この統語的な条件と隠喩的な用法とのかかわりについていえば、すでにいく
つかの例にその一端が窺われたように(cf.5,37e,38e,41e, 45c)、ゼロ派生に 伴なう役割付与の付随現象としての隠喩と、名詞のさす対象の諸側面にもとつ
く隠喩との二つがありうるa一方を統語的隠喩と呼び、他方を概念的隠喩と呼 ぶことが出来よう。まえにも述べたように、統語的隠喩はゼロ派生に伴なう役 割付与が、明らかに異なる範疇に写像されたときに生じる。たとえば(44c)
のばあい、隠喩は明らかに意味役割の焦点化に付随して生じており、同じ人間
名詞でもto boss, to bu{cher, to fool, to nurse, to police, to clown, to ruffianそ
の他、機能や目的面からの範疇化を特徴とする人間名詞ではとくにこの種の比 喩的用法が目立つといえる。しかし重要な点は、それが必ずしも通例ではない という事実である。もしもゼロ派生と隠喩が交差しているとすれば、果たして それはどのような形で交差しているのであろうか?
つぎの例では動詞と目的語、動詞と主語の間でそのような関係が生じている が、たとえば(49c)は意味役割の表出という点にかけては、 Roses were blooming at the gateとなんら変わるところがなく、したがってゼロ派生が隠 喩の前提となっている。
(49)a.Paterson s scheme wasプbthered by these two men.[=45c]
b.John∫ished a knife out of his pocket.[ニ37e】
c.Stars were bto∬o η加g in the darkness.(Rowling, The Chamber of Secrets,58)
d.He can pepper home nlns from time to time.
e.Cars are nosing along like windup toys on invisible grooves.(Updike,
Rabbit輌∫1〜ich,400)
これに対して概念的隠喩は、なるほどこれも特定の構文のなかに置かれゼロ 派生を起こすことには変わりがないけれども、役割編成だけからその意味を推 定することはできず、名詞のさす対象の、多くのばあい通念的な性状や形、色
彩その他の特質、いわゆる中心的な意味特性を参照しなくてはならない。これ は、この種の隠喩がすべてうえのリスト(47)の枠外に位置することを意味
する。たとえば動物名の動詞化(to buffalo、 to bull, to dog, to fox、 to rabbit,
etc.)を一瞥すると分かるように、大概それぞれの動物の《習性にもとつい て》隠喩化されるのがふつうで、ゼロ派生とは別の系列をなしている。ある辞 書によると、たとえばto foxには〈狐を狩る〉という語義と、〈あざむく、
困らせる〉〈狐色になる〉という語義とが見られるが、前者は被動者
(Patient)の換喩的な焦点化にもとつく意味であるのに対して、あとの2義は 明らかに対象の特質(=習性および毛色)を意味化した隠喩的用法である。
言いかえれば、意昧役割において動詞化される動物名はごく限られており
(たとえばfish, whale, fox[被動者];hound, horse, mule[用具],etc.)、
この用法に重なるかたちで特質にもとつく隠喩化が適用可能であるという結論 を導くことができる。概念的用法において動詞化される語には、多くのばあい 意味の固定化が見られ、常識的な連想体系だけから個々の意味を導くことはし ばしば困難である(cf. John monkeyed the toy〈いじる〉/John aped the toy
〈真似る〉;to steet・on s・heart/*to iron one s heart.)。つぎの例は、すべて 概念的な契機をもつ隠喩である。
(50)a.He recalls how he would plummet into despair when his non−scien−
tist father felt buLffaloed by science.(New York Times, Book of ∫cience Literacy,9)
b.The weak winter light falls everywhere in his yard, webbed by the shadows from leafless twigs.(Updike, Rabbit is Rich,423)
c.The pain batoons and coats the world in red.(lnnes, The Ampersand Papers,158)
d.Iloved to see her absorbed in a book, mu〃imied up on her side of the antique bed, perfectly still under the covers.(Bellow, Bella Rosa
Connection,85)
e.The four heavy feet of the dog spondeed to the head of the cellar−
stairs.(Burgess、 The Doctor is Sick,117)
しかしこれらの名詞が、もし行為スキーマによらず対象そのものの特質をも とに隠喩としての動詞用法を獲得するのであれば、こんどは逆に、その動詞性 がいかに確保されるのかも説明しなくてはならない。うえの例だけをもとに結 論づけることはできないけれども、これらの名詞由来動詞は意味役割的な背景 を欠くぶん統語的な支配力は弱く、極端にいえば形容詞の動詞化と同じように 自・他の別しか構文情報を持たないのではないかと考えられる。そして、この 種の用法も名詞を起点としたゼロ派生によって生じているとするなら、その統 語的な基底は直喩表現(=1ikeanN)を措いてほかには考えられない。これ は、意昧役割のうえでは様態(Manner)として処理すべきもので、この役割 はその限りにおいて換喩的焦点化の範囲外に設定されうることになる。
隠喩過程は最も典型的なかたちで固有名の動詞化、修辞学でいう
antonomasia|7に見ることができる。たとえばto boycott, to lynch, to meander,
to shangha▲, to xerox, to velcroなどのように今では一般動詞化した固有名も 少なくないが、これらもやはり用法のうえで二極化しており、to hoover, to xerox, to velcroなどが基本的には用具役割において使用されるのに対して、
つぎの例では当の対象の中心的な特徴、ないし故実が直喩的に派生動詞に引き 継がれていると考えられる。厳密にいえば最初の例がantonomasiaであるが、
この種の語法が直喩的基底とそれに由来する派生動詞との中間形態に当たるも のであると推測される。
(51)a. Politicians, academics, administrators, artists, businessmen[_l see a better man and do a Barrow: Your place is up here, my boy, and mine down here! (Snow, On Magnanimity )
b.She had apparently De〜〃ahed the missives out of him.
c.You re in danger of being H輌εroηy〃lus Boshe(ゴ.[Clark&Clark l979]
d.The canoe Titanicked on a rock in the river.[Clark&Clark l979]
Clark&Clark(1979)はhospitalize/*hospitalを証例として語彙化に伴なう先 取り原則の存在を主張している。それは、たとえばhospitalizeのようにすでに 確立した派生動詞があるとき、ゼロ派生*to hospitalは起こらないというもの である。その傾向はたしかに見られ、たとえばwinterize/to winter, imprison/
to prison, mummify/to mummy upなどのように、既成動詞とゼロ派生がたと え並行する場合でも、接辞派生による明確でより具体的な意味は保全されてお り、競合は起こらないと言ってよかろう。こうして、たとえばつぎの対に見る ように、動詞、派生動詞、ゼロ派生という三者のあいだには行為性から実体へ の軸上における意味の傾斜が認められる。
(52)a.Prov輌ded with a package of Oreos and Coke, they begin the long day.
b.In the car by nine thirty, provisioned with a package of Oreos and Coke, they begin the long day.(Updike, Rαb●it at Rest,92)
(53)a.She was〃即ηmφε40n the bed.
b.She was mummied up on the bed.(=50d)
(54)a.Ihave winterized the summer house taken over from my parents.
b.Ihave given up wintering cauIinower plants.[OED]
ゼロ派生のもたらす意味は臨時的、構成的であり、明らかにprovisionや mu㎜yのもつ名詞としての品詞特憎s鹸的に受け継がれている。役割の布
置から意味を得ていると解釈するひとつの有力な証拠であると考えられる。
[註]
1 houseの動詞形は一般にはlhauz]であるが、飲み物などを〈店のおごり にする〉という意味では[haus]と発音されるようで(Clark&Clark l979)、音韻交替による本来の派生とゼロ派生が共存している。この棲み 分けは、たとえばfly−flew/flied〈飛ぶ/邪飛を上げる〉、speed−sped/
speeded〈急ぐ/加速する〉、hide−hid/hided〈隠す/皮をはぐ〉など、一般 に本来動詞と名詞由来動詞とのあいだにに見られる音形上の対比と同じも のである。
2 ただしselectはラテン語の過去分詞形でもある。
3 ただし旧来の定義からすると、これを隠喩と見るか直喩と見るか判定に いくぶん紛らわしい点がある。直喩指標を持たないという点からいえば明 らかに隠喩であるが、内容的には直喩と変わらない。
4 この際、up, down, awayなどの副詞辞をともない、アスペクトが変化 している点に注意しなくてはならない。これは、たとえばsit(状態)→sit down(達成)のように、一般の動詞に見られる対照に並行していると考え られ、動詞と形容詞との意味的な連続性を窺わせる。
5
6
あとで触れるように、通常の派生はゼロ派生(によって臨時的に用いら れる語)に優先し、この先取り原則によって両者の間には競合が起こらな いという仮説(Clark&Clark l 976)がある。その点では、語源から見て to heati to hotは例外をなしているが、語源意識の有無、あるいは両者の あいだにあり得る意味差などが絡んでいて判定は難しい。
意味役割の設定に一致した方式はないので、以下では概略Lyons(1977:
441ff)の定式化に準拠し、随意的な役割を()付きで付記する。そこで は、基本的につぎの6タイプが認められている:(a)Affect{Agent,
Patient}、(b)Produce{Cause, Effect}、(c)Produce{Agent, Effect}、(d)
Move {Entity, Source, Goa1}、(e)Be{Entity, Attribute/Class}、(f)Be{En−
tity, Place}。ただしここには項が一個の文は挙げられておらず、どのよう に扱われるか不明である。また、この定式では授与構文(SVO 0)、動補構 文(SVOC)では基本構文として認められていないので、授与構文は(a)と(d)
との複合として、動補構文は(a)と(e)との複合として記述されることになる ものと推測されるがここでは前者を下の(h)のように展開して考える。
(e)についても、英語が属性語と部類をべつの品詞で表わすことを考慮し て、必要に応じてBe{Entity, Attribute}とBe{Entity, Class}とに二分して 考える。これらの修正を加えたうえでリストにして示すとつぎのようにな
る。
(a)Affect{Agent, Patient,(lnstrument)}
(b)Produce{Cause, Effect,(Manner)}
(c)Produce{Agent, Effect,(lnstrument)}
(d)Move{Entity, Source, Goa1,(Path)}
(e)Move{Agent, Entity, Source, Goal ,(Path),(lnstrument)}
(f)Have{Possessor, Entity}
(g)Experience{Experiencer, Stimulus,}}
(h)Give{Beneficiary, Entity, Recipient}
(i)Be{Entity, Attribute}
ωBe{Entity, Class}
(k)Be{Entity, Place}
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随意要素としての時(Time)、様態(Manner)および場所(Place)は 特定の構文に限定されない。
形容詞由来名詞aNが多くのばあい単複の表示を強いられる点からいえ ば、ここでは可算標識が間接的に派生語尾の役割を果たしていると見られ