「大都市圏政策についてご講演をお願い したい。」突然訪ねて来られて、そう依頼さ れてから町田市とのお付き合いが始まり、そ ろそろ3年になります。大都市、とりわけ東 京の研究者として、最近の日本の情勢は非 常にダイナミックです。
日本創成会議・人口減少問題検討分科 会が2014年5月に発表したレポート(増田 レポート)は2040年に日本の人口が急激 に減り、地方が危ないと指摘しました。東 京の一極集中がいけないという声も再び強 まり、安倍内閣は日本再興戦略の柱の一つ に地方創生を据えました。確かに人口の減 少が進み、産業が衰退した地方からすれ ば、東京が全てを奪ったと映っているのか もしれません。
しかし、東京への一極集中は集積が集積 を生むスケールメリットによる経済メカニズ ムからみれば理にかなった現象です。過去 50年以上も政策的に分散しようとしてもそれ が実現出来なかった理由がそこにあります。
結果として東京圏が日本経済をけん引してき た事実は否定できません。
町田市は、郊外都市として東京圏の成長 と共に発展してきました。しかし、2030年 には東京圏の人口も既に減少期に入って いると予想されています。そのような時代 に町田の様な郊外都市がどのような役割を 担い、東京圏の活力源の一つとなっている かが、日本の将来にとって重要なことだと 思っています。
私は常々、2030年までの15年間と、30 年から45年までの15年間の二つのターム で今後30年間の政策を考える必要がある と思っています。特に前半の15年間は、東 京圏が現在の人口以上のレベルで存在す るし、至近には五輪への準備もあります。こ の前半15年間にどこまで都市の力を上げ ておけるかで、人口が減少して新たな挑戦 が難しくなる後半15年間の東京圏を含めた 日本の行方が決まってきます。
この「まちだニューパラダイム」では、
2030年までに郊外都市の町田が都市の力 を上げていくために必要な、行政運営とま ちづくりにおける新しい価値観を提示してい ます。
15年間という長いようで短い期間をいか に充実した時間にできるか、戦略とスピード 感をもって取り組めるか、町田に関わる人々 の姿勢が問われています。2030年に「きら めく町田」を迎えるために、2015年という 年はまさにスタートの年といえるでしょう。そ れは同 時 に、 町 田 市 が郊 外 都 市として NO.1を宣言するためのきっかけになる年で もあると思います。
町 田 市 が 郊 外 都 市 として No. 1 を 宣 言 する た め の
きっ か け に な る 年 だ と思 い ま す 。
町田市未来づくり研究所 所長
市川宏雄
Hiroo Ichikawa|1947年東京
都生まれ。明治大学専門職大学 院長、公共政策大学院ガバナン ス研究科長・教授、明大危機管 理研究センター所長。 早稲田大学理工学部建築学科、 同大学院博士課程を経て、カナ ダ政府留学生としてウォーター ルー大学大学院博士Ph.D.(都市 地域計画)を取得。一級建築士。
Preface
町 田 市 が 郊 外 都 市 として を 宣 言 する た め の
きっ か け に な る 年 だ と思 い ま す 。
Contents 02 プロローグ_新たな価値観への転換
1 章 2 つの未来
寂れゆく町田の未来/きらめく町田の未来
04 1_寂れゆく町田の未来ときらめく町田の未来 2030 06 2_2つの未来シナリオ 2030(都市核・副次核・住宅地)
2 章 ニューパラダイム 1
SMART PUBLIC
――新しい公共サービスのカタチ 14 1_SMART PUBLICとは16 2_4つの核への集約と交通の強化――町田市版コンパクトシティ 18 3_経営的視点に立った公共サービス提供への変革
20 4_SMART PUBLIC [プロジェクト]
3 章 ニューパラダイム 2
GREEN ×PLAZA
――人が交流するまちへ 26 1_GREEN×PLAZAとは28 2_創造のPLAZA 29 3_暮らしのPLAZA
30 4_GREEN×PLAZA [プロジェクト]
4 章 提言の背景・根拠
なぜ ニューパラダイム が必要なのか
36 1_町田市が直面している課題 42 2_2つの未来の考え方 48 3_ニューパラダイムの評価
まちだニューパラダイム
2030 年に向けた町田の転換
町田市未来づくり研究所からの提言
01
人口減少、世界に類を見ない高齢化 の進展、高度経済成長期に造られたさ まざまな施設の老朽化……、日本の課 題として近年言われ続けているこれらの 課題はそのまま町田市が抱える課題で もあります。
2030年の町田の姿を議論する中で 我々が考えたことは、「町田の明るい未 来は、これまでの延長線上にはない。」 ということです。従来の延長線上に考 えられる未来は、財政難から市民サー ビスが低下し、人口―特にこれまで町 田の活力の源であった、若者や子育 て・働き盛りの世代が減少し、商業を 始めとする民間が提供するサービスま でもが低下する、という悪循環に陥って しまう未来です。
「こんな未来にはしたくない、どうした ら明るい未来になるのだろうか?」そん な想いで更に議論を重ね我々がたどり着 いたキーワードが、 ニューパラダイム=
新しい価値観 でした。人口が増加して いた時代の価値観ではなく、人口が減 少する時代に求められる新たな価値観 です。
それは2つあります。
1つは公共サービスの新しい価値観
[スマートパブリック]
SMART PUBLIC
もう1つはまちづくりの新しい価値観
[グリーン×プラザ]
GREEN ×PLAZA
この2つの価値観への転換がなされ たとき、町田市はこれからの時代の理 想的な都市への歩みを始めます。
本提言書は、基本計画でも都市計画 でもない、これからの町田市を考える上 での きっかけ として、我々未来づくり 研究所から、町田市へ贈る提言です。 Prologue
新たな価 値 観 へ の
転 換
東京圏の活力源となる 理想的な郊外都市へ 東京圏が
全国を牽引
町田の未来 きらめく
町田の未来 寂れゆく
● 4つの核への集約
● 4つの核への重点投資
● 交通機能の強化
● 公共サービス価格の適正化
● 新たな財源の確保
● 公共施設・市有地の民間開放
行 政
● 公共サービスの担い手へ
● 行政との連携
● 新たな事業の展開
● 交流によるイノベーションの創出
民 間
● 地域サービスの担い手へ
● 自然や農を活かした暮らし
● コミュニティ活動への参加
● 多様な住まい方の創出
● 自己表現・趣味活動の活発化
● 魅力的な空間・場の創出
市 民
YES
NO
02
原町田大通り/町田市
1 章 2 つの未来
寂れゆく町田の未来/きらめく町田の未来
1
JR横浜線
京王相模原線
Future
寂 れ ゆく町 田 の 未 来
2030
都市間競争の波に飲まれ、都市核・副次核の来街者や店舗は 減少し、就業や活動の場が徐々に無くなっていきます。市内の高 齢者の割合が急速に高まるなか、住宅地でも暮らしやすい環境 が維持できなくなるでしょう。「都市核」とは町田駅周辺、「副次核」とは鶴川駅周辺、南町田駅周辺、多摩境駅 周辺をいい、本提言書では、これらを町田市の4つの核と定義します。なお、都市 核と副次核は、町田市都市計画マスタープランに位置付けられているものです。
多摩境駅
町田駅
鶴川駅 南町田駅 多摩境駅 町田駅
都 市 核
副 次 核 住 宅 地
( 市 内 全 域 )
▶駅前大規模店の老朽化と商店街の空き店舗化
▶店舗、文化コンテンツの魅力低下による 市内外からの来訪者減少
▶商業衰退による就業の場の減少
▶市内の大学が都心に移転し、若者が減少
寂れゆく未来
[都市核]▶市内外のたくさんの才能や技術が出会う活動拠点
▶消費、就業、居住を同時に実現する 周辺市も含めた大規模拠点
▶積極的な官民連携により民間投資が喚起
都市核
町田駅きらめく未来
[都市核][ 4 つの核]
小山ヶ丘
矢部町
04
こどもの国線
田園都市線 小田急多摩線
小田急線 鶴川駅
鶴川駅
南町田駅
▶維持困難となり
廃止されるバス路線の増加
▶スーパー、コンビニなどの
生活サービス機能が撤退し買い物難民が増加
▶放置された空き地・空き家の増加による治安悪化
▶都市核・副次核・最寄り駅へのアクセス性 向上のために強化された公共交通網
▶小学校や空き地、空き家を活用した コミュニティ活動やサービスが創出
▶自然や農を日常の中で楽しめる暮らし
都市核・副次核に市内外から人々が集い、町田発の事業やカル チャーが生まれています。住宅地は、自然や農を楽しめる暮らしと 地域のコミュニティ活動が生み出す活力にあふれています。
きらめく町 田 の 未 来
2030
▶来街者の減少により
商業施設や病院が撤退
▶移動手段が自家用車中心となるため 引き起こされる道路渋滞の慢性化
▶公共施設が維持できず、一部のサービスが停止
▶市民活動の減少による交流の希薄化
▶公共施設の駅前への集約
▶各住宅地と公共交通で結ばれた交通結節点
▶暮らしに近い場所でのコミュニティビジネス拠点
▶民間の運営により魅力が向上した駅前公園
副 次 核
副 次 核
MACHIDA
鶴川駅・南町田駅・
副次核
多摩境駅
住宅地
市内全域寂れゆく未来
[副次核]寂れゆく未来
[住宅地]きらめく未来
[副次核]きらめく未来
[住宅地]05
都市核
町田駅2030
市内の大学を卒業して早
3
年。正社員としての就職先が
決まらないまま駅前の飲食店
でアルバイトをしている。そ
の店の建物もだいぶ年季が
入ってきた。このままいつま
で営業が続くのか心もとない。
親も定年退職したばかり
で、年金がもらえる歳になる
まで働かなくては、と職探し
をしている。今は元気な親
も、あと
10年もすれば、体力
も落ちていくだろう。親子と
もども安定した収入がないよ
うでは介護どころの話ではな い。もう親元に住み続ける歳
でもないし、一人暮らしを始
めようと思うが、バイト暮ら
しであまり貯金も無いから引
越し資金が用意できない。
何とかならないかと思って
母校の就職窓口を訪ねてみた
けど、自分に合いそうな求人
は無かったし、そもそも大学
が来月には都心に移転すると
言われた。これからは母校を
訪ねることもなくなりそうだ。
小学校からこの地に住んで
きた。子どもの頃は高校生や
大学生が駅前に集っていたけ
ど、最近は高齢者がよく目に
入る。商業施設のテナントも
心なしか入れ変わり、駅前の
人通りもだいぶ減ってきた気
がする。暇つぶしに中央図書
館に行っても、読みたい本が
ない。新刊も入ってきていな
いみたいだ。すっかり高齢者
の憩いの場と化している。
大学同期の友人達も町田
に残る人は一握りで、そのほ
とんどがアルバイトだ。飲み
会は学生時代と変わらず居
酒屋チェーンで安く済ます
ことがほとんどだけど、飲み
会を開いても参加者が次第
に減ってきた。同期の多くは
都心でサラリーマンをして
いて、地元に戻ってくる機会
はめったにない。その他も田
舎に戻る者、海外にボラン
ティアに行く者など、町田を
離れた友人も多い。どおりで
商店街も空き店舗が増えてく
るわけだ。
自分もこのまま町田で暮ら
すのがよいのか考えなければ。
◎
25 歳 男性 A さんの場合
◎働けない…。 地元で
Scenario
寂れゆく町田の
未来シナリオ
06
◎
25 歳 男性 B さんの場合
◎定年退職後にノウハウを活か
して起業をした人など、色々
な人と議論しながら楽しく刺
激的な毎日を過ごしている。
決して贅沢をできるわけで
はないけど、知り合いのネッ
トワークを通じて仕事の依
頼があり、食べていくのには
十分な収入がある。
家は親元を出て、町田駅近
くの団地を建て替えた新しい
マンションで一人暮らしをし
ている。実家にも車で片道
10
分と近く、たまに一緒にご飯
を食べることもある。親は退
職直後で、末っ子の自分が地
元にいるのがうれしいようだ。
駅前の商店街も、最近若い
世代が開業したお店が続々と
オープンしている。中には自
分の小学校の同級生もいて、
仕事帰りに彼の店で一杯やり
ながら、イベントの企画のネ
タを語りあうのが楽しみに
なっている。
今度、店で知り合った知人
に誘われて、原町田大通りで
開催されるストリートライ
ブに行くことになった。彼は
その世界では結構有名な
ミュージシャンらしく、その
ライブも全国からお客さんが
集まるそうだ。
最近は我々の世代から新し
い町田発の文化が生まれてく
る期待感がある。都心の狭い
住宅に高い家賃を払って住む
よりも、町田なら同じ家賃で
広い住宅に住めるし不便もな
い。なにより自分がまちを動
かしている実感が持てる。やっ
ぱり町田に戻ってきて正解
だったな。 町田で生まれ育ち、大学時
代は町田から都心に通学。卒
業後は都心の企業に勤めたけ
ど、最近人気が上がってきて
いる地元の町田で仕事がした
いと思い、友人を誘って起業
することにした。
起業してみると、取引き先
とはネットを使って打ち合わ
せができるので、都心に出る
のは週に
、1
度で済む。普2
段は駅前のシェアオフィスに
事務所を構えて友人と二人、
周りに入居する若手起業家や、
町田がなんだか
面白くなってきた!
きらめく町田の
未来シナリオ
Scenario
都市核
町田駅2030
07
鶴川駅・南町田駅・
副次核
多摩境駅
2030
夫は定年退職してしばらく
経ち、子どもも独立したので
家にいることが多くなってき
た。夫婦でたまには気晴らし
をしたいと思うが、近所の駅
前は、楽しい場所もなく閑散
としていて、コインパーキン
グが目立つようになってきた。
しかもこの間、最後まで頑
張っていた商業施設が閉店
してしまったので、買い物は
もっぱら近所の小さなスー
パーで食料品を買うくらいし
かできなくなってしまった。
駅前にはお茶をする場もない ので、近所の仲間と集まって
話をするのもお互いの家を行
き来するばかりでなんだか出
かけた気がしない。
遠出しようにも自分では車
も運転できないし、バスで外
出となるとおっくうになって
しまう。それに、バスで町田
駅方面に出ようにもこのあた
りの住民が減ったせいで便数
が減ってしまった。駅前の支
所が財政難から廃止されてし
まったので、先日は、年金の
手続きをするのに、市役所ま
で出かけたけど、往復が一苦
労だった。
60歳を過ぎてから、だんだ
ん高血圧がひどくなってき
た。何か病気のせいではない
かと不安になるけど、病院が
近くにないので、診察しても
らいに行くのも一苦労だ。今
度、娘が帰省したときに車で
送迎してもらおうかと思って
いる。
駅前の支所のホールで続
けていたダンスサークルが活
動休止になったけど、家にこ
もってばかりもいられないの
で、ガーデニングを始めてみ
た。でも、おそわる人もいな
い上、見てもらうのも夫とご
近所さんくらいしかいないの
で張り合いが出ない。
元気なうちは働いてお小遣
い程度でも稼ぎたいと思っ
て、シルバー人材センターに
電話してみたのだけれど、こ
の歳で同じような相談は多い
らしく、仕事がないそうだ。
やっぱり子どもと同居でき
るといいのだけれど。
何をするのも
おっくう…。
◎
65 歳 女性 C さんの場合
◎ Scenario寂れゆく町田の
未来シナリオ
08
ションは高齢者向けの見守り
サービスも完備していて、
1
階にはクリニックも入ってい
る。将来も子どもに面倒を掛
けることなく、安心して暮ら
せそう。しかも、近くには緑
豊かな公園や商業施設もあっ
て、日常生活にはとても便利。
引っ越してから知り合った
同じマンションの友人と一緒
に、趣味の陶芸のギャラリー
を開こうかと話しているとこ
ろ。
公園の中にできたセミナー
スペースで起業したい人向け
の講座を受け始めた。そこに
は若い人から、私みたいな世
代まで、たくさんの生徒がい
て、日々元気をもらえている。
講座の帰りはブックカフェ
に寄るのが日課。ここは元々
市の図書館だったのだけど、
今は民間企業が運営している。
本を借りたり買ったりできる
し、おいしいコーヒーショッ
プやおしゃれな雑貨店、薬局
などもあって、いつも用もな
いのに立ち寄ってしまう。
夫も週
回は現役のころに2
やっていた建築関係のスキル
を生かして、公共施設の維持
管理の派遣業務をやっている。
仕事の無い日は犬を散歩した
り、借りてきた歴史書を読み
ふけったりと、リタイア生活
を満喫しているようだ。
元の家は若い子持ちの夫婦
が借りてくれたと不動産屋さ
んから連絡があった。感じの
いい夫婦だそうで、思い出の
家を大事に使ってくれそうだ。 子どもの出産を機に町田の
郊外住宅地に一軒家を構えた
のが
30年ほど前。当時は高級
住宅地でみんなからうらやま
しがられたものだった。
今も緑が豊かで素敵な景観
はとても気に入っていたけれ
ど、歳をとって、坂を歩いて
上り下りするのがつらくなっ
てきた。
子どもも独立して部屋が
余っていたので、夫の退職に
あわせて家を賃貸に出して、
思い切って駅直近のマンショ
ンに住み替えた。このマン
リタイア生活を
満喫。
鶴川駅・南町田駅・
副次核
多摩境駅
2030
◎
65 歳 女性 D さんの場合
◎きらめく町田の
未来シナリオ
Scenario
09