原子核模型
原子核模型とは?
原子核の基本的な性質: 大きさ、密度、スピン、アイソスピン
陽子・中性子がどのようなルールにしたがって原子核を構成するのか? そして、現実に現れる原子核の基本的な性質を説明するため
に考え出されたもの。
液滴模型 Liquid drop model フェルミガス模型 Fermi gas model 殻模型 Shell model
集団運動模型 Collective model
液滴模型 (Liquid Drop Model)
非圧縮性流体
圧力による密度差がきわめて小さい流体(液体)
原子核の性質
ほぼ一定の核子当たり束縛エネルギー ~ 8 MeV 核子密度が一定
はっきりした原子核表面が存在する
半径は質量数の1/3乗に比例 R = 1.21 A1/3 fm 表面張力 → 半径 R の球体
粒子密度 → 一定 n 質量を A とすると
A
n =
4
3 R
3
液体中の1分子に対するポテンシャル
遠距離 ~ 0
分子の大きさ程度 弱い引力
より近距離 強い斥力
R ∝ A
1/3質量 A 、電荷 Ze の非圧縮性流体球
分子間の弱い引力
流体分子の数密度に比例 (数密度は一定) 1分子当たりの束縛エネルギーは一定
体積項 B(A,Z) = avA
表面張力
流体全体のエネルギーを上げる
→ 負の束縛エネルギー 表面積 4πR2 ∝ A2/3
表面項 B(A,Z) = - aSA2/3
B A , Z = a V A −a S A 2 /3 −a C Z 2 A −1/ 3
束縛エネルギー:
陽子間でのクーロン相互作用
流体中に全体で Ze の電荷が一様に分布 クーロンポテンシャル
3
5
Z
2 ℏ c
R
B A , Z
A = a V −a S A
−1 /3
−a C Z 2 A −4/ 3
質量数 A の小さい領域 質量数 A の大きい領域
液滴模型に対する補正
B A , Z
A =a V −a S A
−1 /3
−a C Z 2 A −4 /3
陽子数 Z = 0 で最大
安定な原子核はすべて 中性子のみで出来ている? 陽子・中性子はフェルミ粒子
陽子・中性子の対の間の相互作用の性質
2核子づつがスピン0となるように対を構成
対称項
対エネルギー項
核模型による補正①: 対称項
陽子 中性子陽子・中性子はエネルギー準位を 下から順に
一つの準位には上下のスピンをもつ2個の核子
が入る。 フェルミ粒子は一つの準位を同じ粒子で埋められない
全系のエネルギーが最小になる時 Z = N = A/2
陽子 中性子 Δ
n個の陽子を中性子に置き換える
n = N −Z /2
n 2
エネルギーは
n × n
2 =
N −Z
28
束縛エネルギーは減少する増加する平均ポテンシャルの深さは中重核以上では一定:
A : 一定 ∝ 1
A
対称項 − a
A A −2 Z
2
A
核模型による補正②: 対エネルギー項
陽子と中間子の分離エネルギー
陽子と中間子の数の偶奇によって 大きさが規則的に変化する
奇数の核 < 偶数の核
“pairing interaction”
セリウムからの中性子分離エネルギー
Subatomic Physicsより抜粋
偶数 奇数 対エネルギー補正項
(陽子-中性子) +δ (偶-偶)
0 (偶-奇)(奇-偶) -δ (奇-奇)
= a
PA
1/ 2束縛エネルギー: まとめ
B A , Z =a
VA−a
SA
2/ 3−a
CZ
2A
−1/ 3− a
A A−2 Z
2
A {
0
− }
ベーテ - ワイツェッカーの式
実験データより 体積項
a
V=15.85 MeV
表面項a
S=18.34 MeV
クーロン項a
C=0.71 MeV
対称項
a
A=23.21 MeV
対エネルギー項
a
P=12 MeV
= a
PA
1/ 2特に重い核について、非常によく実験値を再現する
フェルミガス模型 (Fermi gas model)
陽子 中性子
Δ
原子核を温度 T = 0 の極限にある縮退したフェルミガスとみなす 原子核のフェルミガス模型
空間的 体積 V の中に閉じ込められる
運動量空間 最大運動量 pF までの準位を占める pF : フェルミ運動量
pF のエネルギー準位: フェルミ準位
0
f
T =0
T ≠0
フェルミ準位は 運動量空間で
半径がフェルミ運動量の 球面を作る
0 P
Fフェルミガス模型: フェルミ運動量
0 p
Fn = ∫
0PF2 V
2 ℏ
3d
3
p = V p
F3
3
2ℏ
3dn=2
L 2
3
d3k
長さ L の立方体の中に存在 → 波数
k
i= 2
L n
idn = 2V
2 ℏ
3d
3
p
V =L3 p=ℏ k
スピンの自由度
d3 p= p2dp dp
p
F=ℏ 3
2n
V
1/3
= ℏ r
0
9 n
4 A
V = 4
3 r
03
A
核子数
フェルミガス模型: フェルミ運動量
p
F= ℏ
r
0
9 n
4 A
N = Z = A/2 の場合
np=Z =A/2, nn=N =A/2 pFp= pnF= ℏ
r0
98
1/3
~300
r0 MeV/c
ℏ r0
9 8
1/3
=ℏ c/c r0
9 8
1/3
ℏ c=197.326 MeV fm
=197 MeV/c fm
r0
9 8
1/3
を使うと
r0=1.2 fm pF=250 MeV/c
例えば EF= pF
2
2 m~33 MeV (フェルミエネルギー) 核子あたりの平均束縛エネルギー: B = 8 MeV
U 0 =BE F =41 MeV
原子核の平均ポテンシャルの深さ
裳華房テキストシリーズ-物理学 「原子核物理学」より抜粋
フェルミガス模型: まとめ
U 0 =BE F =41 MeV
E
F= p
F2
2 m ~33 MeV
B =8 MeV
平均運動エネルギーの大きさ
〈 E 〉= ∫
0pF
E d
3p
∫
0pFd
3p =
3
5
p
F22 m =
3
5 E
F~20 MeV
原子核ポテンシャル中での 核子の零点エネルギー
Fermi-Dirac 分布
=−
kT , = 1
f = 1
kTe
1
原子の殻模型
原子の魔法数 (Magic Number) 2, 10, 18, 36, 54, 80, 86....
各電子軌道が
ちょうど満杯になる場合に対応 +
Subatomic physics より抜粋
原子の殻模型
裳華房 原子核物理入門から抜粋
原子核の魔法数
中性子の分離エネルギーの 実験値と質量公式に基づく計算値との差: ΔEn
二重魔法核
二重魔法核Z, N がともに魔法数をとる核
→ 例外的な安定性
4Heから核子一つをたたき出すのに必要なエネルギー 20 MeV 以上
平均的な結合エネルギー 8 MeV
A 200 ≧ の核でのアルファ崩壊(4He核の自然放出)
元素の存在比
Abundance Subatomic physics より抜粋 偶-偶核の存在比原子核の魔法数:
2, 8, 20, 28, 50, 82, 126, 184
陽子数 Z, 中性子数 N が魔法数を取る原子核
(特に二重魔法核)の存在比が多い
原子核の魔法数
原子核の平均ポテンシャルの形状
~ 核子密度分布 (軽い核:ガウス型、重い核:ウッズ-サクソン型) まずは3次元調和振動子で近似する(ポテンシャルは半径の大きさに依存)
[ − 2 m ℏ
2U r ] r =E r
r =Rr Y
lm ,
[ sin 1 ∂ ∂ sin ∂ ∂ − sin 1
2 ∂ ∂
22] Y
lm ,=l l1Y
lm ,
[ dr d
22 2 r dr d 2 m ℏ
2 E −U r ] R r = l l1 r
2R r
球面調和関数
l: 軌道角運動量の量子数 m: 磁気量子数 (-l, ..., 0, ..., l)
[ sin 1 ∂ ∂ sin ∂ ∂ − sin 1
2 ∂ ∂
22] Y
lm ,=l l1Y
lm ,
[ dr d
22 2 r dr d 2 m ℏ
2 E −U r ] R r = l l1 r
2R r
球面調和関数
l: 軌道角運動量の量子数 m: 磁気量子数 (-l, ..., 0, ..., l)
U r = M
2
r
22
E
nl= 2 n l− 1
2 ℏ
裳華房テキストシリーズ-物理学 「原子核物理学」より抜粋
原子核の魔法数:
2, 8, 20, 28, 50, 82, 126, 184
再現しない
スピン軌道相互作用の導入
二核子間の軌道角運動量 全スピン角運動量
L
S スピン軌道相互作用
VLSr
L⋅S
古典的解釈
軌道角運動量 → 磁場が発生
スピン(磁気能率)との相互作用が生じる
裳華房 原子核物理学入門より
原子中でのスピン軌道相互作用
電子スピンと原子核のクーロン場との磁気相互作用による 原子構造の微細構造を説明
スピン軌道相互作用の導入
U r U r V
LS L ⋅ S L ⋅ S = 1
2 [ J J 1−L L1−S S 1 ] ℏ
2核子の全スピン
J =L S
∣ J ∣
2= ∣ L ∣
22 L⋅ S ∣ S ∣
2∣ J ∣
2= J J 1 ℏ
2核子のスピン ½ 全スピンの大きさ
J = L + ½, J = L - ½
同じ軌道 L の準位は核子のスピンの向きにしたがって
1 2 Lℏ
2VLS
J=L12
−1
2 L1ℏ
2VLS
J=L−1 2
J =L12 L⋅S=
1
2
[
L 12
L 32− L L1−1 2
3 2
]
ℏ2=1 2 Lℏ
2
J =L−1
2 L⋅S=
1
2
[
L− 12
L 12− L L1−
1 2
3 2
]
ℏ2=−1
2 L1ℏ
2
エネルギー準位の間隔は 1
2
2 L1
ℏ2V LS
スピン軌道相互作用の導入: まとめ
U r U r V
LS L ⋅ S
1 2 L ℏ
2VLS
J =L12
−1
2 L1ℏ
2VLS
J =L−1 2
裳華房テキストシリーズ-物理学 「原子核物理学」より抜粋
原子核の魔法数:
2, 8, 20, 28, 50, 82, 126, 184
実際には J = L + ½ の準位の方が より低くなっている → V
LS < 0
L
L , J=L−1 2
L , J=L1 2
原子核の殻模型: まとめ
U r V
LS L⋅ S
調和振動子 スピン軌道相互作用
魔法数の再現
特に、二重魔法核の基底状態(スピン0、偶パリティ) を完全に再現
エネルギー準位の構造を実験によくあうように U、VLSの比を調節
J、Lの等しい同種粒子がある場合
偶数個 全体が全角運動量=0、偶パリティ
奇数個 最後の一個をのぞいて、全角運動量=0、偶パリティ となるように、準位をつめていく。
魔法数±1の核の性質
魔法数から1ずれた核のスピンパリティは、
あまった核子もしくは閉殻にできた空孔に等しい。 実験結果をよく再現。
(Z,Nが71~81の場合は対エネルギー項を必要とする)
偶-偶核のスピンパリティ
JP=0+となるはず。実験事実をよく再現。
原子核の磁気モーメント
偶-偶核の磁気モーメントは 0。OK
原子核の磁気モーメント: 殻模型の限界
偶-奇核の核磁気モーメント 殻模型
余っている陽子の全角運動量 J が L + ½ 上部シュミット線
L - ½ 下部シュミット線
中性子の場合はその逆
実際にはその中間にあらわれる。
殻模型: 核子の一体的運動のみを考慮 閉殻とその外側にある核子の間の相互作用
裳華房 「原子核物理入門」より抜粋
集団運動模型 (Collective model)
原子核の電荷分布 球形?
Q = ∫ 3 z 2 −r 2 r d r
原子核の四重極モーメント
b
a Q = 2
5 Z e a
2
−b
2 = 4
5 Z e 〈 R〉
2
= R
〈 R 〉 =
a −b
ab
2
1/3変型パラメータ
変型した原子核の性質
偶-偶核、基底状態のスピン0 古典的なコマとの類推
回転エネルギー
E = I
2
2 ℑ
角運動量
慣性モーメント
E
J= J J 1 ℏ
2
2 ℑ J =0,2,4,6,. ..
量子論的には
第1励起回転モード2+状態(<100keV) < 核子対を壊して出来る2+励起状態(1~2 MeV) 回転モードの励起準位測定から慣性モーメントを決定する
180Hfの回転バンド
裳華房 「原子核物理入門」より抜粋
電気四重極遷移: E2遷移
回転モードの準位間での非常に速い遷移
換算遷移確率 B(E2) (1核子遷移確率を単位として)
→ 50以上 (A=140~210, A>220)
→ 集団的な励起による遷移
E2
原子核の構造
慣性モーメントと変形の大きさとの関係
ℑ
rigid= 2
5 MR
02
ℑ
irrot= 45
2
16 ℑ
rigid
完全剛体
非圧縮性渦なし流体
(超流動4He)
ℑ
irrotℑ
expℑ
rigid原子核の慣性モーメント測定値は
0+状態の2核子対
→ ”クーパー対”
対を形成しない外側の核子
→ 原子核の変形に寄与
巨大共鳴
裳華房 「原子核物理入門」より抜粋 S/N 50~100
Aの極く小さい核をのぞいて現れる
→ 核子の多体系の示す性質 励起エネルギーは 10 ~ 30 MeV
(1核子の平均結合エネルギー 8 MeV) 共鳴幅は 3~10 MeV
付録
電荷の多重極能率
J≠0
の原子核を考える。量子化軸を z 軸にとる場合、 原子核を z 軸周りの回転楕円体と考えるz
x y
r
J
r ,= ∑
n=0
∞
a
nr
n1P
ncos
ルジャンドル関数 Pn(cosθ)
=0 cos =1
P
n1=1
の場合
r =z
z , 0= 1
z ∑
n=0∞
a
nz
nd r , r ' = r ' d r '
∣r−r '∣
核内の微少体積のもつ電荷により誘起される電位
=0
r =z ∣r−r '∣= z
2
−2 z r ' cos ' r '
2
1/ 2=z [ 1 − 2 r '
z cos '
r '
z
2
]
1/2x=2 r '
z cos '−
r '
z
2
∣r−r '∣
−1= 1
z 1 −x
−1 /2
≃ 1
z 1
1
2 x
3
8 x
2
...
z ≫r ' ∣r−r '∣
−1≃ 1
z [ 1
r '
z cos ' −
1
2
r '
z
2
3
2
r '
z
2
cos
2'... ]
r z= ∫ d r z ≃ 1
z ∫ [ 1
r '
z cos '−
1
2
r '
z
2
3
2
r '
z
2
cos
2' ... ] r ' d r '
r z= ∫ d r z ≃ 1
z ∫ [ 1
r '
z cos '−
1
2
r '
z
2
3
2
r '
z
2
cos
2' ... ] r ' d r '
z , 0= 1
z ∑
n=0∞
a
nz
na 0 = ∫ r ' d r '
a 1 = ∫ r ' r ' cos ' d r '=0
a 2 = ∫ r ' 3
2 r '
2 cos 2 ' − 1
2 r '
2 d r ' =Q e
全電荷
電気四重極能率
a
2= ∫ r ' 3
2 r '
2
cos
2' − 1
2 r '
2
d r ' =Q e
四重極能率
r'
Q =0 Q 0
Q 0
みかん型
球形 フットボール型