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抗HIV治療ガイドライン 2012年3月

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(1)

Guideline

平成23年度厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業

HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班

2012年3月

研究分担者:

鯉渕 智彦

(東京大学医科学研究所附属病院)

研究代表者:

白阪 琢磨

(国立病院機構大阪医療センター)

H

I

V

(2)

I

は じ め に

はじめに

抗 HIV 治療ガイドラインは、わが国における HIV 診療を世界の標準レベルに維持することを 目的に平成 10 年度に初めて発行された。その作成は、厚生労働科学研究(旧厚生科学研究) の一環として下記の研究班が担当し、年1回のアップデートを実施してきた。 平成10年度:「我が国におけるHIV診療ガイドラインの開発に関する研究」班 (岩本愛吉班長) 平成11年度:「日本におけるHIV診療支援ネットワークの確立に関する研究」班 (秋山昌範班長) 平成12∼14年度:「HIV感染症の治療に関する研究」班(岡慎一班長) 平成15∼17年度:「HIV感染症の医療体制の整備に関する研究」班(木村哲班長) 平成18∼20年度:「服薬アドヒアランスの向上・維持に関する研究」班(白阪琢磨班長) 平成 21 年度からは厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV 感染症及びその合 併症の課題を克服する研究」班(白阪琢磨班長)が本ガイドラインのアップデートを担当して いる。同研究班では、現場での具体的手順を提示する「HIV 診療における外来チーム医療マニ ュアル」の作成も行っており、最新のエビデンスに基づいて科学的に適切な治療指針を提示す る本ガイドラインと補完しあって、国内のHIV診療に役立ててもらえるよう意図した。 国内の HIV 感染者数は年々増加しており、もはや少数のエキスパートだけで治療を担える時 代ではなくなってきている。一方、HIV 感染症の治療は日進月歩であり、診療経験の少ない医 師が個別にその進歩をフォローすることは容易ではない。本ガイドラインは、現場で HIV 診療 に当たられる先生方が熟読することにより治療方針の意思決定が出来るように配慮した。最新 のエビデンスに基づくとともに、わが国の実状にも合った的確な指針を作成するというガイド ラインの目的を達成するために、ご尽力いただいた改訂委員の先生方に感謝申し上げる。監修 いただいた白阪琢磨班長にもあらためて深謝の意を表したい。 本ガイドラインが、わが国におけるHIV感染症診療の一助となるよう、委員一同で願っている。 <ガイドライン改訂委員(敬称略、アイウエオ順)> 今村 顕史(がん・感染症センター都立駒込病院) 小田原 隆(三菱東京UFJ銀行健康センター) 潟永 博之(国立国際医療研究センター) 原  健(国立病院機構南京都病院) 鯉渕 智彦(東京大学医科学研究所附属病院) 古西  満(奈良県立医科大学) 杉浦  亙(国立病院機構名古屋医療センター) 立川 夏夫(横浜市立市民病院) 外川 正生(大阪市立総合医療センター) 永井 英明(国立病院機構東京病院) 藤井  毅(東京大学医科学研究所附属病院) 山元 泰之(東京医科大学) 四柳  宏(東京大学) 2012年3月 研究分担者 鯉渕 智彦

I

(3)

I

は じ め に ...4 1.HIV感染症の自然経過 ...6 2.HIV感染症の病状を把握するためのパラメーター...8 (1)CD4陽性Tリンパ球数...8 (2)血中HIV RNA量...8 3.HIV感染症治療の目的 ...9 1.治療開始時期と治療成績 ...12 (1)治療開始時期の参考となるパラメーター...12 (2)未治療で経過観察した場合のHIV感染者のエイズ発症率 13 (3)ARTを開始した場合のHIV感染者の生命予後 ...13 2.本ガイドラインが提唱する治療開始時期基準 ...16 1.抗HIV薬選択の基本 ...22 (1)十分な抗ウイルス効果のある薬剤の組み合わせ ...22 (2)初回治療として選択すべき薬剤の組み合わせ...24 (3)副作用に関する配慮...28 (4)内服しやすさ(服薬率の維持)への配慮...29 2.わが国で実際に使用されている抗HIV薬とARTの組み合わせ.32 1.「治療失敗」の定義 ...36 2.「治療失敗」の原因 ...38 (1)薬剤耐性ウイルスによる感染 ...38 (2)服薬率...39 (3)血中薬物動態 ...40 3.耐性検査(遺伝子型)の解釈と治療薬の変更 ...40 (1)耐性検査の基礎知識...40 (2)耐性検査(遺伝子型)の結果に基づく抗HIV療法の変更 .41 4.多剤耐性症例に対するSalvage療法...44 1.抗HIV薬の作用機序 ...52 (1)HIVの増殖サイクル ...52 (2)ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤: NRTI ...52 (3)非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤: NNRTI ...53 (4)プロテアーゼ阻害剤: PI ...53 (5)インテグラーゼ阻害剤: INSTI ...53 (6)CCR5阻害剤...54 2.抗HIV薬の投与量・投与方法...60 3.抗HIV薬の代謝と薬物相互作用...61 (1)ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)...62 (2)非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI) ...62 (3)プロテアーゼ阻害剤(PI) ...62 (4)インテグラーゼ阻害剤(INSTI)...63 (5)CCR5阻害剤...63 4.抗HIV薬のTDM ...63 (1)ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)...64 (2)非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI) ...64 (3)プロテアーゼ阻害剤(PI) ...65 (4)インテグラーゼ阻害剤(INSTI)...65 (5)CCR5阻害剤...65 1.代謝異常と動脈硬化性疾患 ...68 2.肝機能障害 ...71 3.腎障害 ...71 4.薬疹...72 5.骨壊死、骨減少症...72 6.中枢神経症状・精神症状 ...73 7.抗HIV薬と他剤の併用について...73 8.乳酸アシドーシス...73 9.リポアトロフィー...74 10.その他注意すべき薬剤について...74 1.概念・診断 ...80 2.リスク評価 ...83 3.主な免疫再構築症候群の病態 ...84 (1)帯状疱疹...85 (2)非結核性抗酸菌症 ...85 (3)サイトメガロウイルス感染症 ...86 (4)ニューモシスチス肺炎...86 (5)結核症...86 4.対応方法 ...87 (1)抗HIV治療開始前の対応...87 (2)免疫再構築症候群への対処...89 免疫再構築症候群 IX 抗 HIV 薬の副作用 VIII 抗 HIV 薬の作用機序と薬物動態 VII 治療失敗時の薬剤変更 VI 初回治療に用いる抗 HIV 薬の選び方 V 抗 HIV 治療の開始時期(成人、慢性期) IV 抗 HIV 治療の基礎知識 III 2012 年 3 月版の主な変更点 II はじめに I

(4)

I

は じ め に 1.疫学...94

2.ART(antiretroviral therapy)がきわめて有効な 時代におけるAIDSと結核...94 3.HIV感染症合併結核の治療上の問題点...95 4.HIV感染症合併結核の治療...97 5.ARTの開始時期 ...97 6.結核の予防...99 1.疫学...102

2.HIV/HBV共感染におけるHBV Genotype A(Ae)の役割.102 3.HIV感染がHBV肝炎に与える影響 ...103 4.抗HBV薬の種類 ...103 5.HIV/HBV共感染におけるB型慢性肝炎の治療適応と 治療薬の選択 ...104 6.HIV感染者におけるHBVワクチン、HAVワクチンの推奨107 1.疫学...110 2.自然経過 ...110 (1)急性肝炎...110 (2)慢性肝炎...110 3.HIV・HCV重複感染症と肝細胞の脂肪化...111 4.HIV感染症がHCV感染症の自然経過に及ぼす影響 ...111 5.HCV感染症がHIV感染症の自然に及ぼす影響...112 6.HIV・HCV感染症肝線維化の評価 ...112 7.ALT値が正常の場合の考え方...113 8.ART のHCV 感染症に対する影響 ...113 9.ART と薬剤性肝障害 ...113 10.HIV/HCV共感染症の抗HCV療法にあたっての原則 ...114 11.HIV/HCV共感染症の抗HCV療法の効果 ...114 12.抗HIV薬の肝臓に及ぼす影響...116 13.免疫再構築症候群...116 1.臨床経過 ...122 2.治療...123 1.小児の抗HIV治療において考慮すべき重要項目...126 2.小児におけるHIV感染症の診断...127 3.小児におけるHIV感染症のモニタリング...127 4.抗HIV療法の開始時期 ...128 5.治療薬の選択...131 6.抗レトロウイルス療法の変更...137 7.変更する治療薬の内容...138 8.思春期における抗HIV療法...138 1.職業上曝露によるHIV 感染のリスク...140 2.血液・体液曝露の防止...140 3.血液・体液曝露時の対応 ...141 4.曝露後抗HIV薬内服 ...143 5.HIV 曝露後予防の経過観察...147 6.各医療機関での確認事項 ...147 7.参考資料 ...148 ...152 薬剤の添付文書ほか治療に際して参考となるwebサイトの紹介 XVI 医療従事者における HIV の曝露対策 XV 小児、青少年期における抗 HIV 療法 XIV 急性 HIV 感染症とその治療 XIII HIV/HCV 共感染者での抗 HIV 療法 XII HIV/HBV 共感染者での抗 HIV 療法 XI 結核合併症例での抗 HIV 療法 X

(5)

前年度版から変更した主要な箇所には黄色のマーカーを付してある。以下に、2012 年 3 月版で変更・追記 した主要なポイントを挙げる:

2011 年 9 月から HIV-RNA 量の測定法がコバス TaqManHIV-1「オート」v2.0 となった。HIV-1 遺伝子の gag に加え LTR 領域内も標的配列とすることにより、プライマーや DNA プローブのミスマッチなどが原因で 生じる低反応性が改善された。検出感度も 20 コピー/mL へと改良されている(III 章)。 無症候患者の治療開始時期は昨年度版と大きな変更はないが、早期の治療開始を支持するエビデンスと して、2011 年 8 月に発表された HPTN052 試験を挙げた。2 次感染予防のための大規模な無作為比較試験で あり、抗 HIV 治療を行うと異性間性交渉による感染を 96 %減少できることが判明した。この試験により 「抗 HIV 治療は感染拡大の予防にもなる」ことが明確に示された(IV 章)。 AZT/3TC は昨年度まで初回治療薬(代替薬)としていたが、2011 年の米国 DHHS ガイドラインが許容しう る(acceptable)薬剤としたことに準拠して、本ガイドラインでも代替薬から除いた。その理由は、 TDF/FTC や ABC/3TC に比べ副作用がやや強いこと、服薬回数が 1 日 2 回であることである。AZT/3TC が代 替薬から除かれたことに伴い、これまで NVP を含む組み合わせでの中で唯一代替処方に位置付けられてい た「NVP + AZT/3TC」も許容しうる組み合わせとなったため、NVP も代替薬から除いた(V 章、表 V-2)。 結核合併症例では早期の ART 開始が推奨されており、最近、CD4 数が 50/µL 未満の症例では結核の治療 開始後 2 週目に ART を開始すると予後が良いというデータが発表された。しかし、早期開始群では IRIS の発症頻度が高いなど注意すべき点も多く、個々の患者ごとに ART 開始時期は慎重に検討する必要があ ることも解説した(X 章)。

「HIV の曝露対策」(XV 章)では、参考資料として米国 SHEA(The Society for Healthcare Epidemiology of America)が示した「HIV 感染者が医療者として勤務する場合の考え方」を付記した。 「推奨の強さ」と「推奨のエビデンスの質」をそれぞれ A ∼ C、I ∼ III の三段階に分け、推奨評価の基準 を記載した。 XIV 章の「小児、青少年期の抗 HIV 療法」における推奨評価基準の内容は成人と異なる(下表)。 その他の章にも適宜加筆・修正を行ない、内容をアップデートしている。

II

2012 年 3 月版の主な変更点

II

主 な 変 更 点 A:強く推奨 B:中程度の推奨 C:任意 推奨の強さ I : 臨床的エンドポイントおよび/または妥当性確認済みの検査評価項目を設定 した無作為化臨床試験が 1 件以上 II : 長期的な臨床的エンドポイントを設定した、適切にデザインされた非無作 為化臨床試験または観察コホート研究が 1 件以上 III :専門家の見解 推奨のエビデンスの質 A:強く推奨 B:中程度の推奨 C:任意 推奨の強さ I : 小児で臨床的エンドポイントおよび/または妥当性確認済みの 検査評価項目を設定した無作為化臨床試験が 1 件以上。 I*: 成人で臨床的エンドポイントおよび/または妥当性確認済みの 検査評価項目を設定した無作為化臨床試験が 1 件以上あり、 小児でも非無作為化比較試験、またはコホート研究が 1 つ以上。 II : 小児で長期的な臨床的エンドポイントを設定した、適切にデザインされた 非無作為化臨床試験または観察コホート研究が 1 件以上 II*: 成人で長期的な臨床的エンドポイントを設定した、適切にデザインされた 非無作為化臨床試験または観察コホート研究が 1 件以上 あり、小児でも (小規模の)非無作為化比較試験、またはコホート研究が 1 つ以上 III :専門家の見解 推奨のエビデンスの質

(6)

<付>本ガイドラインで頻繁に用いられる略語

ART : anti-retroviral therapy、抗レトロウイルス療法 NRTI : nucleoside/nucleotide reverse transcriptase inhibitor、

核酸系(ヌクレオシド/ヌクレオチド)逆転写酵素阻害剤

NNRTI : non-nucleoside reverse transcriptase inhibitor、非核酸系逆転写酵素阻 害剤

PI : protease inhibitor、プロテアーゼ阻害剤 unboosted PI : RTV(リトナビル)を併用しない PI boosted PI : RTV を併用する PI

INSTI : integrase strand transfer inhibitor、インテグラーゼ阻害薬 薬剤名は原則としてアルファベット 3 文字略称で示した(表 V-3)参照。 利益相反の申告 各改訂委員には、下記の基準で利益相反状況の申告を得た(内科系 14 学会によ って作成された「臨床研究の利益相反(COI)に関する共通指針」による)。 1. 臨床研究に関連する企業・組織や団体の役員、顧問職については、1 つの企 業・組織や団体からの報酬額が年間 100 万円以上とする。 2. 株式の保有については、1 つの企業についての 1 年間の株式による利益が 100 万 円以上の場合、あるいは当該全株式の 5 %以上を所有する場合とする。 3. 企業・組織や団体からの特許権使用料については、1 つの権利使用料が年間 100 万円以上とする。 4. 企業・組織や団体から、会議の出席(発表)に対して支払われた日当(講演料 など)については、一つの企業・団体からの年間の講演料が合計 50 万円以上と する。 5. 企業・組織や団体がパンフレットなどの執筆に対して支払った原稿料について は、1 つの企業・組織や団体からの年間の原稿料が合計 50 万円以上とする。 6. 企業・組織や団体が提供する研究費については、一つの企業・団体から臨床研 究(受託研究費、共同研究費など)に対して支払われた総額が年間 200 万円以 上とする。 7. 企業・組織や団体が提供する奨学(奨励)寄付金については、1 つの企業・組 織や団体から、申告者個人または申告者が所属する部局(講座・分野)あるい は研究室の代表者に支払われた総額が年間 200 万円以上の場合とする。 8. 企業・組織や団体が提供する寄付講座に申告者らが所属している場合とする。 9. その他、研究とは直接無関係な旅行、贈答品などの提供については、1 つの企 業・組織や団体から受けた総額が年間 5 万円以上とする。但し、6、7 について は、筆頭発表者個人か、筆頭発表者が所属する部局(講座、分野)あるいは研 究室などへ研究成果の発表に関連し、開示すべき COI 関係にある企業や団体な どからの研究経費、奨学寄付金などの提供があった場合に申告する必要がある。 上記の基準に基づいて得た申告内容は以下の通りである。 委員の所属部門へ研究費を支払っている企業・団体 MSD 株式会社

II

変 更 点

(7)

1.HIV 感染症の自然経過

HIV は主として CD4 陽性 T リンパ球とマクロファージ系の細胞に感染するレトロ ウイルスである。感染した HIV はリンパ組織の中で急速に増殖し、感染後 1 ∼ 2 週 の間に 100 万(1 × 106)コピー/mL を越えるウイルス血症を呈する。約半数の患者 は、この時期に発熱、発疹、リンパ節腫脹などの急性感染症状を呈する。HIV に 対する特異的な免疫反応が立ち上がってくるとウイルスは減少するが、完全には 排除されない。やがて活発に増殖するウイルスとそれを抑え込もうとする免疫系 が拮抗し、慢性感染状態へと移行する。慢性感染状態における血中の HIV RNA 量 は個々人で比較的安定した値に保たれ、この値をウイルス学的「セットポイント」 と呼ぶ(図 III-1)。血中 HIV RNA 量と HIV 感染症の進行速度(CD4 陽性 T リンパ球 の減少速度)との間には緩やかな逆相関関係があるが、患者ごとで大きなばらつ きがあることに注意する必要がある1, 2)

患者の免疫機構と HIV が拮抗した状態は、これまで平均 10 年くらい持続すると いわれてきた。この間、感染者は、ほとんど症状なく経過する(無症候期)。近年、 米国では新たに感染した患者のうち 36%が 1 年以内に後天性免疫不全症候群 (AIDS : Acquired Immunodeficiency Syndrome)を発症したという3)。この要因とし

て以前に比べてウイルス学的「セットポイント」が上昇している4)、CD4 陽性 T リ ンパ球数(以下、CD4 数)の減少が早い5)、といった報告があり、HIV の病原性が 変化した可能性が示唆されている。しかしその一方で、これらの臨床的指標は変 化しておらず HIV の病原性変化を示唆する所見はないとする報告もあり6, 7)、一定 の見解は得られていない。いずれにせよ、無症候期の間も HIV は増殖し続け、HIV の主要な標的細胞である CD4 陽性 T リンパ球はほとんどの感染者で減少していく が、減少の速度は個人差が大きい。CD4 陽性 T リンパ球は、正常な免疫能を維持す るために必要な細胞であり、その数が 200/µL を下回るようになると細胞性免疫不 全の状態を呈し、表 III-1 に示すような種々の日和見感染症、日和見腫瘍(AIDS 指 標疾患)を併発しやすくなる。この状態が、後天性免疫不全症候群(AIDS : Acquired Immunodeficiency Syndrome)である。抗 HIV 療法が行われない場合、 AIDS 発症後死亡にいたるまでの期間は約 2 年程度であるとされている。

III

抗 HIV 治療の基礎知識

要約

• HIV

感染症は大きく

3

つの病期(急性感染期、無症候期、

AIDS

期)に分けることが できる。

AIDS

期には日和見疾患に罹患する危険が生じるが、初感染から

AIDS

期に至 るまでの時間は症例により異なる。

• HIV

感染症をモニターする上では、免疫状態の指標となる

CD4

陽性

T

リンパ球数およ び抗ウイルス療法の治療効果の指標となる血中

HIV RNA

量が重要なパラメーターで ある。

現在、標準的に行われている抗レトロウイルス療法(

ART

)は、

HIV

の増殖を効果的 に抑制し感染者の

AIDS

進行を防止することができる。しかし、

ART

により体内から ウイルスを駆逐するためには少なくとも数十年間の治療が必要と考えられており、事 実上治癒は困難である。

III

抗 H I V 治 療 の 基 礎 知 識

(8)

2 4 週 CD4陽性Tリンパ球数(CD4数) HIV RNA量 急性感染期 無症候期 AIDS発症期 年 6 2 3 4 5 6 7 8 9 10 図III-1 HIV感染症の臨床経過 ウイルス学的 セットポイント 表III-1 AIDS指標疾患 1. カンジタ症(食道、気管、気管支、肺) 2. クリプトコッカス症(肺以外) 3. コクシジオイデス症 1) 4. ヒストプラズマ症 1) 5. ニューモシスチス肺炎 6. トキソプラズマ脳症(生後1ヶ月以後) 7. クリプトスポリジウム症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの) 8. イソスポラ症(1ヶ月以上続く下痢を伴ったもの) 9. 化膿性細菌感染症 2) 10. サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く) 11. 活動性結核(肺結核又は肺外結核) 1), 3) 12. 非結核性抗酸菌症1) 13. サイトメガロウイルス感染症(生後1ヶ月以後で、肝、脾、リンパ節以外) 14. 単純ヘルペスウイルス感染症 4) 15. 進行性多巣性白質脳症 16. カポジ肉腫 17. 原発性脳リンパ腫 18. 非ホジキンリンパ腫(a. 大細胞型・免疫芽球型、b. Burkitt 型) 19. 浸潤性子宮頸癌 3) 20. 反復性肺炎 21. リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満) 22. HIV脳症(痴呆又は亜急性脳炎) 23. HIV消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病) A. 真菌症 B. 原虫感染症 C. 細菌感染症 D. ウイルス感染症 E. 腫 瘍 F. その他 1) a: 全身に播種したもの、b: 肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの 2) 13歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により以下のいずれかが2年以内に、2つ以上多 発あるいは繰り返して起こったもの  a: 敗血症、b: 肺炎、c: 髄膜炎、d: 骨関節炎、e: 中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍 3) C11活動性結核のうち肺結核、およびE19浸潤性子宮頸癌については、HIVによる免疫不全を示唆す る症状又は所見がみられる場合に限る 4) a:1ヶ月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの b: 生後1ヶ月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの

III

抗 H I V 治 療 の 基 礎 知 識

(9)

以上のように、HIV 感染症は大きく 3 つの病期(急性感染期、無症候期、AIDS 期)に分けることができる。急性感染期と AIDS 期の長さには比較的個体差が少な く、無症候期の長さに大きな個体差がある。無症候期をいかにコントロールする かということが HIV 感染症の予後と密接に関係する。

2.HIV 感染症の病状を把握するためのパラメーター

(1)CD4 陽性 T リンパ球数

CD4 数は、HIV 感染症により障害をうけた患者の免疫力を反映する重要な指標 となる。健常者の CD4 数は 500 ∼ 1,000/µL で、感染者において 200/µL 未満となる と日和見疾患のリスクが高まる。測定ごとの変動が大きいので、複数回(通常は 2, 3 回)の検査での判定が必要となる。

(2)血中 HIV RNA 量

わが国では血中 HIV RNA 量の測定は 2008 年以降、一般的にリアルタイム PCR 法 (TaqMan PCR 法)が用いられており、主要な外注検査会社で実施することができ る。リアルタイム PCR 法の導入直後は、2007 年以前に用いられてきたアンプリコ ア法との相関が(特に低 RNA 量の場合に)問題となった時期もあったが、適切な 検体処理を行うことにより正しい測定結果が得られるようになった。さらに 2011 年 9 月からは、プライマーや DNA プローブのミスマッチなどが原因で生じる低反 応性を解決するためにコバス TaqManHIV-1「オート」v2.0 法への移行が開始され た。従来の v1.0 は gag 領域のみに対するプライマーや DNA プローブを使用してい たが、v2.0 は gag に加え LTR 領域内も標的配列としており、検出感度も 20 コピー /mL へと改良されている。 血中 HIV RNA 量が検出限界以下となっても、体内からウイルスが消失したこと にはならない。また測定ごとのばらつきの大きな検査で 3 倍(0.5 log)以下の違い は有意な変化と考えないので、複数回の検査で判断する必要がある。なお、治療 後に HIV RNA 量をどの程度まで低下させればよいのか、薬剤耐性ウイルスの出現 を抑制できる血中 HIV RNA 量の閾値はいくつか、などについてはまだ明確な結論 が出ていない。血中 HIV RNA 量が 200 コピー/mL を超える状態が続くと薬剤耐性ウ イルスが生じやすくなるという報告8)などから、DHHS ガイドラインではウイル

ス学的失敗(virologic failure)を「血中 HIV RNA 量が 200 コピー/mL 未満を維持で きない状態」と定義している9)

抗 HIV 療法を行なう際には、血中 HIV RNA 量が治療効果判定のための最も重要 な指標となる。また、血中 HIV RNA 量は HIV 感染症の進行の早さ、すなわち CD4 数の減少速度とある程度の相関傾向があることがわかっている。しかし注意しな くてはならないのは、この相関には患者ごとのばらつきが非常に大きいことであ る。図 III-2 は、無治療の HIV 感染者を血中 HIV RNA 量ごとにグループ分けし、 CD4 数の年間減少速度の分布を比較したものである2)。平均値(グラフ中のΔ CD4)

で比較すると血中 HIV RNA 量が多いグループで減少が速い傾向があるのは確かで あるが、患者ごとのばらつきがきわめて大きいことがわかる。例えば、血中 HIV RNA 量が 500 コピー/ mL 未満のグループでは CD4 陽性 T リンパ球の減少がほとんど 見られない患者がいる一方で、年間 100/µL 以上減少する患者もいる。未治療患者 における血中 HIV RNA 量はあくまでも HIV 感染症の進行の速さ予測するための因

III

抗 H I V 治 療 の 基 礎 知 識

(10)

子の一つにすぎず、定期的に CD4 数を測定して個々の症例ごとに評価をすること が重要である。

3.HIV 感染症治療の目的

無症候期においても HIV は活発に増殖し、CD4 陽性 T リンパ球をはじめとする免 疫系を破壊し続けている10,11)。抗 HIV 療法により HIV の増殖を十分に抑制すると、 胸腺から新たにナイーブ T リンパ球が供給され CD4 数が増加し、日和見感染症の 減少および AIDS による死亡者数の減少につながる。現在用いられている抗 HIV 薬 は、HIV の増殖サイクルを阻害する薬剤であり、その効果判定は血中 HIV RNA 量 を測定することにより行われる。一方、HIV の増殖阻害によってどの程度免疫力 が回復したかは、CD4 数が指標となる。 現在標準的に行われる抗レトロウイルス療法(ART)は、強力に HIV の増殖を 抑制し患者の免疫能を回復させることが出来る。そのおかげで HIV 感染者の生命 予後は著しく改善されたが、ART をもってしても HIV を感染者の体内から駆逐す ることは容易ではない。その主な理由は、HIV の一部がメモリー T リンパ球と呼ば れる寿命の長い細胞に潜伏感染していることにある12)。HIV の駆逐のためにはこ の感染細胞が消滅するまで ART を継続する必要があり、そのために要する期間は 平均 73.4 年と推定されている(表 III-2)。このことは、ART を開始した HIV 感染者 は事実上生涯治療を継続する必要があることを意味する。100%に近い内服率を守 りながら長期間の薬剤の内服を続けることは、患者の QOL の低下、経済的負担、 長期毒性の危険性など様々な問題を惹起する。現行の抗 HIV 治療で HIV を駆逐す る(治癒させる)ことが事実上困難であるという背景のもと、ART の開始は、そ

III

抗 H I V 治 療 の 基 礎 知 識 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0 -200 -150 -100 -50 0 50 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0 -200 -150 -100 -50 0 50 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0 -200 -150 -100 -50 0 50 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0 -200 -150 -100 -50 0 50 0.25 0.20 0.15 0.10 0.05 0 -200 -150 -100 -50 0 50 図 III-2 年間CD4陽性Tリンパ球数の減少速度と血中HIV RNA量の関係 無治療のHIV感染者を血中HIV RNA量(コピー/mL)ごとにグループ分けし、CD4陽性Tリンパ球数の年間減少速度の分布 を比較した。平均値(ΔCD4)で比較すると血中HIV RNA量が多いグループで年間減少速度が大きい傾向があるが、患者ごと のばらつきがきわめて大きいことがわかる。Rodriguez et al., JAMA 296: 1498, 2006より作成。

頻 度

CD4数の年間減少速度 (cells/µL)

∆CD4=-37.3/year ∆CD4=-42.8/year ∆CD4=-45.8/year

∆CD4=-48.9/year ∆CD4=-52.2/year

HIV RNA <500 (n=176) HIV RNA: 501∼2,000 (n=157) HIV RNA: 2,001∼10,000 (n=308)

(11)

れ以上 ART 開始を遅らせると患者の生命予後に影響を与える時期まで待つのが 2000 年代前半の流れであった。しかし、最近になって、HIV の増殖を許しておく ことが非 AIDS 合併症(心血管疾患や肝疾患、腎疾患)のリスクを上昇させると考 えられるようになってきたことや、治療薬が以前より進歩したこともあり、ART の開始は再び早まる方向にある(次章で詳説する)。

III

抗 H I V 治 療 の 基 礎 知 識 表III-2 HIVが潜伏感染している細胞を排除するのに要する期間 文献12) 1) HIVの潜伏感染細胞はおおよそ106個存在すると考えられる。これが1未満になるまでの期間 2) 10回の連続した測定で測定感度(50コピー/mL)以上のウイルス量が検出された症例をblip (+)、検出   されなかった症例をblip (−)とする 潜伏感染細胞の 排除に要する期間1) 潜伏感染細胞の 半減期 ARTの期間 症例数 患者 全症例 Blip (+) 2) Blip (−) 2) 59人 21人 18人 45.4ヶ月 53.0ヶ月 62.1ヶ月 44.2ヶ月 57.7ヶ月 30.8ヶ月 73.4年 95.8年 51.2年

(12)

文献

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III

抗 H I V 治 療 の 基 礎 知 識

(13)

要約

• 2012

年版の本ガイドラインでは、

2011

年版と同様に

CD4

陽性

T

リンパ球数が

350/

µ

L

より多い段階での治療開始を積極的に推奨する。

• B

型肝炎合併例で

B

型肝炎ウイルスの抗ウイルス療法が必要な症例、

HIV

関連腎症合 併例、妊婦では、

CD4

陽性

T

リンパ球数に関わらず抗

HIV

治療の開始の適応がある。

• HIV

感染症診断時に

CD4

陽性

T

リンパ球数が

350/

µ

L

以下の症例、

AIDS

発症してい る症例は、条件が整い次第、抗

HIV

治療を開始する。

1.治療開始時期と治療成績

前章で述べたように、現在の抗 HIV 薬による治療では HIV を駆逐するためには 数十年間治療を継続する必要があると考えられており(表 III-2)、それ以前に治療 を中断すれば HIV は再増殖し治療前の状態に戻ってしまう。このことは、治療開 始が必要な段階に到った場合、患者はほぼ生涯にわたって治療を継続する必要が あることを意味し、それに伴う QOL の低下、経済的負担、治療薬による副作用な ど様々な問題が生じる。したがって、いつ治療を開始すべきかについては、“治療 効果”という正の側面と“副作用”などの負の側面とのバランスをどのように考 えるかにより決定されねばならない。“治療効果”の指標となるのは、AIDS 発症 阻止と生命予後の改善である。以下にこの 2 点に関して、過去の臨床統計から明ら かとなったエビデンスを示す。

(1)治療開始時期の参考となるパラメーター

慢性期の無症候性 HIV 感染症患者に対して治療開始時期を決める重要なパラメ ーターは、CD4 陽性 T リンパ球数(以下、CD4 数)と HIV RNA 量である。前章で 解説したように、HIV RNA 量と CD4 数の減少速度はある程度の相関はあるが、患 者ごとのばらつきが大きい(図 III-2)。 治療開始時の血中 HIV RNA 量について、10 万コピー/mL 以上の群は 10 万コピー /mL 未満の群に比較して治療後の生命予後が低下することが 3 つのグループから報 告されている1-3)。しかしながら、患者を治療開始時の CD4 数によって 200/µL 以上 の群に限定すれば、血中 HIV RNA 量が 10 万コピー/mL 以上と未満の群の生命予後 に統計学的な有意差は得られていない4)。この報告では、血中 HIV RNA 量を 5 万コ ピー/mL および 20 万コピー/mL でも分けて解析しているが、いずれも生命予後に有 意差は認められていない。 HIV 感染症の病態が「CD4 陽性 T リンパ球を中心とする免疫の破綻」であること から、現在、開始基準としては CD4 数がより重要視されている。最新の海外のガ イドライン(DHHS ガイドライン5)、European AIDS Clinical Society(EACS)ガイ

IV

抗 HIV 治療の開始時期(成人、慢性期)

IV

抗 H I V 治 療 の 開 始 時 期 ︵ 成 人 、 慢 性 期 ︶ 本章は、慢性期の成人HIV感染者に対する初回治療について記述している。治療失敗例については第VI章 を、急性HIV感染症については第XIII章を参照されたい。

(14)

ドライン6)、International AIDS Society (IAS)-USA Panel ガイドライン7)でも第一の パラメーターは CD4 数である。 なお、CD4 数を治療開始時期の参考にするのはあくまで無症候性 HIV 感染症患 者に対してであり、AIDS 発症例では条件が整い次第、CD4 数に関わらず抗 HIV 治 療を開始する。

(2)未治療で経過観察した場合の HIV 感染者のエイズ発症率

Mellors らは、抗 HIV 療法を行っていない HIV 感染者が 3 年後に AIDS を発症 (AIDS 指標疾患発症、表 III-1 参照)する頻度を、フォローアップ開始時の CD4 数 と血中 HIV RNA 量ごとに分けて解析している8)。表 IV-1 に示すように、3 年後の

AIDS 発症リスクは CD4 数が少ないほど高く、血中 HIV RNA 量が多いほど高い。3 年後の AIDS 発症リスクが 30 %を越えるのは、CD4 数が 350/µL 以下、あるいは血 中 HIV RNA 量 55,000 コピー/mL 以上の患者群である。

(3)ART を開始した場合の HIV 感染者の生命予後

これまでの主要なコホート研究では、治療開始時の CD4 数が 200/µL 未満の患者 では、200/µL 以上の患者に比べて死亡率が高いことが一貫して示されている1, 2, 4) この点に関する日本のデータとしては、毎年 HRD 共同調査が行っているデータが ある(図 IV-1、HRD 共同調査 14 年次報告書、日本アルトマーク社)9)。CD4 数 が 200/µL 未満と 200/µL 以上群とでは生存率に有意差が認められる。350/µL 未満と 350/µL 以上の群とで有意差は認めないが、本調査の 4,090 名は前治療のある症例お よび 2 剤以下の抗 HIV 療法を含むこと、年次ごとに症例数が少なくなっていること に留意をする必要がある。 治療開始後の生命予後を左右する要因として、ART 後の CD4 数の回復の程度が 挙げられる。Moore らによれば、治療開始後の CD4 数の回復は、開始前の CD4 数 が 350/µL 以上と未満の群とで明確な差異があり、CD4 数が 200 ∼ 349/µL で治療を 開始した症例では、CD4 数が正常域まで回復することは期待できない(図 IV-2)10) 長期間の患者予後を考えた場合、日和見疾患以外の感染症や種々の悪性腫瘍のリ スクを非感染者と同じレベルに保つためには、正常に近い CD4 数が必要になる可 能性がある。これを指示する証拠としてこれまで AIDS との関連が明らかでなかっ た悪性腫瘍の発生が HIV 感染者で健常人より多く発生し、比較的高い CD4 数にお いてもこれが当てはまることを示す報告が相次いでいる11-13)。その中には肛門癌

IV

抗 H I V 治 療 の 開 始 時 期 ︵ 成 人 、 慢 性 期 ︶ 表IV-1 未治療患者が3年後にAIDSを発症する頻度(%)

Mellors et al. Science 272: 1167, 1996より作成 ND:データなし、ウイルス量:RT-PCR法(10-3コピー/mL) ピンクの欄はAIDS発症率 が 30%以上の組み合わせを示す CD4陽性Tリンパ球数(/µL) >750 ND 2 3.2 9.5 32.6 750-501 3.7 2 8.1 16.1 32.6 500-351 ND 2 8.1 16.1 42.9 350-201 ND ND 8.1 40.1 64.4 <200 ND ND ND 40.1 85.5 <1.5K 1.5K-7K 7K-20K 20K-55K >55K ウ イ ル ス 量

(15)

IV

抗 H I V 治 療 の 開 始 時 期 ︵ 成 人 、 慢 性 期 ︶ 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 0 1 2 3 4 5 6 図 IV-2 ART開始時のCD4数と治療後のCD4数の推移 1年以上ARTを行いウイルス量が400コピー/mL未満の280症例を平均1,430日(366-3,500 日)フォローした。Moore et al. Clin. Inf. Dis. 44: 441, 2007より作成。

ARTの期間(年) ART開始時のCD4陽性Tリンパ球数 < 200/µL 201-350/µL > 350/µL C D 4 陽 性 T リ ン パ 球 数 (/µL) 生 存 率 (%) 100 95 90 85 80 75 治療開始時CD4数 500以上(n=270) 350以上500未満(n=433) 200以上350未満(n=1093) 100以上200未満(n=905) 100未満(n=1389) 生存年数 わが国のHIV感染者4,090名(1997年4月∼2011年3月)の抗HIV療法開始時CD4陽性Tリンパ 球数と生存率の関係を示したもの(HIV感染症治療薬共同使用成績調査 14年次報告書、日本アル トマーク社より一部改変)。治療開始時のCD4数が不明の症例は除外してある。 本解析では、群ごとの患者背景(前治療歴の有無など)や治療内容(2剤以下の抗HIV療法の構成比な ど)による影響は考慮してない。 0 1 2 3 4 5 6 7 8 図 IV-1 ART開始時のCD4数と生存率

(16)

や肝癌のようにウイルス感染が病態に密接に関連する腫瘍ばかりでなく、ウイル ス感染とは無関係と考えられている肺癌、胃癌、腎癌、メラノーマ、白血病、ホ ジキン病なども含まれている。このことは、CD4 陽性 T リンパ球を十分に回復させ ないと悪性腫瘍の発生リスクが上昇し、患者予後を不良にする可能性を示唆して いる。 さらに、HIV 感染者では肝疾患、虚血性心疾患、腎疾患の合併またはそれに起 因する死亡が健常者よりも多く見られ、その頻度が CD4 数 200 ∼ 350/µL の患者で は CD4 数 350/µL 以上の患者よりも有意に高いことが 4 つの大規模なコホートにお いて証明された14-19)。なかでも、SMART 試験14)は、無作為割付の前向き臨床試 験だったことから、有意な差が証明されたことが重視されている。これらの事実 から、ART は以前よりは早期に(多い CD4 数で)開始し、より高い CD4 数を保つ ことや HIV の増殖を抑えておくことが患者の長期予後にとって好ましいであろう と考えられるようになってきた20,21)。実際に、ART 後に CD4 数を 500/µL 以上に維 持できた患者は健常者と同じ生命予後を得ることも報告されている20)。また現実 的な問題として、副作用が少ない飲みやすい抗 HIV 薬が導入され長期内服が容易 になったことや22)、ART 実施による血中 HIV RNA 量減少が性感染効率を低下させ

HIV の蔓延阻止効果が期待できることも23)、より早期の ART 開始を支持している。 2011 年には、2 次感染予防のための大規模な無作為比較試験(HPTN052)の結果 が報告された24)。対象者は「CD4 数 350 ∼ 550/µL の HIV-1 感染者と、非感染者のカ ップル」であった。総数 1763 組を、直ちに抗 HIV 治療を行う群と、CD4 数が 250/µL 以下もしくは AIDS 発症するまで治療を行わない群に分けて比較したとこ ろ、すぐに治療を開始した群ではパートナーへの感染が 96 %減少していた。この 試験によって「抗 HIV 治療は感染拡大の予防にもなる」ことが明確に示された。 治療開始基準となる CD4 数を決めるための無作為比較試験の結果は 2010 年に発 表されたが25)、CD4 数 200/µL 未満群と 200-350/µL 群との比較試験であったため、 現在の開始基準に大きな影響を与えることはなかった。200/µL 未満で治療開始し た群では死亡率が有意に高く(ハザード比 4.0、p=0.0011)、この試験は予定してい た観察期間を待たずに中止されている。無作為化された比較研究ではないものの、 対照群を設定した国際共同コホート研究(NA-ACCORD)の解析が 2009 年に報告 され26)、CD4 数が 351-500/µL の時点で治療開始した群と、CD4 数が 350/µL 以下に なるまで治療開始を遅らせた群とを比較したところ、後者のほうが死亡率が高か った(相対危険度: 1.69、95 % CI:1.26 - 2.26)。さらにこの報告では、CD4 数が 500/µL を基準値として同様の観察を行っている。CD4 数が 500/µL を超える状態で 治療を開始した患者群と 500/µL 以下になるまで治療を遅らせた患者群との調整死 亡率は、後者で有意に高かった(相対危険度: 1.94、95 % CI : 1.37-2.79)。別のコ ホート研究(ART-CC)を解析した報告でも27)、治療開始を CD4 数が 251-350/µL に なるまで遅らせた群は、351-450/µL で治療開始した群よりも AIDS 発症率および死 亡率が高かった(相対危険度: 1.28、95 % CI:1.04 - 1.57)。しかし、この報告では、 CD4 数が 450/µL を超える患者では治療開始のメリットを示すことはできず、治療 開始を CD4 数が 351-450/µL になるまで遅らせた群と 451-550/µL で開始した群とで は AIDS 発症率・死亡率は同様であった(相対危険度 0.99、95 % CI : 0.76-1.29)。 より高い CD4 数を持つ患者を対象としたコホート研究(CASCADE, 対象患者は CD4 数 800/µL 未満)によると28)、CD4 数が 500/µL 以上の場合では治療開始のメリ ットは認められなかったが、CD4 数が 350-499/µL では、治療を開始する方が遅ら せるよりも AIDS 発症および死亡のリスクが低下することが示された(調整ハザー ド比は 0.75、95 % CI : 0.49-1.14)。 注目すべきことは、これらのコホート研究で明らかになった死亡原因の大部分 が、肝疾患、腎疾患、心疾患や AIDS 指標疾患ではない悪性腫瘍など、いわゆる非

IV

抗 H I V 治 療 の 開 始 時 期 ︵ 成 人 、 慢 性 期 ︶

(17)

AIDS 関連疾患であったことである。この結果は、HIV 感染者の生命予後を改善す るためには AIDS 発症を阻止するだけでは不十分であることを示唆する。現在、無 作為国際臨床試験(Strategic Timing of AntiRetroviral Treatment (START), NCT00867048)において、開始時の CD4 数が 500/µL 以上の群と、現時点のガイド ラインの推奨基準群との比較試験が開始されており、結論が注目されている (http://www.clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT00867048)。

2.本ガイドラインが提唱する治療開始時期基準

上記のこれまでのエビデンスと 2011 年 10 月 14 日版の米国 DHHS のガイドライン5)

International AIDS Society (IAS)-USA Panel ガイドライン7)を参考にして、表 IV-2 に

本ガイドラインが提唱する抗 HIV 治療の開始の目安を示す。CD4 数を基準として、 350/µL 以下、351 ∼ 500/µL、500/µL より多い場合の 3 つに分け、それぞれの段階で の治療に対する考え方を記した。 HIV 感染症の診断時にすでに CD4 数が 350/µL 以下の症例および AIDS 発症してい る症例は抗 HIV 治療を開始する(AI)。例外として、HIV 感染症の急性期で CD4 球 が今後増加する可能性がある症例では、ニューモシスチス肺炎の予防等を行い抗 HIV 治療は行わず慎重に CD4 数の回復を待つことも可能である。また、ニューモシ スチス肺炎やクリプトコッカス髄膜炎など重篤なエイズ指標疾患を合併する症例で は、その治療を優先させる必要がある。抗 HIV 治療を開始して細胞性免疫の回復が 得られるまでには少なくとも 1 ∼ 2 ヶ月を要する。その間に抗 HIV 治療の副作用が 出現し、日和見感染症の治療の障害となるようでは本末転倒の結果となる。AIDS 指標疾患のうち非結核性抗酸菌症や CMV 感染症は抗 HIV 治療を開始後に免疫再構 築症候群を合併する頻度が高いので(IX 章参照)、状況が許せば 1 ヶ月程度日和見 疾患の治療を先行させた方が抗 HIV 療法を順調に開始できる場合もある。しかし、

IV

抗 H I V 治 療 の 開 始 時 期 ︵ 成 人 、 慢 性 期 ︶ 表IV-2 抗HIV治療の開始時期の目安 (1)CD4陽性Tリンパ球数が500/µLより多い   結論が出ておらず、個々の患者ごとに判断。患者が積極的な治療を希望すれば、開始を考慮する(B/C-Ⅲ)。 (2)CD4陽性Tリンパ球数が351∼500/µL   経過観察しても良いが、積極的な治療開始が勧められる(A/B-Ⅱ)。    (ただし、専門家の間でも意見は統一されていない。)   経過観察する場合は治療開始のプラス要素とマイナス要素(表IV-3)を十分に検討すること。 (3)CD4陽性Tリンパ球数が350/µL以下   治療を開始する(AⅠ)。 ただし、妊婦(AⅠ)、HIV関連腎症患者(AⅡ)、 B型肝炎の治療を開始する患者(AⅢ)ではCD4数に関わらず抗HIV治療を 開始する。C型肝炎を合併する患者(CⅢ)、心血管疾患のリスクの高い患者(BⅢ)も早期の抗HIV治療開始を考慮する。 1. AIDS発症していない場合(注1、2) 治療を開始する(AⅠ)(注1, 2) 2. AIDS発症している場合 注1:治療開始にあたっては、服薬アドヒアランスの確保が重要である 注2:感染早期でCD4陽性Tリンパ球数の回復が期待できる場合は、経過観察しても良い 注1:エイズ指標疾患が重篤な場合は、その治療を優先する必要のある場合がある 注2:免疫再構築症候群が危惧される場合は、エイズ指標疾患の治療を先行させる

(18)

急性の日和見感染症合併例についてもできるだけ早期の治療開始が好ましいとする 報告もあり29)、この点の判断は専門医の意見を参考にすることが望ましい。 CD4 数が 351-500/µL の無症候性患者でも積極的に治療開始が勧められる(A/B-II)。慎重に経過観察してもよいが、表 IV-3 に示す治療開始のプラス要素とマイナ ス要素を勘案し、十分に相談した上で行うことが望ましい。CD4 数が 500/µL より 多い患者では、前述した 2 つの大規模コホート研究の報告で結論が分かれており、 個々の患者ごとに判断することとした(B/C-III)。患者が積極的に治療開始を希望 すれば開始を考慮する(ただし、500/µL より多い患者に治療を開始する場合には、 後述する医療費減免措置を受けられない可能性があるので留意する)。 また、B 型肝炎合併例で B 型肝炎の抗ウイルス療法が必要な症例(AIII)、HIV 関 連腎症の合併例(AII)、妊婦(AI)では、CD4 数に関わらず抗 HIV 治療を開始す る適応がある。さらに、C 型肝炎合併例(CIII)や心血管系疾患リスクの高い例 (BIII)でも CD4 数に関わらず早期治療を考慮してもよい。 治療開始に際しては、服薬遵守の重要性を教育することや医療費減免のための社 会資源の活用方法などについても詳しく説明しておく必要がある。この点に関する 情報は、厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「服薬アドヒアランスの向 上・維持に関する研究」班が作成した「HIV 診療における外来チーム医療マニュア ル」、関東甲信越 HIV/AIDS 情報ネットが作成している「制度の手引き」が参考にな る。ともにホームページからダウンロード可能であるので参照されたい30,31) 治療開始基準に関して(付記) 前述した HPTN052 試験の結果から、ART は 2 次感染の予防ともなることが明確 になったため、一部の改訂委員から CD4 数に関わらず治療開始を推奨すべきであ るという意見があった。委員全員に対して意見を問うたところ、大多数が原案 (表 IV-2)で良いとの意見であった。その理由として、早期の治療開始によって抗 HIV 薬の内服がより長期になれば副作用の出現頻度や種類が増加するのではない かという懸念や、服薬遵守が不十分な場合には耐性ウイルスの早期出現を促す恐 れがあること、などが挙げられた。START 試験: NCT00867048(前述)等によっ て、CD4 数が 500/µL 以上での ART 開始が患者自身への直接的、間接的効果が明確 に示されるまでは現状の考えを継続する方針とした。

IV

抗 H I V 治 療 の 開 始 時 期 ︵ 成 人 、 慢 性 期 ︶ 表IV-3 CD4数が350/µL より多い無症候性患者に対する治療開始の是非を判断する要素 プラス要素 マイナス要素 ・ 以前よりも飲みやすく、効果も安定した薬剤の組み合わせが存在する。 ・ CD4数が低下してから治療を開始する場合よりも、十分なCD4数の増加が期待でき、免疫機能の維持/ 改善が図れる。 ・ 悪性リンパ腫や結核、帯状疱疹などのCD4数が比較的高い状態でも発症する日和見疾患やHIV関連疾患 の発症を抑制できる可能性がある。 ・ 体内でのHIV増殖を放置しておくと、総死亡率が上昇したり非AIDS指標疾患(心疾患、肝疾患、腎疾患な ど)の発症率が増加したりするという報告がある。 ・ 性行為等によるHIVの二次感染(他者への感染)のリスクを減少させられる。 ・ 抗HIV薬の長期毒性が不明である。 ・ アドヒアランスが悪い場合は薬剤耐性ウイルスを生じさせる可能性がある。 ・ 生涯に渡る服薬での飲み疲れが生じる可能性がある。

(19)

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1.抗 HIV 薬選択の基本

2012 年 3 月の時点で、日本では 7 種類のヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NRTI)、 4 種類の非ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、8 種類のプロテアーゼ阻害 剤(PI)、1 種類のインテグラーゼ阻害剤(INSTI)、1 種類の侵入阻害剤が承認され ている(表 V-1 ; 2011 年 3 月末にノービアの経口剤としてノービア錠が発売された。 これは従来のソフトカプセルと異なり、室温での保存が可能である)。現在では、 これらの抗ウイルス薬を 3 ∼ 4 剤組み合わせて併用する抗レトロウイルス療法 (ART)が治療の標準となっている。抗 HIV 薬の中で HIV を抑制する効果がより強 力な薬剤を「キードラッグ」、キードラッグを補足しウイルス抑制効果を高める役 割をもつ薬剤を「バックボーン」と呼ぶが、それぞれの分類に関して明確な定義 はない。現在は、バックボーンを NRTI2 剤とし、キードラッグを 1 剤(薬剤によっ ては rtv を併用)とする組み合わせが一般的である。しかし、今後新たな作用機序 を有する薬剤が開発されたり、既存薬剤の新たな組み合わせの効果が認められた りすれば、このような分類が変化する可能性がある。具体的にどの薬剤をキード ラッグおよびバックボーンとして選択するかについては、以下に示すように抗ウ イルス効果、副作用、内服しやすさを考慮して決定する。

(1)十分な抗ウイルス効果のある薬剤の組み合わせ

Bartlett らは、1994 ∼ 2004 年に結果が公開された ART の臨床試験で、参加者が初 回治療患者に限定され、1 つの治療メニュー(arm)に 30 名以上が参加し、24 週以 上フォローアップが行われたものの治療成績の集計した1)。図 V-1 に示すように、

ART 開始後 48 週目の血中 HIV RNA 量が 50 コピー/mL 未満となる患者の割合が高か ったのは、キードラッグが NNRTI か、少量 RTV を併用した PI(boosted PI)を含む ART であった。その後に登場したインテグラーゼ阻害作用を持つ RAL の初回治療 患者に対するウイルス抑制効果については、EFV 群との無作為比較試験の結果、 EFV 群に対する非劣性が報告されている(STARTMRK 試験)2)

V

初回治療に用いる抗 HIV 薬の選び方

要約

十分な抗ウイルス効果を得るには、

NRTI 2

剤+

NNRTI 1

剤、

NRTI 2

剤+

PI 1

剤(少 量

RTV

併用)、

NRTI 2

剤+

INSTI 1

剤、いずれかの組み合わせを選択する。具体的な 薬剤の選択に際しては、薬剤の大きさ、錠剤数、食事との関連、副作用などの点から 患者に最も適したものを選び、服薬率

100

%を目指す。

服薬率を維持するためには、

1

1

回投与の処方が有利であり、今後新規に治療を開 始する症例には積極的に選択すべきである。

本章では、日本の

HIV

感染症の専門医たちが実際にどのような抗

HIV

薬およびその組 み合わせを選択しているかについて最新の情報を記載した。診療経験の少ない医師は、 専門医がどのような薬剤を選択しているかを理解し、自身での選択の参考にしていた だきたい。

V

初 回 治 療 に 用 い る 抗 H I V 薬 の 選 び 方

(24)

V

初 回 治 療 に 用 い る 抗 H I V 薬 の 選 び 方 表V-1 日本で承認されている抗HIV薬(2012年3月現在、承認時期順) 一般名 商品名 略称  承認時期 ヌクレオシド/ヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤(NRTI) ジドブジン レトロビルカプセル AZTまたはZDV 1987年11月 ジダノシン ヴァイデックスECカプセル/錠 ddI 1992年 7月 ラミブジン エピビル錠 3TC 1997年 2月 サニルブジン ゼリットカプセル d4T 1997年 7月 ジドブジンとラミブジンの合剤 コンビビル錠 AZT+3TCまたはCBV 1999年 6月 アバカビル ザイアジェン錠 ABC 1999年 9月 テノホビル ビリアード錠 TDF 2004年 4月 アバカビルとラミブジンの合剤 エプジコム錠 ABC+3TCまたはEPZ 2005年 1月 エムトリシタビン エムトリバカプセル FTC 2005年 4月 エムトリシタビンとテノホビルの合剤 ツルバダ錠 TDF+FTCまたはTVD 2005年 4月 非ヌクレオシド/ヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI) ネビラピン ビラミューン錠 NVP 1998年12月 エファビレンツ ストックリン錠 EFV 1999年 9月 デラビルジン レスクリプター錠 DLV 2000年 5月 エトラビリン インテレンス錠 ETR 2009年 1月 プロテアーゼ阻害剤(PI) インジナビル クリキシバンカプセル IDV 1997年 4月 サキナビル インビラーゼカプセル/錠 SQV-HGC 1997年 9月 ネルフィナビル ビラセプト錠 NFV 1998年 3月 リトナビル ノービア錠/リキッド RTV 1999年 9月 ロピナビル(少量リトナビル含有) カレトラ錠/リキッド LPV/r 2000年12月 アタザナビル レイアタッツカプセル ATV 2004年 1月 ホスアンプレナビル レクシヴァ錠 FPV 2005年 1月  ダルナビル プリジスタ錠(300mg) DRV 2007年11月      プリジスタナイーブ錠(400mg) DRV 2009年 8月 インテグラーゼ阻害剤(INSTI)  ラルテグラビル アイセントレス錠 RAL 2008年 6月 侵入阻止薬  マラビロク シーエルセントリ錠 MVC 2009年 1月 治 療 成 績 ( % ) 図V-1 ARTのキードラッグと治療成績 80 60 40 20 0

PI NRTI Boosted PI NNRTI

過去に実施された53種類のARTの臨床試験について、キードラッグと治療成績(開始48週目に 血中HIV RNA量が50コピー/mL未満の症例の割合)を比較した(Bartlett et al., AIDS 20: 2051, 2006より)。

表 VIII-1 に示すように、NNRTI または PI を含む ART を施行中の患者では、高コ レステロール血症および高中性脂肪血症の頻度が増加する。PI は一般的に脂質代 謝異常を起こしやすいが、ATV のみは例外的に脂質代謝への影響が少ない。また、 LPV/r および FPV/r は、DRV/r または ATV/r と比べ、血清中性脂肪値の増加が報告 されている 2-4) 。 一方、NRTI は脂質代謝異常の副作用は少ないが、d4T は比較的高

参照

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