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金融論
unit 5情報の非対称性と逆選択
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外部資金の調達:自己資金による事業
情報の非対称性がある場合には、貸し手は、個別の借り手の 信用リスクを推し量ることができない。
したがって、経済全体に存在する借り手の質に関する主観的 な分布を用いて、個別の借り手の信用リスクを推測するしか ほかに方法がない。
外部資金の調達:自己資金による事業
たとえば、unit 2 で考えたアイスクリームを売る事業につい て考える。
ここでは、アイスクリームの質に差がある複数の企業家が存 在する場合を考える。
ここでは、質の良いアイスクリームを売っている事業をタイ
プG (Good)の事業、質の悪いアイスクリームを売っている
事業をタイプB (Bad) の事業と呼ぶことにする。
まった、便宜上、タイプGの事業を行っている企業家をタイ プGの企業家(または、質の良い企業家)、タイプBの事業 を行っている企業家をタイプBの企業家(または質の悪い企 業家)と呼ぶことにする。
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外部資金の調達:自己資金による事業
各企業家は、自己資金としてK単位の資金を保有している とする。
この資金を用いて事業を開始することができる。 タイプiの企業家が成功した場合の事業の収益率をR
i
とし、 成功確率をp
i
とする。
i は、G か B のいずれかが入る変数である。
つまり、タイプG の企業家の、成功した場合の事業の収益率 はR
G
であり、成功する確率はp
G
である。
また、タイプB の企業家の、成功した場合の事業の収益率は RBであり、成功する確率はpBである。
2 つの変数、あるいは式を i を用いて、まとめていることに 注意。
外部資金の調達:自己資金による事業
各企業が、自己資金のみを用いて事業を開始した場合の収益 の状況について、計算してみる。
タイプiの企業家が自己資金のみを用いて事業を開始した場 合の期待収益をπ
i
Kと表記する。この値は、 πKi ≡ piRiK
となる
つまり、タイプG とタイプ B のそれぞれの期待収益が、πGK
とπKB となり、
πKG ≡ pGRGK πBK≡ pBRBK
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外部資金の調達:自己資金による事業
また、この場合の期待収益率は、 piRiK
K = p
iRi
計算できる。
これも、タイプG とタイプ B のそれぞれの期待収益率が pGRGK
K = p
GRG
pBRBK K = p
BRB
であることを示している。
アイスクリーム業者の収益は、図5-1に図示している。
外部資金の調達:自己資金による事業
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外部資金の調達:自己資金による事業
ここでは、企業家の感じる満足度を、期待収益で図っている。
unit 3 では、リスク回避的な個人を考え、期待効用の最大化
という概念を説明した。
ここではリスク中立的な個人を想定していることになる。
外部資金の調達:自己資金による事業
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外部資金の調達:数値例
数値例を考える。 RG = 1.5、pG = 0.8 RB = 2.0、pB= 0.3
これらの企業家が自己資金を1単位保有しているとする。
外部資金の調達:数値例
質の良い事業(タイプ G)の期待収益は、 RGpG= 1.5 × 0.8 = 1.2
となる。
質の悪い事業(タイプ B)の期待収益は、 RBpB= 2.0 × 0.3 = 0.6 となる。
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外部資金の調達:数値例
事業が成功したときの収益率は、質の悪い事業のほうが高い。 しかし、事業が成功する確率が低いので、期待収益率は質の 良い事業のほうが高くなっている。
このことは、表5-1にまとめてある。
外部資金の調達:数値例
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外部資金の調達:外部資金の調達
次に外部投資家の問題を考える。
各企業家は、外部資金を新たB単位借り入れて、(B + K)の 資金を元手にして事業を開始することもできるとする。 ここでは、外部投資家の要求収益率をρ¯とする。
外部資金の調達:外部資金の調達
まずは、情報の非対称性のない場合を考える。
情報の非対称性がないときには、企業の行う事業の質を、外 部投資家が観察することができる。
タイプ iの事業に1単位の投資を行う場合の利子率をρ
i
と する。
つまり、タイプG の事業家に投資する場合の利子率を ρG、 タイプB の事業家に投資する場合の利子率を ρBとする。
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外部資金の調達:外部資金の調達
期待収益率は(失敗すると収益は0であるので)、それぞれ、 piρiと計算できる。
つまり、タイプG の投資家に ρ
G
の契約利子率で投資した場 合の期待収益率は、p
GρGである。 タイプB の投資家に ρ
B
の契約利子率で投資した場合の期待 収益率は、p
BρB
である。
外部資金の調達:外部資金の調達
それぞれのタイプ別の期待収益率が要求収益率に等しいとこ ろで決定される。
ρi= ρ¯ pi と、計算される。
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外部資金の調達:外部資金の調達
すなわち、タイプ Gの企業家には、 ρG= ρ¯
pG
の利子率で、資金を投資する。 タイプBの企業家には、
ρB= ρ¯ pB の利子率で、資金を投資する。
外部資金の調達:外部資金の調達
タイプ iの企業家が外部資金を借り入れて事業を開始した場 合の期待収益を、π
i
Lと表記することにする。
この場合も、タイプG の企業家の期待収益は πGL、タイプB の企業家の期待収益はπ
B
L を意味している。
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外部資金の調達:外部資金の調達
タイプ iの機宜ゅ謳歌の成功時の収入はR
i(K + B)、外部投 資家への支払いはρ
iBであるので、この値は以下のように計 算することができる
πiL≡ pi[Ri(K + B) − ρiB] = piRi(K + B) − piρiB また、p
iρB = ¯ρBであるので、
πiL= piRi(K + B) − ¯ρB と書くことができる。
外部資金の調達:外部資金の調達
この式は、外部資金を用いた場合の各企業家の期待収益は、 総資金から得られる期待収益から、外部の投資家への必要支 払額を差し引いたもので計算できることを示している。
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外部資金の調達:外部資金の調達
また、(5.1)式と(5.2)式から、
πLi = pi[RiK + (Ri− ρi)B]
= πKi + pi(Ri− ρi)B
= πKi + (piRi− ¯ρ)B と計算できる。
外部資金の調達:外部資金の調達
この式を見ると、事業の期待収益率p
iRiが投資家の要求利 子率ρ¯より大きいときには、π
i L> π
i
Kとなる。
この関係は、タイプG とタイプ B のいずれでも同じである。 このことは、p
iRi > ¯ρの場合には、外部資金を使用すること で企業家の収益が増大することを意味している。
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外部資金の調達:数値例
ここでは、例としてK = 1、B = 1のケースを考える。 各事業に関するパラメータ(R
i
やp
i
)は前の例と同じもの を使用する。
単純化のためにρ = 1¯ と仮定する。 したがって、
質の良い事業に対して投資家が要求する利子率は ρ/pG= 1/0.8 = 1.25
質の悪い事業に対して投資家が要求する利子率は ρ/pB= 1/0.3 ≈ 3.33
外部資金の調達:数値例
つまり、事業の質を投資家が観察できる場合には、 質の良い事業に対しては低い利子率が設定される。 質の悪い事業に対しては高い利子率が設定される。
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外部資金の調達:数値例
また、質の良い事業の場合には、事前の期待収益が pGRG(K + B) = 0.8 × 1.5 × (1 + 1) = 2.4
となり、投資家への支払いは1であるので、企業家の期待収 益は1.4となる。
同様に、質の悪い事業を行う企業家の収益率は、0.2となる。 表5-2を参照
外部資金の調達:数値例
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外部資金の調達:事業の質と外部資金
表5-1と表5-2とを比べてみると、外部資金を導入すること によって、質の良い事業を行う企業家の期待収益は増加する ことがわかる。
逆に、質の悪い事業を行う企業は、外部資金を導入すること によって、企業家の期待収益は減少していることがわかる。 これは、質の良い事業の期待収益率が1.2と、投資家の要求 する安全利子率(ρ = 1¯ )を上回っているのに対して、質の 悪い事業の期待収益率は0.6と、投資家の要求する安全利子 率より低いことに原因がある。
外部資金の調達:事業の質と外部資金
現在考えている状況では、情報が企業家と投資家で対照的で あるので、各事業の質の違いを反映した利子率が要求される。 したがって、質の悪い事業に対しては、高い利子率が設定さ れ、その利子率が事業自体の期待収益率より高くなるので、 結果として、企業家の取り分が減少する。
この場合には、質の良い企業家は外部資金を取り入れて、規 模の大きい事業を行うことになる。
質の悪い企業家は外部資金を使用しないで、自己資金のみで 事業を行うことになる。
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情報の非対称性:情報が非対称であるとき
ここで、外部の投資家と企業家の間に情報の非対称性があ り、企業家の質を外部の投資家が観察できないとする。 しかし、外部の投資家は経済に存在する質の良い企業家と質 の悪い企業家の割合は知っているものとする。
質の良い企業家の割合をqとし、質の悪い企業家の割合を (1 − q) とする。
情報の非対称性:情報が非対称であるとき
外部の投資家は、投資を行う企業家の質を完全に判別でき ない。
したがって、経済におけるそれぞれの質の企業家の割合を考 慮に入れて、期待収益率を計算することになる。
利子が予定通りに支払われる確率は、 p ≡ qpˆ G+ (1 − q)pB と計算できる。
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情報の非対称性:情報が非対称であるとき
期待収益率は、要求利子率である1に等しいことが要求さ れる。
したがって、利子率ρˆは、ρˆˆp = 1を解いて、 ˆ
ρ = 1 ˆ p =
1
qpG+ (1 − q)pB となる。
情報の非対称性:情報が非対称であるとき
ここで、経済に、質の悪い企業家と質の悪い企業家が半々に 存在しているとする。
つまり、
q = 0.5
を想定する。
この場合の要求利子率は、 1
0.5 × 0.8 + 0.5 × 0.3 ≈ 1.82 となる。(表5-3)
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情報の非対称性:情報が非対称であるとき
情報の非対称性:企業家の期待収益
ここで、各企業家の期待収益を計算してみる。 成功時の事業からの収益は、R
i(K + B)である。
投資家への支払いは成功字のみに行われ、その額はρBˆ と なる。
したがって、タイプiの企業家の期待収益は、 pi[Ri(K + B) − ˆρB] と計算できる。
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情報の非対称性:企業家の期待収益
表5-3から企業の期待収益を計算する。 タイプiの企業家の期待収益は、
piRi(K + B) − piρBˆ
と書き換えることができる。
この式は、企業家の期待収益が、事業からの期待収益から投 資家への期待支払い額を差し引いたものとして計算できるこ とを示している。
情報の非対称性:企業家の期待収益
情報の非対称性から、投資家は事業の質を観察できない。 そのために、利子率は1.82と良い事業でも悪い事業でも等し い利子率で貸し付けられる。
しかし、実際には、事業の質によって成功確率が異なってい るので、企業家の期待支払い額は異なってくる。
投資家への期待支払い額は、 質の良い企業家は、
0.8 × 1.82 × 1 ≈ 1.46 質の割る企業家は、
0.3 × 1.82 × 1 ≈ 0.55
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情報の非対称性:企業家の期待収益
質の悪い企業家の期待支払い額が低くなっている。
このことから、情報の非対称性により、質の良い企業家が損 をし、質の悪い企業家が得をすることがわかる。
実際に、企業家の期待収益を計算してみると、表5-4にまと めてあるように、質の良い企業家は0.94、質の悪い企業家は 0.65となる。
情報の非対称性:企業家の期待収益
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情報の非対称性:逆選択
表5-4から、情報の非対称性が発生している場合に、外部資 金を用いたときの企業家の期待収益を知ることができる。
質の良い企業家は、0.94 質の悪い企業家は、0.65
表5-1は、外部資金を用いないで、企業家の自己資金のみで 事業を行った場合の企業家の期待収益を示している。
質の良い企業家は、1.2 質の悪い企業家は、0.6
情報の非対称性:逆選択
外部資金を用いるかどうかは、企業家がみずからの判断で行 うことができる。
この数値例では、質の良い企業家は、外部資金を用いること はなく、自己資金のみで事業を開始することになる。
なぜならば、自己資金のみを用いる場合(1.2) と比較して、 外部資金を用いる場合(0.94) の方が、期待収益が低いから。 逆に、質の悪い企業家は、よろこんで外部資金を導入しよう とする。
質の悪い企業家にとっては、自己資金のみを用いる場合(0.6) よりも、外部資金を用いる場合(0.65) の方が、期待収益が 高い。
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情報の非対称性:逆選択
質の良い企業家は、外部資金を借りようととせず、この結 果、市場で資金調達をする企業家はすべて質の悪い企業家と いうことになる。
市場において、外部資金を調達している(質の悪い)企業家 の成功確率は0.3であり、質の良い企業家が市場から退出す ることは投資家も知ることができる。
したがって、利子率は表5-2に計算してあるように3.33に上 昇する。
情報の非対称性:逆選択
この高い利子率のもとでは、質の悪い起業家も自己資金のみ によって事業を開始することが期待収益を高める。
したがって、今度は、質の悪い企業家も市場から退出してし まう。
つまり、この数値例では、情報の非対称性の存在によって、
「資金貸借市場が崩壊する」という結果になることがわかる。