計量経済学#15
線形制約の仮説検定 (1)
鹿野繁樹
大阪府立大学
2017 年 12 月更新
Outline
1 回帰係数への線形制約
2 線形制約の残差2 乗和への影響
テキスト:鹿野繁樹 [2015]、第 8.1 章・第 8.2 章。
前回の復習
1 ダミー変数
2 ダミー変数の高度な使い方
Section 1
回帰係数への線形制約
線形制約とは?
対数線形化されたコブ・ダグラス型生産関数(講義ノート#13):
Yi = α + β1X1i+ β2X2i+ ui (1) Yi、X1i、X2iは産出量Qi、労働Li、資本Kiの対数値。
経済理論における規模に関する収穫一定の仮定:β1+ β2 = 1 を満たせば、コブ・ダグラス型生産関数は収穫一定。
収穫一定の仮定を帰無仮説として表せば
H0 : β1+ β2 = 1. (2) ... 実際には、この性質が真であるとは限らない。
(2) 式の特徴:複数の係数にまたがる仮説値!⇒ 複数の回帰係数に 対し一挙に仮説値を置く帰無仮説を、線形制約と呼ぶ。例えば
H0 : β1 = β2, (3) H0 : β3 = 1, β5 = −2, (4) H0 : β1 = β2 = · · · βk= 0. (5) 今回の目標= 線形制約の仮説検定を習得。
一つの帰無仮説中の制約の数をG と置く。⇒ (3) 式、(4) 式、 (5) 式は G = 1、G = 2、G = k 個の制約。
回帰係数の有意性検定「H0 : βj = 0」(講義ノート#09)も、 G= 1 個の線形制約。
注意:これまでのt 検定(あるいは Z 検定)は、個々の回帰係数に 置かれた仮説値を個別に検定する手法。
「H0 : β1 = 0」と「H0 : β2 = 0」は、個別に t 検定が可能。 しかし二つの係数にまたがる線形制約「H0 : β1 = β2 = 0
(β1 = 0 かつ β2 = 0)」は、t 検定が使えない!
∴t 検定に代わる検定の手段、F 検定とカイ 2 乗検定が登場。
制約付きモデルの OLS :タイプ I
検定の前に、実証分析で典型的な線形制約と、制約付きのモデル をOLS 推定する方法を考える。
簡単化のため、説明変数がk = 3 個の重回帰モデル
Yi = α + β1X1i+ β2X2i+ β3X3i+ ui (6) を扱う。
古典的仮定は満たされていて、係数が全てOLS 推定できるも のとする。
線形制約を大別すると二つのタイプ。
分析者が(6) 式の係数の一部に対し線形制約
H0 : β1 = 5, β2 = 1 (7) を置いたとする。(制約の数G= 2。)⇒ 上式を (6) 式に代入し、
Yi = α + 5X1i+ X2i+ β3X3i+ vi. (8)
誤差の表記viに注意。制約なしの一般的なモデル(6) 式と、 制約付きの特殊なモデル(8) 式を区別するため。
(8) 式を移項・整理すると
Yi − (5X1i+ X2i) = α + β3X3i+ vi
⇔ Yi′ = α + β3X3i+ vi. (9) ただしYi′ = Yi− (5X1i+ X2i)。
(8) 式・(9) 式のポイント
事前に線形制約⇒ 推定すべき係数が α と β3に限定され
る。... β1とβ2の値は線形制約(8) で決まっている。
Yi′は、簡単な変数変換で作成可能。⇒ 制約下のモデル (9) 式 の係数α、β3は、Yi′をX3iに回帰すればOLS 推定可能。
特に、複数の係数の統計的有意性を試す結合有意性検定が重要。 (6) 式に関し、次の仮定を置く。
H0 : β2 = β3 = 0. (10)
仮説が(何らかの手順で)棄却されれば、X2iとX3iが統計的 に有意である証拠。∴ 通常の有意性検定と同じ意図。
この制約下では(6) 式は
Yi = α + β1X1i+ vi. (11) ... ちょうど説明変数 X2i、X3iを除いたモデル。
複数の説明変数がセットで有意性を問われる状況:いまYi = 労働 者i の年収、X1i= 年齢、X2i= 高卒ダミー、X3i = 大卒ダミーと する(講義ノート#14 参照。)
X2iとX3iは、セットで「学歴」を表す変数である点に注意。
「(大卒の有意性のいかんに関わらず)高卒が年収に与える効 果」を実証したければβ2 = 0 の有意性検定が妥当。
しかし分析の目的が「学歴が年収に与える効果」の実証なら ば、H0 : β2 = β3 = 0 が棄却されるか否かを検定で問うべき。
制約付きモデルの OLS :タイプ II
(6) 式のモデルに対し、別の線形制約
H0 : β1+ 2β2 = 4 (12) を課したとする(制約の数G= 1。)
(7) の線形制約と異なり、複数の係数を一次式で紐付けしてい る点が特徴。
収穫一定の仮定(2) 式は、こちらのタイプに相当。
制約をβ1について解けば、β1 = 4 − 2β2。⇒ (6) 式に代入すると Yi = α + (4 − 2β2)X1i+ β2X2i+ β3X3i+ vi
= α + 4X1i+ β2(X2i− 2X1i) + β3X3i+ vi (13) となり、(13) 式を移項・整理すれば
Yi − 4X1i= α + β2(X2i− 2X1i) + β3X3i+ vi
⇔ Yi′ = α + β2X2i′ + β3X3i+ vi. (14) ここでYi′ = Yi− 4X1i,X2i′ = X2i− 2X1i。
制約により推定すべき係数(β1)が減る。
残りの係数は、YiをX2i′ とX3iに回帰したOLS で推定可能。 β = 2 − 1β (14) 式とは
Example 1
(2) 式を β1 = 1 − β2と置き、係数β1に代入すると
Yi = α + (1 − β2)X1i+ β2X2i+ vi ⇔ Yi′ = α + β2X2i′ + vi,
(15) ただしYi′ = Yi− X1i,X2i= X2i− X1i。
北海道の公立病院のデータ(講義ノート#13)で制約下のモ デルを推定した結果(カッコ内はt 値):
制約なし: Yˆi = 0.44
(2.78)+ 0.72(10.82)X1i+ 0.18(2.54)X2i, (16)
制約あり: Yˆ′
i = 0.03
(0.21)+ 0.29(3.93)X
2i′ . (17)
Remark 1
制約付きのモデルは、制約なしのモデルに制約をうまく織り込む ことで得られる。
タイプI・タイプ II、いずれの制約下のモデルも、最終的に OLS 推定が可能。
制約なしのモデルと比べ、制約付きモデルは推定すべき係数 の数が減る。
制約付きのモデル(制約が正しい、という前提のもとでのモ デル)は、OLS で簡単に推定できる。
次のステップ:その制約が正しいか否かを検定する方法は?
Section 2
線形制約の残差 2 乗和への影響
線形制約による当てはまりの悪化
係数への線形制約は、回帰モデルのデータへの当てはまりを悪化 させる。⇒ まず、制約なしで (6) 式の OLS 推定を考える。
(6) 式係数の OLS は、残差 2 乗和(予測誤差)最小化の解: Q(a, b1, b2, b3) =(Yi− a − b1X1i− b2X2i− b3X3i)2
−−−→最小化 α, ˆˆ β1, ˆβ2, ˆβ3
OLS
. (18)
解(ˆα, ˆβ1, ˆβ2, ˆβ3) で評価した(最小化された)残差 2 乗和を Q= Q(ˆα, ˆβ1, ˆβ2, ˆβ3) =(Yi− ˆα− ˆβ1X1i− ˆβ2X2i− ˆβ3X3i)2
(6) 式に線形制約 (7) を化した場合の OLS は?
制約によりβ1 = 5,β2 = 1 なので、最小化問題は Q(a, 5, 1, b3) = (Yi− a − X1i− 5X2i− b3X3i)2
−−−→最小化 α, ˜˜ β3
制約付きのOLS
(20)
制約なしのOLS と区別するため、制約付きの OLS を ˜α、 ˜β3
(ティルダ)と表記。(αˆ= ˜α, ˆβ3 = ˜β3。) 制約付きのOLS 残差および残差 2 乗和を
QR = Q(˜α,1, 5, ˜β3) = (Yi− ˜α− X1i− 5X2i− ˜β3X3i
=ˆvi
)2
=ˆvi2 (21) と置く。添え字R は制約(restricted)の意味。ˆviは制約下の
OLS 残差。
通常のOLS と制約付きの OLS の、決定的な違い。
制約なしの通常のOLS:4 つの調節弁 {a, b1, b2, b3} をフルに操 作し、残差2 乗和を最小化。
制約下のOLS:二つの調節弁が既に {b1, b2} = {5, 1} と固定。
⇒ 残された {a, b3} だけを調節して、何とかモデルをデータに 当てはめる。
∴ 制約なしの残差2 乗和 Q =uˆ2i は、制約下の残差2 乗和 QR =vˆ2i よりも小さい!
公式 1 ( 線形制約による当てはまりの悪化 )
制約なしの残差2 乗和 Q と線形制約下の QRを比較すると、常に
QR =vˆ2i
制約付き
≥ Q = uˆ2i
制約なし
. (22)
証明:前段で証明済み.
以上から、二つの残差2 乗和の差
QR− Q ≥ 0 (23) は、「(統計的根拠のない)線形制約H0によって、モデルの データへの適合度がどれだけ悪化したか」を測る。
線形制約のパラメータ値がデータと整合的なら、それほど残 差2 乗和を悪化させないはず。
一方、データの傾向に合わない制約は、残差2 乗和を著しく 上昇させるはず。
Remark 1
線形制約がデータと整合的ならば、QRとQ に大きな差は出ない。
⇒ QR− Q を見れば、線形制約の正しさが判定できる。
∴「差QR− Q が十分大きければ線形制約 H0を棄却する」と いう方針で、H0の仮説検定を考える。
差QR− Q は、「大きい・小さい」の判断が着く検定統計量、 カイ2 乗統計量に変換可能!⇒ 次回。
Example 2
(17) 式の OLS 推定に関し、制約なし・制約ありの OLS 残差 2 乗和 はそれぞれ
Q= 0.66
制約なし
< QR = 0.82
制約あり
. (24)
やはり線形制約H0 : β1+ β2 = 1 により、残差 2 乗和が悪化。
仮説検定の 3 大原理:ワルド・尤度比・スコア
図1:線形制約の OLS への影響をグラフで理解。⇒ 係数 b と残差 2 乗和の関係。
b∗ = 残差 2 乗和を最小にする、制約のない OLS。⇒ Q = 最小 化された(b∗で評価した)残差2 乗和の水準。
線形制約で事前にb = bRと置くと?⇒ 対応する残差 2 乗和は QR > Q。... 最小値に達しない。
制約あり・制約なし、それぞれの目的関数の差QR− Q に基づ く仮説検定を尤度比原理(ゆうどひげんり)と呼ぶ。
一方、t 検定・Z 検定は、目的関数の差 QR− Q ではなく、 OLS と仮説値の直接の差 b∗− bRに着目。⇒ これをワルド原
b* bR
QQR
図 1 : ワルド・尤度比・ラグランジュ乗数原理
もう一つの検定のアイディア:最小値b∗ではQ(b) の傾きが
Q′(b∗) = 0 でゼロ、bRではQ′(bR) = 0。(この例では Q′(bR) > 0。)
∴「傾きQ′(bR) が十分ゼロから離れているか否か」を検定の 判断に使える!
これをスコア原理(またはラグランジュ乗数原理)と呼ぶ。
今回の復習問題
次の設問に答えよ。各自用意した紙に解答し、退出時に提出せよ。 講義名、日付、学籍番号、氏名を明記すること。
1 テキスト第8 章復習問題 8.1。
2 テキスト第8 章復習問題 8.2。
References
鹿野繁樹. 新しい計量経済学. 日本評論社, 2015.