Hiroshi Tanaka
Participatory Evaluation Facilitator Institute for Himalayan Conservation
Abstract
With the growth of NGO/NPOs in Japan the public expectation of them has been also increasing. However, Japanese civil society lacks management capacity. Participatory evaluation is an approach to improve evaluation quality by involving stakeholders in the evaluation process. This paper examines how the participatory evaluation process strengthens projects, as well as management capacity. This is accomplished through facilitation work with some Japanese NGOs. This elucidates the process of management capacity building through reflection on their activities and administration, which brings empowerment and self-determination.
Keywords
NGO/NPO, Participatory evaluation, Management, Facilitator, Empowerment
はじめに
市民社会を構成する各アクターと市民の関わり 方は多様であり、市民組織と政府・企業の間の協 働関係を通じた関与や、各アクターへのより直接 的な関わり方もあり得る。また、各アクターには それぞれ社会的役割があり、それを尊重する形で の関与が可能となるような市民参加のメカニズム が求められる。本稿では、市民が各アクターの活 動により主体的に関与するための手段として「評 価」に着目し、主要アクター間の関係性を整理し つつ、主に第1 セクターを中心に、行政における 参加型評価の可能性と市民参加のあり方について 理論的背景を踏まえつつ、主に実用的観点から包
括的に考察する。以下、第1章では市民「参加」
に関する理解を深めるため市民社会を構成する各 アクターと市民の関わりについてまず整理する。
第2章では参加型評価を概観する。第3章では協働 の視点から参加型評価導入の現状と可能性につい て、第4章では市民の直接的関与の視点から参加 型評価導入の可能性について、第5章では参加型 評価導入の促進・阻害要因について考察する。結 論として、参加型評価に係る課題を提示する。
【研究ノート】
日本の市民社会における参加型評価の可能性に関する考察
森田 智
国際連合日本政府代表部 morita̲[email protected]
要 約
本稿では、日本の市民社会における市民の主体的関与の一つの手段として参加型評価が有効との仮定の 下、参加型評価導入の可能性と課題、促進・阻害要因、市民組織の役割について考察した。参加型評価導 入が市民組織と他のアクター間の協働を促進し、情報へのアクセス性や能力・意識向上等の利点を市民に もたらし得る点、法的正統性の担保が参加型評価導入を促進し得る点、市民組織によるサポート体制構築 が求められる点等が示唆された。今後の課題として、協働のあり方に焦点を当てた参加型評価の基準や指 標等の設定が実際の適用上有効と考えられる点、及び市民組織の使命や役割等に対する市民の理解の深化 に基づいた第3セクターの発展が、3つのセクターのバランスの取れた市民社会の発展と、市民社会の運営 における意志決定への市民参加にとって鍵となる点が挙げられた。
キーワード
ガバナンス、協働、公益性、代表性・代弁性、正統性
日本評価学会『日本評価研究』第11巻第1号、2011年、pp.91-104
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1.市民社会における各アクターと市民の 関わり
近 年 の 国 際 社 会 に お け る 市 民 組 織 ( c i v i c organization)の台頭により、それまでの国家と市 民社会の関係性に対する認識は大きく変わりつつ ある。日本では90年代後半以降、特定非営利活動 促進法(NPO法)の制定や公益法人制度改革が行 われ、市民組織設立の環境整備が整い、現在まで 市民社会の活性化が図られてきた。市民組織の発 展に応じる形で主に90年代以降、欧米を中心に国 家や市民社会の統治のあり方、すなわちガバナン ス(governance)に関する議論が活発になされる ようになった。その根底にあるのは、市民社会が 誰の手によってどのように統治されるべきかとい った問題意識であろう。ここではまず、市民社会 における各アクターの明確な区別と関係性のあり 方の見直しが問われる。そして、民主主義の下で 市民社会の主体となる市民がより積極的かつ自発 的に市民社会に関与し得る手段、さらに市民組織 が担い得る役割に関する議論を深めることが重要 となる。
本章では、ガバナンスに係る諸概念が市民社会 への市民「参加」の多様なあり方を理解する上で 非常に重要になるとの認識の下、まず市民社会と ガバナンスの概念、及び市民社会における市民組 織の役割について整理し、市民と各アクターとの 関係性について論じる。
(1)市民社会と3つのセクター 1)市民社会の概念
「市民社会(civil society)」の概念についてはこ れまで多くの論者が曖昧かつ複雑なものと認識し つつ、政治・経済の思想、主義、体制の枠組みや 国家形成の歴史または哲学等において様々な定義 づけがなされてきた。近年の市民組織の台頭に伴 い、市民組織の存在意義や役割との関連性から市 民社会を捉え直そうとする試みが活発に行われる ようになったのはせいぜい過去20年のことであ る。本稿ではより実践的な観点から、社会の各構 成員の役割及び機能に着目し、漠然とした概念で ある「社会」を市民(citizen)の視点から捉え、
市民を主役として中心に据えた社会を「市民社会」
と想定して以下考察する。
2)社会を構成する3つのセクター
社会を構成する3つのセクターを本稿では便宜 上、第1(政・官/公的)セクター、第2(民間/
私的)セクター、第3(市民/共的)セクターと 呼び整理する。図1は社会の構成員である組織主 体のセクター分類を示す1。「政府」は内閣、国会、
行政機関等を含む政府機関の総称を、「企業」は 利益追求のための経済活動を行う民間の経済主体 の総称を、「市民組織」は市民が自発的な意思に より一定の持続的な体制の下で活動を行う組織主 体 の 総 称 を 意 味 す る ( 後 述 )。「 地 域 共 同 体
(community)」は、個人の出自・帰属先を意味す 森田 智
第1セクター
第2セクター
第3セクター
(出所)Salamon 他(1996)、神野(2004)を基に筆者作成
利益追求
帰属 政 府
企 業
(地域)
共 同 体
自発的 市 民 組 織 組織構造を
有する主体
(自治機能有)
国家と 関係性有
国家と 無関係
利益不追求
(経営者に 還元なし)
図1 組織主体の分類基準と3つのセクター
る2。
図2は、前節で述べた「市民」中心の視点から、
市民社会における各セクターの範囲及び主要アク ターの位置づけを示したものである。ここでの市 民とは、どの組織にも属していない、または所属 先での役割から解放された時の個々人の総体とい うことができる3。
(2)ガバナンス論 1)ガバナンス概念
ガバナンス論の展開に伴い同概念にも広がりが 見られた。表1は多様な概念の定義・解釈の例を 示す。aは第1セクター、b とc は第2セクター、d は第3セクターにおいて主に用いられ、各アクタ ーの組織内部でのガバナンスとして、各対象範囲 を占める構成員が主体的に関与し意思決定を行う 仕組みに焦点を当てているが、提供されるサービ スを享受する市民、顧客、裨益者は構成員に含ま れない点に留意したい。また、セクター全体のガ バナンスに関するe〜gに関する文献は少なく未だ 共通の理解や解釈が存在していない。
他方、山本(2005)は市民社会におけるアクタ ー間の関係性に着目した複合的なガバナンス概念 として、Rhodes(1997)他が提唱する一群の考え 方をまとめてネットワーク型ガバナンスと呼んで いる。これは、各アクターが相補的役割を担いな がら調整や協働等を行い市民社会を統治する考え 方である。さらに、Peters(2000)が提唱する参 加型ガバナンスの概念を引用しているが、これは
第3セクター
第1セクター
第2セクター 市民組織
市民
政府 企業
(出所)筆者作成
図2 市民社会における各アクター とセクター分類の概念図
a グッド・ガバナンス
b コーポレート・ガバナンス c IT ガバナンス
d NGO ガバナンス
①共有された価値に基づき、NGOの指導者が資源を管理し権限を行使するた めの透明な意思決定の手順、②明確な「実施」と「管理」の主体の区別及び意 思決定の権限の配分(Wyatt 2004)。NPO法人(後述)に関しても適用可。
e パブリック・ガバナンス
f プライベート・ガバナンス 多くの人々の生活の質と機会に影響を与える民間主体の決定、及び意志決定 の手順(Rudder 2008)。
g ボランタリー/シビック・
ガバナンス
市民組織が市民または市民社会に影響を与えるような意思決定の仕組みや 構造。
(出所)筆者作成
(注)日本語訳は全て筆者。NGOは非政府組織を指す。gの概念に関する文献は少ないため、表中の説明では他の2つのセクターの ガバナンス概念の要素を第3セクターに適用させている。
国家や政府、第1セクターが権限を有し、社会が自らの営為を企画・組織化し 運営管理する手順(UNDESA 2007)。
本質的に権利の乱用や汚職のない方法かつ法の支配の下での政府の運営管理
(IMF 2007)。主に途上国への開発援助の文脈で用いられることが多いが、先 進国政府にも適用可。
ガバナンス概念
取締役会や経営者、株主、他の利害関係者を含む組織内の関係者間で権利と 責任の配分を特定し、意志決定の規則と手順を決定する構造(ECB 2004)。
取締役会及び役員の責務:組織のIT(情報技術)が組織戦略・目標を維持し 発展させるのを保証するリーダーシップ、組織構造、及び手続き(ITGI 2003)。
定義・解釈の例
表1 代表的なガバナンス概念と定義・解釈の例