• 検索結果がありません。

Tosufloxacin に抵抗性を示した症例の解析

第 2 章 : 急性副鼻腔炎患者から分離された外来耐性遺伝子獲得型インフルエンザ菌の

2. Tosufloxacin に抵抗性を示した症例の解析

キノロン低感受性株は、治療抵抗性を示す可能性が示唆されたが、ブレイクポイン トが設定されているキノロン系薬で評価すると感受性と判定される。そこで、当院の 2017 年と 2018 年でインフルエンザ菌が分離された全症例から、初期治療として

tosufloxacinが使用されかつ他剤に変更になった症例を探索した。その結果、2症例認

められたため、症例の患者背景ならびに分離株を検討した。以下に症例を示す。

症例1

年齢・性別:1歳3ヶ月、男児 既往歴:特筆すべきものはない

家族歴:兄弟 (4歳) がいるが感染症状なし

【来院前経過】6 月20 日、咳嗽、鼻汁が出現した。6月22 日、発熱が出現し、近医 クリニックを受診した。迅速検査にて、respiratory syncytial virus (RSV)、human metapneumovirus (hMPV) ともに陰性であり、tosufloxacin内服薬、tipepidine hibenzatate、 L-carbocisteine、ambroxol hydrochloride、d-chlorpheniramine maleate、 宮 入 菌 末 、

-galactosidase、procaterol内服剤、fluticasone propionate吸入剤、tulobuterolテープ剤、

ofloxacin点眼薬が処方され帰宅した。6月26日、弛張熱が持続 (最高40C、最低37.5C) したため、別の近医を受診した。Cefditoren pivoxil、乳酸菌製剤、tipepidine hibenzatate、 L-carbocysteine、ambroxol hydrochloride内服剤、tulobuterolテープ剤が処方され帰宅し たが、6月27日内服が困難になったことから、当院紹介受診となった。

【来院後経過】当院小児科において、気管支肺炎と診断され、細菌性肺炎を考慮し、

Cefditoren pivoxil内服剤の継続が指示された。6月29日、再度外来受診し、経過良好

であるため、Cefditoren pivoxil服用継続指示となった。受診時に採取した後鼻腔培養 よりインフルエンザ菌 (2018-Y34) が分離された。

症例2

年齢・性別:0歳11ヶ月、男児 既往歴:胃食道逆流症

【来院前経過】7月10日、発熱、下痢、咳嗽、鼻汁のため、近医クリニックを受診し

た。Mequitazine 内服剤、整腸剤が処方され帰宅した。7 月 13 日、発熱が継続したた

め再度受診し、tosufloxacin 内服剤が処方された。迅速検査により、RSV とhMPV は 陰性であった。7月15日、発熱継続並びに咳嗽が悪化し、さらに食事が摂取できず嘔 吐も出現したことから当院に救急搬送された。

【来院後経過】胸部聴診にて、高音性連続性ラ音、水泡音が認められ、さらに肋骨弓 下に陥没呼吸が認められたため、肺炎および喘息性気管支炎と診断され入院加療とな った。7月16日から23日までampicillin注射剤500 mg/回およびprednisolone注射剤5 mg/回を1日3回8時間毎に投与した。投与開始時は、体温39.9C、白血球数13,700 /L、

28

C-Reactive Protein (CRP) 4.46 mg/Lであったが、投与翌日から解熱し始め、4日後には 体温37C、白血球7,900/L、CRP 0.69 mg/Lとなった (Fig. 5)。その後、7月25日に 軽 快 退 院 と な っ た 。 救 急 受 診 時 に 採 取 し た 後 鼻 腔 培 養 よ り イ ン フ ル エ ン ザ 菌 (2018-Y40) が分離された。

Fig. 5. Clinical time course of case number 2 CRP, C-reactive protein; WBC, White blood cell

2.1感受性検査

当院におけるフローズンプレート‘栄研’を用いた抗菌薬感受性検査では、いずれの インフルエンザ菌株も ampicillin、cefaclor、flomoxef に耐性を示し、キノロン系薬 (norfloxacin、ofloxacin) には感受性を示していた (Table 8)。

Table 8. Results of routine susceptibility test in Yokohama Rosai Hospital

0 2000 4000 6000 8000 10000 12000 14000 16000

36.0 36.5 37.0 37.5 38.0 38.5 39.0 39.5 40.0 40.5

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

Body temperature WBC

Days since admission

Body temperature (C) WBC count (/L)

prednisolone 1.5 mg/kg/day ampicillin 150 mg/kg/day CRP

(mg/dL) 4.46 4.10 2.48 0.69

AMP CCL CMZ LMOX FMOX CTX CFIX CPDX CFTM MIN CP FOM OFX

2018-Y34 R R S S R R S S S S S S S

2018-Y40 R R S S R R S S S S S S S

Strain

Decision

AMP, ampicillin; CCL, cefaclor; CMZ, cefmatazole; LMOX, latamoxef; FMOX, flomoxef; CTX, cefotaxime; CFIX, cefixime; CPDX, cefpodoxime; CFTM, cefteram; MIN, minocycline; CP, chloramphenicol; FOM, fosfomycin; OFX, ofloxacin; S, Susceptible; R, Resistant

29

2.2. 分離された菌株の解析

分離されたインフルエンザ菌は、tosufloxacinの効果が認められなかった可能性が考 えられたため、詳細な解析を行った。まず、2株に対し、CLSIの基準に基づき、微量 液体希釈法で詳細な感受性を測定したところ、levofloxacin とtosufloxacinのMIC は、

それぞれ0.5 g/mLと2 g/mLを示した (Table 9) 。すなわち、これらはいずれもキ ノロン低感受性株であった。また、ampicillin、amoxicillin / clavulanic acidにも耐性を

示すBLNARであった。この株について、gyrAおよびparCのQRDRの塩基配列を決

定したところ、いずれの株においても、GyrA及びParCのQRDR内にそれぞれSer84Leu、

Ser84Ileのアミノ酸置換を有していた (Table 9) 。これらの成績は、キノロン低感受性

株は、Cmaxのtosufloxacin中においても、8時間以上生存できること (Fig. 4) を裏付 けており、生体内においてもキノロン低感受性株は tosufloxacin 治療に抵抗性を示す ことが示唆された。

Table 9. Antimicrobial susceptibility and amino acid substitutions of quinolone low-susceptible strains

AMP AMC CRO CTX MEM CLR AZM LVX TFX MFX NOR GyrA ParC

2018-Y34 8 16 0.25 1 0.5 16 2 0.5 2 2 >2 Ser84Leu Ser84Ile

2018-Y40 8 16 0.25 2 0.5 16 2 0.5 2 2 >2 Ser84Leu Ser84Ile

MIC (μg/mL) Amino acid substitution

AMP, ampicillin; AMC, amoxicillin/clavulanic acid; CRO, ceftriaxone; CTX, cefotaxime; MEM, meropenem;

CLR, clarithromycin; AZM, azithromycin; LVX, levofloxacin; TFX, tosufloxacin; MFX, moxifloxacin; NOR, norfloxacin Strain

30

【 考 察 】

近年、インフルエンザ菌において、キノロン系薬に対する低感受性化が進行してい る14)。しかし、日本の多くの臨床現場で感受性の解釈に使用されるCLSIのブレイク ポイントを用いた場合、これらは感受性株と分類される。そのため、臨床現場でキノ ロン系抗菌薬に対する低感受性化を実感することはなく、インフルエンザ菌に対して キノロン系抗菌薬の使用を特段に考慮することはない。しかし、本研究より、低感受

性株は、tosufloxacin のCmaxでも8 時間以上生存することが明らかとなった。特に、

キノロン耐性に関与するキノロン耐性決定領域のうち、GyrAだけでなく、ParCにも アミノ酸置換を示した株 (2017-Y11) において、特に顕著な生残性が認められた。す なわち、キノロン低感受性株は、現状の小児用量の tosufloxacin の使用では、治療に 難渋する可能性が示された。そのため、感受性結果だけで抗菌薬効果を予測せず、抗 菌薬治療開始後も治療が効果的かどうかを患者の状態を確認しながら評価していく ことが重要と考えられる。

さらに、実際、tosufloxacin内服では効果が認められず、いずれも-ラクタム系薬に 変更後軽快した 2 症例において、キノロン低感受性株が分離されていた。これらは、

院内の検査ではいずれもキノロン感受性と判定されていた。インフルエンザ菌は、常 在菌としての側面も持つため、本研究で分離された株も必ずしも原因菌とは限らない。

しかし、いずれの症例も RSV や hMPV が陰性であったことに加え、-ラクタム系薬 で軽快していること、特に症例 2では、ampicillin、prednisolone 開始後、prednisolone の炎症抑制作用も影響している可能性はあるが、速やかに解熱、CRPが低下している ことを踏まえると、本菌が原因菌である可能性が考えられる。

肺炎球菌においても、tosufloxacinの導入に伴いキノロン耐性菌が出現したことが報 告されている 44)。本研究から、キノロン低感受性株への tosufloxacin の使用は、効果 が 不 明 で あ る こ と に 加 え 、 さ ら な る 耐 性 菌 の 増 加 に つ な が る 可 能 性 が あ る 。

Tosufloxacin を含めた広域スペクトルの抗菌薬使用の際には、疾患とともに原因菌も

考慮し治療を行う必要がある。

抗菌薬の適正使用は、耐性菌増加を防ぐだけでなく、新たな耐性菌を作らない観点 でも重要である。近年、小児科領域へのキノロン系抗菌薬適用拡大に伴い、キノロン 耐性株の出現を監視するサーベイランスが実施されている34)。今回、キノロン系抗菌 薬に対する低感受性株の出現が確認されたことを踏まえ、tosufloxacinの臨床使用に対 して、添付文書に基づく用法用量の評価だけでなく、医師の抗菌薬選択に関しても薬 剤師の視点から評価し、積極的に医師と協議することが今まで以上に求められると考 える。また、抗菌薬治療に関わる薬剤師として、使用開始前だけでなく、使用開始後 も抗菌薬治療の評価を行うことが求められる。

31

【 総 括 】

本研究では、地域急性期病院である横浜労災病院における、インフルエンザ菌の抗 菌薬感受性の推移を研究し、見出された耐性株や、低感受性株について基礎及び臨床 薬学的観点から解析を行った。

第1章では、最新のインフルエンザ菌の薬剤感受性の動向を調べるために、2017 年に分離されたインフルエンザ菌の感受性動向ならびに分子疫学的特徴を解析し, 過去の疫学成績 (2007年および2012年) と比較を行った。その結果、ampicillin及び

clarithromycinに対する感受性株が減少していることを明らかにした。加えて、キノロ

ン系薬耐性株は認められなかったものの、levofloxacinのMICが  0.063 µg/mLを示

すlevofloxacin低感受性株が出現していることを見出した。また、これら耐性、低感

受性株の分子疫学的解析から、特定のクローンがclarithromycinやキノロン系薬に対 して耐性化、低感受性化したわけではなく、多様性に富んだそれぞれの株が耐性化、

あるいは低感受性化したことが示唆された。

第2章では、第1章の疫学解析において分離されたclarithromycinとazithromycinに、

それぞれ64 g/mLと16 g/mLを示すマクロライド高度耐性株 (2017-Y3) および分離

された症例の背景を解析した。2017-Y3株が有していた耐性遺伝子を検討したところ、

外来性耐性遺伝子blaTEM-1mef(A)tet(M) が陽性であった。mef(A) tet(M) はリン クしており、肺炎球菌やStreptococcus oralis と100%の相同性を示すことを見出した。

すなわち、2017-Y3株の耐性遺伝子は肺炎球菌や口腔内レンサ球菌から伝播したこと が示唆された。

第 3 章では、検出されたキノロン低感受性株に対するtosufloxacin の殺菌活性を in

vitroで検討した。治療濃度のtosufloxacin存在下で、感受性株は時間依存的に減少し、

6時間後には検出限界以下であった。一方、低感受性株はいずれも減少の割合は低く、

8時間でも菌の残存が認められた。この結果から、キノロン低感受性株は、tosufloxacin による治療に難渋する可能性が示唆された。また、後方視的に当院の症例を検討した

ところ、tosufloxacin内服薬を使用し、効果が認められなかった症例が2例認められた。

これらの背景を解析したところ、いずれもキノロン低感受性株が分離されており、臨 床的にもキノロン低感受性株は、tosufloxacin治療に抵抗性を示す可能性が強く示唆さ れた。

抗菌薬適正使用に関する取り組みは、近年antimicrobial stewardship program (ASP) と して周知されている。AMR対策としてASPの実践は必要不可欠であり、薬剤師はASP の中心メンバーとして抗菌薬適正使用への貢献が期待されている。本研究において、

小児からキノロン低感受性インフルエンザ菌が検出されたことに加え、低感受性株は、

通常の抗菌薬感受性評価では、キノロン系薬に感受性と評価されていたが、小児で使

用されるtosufloxacinで十分な殺菌効果が得られないことが明らかとなった。また、こ

れらは実際の症例からも裏付けられた。

関連したドキュメント