日本語と英語の
音声学的違い
慶應義塾大学
言語文化研究所
川原繁人
免責事項
• 私は日本語教育の専門家ではありません。
• それどころかちゃんとした(恥ずかしながら)日本 語教育の経験もありません。
• ですので、このスライドはあくまで音声学的知見の まとめです。
簡単そうで難しい問い
• 英語と日本語は音声的にどれだけ違うの?
• 一般的な見方「そりゃ、全然違うでしょ」
• 近代言語学の見方「いやいや、根本は一緒で しょ」
• 最近の私の考え「やっぱり結構違うでしょ」
• 答えはありません。
似てるけど違う音:/f/ vs. /ɸ/
• 富士山 => Mt. Fuji。つまり「ふ」は[f]?
/f/ /ɸ/
/f/ vs. /ɸ/
• /ɸ/は/f/に比べて非
常に弱い。
• 英語話者には聞こ
えないことも多い。
• 「富士山」が「う
じさん」
Time (s)
0 4.659
-0.1216 0.1349
0
Time (s)
0 4.659
0 8000
Frequency (Hz)
/f/ /ɸ/
Time (s)
0 4.659
/ʃ/ vs. /ɕ/
• 日本語の「シャ行」は英語の/ʃ/とも多少異なる (= /ɕ/)。
• 個人的な経験では、日本語の「シャ行」は音が「十 分に低くない」。(/s/と/ʃ/は、英語では摩擦の音の 高さで区別される。)
• 英語の/ʃ/は唇が丸まる。日本語を発音する時はあま り唇を丸めない方がいいかも?
Vance (2008) The Sounds of Japanese. Cambridge University Press. (p. 15)
/u/ vs. /ɯ, ɨ ???/
• 日本語の「う」も英語やフランス語の/u/に比べて口 の丸まりが少ない。
• ただし、唇で何もしないわけではない。
• 正直この母音がどんな母音なのかは正直わかりませ ん(研究すればするほどわかりません)。
Vance (2008: 55)
日本語の[t]音(EPG)
• かなり広い範囲で上顎
に接触がある。
• 英語のように舌先だけ
で作る音とは違う。
日本語と英語の比較
日本語 英語
Nolan 1992
ら行の音について
• 日本語の「ら行」は/r/なの?/l/なの?中間なの?
• おそらく、周りの環境、人によって色々変わる (Arai 2013)。
長短の区別
• 型 /kata/ vs. 買った /katta/
• 磯 /iso/ vs. いっそ /isso/
• こな /kona/ vs. こんな /konna/
• おばさん /obasan/ vs. おばあさん /obaasan/ いわゆる促音
いわゆる撥音
いわゆる長音
基本的には長さの違い
Time (s)
0 0.3
-0.6237 0.3534
0
Time (s)
0 0.3
0 5000
Frequency (Hz)
n i t o
Time (s)
0 0.3
Time (s)
0 0.3
-0.648 0.441
0
Time (s)
0 0.3
0 5000
Frequency (Hz)
n i tt o
Time (s)
0 0.3
子音自体長い(2.5倍ほど) 前の母音も長い
後ろの母音はちょっと短い
そして調音的にも強い
カタカタ カッタカタ
Prof. Yukari Hirataの研究では留学後でも、促音の習得は 難しいとか。
日本語のアクセント
• a’me (雨) vs. ame( )
• kurumade(車で)vs. ku’rumade (来るまで)
ka’rasu (HLL) koko’ro (LHL)
atama'(ga) (LHH(L)) usagi(ga) (LHHH)
• 基本的に音の高さ(ピッチ、F0 )の区別。問題になるのは高いか(H) 低いか(L)のみ。
どうせ難しいから教えない?
日本語のアクセント
基本的にLHで始まる 基本的にLHで始まる
アクセントがあるとHL
直前のHは普通のHより高い
英語のストレス
• 長さ&強さ、多くの場合、高いピッチ。
Time (s)
0 1.87
-0.4367 0.6128
0
o’ b j e c t o b j e’ k t
o’bject (noun) obje’ct (verb)
Time (s)
0 1.87
• 英語はストレスのない母音は弱化する(ə- reduction)
• 日本語を発音するときに、これをしてしまうと、訛 りが強く聞こえる。
• (逆に日本人の英語はə-reductionが足りなくて訛り の原因になってしまう)
日本語は基本的にCV言語?
• 日本語は基本的に子音の後に母音が来る。例外は
「ん」。
• 子音と子音の間に「自動的に」母音を聞いてしまう。 Dupoux et al
(1999)
ebuzo ebzo
EMA で見てみると?
/st/-cluster?
赤線:マスター 青線:ますだ
/st/は調音的には子音連続
結論
• 日本語と英語には細かい違いがたくさんある。
• ただし、近代科学技術をもってしてしか分からなかっ た違いもたくさんある。
• 果たしてそこまで細かい違いが第二言語習得で大事 なのかはわかりません。