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資産税制と「バブル」

井上智夫 清水千弘 中神康博

要 旨

1980 年代に入って上昇の兆しを見せていた首都圏の不動産価格は 1980 年 代後半になるとその勢いを増し,1990 年代に入ってそのピークを迎えると, 今度は長い期間をかけて下降局面に入っていった.そして 2000 年に入って 漸く下げ止まりの傾向を示した不動産価格は,ほとんどの地域で反転する様 相すら見せ始めている.こうした不動産市場の「バブル」の発生と崩壊の過 程を理論的・実証的に解明しようとする試みは多くの研究者によってなされ てきた.そこでは,何をもって「バブル」と見なし,そして実際に不動産市 場に「バブル」は存在したのか,「バブル」が存在したとして,なぜ不動産 市場に「バブル」は発生したのか,なぜ不動産市場の「バブル」は崩壊し, その調整にこれほどまでに長い時間を要したのか,といった問題が議論され ている.

本稿は,「バブル」の貨幣的な側面ではなく,住宅資産税制ならびに土地 利用規制などによる住宅供給への影響などに着目しながら,首都圏という空 間的な住宅市場のダイナミックスについて理論的・実証的に分析することを 目的としている.

(2)

2007 年までの「バブル」生成期とその崩壊過程を含む 22 年間のデータから, マンション価格指数,およびそれと比較可能なマンション家賃指数を首都圏 の市区別に作成し,首都圏における空間的な住宅市場の効率性と「バブル」 の存在について検証を行った.第 2 に,「バブル」の生成から崩壊,そして 今日に至るまで,マンション価格がゆっくりとした周期性をもって推移した 理由を解明するために,住宅市場の構造モデルによるシミュレーション分析 を試みた.そして,住宅市場の「バブル」の生成と崩壊の過程が,住宅に対 する投機的な動機と価格に対して非弾力的な住宅供給という 2 つの要素に起 因するのではないかというヒントを得た.そこで第 3 番目として,シミュ レーション分析によって示唆される点を検証するために,住宅価格に投機的 な動機が反映されるのかどうか,また住宅供給の価格弾力性は土地利用規制 と資産税制に影響を受けるのかどうか,これらの点について市区レベルの データを用いて実証的な分析を試みた.これらの実証結果を通じて,1980 年代の不動産市場における「バブル」の生成と崩壊に,資産税制と土地利用 規制が大きく関わっていることが示された.

(3)

1

はじめに

日本の資産税制は,借地借家法や土地利用規制と相まってしばしば土地の

有効利用を阻害してきたといわれる1).その結果として,とくに首都圏の地

価は世界の大都市と比較しても高い水準にある.しかしそれは価格水準だけ

の問題ではない.図表 10 1 の 1 都 3 県のマンション価格指数2)の推移を見

ると,1980 年代に入って上昇の兆しを見せていた地価は 1980 年代後半にな るとその勢いを増し,1990 年代に入ってそのピークを迎えると今度は長い 滑り台を滑り落ちるかのように下降局面に入っていった.そして 2000 年に 入って漸く地価は下げ止まりの傾向を見せ,ほとんどの地域で反転する兆し も現れ始めている.なぜ地価の調整にこれほどまでに長い時間を要したので あろうか.資産税制は土地利用の制約のもとで不動産市場の「バブル」の生 成と崩壊にどのような影響を及ぼしたのだろうか.これらの点を明らかにす ることが本稿の目的である.

今回のいわゆる「バブル」の特徴の 1 つとして,それが首都圏など大都市 圏に集中していたことがあげられ,なかでも商業地の地価の高騰が引き金に なったといわれている.この現象が日本だけでなく世界中の大都市で観察さ れたという事実からも,国際金融のグローバリゼーションのなかで生じた出 来事であったことは間違いない.また国内においても金融緩和は国際競争力 の高まりによって生じた円高傾向を抑制するために必要なことであった.し かし 1985 年の「プラザ合意」以降円高が急ピッチで進み低金利の状態が長 く続いたことから,不動産市場に流れたマネーは投機的な需要を刺激しなが ら土地や株式など資産価格の高騰を招くことになった.

1) 日本の資産税制を含む土地問題を包括的に理解するのに,野口[1989],西村[1995],八田 [1988]などが有益である.

(4)

他方「地価バブル」を語るうえで人口・世帯構成の影響も見逃せない.民 間の調査によれば,持ち家の購入時期は 35 歳から 40 歳にかけての世代だと いわれているが,まさにその世代の世帯数が 1985 年代から 1990 年代にかけ て大幅に増加し,持ち家に対する潜在的需要が持続していたことも事実であ る.首都圏における新規着工戸数を見ると,地価の急騰と歩調を合わせるよ うに貸家の着工戸数が増大し,いわゆる「バブル」の崩壊とともにその着工 数も大幅に減少の一途をたどる.しかし,分譲住宅の着工戸数は「バブル」 が崩壊した 1990 年代初頭は一時的に減少したものの,その直後から一気に

回復して堅調な動きを見せている(図表 10 2).

これらの観点から,「バブル」といわれた時期に土地に対する需要をもた らした要因として大きく 2 つの点があげられよう.1 つは金融緩和のなかで 首都圏を中心とするオフィス需要の増加とともに借家に対する需要が増加し

千葉 140 120 100 80 60 40 20

1986 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 埼玉

140 Median 120 100 80 60 40 20

1986 88 90 92 94 96 98 2000 02 04

(年) (年)

(年) (年) 06

神奈川 140 120 100 80 60 40 20

1986 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 東京

140 120 100 80 60 40 20

1986 88 90 92 94 96 98 2000 02 04 06 0.25, 0.75 Quantiles

(5)

た点である.これは土地所有者にとっては投資目的として格好の機会になっ たと思われる.もう 1 つは首都圏で持ち家住宅購入時期を迎える世代が 1980 年代後半から 1990 年代にかけてピークを迎えていたことである.持ち 家住宅購入者にとっては地価が高騰を見せるなかで消費財としての側面もさ ることながら,投資財としての側面がより重要となっていたと思われる.し かも,分譲住宅の新規着工戸数は,バブル崩壊で大幅に落ち込んだものの, それ以降も地価が下落するなかで増え続けている.こうした 2 つの流れが土 地に対する需要を増加させた.

この状況は土地の有効利用を図ろうとする一部の地主にとっては格好の機 会となったに違いない.しかしその一方で,供給が需要に追いつかなかった 可能性もある.なぜなら,資産税制と土地利用規制によって土地利用が阻害 されていたからである.不動産の投資的な側面に注目が集まりながら土地の 有効利用はいっこうに進まず,そのためにゆっくりとしたスピードで「バブ ル」の崩壊が進行していったのではないだろうか.

本稿は,以下の点を問題にしている.まず第 1 に,不動産市場は効率的か という点である.欧米の文献によれば,不動産価格は系列相関をもち,しか も平均回帰的な性質をもつといわれるが,はたして同じことが首都圏の住宅

70 (万戸)

60

50

40

30

20

10

0

1975 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 2001 03(年) 分譲住宅 給与住宅 持家 貸家

図表 10 2 住宅着工戸数の推移

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市場についてもいえるのかという点である.そこで,リクルート『週刊住宅 情報』に掲載された 1986 年から 2007 年までの「バブル」生成期とその崩壊 過程を含む 22 年間のデータから,マンション価格指数およびマンション賃 料指数を作成し,検証を行った.第 2 に,「バブル」の生成から崩壊,そし て今日に至るまで,住宅価格が図表 10 1 のようなゆっくりとした周期性を もって推移したのはなぜかという点である.近年の住宅市場の構造モデルに よるシミュレーション分析から,そのような現象が住宅に対する投機的な動 機と住宅供給が価格に対して非弾力的であることに起因するのではないかと いうヒントを得た.もしそうであるのならば,資産税制と土地利用規制は Backward Looking な期待形成や住宅供給の価格弾力性に対してどのような 影響を及ぼしているのか,これが 3 番目の問題である.

本稿の構成について説明しておこう.次節ではまず資産税制と土地利用に ついて「バブル」の生成と崩壊の時期を念頭に置きながら概観する.第 3 節 では首都圏の不動産市場の効率性について分析する.第 4 節では不動産価格 にバブルが生じたり,不動産市場が周期的な動きを見せる原因について,シ ミュレーション分析をもとに論ずる.そして,第 5 節では首都圏の不動産市 場において資産税制と土地利用規制が「バブル」の生成と崩壊にどのように かかわったのか,その点について実証的な検証を試みる.そして最後の第 6 節でまとめを行う.

2

資産税制と土地利用

2.1 資産税制とファンダメンタルズ 不動産のファンダメンタルズ

土地や住宅などの不動産は,消費財としての側面と投資財としての側面が ある.不動産を所有しそれを利用することによって地代や家賃というかたち で収益を得ることができる.これは消費財としての対価である.加えて所有 権の売買を通じてキャピタルゲインを得ることもでき,これは投資財として

の対価である.t期の期首において 1 単位の不動産を購入し,1 年後にその

土地を売却するケースを考える.議論を簡単にするために土地の売買には取

(7)

それをt期中所有し利用したことによるレントをRとし,レントはt期の 期首には知らされているが支払いは期末に行われるとする.投資の対象には 不動産だけではなく銀行預金,株式,債券などが含まれるが,簡単化のため

に不動産と代替的な関係にある金融資産のt期における収益率をiとする.

このとき,短期の資産市場均衡条件は,

R+ (P−P)

P

=i (10.1)

である.左辺は不動産を 1 年間所有し売却したときの収益率で,分子の収益 は不動産を利用して得られるレントとキャピタルゲインの和である.他方, 右辺は金融資産を 1 年間所有したときの収益率である.資産市場が短期に均 衡するための条件は,不動産に投資したときの収益率と金融資産に投資した ときの収益率が等しく,投資家にとって両者への投資が無差別になっている

ことである.(10.1)式から,t期の期首における不動産価格はレントと次

期の不動産価格を利子率で割り引いた値に等しくなる.すなわち,

P=

R+P

1 +i (10.2)

である.(10.2)式は,不動産価格の現在価値関係(PVR)と呼ばれている. さらに,不動産とその代替資産である金融資産をそれぞれ将来にわたって 所有し続けることが無差別になるような不動産価格を求めるためには,短期 の資産均衡条件が将来にわたって成立していると仮定して解けばよい.その

結果,t期の期首における不動産価格は将来にわたるレントの流列の割引現

在価値の総和に等しくなる.このようにして求められる長期均衡価格はファ ンダメンタルズと呼ばれる.

資産税制がファンダメンタルズに及ぼす影響3)

前節では不動産所有にともなう収益のみを考えたが,実際には費用も考慮 すべきである.不動産を 1 年間所有してそれを利用することの 1 円当たりの

(8)

費用を示す概念として資本コスト(uc)がある4).資本コストは不動産価格

と不動産レントを結びつける概念で,均衡においては

R=ucP

という関係がある.左辺は不動産レントで,右辺はその不動産を所有して利

用することによる費用である5).費用のなかには減価償却や維持費用なども

含まれるが,ここでは資産税制のみを考える.この資本コストの概念を用い ることにより,資産税制が土地・住宅の資本コストを介して不動産価格にど のような影響を及ぼすかについて分析できる.

まず所得税について考える.日本では持ち家の帰属家賃は所得税の対象と ならないのに対し,貸家からの不動産所得は所得税の対象である.一方,持 ち家の場合住宅ローン返済は所得課税ベースから控除されないのに対し,貸 家の場合には経費として控除できる.したがって,所得税による土地・住宅 の資本コストへの影響は明らかではない.固定資産税は資産保有税であり, 固定資産評価額に基づいて課税標準が決定され,税率をかけて税額が決まる. 固定資産税の実効税率は 0.8%にも満たないとされており,資本コストを引

き下げ,不動産価格の水準を引き上げる結果となっている6).譲渡所得税に

ついても固定資産税と同様に,負担が小さいほど不動産価格の水準を引き上 げる.相続税の課税評価額は金融資産の場合市場価格で評価されるのに対し, 不動産については市場価格よりもかなり低く評価されており,金融資産で相 続するよりも不動産で相続する方が相続税の負担は小さくなるといわれてい る.これによって土地・住宅の資本コストが引き下げられ,不動産価格の水 準を引き上げる原因となっている.

このように資産税制は土地や住宅の負担を抑制する方向に作用し,そのこ とで土地・住宅の資本コストを引き下げ,不動産価格の水準そのものを引き 上げている可能性がある.しかし,本稿はむしろ,資産税制が不動産価格の

4) 資本コストの概念については岩田・鈴木・吉田[1987],中神[1992],石川[2001]を参照された い.

5) 資本コストを計算する際には,費用からキャピタルゲインの期待分を差し引く必要がある. 6) 2000 年評価替え以降,固定資産土地の決定価格は公示地価の 7 割として評価される.さらに,

(9)

水準に及ぼす影響よりは資産税制が不動産価格の変化率に及ぼす影響の方に 関心がある.

2.2 土地利用がもたらす歪み

資産税制が土地利用に及ぼす直接的な影響を考察する前に,土地の有効利 用を阻む制度的・歴史的な制約を整理しよう.ここでは 1921 年に制定され 土地と住宅の賃貸借市場を長い間歪めてきたといわれる借地借家法,大規模 な土地開発を阻む細分化された所有権の問題,そして法定容積率を使い切れ ずにいる低度利用の土地の存在,これらの問題について考える.

借地借家法

借地借家法はわが国の土地と住宅の賃貸借市場を長い間歪めてきたといわ れる.その理由として 2 つの点が指摘されている.1 つは,よほどのことが ないかぎり地主あるいは家主による賃借人に対する立退き要求は認められな かったという点である.裁判においてもいったん彼らとの間で賃貸借契約が 結ばれると強力な正当事由がなければ解約できないとした.このような状況 のもとでは,地主は土地を借地にしたり,アパート経営に踏み切ったりする ことには二の足を踏まざるをえない.その結果,本来なら借地あるいは借家 として利用されるべき土地が低度利用のままなかなか市場に出てこないとい う状況が生まれる.もう 1 つの理由は,弱者保護の観点から判例に基づいて 継続家賃が抑制されるようになり,いわば家賃統制という性格をもったこと である.そのために借家に対する投資意欲はそがれ,維持管理が手薄となり, 古くなった借家が長い間借家市場に残ってしまう.さらに継続家賃が抑制さ れることで借家の収益率は下がり,投資目的として供給される回転率の高い ワンルームマンションは別として,ファミリー向けの質の高い借家などはな かなか供給されることはなかった.こうした 2 つの理由から土地と住宅の賃 貸借市場は歪められ,土地の有効利用が阻まれてきたのである.

(10)

は契約期間が満了となれば契約を終了することが可能となった.これによっ て,定期借家制度導入を盛り込んだ新たな定期借家法が 2000 年 3 月から施 行されるに至り,そして 2001 年の借地借家法の改正として結実する.この とき争点となったのは,定期借家のもとでは弱者は保護されないのではない かという懸念である.しかし経済学者の間では,定期借家の導入によって住 宅市場に競争的なメカニズムが働き,賃貸住宅供給の増加が見込まれ,家賃 は低下するという主張が多かった.逆にいえば,従来の借地借家法のもとで は借家人保護に力点が置かれ過ぎたために,土地と住宅の賃貸借市場が薄く なってしまい,価格の十分な調整を期待することはできなかったのである. 2001 年に借地借家法が改正されたものの,現在も旧借地借家法のもとで契 約された住宅が混在する状況にあり,「バブル」の生成から崩壊,そして今 日に至るまで借地借家法の存在が住宅市場のダイナミックスに大きな影響を 及ぼしたことは間違いない.

細分化された所有権7)

土地と住宅の賃貸借市場おける借家人保護の考え方に加えて,戦後の農地 解放によって生まれたとされる細分化された土地に対する所有権もまた土地 の有効利用を阻む大きな障害となっている.小規模な土地を集約して大規模 な開発が行われさえすれば,土地の有効利用は大幅に改善される.しかしそ

れを阻む法的な要因として以下のような点が指摘されている8).第 1 に補償

の問題である.開発前の土地の権利と開発後の土地の権利をめぐって折り合 いをつけるのに長い時間を要し莫大な費用がかかってしまう.たとえば近年 都心部で進められている都市再開発の場合でも,プロジェクトの企画から完 成に至るまでに数十年の年月がかかることさえあるといわれている.第 2 に, 建て替えや地震等の不測の事態に直面したとき,どのようなかたちで賃借人 や地権者との間で権利を配分するのか,事前明記にしておく必要がある.ま た賃貸事業などの場合,証券化による手法も考えられるが,借家人との間の 権利関係は依然として明確にされているわけではない.こうした法的な環境 整備の遅れが狭小な土地の集約化を図る障害になっているという.

(11)

また,資産税制が土地の所有権の細分化を助長しているという側面も見逃

せない.たとえば,200m2未満の小規模宅地の場合,固定資産税と都市計画

税の評価がそれぞれ 6 分の 1,3 分の 1 に減額されるという措置がとられて いる.

しかし一方で,土地利用の不確実性が土地のオプション価値に影響を与え る点も見逃すことはできない.近年の都心再開発に見られるように,いった ん大規模な開発が実現すれば土地の価値は一気に上昇する.したがって将来 開発が期待されるならば,狭小な土地であっても土地の値段が安くなるわけ ではなく,よって地主はなかなか土地を手放すインセンティブをもたない. Kanoh and Murase[1999]は,リアル・オプションの考え方を発展させて複 数の土地利用があるときに将来に対する不確実性が地価を上昇させる可能性 があることを示し,1980 年代後半のバブルの生成と崩壊がオプションに よって説明できるとした.

土地利用を妨げるさらなる制約9)

土地利用の実態を説明する際にしばしば注目されるのが法定容積率に対し てどれだけ実際に利用されているかというデータである.東京都で毎年刊行 されている「東京の土地」に,指定容積率に占める概算容積率の割合が示さ れている.「バブル」期の発生前から崩壊後にかけてその割合は上昇の傾向 にあったが,依然として低い水準にあるといってよい.その要因として,こ れまでに述べた借地借家法や細分化された土地の所有権,さらには次節で取 り上げる資産税制の影響も考えられるが,都市計画による土地利用規制によ る直接的な影響も無視できないであろう.日本の都市計画は,道幅の広い道 路に沿った土地は比較的土地の有効利用が進むが,幅 4 メートル以下の道路 に接している狭小な土地が非常に多い.そのことが法定容積率を使いきれな いまま低度利用され,なかなか土地の有効利用が進まない要因となっている. また,都心部における日照権についても過度に保護される傾向があり,ここ でも土地の有効利用を妨げる一因となっている.

(12)

2.3 資産税制がもたらす歪み

次に資産税制が土地利用に対してどのような直接的影響を及ぼしているか を考えてみよう.ここでは,固定資産税の土地利用阻害効果,土地譲渡所得 課税による開発の凍結効果,相続税の世代間に生ずる土地利用阻害効果につ いてまとめる.

固定資産税の土地利用阻害効果

固定資産税は住民税と並び市町村税として重要な税収となっている.税率 は上限を 2.1%としてほとんどの自治体で標準税率の 1.4%が採用されてい るが,先述したとおり固定資産税の実効税率はかなり低い水準にあり,不動 産価格のファンダメンタルズを引き上げる結果となっている.地主にとって は固定資産税の負担が小さいので,土地の有効利用を図るインセンティブが 弱まり,土地に対する資産需要を高める結果となっている.

また,土地に対する固定資産税は土地の供給が価格に対して非弾力的であ る場合には超過負担は発生せず効率的であるといわれるが,その負担はすべ て地主に帰着する.それに対して,家屋に対する固定資産税は家屋の供給が 価格に対して弾力的である場合には,消費者価格が固定資産税の分だけ上昇 することによって超過負担が発生し,その負担は利用者に帰せられる.家屋 に対する固定資産税は資源配分を歪めるので,固定資産税は土地のみに課せ られるべきだという意見はエコノミストの間で多い.

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土地譲渡所得税の凍結効果

土地譲渡所得税もまた土地の有効利用を阻害する.土地譲渡所得税は土地 を売ったときに売却額と購入額との差,すなわち実現したキャピタルゲイン に対して課税され,売却しなければ課税されることはない.したがって土地 の売り惜しみという現象がおこり,農地から宅地への転用など土地利用の転 換を抑える効果があるといわれる.この現象は土地譲渡所得税の凍結効果と

呼ばれている(詳細は山崎[1992],金本[1994b]を参照されたい).しかし,こ

の凍結効果はそれほど自明ではないということが金本[1994b]によって明ら かにされている.

彼らは凍結効果を分析するために次のような状況を考えた.いま農家が農 地を所有し,今期に農地を売却するか,それとも来期に売却するかを考えて いるものとする.農家が今期に売却したときに得られる収益は売却益から土 地譲渡所得税を引いたもので,また来期に売却をしたときに得られる収益は 今期の農地地代と来期の売却益から土地譲渡所得税を引いた額の合計である. この両者が等しくなるとき,今期と来期のいずれかで売却しても無差別にな る.

次に宅地利用者が農地から住宅地に土地利用の転換を図られた土地を今期 購入するか,それとも来期に購入するかを考えているものとする.今期と来 期それぞれの期に購入したことによる追加的な便益を比較すると,今期に購 入したときの追加的な便益は住宅地地代と今期から来期にかけてのキャピタ ルゲインであるのに対し,来期に購入を延ばしたときの追加的な便益は今期 に必要とされた購入額に対する機会費用としての利子費用と土地譲渡所得税 を 1 期遅らせることによって生じた減少分である.この両者が等しくなると き,今期と来期いずれかで土地を購入しても無差別となる.

農家と住宅地の利用者が来期の地価に対して同じ期待をもつとすれば,農 家にとって今期の土地を売却しようがしまいが無差別となる条件を導出する

ことができる(金本[1994b]の(7)式).それによれば,土地譲渡所得税が凍

(14)

のときは必ず凍結効果が生じ,無限に保有し続けるということであれば,あ る条件のもとでは逆凍結効果が生ずる可能性がある.

相続税の土地利用阻害効果

第 2.1 項でも触れたように,相続税の課税標準は,金融資産は市場価格で そのまま評価されるのに対し,不動産の場合は市場価格よりもかなり低いと されている.そのことで住宅の資本コストを引き下げ,不動産のファンダメ ンタルズを引き上げているという指摘がある.もし金融資産,不動産いずれ も市場価格によって評価されるとすれば,資本コストには相続税による歪み は生じない.したがって相続税の課税標準を決める際の金融資産と不動産の 差別の解消は不動産価格のファンダメンタルズを引き下げる可能性がある. Yamazaki[1999]は不動産の方が金融資産よりも有利であるという先と同 じ理由から,世代間で土地利用に歪みが生じることを以下のようなモデルを 用いて説明している.各期には老年世代と若年世代が共存し,各世代は次世 代への相続を考えている.相続をする場合,金融資産で遺すか,それとも土 地で遺すかを決めなければならない.次世代に必ず相続することになる老年 世代にとっての資産市場均衡の条件は金融資産で遺すことと土地で遺すこと が無差別になっており,そこから老年世代の土地に対する需要価格が求めら れる.一方,若年世代が次世代に相続しなければならない状況になった場合 でも金融資産と土地の間で無差別になっていることが資産市場均衡の条件と なり,そこから若年世代の土地に対する需要価格が求められる.均衡におい ては両者の土地に対する需要価格は等しくなければならず,その条件から老 年世代と若年世代の地代のギャップは相続を土地で遺すときの評価率に依存 することがわかる.

(15)

に対する需要の高まりが地価を上昇させているといえるだろう.

2.4 相続税・譲渡所得税の節税効果

相続税と譲渡所得税はいずれも土地利用阻害効果をもつことが示された. 土地利用を阻害することで住宅供給を非弾力的なものとする.しかし,それ だけではない.相続税と譲渡所得税は,供給価格を市場価格から大きく乖離 させることによっても,市場への土地供給を阻害している.金本[1994a]は 現在の税制を前提にして大規模な農地の所有者と宅地の所有者が,土地を相 続していくときに,土地所有者の供給価格が市場の何倍になっているかを簡 単な計算から求めている.

いま,都市近郊に農地を所有している農家が,市場価値 1 億円の所有地の 一区画を売却するかどうかを考えているとしよう.売却しない場合は孫の代 まですべての所有地を相続し続け,25 年後に子供への,そして 50 年後に孫 への相続が起きることとする.土地を売却した場合にはその売却による収入

を実質利子率 100π%で金融資産として運用する.議論を簡単にするために

実質地価上昇率は金融資産の実質利子率 100π%に等しいものとする.また,

相続税の評価率をβ,相続税率をτ,土地譲渡所得税率をτとする.

ここで 3 つのケースを考える.第 1 は子供が死んで孫が相続するまで生産 緑地にしておくケースである.この場合,孫が相続するまで相続は発生せず,

相続税と土地譲渡所得税を支払った後に孫の手許に残るのは,(1+π)

(1

βτ)(1−τ)億円である.第 2 は,この土地を宅地にしてそのまま遊休地と

して保有し続け,孫の代で売却するケースである.宅地にするので子供への 相続の際にも相続税がかかるのでそれを土地の切り売りで賄うことにすると,

孫の代で残りの土地を売却して孫の手許に残るのは,(1+π)(1βτ)

(1

τ)億円である.さらに,第 3 は現時点で土地を売却し,金融資産として相

続していくケースである.この場合,現時点で譲渡税がかかり,子供への相 続と,子供から孫への相続の際に相続税がかかるので,孫の手許に残るのは

(1+π)(1τ) (1

τ)億円である.

(16)

ればよいので,その値はそれぞれ(1−βτ)(1−τ) 

(1−βτ) 

(1−τ) 

となり,生産緑地として保有した方が遊休地として保有するよりも有利であ ること,また相続税率が高いほど,また土地の評価率が低いほど,生産緑地, 遊休地いずれの場合でもその値は大きくなることがわかる.

以上の議論は農家以外のケースにも適用可能である.低度利用している土 地 1 億円を子供が相続する場合,相続前に土地を売却して金融資産として相

続したときに子供の手元に残る額は(1+π)

(1τ)(1−τ)億円である.そ れに対して,相続と同時に土地を売却したときに子供の手元に残る額は

(1+π)

(1−βτ)(1−τ)億円である.したがって,この地主に土地を売却

させるためには(1−βτ)(1−τ)倍の額を提示しなければならない.また,

孫の代まで土地を相続していく場合と現時点で土地を売却して金融資産とし て孫に相続する場合は,先の例でそれぞれ第 2,第 3 のケースに相当し,こ の地主に(1−βτ)

(1−τ)

倍の額を提示しなければ土地を売ってはくれ

ないことになる.いずれの場合も相続税の土地評価率が低いことが理由と なって,土地の供給価格を押し上げる.しかも,土地を代々にわたって相続 した方が地主にとっては有利となり,土地の需要者からすればより多くの額

を提示しなければ土地を購入することができないのである10)

3

効率性の検証とバブルの存在

前節では資産税制と土地利用が土地の有効利用を阻害させる要因になって いることを見た.本節では,不動産市場は短期的に効率的であるか,長期的 にはどうか,さらに不動産市場にバブルは存在したのか,これらの点につい て 1 都 3 県の市区別の時系列データを用いて検証を行う.不動産市場が効率 的であるかどうかは,不動産市場のダイナミックスを理解するうえできわめ て重要である.

3.1 効率性テスト

不動産市場が効率的であるなら,不動産価格に市場の情報がすべて反映さ

(17)

れるはずだから,期待収益率は系列相関をもたない.このことを確かめるた めには期待収益率を過去の収益率に回帰させ,その係数がすべて 0 になるか どうかを調べればよい.被説明変数の過去の情報を用いて分析する方法は弱 度の効率性テストと呼ばれ,一方説明変数に被説明変数の過去の情報だけで なく市場参加者に公開されているそれ以外の情報も含まれるとき準強度の効 率性テストと呼ばれる.

不動産市場の効率性テストには多くの文献があるが,なかでも Case and Shiller[1989]と Abraham and Hendershott[1992]は重要である.すでに Case and Shiller[1988]は,住宅の購入者が必ずしも合理的な期待形成のも とで意思決定をしているのではなく,過去に不動産価格が上昇しているとき はさらに上昇し続けると予想し,過去に引きずられるという Backward Looking な期待形成に基づいて意思決定を行っているという結果をアンケー ト調査から得ていた.そこで,Case and Shiller[1989]は住宅価格指数を自 ら作成したうえで収益率について系列相関をもつことを実証的に示した.さ らに Abraham and Hendershott[1992]は,収益率の上昇はいつまでも続く わけではなく,いつしか収まってファンダメンタルズに回帰していくという

いわば平均回帰的な動きを見せることを実証的に示した11)

本節では,時系列解析を用いて住宅市場の特徴を統計的に整理することに する.しばしば指摘される住宅市場の特徴は,収益率の系列相関と平均回帰 的な動きである.そこで以下では,これらの特徴を,短期と長期に分けて検 証を行う.

3.2 住宅市場の効率性 データ

本節では Meese and Wallace[1994]にならって,マンション価格指数とマ ンションの家賃指数から効率性テストを行う.マンション価格指数は 1986 年第 1 四半期から 2007 年第 4 四半期までの 22 年間にわたるリクルートの

データによって作成し12),東京都区部の消費者物価指数(持ち家の帰属家

賃を除く総合指数)によって実質化した.マンションの家賃指数についても

(18)

同時期のリクルートのデータに基づいて作成されている.ただし,リクルー トから提供された家賃データは月額であったため,以下の分析においてはマ ンション価格と整合性をとるために四半期データに変換した.いずれも単位

は 1 m2当たりの価格である.また資本コストは,都市銀行の貸出約定平均

金利から名目家賃指数で計算した期待インフレ率を引いたものを用いた.市 区によっては分析期間初期の家賃指数が大幅に変動しており,このことが期 待インフレ率および資本コストの計算に悪影響を及ぼすことが懸念されたの で,次善の策として中心化 4 期移動平均によって名目原系列の値を平準化し て用いた.なお,期待インフレ率の計算に完全予見を仮定したため標本期間 が 1 年間短くなっている.

短期的な性質

マンション購入の四半期期待収益率を次のように定義する.

ErΩ] =

E[P+RΩ]P

P

ここで,Pは時点tにおけるマンションの実質価格,Rは時点tにおける実

質マンション家賃,Ωは時点tに入手可能な情報集合である.まず,住宅

の資本コストucが一定である場合を仮定して,収益率の系列相関を検定す

る.収益率に系列相関が見られれば,収益率は予測可能である.そこで,市 区ごとに,マンションの収益率について 3 期自己回帰モデル:

r=β+βr+βr+βr+ε

を推計し,3 期すべてのラグ係数の同時除外仮説(H:β=β=β=0)を F

検定によって検証した(テスト 1).取引データが少ないために指数が計算 できない地域,あるいは標本期間中に数回しか取引データが存在しなかった 地域などについては分析対象から除外した.最終的な地域数は 72 である. 原系列の標本数は 88 期間であるが,収益率の計算によって 1 期間分が,ま

(19)

た 3 期自己回帰モデルによって 3 期間分短縮されるため,回帰分析の標本数 は 84 期間である.したがって F 検定の分子と分母の自由度は(3 80)であ る.

テスト 1 の概要を図表 10 3 にまとめた.それによれば 72 地域のうち,そ の 7 割以上の 52 地域において同時除外仮説を棄却し,系列相関の存在を示 唆する結果となった.特記すべきは,千代田区,北区,荒川区を除く 23 区 や横浜市,川崎市などにおける検定統計量は 1%水準でも有意な値となった 点である.これに対して,同時除外仮説を棄却できなかったのは比較的都心

から離れた 20 地域であった13).以上をまとめると,首都圏の 7 割の市区に

おいて系列相関の存在は否定できず不動産市場が短期的には予測可能である こと,また他方で,都心から離れた地域においては収益率に系列相関が存在 しないことから不動産市場の価格形成が効率的であること,以上の 2 点が確 認できた.

次に時変的な住宅の資本コストのもとで,不動産市場の効率性を検証する. まず期待収益率と資本コストの関係から

e=P+RP(1 +uc) (10.3)

なる予測誤差とデータ間の関係を導出できる14).テスト 1 ではマンション

投資の収益率rを自らのラグで予想するモデルを推計し係数の同時除外仮

説を検定したが,ここでは(10.3)式で定義された予測誤差eの予測可

能性を吟味することで市場効率性を検証する.具体的には

13) 具体的には,狭山市,蕨市,入間市,北区,立川市,青梅市,昭島市,町田市,小金井市, 小平市,日野市,東村山市,清瀬市,稲城市,横須賀市,鎌倉市,厚木市,大和市,海老名市, 座間市の 20 の市区である.

14) この関係の導出については Meese and Wallace[1994]を参照されたい. 図表 10 3 テスト 1 の概要

1%水準以下 5%水準以下 10%水準以下 F 統計量の臨界値 4.036 2.719 2.154

該当する市区数 38 45 52

(20)

e=β+βe+βe+βe+ε

において,3 期すべてのラグ係数の同時除外仮説(H:β=β=β=0)を F

検定を使って検証する(テスト 2).

検定結果の概要を図表 10 4 にまとめた.同時除外制約を棄却した地域は 60 市区で,テスト 1 の結果よりも 8 地域増えたが.都心や主要都市におい て棄却する傾向はテスト 1 の結果と同様であった.したがってテスト 2 にお いても,1 都 3 県の市区のうち 8 割以上の地域において系列相関の存在は否 定できず,よって住宅市場の価格形成が効率的ではないことが示唆される結 果となった.他方で,同時除外制約が棄却できなかった市区は 12 の地域で

ある15).これらの地域においては,価格形成が効率的であることになる.

さらにテスト 2 では,eの予測可能性の検証に加え,RESET を用いて関

数形に定式化の誤りがないかについても確認した.これは,系列相関の存在 が,モデルの定式化の誤りに起因する可能性を確認するためである.RE-SET とは定式化が重要な非線形性を見過ごしていないかを検証するテスト

であり,テスト 2 の回帰式から推定した予想誤差の予測値eの 2 乗項と 3

乗項をテスト 2 の回帰式に追加した次の式

e=β+βe+βe+βe+γe+γe

 +v

を再推計し,予測値の非線形項の係数の同時除外性(H:γ=γ=0)を F

15) 具体的には,上尾市,我孫子市,青梅市,昭島市,町田市,小平市,清瀬市,稲城市,横須 賀市,鎌倉市,厚木市,海老名市の 12 の都市である.

図表 10 4 テスト 2 の概要

1%水準以下 5%水準以下 10%水準以下 F 統計量の臨界値 4.036 2.719 2.154

該当する市区数 49 54 60

注) 総数は 72 市区.10%水準で有意でなかった市区数は 12.

図表 10 5 RESET の概要

1%水準以下 5%水準以下 10%水準以下

該当する市区数 10 16 23

(21)

検定によって検証するものである.検定結果は図表 10 5 のとおりである. それによれば,一部の地域には非線形性を考慮する余地が残されているが, サンプル全体としては定式化に問題はないと思われる.

長期的な性質

テスト 1 とテスト 2 は,いずれも短期的な収益率の予測可能性に着目して 住宅市場のダイナミックスを分析したものであり,これらのテストを通じて 住宅市場は短期的には予測可能で効率的ではないことが確認できた.しかし その一方で,ラグ次数の回帰係数を合計した値が 1 よりも有意に小さいこと から,予測誤差は定常的であろうことが示唆される.

そこで最後に,指数間の長期的な関係に着目した市場効率性の分析を行う. まず第 1 段階として,個別の指数が定常過程に従うのか,それとも非定常過

程に従うのかを単位根検定を用いて検証する.もしもPRucがすべて

定常性を満たすのであれば,その線形結合として表される予測誤差eも定

常過程である.よってテスト 2 で推計した回帰式の係数の合計値(β+β+

β)の絶対値が 1 よりも小さく,平均回帰的となることは必然である.しか

しながら,もしもPRucが非定常であるならば,これらの線形結合は

通常,定常にはならない.例外は,(10.3)式で表される変数間の関係が長 期的には互いに均衡関係にある場合であり,これを共和分と呼ぶ.そこで以 下では,変数の非定常性を確認し,その後に共和分関係の存在について検証 することにする.

分析の対象となる指数の原系列が定常か,あるいはその階差系列が定常か

を,t統計量に基づく ADF(Augmented Dickey-Fuller)検定で検証する.

(22)

本来であれば市区ごとに異なる組み合わせを許容すべきだが,これによっ て結果の解釈が煩雑になるよりも指数ごとの特徴を大局的にとらえる方が重 要と考えた.そこでまず,すべての市区について 3 通りの組み合わせで検定 を行い,系列ごとにもっとも適切と思われる外生変数の組み合わせを 1 つ選 択した.具体的な組み合わせは図表 10 6 のとおりである.最終的な単位根 検定は,市区ごとの適正よりも全体的な当てはまり具合に重点を置き,これ らの組み合わせで行った.

分析期間は 1986 年第 1 四半期から 2007 年第 4 四半期までの 88 期間であ る.実質価格指数,実質家賃指数,および資本コストについて,市区ごとに 単位根の存在を検定したところ,いずれの指数においてもおおむね原系列の 非定常性が確認できた.

各指数の原系列が非定常であることが確認されたので,ここでは変数間に 共和分関係が成立するか否かを検証してみよう.(10.3)式で定義される予

測誤差eについて,Dickey-Fuller 検定を実施する(テスト 3).結果は図表

10 7 にまとめてある.これによれば,長期的には共和分関係の存在が示唆 される結果となった.これらの結果から類推できることは,不動産市場価格 は短期的 PVR が成立しないものの,長期的 PVR は成立している,という ことであり,首都圏における市区別価格指数から得たこれらの結論は,サン フランシスコ近郊の 16 市を分析した Meese and Wallace と同様であった.

3.3 バブルの存在

ところで,バブルそのものを定義することはあまり意味がない.なぜなら

図表 10 6 単位根検定と外生変数の組み合わせ

y 原系列(y) 階差後(∆y)

実質価格指数 時間トレンドと定数項 定数項なし

実質家賃指数 定数項のみ 定数項なし

資本コスト 定数項のみ 定数項なし

図表 10 7 テスト 3 の概要

1%水準以下 5%水準以下 10%水準以下

該当する市区数 68 72 72

(23)

ファンダメンタルズから乖離している部分とはいえ,ファンダメンタルズそ のものを定義すること自体容易ではないからである.Stiglitz[1990]がバブ ルについて叙述した文章はしばしば多くのエコノミストによって引用されて いる.「今日の価格が高いのは投資家が明日の売値も高くなると信じている とき,それだけの理由だとすれば,換言すればファンダメンタルズの要因だ けではそのような価格を正当化できないとき,そのときにのみバブルは存在 する」.また,Case and Shiller[2003]もバブルとは「将来の価格上昇に対す る皆の過度の期待が価格を一時的に押し上げるような状態」と述べている.

このように,バブルの定義は曖昧である16)

しかし,本稿で用いたマンションの価格および家賃指数のデータは住宅の 質がコントロールされているので,より緻密な分析が可能である.そこで 80 年代後半に発生したといわれる不動産「バブル」の規模を推定するため に,Meese and Wallace の方法を用いてマンション価格の理論値を計算した. それによれば,バブル崩壊直前の 90 年から 91 年における市場取引価格は, 実質家賃指数から推定されるファンダメンタル価格よりも 23 区で平均 68 万

円/m2程度,また郊外(東京都を除く地域)においても平均 29 万円/m2

度高かったことが推測される(図表 10 8).この時期,マンション価格が

ファンダメンタルズから大きく乖離していたことは疑う余地はない. 次節では,なぜマンション価格がファンダメンタルズから大きく乖離し,

16) 住宅バブルに関する議論として Himmelberg, Mayer, and Sinai[2005]が参考になる. 図表 10 8 Meese and Wallace の方法に基づいた不動産「バブル」の規模の推定

(単位:万円/m2,1986 年第 1 四半期価格)

東京都 23 区平均 東京都平均 埼玉県・千葉県・神奈川県の平均

実質価格指数 121.2 101.8 60.8

ファンダメンタルズ 53.1 46.4 31.7

差 68.1 55.4 29.1

注)1.ファンダメンタルズは,実質レントのデータ,実質レントおよび資本コストの期待成長率から Meese and Wallace[1994]にならって推計した.

(24)

またファンダメンタルズに回帰していったのか,そしてそのプロセスになぜ それほどの時間を要したのか,こうした住宅市場のダイナミックスを解明す る手がかりを得るために,次節ではシミュレーションによる分析を行う.

4

住宅市場のダイナミックス

4.1 住宅価格のダイナミックス

第 3 節で統計的な手法を用いることにより,住宅価格は系列相関をもち, いったんファンダメンタルズから乖離してもいずれは均衡へと戻るという平 均回帰的な性質をもつことが確認された.これらの性質をもった住宅価格の 動きをどのようにモデル化することができるのであろうか.Abraham and Hendershott[1994]は住宅価格の変化率をファンダメンタルズそのものが変 化する部分とバブル項に分け,さらに後者を住宅価格の変化率の 1 期前(系 列相関)とファンダメンタルズからの乖離によって説明する部分(平均回帰 的な部分)とに分解する.そのうえで,ファンダメンタルズが都市成長を反 映するという Capozza and Helsley[1989]の都市モデルを前提にして住宅価 格のダイナミックスの推計を試みている.

Capozza, Hendershott, and Mack[2004]は Abraham and Hendershott のモ デルを,より単純なかたちでモデル化した.彼らのモデルは以下のようなも のである.

logP=α∆logP+β(logP*−logP) +γ∆logP*

logPは時間tにおける実質の住宅価格の対数値,は階差を表すオペ

レータ,logP*は時間 におけるファンダメンタルズの対数値である.右

辺第 1 項は系列相関,第 2 項は 1 期前のファンダメンタルズとの乖離でいわ ゆるエラーコレクション項,第 3 項はファンダメンタルズそのものの変化を 示している.本来確率的に動くと思われるファンダメンタルズを一定とすれ ば,この式は住宅価格についての 2 次差分方程式になり,住宅価格のダイナ

ミックな動きをα,βと定数項によって特徴づけることができる.2 次差分

方程式の解が複素数であるための条件,すなわち(1+αβ)<4α(条件①)

(25)

トする.もしその条件を満たさなければ周期性を帯びることはない.一方,

住宅価格が均衡価格に収束するための条件はα<1(条件②)である.

したがって①,②の条件を満たす場合には住宅価格は周期性を帯びながら 均衡価格に収束し,①,②いずれも満たされない場合には均衡から離れ次第 に発散していく.また,①は満たすが②が満たされない場合は周期性を帯び ながら発散し,逆に②は満たすが①が満たされない場合は周期性を帯びるこ となく均衡価格に収束する.このように Capozza, Hendershott, and Mack のモデルは,系列相関の係数と平均回帰的,すなわちエラーコレクション項 の係数それぞれの値によって住宅価格のダイナミックスを特徴づけることが できる.

Capozza, Hendershott, and Mack が興味深いのは,系列相関とエラーコレ クション項それぞれの係数の地域的な違いを地域ごとの説明変数を加えて推 計する手法を提示し,実際に試みている点である.彼らが系列相関とエラー コレクション項を説明するのに注目した変数は大きく 3 つに分類することが できる.

第 1 に情報コストにかかわるものである.不動産は莫大な取引費用やサー チ費用がかかるので,市場における取引が活発であればあるほどそれらの費 用が小さくなり,均衡への価格調整も速やかに進む.したがって取引が活発 な市場では平均回帰も早くなることが予想される.第 2 に供給にかかわるも のである.住宅投資は住宅価格と再調達費用に依存して決まる.再調達費用 には住宅を建設するための労働費用,建築費用,土地費用などが含まれる. とりわけ土地利用規制などによって土地の供給が阻害されている場合,土地 費用そのものが高くなるだけではなく開発のための時間コストも大きくなる. したがって住宅投資は価格に対して素早く反応することができず,住宅価格 の系列相関の程度を強め,平均回帰のスピードも弱められる.第 3 に期待に かかわるものである.住宅価格に系列相関の性質が見られるのは,市場参加 者が Backward Looking な期待形成を行っているからである.住宅価格が上 昇傾向にあるときには住宅の投資財としての側面が重要視され,逆に価格が 下落傾向にあるときには住宅の投資財としての側面が影を潜めて消費財とし ての性質が強調される.

(26)

り,住宅価格の系列相関の程度が強くなる.これらの 3 つに分類された説明 変数を加えて系列相関とエラーコレクション項の係数の地域的な違いを考慮 したモデルを推計し,住宅価格のダイナミックスの特徴づけを地域ごとに行 うことに成功している.

しかし,系列相関とエラーコレクション項の地域ごとの係数が推計されて も住宅市場の構造モデルが明らかにされたわけではない.より興味深いのは, 3 つに分類された要因がそれぞれどのようなメカニズムで住宅市場全体のダ イナミックスを生み出しているのか,その点を知ることである.そこで住宅 市場の構造モデルを考えよう.

4.2 住宅市場の構造モデル

フローモデルとストック = フローモデル

住宅市場を構造的に説明するモデルとして大きく 2 つに分けることができ る.1 つは Muth[1960]に端を発するフローモデルといわれるもので,もう 1 つは Kearl[1979]や Poterba[1984]に端を発するストック = フローモデル と呼ばれるものである.前者のフローモデルでは,ある 1 期間の住宅に対す る需要量と供給量が一致するように住宅価格が決まると考える.さらに Muth は,建設ラグや取引費用などの影響によって住宅ストックの調整には 時間がかかるので住宅ストックが瞬時にして調整されるわけではなく,望ま しい水準とのギャップを埋め合わせるように調整が行われるとしたストック 調整モデルを提示している.すなわち,住宅ストックの調整は次のようなか たちで行われる.

Q=

δ

K* (X,P)K

ここでK*は望ましい住宅ストック,Kは 1 期前の住宅ストック,δは期

毎のストック調整率である.望ましい住宅ストックK*は住宅価格Pと所得

や世帯数などの外生変数Xに依存し,住宅ストックの調整によって生まれ

(27)

が峻別されることはなかった.

一方,Kearl[1979]や Poterba[1984]は,住宅の消費財としての側面と投 資財としての側面に注目しながら,フローとしての住宅サービスの価格は住 宅サービス市場で決まり,ストックとしての住宅価格は資産市場で決定され るという,いわゆるストック = フローモデルを展開している.住宅市場が均 衡するための条件は,まず住宅ストックから生まれる住宅サービス市場にお いて需給が均衡していることである.住宅サービスに対する需要は家賃とそ の他の外生変数に依存し,住宅ストックは過去の蓄積によって外生的に決定 されるものである.この需要量と供給量が一致するように家賃が決定される. 家賃が決定されると,資産市場において住宅を所有する費用,すなわち住宅 の資本コストと住宅価格を掛け合わせたものと家賃が等しくなるように住宅 価格が決定される.住宅価格が決定されると来期に向けての住宅ストックの 調整が行われる.住宅投資の考え方はさまざまであるが,1 つはフローモデ ルで説明したストック調整モデル,もう 1 つは「トービンの q」と同様に市 場価格が再調達費用を上回るかぎり住宅投資を増やすというもの,などがあ る.いずれも住宅価格に依存して住宅投資が決定される.これら 3 つの条件 が整合的に満たされるとき市場均衡が達成されることになる.

ストック = フローモデルとダイナミックス

(28)

Case and Shiller[1988]によれば,住宅市場の参加者は過去の住宅価格の情 報に基づいて住宅価格の予想を立てるという.このような Backward Look-ing な期待形成がなされれば,住宅価格は系列相関をもつ.

第 2 に,住宅価格の調整には時間を要するという点である.これは Capozza, Hendershott, and Mack が指摘したのと同様に,住宅市場における 情報の問題である.空家率,取引数,成約率等の情報が市場全体に開示され てはいないので,住宅価格が市場全体の情報をすべて反映しているわけでは ない.住宅価格のゆっくりとした調整そのものが,住宅価格に見られる正の 系列相関の原因の 1 つという見方もできる.

第 3 は住宅供給にかかわる点である.ストック = フローモデルでは住宅投 資は住宅価格の関数であるとした.しかし,住宅建設には住宅資本だけでは なく,土地が重要な生産要素である.住宅資本の費用は地域的な差はないに しても,土地の費用は地域によって大きく異なり,それが住宅価格に反映さ れる.その土地は,都市空間のなかで際限なく供給されるわけではない.た とえば住宅価格が高い水準にある都市では,長期的に望ましい水準がすでに 達成されており,新たな住宅供給は起こりにくい.したがって,資産税制や 土地利用規制によって土地の供給が制約を受け,それによって住宅供給の価 格弾力性に影響を与えるものと思われる.

Capozza [2004]や DiPasquale and Wheaton[1994,1996]の分析から, 本稿は日本の不動産市場のダイナミックスを説明するうえで価格の期待形成 と住宅供給の価格弾力性が重要であると考えた.そこで,Wheaton[1999]の

シミュレーションモデルに基づいて17),需要ショックが住宅市場に与える

インパクトを,インパルス反応関数によって分析した.図表 10 9 は,期待 形成が Backward Looking な場合の状況を図示したものである.理論モデル からは,需要と供給の価格弾力性の大小関係がインパルス反応関数の形状を 決定することが示唆されるため,ここでは 2 通りのケースを想定してシミュ

レーションを行っている.ケース 1 は需要(β)よりも供給(β)の方が価

格に対して弾力的な場合,逆にケース 2 は需要の方が弾力的な場合である.

(29)

他方,図表 10 10 は価格形成が合理的期待に基づく場合である.弾力性の大 小関係は,図表 10 9 にならって,ケース 1 は供給の方が弾力的,ケース 2 は需要の方が弾力的とした.具体的な設定値は,それぞれ図表の備考を参照 されたい.

Wheaton が指摘したように,合理的期待のもとでは需要ショックに対し て住宅価格は瞬時にして反応し,住宅ストックの調整とともに定常状態に向 けて漸次的に調整されている.また,住宅供給の弾力性の値が小さいほど, その調整には時間がかかる.

それに対して期待形成が Backward Looking である場合には,住宅ストッ ク調整が過去の住宅価格に依存することから需要ショックに対する反応は瞬

⒜ 住宅ストック/世帯数 比率

4

0

−4

−8

−12

−10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

⒝ 住宅価格

20

10

0

−10

−10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 ケース 1 ケース 2 (%)

(%)

図表 10 9 Backward Looking な期待形成の場合

注) 1.定常状態から,世帯数が 10%恒常的に増加した場合のインパルス反応関数. 縦軸の値は,定常状態からの乖離率を表す.

2.需要の弾力性(β)と供給の弾力性(β)の設定値は,ケース 1 がβ=0.5

(30)

時的ではなく緩やかに行われる.また,Wheaton が指摘したように,住宅 供給が住宅需要よりもより価格弾力的であると住宅市場に周期性がもたらさ れることが確認できる.逆に,住宅供給が住宅需要よりも非弾力的で,しか もその値が小さいほど,住宅市場に周期性は見られず調整は定常状態に向 かって漸次的に行われる.これは,価格期待が合理的である場合と同じであ る.

以上の議論から,住宅価格に対する Backward Looking な期待形成が住宅 市場に周期性をもたらす重要な要因になっているだけでなく,住宅供給の価 格弾力性も住宅市場のダイナミックスを説明するうえで重要な鍵となってい ることがわかる.では,Backward Looking な期待形成が投機的な動機に基

4

⒜ 住宅ストック/世帯数 比率

⒝ 住宅価格 (%)

0

−4

−8

−12

−10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

20 (%)

10

0

−10

−10 0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 ケース 1 ケース 2

図表 10 10 合理的期待形成の場合

注) 1.定常状態から,世帯数が 10%恒常的に増加した場合のインパルス反応関数. 縦軸の値は,定常状態からの乖離率を表す.

2.需要の弾力性(β)と供給の弾力性(β)の設定値は,ケース 1 がβ=0.5

(31)

づくものであるとすれば,それは住宅価格にどのように反映されるのであろ うか.また,首都圏の住宅供給の価格弾力性はどの程度の値をとり,地域的 な差異は存在するのだろうか.もし地域的な差異が存在するとすれば,それ はいかなる原因によってもたらされるのだろうか.次節では,これらの点に 絞って実証的に検証を行うこととする.

5

資産税制とバブル

――実証分析

5.1 目的とフレームワーク

資産税制は,土地利用に対する歴史的・制度的な仕組みと相まって不動産 に対する資産需要を喚起し,土地の有効利用を阻害してきた.また,首都圏 のマンションのデータを用いた分析によれば,マンション価格は系列相関と 平均回帰的な性質を示し,短期的にはファンダメンタルズから徐々に乖離し たとしても,長期的には現在価値関係は成立していることが示された.一方, 前節で議論されたように,住宅価格に対する市場の期待形成と住宅供給の価 格弾力性が住宅市場のダイナミックスを特徴づける大きな要因である.

そこで第 5 節ではまず,ヘドニック分析によって,住宅価格に投資的な要 因がどのように反映されるかを分析する.ヘドニック分析は住宅価格をその 属性に回帰させることにより,属性の価格を推計しようとするものである. 本稿では,ヘドニック価格関数の説明変数として,不動産物件の属性データ や通勤にかかわる情報など,一般に消費財としての側面を表す属性のほかに, 各物件が位置する市区における過去 10 年間の公示地価の平均上昇率を計算 したものを加えた.この変数は住宅投資による収益性の指標として用いるも ので,住宅に対する投資的な側面を表す変数である.もしその変数の符号が 正で有意であれば,住宅の投資的な側面が住宅購入の意思決定に重要な役割 を果たしていることになる.

(32)

だけではなく,短期と長期の弾力性の間に大きな違いが生まれやすいためで ある.しかし,ここでのわれわれの関心は,市区別の価格弾力性の違いが資 産税制と土地利用規制によってどの程度説明できるかにあるため,Green, Malpezzi, and Mayo[2005]にならい,まず市区ごとに着工戸数の対数値を実 質住宅価格の対数値で回帰させ,住宅供給の価格弾力性を求めることにした. そのうえで資産税制と土地利用規制の変数が市区ごとの住宅供給の価格弾力 性の差異をどの程度説明できるのか分析を行うことにする.

2 つの実証分析を通じて,住宅市場のダイナミックスを特徴づける要因が 資産需要によってもたらされる Backward Looking な期待形成と価格に対し て非弾力的な住宅供給にあり,その住宅供給の価格弾力性の地域的な差異が 資産税制と土地利用規制によって大きく影響を受けることを確認する.

5.2 データ

住宅と価格に関するデータ

ヘドニック分析に用いられたデータは 1991 年,1996 年,2001 年,2006 年にリクルート社の情報誌『週刊住宅情報』に掲載されたマンション物件の 中古売買情報である.『週刊住宅情報』では品質・募集価格に関する情報が 週単位で提供されており,初めて情報誌に登場してから成約等により情報誌 から抹消されるまでの履歴情報が含まれている.以下の分析では『週刊住宅 情報』に掲載された情報のうち,成約によって情報誌から抹消された時点の 価格情報を用いることにした.その価格は逆オークション的に情報を通じて 品質と価格に関する情報を発信し,買い手が登場するまで価格を下げていく 過程での最初の購入希望価格である.よって買い手のつけ値のなかでの上位 価格という性格ではあるものの,相対的に取引価格情報と比較して取引にと もなう個別事情を含まない競争的な市場価格であると考えられる.

地価上昇率を計算するのに用いられた地価指数は公示地価と都道府県地価

調査に基づく18).公示地価は毎年 1 月 1 日における標準地の単位面積当た

りの「正常な価格」とされており,1975 年から入手可能である.「正常な価 格」とは投機的な動機などが存在しない適正な市場価格として定義されてい

参照

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