のものとして社会的に承認され制度的に保証されるようになっ た社会では、「男同士の絆」は消滅へ向かうのだろうか。セジウィックの見解では、近代西洋社会 におけるホモとヘテロの区別がそもそも一貫性を欠いている理由の一つに、この社会で、ホモセク シュアリティを特別なものと見なす「マイノリティ化」と、ヘテロセクシュアルをふくむすべての 人間に関係するものと見なす「普遍化」が同時に行われていることがある(Sedgwick 1990:1)。 前節で概観した欧米における「婚姻の平等化」はノーマライゼーションであって、前述の通り、ヘ テロ側にホモを包摂することであったが、それまで公にされずかつ普遍化されていたホモとヘテロ の間のテンションを、公的に仲裁する道になることも考えられる。現実に何が起こっていくのかは 今後を待たなければわからないが、もしも「同性婚」がこのようなホモセクシュアルの「普遍化」 の公認を進め、「マイノリティ化」を凌駕するならば、ホモとヘテロのもともと一貫しない区別が なくなり、男性同士のホモとヘテロの間のテンションもなくなるのだろうか。それは、セジウィッ クに倣う論理では、ジェンダーの制度を通したあらゆる形態の権力操作を根本的に変えることのは ずである。婚姻が家や一族のものから平等な個々人のものに変わった段階でなくなるはずだった 「女の交換」は、女を蝶番とする「男同士の絆」が続く限りミソジニーとして生き延びてきた。そ れも、女を交換しない男同士の、そして女同士の、性的な絆を公認する制度によって、消滅の方向 へ向かうのだろうか。つまり、「同性婚」は、ジェンダー/セクシュアリティの権力関係をすっか り塗り替える可能性をもっているのだろうか。この大きな問いについては、最後にもう一度考察す る。

3.日本における「同性婚」議論――排除される者は誰か

3.1.賛成

日本における「同性婚」に関する議論は、1節の欧米における「同性婚」/「パートナーシップ」 の制度化とそれに対する評価を部分的にふまえ、国内でも、元宝塚女優の東小雪と会社経営者の増 原裕子がディズニーリゾートでの「結婚式」を公開したことも影響し(東・増原2013)、2013年ご ろから2015年にブームの様相を呈した。同性婚や同性カップルが生活を共にすることについて、 当事者による手記やコミック、実用書、翻訳書、論文集、雑誌の特集と、出版だけでも数多く多数 のジャンルにわたり、またインターネット上でも報道やブログ、アンケート調査等が行われ、賛否 両論が出そろった感であった。

その中から、まず「同性婚」/「パートナーシップ」の法制化に賛成の意見を概観しよう。代表 的な賛成意見は、それぞれ重なる部分もあるがおおよそ次のように分けられる。1) 同性婚は自由 と平等の制度的保証である、2)国際法的に正当である、3)被差別集団の差別をなくすよう作用す る象徴的意義が大きい、4)すでに存在しているカップルの実生活の必要を満たす。

(11)

に、婚姻するか否か、婚姻する相手、家族形成の仕方を決めることは、あらゆる個人に平等に認め られるべきとして、これを支持している。そして、にもかかわらず性的少数者が不平等な処遇(差 別)を受けてきた歴史から、被差別集団に対する自由を保証する場合には必要な法の保護(介入)、 すなわち同性婚法制化等を要請する(中里見2015:86 - 87;99 - 101;二宮2015:140 - 142)。なお、 二宮は、あらゆる個人の家族形成の自由が平等に認められるためには、現行の婚姻の特権化をなく すことが不可欠としている(二宮2015:142)。

2)は、国際人権法学者の谷口洋幸らの主張で、国連自由権規約やヨーロッパ人権条約によれば、 同性カップルの生活関係の保障は国家の義務であるとする。ただし、谷口は、法律上の婚姻を同性 同士にも可能とするか否かは各国家の裁量にゆだねられており、国際人権法上の義務とは言えない と言う。しかしまた一方で、「同性パートナーシップ」のように同性間だけに婚姻に「準ずる」関 係を法制化することこそ差別とする見解もあり、とくに、同性同士の関係性やその子どもたちの権 利の保障を明示する「性的指向と性自認の人権決議」の採択(2011年)に中心的な役割を果たし た日本国家は、「同性婚」法制化に誠実に対応するべきとする(谷口2015:49;51;53 - 56)。

3)は、有名無名の人びとの言説の中に散見される感覚の表現に本稿が付けた「名札」である。 たとえば、2015年10月にNHKがウェブを通じて行った「LGBT当事者アンケート調査」(有効回 答数2600)の結果では、「結婚相当証明書を申請したい理由」として「法律上、家族として認めて ほしいのでその第一歩として」と答えた人が半数を超えた。また自由記述欄には「異性愛者のよう に、皆に祝福されて幸せな人生を歩みたい」、「LGBTはこれまで存在自体、否定されてきた。〔お 互いを後見人と指定した公正証書などの提出で区長が認め発行する「同性パートナーシップ証明」 をつくった〕渋谷のような取り組みがもっと広がって欲しい」という声が記載されている(NHK

On Line 2016)。2015年の『現代思想――特集LGBT』の東小雪と信田さよ子の対談でも、ディズ

ニーリゾートの「結婚式」の後、渋谷区の「同性パートナー」承認第1号となった東とパートナー の増原が、「同性婚」カップルの象徴として果たす役割の大きさ、積極性、たいへんさが幾度も話 題になっている(東・信田2015:31, 33 - 35)。

4)は、金銭的なメリットと日常生活の利便性・必要性が異性カップルと同等になることをめざ す、いわゆる「LGBT」人権擁護活動家・政治家と実務家によく見られる主張と言える。この主張 は、異性夫婦と平等の税制や社会保障上の待遇、労働者あるいは消費者としての福利厚生上の待遇 (雇用者からの世帯手当や民間企業の「家族割」サービスなど)、あるいは生老病死にかかわる人間 関係の公的認知の必要性に根差している。とくに最後の、パートナーの重病や死に立ち会うこと、 財産の共有や遺産相続、子どもの共同親権を認められること、親族の老病死にカップルとして対処 すること、自らの老後にケアしケアされる関係が公的に保証されること、外国籍のパートナーが配 偶者として認められ定住を保証されることは、人権問題であるばかりでなく当事者の切実な願いな のである(EMA日本 2016;Huff Post LGBT 2015;2014;永易2015:110-111;NHK On Line 2015; 尾 2007)。

3.2.反対

(12)

あり、やはりそれぞれ大きく重なりながら展開している。なお、ここでは、「同性婚」について、 「マイノリティが主役になって、〔中略〕その権利をこれ見よがしに振り回すこと」、「単にわがま

ま」、「男には男の、女には女の役割がある」(NHK 2015)、「制度化したら、少子化に拍車がかかる のではないか」(柴山昌彦自民党衆院議員のテレビ番組での発言)(Jcast News 2015)といった、ホ モフォビアに基づく意見やバックラッシュ的な意見は取り上げない。

1)は、性的少数者を「LGBT」とひとくくりにする問題の指摘でもある。2節で議論した通り、 「同性婚」/「パートナーシップ」が、近代産業資本主義を支えてきた「愛、性、コミットメント、 子どもの養育の制度的財政的保証」を補完し、モノアモリー/カップル主義規範を温存するとすれ ば、これに対して反規範的となる生涯単身者、ポリアモリーの人、アセクシュアルの人、性的関係 を共同生活の理由にしない人、愛と切り離してセックスをする人、などを排除・差別することにな る。それは、今まさに異性婚制度が「LGBT」ほか性的少数者に行っている差別・排除の焼き直し である。公的資金を直接間接的に投入して行われる制度的財政的保証によって、「婚姻」が特権化 されていることこそが再分配の不平等であり、特権を拡大してごく一部を「一級市民化」しても、 性的少数者差別はなくならない。そのように規範に与することは、ヘテロセクシュアル主流に抗し てきたクィア運動の歴史・文化と相いれないことも問題なのである(岡野2015;堀江2015:222 -226;236 - 240;マサキ2015:76;78;80 - 82;志田2009)。

2)は、「婚姻」の特権性が、性的少数者に限らない経済的弱者を排除する問題の指摘である。と くに、クィア・アクティビストのマサキチトセが数年にわたって詳細に論じている(マサキ2015; 2013;2011)。マサキの議論はもっぱらアメリカの「同性婚」推進運動を下敷きにした反対論だが、 日本の状況に関しても多くの示唆を含んでいる。マサキによれば「同性婚」を推進する運動は、そ の利点とされてきたものに当事者が惹かれるからこそ反差別運動全体にとってマイナスとなる。 「同性婚推進運動の発展とLGBT運動の主流化」は社会運動の財政資源を独占し、HIV・エイズ関

連やLGBTの若者支援等ほかの運動を枯渇させてきた。また、「病院における面会権、医療行為に 対する同意権、配偶者関連の移民ビザ」など「同性婚」法制化の利点と言われてきたものは、やは り配偶者関係だけを特別な関係とみなして他の関係の排除に結びついてきた。そして、その特別な 配偶関係があっても、実は、安定就業・収入・財産のある少数派にしか利がない「相続権、扶養義 務、福利厚生に関する法的扶養権」などを、誰にでもメリットになるかのように幻想させることは 「詐欺行為」にあたる(マサキ2015:75 - 76;80 - 81)。これらの「利点」の強調は、「婚姻しない者 の生活を困難なものにしている〔中略〕社会制度が持つ欠陥」の改革にかかる膨大なコストを支払 う代わりに「結婚というパッケージ商品を提供し、あらゆる責任を家族と言う私的領域に押し付け

る」(ibid. 82)のである。この意味では、「婚姻」を財政的保証と考えることも幻想でしかない。

3)は、1)、2)に加え、国家による承認を求める法制定運動が、結果的にではあれ、承認されな い人びとのスティグマを強化する陥穽を指摘する(堀江2015:240)。中でも堀江有里は、「婚姻」 が、現在でも天皇制と不可分の「臣民」登録簿として、身分制・家父長制を温存し、性差別、婚外 子差別、部落差別、外国人差別などの温床となっている戸籍制度に則ったものであることを重く見 る。「同性婚」も日本での婚姻への法制化をめざす以上、意識せずともこれ加担することになる、 と言うのである(ibid. 248 - 251)。

(13)

化し、とくに母親や女性の責任にしてきたことを問題視する。そして、ケア労働の私事化と、いま 新自由主義経済の下で自己責任を強調する政府によって推進される「同性婚」との関連を見出して いる。アメリカにおいて「同性婚」の権利が認められ、レズビアンが「法の下に平等な――ケア関 係を私的に負担させることで維持されている――〔異性婚〕市民と同じ」「善き市民」になること も、イギリスにおいて、パートナー同士の相互支援が、「パートナーの収入に基づいて、失業手当 のような国家付与の削減や停止に至る」可能性があることも、その具体例なのである(岡野2015: 64 - 66)。

3.3.「愛こそすべて」あるいは「善き市民」としての「LGBT」批判

欧米の経験をふまえた「同性婚」の保守性と「革新性」、日本における「同性婚」議論の賛成意 見と反対意見、と、二項対立的に概観してきたが、とくに当事者の間では、これらはただ対立的に 存在すべくもない入り組んだ問題であることを指摘しておきたい。

愛と性とコミットメントと子どもの養育の制度的財政的保証である「婚姻」に同性カップルが包 摂される保守性と、性別役割分業の緩和や性と生殖の分離を必然とすると同時に推進する「同性 婚」の「革新性」は、2節で議論したとおり、共に産業資本主義の発展に内在する要素だった。「同 性婚」から演繹的に考えられる「男同士の絆」が消滅する可能性だけは、ジェンダー/セクシュア リティの権力関係を根本的に塗り替えるという意味で、真に革新的な要素かもしれない。しかしそ れも、同性カップル家族が異性カップル家族を踏襲する限り、新たに家族から排除される層を創り 出すだけかもしれない。セジウィックが「ヨーロッパ社会においては実際のところあらゆる形式の 権力である」(Sedgewick 1985:87)と言うジェンダー/セクシュアリティを通じかつ対象にした 権力行使が、ポリアモリーなどジェンダーだけで規定されない非規範的なセクシュアリティや、不 安定な就労形態、貧困、異国籍など、多様な対象を、グローバル化・新自由主義経済に都合よく、 多様に排除する権力行使に変化する「革新性」なのかもしれない。

一方で、いままで侵害されてきた権利や、いままで無視されてきた存在が承認され、具体的に保 障されることは、もちろんどんな被差別者層にとっても非常に重要な課題であり、本稿で取り上げ た「同性婚」反対論者の中でもこの点を否定する人はいない。とくに婚姻と家族が、国が制度的に 取り組むべき貧困対策などの責任を肩代わりしている点については、責められるべきは制度の側で あって、現に経済的心理的社会的支えが必要な人びとが自分たちの生活に制度の後ろ盾を求めるこ とではない。堀江有里が指摘する通り、女性として「経済的に不利益な状況を強いられ」やすく、 子どもを育てる機会が男同士カップルよりも多い女同士カップルこそ、パートナーシップの法的保 護を求める傾向が大きいことは容易に理解できる。たとえそれが異性婚モデル(の幻想)に則った ニーズ感覚だったとしても、当人たちが責めを負うべき問題ではない(堀江2015:232 - 236)。

「同性婚」反対論者の多くは、すでに家父長制と産業資本主義の組み合わせによる性差別であり 搾取の制度である現行の婚姻と家族が、無批判に継承されることを批判している。同性カップルを 「婚姻」へ包摂することが、異性カップルの婚姻率が下がり性別役割分業が崩れる現在、それでも ケア費用を削減したい小さな政府にとって願ってもない財政手段だとしたら、いままでマイノリ ティだった者がそれに喜んで加担するのは情けない。とは言え、生活者にとっては、政治的理念よ りも生き延びることが重要なので、最大限、「同性婚」の保守性を重く自覚しつつ、より差別的・ 搾取的でない制度を模索していくほかないだろう。

(14)

なりがちなのと同じく、経済的な理由だけでないことも意識しておいた方がよいだろう。権利とし ての自由・平等の価値が、「同性婚」問題では「愛」によってさらに高められているからだ。そこ では、「婚姻平等判決」を伝えるオバマ大統領のツイッターのハッシュタグが #LoveWins であった ことに象徴されるように、再び「愛」が、利用されている。やっかいなのは、これを利用する側 も、少なくとも半ば本気で「愛の勝利」を喜んでおり、だからこそ人を惹きつけるところだ。

そうして「愛の勝利」によって新しく「一級市民」に昇格する「LGBT」を批判することは、市 民としての権利が、自由と平等が、産業資本主義と手に手を取って発展してきたことの批判に行き 着く。問題は大きい。が、岡野が言うように、「セクシュアリティをめぐる規範的体制とそれに よって維持される『善き市民像』を根底的に批判する」クィア理論をもって、「よりよいケア関係 を維持するために必要な基盤を整える社会的責任の放棄に対して」「同性婚」を批判し、「関係性の 平等」を求める試みを、私たちは続けていくべきなのだろう(岡野2015:66;69)。

4.終わりに

さらに、批判の焦点をはっきり日本社会に定めるには、もう一歩 った見方が必要だ。産業資本 主義の発展に人権、自由・平等というそれ自体は有意義な価値が伴っていないのが、「LGBT」や 「同性婚」をめぐる日本の政治ではないか、と思われるからだ。

2020年に予定されている東京オリンピック開催にあたって、五輪憲章に採択された「LGBTの 人権」を無視できなくなった自民党と、「同性パートナーシップ」証明を発行し、オリンピックを 見据えて「LGBT」の「活用」をめざす渋谷区の関係政治家が、同様に、「人権」ではなく「多様 性」の問題としてこのイシューを語る(川坂2015:90 - 92;マサキ2015:85)。経済効果の陰で、 為政者が「同性婚」さえも人権についての政治課題にする気がないことが察せられる。

その自民党は、2016年4月に発足した性的指向・性自認に関する特命委員会の議論の概要で、 「性的指向・性自認の多様性を認め受容することは、性差そのものを否定するいわゆる『ジェン

ダー・フリー』論とは全く異なる」とわざわざ断っている(自由民主党政務調査会2016:1 - 2)。 そのうえで、続けて発表した政策方針では、「カムアウトできる社会ではなくカムアウトする必要 のない社会」、「性的指向・性自認の多様なあり方をお互いに受け止め合う社会」、「現行の法制度を 尊重しつつ、網羅的に理解増進を目的とした諸施策を講ずること」をめざすとしている(自由民主 党2016)。自民党がフェミニズムに学ぶ気が毛頭ないことは動かせないとしても、現にあるジェン ダー/セクシュアリティを通じた権力関係を否定しない「多様性」では、差別する者とされる者の 関係も動かせない。そして、女性の貧困を始めとする日本のジェンダー格差は大きい。

(15)

【注】

1 煩雑さを避けるため、「同性婚および同性パートナーシップ」を、「同性婚」の一言で代表させる場合がある。

2 デンマーク法では、「妊娠の目的で行われる男性の精子または体外で受精した胚が女性に移植される行為」 (人工授精及び胚保護法1章2項)。

3 セジウィックの「男同士の絆」は、本人も冒頭で断っている通り(Sedgewick 1985:1)、18 - 19世紀のイ ギリス文学を分析した結果であって、文化的歴史的な限定から出発したテーゼである。しかし、日本でも 前川(2011)、四方田・斉藤(2004)、竹村(2000)などがその普遍的な有効性に基づいて応用し、成功し ている。

【参考文献・ウェブサイト(最終閲覧はすべて 2016 年 8 月 31 日)】 英語

BBC News, 2010, Why Would a Straight Couple Want a Civil Partnership? : http://www.bbc.com/news/ magazine-11625835

Woelki, Katharina, 2003, Registered Partnership and Same-Sex Marriage in the Netherlands in Boele-Woelki, Katharina and Fuchs, Angelika eds., Legal Recognition of Same-Sex Couples in Europe, Intersentia: 41-53

Corvino, John and Gallagher, Maggie, 2012, Debating Same-Sex Marriage, Oxford University Press

The Church of England, 2013, Same Sex Marriage : https://www.churchofengland.org/our-views/marriage,-family-and-sexuality-issues/same-sex-marriage.aspx

D Emilio, John, 1998, Sexual Politics, Sexual Communities: Second Edition, University of Chicago Press

Department for Culture, Media and Sport, 2013, Policy paper: Comparison of Civil Partnership and Marriage for Same Sex Couples : https://www.gov.uk/government/publications/comparison-of-civil-partnership-and-marriage-for-same-sex-couples

Frioriksdottir, Hrefna, 2013, The Nordic Moderl: Same-Sex Families in Love and Law in Gallo, Daniele, Paladini, Luca, and Pustorino, Pietro eds., Same-Sex Couples before National, Supernational and International Jurisdictions, Springer Science & Business Media: 161-180

Government Equality Office, 2012, Equal Civil Marriage: a Consultation : https://www.gov.uk/government/ uploads/system/uploads/attachment_data/file/133258/consultation-document_1_.pdf

Government of the Netherlands, 2016, Marriage, registered partnership and cohabitation, Family Law : https:// www.government.nl/topics/family-law/contents/marriage-registered-par tnership-and-cohabitation-agreements

HMSO (Her Majesty s Stationery Office and Queen s Printer of Acts of Parliament), 2004, Civil Partnership Act 2004

INSEE (Institut national de la statistique et des études économiques), 2015, Évolution du nombre de mariages et de pacs conclus jusqu en 2015: http://www.insee.fr/fr/themes/tableau.asp?reg_id=0&ref_id=NATTEF02327 Krieger, Daniel, 2014, Denmark s Civil Unions: One Giant Leap for Mankind : http://wilsonquarterly.com/

quarterly/summer-2014-1989-and-the-making-of-our-modern-world/denmarks-civil-unions-one-giant-leap-for-mankind/

LGBT Denmark(デンマーク全国ゲイ・レズビアン・バイセクシュアル・トランスジェンダー連合), 2016: http:// lgbt.dk/english-2/

Lund-Andersen, Ingrid, 2003, The Danish Registered Partnership in Boele-Woelki, Katharina and Fuchs, Angelika eds.: 13 - 24

(16)

Merin, Yuval, 2010, Equality for Same-Sex Couples: The Legal Recognition of Gay Partnerships in Europe and the United States, University of Chicago Press

Pew Research Center, 2012, Overview of Same-Sex Marriage in the United States : http://www.pewforum. org/2012/12/07/overview-of-same-sex-marriage-in-the-united-states/

―――― 2014, Birth Rate for Unmarried Women Declining for First Time in Decades : http://www.pewresearch. org/fact-tank/2014/08/13/birth-rate-for-unmarried-women-declining-for-first-time-in-decades/

―――― 015, Same-Sex Marriage, State by State : http://www.pewforum.org/2015/06/26/same-sex-marriage-state-by-state/

Rauch, Jonathan, 2005, Gay Marriage: Why It Is Good for Gays, Good for Straights, and Good for America, Henry Hold and Company, LLC

Savolainen, Matti, 2003, The Finnish and the Swedish Partnership Acts: Similarities and Divergencies in Boele-Woelki, Katharina and Fuchs, Angelika eds.: 24 - 40

Sedgwick, Eve Kosofsky, 1985, Between Men: English Literature and Male Homosocial Desire, Columbia University Press

Sedgwick, Eve Kosofsky, 1990, Epistemology of the Closet, University of California Press

Supreme Court of the United States, 2015, Syllabus: Obergefell et al. v. Hodges, Director, Ohio Department of Health, et al. : https://www.supremecourt.gov/opinions/14pdf/14-556_3204.pdf

Sáez, Macarena, 2011, Same Sex Marriage in Brown, Karen B. and Snyder, David V. eds., General Reports of the XVIIIth Congress of the International Academy of Comparative Law/Rapports Généraux du XVIIIème Congrès de l Académie Internationale de Droit Comparé, Springer Science & Business Media: 115 - 142 The Telegraph, 2013, Church of England gives blessing to recognising civil partnerships : http://www.telegraph.

co.uk/news/religion/9983121/Church-of-England-gives-blessing-to-recognising-civil-partnerships.html The White House, 2015, Live Updates on #LoveWins: The Supreme Court Rules that Gay and Lesbian Couples

Can Marry : https://www.whitehouse.gov/blog/2015/06/26/live-updates-lovewins-supreme-court-rules-gay-and-lesbian-couples-can-marry-0

Yee, Man and Lee, Karen, 2010, Equality, Dignity, and Same-Sex Marriage: A Rights Disagreement in Democratic Societies, Brill

日本語

EMA(Equal Marriage Alliance) 日本2016「同性婚推進について」: http://emajapan.org/promssm NHK 2015「週刊ニュース深読み」: http://www.nhk.or.jp/fukayomi/maru/2015/150711.html NHK On Line 2016「LGBT当事者アンケート調査」: http://www.nhk.or.jp/d-navi/link/lgbt/

岡野八代 2015「平等とファミリーを求めて――ケアの倫理から同性婚をめぐる議論を振り返る」『現代思想

――特集LGBT』43-16: 60-71

尾 かな子2007「同性パートナーの法的保障――なぜ必要なのか、どうすれば実現するのか」『国際人権ひろ ば』74: http://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section2/2007/07/post-253.html

野さおり・石田仁・風間孝・吉仲崇・河口和也2016『性的マイノリティについての意識――2015年全国調査 報告書』科学研究費助成事業「日本におけるクィア・スタディーズの構築」研究グループ(研究代表者広 島修道大学河口和也)編

川坂和義2015「『人権』か『特権』か『恩恵』か?」『現代思想――特集LGBT』43-16: 86-95

厚生労働省2006「統計調査結果報道発表資料」: http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/ konin06/konin06-5.html

志田哲之2009「同性婚批判」関修・志田哲之編著『挑発するセクシュアリティ――法・社会・思想へのアプ ローチ』新泉社: 133 -167

(17)

自由民主党2016「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会を目指すためのわが党の基本的な考え方」: http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/132172_1.pdf,

自由民主党政務調査会2016「議論のとりまとめ」: http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/news/policy/132172_2.pdf

千田有紀2011『日本型近代家族――どこから来てどこへ行くのか』勁草書房 ショーター、エドワード(田中俊宏・岩崎誠一訳)1987『近代家族の形成』昭和堂 竹村和子2000『フェミニズム』岩波書店

谷口洋幸2015「『同性婚』は国家の義務か」『現代思想――特集LGBT』43 - 16: 46 - 59

中里見博2015「『同性愛』と憲法」三成美保編著『同性愛をめぐる歴史と法――尊厳としてのセクシュアリ ティ』明石書店:70 - 113

永易至文2015「生活に根差した性的マイノリティの老後を考える」『現代思想――特集LGBT』43 - 16: 107-111

二宮周平2015「家族法――同性婚への道のりと課題」三成美保編著:122 - 147

Huff Post LGBT 2014「石川大我さんが同性婚制度を願う理由『愛し合う価値は、男女も同性も変わらない』: http://www.huffingtonpost.jp/2014/12/17/lgbt-ishikawataiga_n_6345424.html

―――― 2015「『同性愛、日本は 認めるべき が過半数』新たなLGBT市場と求められる法制度とは?虹色 ダイバーシティに聞く」: http://www.huffingtonpost.jp/2015/01/04/lgbt-maki-muraki2_n_6414500.html

東小雪・信田さよ子2015「対談――私たちがつくる〈家族〉のかたち」『現代思想――特集LGBT』43 - 16: 30 - 45

東小雪・増原裕子2013『レズビアン的結婚生活』株式会社イースト・プレス 堀江有里2015『レズビアン・アイデンティティーズ』洛北出版

前川直哉2011『男の絆――明治の学生からボーイズ・ラブまで』筑摩書房

マサキチトセ2013a「生活保護とクィア」SYNODOS: http://synodos.jp/society/4252

マサキチトセ2013b「同性婚を私が積極的に支持しない理由――あるいは同性婚を支持しない人が『国民』と いう概念に対抗しなければならない理由――あるいは同性婚とネオリベラリズム」包帯のような嘘: http://ja.gimmeaqueereye.org/entry/113

マサキチトセ2015「忘却と排除に支えられたグロテスクな世間体政治としての米国主流『LGBT』運動と同性 婚推進運動の欺瞞」『現代思想――特集LGBT』43 - 16: 75 - 85

宮坂靖子2010「近代家族に関する社会史的研究の再検討――『家族の情緒化』の視点から」『奈良大学紀要』

38: 157-170

四方田犬彦・斉藤綾子2004『男たちの絆、アジア映画――ホモソーシャルな欲望』平凡社

Letibee LIFE 2016「一橋大学ロースクールでのアウティング転落事件∼ 原告代理人弁護士に聞く、問題の全 容」: http://www.huffingtonpost.jp/letibee-life/hitotsubashi-suicide_b_11398838.html

(18)

‘All You Need is Love’: Same-Sex Marriage/Partnership and Expansion

of the ‘Good Citizen’

AOYAMA Kaoru

‘Same-Sex Marriage’* has become a hot topic around the world. This article examines what it means

to envisage ‘Same-Sex Marriage’ in Japan or ‘Same-Sex Partnership’ as para-marriage.

First ‘Same-Sex Marriage’ in various jurisdictions is outlined: Denmark, for having established the first ‘Registered Partnership’ law; the Netherlands, for having the first legal marriage between same sex persons; the United Kingdom, for creating a distinctive ‘Civil Partnership’; and the United States, for its influence on the world regarding ‘Equal Marriage’. Both the conservative and the progressive features of ‘Same-Sex Marriage’ are then explored. On the conservative side, ‘Same-Sex Marriage’ is a faithful imitation of hetero-sex marriage as the basis of modern industrial capitalist society which preserves the norm of mono-amory. On the progressive side, it is a potential nexus to transform some fixtures of hetero-sex marriage: gender roles, the intercourse-reproduction tie and ‘Male Bonds’ (Sedgwick).

Secondly, this article reviews recent arguments on ‘Same-Sex Marriage’ in Japan. It points out that those who are for ‘Same-Sex Marriage’ are valuing 1) the institutional guarantee of freedom and equality, 2) legitimacy in accordance with international law, 3) the symbolic meaning against discrimination and 4) practicality in daily life; and that those who are against it emphasise its exclusionary effect 1) within sexual minorities and 2) against the economically disadvantaged, and its supportive effect towards 3) the social norm/state legal system and 4) neo-liberal economic policies.

In the end, this article calls for attention to the negative side of ‘Same-Sex Marriage’: excluding other Others when ‘LGBT’ people are upgraded to marriageable ‘Good Citizens’ through the discourse of ‘Love’; and that the right to freedom and equality which has been as profound as ‘Love’ in the Euro-American context still does not exist in Japanese state discourse.

* To avoid cumbersomeness, ‘Same-Sex Marriage’ represents both ‘Same-Sex Marriage and Same-Sex Partnership

参照

関連したドキュメント

Conclusions: The present study demonstrated high HPV prevalence in the anus and urine, and showed a high incidence of anal cytological atypia associated with HR-HPV infections

熱力学計算によれば、この地下水中において安定なのは FeSe 2 (cr)で、Se 濃度はこの固相の 溶解度である 10 -9 ~10 -8 mol dm

In this section we classify semisimple locally transitive irreducible pairs, and then show that any nontrivial exceptional semisimple irreducible pair (H, G) with nonreductive G ∗ is

The mGoI framework provides token machine semantics of effectful computations, namely computations with algebraic effects, in which effectful λ-terms are translated to transducers..

An example of a database state in the lextensive category of finite sets, for the EA sketch of our school data specification is provided by any database which models the

A NOTE ON SUMS OF POWERS WHICH HAVE A FIXED NUMBER OF PRIME FACTORS.. RAFAEL JAKIMCZUK D EPARTMENT OF

In [1, 2, 17], following the same strategy of [12], the authors showed a direct Carleman estimate for the backward adjoint system of the population model (1.1) and deduced its

A lemma of considerable generality is proved from which one can obtain inequali- ties of Popoviciu’s type involving norms in a Banach space and Gram determinants.. Key words