法と社会シケプリ
レジュメは各自ダウンロードして下さい。基本的にこのシケプリはレ ジュメに補足を加える形にしたいと思います。授業内容が必ずしもレ ジュメの順番に沿っていないことがありますが、そこのところは各自臨 機応変に対応して下さい。そもそも、シケ対である僕がほとんど授業に 参加していないので、このシケプリの信憑性や、このシケプリが試験に 有効なのかは甚だ怪しいものです。あんまり信用しないほうが良いと思 われます。申し訳ない。upload されている過去問(3 年分)は見といてく ださい。
1、 法と社会
ⅰ桶川ストーカ事件・・・刑事訴訟で勝った後、民事訴訟でも勝利。
⇒民事において殺人は、不法行為によって損害を与えたものとして扱 われる。被告に財産があれば、損害賠償を受け取ることができるが、 この場合、遺族が民事に訴えた意味はほかにあるのではないか。自 分の娘の死を合理的に究明したい、娘の無実を晴らしたい等々。 東京駅構内コンビニ万引き事件・・・万引きを捕まえようとしたコ ンビニの店長が、無銭の万引き犯に殺される。刑事訴訟・民事訴訟 ともに勝利。
⇒万引き犯は財産がない。8370 万円の判決に意味があるのだろうか。
法学においては、事実とそれに沿った法の運用の議論に終始し、答 え(判決)がでた時点で、思考停止に陥る場合が多い。法は本当に 正義を実現できるのだろうか。
ⅱ医療過誤についての新規の訴訟数 H5:442 件→H14:896 件 社会のトレランスの低下? マスコミの同調?:「医者叩き」
「紛争展開」モデル 被害の発生→未認知
↘認知→泣き寝入り ↘苦情→相手の受諾
↘相手の拒絶→紛争→交渉
↘申し立て→調停・仲裁・訴 訟
詳しい図はレジュメ参照。
この図を見れば、ある被害が発生しても、それが現代の法学の扱う領 域(訴訟など)に至るには、多数の段階が存在することが分かる。先 にふれた、医療過誤訴訟の増加も、被害の発生自体が増えたというよ り、被害全体のうち訴訟などに至って顕在化する事例が増えたととら えるべき。
アメリカでの調査~どのくらいの被害者が訴えるのか~
Tort 不法行為、Discrimination 人種・性差別、Post-divorce 離婚
⇒アメリカでさえもなかなか訴訟に至らないという現実。
アメリカでは 44000 人が医療過誤で死んでいるという事実
⇔都立病院では 60 万件の事故、入院者数の 4.6%に事故が発生。 →900 件という訴訟数がいかに少ないかがわかる。
教訓:法解釈とは別に、法の real な運用に着目するべき。 2、 法解釈・・・法のイメージとの相違
法は平和的紛争解決手段と言える。法を、論理的説得力と常識的判 断を兼ね備えた法的思考力(リーガル・マインド)によって解釈す ることで、妥当な解決策を考えることが目的。
その解釈の上で重要なのは具体的事例(現実に起こっている問題) に沿って運用することである。そこで、法解釈の上で次のような問 題に直面する。
・文言の多義性
・法の不完全性
・社会の変動性≒法の硬直性 3、裁判の見方
1)なぜ被害者は裁判を起こすのか 2)裁判を起こすのに必要なものは何か 3)弁護士はどのように探すのか
4)裁判が当事者へ与える影響→経済的・心理的コスト 訴訟のコスト(原告側)
1 経済的コスト~5000 万円請求の場合(請求の基準は将来の稼 ぎ
の見込み) ⅰ)訴訟費用
ⅱ)弁護士費用←一般家庭では大きな負担 ⅲ)弁護士の調査費用
⇒勝つ保証がなくても、350 万~450 万の負担を強いられる。 2 心理的コスト
そもそも訴訟は不幸に起因するため、原告側の心理的コストは必 然的に大きいものになる。
ⅰ)「あの時ああしていれば・・・。こうしていれば・・・。」と いう自責の念。
ⅱ)相手側の対応・弁護士の対応・裁判所の反応・世間の風当たり ex.「悲しき勝訴」
訴訟のコスト(被告側) 1 経済的コスト(病院)
ⅰ)裁判沙汰→評判の低下=病院経営に直結
ⅱ)経営陣と医師の間に亀裂
ⅲ)弁護士費用
ⅳ)ミスをした医師はクビ?
2 心理的コスト(ミスをした医師)
ⅰ)病院内での孤立
ⅱ)医師としての評判低下
ⅲ)医師として、患者を死なせたことに自責の念(そもそも、「人 を助けたい」いう思いからこの仕事に従事しているはずであり、こ の思いは相当あるのではないか。)
紛争化の過程
被害の発生→被害の認識→加害者の特定→加害者への苦情
→加害者との交渉→訴訟・調停・仲裁(大変な obstacle race)
弁護士に相談しても・・・過失なしと判断されたりして、泣き寝入りす る事例が 96%。訴訟に持ち込んでも、勝つか負けるかは半々。さらに、 裁判所が判決を下すとも限らない。裁判所の強い要請により和解に持ち 込まれることもある。
*訴訟に至るまでに多数の段階が存在し、なかなか訴訟に至らないとい
う点は民事に限らず刑事裁判でも言えることである。
3、 医療過誤訴訟での加害者・被害者の思い 本事件での紛争化過程
「死因」の特定の難しさ
→例えば、手術中に死んだとき、その原因が執刀した医師にある のか、補助していた看護師にあるのか、本人の病気・怪我にあるの か判断することは難しい。そこには高度な専門性もかかわってくる。
訴訟へ踏み出す
→不信の念+その不信を裏付ける事柄(他の医師の意見など) そして、「自分は可哀そうな被害者」という意識から、「子供・社 会のために自分には何かができる」という自己のパラダイム変換が 必要。
弁護人探し
→多数の弁護士の中から、自分たちの境遇に理解を示し、裁判におい て自分たちの意見を代弁してくれる弁護人を見つける。意見の相違 がみられることもしばしば。しかし、裁判の専門性故に雇わないわ けにもいかない・・・。
4、 医療訴訟の難しさ
・死因の特定の難しさ
・弁護士は医学に関しては素人である→弁護士二人体制=コスト上 昇
・協力してくれる医療従事者の少なさ
・裁判において勝訴しても、「真実」が明らかになるとは限らない ・・・etc
裁判の判決に頼らない解決法
1 和解:早期解決・低コスト。真摯な謝罪が得られる?
和解は双方の納得を最優先するので、flexible な運用が可 能。そして、確実な履行が見込める。
一方で、正当な権利主張が阻害される可能性がある。 裁判所が和解勧告を出すこともしばしば。
2 調停:第三者(調停委員)が間に入って、話し合いの補助・促進 を行う。調停を受け入れるかどうかは自由。
3 仲裁:双方が合意した仲裁人による仲裁が行われる。双方は仲裁 に従う必要がある。
5、 司法権の独立と裁判官の独立
司法権の独立:司法権の行使が行政・立法機関その他から干渉・影 響
を受けずに独立してなされること。
裁判官の独立:司法権の独立を担保として、裁判官個人についても 一
切の干渉を排除すること。
⇒大津事件:児島惟謙は司法権の独立を守ったが、裁判官に書簡で 指
示を出す行為は、裁判官の独立を侵害しているのでは。
6、 医療過誤への刑事的視覚
ex.慈恵医大青戸病院事件・福島県立大野病院事件・東京女子医大事 件
医療と刑事規制-資格規制/医療行為と刑事規制
安楽死・治療の意図的差し止めと医療ミス→殺人行為に当たるのか
*行政が介入する事例も増えている。従来は医療と関係のない場面で 犯罪があったときのみ介入があった。
資格規制→本来、「国民の安全を守る」という意図で行われている も
の。本人・家族・医療従事者に負荷?cf.鈴花ちゃん事件 医療ミスと刑事規制→刑法 209・210・211 条
211条:業務上過失致死傷等…5 年以下の懲役 or50 万円以下の罰金 業務上必要な注意を怠った結果、人を死傷させた場合。 =反復継続の意思があることで認定される。
過失→どんなに小さなものでも、過失と認定され得る。 医師法 21 条:異状死の届出義務…処罰はほとんどない
死体を検案した結果、異状があれば警察に届け出る。 ⇒医療ミスでの死は「異状死」?…現状、ほとんど適用なし 黙秘権は無いのか・自白強制では?…ほとんど議論なし
⇒⇒⇒最近の動向
横浜市大病院事件+薬害 HIV 事件(旧ミドリ十字の血液製剤) の結果、マスコミが大きく取り上げるようになった。そして、刑事 訴追数や異状死届出数が上昇した。
これに対する医療界の批判:「故意ではない」ミスが刑事処罰の対 象とされるのは、日本だけである。 訴追の実際:かつては看護師・技師が多かった(注射ミスなど)。 大半は略式起訴により処理され、罰金となった(行政罰もなし)。 この背景には医師の場合過失の証明が難しいことが挙げられる。 ここ 10 年で略式命令による刑事処罰が急増している。
警察の心理:業務上過失致死として届けとかないと・・・ 検察の心理:不起訴にするわけにもいかない・・・
←マスコミのプレッシャか? 訴追される職種→医師が最も多い 訴追される病院→大学病院や国公立病院
*医療不信の進行を食い止めるために、医療ミスによると思われる異 状死・重篤な障害が発生した場合は全て警察に届ける傾向がある。こ れが刑事事件増加の一因。
さらに、刑事訴追に至るプロセスの中で、訴追するかどうかの判断基 準が存在しないことも問題である。これは、事例が少なすぎることに 起因している。
患者側にとっても、刑事訴追はデメリットがある
→必ずしも真実が明らかになるとは限らない
警察に証拠を保全されてしまうことで、民事訴訟の進行が滞る 病院側の態度が硬化する原因になりうる
検事も医療に関して素人→結果、無罪率が高まる 量刑の不均衡・・・
100%責任が医者にあるとき→和解 責任が 50:50 のとき→裁判沙汰 看護師の単純ミス→訴追されやすい 7、 医療過誤に対する刑事的規制
なるべく刑事訴追を避けたい→死因チェックする第三者機関の設立 過失ありなら、警察へ届出
仕方ない時は、患者と交渉
アメリカでの刑事訴追の事例 ex.Pap Scan事件
3 度目の検査で初めて陽性とわかる(技師の見落とし)。 この時点で余命わずかに。背景には、技師の給与体制が歩合制 で
あるがために、粗製濫造が行われていたことがある。
日米比較
日本:過失に対して広範な処罰が設けられている。例えば交通事犯。 医療ミスが起きた時、民事訴訟になると膨大な時間・コスト が
必要で、医療者のかばいあいになりかねない。
アメリカ:過失犯処罰は例外的となっている法体制。医療ミスに対 て、訴訟以外の alternative が用意されている。
行政処分
従来は、医師による診療報酬の不正請求が行政処分の対象の中心。 若しくは、医療とは無関係の犯罪が対象になっていた。また法務省 と厚生省の連携が乏しかったため、新聞記事の切り抜きによる情報 収集などが行われていた。
近年は、刑事処分の対象とならなかった事例を積極的に処罰しよう という動向が見られる。法務省と厚生労働省間の連携も緊密である。 しかし、厚生労働省内の医療審議会には調査機関が存在しないなど、 問題もある。
cf.オーストラリア:ヴィクトリア州の医師への懲戒が年 600 人 弁護士に依頼して医師を訴えてもらう。
日本:「お上」による制裁を期待。民事訴訟になると、「裁判沙 汰」
となり後ろ指を指される。
8、 末期医療と法
医療倫理≒臨床倫理⇔生命倫理(臨床+ゲノム解析の是非など) 生命倫理 4 原則・・・必ずしも正しい判断が導けるわけではなく、 現実的にはあまり役に立たないが…。
生命倫理 4 原則のみで生死に関わる問題を triage 出来るのか?→臨 床倫理の誕生
末期医療に対する法的分析:困難
9、「安楽死」と「尊厳死」
安楽死:積極的→薬を飲ませる(日本では違法) 消極的→治療を行わない
cf.間接的安楽死…痛みの緩和が死期を早める。緩和ケアの 向上により最近はあまり議論されない。 延命治療の中止←常に議論の的。本人の望まない治療は基本的にし て
はいけないという医業の同意原則。
尊厳死:回復の見込みがない患者の生命維持措置を断念・中止して、 品位を保ったまま死なせること。