• 検索結果がありません。

43

Ⅲ-3.合成計画

前項で 2 例の本化合物の全合成例の概略を示しそれらに共通する特徴を述べたが、有望 な生物活性を持つ本化合物を医薬リードとする観点からその量的供給や効率的な誘導体合 成といった発展を目指す際に、既報の直線的合成経路にはいまだ改善の余地が残っている ともいえる。そこで著者は、本化合物を収束的な経路によって合成することで、誘導体・

類縁体合成を簡便化し本化合物をリードとした医薬化学的研究に発展できる可能性を示せ れば、前例の合成とは異なる価値をアピールできるのではないかと考えた。

本化合物の中心骨格を、3環骨格ではなく偽対称である3-oxabicyclo[3.3.0]oct-6-ene骨格か ら3つの置換基が伸びていると考えれば、3つのフラグメントに逆合成できこれらの収束的 カップリング反応を行うことで合成できるのではないかと考えた(Scheme 19)。すなわち、

目的骨格を図中の赤で示した結合において逆合成し、3-oxabicyclo[3.3.0]octane骨格をもつ2 環性メソ体エーテル90 (以降、これを「コア骨格」と呼ぶ)と、2つの求核種フラグメントと を組み合わせることによる合成計画を立案した。具体的には、コア骨格中のTHF環位C-H 結合、及びアリル位またはケトン位の sp3C-H 結合の酸化的官能基化によって生じるカチ オンやその等価体に対して、カップリングパートナーとなる求核種フラグメントを順次作 用させることで、3つの酸化的C-C結合形成を行うこととした。sp3炭素が多く含まれる本 化合物の合成に対して、酸化的sp3C-H結合官能基化を駆使することで、極めて単純な対称 構造をとるコア骨格から合成をスタートさせることができ、当方法論の有用性を活用した 合成経路となることが期待できる。

これら 3 つの鍵反応にそのまま適用できるような反応例そのものは報告されていないた め、これらを実現する方法論開発、または類似の報告を参考にしたモディフィケーション が必要となると想定される。しかし、これら3つの酸化的sp3C-H結合官能基化は既報の報 告を参考にすると十分に実現可能であると考えられた。詳細な前例は各項で後述するが、

ヘテロ原子位 C-H 結合やアリル位C-H 結合はその酸化によるヘテロ原子導入反応のみな らずC-C結合形成反応なども報告されており、ケトン位から発生させたエノラートの酸化 カップリング反応も報告されている。

一方で、設計したこの合成経路には困難も予想される。3つの鍵反応を行う位置は、すべ Scheme 19: Synthetic strategy toward convergent synthesis of indoxamycins

44

てコア骨格のネオペンチル位にあたり、また、6員環構築に向けたC-C結合形成は2環性コ

ア骨格のconcave面側へと行う必要がある。しかし、このような困難が伴うものの、上述し

た①収束的合成経路による医薬化学的研究への発展性、及び②分子合成に適用する方法論 としての酸化的sp3C-H結合官能基化の有用性を端的に示すという合成化学的価値の提供、

といった大きな利点をアピールできると期待できたため、著者はこの合成計画に基づいた インドキサマイシン類の合成研究に着手することとした。

45

Ⅲ-4.2環性コア骨格の合成

合成のスタートとして、著者はまずコア骨格となる 2 環性メソ体エーテルを合成するこ ととした。想定するsp3C-H結合酸化反応条件においてはオレフィンよりもケトンの方がよ り酸化に不活性であると予想されたことや、エキソメチレン体はケトンよりオレフィン化 反応により容易に合成できると予想されたことから、まずはケトン体91をターゲット分子 として設定した。

91の隣接する2つの4級炭素を構築するのは困難であることが予想されたが、前駆体と なるエノン94が文献既知の化合物であり、これに対しメチル求核剤を1,4-付加させること ができれば、ターゲットへと導けるのではないかと考えた。5員環エノン94は、その合成 の常套法であるPauson-Khand反応を用いることにより、単純エンイン93から合成できるこ とがすでに報告されていた56

そこで、エンイン93を市販のアリルアルコール92とプロパルギルブロミドより合成し、

Pauson-Khand反応を文献の手法によってエノン94の合成を検討したが、再現性に乏しく収

率も低収率に留まってしまうことが分かった。しかし、エンインのオレフィンが,-二置換 である基質に適用している反応系の例が乏しいことから、本手法によってエノンを合成す ることとした。

エノン94に対するメチル求核剤の1,4-付加として、まずはメチルキュープレートの付加 を検討した。かさ高い,, -三置換エノンであり位の立体障害が大きいことから、

Yamamotoらにより報告された活性化剤としてTMSClを用いる条件57も検討したが、活性化

剤の有無にかかわらず高収率でメチル基を導入することができ、目的のケトン体91を得る ことができた(Scheme 20)。

56 Peréz-Serrano, L.; Casarrubios, L.; Domínguez, G.; Peréz-Castells, J. Org. Lett. 1999, 1, 1187.

57 Asao, N.; Lee, S.-Y.; Yamamoto, Y. Tetrahedron Lett. 2003, 44, 4265.