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第V皿章結論
日本の学校健康教育は,児童生徒が「時代を超えて変わらない健康課題や日々生起する 健康課題に対して,一人一人がよりょく解決していく能力や資質を身につけ,生涯を通じて健 康で安全な生活を送ることができるようにする」ことを目標としている.近年,心身の発育発達と 健康に悪影響を与える青少年の健康に関連する危険行動の現状とその要因に関する調査研 究が進められ,学校健康教育のより効果的な実施に向けた考え方や内容,方法などの充実,
向上が求められている.
日本の青少年の健康に関連する危険行動に関する調査研究は,青少年の健康行動は家 族や仲間などの心理社会的要因からの影響を受けており,知識や態度,価値観,規範意識,
スキルなどの獲得が関わっていることを明らかにしている.また,喫煙,飲酒,薬物乱用,性の逸 脱行動,心の健康問題,不健康な生活習慣などの青少年の健康に関連する危険行動は相互 の関連性が認められている.これらの日本の青少年の健康に関連する危険行動の特徴は欧米 の青少年の健康に関連する危険行動の結果と符合する.
本研究では,日本の学校健康教育の充実,向上に資するため,日本と欧米の学校健康教 育の考え方や内容,方法,構成などについて比較分析し,以下を明らかにした.
(1)学校健康教育の動向
欧米の学校健康教育の動向を,性教育中心に検討し,米国,英国(イングランド),スウェー デンの学校における性教育は,いずれも家庭における性教育を補完するものと位置づけられて おり,知識や理解,価値観と態度,ライフスキルの形成を主要な要素とし,人間関係を重視して いることを明らかにした.また,性に関する問題と他の健康に関連する危険行動との関連性を 重視し,性教育を包括的な学校健康教育の中に位置づけ,ヘルスプロモーションの理念に基 づいて実施することが求められていることを示した.
一方,日本の学校における性教育も知識,価値観や態度,ライフスキルなどの形成が求めら れるようになってきており,人間関係を重視している点など,多くの点で欧米の学校で実施され る性教育と共通していることを明らかにした.しかし,学校の性教育は保護者によるものを補完 するものであることや,ヘルスプロモーションの理念に基づく包括的な学校健康教育の中に位 置づける視点からの取組は少なかった.そのため,日本の学校における性教育,健康教育の 充実のためには,これらの点を考慮した取り組みが求められることを指摘した.
(2)ヘルスプロモーションの理念に基づく学校健康教育の在り方
ヘルスプロモーションが提唱されて以来,WHOではヘルスプロモーションの理念を学校保健 にあてはめた包括的学校保健プログラムという概念を打ち出し,推奨してきている.包括的学校 保健プログラムの主なものには,欧州で取り組まれているヘルス・プロモーティング・スクール
(}IPS)と,米国で提唱されているAcoordinated school health program(CSHP)がある.
WHOは,包括的学校保健プログラムの相互に支え合う3っの領域として,学校健康教育,
学校環境,学校保健サービスを挙げている.学校健康教育に関しては,健康を病気でないこと 以上のものとして考える,学校内外のすべての健康のための教育機会を利用する,すべての健
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康に関するメッセージを一致させる,児童生徒への健康のための行動の権限を付与する,学校,
地域コミュニティ,保護者,地域サービスの相互の連携を促進する,学校における健康的な環 境を保障するといった6つの条件を満たす包括的学校健康教育の実施を推奨している.そして,
包括的学校健康教育では,学校内外の生活にある子どもたちのさまざまな健康に関する学習 機会やヒドゥン・カリキュラムを考慮し,児童生徒が自発的に身体的,精神的,社会的健康の維 持増進に取り組むことを支援するものと位置づけられている点に特徴があることを指摘した.
一方,日本の学校健康教育は,「学校が組織として一体的に健康教育に取り組むことを,実 施体制の基本」とし,全教職員が全学校教育活動を通じて健康に関する指導に取り組むこと が求められている.学校健康教育は,保健管理,環境衛生,安全管理,給食管理から成る健 康管理との関連を十分に図りながら充実に努めることとが求められており,学校環境や学校保 健サービスが学校健康教育を支えるWHOの包括的学校健康教育と構造的に共通していた.
しかし,日本の学校健康教育では,「学校教育活動を通じた体育・健康に関する指導」とさ れており,主として学校環境などの健康管理面が果たすと考えられるヒドゥン・カリキュラムに対 する視点が弱かった.カリキュラムやプログラムの開発と同時に,全教職員が学校生活の中で 生じる児童生徒の学習に目を向け,学校外での生活との関わりでは保護者や地域コミュニティ の人々と連携しながら,環境整備を含むヘルスプロモーションの理念に基づく学校健康教育を 計画,実施することが必要であることを指摘した.
(3)ライフスキル教育の導入
ヘルスプロモーションの理念に基づく包括的学校健康教育では,健康に関する知識と共に,
肯定的な健康行動をとるために必要な態度や価値観,規範意識及びスキルの獲得に向けた 学習が実施される.今日の日本の学校健康教育でも導入されつつある,ライフスキル形成に基 づく健康教育である.
ライフスキルは「生きる力」と関連があるとされている.欧米や日本の青少年の健康に関連す る危険行動の予防には,ライフスキル形成が重要な要素の1つに挙げられている.学校健康教 育では,児童生徒が現在から生涯にわたって健康を保持増進するための健康に関する生涯学 習の基盤形成の一環としても,「生きる力」ともなるライフスキル形成を導入することが必要であ
る.
ライフスキル形成に基づく健康教育は,基本的なライフスキルの形成から始まり,それぞれの 健康領域に特有の具体的なスキルの適用へと展開される.学習過程を通じてライフスキルの適 用を経験する参加型の学習方法が用いられるため,そのような学習を効果的に行うための環境 整備が重要となる.ライフスキル教育プログラムの一つであるLions−Questプログラムでは,学級 カリキュラムの他に家族の関わり,肯定的な環境,コミュニティの関わりを構成要素として,効果 的なプログラムの実施を目指している.また,プログラムの推進に関するトレーニングとフォローア ップ支援も構成要素に含まれており,教師その他の学校関係者や保護者,コミュニティの代表 者などに支援を提供することにより,プログラムの効果的な実施を支援している.日本の学校健 康教育にライフスキル教育を導入するにあたっては,これらの学習効果を高める要素について も考慮する必要があることを指摘した.
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