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帝国書院 | 高校の先生のページ 高等学校 世界史のしおり 2005年 4月号

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Academic year: 2018

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− 14 − − 15 −  世界史A教科書の分野に帝国書院が参画したの は、高等学校で授業が開始されて1年後の、1995 年であった。以来今日まで「世界史A」とともに 歩んできた一執筆者として、これまでの歩みを振 り返りながら、考えてきたことを記したい。

おもしろい教科書をめざす

 教科書を執筆することになった頃、私には二つ のことが念頭にあった。一つは、おもしろい教科 書にしたいということ、第二には、世界史教科書 の理念を明確にしたいということであった。  まず第1点についていえば、これは、高等学校 の世界史教師として約10年間、教科書に接してき た経験からきている。そこでは教科書は、すでに 歴史に興味を持っている生徒にとっては大変に有 用であった。世界史が選択科目であった間は、そ れでもよかったかもしれない。しかし今や世界史 が必修科目となった以上、教科書は、歴史に関心 を持ったことがなかった、しかも多様な生徒たち をも対象にしなければならない。このことから、 おもしろくする工夫は、極めて重要と思われた。  だが歴史書を読んで楽しいと感ずるのは、何か らであろうか。私にはその「最初の一撃」は、自 分にとっての「常識」が破られたときの「驚き」 だと思われた。歴史では、当たり前と考えていた ことが、過去、あるいは他の地域から見れば非常 識となるということにしばしば出会う。そうした 出会いでの「驚き」こそ、歴史に興味を持つ契機 となると考えたのである。教科書が多面的な「驚 き」を提供し、その一つでもが生徒たちの何らか の琴線に触れて、歴史への関心の入り口となって くれる工夫が必要だと考えたのである。

しかし、教科書は、ただおもしろければよいと いうものではない。そもそも教科書の本分は何な

のであろうか。この点については、帝国書院企画 による「全訳世界の歴史教科書シリーズ」がヒン トを与えてくれた。このシリーズを見渡すと、世 界の歴史教科書には大きく二つのタイプがあるこ とがわかる。史料と討論を重視するタイプと、基 本的事実の記述とその学習を重視するタイプの二 種である。日本の教科書の伝統は、後者の典型と いえる。それは一見無味乾燥のように見えはして も、基礎的事実の客観的な記述という点では、コ ンパクトで優れた内容を有していると思われた。 こうしたことから私は、「理念としての教科書と は、現在の日本における歴史的共通認識のエッセ

ンスを生徒に伝達するもの」と考えるようになっ

た。「現在の日本」と限定するのは、「現在と過去 との対話」(E.H.カー)という、歴史学の特質か らくる。また、これは「理念」であり、「エッセ ンス」の具体的内容に関しては、明示された絶対 的なものは存在しない。それ自体が、また探求の 対象となるという性格を有している。しかし他方、 その内容については、その手がかりは与えられて いる。たとえばこれまでの教科書や高等学校学習 指導要領、各種の世界史シリーズなど、日本におけ る様々な世界史記述の実例がそれである。執筆者 の責任は、これらの実例と自らの研究を基礎に、 「エッセンス」を抽出する努力をして、その成果

を記述することだと考えたのである。

驚きを感じてもらう具体的工夫

 私たちの教科書では、全体の構成と本文につい ては、上述した「エッセンス」の記述に重点が置 かれている。前近代では地域文化の形成と発展を 通時的に、近代以降では地球単位での世界史を共 時的に記述している(現行教科書の構成は下図)。 その際、一見開きを記述の単位として、厳選した

「世界史A」のこれまでとこれから

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− 16 − − 17 − 基本的事項の内容と意義について記述している。

また、記述の基本となる史料は必ず明示してきた。 「驚き」を感じてもらうための工夫は、主とし て特設頁や、一連のコラムなどで展開されている。 たとえば「物を通してみる」世界史シリーズは、 1995年版から設けている。また、日本との関係で 過去を見直す「世界史のなかの日本」シリーズは じめ種々のキャプションでも、今日身近にある話 題を広く取り上げてきた。カラー化するなど、ビ ジュアル性を重視したのも、その一環である。  わが国の歴史学は1970年代に大きく変貌した。 「世界史の基本法則」の追及を柱とする「戦後歴 史学」から、「社会史」への転換がそれである。 そしてその具体的成果が提供されはじめたのは、 1980年代に入ったころからであった。この「驚き」 を提供するための記述では、同時にこうした現代 の歴史学の成果を紹介することにもなっている。

現行教科書への改訂で行った新しい取り組み

 全体の構成は1970年代以後行われてきた編成を 踏襲したが、一部に手を加えた(下図ゴチック)。

 世界史Aで最も苦労してきたのは、前近代の構 成と、それをいかに近・現代に接合するかの問題 であった。今回は、2部(16世紀以後)を「アジ

アの繁栄」→アジアに向かうヨーロッパ→アジア の変動という順序に配列し、整理してみた。

 また「現在」の視点を重視した。「地球社会の

到来」(3部6章)では、1970年以降の現在の世 界について、地球規模で多元化と一体化が同時進 行している「地球社会」を記述した。それととも に、そこで強く意識されているのは、①「人間の

権利と自由の尊重」と、②「異文化理解」、そし

てそれらの上に成り立つ、③「共に生きる世界」

という三観点=未来に向けての課題である。

 「人間の権利と自由の尊重」と「異文化理解」 の問題については、本教科書のすべての記述がこ れに関係するともいえる。そのなかで人権と自由 の問題についてとくに注意したのは、各時代の具 体的様相、それを女性や子どもたちについても目 配りして記述するということであった。異文化理 解については、「物を通してみる世界史」のほか

に「クローズアップ生活・文化」を特設したし、「物

にも歴史あり」のコラムはじめ、キャプションな

どでもこうした観点から重要なものを選んでいる。 共生の模索については、とくに、1部に「南北ア

メリカ世界」と「東南アジア世界」を設定した。

両世界、とりわけ「東南アジア世界」についての 基礎知識は、今後の日本の進路を考えていくうえ で、不可欠となると考えたからである。

理想的教科書をめざして

 現在、私たちは、現行教科書の改訂に取り組ん でいる。改訂の主要点は、上でも述べた三観点を、 今まで以上に、目に見える形で教科書の構成に反

映させることにある。それによって、生徒たちが

自身の未来について考えるとき、教科書が一層役 立つものとなることを願ってのことである。  だが、理想的教科書への接近は、執筆者のみに よって達成されるものではない。教科書を使用し

て下さる先生方や生徒諸君の批判も、また極めて

重要な要件となる。現在進めている改訂では何度 も現場の先生方からの批判を仰いだが、こうした 協力関係もさらに深くし、批判をふまえて、可能 な限り理念に近づいていきたいと考えている。 (地球社会の到来)

人類・文明のはじまり 現代の世界と日本

一体化に向かう世界

ユーラシアの交流圏

ヨ ー ロ ッ パ 世 界

イ ス ラ ー ム 世 界

南 ア ジ ア 世 界

東 ア ジ ア 世 界 3部

19世紀末

16世紀 1970年以降

2部

参照

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