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Ⅲ-4.2環性コア骨格の合成

合成のスタートとして、著者はまずコア骨格となる 2 環性メソ体エーテルを合成するこ ととした。想定するsp3C-H結合酸化反応条件においてはオレフィンよりもケトンの方がよ り酸化に不活性であると予想されたことや、エキソメチレン体はケトンよりオレフィン化 反応により容易に合成できると予想されたことから、まずはケトン体91をターゲット分子 として設定した。

91の隣接する2つの4級炭素を構築するのは困難であることが予想されたが、前駆体と なるエノン94が文献既知の化合物であり、これに対しメチル求核剤を1,4-付加させること ができれば、ターゲットへと導けるのではないかと考えた。5員環エノン94は、その合成 の常套法であるPauson-Khand反応を用いることにより、単純エンイン93から合成できるこ とがすでに報告されていた56

そこで、エンイン93を市販のアリルアルコール92とプロパルギルブロミドより合成し、

Pauson-Khand反応を文献の手法によってエノン94の合成を検討したが、再現性に乏しく収

率も低収率に留まってしまうことが分かった。しかし、エンインのオレフィンが,-二置換 である基質に適用している反応系の例が乏しいことから、本手法によってエノンを合成す ることとした。

エノン94に対するメチル求核剤の1,4-付加として、まずはメチルキュープレートの付加 を検討した。かさ高い,, -三置換エノンであり位の立体障害が大きいことから、

Yamamotoらにより報告された活性化剤としてTMSClを用いる条件57も検討したが、活性化

剤の有無にかかわらず高収率でメチル基を導入することができ、目的のケトン体91を得る ことができた(Scheme 20)。

56 Peréz-Serrano, L.; Casarrubios, L.; Domínguez, G.; Peréz-Castells, J. Org. Lett. 1999, 1, 1187.

57 Asao, N.; Lee, S.-Y.; Yamamoto, Y. Tetrahedron Lett. 2003, 44, 4265.

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Ⅲ-5.コア骨格におけるTHF環位C-H結合の酸化の検討

THF環位C-H結合からの直接的な酸化的カップリング反応として、銅または鉄触媒及び 酸化剤としてパーオキシドを用いる、LiらのC-C結合及びC-N結合形成反応58や著者が本 学修士課程において開発したC-C結合形成反応35が挙げられる。しかしこれらの反応条件 を適用すると、合成した2環性メソ体エーテル91を過剰量用いる必要があり、現実的では ないと考えられた。そのため、C-C結合形成反応だけでなく単純なC-H結合酸化やC-ヘテ ロ原子結合形成反応に用いられている反応系も参考に、幅広く初期検討を行うこととした。

初期検討として、鉄-TBHP系58、NHPI-CAN系59、銅-NFSI系60、マンガンサレン錯体-ヨ ードソベンゼン系61を用いた2環性メソ体エーテル91のTHF環位C-H結合酸化反応を検 討することとした。その結果、銅-NFSI 系及びマンガンサレン錯体-ヨードソベンゼン系に おいて反応があまり複雑化することなく効率的に酸化成績体を与えたことから(Table 10)、

これら2つの反応系において更なる検討を行うこととした。

58 Ref.9e and Pan, S.-G.; Liu, J.-H.; Li, H.-R.; Wang, Z.-Y.; Guo, X.-W.; Li, Z.-P. Org. Lett. 2010, 12, 1932.

59 Sakaguchi, S.; Hirabayashi, T.; Ishii, Y. Chem. Commun. 2002, 516.

60 (a) Ni, Z.-K.; Zhang, Q.; Xiong, T.; Zheng, Y.; Li, Y.; Zhang, H.W.; Zhang, J.-P.; Liu, Q. Angew. Chem. Int. Ed.

2012, 51, 1244. (b) Kaneko, K.; Yoshino, T.; Matsunaga, S.; Kanai, M. Org. Lett. 2013, 15, 2502.

61 Suematsu, H.; Tamura, Y.; Shitama, H.; Katsuki, T. Heterocycles 2007, 71, 2587.

Table 10: Initial investigation on C-H oxidation of THF ring

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Table 11: Further optimization of Cu-NFSI and Mn(salen)-PhIO systems

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まず、銅-NFSI系を用いる反応の最適化より検討を行った(Table 11, a)。その結果、銅塩の カウンターアニオンや配位子によって反応性は大きく変化することが分かったものの、概 ね反応性が高くなるにつれ過剰酸化体であるラクトンも多く生成してしまうという傾向が 観察され、当反応系においては酸化を 2 電子酸化体であるラクトールでストップさせるの は難しいことが示唆された。

次に、マンガンサレン錯体-ヨードソベンゼン系を用いる反応系の最適化を行った(Table 11, b)。まず、反応温度を室温まで昇温しても反応時間を短縮し酸化剤の量を低減すること で、ラクトール体の収率をほぼ減らすことなく副生成物の生成を抑制することができた

(entry 1, 2)。また、系中でマンガン塩とサレンリガンドを混合し錯体を形成させる条件から、

別途調製した高カチオン性のマンガンサレン錯体99を用いた際に良好な結果を与えること が分かった(entry 2, 3)。触媒量を増加させると逆に反応効率は下がってしまったが、酸化剤 の量を増やすと過剰酸化体がわずかに多く生成するものの良好な収率でラクトールを得る ことができることが分かった(entry 3-5)。また、その他のマンガンサレン錯体100, 101や、

同様に想定活性種である-オキソ錯体を生成すると考えられるフタロシアニン錯体 102, 103も検討したが99が最も良好な結果を与えることがわかり(entry 5-9)、収率に改善の余地 を残しているものの、ひとまずentry 5に示す条件をエーテル91のラクトール95への酸化 反応の現段階での最適条件とした。

最終的には酸化とC-C結合形成を1段階で進行させる、C-H結合からの直接的C-C結合 形成反応を行うのが理想的だが、コア骨格のTHF環位C-H結合を酸化的に官能基化でき ることが分かったので、ひとまず生成したこのラクトール95を単離し次のステップを検討 することとした。

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Ⅲ-6.モデル求核剤によるTHF環位アルキル化の検討

オキソニウムカチオン中間体を経由するC-C結合形成の検討

まず初めに、ラクトールを酸条件に付すことで求電子性の高いオキソニウムカチオンを 発生させることで、C-C結合形成が進行するのではないかと考え検討を行うこととした。

ラクトール95を用いる前により単純なラクトール104をモデル基質として用いて、既報 の例62などを参考に、モデル求核剤としてビニルアセテート及びアリルシラン、活性化剤と してブレンステッド酸(TFA)及びルイス酸(FeBr3またはBF3·OEt2)を検討した。その結果、ア リルシラン及びBF3·OEt2を用いる条件において望みのアルキル化が進行したので、当条件 をコア骨格の酸化により得られたラクトール95に対して適用した。求電子部位はネオペン チル位にあたるため、104に比べ求核付加による結合形成が困難となることも想定されたが、

オキソニウムカチオンの反応性の高さからか望みの求核付加はスムーズに進行し、高収 率・高立体選択性でTHF環位がアリル化された生成物105を与えた(Scheme 21)。

実際の合成に適用する際にはこのC-C 結合形成の立体が重要となるので、生成物105の 立体選択性を精査した。105 のジアステレオ混合物は分離困難であったので、そのまま

62 (a) Nishimoto, Y,; Onishi, Y.; Yasuda, M.; Baba, A. Angew. Chem. Int. Ed. 2009, 48, 9131. (b) Schmitt, A.; Reißig, H.-U. Eur. J. Org. Chem. 2000, 3893.