中ヒット以下略 (Game Design Workshop: A playcentric Approach to Creating Innovative Games 3rd ed) Sec.5 (p.95-121) システムの力学 Working with System Dynamics
Part.1(ゲームデザインの基本)最後の章。次の章からはゲームデザイン。
本章のテーマはシステムとしてのゲーム。ここでのシステムはシステム理論/システム思考で用いられる意味でのシステム。
システム理論は生物学者のベルタランフィが提唱したもの。要素間の関係/相互作用によって全体を捉えることで、分野を越えて研究を共有することを 目的とした。その他、ハーバート・サイモン(組織論を中心とする経済学者で、人工知能の研究でも有名)やジェラルド・ワインバーグ(IBM 出身の ソフトウェア開発者)などが関係者として有名。
ここでは、全章までに見てきたゲームの各要素に対して、全体としてのゲームを、「オブジェクト」「プロパティ」「ビヘイビア」「関係」の 4 つの観点 から捉え直す。
・オブジェクト:
ブツ。物理的なものでも抽象的なものでも。駒とか概念(モノポリーの銀行とか)とか碁盤の目のそれぞれとか。 オブジェクトはプロパティとビヘイビアを持ち、他のオブジェクトと関係を持つ。
・プロパティ:
オブジェクトの属性。チェスの駒の色とか、RPG のキャラの HP とか EXP とか。
・ビヘイビア:
所与の状況下でオブジェクトが実行可能な行動。ビショップなら対角線上の移動とか。RPG の PC なら走るとか戦うとか。
・関係:
各オブジェクトの関係。碁なら碁石間の位置関係とか、カードゲームのカードなら数列によって定義されたりとか。 RPG におけるダメージ計算式などもキャラ間の関係の定義のひとつ。
関係はゲーム中ひっきりなしに(たとえばプレイヤーの行動で)変わる。
The Sims なら、満腹なキャラと冷蔵庫との関係は、空腹なキャラと冷蔵庫との関係とは異なる。
Exercise 5.1 : 適当なボードゲームを 1 つ選ん得、そのゲームの全オブジェクトとプロパティのリストを作る。 Exercise 5.2 : 各ゲーム状態における各ゲームのビヘイビアも。
Exercise 5.3 : オブジェクト間の関係も。何で定義される? 位置? パワー? 値?
システム力学
一般に、システムの構成要素は、そのシステムの目標を達成するために存在する必要がある。(というより、一般論としては、目標が先にあって、その 目標を前提に色々なオブジェクトのコレクションを見ると、そこに関係が≒システムが見出される)
システム理論における最重要な主張として、「システムの全体は要素の総和よりも大きい」というものがある。これはこの文脈では、要素のみを(他の 要素から切り離して)分析しても関係を分析することはできず、ゲームを理解できるのは力学が露わになるプレイの間だけである、ということを指す。 従って、ゲームデザインにおいては、プレイヤーの体験を直接的には予め決定できないし、究極的には、ゲームの個々のプレイをデザイナーが全て把 握することはできない。
以下、三目並べ、チェス、マスターマインド、クルーについて、オブジェクト/プロパティ/ビヘイビア/関係のかんたんな分析。 三目並べではゲームツリーが示される(ハーフリアルのときと似た議論)。
チェスでは、オブジェクトの関係の組み合わせの豊富さによりゲームツリー=状態空間が非常に広くなることが示される。その上で、状態空間を拡げ ないタイプのゲームデザイン(Trivial Pursuit が例示される)と、可能な限り広げるデザイン(GTA が例示される)が示される。
マスターマインドとクルーは比較される形で選択肢の広さが分析される。マスターマインドは 1296 通り、クルーは 324 通り。ただし、クルーは情報 の獲得のためにボードを動きまわる必要がある。この偶然性の追加がクルーをとっつきやすくしている。(どちらも成功したゲームであり、似たような 目的であっても、ゲームシステムをデザインする正しい方法が 1 つだけあるわけではないことを示している。)
続けて、SET のパターン数についての分析。現行の 3x3x3x3=81 にもう 1 プロパティ足すとどうなるか、あるいは 1 プロパティの選択肢を 4 つに変え ると?
Exercise 5.4.
5.1-5.3 までで扱ったオブジェクト/プロパティ/ビヘイビア/関係について、一部を変更することで力学がどう変わるか実験する。 ゲームが「壊れる」ような変更を行った場合、なぜそれがゲームを壊したのかについて考察する。
経済について
経済はゲーム中に見られるシステム構造のうち需要なもののひとつなので、ここで取り上げる。ゲームがシステム構造として経済を持つためには、リ ソース、アイテム交換、取引主体、交換手段などが必要となる。通貨を採用するかしないかで、経済の構造も大きく変わるだろう。デザイナーの仕事 は、経済システムをゲームの全体構造と適切に結び付けることにある。以下、生産物の量、マネーサプライ、価格、取引機会の観点から、既存のゲー ムの経済を分析する。
(Pit【単純な物々交換】、カタン【複雑な物々交換】、モノポリー【単純な市場】、Ultima Online【複雑な市場】、MTG【メタ市場】の例が説明される)
(※ MTG はゲームセッション内部には経済構造を持たないが、デッキ強弱のメタゲームにおいて、現実の金銭を伴う文字通りの市場が形成される) Exercise 5.5:ピットの物々交換に要素を足して複雑化させてみる。
創発的なシステム
(ライフゲームとグライダーの話など。ユール「ハーフリアル」と完全に重複するので省略。
なお、ユールが「ハーフリアル」で引用していたのはハーバート・サイモン&アレン・ニューウェル)
システムとプレイヤーとのやりとり
・情報の構造
(プレイヤーがどの情報を持つか・隠されているか。計算を重視させたいのか推測・ブラフをさせたいのかでデザインを変える。 ビデオゲームの登場で秘匿/公開の動的な変化が可能に)
・コントロール
(UI の話と、プレイヤーが何を操作できるかについての話。直接操作か関節操作か、リアルタイムかターンベースか)
・ポジティブフィードバックとネガティブフィードバック (ゲームの均衡と収束の観点からの話)
チューニング
・内部完全性テスト(ルールに変な穴があってどうしようもなくなったりしないこと)
・公平性、バランスのテスト
・楽しくチャリンジングであることについてのテスト(ターゲット層によるテストプレイ)
Exercise 5.6:オープンな情報構造を持つゲーム(チェスとかマンカラとか)を選び、隠れた情報の要素があるようにシステムを変えてテストし、そ れによる戦略の変質について考察する
Exercise 5.7 : Unreal Tournament, Age of Empires, Madden NFL25, Lemmings, スクラブル、マスターマインド、クルーの情報構造を考察する Exercise 5.8 : 上記ゲームのコントロールの手法を考察する
おまけ
この章のインタビューは Will Wright(バンゲリングベイ、シムシティ、シムズ、Spore, etc.)と Alan Moon(みんな知ってるはずなので省略)、Frank Lantz
(米国で主にモバイルゲームで活動。Drop7[iOS のゲーム]など)。
Wright「シムシティを作った頃(1989)、まだああいう複雑なのはビデオゲームでは無くて、あのレベルで複雑なのはボードの WarSim だけだった。Panzer Blitz とか。ルールブックが 40 頁くらいあるやつ。まあああいうのは弁護士の訓練にはいいと思うけどね。」
Moon「(Love Letter に対して)私が評価するのはなによりも単純さによるエレガンスであって、このゲームはマスターピースだ」
Moon「ゲームデザインはゲームデザイナーの仕事の一部にしか過ぎない。他のデザイナーやパブリッシャーとのネットワークを作り、自分の資金と時 間の管理も必要だ」