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田谷久雄 高等学校数学での整数の性質についての注意2

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全文

(1)

高等学校数学での整数の性質についての注意2ー素

元と既約元およびユークリッド整域ー

著者

田谷 久雄

雑誌名

宮城教育大学紀要

52

ページ

97- 102

発行年

2018- 01- 31

(2)

高等学校数学での整数の性質についての注意

素元と既約元およびユークリッド整域

田  谷  久  雄

TAYA Hisao

概 要

本稿では,高校数学の新課程で新しく登場した「整数の性質」に関連した話題として,素数の定義と 性質に起因とする既約元と素元について述べると共に,整数の割り算原理(除法定理)から素因数分解 とその一意性までの流れの出発点であるユークリッド整域について簡単な注意を与える.

In this paper, we will mention irreducible elements and prime elements which come from the defi-nition of and a property of prime numbers, respectively. Also, we will make a simple remark about the definition of Euclidean domain, which is the starting point from Euclidean division to Unique Factorization Theorem.

Key words:high school mathematics (高等学校数学) property of the integers (整数の性質) prime numbers (素数)

prime decomposition (素因数分解) Euclidean division (割り算原理)

本稿は の続編であり,平成 年 月

の高等学校学習指導要領の改訂により平成 年

度から年次進行で実施された新高等学校学習指

導要領等 参照 で新たに設けられた「数

学 」の「整数の性質」に関して,数学的な側面 からその取り扱いにおける注意点を述べるもの であり,今回はさらに素元と既約元について理解 を深めると共に,ユークリッド整域についても述 べてみたい.ここで述べることは,専門書ではあ まり触れられていないことである.

素元と既約元

前稿では,素数の定義と素因数分解の一意性に ついて注意すべき点を述べた.そのポイントは, 素数の定義は既約元性と呼ばれる性質によって定 義されているのに対し,素因数分解の一意性は 素数の素元性と呼ばれる性質を利用して証明さ れるということであり,この つの性質が直接結 びつくことは自明なことでなく,証明が必要であ るということであった.しかし,教科書ではその 部分の記述が曖昧であるため,正しい理解がない と誤解を生じる危険性があり,同時に教えるにあ たってもこの点は注意が必要になるということで

高等学校数学での整数の性質についての注意

2

素元と既約元およびユークリッド整域

田  谷  久  雄

概 要

本稿では,高校数学の新課程で新しく登場した「整数の性質」に関連した話題として,素数の定義と 性質に起因とする既約元と素元について述べると共に,整数の割り算原理(除法定理)から素因数分解 とその一意性までの流れの出発点であるユークリッド整域について簡単な注意を与える.

: 高等学校数学

整数の性質 素数

素因数分解 割り算原理

本稿は の続編であり,平成 年 月

の高等学校学習指導要領の改訂により平成 年

度から年次進行で実施された新高等学校学習指

導要領等 参照 で新たに設けられた「数

学 」の「整数の性質」に関して,数学的な側面 からその取り扱いにおける注意点を述べるもの であり,今回はさらに素元と既約元について理解 を深めると共に,ユークリッド整域についても述 べてみたい.ここで述べることは,専門書ではあ まり触れられていないことである.

素元と既約元

前稿では,素数の定義と素因数分解の一意性に ついて注意すべき点を述べた.そのポイントは, 素数の定義は既約元性と呼ばれる性質によって定 義されているのに対し,素因数分解の一意性は 素数の素元性と呼ばれる性質を利用して証明さ れるということであり,この つの性質が直接結 びつくことは自明なことでなく,証明が必要であ るということであった.しかし,教科書ではその 部分の記述が曖昧であるため,正しい理解がない と誤解を生じる危険性があり,同時に教えるにあ たってもこの点は注意が必要になるということで

高等学校数学での整数の性質についての注意

素元と既約元およびユークリッド整域

田  谷  久  雄

概 要

本稿では,高校数学の新課程で新しく登場した「整数の性質」に関連した話題として,素数の定義と 性質に起因とする既約元と素元について述べると共に,整数の割り算原理(除法定理)から素因数分解 とその一意性までの流れの出発点であるユークリッド整域について簡単な注意を与える.

: 高等学校数学

整数の性質 素数

素因数分解 割り算原理

本稿は の続編であり,平成 年 月

の高等学校学習指導要領の改訂により平成 年

度から年次進行で実施された新高等学校学習指

導要領等 参照 で新たに設けられた「数

学 」の「整数の性質」に関して,数学的な側面 からその取り扱いにおける注意点を述べるもの であり,今回はさらに素元と既約元について理解 を深めると共に,ユークリッド整域についても述 べてみたい.ここで述べることは,専門書ではあ まり触れられていないことである.

素元と既約元

前稿では,素数の定義と素因数分解の一意性に ついて注意すべき点を述べた.そのポイントは, 素数の定義は既約元性と呼ばれる性質によって定 義されているのに対し,素因数分解の一意性は 素数の素元性と呼ばれる性質を利用して証明さ れるということであり,この つの性質が直接結 びつくことは自明なことでなく,証明が必要であ るということであった.しかし,教科書ではその 部分の記述が曖昧であるため,正しい理解がない と誤解を生じる危険性があり,同時に教えるにあ たってもこの点は注意が必要になるということで

宮城教育大学数学教育講座

高等学校数学での整数の性質についての注意

素元と既約元およびユークリッド整域

田  谷  久  雄

概 要

本稿では,高校数学の新課程で新しく登場した「整数の性質」に関連した話題として,素数の定義と 性質に起因とする既約元と素元について述べると共に,整数の割り算原理(除法定理)から素因数分解 とその一意性までの流れの出発点であるユークリッド整域について簡単な注意を与える.

: 高等学校数学

整数の性質 素数

素因数分解 割り算原理

本稿は の続編であり,平成 年 月

の高等学校学習指導要領の改訂により平成 年

度から年次進行で実施された新高等学校学習指

導要領等 参照 で新たに設けられた「数

学 」の「整数の性質」に関して,数学的な側面 からその取り扱いにおける注意点を述べるもの であり,今回はさらに素元と既約元について理解 を深めると共に,ユークリッド整域についても述 べてみたい.ここで述べることは,専門書ではあ まり触れられていないことである.

素元と既約元

前稿では,素数の定義と素因数分解の一意性に ついて注意すべき点を述べた.そのポイントは, 素数の定義は既約元性と呼ばれる性質によって定 義されているのに対し,素因数分解の一意性は 素数の素元性と呼ばれる性質を利用して証明さ れるということであり,この つの性質が直接結 びつくことは自明なことでなく,証明が必要であ るということであった.しかし,教科書ではその 部分の記述が曖昧であるため,正しい理解がない と誤解を生じる危険性があり,同時に教えるにあ たってもこの点は注意が必要になるということで

宮城教育大学数学教育講座

高等学校数学での整数の性質についての注意

素元と既約元およびユークリッド整域

田  谷  久  雄

On new curriculum “property of the integers” of high school mathematics 2

– prime elements, irreducible elements and Euclidean domain –

概 要

本稿では,高校数学の新課程で新しく登場した「整数の性質」に関連した話題として,素数の定義と 性質に起因とする既約元と素元について述べると共に,整数の割り算原理(除法定理)から素因数分解 とその一意性までの流れの出発点であるユークリッド整域について簡単な注意を与える.

: 高等学校数学

整数の性質 素数

素因数分解 割り算原理

本稿は の続編であり,平成 年 月

の高等学校学習指導要領の改訂により平成 年

度から年次進行で実施された新高等学校学習指

導要領等 参照 で新たに設けられた「数

学 」の「整数の性質」に関して,数学的な側面 からその取り扱いにおける注意点を述べるもの であり,今回はさらに素元と既約元について理解 を深めると共に,ユークリッド整域についても述 べてみたい.ここで述べることは,専門書ではあ まり触れられていないことである.

素元と既約元

前稿では,素数の定義と素因数分解の一意性に ついて注意すべき点を述べた.そのポイントは, 素数の定義は既約元性と呼ばれる性質によって定 義されているのに対し,素因数分解の一意性は 素数の素元性と呼ばれる性質を利用して証明さ れるということであり,この つの性質が直接結 びつくことは自明なことでなく,証明が必要であ るということであった.しかし,教科書ではその 部分の記述が曖昧であるため,正しい理解がない と誤解を生じる危険性があり,同時に教えるにあ たってもこの点は注意が必要になるということで

宮城教育大学数学教育講座

高等学校数学での整数の性質についての注意

素元と既約元およびユークリッド整域

田  谷  久  雄

概 要

本稿では,高校数学の新課程で新しく登場した「整数の性質」に関連した話題として,素数の定義と 性質に起因とする既約元と素元について述べると共に,整数の割り算原理(除法定理)から素因数分解 とその一意性までの流れの出発点であるユークリッド整域について簡単な注意を与える.

: 高等学校数学

整数の性質 素数

素因数分解 割り算原理

1

本稿は[Tay15]の続編であり,平成21年3月

の高等学校学習指導要領の改訂により平成24年

度から年次進行で実施された新高等学校学習指

導要領等([Mb09]参照)で新たに設けられた「数

学A」の「整数の性質」に関して,数学的な側面

からその取り扱いにおける注意点を述べるもの であり,今回はさらに素元と既約元について理解 を深めると共に,ユークリッド整域についても述 べてみたい.ここで述べることは,専門書ではあ まり触れられていないことである.

素元と既約元

前稿では,素数の定義と素因数分解の一意性に ついて注意すべき点を述べた.そのポイントは, 素数の定義は既約元性と呼ばれる性質によって定 義されているのに対し,素因数分解の一意性は 素数の素元性と呼ばれる性質を利用して証明さ れるということであり,この つの性質が直接結 びつくことは自明なことでなく,証明が必要であ るということであった.しかし,教科書ではその 部分の記述が曖昧であるため,正しい理解がない と誤解を生じる危険性があり,同時に教えるにあ たってもこの点は注意が必要になるということで

高等学校数学での整数の性質についての注意

素元と既約元およびユークリッド整域

田  谷  久  雄

概 要

本稿では,高校数学の新課程で新しく登場した「整数の性質」に関連した話題として,素数の定義と 性質に起因とする既約元と素元について述べると共に,整数の割り算原理(除法定理)から素因数分解 とその一意性までの流れの出発点であるユークリッド整域について簡単な注意を与える.

: 高等学校数学

整数の性質 素数

素因数分解 割り算原理

本稿は の続編であり,平成 年 月

の高等学校学習指導要領の改訂により平成 年

度から年次進行で実施された新高等学校学習指

導要領等 参照 で新たに設けられた「数

学 」の「整数の性質」に関して,数学的な側面 からその取り扱いにおける注意点を述べるもの であり,今回はさらに素元と既約元について理解 を深めると共に,ユークリッド整域についても述 べてみたい.ここで述べることは,専門書ではあ まり触れられていないことである.

2

素元と既約元

前稿では,素数の定義と素因数分解の一意性に ついて注意すべき点を述べた.そのポイントは, 素数の定義は既約元性と呼ばれる性質によって定 義されているのに対し,素因数分解の一意性は 素数の素元性と呼ばれる性質を利用して証明さ

れるということであり,この2つの性質が直接結

(3)

ある.

ここでもう一度この既約元性と素元性を振り 返ってみる.素数の定義は教科書でも述べられて いるように「 以上の自然数で, とそれ自身以 外に正の約数をもたない数」を素数という.整数 と について が の倍数であるとき,つまり,

となる整数 が存在するとき, と書く

ことにすれば,素数の定義は以下の通りである.

定義 自然数 が素数であるとは, は 以

上であり,かつ, を自然数とするとき,

ならば または

を満たすことである.

この性質は,次の既約元の定義のもとになるもの であり,これをここでは既約元性と呼ぶ.

定義 既約元 その を整域とする(整

域の定義については次節で確認する). の零元 でも単元でもない元 が既約元であるとは,

ならば 単元または 単元

を満たすこととする.ただし である.

ここで,零元とは加法に関する単位元 ,つまり,

任意の について,

をみたす のことである.なお,乗法に関

する単位元,つまり,任意の について,

をみたす のことを単に の単位元という.

また,単元とは において乗法に関する逆元を

もつ元のこと,つまり, が単元であるとは,

となる が存在することである.このよう

な元 は存在すれば唯一つであり, の逆元と呼

ばれ, で表す.ここで述べた零元,単位元,

単元という用語の定義は を整域より広い範疇

の可換環としたときにも全く同様である(可換環 の定義については次節で確認する).

たとえば,整数全体の集合Zにおいて,零元は

通常の0,単位元は通常の1,単元は±1となる.

また,単元±1の逆元は1−1= 1(1)−1=1

である,なお,既約元の定義をそのまま当てはめ

れば,−2や−3も素数と呼んでよいことになる

が,符号の違いは素因数分解において+を付け

るか−を付けるかだけの違いであるので,正の

整数だけを考えて素数の定義としている(負の 数を知らない段階で素数は登場することも起因 する).

一方,素因数分解の一意性を示すときにどのよ うな素数の性質が必要であるかは教科書では触 れられていないが,次の性質を利用することに なる.

命題2.3 pを素数とするとき,整数a, bに対して

p|abならばp|aまたはp|b

が成り立つ.

この性質は,整数を積に細分化し続けたとき最後 に残るものが素数であるという素因数分解にお ける素数のイメージとマッチしているため,何の 証明もなしに利用できる性質として高校までの 数学では取り扱われている感がある.しかし,こ れは素数の定義ではないので,明らかに証明が必 要な素数の性質である.この性質は,次の素元の 定義のもとになっているものであり,これをここ では素元性と呼ぶ.

定義2.4 (素元) Rを可換環とする.Rの零元で

も単元でもない元πが素元であるとは,

π|αβならばπ|αまたはπ|β

を満たすこととする.ただしα, β∈Rである.

素数がこの素元性の性質をもつことは前編で 示しているが,難しいことではないので,ここで もその証明の一例を振り返っておこう.

(命題 2.3の証明)整数a, bについてp |abであ

るとする.このとき,p|aであれば主張は自明

である.そこで,p∤aであるとする.pが素数で

あるので,このことはaとpは互いに素である

ことを意味する.したがって,2元1次不定方程

式の性質によれば,

ka+lp= 1

2 ある.

ここでもう一度この既約元性と素元性を振り 返ってみる.素数の定義は教科書でも述べられて

いるように「2以上の自然数で,1とそれ自身以

外に正の約数をもたない数」を素数という.整数

aとbについてaがbの倍数であるとき,つまり,

a=bcとなる整数cが存在するとき,b|aと書く

ことにすれば,素数の定義は以下の通りである.

定義2.1 自然数pが素数であるとは,pは2以

上であり,かつ,aを自然数とするとき,

a|pならばa= 1またはa=p

を満たすことである.

この性質は,次の既約元の定義のもとになるもの であり,これをここでは既約元性と呼ぶ.

定義2.2 (既約元(その1)) Rを整域とする(整

域の定義については次節で確認する).Rの零元

でも単元でもない元πが既約元であるとは,

α|πならばα=単元またはα=π×単元

を満たすこととする.ただしα∈Rである.

ここで,零元とは加法に関する単位元0,つまり,

任意のa∈Rについて,

a+ 0 = 0 +a=a

をみたす0∈Rのことである.なお,乗法に関

する単位元,つまり,任意のa∈Rについて,

a·1 = 1·a=a

をみたす1∈Rのことを単にRの単位元という.

また,単元とはRにおいて乗法に関する逆元を

もつ元のこと,つまり,a∈Rが単元であるとは,

a·b=b·a= 1

となるb∈Rが存在することである.このよう

な元bは存在すれば唯一つであり,aの逆元と呼

ばれ,a−1で表す.ここで述べた零元,単位元,

単元という用語の定義はRを整域より広い範疇

の可換環としたときにも全く同様である(可換環 の定義については次節で確認する).

たとえば,整数全体の集合 において,零元は

通常の ,単位元は通常の ,単元は となる.

また,単元 の逆元は ,

である,なお,既約元の定義をそのまま当てはめ

れば, や も素数と呼んでよいことになる

が,符号の違いは素因数分解において を付け

るか を付けるかだけの違いであるので,正の

整数だけを考えて素数の定義としている(負の 数を知らない段階で素数は登場することも起因 する).

一方,素因数分解の一意性を示すときにどのよ うな素数の性質が必要であるかは教科書では触 れられていないが,次の性質を利用することに なる.

命題 を素数とするとき,整数 に対して

ならば または

が成り立つ.

この性質は,整数を積に細分化し続けたとき最後 に残るものが素数であるという素因数分解にお ける素数のイメージとマッチしているため,何の 証明もなしに利用できる性質として高校までの 数学では取り扱われている感がある.しかし,こ れは素数の定義ではないので,明らかに証明が必 要な素数の性質である.この性質は,次の素元の 定義のもとになっているものであり,これをここ では素元性と呼ぶ.

定義 素元 を可換環とする. の零元で

も単元でもない元 が素元であるとは,

ならば または

を満たすこととする.ただし である.

素数がこの素元性の性質をもつことは前編で 示しているが,難しいことではないので,ここで もその証明の一例を振り返っておこう.

命題 の証明 整数 について であ

るとする.このとき, であれば主張は自明

である.そこで, であるとする. が素数で

(4)

となる整数 が存在する.この両辺に を掛け れば,

が従うので, となる.つまり, のとき

には常に が成り立つ.以上より,素数 は

ならば または を満たすことがわ

かる.

なお,ここで利用した 元 次不定方程式の 性質は,高等学校「数学 」の「整数の性質」で も扱っている内容で,ユークリッドの互除法,よ り原点に返れば,整数の割り算原理を利用すれば 示せる性質で,もちろん素因数分解とその一意性 などは利用せずに証明できる.したがって,高校 生でも理解できる範囲の内容であり,そうでなく とも教師にとっては理論的な流れの一つとして確 認しておくと役立つであろう.

素元と既約元,および,既約元による既約元分 解とその一意性(素因数分解とその一意性の一般 化)については,次の定理が成り立つ(代数学の

本,たとえば, 参照).

命題 を既約元分解(素因数分解の一般化)

が可能な整域とする.このとき次は同値である.

素元と既約元は一致する. 既約元分解は一意的である.

この命題から,既約元が素元の性質を持たなけ れば,既約元分解の一意性は成り立たないことが わかる.したがって,素因数分解の一意性におい ても素数が素元の性質をもつことが本質的なの

である.前編 で紹介したが,整域では既

約元と素元の概念は必ずしも一致しない.このこ とは,整域において既約元による既約元分解の一 意性が成り立つとは限らないことに繋がる.した がって,整数の性質に関する命題がどのような事 柄に起因したものかを知ることは大切なことで ある.

既約元の定義

この節では既約元の定義について注意を述べ る.その前に可換環と整域の定義を確認してお こう.

定義 3.1 (可換環) 集合Rに加法+と乗法·が

定義されていて,次の条件(1)から(8)を満たす

とき,Rを可換環という.

(1) (加法の結合律)任意の a, b, c ∈R に対し

て(a+b) +c=a+ (b+c)が成り立つ.

(2) (零元の存在)任意のa∈Rに対してa+0 =

0 +a=aとなる零元と呼ばれる元0∈R

が存在する.

(3) (加法の逆元の存在) 任意のa∈ Rに対し

てa+b=b+a= 0 となるaの逆元と呼

ばれる元b∈Rが存在する.

(4) (加法の交換律)任意の a, b∈R に対して

a+b=b+aが成り立つ.

(5) (乗法の結合律)任意の a, b, c ∈R に対し て(a·b)·c=a·(b·c)が成り立つ.

(6) (単位元の存在) 任意の a ∈ Rに対して a·1 = 1·a = a となる単位元と呼ばれ

る元1∈Rが存在する.

(7) (乗法の交換律)任意の a, b∈R に対して

a·b=b·aが成り立つ.

(8) (分配律)任意のa, b, c∈Rに対してa·(b+

c) =a·b+a·cおよび(a+b)·c=a·c+b·c

が成り立つ.

なお,(7)の乗法の交換律を除く,(1)~(6)と(8)

を満たすとき,Rを非可換環という.

可換環の代表的な例は,整数全体の集合Zや実

数係数の多項式全体の集合R[x]である.次に定

義2.2で登場した整域について確認しておこう.

定義 3.2 (整域) 可換環Rが0以外の零因子を

もたない,つまり,a, b∈Rに対して

ab= 0ならばa= 0またはb= 0

が成り立つとき,Rを整域という.

可換環の代表例であるZやR[x]は整域である.

一方,「整数の性質」が新しく導入されたことに

よって高等学校数学から姿を消した2次の正方行

列全体の集合は,非可換環であり(AB̸=BAと

なる2次の正方行列A, Bが存在する),さらに

零因子をもつので(AもBも零行列ではないが

ABが零行列となる2次の正方行列A, Bが存在

する),整域ではない非可換環の代表例である. 可換環と整域の定義を確認したところで,既約 元の定義について述べていく.

となる整数k, lが存在する.この両辺にbを掛け

れば,

p|kab+lpb=b

が従うので,p|bとなる.つまり,p∤aのとき

には常にp|bが成り立つ.以上より,素数pは

p|abならばp|aまたはp|bを満たすことがわ

かる. □

なお,ここで利用した2元1次不定方程式の

性質は,高等学校「数学A」の「整数の性質」で

も扱っている内容で,ユークリッドの互除法,よ り原点に返れば,整数の割り算原理を利用すれば 示せる性質で,もちろん素因数分解とその一意性 などは利用せずに証明できる.したがって,高校 生でも理解できる範囲の内容であり,そうでなく とも教師にとっては理論的な流れの一つとして確 認しておくと役立つであろう.

素元と既約元,および,既約元による既約元分 解とその一意性(素因数分解とその一意性の一般 化)については,次の定理が成り立つ(代数学の

本,たとえば,[Kid07]参照).

命題 2.5 Rを既約元分解(素因数分解の一般化)

が可能な整域とする.このとき次は同値である.

(1) 素元と既約元は一致する.

(2) 既約元分解は一意的である.

この命題から,既約元が素元の性質を持たなけ れば,既約元分解の一意性は成り立たないことが わかる.したがって,素因数分解の一意性におい ても素数が素元の性質をもつことが本質的なの

である.前編[Tay15]で紹介したが,整域では既

約元と素元の概念は必ずしも一致しない.このこ とは,整域において既約元による既約元分解の一 意性が成り立つとは限らないことに繋がる.した がって,整数の性質に関する命題がどのような事 柄に起因したものかを知ることは大切なことで ある.

3

既約元の定義

この節では既約元の定義について注意を述べ る.その前に可換環と整域の定義を確認してお こう.

定義 可換環 集合 に加法 と乗法 が

定義されていて,次の条件 から を満たす

とき, を可換環という.

加法の結合律 任意の に対し

て が成り立つ.

零元の存在 任意の に対して

となる零元と呼ばれる元 が存在する.

加法の逆元の存在 任意の に対し

て となる の逆元と呼

ばれる元 が存在する.

加法の交換律 任意の に対して

が成り立つ.

乗法の結合律 任意の に対し

て が成り立つ.

単位元の存在 任意の に対して

となる単位元と呼ばれ

る元 が存在する.

乗法の交換律 任意の に対して

が成り立つ.

分配律 任意の に対して

および が成り立つ.

なお, の乗法の交換律を除く, ~ と

を満たすとき, を非可換環という.

可換環の代表的な例は,整数全体の集合 や実

数係数の多項式全体の集合 である.次に定

義 で登場した整域について確認しておこう.

定義 整域 可換環 が 以外の零因子を

もたない,つまり, に対して

ならば または

が成り立つとき, を整域という.

可換環の代表例である や は整域である.

一方,「整数の性質」が新しく導入されたことに

よって高等学校数学から姿を消した 次の正方行

列全体の集合は,非可換環であり( と

なる 次の正方行列 が存在する),さらに

零因子をもつので( も も零行列ではないが

が零行列となる 次の正方行列 が存在

(5)

先の節で素数の定義に起因する概念として既 約元の定義を述べた.しかし,この定義は代数学 のテキストで学んだ既約元の定義と違うのでは ないかと思った方もいるのではないだろうか.そ れはおそらく次のような定義がテキストに書か れていたためであろう.

定義 3.3 (既約元(その2)) Rを可換環とする.

Rの零元でも単元でもない元πが既約元である

とは,α, β∈Rについて,

π=αβならばα=単元またはβ=単元

を満たすこととする.

定義2.2と3.3とを比べると,表現は微妙に違

う.これらの関係はどのようになっているのであ ろうか.実は,整域においては両者の定義は一致 する.しかし,可換環においては若干注意が必要 である.このことを説明していく.

まず,次のことは簡単にわかる.

命題 3.4 可換環Rにおいて,既約元(その2)の

定義を満たす元は(Rを可換環としても)既約元

(その1)の定義を満たす.

(証明)π∈Rを既約元(その2)の定義を満たす

既約元とし,α∈Rについてα|πとする.この

とき,αが単元ならば既約元(その1)の定義を

満たす.そこで,αは単元でないとする.最初の

仮定よりπ =αβとなるβ ∈Rが存在する.既

約元(その2)の定義より必然的にβは単元でな

ければならない.よって,π =α×単元 とかけ

る.ここで,単元には逆元が存在し,その逆元も

単元であるので,α=π×単元 が得られる.し

たがって,πは既約元(その1)の定義を満たすこ

とがわかる. □

しかしながら,次の例からわかるように,Rを

可換環と仮定した命題 3.4の逆は成り立たない.

例 3.5 整数を6で割ったときに余りとして現れ

る整数全体の集合をR={0,1,2,3,4,5}とする.

このとき,通常の整数としての和を6で割ったと

きの余りの値をRでの和と定め,通常の整数と

しての積を6で割ったときの余りの値をRでの

積と定めると,Rは可換環になる.Rは整数Zの

法6による剰余環と呼ばれ,記号でZ/6Zと表さ

れる.たとえば,

であり, となる.さ

らに, と の積は であるので,

は整域ではない可換環であることに注

意する.すぐにわかるように, におい

て, が零元, が単位元, と が単元である. において,結果が となる つの元の 積を調べれば,

ですべてである.よって, は既約元 その の

定義を満たすが, は の単元ではない

ので既約元 その の定義は満たさない.した

がって,可換環では命題 の逆は一般には成り

立たない.

例 では整域でない可換環を例としてあげ

た.整域でない可換環と整域との違いは,零因子 と呼ばれる元,つまり, も も ではないがそ

の積 が となる元が存在するかしないかであ

る(定義 参照).そこで,既約元の定義にお

いて, は零因子でも単元でもない元としてみよ う.すると,実は両者の定義は一致する.

命題 可換環 において, の零因子でも単

元でもない元 について,次の 条件は同値で ある.

既約元 その について,

ならば 単元 または 単元 で

ある.

既約元 その について,

ならば 単元 または 単元 で

ある.

証明 が成り立つことは命題 で示

した.よって,この逆を示す.

は を満たす元とし, について

とする.仮に は満たさない,つま

り, も も単元でないとして矛盾を導く.ま

ず かつ より, を満たすことから

単元 かつ 単元 でなければならな

い.つまり,ある単元 があって

と書ける.よって, となる.こ

のとき, となるが,仮定より

は単元ではないので より, は零因子と

なる.しかし,これは の仮定に矛盾する.よっ

て, は を満たし, が示せた.

先の節で素数の定義に起因する概念として既 約元の定義を述べた.しかし,この定義は代数学 のテキストで学んだ既約元の定義と違うのでは ないかと思った方もいるのではないだろうか.そ れはおそらく次のような定義がテキストに書か れていたためであろう.

定義 既約元 その を可換環とする.

の零元でも単元でもない元 が既約元である

とは, について,

ならば 単元または 単元

を満たすこととする.

定義 と とを比べると,表現は微妙に違

う.これらの関係はどのようになっているのであ ろうか.実は,整域においては両者の定義は一致 する.しかし,可換環においては若干注意が必要 である.このことを説明していく.

まず,次のことは簡単にわかる.

命題 可換環 において,既約元 その の

定義を満たす元は( を可換環としても)既約元

その の定義を満たす.

証明 を既約元 その の定義を満たす

既約元とし, について とする.この

とき, が単元ならば既約元 その の定義を

満たす.そこで, は単元でないとする.最初の

仮定より となる が存在する.既

約元 その の定義より必然的に は単元でな

ければならない.よって, 単元 とかけ

る.ここで,単元には逆元が存在し,その逆元も

単元であるので, 単元 が得られる.し

たがって, は既約元 その の定義を満たすこ

とがわかる.

しかしながら,次の例からわかるように, を

可換環と仮定した命題 の逆は成り立たない.

例 整数を で割ったときに余りとして現れ

る整数全体の集合を とする.

このとき,通常の整数としての和を で割ったと

きの余りの値を での和と定め,通常の整数と

しての積を で割ったときの余りの値を での

積と定めると, は可換環になる. は整数 の

法 による剰余環と呼ばれ,記号で と表さ

れる.たとえば,1 + 3 = 4, 3 + 5 = 2, 5 + 0 = 5

であり,1·5 = 5, 2·5 = 4, 5·5 = 1となる.さ らに,3̸= 0と4̸= 0の積は3·4 = 0であるので,

R=Z/6Zは整域ではない可換環であることに注

意する.すぐにわかるように,R=Z/6Zにおい

て,0が零元,1が単位元,1と5が単元である.

R=Z/6Zにおいて,結果が3となる2つの元の

積を調べれば,3 = 1·3 = 3·1 = 3·3 = 3·5 = 5·3

ですべてである.よって,3は既約元(その1)の

定義を満たすが,3はR=Z/6Zの単元ではない

ので既約元(その2)の定義は満たさない.した

がって,可換環では命題3.4の逆は一般には成り

立たない.

例 3.5では整域でない可換環を例としてあげ

た.整域でない可換環と整域との違いは,零因子

と呼ばれる元,つまり,aもbも0ではないがそ

の積abが0となる元が存在するかしないかであ

る(定義3.2参照).そこで,既約元の定義にお

いて,πは零因子でも単元でもない元としてみよ

う.すると,実は両者の定義は一致する.

命題 3.6 可換環Rにおいて,Rの零因子でも単

元でもない元πについて,次の2条件は同値で

ある.

(1) (既約元(その1)) α∈Rについて,α |π

ならばα = 単元 またはα = π×単元 で

ある.

(2) (既約元(その2))α, β∈Rについて,π=

αβならばα = 単元 またはβ = 単元 で

ある.

(証明) (2)⇒(1)が成り立つことは命題3.4で示 した.よって,この逆を示す.

πは(1)を満たす元とし,α, β ∈Rについて

π = αβとする.仮に (2)は満たさない,つま

り,αもβ も単元でないとして矛盾を導く.ま

ずα |πかつβ |πより,(1)を満たすことから

α=π×単元 かつβ=π×単元 でなければならな

い.つまり,ある単元δ, ε∈Rがあってα=πδ,

β=πεと書ける.よって,π=π2δεとなる.こ

のとき,π(1−πδε) = 0となるが,仮定よりπ

は単元ではないので1̸=πδεより,πは零因子と

なる.しかし,これはπの仮定に矛盾する.よっ

て,πは(2)を満たし,(1)⇒(2)が示せた.□

(6)

とくに, が整域であれば,零因子は零元だけ であるので,次が成り立つ.

命題 を整域とし, を零元でも単元でも

ない の元とするとき, が既約元 その の

定義により既約元となることと既約元 その の

定義により既約元となることは同値である.

以上より,既約元 その の定義と既約元 そ

の の定義はそのままでは本質的に微妙な差は

あるが, を整域と仮定するか,または,既約元 の対象となる元を零因子でも単元でもない元と すれば,全く同値なものとなる.

ユークリッド整域

第 章で素数の既約元性(定義)から素元性

(命題 )が従うことを 元 次不定方程式の

性質を利用して証明した.この性質はユークリッ ドの互除法から従うものであるが,ユークリッド の互除法は次の割り算原理と最大公約数の定義 から得られる.

定理 割り算原理(除法定理) と を整

数とし, とする.このとき,

を満たす整数 がただ一組存在する.

この節では,割り算原理が成り立つ整域である ユークリッド整域について簡単な注意を述べる.

ユークリッド整域の定義をいくつかのテキスト で調べると,微妙に違っていることがある.代表 的なものを以下にあげてみる.

定義 ユークリッド整域の定義 を 整

域とし, から の零元を除いた集合を と

する.つまり, とする.このとき,

から自然数全体の集合 への写像 で次の

条件を満たすものが存在するとき, をユーク リッド整域という.

の元 と元 に対して,

または

となる の元 が存在する.

定義 4.3 (ユークリッド整域の定義2) R を 整

域とする.Rから0以上の整数全体の集合Z0

への写像ϕで次の条件を満たすものが存在する

とき,Rをユークリッド整域という.

(1) Rの元aについて,ϕ(a) = 0とa= 0は 同値である.

(2) Rの元aと元b̸= 0に対して,

a=bq+r, ϕ(r)< ϕ(b)

となるRの元q, rが存在する.

定義 4.4 (ユークリッド整域の定義3) R を 整

域とし,RからRの零元を除いた集合をR0と

する.つまり,R0=R− {0}とする.このとき,

R0から0以上の整数全体の集合Z≥0への写像ϕ

で次の条件を満たすものが存在するとき,Rを

ユークリッド整域という.

(1) Rの零でない元aとbについて,ϕ(a) ≤

ϕ(ab)となる.

(2) Rの元aとb̸= 0に対して,

a=bq+r, r= 0またはϕ(r)< ϕ(b)

となるRの元q, rが存在する.

なお,ユークリッド整域の定義では,割り算原

理に相当する条件においてqとrはただ一組で

あることを要求していない.一意的でなくとも存 在しさえすればよいのである.

さて,これらの定義を比べると,ϕの定義域と

値域は多少違うが,これは簡単に調整できる差

であり,ここで取り上げたいことは,定義4.3と

4.4では2つの条件が課されているという点であ

る.そして,実は,これら2つの条件のうち,定

義4.3と4.4における条件(1)は不要であるとい

うことを述べる.

そのために,定義 4.2を標準の定義とし,定

義4.2を満たせば,定義4.3も4.4も満たすこと

を確認する.

まず,定義 4.3の条件(1)についてであるが,

定義4.2を満たすϕが存在すれば,Rの元a̸= 0

に対してϕ(a) > 0であるので,ϕの定義域と

値域を広げて,Rから0以上の整数全体の集合

Z0への写像ϕとしてϕ(0) = 0と定めれば,こ

れで定義 4.3の条件(1)をϕが満たす.このと

とくに,Rが整域であれば,零因子は零元だけ

であるので,次が成り立つ.

命題 3.7 Rを整域とし,πを零元でも単元でも

ないRの元とするとき,πが既約元(その1)の

定義により既約元となることと既約元(その2)の

定義により既約元となることは同値である.

以上より,既約元(その1)の定義と既約元(そ

の2)の定義はそのままでは本質的に微妙な差は

あるが,Rを整域と仮定するか,または,既約元

の対象となる元を零因子でも単元でもない元と すれば,全く同値なものとなる.

4

ユークリッド整域

第2章で素数の既約元性(定義)から素元性

(命題2.3)が従うことを2元1次不定方程式の

性質を利用して証明した.この性質はユークリッ ドの互除法から従うものであるが,ユークリッド の互除法は次の割り算原理と最大公約数の定義 から得られる.

定理 4.1 (割り算原理(除法定理)) aとbを整

数とし,b̸= 0とする.このとき,

a=bq+r, 0≤r <|b|

を満たす整数q, rがただ一組存在する.

この節では,割り算原理が成り立つ整域である ユークリッド整域について簡単な注意を述べる.

ユークリッド整域の定義をいくつかのテキスト で調べると,微妙に違っていることがある.代表 的なものを以下にあげてみる.

定義 4.2 (ユークリッド整域の定義1) R を 整

域とし,RからRの零元を除いた集合をR0と

する.つまり,R0=R− {0}とする.このとき,

R0から自然数全体の集合N への写像ϕで次の

条件を満たすものが存在するとき,Rをユーク

リッド整域という.

(1) Rの元aと元b̸= 0に対して,

a=bq+r, r= 0またはϕ(r)< ϕ(b)

となるRの元q, rが存在する.

定義 ユークリッド整域の定義 を 整

域とする. から 以上の整数全体の集合

への写像 で次の条件を満たすものが存在する

とき, をユークリッド整域という.

の元 について, と は

同値である.

の元 と元 に対して,

となる の元 が存在する.

定義 ユークリッド整域の定義 を 整

域とし, から の零元を除いた集合を と

する.つまり, とする.このとき,

から 以上の整数全体の集合 への写像

で次の条件を満たすものが存在するとき, を ユークリッド整域という.

の零でない元 と について, となる.

の元 と に対して,

または

となる の元 が存在する.

なお,ユークリッド整域の定義では,割り算原 理に相当する条件において と はただ一組で あることを要求していない.一意的でなくとも存 在しさえすればよいのである.

さて,これらの定義を比べると, の定義域と 値域は多少違うが,これは簡単に調整できる差

であり,ここで取り上げたいことは,定義 と

では つの条件が課されているという点であ る.そして,実は,これら つの条件のうち,定

義 と における条件 は不要であるとい

うことを述べる.

そのために,定義 を標準の定義とし,定

義 を満たせば,定義 も も満たすこと

を確認する.

まず,定義 の条件 についてであるが,

定義 を満たす が存在すれば, の元

に対して であるので, の定義域と

値域を広げて, から 以上の整数全体の集合

への写像 として と定めれば,こ

(7)

(平成29年₉月29日受理)

き,同時に定義4.3の条件(2)も満しているので,

定義4.2のϕが存在すれば定義 4.3のϕも存在

する.

注意 4.5 定義4.3のように,ϕをRから0以上

の整数全体の集合Z≥0への写像として,さらに,

条件(2)の余りの条件をϕ(r)< ϕ(b)としていれ

ば,そもそも条件(1)は不要である.なぜならば,

ρをRからZ≥0への写像で定義 4.3の条件(2)

を満たすものとする.このとき,Rの元b̸= 0に

ついて,a∈Rを補助的にとれば,条件(2)より

ρ(r)< ρ(b)となるRの元rが存在する.よって,

必然的にρは0のとき最小値をとり,かつ,最

小値をとるRの元は0だけとなる.そこで,R

の元aに対して写像ϕをϕ(a) =ρ(a)−ρ(0)に

より定めれば,ϕはRからZ≥0への写像であり,

条件(1)を満たすと共に,条件(2)の余りの不等

式も満足することがわかる.つまり,定義4.3の

2条件を満たす.したがって,条件(1)は必要な

いということになる.

次に,定義 4.4の条件(1)についてみてみる.

まず,定義4.2を満たすϕが存在したとする(こ

のことは,定義4.4の条件(2)を満たすϕが存在

するとしても同じである).このとき,Rの零で

ない元aに対して,

ρ(a) = min

b∈R,ab̸=0ϕ(ab)

によって写像ρを定める.ここで,minはab̸= 0

となるRの元bをすべて動かしたときのϕ(ab)

のとる値の最小値を表す.これはR0からNへの

写像であり,よって,とくにR0からZ≥0への写

像でもある.

さて,Rの元aと元b̸= 0に対して,ρの定義

より,bc̸= 0でρ(b) =ϕ(bc)となるc∈Rが存

在する.このとき,ϕの定義より,a= (bc)q+r

をみたし,かつ,r= 0またはϕ(r)< ϕ(bc)とな るRの元q, rが存在する.これをa=b(cq) +r とみれば,ρ(r)≤ ϕ(r)< ϕ(bc) =ρ(b)より,ρ

は定義4.4の条件(2)を満たす.さらに,任意の

a, b∈Rについて,ab̸= 0ならば,abはaの倍 元となることとρの作り方よりρ(a)≤ρ(ab)が

成り立つ.したがって,とくにRが整域であれ

ば,ρは定義4.4の条件(1)を満たす.以上より,

定義 を満たす が存在すれば,定義 を満

たす も存在することがわかる(論文

参照).

以上のことは,高校数学という立場で眺めると 少々難しいことに思えるかもしれないが,ユーク リッド整域は単項イデアル整域であり,単項イデ アル整域は一意分解整域(既約元による既約元分 解とその一意性が成り立つ整域)となり,この流 れによって整数の割り算原理から素因数分解とそ の一意性が成り立つことが一般的に理解できる ので,その出発点としてのユークリッド整域の定

義についてここで取り上げた.「整数の性質」の

バックグラウンドを学ぶことは教科書の内容を理 解する上で大切である.本稿前半の内容と合わせ て参考となれば幸いである.

前編の訂正 前編 の訂正を与える.

の定義 において,「 を可換環とする」 を「 を整域とする」に訂正.これは今回の第

章の内容とも関係する.

で登場するイデアル「 」を「 」 に訂正( 箇所).ここで, は に存在す る唯一つの無限素点(その実体は共役写像)で あり, の同型は

となる(無限素点も分岐する).

参考文献

木田雅成 数理 情報系のための整数論講義, ライブラリー ,サイエンス社 年 月

田谷久雄 高等学校数学での整数の性質につ いての注意 素数の定義と素因数分解およびそ の拡がり ,宮城教育大学紀要 第 号

文部科学省 高等学校学習指導要領解説 平成 年 月

田谷 久雄

宮城教育大学 数学教育講座 仙台市青葉区荒巻字青葉

き,同時に定義 の条件 も満しているので,

定義 の が存在すれば定義 の も存在

する.

注意 定義 のように, を から 以上

の整数全体の集合 への写像として,さらに,

条件 の余りの条件を としていれ

ば,そもそも条件 は不要である.なぜならば,

を から への写像で定義 の条件

を満たすものとする.このとき, の元 に

ついて, を補助的にとれば,条件 より

となる の元 が存在する.よって,

必然的に は のとき最小値をとり,かつ,最

小値をとる の元は だけとなる.そこで,

の元 に対して写像 を に

より定めれば, は から への写像であり,

条件 を満たすと共に,条件 の余りの不等

式も満足することがわかる.つまり,定義 の

条件を満たす.したがって,条件 は必要な

いということになる.

次に,定義 の条件 についてみてみる.

まず,定義 を満たす が存在したとする(こ

のことは,定義 の条件 を満たす が存在

するとしても同じである).このとき, の零で ない元 に対して,

によって写像 を定める.ここで, は

となる の元 をすべて動かしたときの

のとる値の最小値を表す.これは から への

写像であり,よって,とくに から への写

像でもある.

さて, の元 と元 に対して, の定義

より, で となる が存

在する.このとき, の定義より,

をみたし かつ, または とな

る の元 が存在する.これを

とみれば, より,

は定義 の条件 を満たす.さらに,任意の

について, ならば, は の倍

元となることと の作り方より が

成り立つ.したがって,とくに が整域であれ

ば, は定義 の条件 を満たす.以上より,

定義4.2を満たすϕが存在すれば,定義4.4を満

たすϕも存在することがわかる(論文[Sam71]

参照).

以上のことは,高校数学という立場で眺めると 少々難しいことに思えるかもしれないが,ユーク リッド整域は単項イデアル整域であり,単項イデ アル整域は一意分解整域(既約元による既約元分 解とその一意性が成り立つ整域)となり,この流 れによって整数の割り算原理から素因数分解とそ の一意性が成り立つことが一般的に理解できる ので,その出発点としてのユークリッド整域の定

義についてここで取り上げた.「整数の性質」の

バックグラウンドを学ぶことは教科書の内容を理 解する上で大切である.本稿前半の内容と合わせ て参考となれば幸いである.

前編の訂正 前編[Tay15]の訂正を与える.

1. p.101の定義2.2において,「Rを可換環とする」 を「Rを整域とする」に訂正.これは今回の第 3章の内容とも関係する.

2. p.107で登場するイデアル「(20)」を「(20)p∞」

に訂正(4箇所).ここで,p∞はQに存在す

る唯一つの無限素点(その実体は共役写像)で あり,p.107の同型は

CQ((20)p∞)/HQ((20)p∞)

≃Gal(Q(√−5)/Q) となる(無限素点も分岐する).

参考文献

木田雅成 数理 情報系のための整数論講義, ライブラリー ,サイエンス社 年 月

田谷久雄 高等学校数学での整数の性質につ いての注意 素数の定義と素因数分解およびそ の拡がり ,宮城教育大学紀要 第 号

文部科学省 高等学校学習指導要領解説 平成 年 月

田谷 久雄

宮城教育大学 数学教育講座 仙台市青葉区荒巻字青葉 き,同時に定義 の条件 も満しているので,

定義 の が存在すれば定義 の も存在 する.

注意 定義 のように, を から 以上 の整数全体の集合 への写像として,さらに,

条件 の余りの条件を としていれ

ば,そもそも条件 は不要である.なぜならば, を から への写像で定義 の条件 を満たすものとする.このとき, の元 に ついて, を補助的にとれば,条件 より となる の元 が存在する.よって, 必然的に は のとき最小値をとり,かつ,最 小値をとる の元は だけとなる.そこで,

の元 に対して写像 を に

より定めれば, は から への写像であり, 条件 を満たすと共に,条件 の余りの不等 式も満足することがわかる.つまり,定義 の 条件を満たす.したがって,条件 は必要な いということになる.

次に,定義 の条件 についてみてみる. まず,定義 を満たす が存在したとする(こ のことは,定義 の条件 を満たす が存在 するとしても同じである).このとき, の零で ない元 に対して,

によって写像 を定める.ここで, は となる の元 をすべて動かしたときの のとる値の最小値を表す.これは から への 写像であり,よって,とくに から への写 像でもある.

さて, の元 と元 に対して, の定義

より, で となる が存

在する.このとき, の定義より,

をみたし かつ, または とな

る の元 が存在する.これを

とみれば, より,

は定義 の条件 を満たす.さらに,任意の について, ならば, は の倍

元となることと の作り方より が

成り立つ.したがって,とくに が整域であれ ば, は定義 の条件 を満たす.以上より,

定義 を満たす が存在すれば,定義 を満 たす も存在することがわかる(論文 参照).

以上のことは,高校数学という立場で眺めると 少々難しいことに思えるかもしれないが,ユーク リッド整域は単項イデアル整域であり,単項イデ アル整域は一意分解整域(既約元による既約元分 解とその一意性が成り立つ整域)となり,この流 れによって整数の割り算原理から素因数分解とそ の一意性が成り立つことが一般的に理解できる ので,その出発点としてのユークリッド整域の定 義についてここで取り上げた.「整数の性質」の バックグラウンドを学ぶことは教科書の内容を理 解する上で大切である.本稿前半の内容と合わせ て参考となれば幸いである.

前編の訂正 前編 の訂正を与える. の定義 において,「 を可換環とする」 を「 を整域とする」に訂正.これは今回の第

章の内容とも関係する.

で登場するイデアル「 」を「 」

に訂正( 箇所).ここで, は に存在す

る唯一つの無限素点(その実体は共役写像)で

あり, の同型は

となる(無限素点も分岐する).

参考文献

[Kid07] 木田雅成,数理·情報系のための整数論講義,

SGCライブラリー58,サイエンス社, 2007年9

月.

[Tay15] 田谷久雄,高等学校数学での整数の性質につ いての注意 –素数の定義と素因数分解およびそ の拡がり–,宮城教育大学紀要,第50号, 2015, pp. 99-107.

[Mb09] 文部科学省,高等学校学習指導要領解説,平成

21年12月.

[Sam71] Samuel, Pierre. About Euclidian Rings, Journal of Algebra19(1971), pp.282-301.

田谷 久雄(TAYA Hisao)

宮城教育大学 数学教育講座

参照

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