初等量子力学演習 (Wednesday August 3, 2016) 期末試験 解答例 & 解説 1 問題1. 次の問題を解け。 (30点)
1-1. ある粒子に作用するポテンシャルが増加したとき, その粒子の波数k は増えるか減るか? また波長λ は伸 びるか縮むか? 1 次元の運動として,定性的に説明せ よ。(変化量まで求める必要はない。)
粒子の全エネルギーは保存するので,ポテンシャルが 増加すると運動エネルギーが減少する。粒子の質量は 変化しないとすれば,運動量 p が小さくなる。運動量 と波数k の関係p= ℏkから,kは小さくなる。またド・ ブロイの関係式pλ = h,あるいは波数と波長λの関係 λ = 2π
k から,λは伸びる。
1-2. ポテンシャル V(x) のもとを運動する質量 m の 粒子の状態関数を ψ(x, t) とする。ψ(x, t) が満たす Schr¨odinger方程式を書け。
iℏ∂ψ(x, t)
∂t =
(−ℏ
2
2m
∂2
∂x2 + V (x)
)ψ(x, t) (1)
1-3. φ(x, t), χ(x, t)を任意の関数とする。⟨φ, χ⟩を積分 で表わせ。また,⟨φ, χ⟩と⟨χ, φ⟩の関係を書け。
⟨φ, χ⟩ =
∫ ∞
−∞
φ∗(x, t)χ(x, t)dx (2) また
⟨χ, φ⟩ =
∫ ∞
−∞
χ∗(x, t)φ(x, t)dx なので
⟨χ, φ⟩ = ⟨φ, χ⟩∗. (3)
問題 2. 波動関数 ψ(x) = N e−α2(x−b)2+ikx で表される 粒子について調べる。 (30点) 2-1. 規格化条件よりN を決定し,規格化された波動関 数を定めよ。
規格化の定義とガウス積分の公式より
∫ ∞
−∞
ψ∗(x)ψ(x)dx = |N|2
∫ ∞
−∞
e−α(x−b)2dx
= |N|2
∫ ∞
−∞
e−αy2dy =√ π α|N|
2 = 1.
x− b = yと変数変換した。N を正の実数に選べば
N =(α π
)14 従って規格化された波動関数は
ψ(x) =(α π
)14
e−α2(x−b)2+ikx. (4) 2-2. 確率密度ρ(x)を求め図示せよ。
確率密度の定義より
ρ(x) = ψ∗(x)ψ(x) =√ α π e
−α(x−b)2
. (5)
x = bを中心とし,頂点の値ρ(b) =√ α
π のガウス関数。 2-3.粒子を観測したとき,x > bの範囲に見つかる確率 はどれだけか?
図より確率密度ρ(x) はx = bを境に線対称なので,
x ≶ bに見つかる確率も半分ずつ。つまり粒子を観測し
たとき,x > bの範囲に見つかる確率は 1
2 となる。 2-4. 位置の期待値⟨x⟩を計算せよ。
期待値の定義とガウス積分の公式より
⟨x⟩ =
∫ ∞
−∞
ψ∗(x)xψ(x) =√ α π
∫ ∞
−∞
x e−α(x−b)2dx
=√ α π
∫ ∞
−∞
(y + b) e−αy2dy
= b. (6)
最後は,奇関数を−∞から∞まで積分すれば0になる ことを使った。
2-5. 運動量の期待値⟨ˆp⟩を計算せよ。 同様に
⟨p⟩ =
∫ ∞
−∞
ψ∗(x)ℏ i
∂ψ(x)
∂x
=√ α π
∫ ∞
−∞
ℏ i
(−α(x − b) + ik) e−α(x−b)2dx
=√ α π
∫ ∞
−∞
ℏk e−α(x−b)2dx= ℏk. (7) 問題3. x軸上を運動する質量mの粒子に (40点)
V(x) =
{0 (0 ≤ x ≤ L),
∞ (上の範囲外) のようなポテンシャルが作用している。 以下,0 ≤ x ≤ Lの範囲で考える。
3-1.エネルギーEに対応する波動関数をu(x)とし,定 常状態のSchr¨odinger方程式を書け。
定常状態に対する一般のSchr¨odinger方程式は (− ℏ
2
2m d2
dx2 + V (x)
)u(x) = Eu(x).
いま 0 ≤ x ≤ Lの範囲では V(x) = 0で一定の自由粒 子なので,Schr¨odinger方程式は
− ℏ
2
2m
d2u(x)
dx2 = Eu(x). (8)
3-2. 境界条件u(0) = u(L) = 0を採用し,系のエネル ギー準位Enおよび線形独立な規格化された波動関数を 求めよ。量子数nの値を明示すること。E > 0として よい。
初等量子力学演習 (Wednesday August 3, 2016) 期末試験 解答例 & 解説 2 (8)の一般解は
u(x) = A sin kx + B cos kx. ただし
k =
√2mE
ℏ . (9)
境界条件より
u(0) = B = 0, u(L) = A sin kL = 0. したがって,何らかの整数nを用いて
kn = π
Ln (10)
と書ける。これより
un(x) = A sinnπ
L x. (11)
ここで正弦関数の偶奇性から
u−n(x) = −un(x)
なので,u−n(x)はun(x)と独立ではない。またn= 0 は,恒等的に u(x) = 0の自明解しか与えないため,n は正整数となる。よって(9)より
En = ℏ
2k2 n
2m = π2ℏ2 2mL2 n
2, n= 1, 2, 3, . . . (12) となり,離散化されたエネルギーレベルが得られる。
ちなみにE ≤ 0では与えられた境界条件を満たす非 自明な解が存在しないため,E >0とした。
(11)を規格化すると
∫ L 0
u∗n(x)un(x)dx =|A|2
∫ L 0
sin2 nπ L x dx
=L 2|A|
2 = 1.
∴ A =√ 2 L
ここでA を正の実数に選んだ。よって規格化された波 動関数は
un(x) =√ 2 Lsin
nπ
L x (n = 1, 2, 3, . . . ) (13) と決まる。
3-3. 存在確率の流束j(x)を計算せよ。この結果から何 が言えるか?
定義より
j(x) = ℏ 2mi
(
u∗n(x)dun dx −
du∗n dx un(x)
) .
いま un(x) は本質的に実数なので,これは恒等的に0 になる。すなわち存在確率の流束は0である。
j(x) = 0. (14)
j(x)が0なので,粒子の正味の運動量も0だとわかる。 これは,波動関数(13)を
un(x) = 1 2i
√ 2 L(e
iknx
− e−iknx) (15)
と書き換えると分かりやすい。(15)は,p= ℏk の波と
p = −ℏkの波との同じ割合での重ね合わせなので,正
味の運動量が打ち消されている。
古典的な例えをすると,0 ≤ x ≤ L内でx の正方向 に進む粒子は,x = Lの剛体壁で弾性衝突してそのまま 負方向に進み,また x = 0の剛体壁で弾性衝突して正 方向に進む,という運動をくり返すことになる。