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急 性 H I V 感 染 症 と そ の 治 療
表XIII-1 急性HIV感染症の主要な臨床症状
感度(%) 特異度(%) 陽性尤度比 陰性尤度比
口腔内潰瘍 2-37 85-97 2.2 0.9
発疹 51-58 66-82 2.1 0.6
筋肉痛・関節痛 49-60 69-74 1.9 0.6 食思不振・体重減少 32-54 68-86 1.9 0.7
発熱 80-88 50-56 1.8 0.3
中枢神経症状 25 82 1.4 0.9
倦怠感 68-78 38-51 1.3 0.6
頭痛 54-55 56-57 1.3 0.8
リンパ節腫脹 38 71 1.3 0.9
咽頭炎 43-44 51-77 1.2 0.9
消化器症状 12-49 60-91 1.2 0.9
陽性尤度比が高い症状順に列挙。文献(1)より引用
要約
急性
HIV
感染症において、妊婦以外では抗HIV
療法を行うべきか否かについてはいまだ 明確なデータはないが(CIII
)、いくつかの観点からは急性HIV
感染症における早期治療 の有効性が示唆されている。よる抗体検査や RT-PCR 法による HIV RNA 検出などの確認検査が必要である。ま た、抗体陰性(もしくは保留)で HIV RNA のみが検出された場合には、4 〜 6 週間 後に抗体検査を再検し、3 ヵ月間以上は抗体が陽転していることを確認する(AI)。
HIV の増殖をコントロールするための重要な因子は、HIV に対する CTL(細胞障 害性 T リンパ球)活性である。CTL により体内の HIV 量は減少するが、この間に HIV はすでに中枢神経系やリンパ組織に広範に播種しており、特に消化管のリン パ組織は HIV の増殖および潜伏部位としての役割を果たす。通常感染後 6 ヶ月前後 に血中 HIV RNA 量がほぼ一定となり、これを“セットポイント”と呼ぶ2)。この“セ ットポイント”における血中 HIV RNA 量がその後の患者の予後に強く関連する(図 III-1 参照)。
2.治療
急性期の症状はまれに長期間持続したり重症化したりする場合もあるが、通常 は 2 〜 4 週間後に自然に軽快するため、解熱鎮痛薬などを用いた対症療法をおこな いながら経過を観察することになる。ステロイドの有用性は証明されていない1)。 急性 HIV 感染症において、抗 HIV 療法を行うべきか否かについてはいまだ明確 なデータはない(CIII)3)。ただし、妊婦においては母子感染を予防するために、
できるだけ速やかに抗 HIV 療法を開始することが推奨されている(AI)3)。 急性 HIV 感染症における早期治療の有効性としては、
•
急性期の症状を軽減する。•
急性期の著明な HIV の複製やウイルスの全身播種を抑制することにより、•
免疫機能が保持される•
ウイルスの変異率が低下する•
他人へのウイルスの伝播を低下させる 可能性がある。•
血中 HIV RNA 量の“セットポイント”を変化させ、HIV 感染症の進行速度を 遅くすることができる可能性がある。などがあげられる。ただし、これらの早期治療のメリットは主に理論的な観点 に基づくものである4)。
また逆に急性 HIV 感染症の治療のデメリットとしては、
•
抗 HIV 薬による副作用や服薬自体による QOL の低下。•
治療が失敗した場合、薬剤耐性ウイルスが出現する可能性があり、将来選 択できる治療薬の選択肢を狭める可能性がある。•
治療継続の必要性。•
身体障害者申請がおこなえず、医療費の援助が受けられない場合がある。などがあげられる。
すなわち、現時点において妊婦以外の急性 HIV 感染症患者に対する治療は任意 と考えるべきである(CIII)。British HIV Association(BHIVA)ガイドライン5)で は、(1)神経障害を合併している場合、(2)AIDS 指標疾患を発症している場合、
および、(3)CD4 数が持続して(例えば 3 ヶ月以上)200/
µ
L 未満である場合には、急性期においても治療を考慮すると記載されているが明確なエビデンスは示され ていない。HIV 感染後、ウイルスの増殖が落ちつく 2 〜 6 ヶ月の亜急性期の患者に ついても、リンパ組織内でのウイルス複製が最大に達していない可能性から治療
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開始を考慮するという意見もあるが、現時点では急性期同様、任意である(CIII)。 抗 HIV 療法の開始を決定した場合には、血中 HIV RNA 量を検出限度以下にもっ ていくことが重要である(AIII)。抗 HIV 薬に対して耐性変異を有するウイルスが 伝播される確立は欧米では 10 %〜 15 %程度に及ぶと報告されており6,7)、日本国内 の全国調査においても新規未治療症例における薬剤耐性症例が 8 %前後に検出され ているため8)、治療を開始する前に薬剤耐性検査をおこなうことが推奨される
(AIII)9)。どの治療薬を使用すべきかについて十分なデータはないが、慢性 HIV 感 染者と同様な治療薬の組合せで治療することでよいと考えられている。ただし、
治療開始時に耐性検査の結果が得られない場合には、プロテアーゼ阻害剤(PI)
に対する高度の耐性変異は非ヌクレオシド型逆転写酵素阻害剤(NNRTI)に対す る耐性変異よりも少ないため、PI ベースの組み合わせによる治療を選択する方が よいという意見もある(AIII)。治療薬を決定する際には、副作用、薬の数、医療 費などを考慮し、さらにウイルス抑制効果が不十分な場合、将来薬剤耐性ウイル スが出現する可能性があることなどを十分理解しておく必要がある。また治療の 有効性は主に理論的根拠に基づいており、長期予後に関するデータはないことか ら、早期治療の長所と短所を十分に考慮した上で治療開始をすることが望ましい。
急性 HIV 感染症に対して抗 HIV 療法を開始した場合に、治療を継続するべきか 否かについても結論は得られていない。近年、HIV に対する免疫学的な活性化を 期待して、抗 HIV 療法の計画的中断を行いながら抗 HIV 療法を行う STI(structured treatment interruptions)が行われ、急性 HIV 感染症の一部の症例においては良好な 成績が得られている10-12)。しかしながら、その効果は一時的なものであり長期的 な予後を改善させることは難しいという報告もあり13,14)、現時点では早期治療開 始後に治療を中断できるというエビデンスは確立されていない15)。急性 HIV 感染 症に対する大規模な臨床試験がいくつか実施されているが、その一つである SPARTAC(Short Pulse Anti Retroviral Therapy at HIV Seroconversion)試験の成績が、
2011 年 7 月の IAS(International AIDS Society, Roma)で報告された16)。HIV 感染後 6 ヶ月以内の患者を対象に抗 HIV 療法(AZT/3TC+LPV/rtv の組合せが 91%)を開始 され、(I)無治療経過観察群(n=123)、(II)治療 12 週で中断群(n=120)、(III)治 療 48 週で中断群(n=123)の 3 群で比較された。その結果、(III)48 週群において は primary endpoint である CD4 数 350/
µ
L 未満になるまでの期間が(I)無治療群より 65 週間延長し(実質的な無投薬期間は 17 週間)、36 週後の HIV RNA 量が 0.44 log10 cpoy/mL 低かったが、(II)12 週群では(I)無治療群と比べて有意な差はみられな かった。AIDS 発症や死亡、重篤な有害事象については 3 群間で違いはみられなか ったことなどが示された。この報告の時点では、各群とも primary endpoint に達し ていた症例が 50 %〜 61 %程度であるため最終結論を待つ必要はあるが、HIV 感染 症の進行を遅らせる期間がそれほど長くはないことや、治療中断による不利益は 少なそうであることは予想される。XIII
急 性 H I V 感 染 症 と そ の 治 療
文献
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4. Strain MC, Little SJ, Daar ES, et al. Effect of treatment, during primary infection, on establishment and clearance of cellular reservoirs of HIV-1. J Infect Dis. 191: 1410-1418, 2005
5. BG Gazzard on behalf of the BHIVA Treatment Guidelines Writing Group, British HIV Association guidelines for the treatment of HIV-1-infected adults with antiretroviral therapy 2008. HIV med. 9: 563-608, 2008.
6. Vercauteren J, Wensing AM, van de Vijver DA, et al. Transmission of Drug-Resistant HIV-1 Is Stabilizing in Europe. J Infect Dis. 200 (10); 1503-1508, 2009.
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8. Hattori J, Shiino T, Gatanaga H, et al. Trends in transmitted drug-resistant HIV-1 and demographic characteristics of newly diagnosed patients: Nationwide surveillance from 2003 to 2008 in Japan. Antiviral Res. 88; 72-79, 2010.
9. HIV 薬剤耐性検査ガイドライン ver, 5(平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金 エイズ対策研究事業「HIV 感染症の医療体制の整備に関する研究」斑):
http://www.hiv-resistance.jp/research04.htm
10. Lisziewicz J, Rosenberg E, Lieberman J, et al. Control of HIV despite the discontinuation of antiretroviral therapy. N Engl J Med. 340: 1683-1684, 1999.
11. Lori F. and Lisziewick J. Structured Treatment Interruption for the Management of HIV Infection. JAMA 286; 2981-2987, 2001
12. Hecht FM, Wang L, Collier A, et al. A multicenter observational study of the potential benefits of initiating combination antiretroviral therapy during acute HIV infection. J Infect Dis. 194, 725-33, 2006
13. Desquilbet L, Goujard C, Rouzioux C, et al. Does transient HAART during primary HIV-1 infection lower the virological set-point? AIDS 18:2361-2369, 2004
14. Kaufmann DE, Lichterfeld M, Altfeld M, et al. Limited durability of viral control following treated acute HIV infection. PLoS Med 1:e36, 2004
15. Bell SK, Little SJ, Rosenberg ES. Clinical management of acute HIV infection: best practice remains unknown. J Infect Dis. 202; S278-88, 2010.
16. Fidler S. The effect of short-course antiretroviral therapy in primary HIV infection:
final results from an international randomised controlled trial; SPARTAC. 6th IAS Conference. 2011, 17-20 July, Roma. Abstract WELBX 06.
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急 性 H I V 感 染 症 と そ の 治 療
小児が HIV に感染する経路は、主として周産期の母子感染である。幸い現在ま でのわが国における母子感染例はきわめて少ないが、逆にそのため、わが国での 小児 HIV 感染症の臨床研究は困難であるので、本ガイドラインは原則的に米国の 最新ガイドライン1)に準拠し、また、欧州の PENTA20092)も参考にして作成した。
1.小児の抗 HIV 治療において考慮すべき重要項目
小児においても HIV 感染の病態は成人と同様であり、抗 HIV 治療に際してもウ イルス学的・免疫学的な原則は成人と同様と考えてよい。しかし、以下にあげる ような、小児に特有ないくつかの点を考慮しておかねばならない。
•
小児の感染の大部分は周産期に起きる。妊娠女性が HIV に感染しているか否か を早期に発見することが、母子感染をできる限り予防するためにも、感染小児 に対する治療を適切に開始するためにも重要である。•
周産期感染児の多くは、子宮内や出産時/後に AZT(ZDV)等の抗ウイルス薬へ の曝露を受けている。•
周産期の感染は免疫系の発達過程において起こるので、免疫・ウイルスマーカ ーの動きや臨床症状が成人とは異なる部分がある。また、小児の HIV 感染症で は、発育への影響や神経系の異常にも注意を払う必要がある。•
新生児期から思春期にかけては、成長に応じて薬の体内動態(分布・代謝・排 泄)に変化が生じるので、薬の用量や毒性を個々に評価する必要がある。•
投薬の際には、治療薬の剤形が小児に適切かどうかも考慮する必要がある。•
アドヒアランスの維持には、保護者も含めて十分な教育が必要となる。また、小 児の精神的成長がアドヒアランスの変動に影響しやすいことにも注意を要する。XIV 小児、青少年期における抗 HIV 療法
XIV
小 児
︑ 青 少 年 期 に お け る 抗 H I V 療 法
要約
1.
生後12
〜18
ヵ月までは母親からの移行抗体の影響を受けるので、新生児・乳児の感 染スクリーニングには抗体検査ではなくウイルス学的検査(DNA PCR
かRT-PCR
) を用い、2
回のウイルス学的検査を行って感染を確認する。2.
小児のCD4
陽性T
リンパ球数の正常値は年齢によって異なるので、5
歳未満では、年 齢によるばらつきの少ないCD4
陽性T
リンパ球パーセントを免疫学的マーカーとして 用いるほうがよい。1
歳以上5
歳未満の小児ではCD4
パーセントが25
%を切るかど うかが治療開始の目安となる。(5
歳以上では成人と同様CD4
数500/ µ L
未満での治療 開始が推奨される)。またHIV RNA
量は10
万コピー/mL
以上を開始の目安とする。3. 1
歳未満の乳児は病期進行のリスクが高く、HIV RNA
量やCD4
パーセントを用いて も進行リスクを正確に判断することが難しいため、現在では、診断がなされたら直ち に抗HIV
治療を開始すべきだとする専門家が多い。4.
小児HIV
感染症においても、抗HIV
薬を3
剤併用してウイルス量をしっかり抑え込む 治療が基本である。治療開始に当たっては、genotype
による薬剤耐性試験を行い、小児が服用可能な剤形かどうか、アドヒアランスが維持できるかどうかを、保護者も 含めてよく検討しておくことが大切となる。