4.2.2 5Qbit エラー検知と訂正
5.2 他の制御ゲートを用いたエラー検知訂正回路
5.2.2 Shor の 9Qbit エラー訂正
Shorの9Qbitエラー訂正[10]は制御ゲート3Qbitエラー訂正を拡張したものである.制
御ゲート3Qbitエラー訂正とは異なり,Z フリップエラーにも対応しているため Y,Z の
各フリップエラーの訂正も行うことができる.ただし,Shorの9Qbitエラー訂正ではZ フ リップエラーが混入する場合には 3Qbitずつ検知を行う.これは対象ビットを |F〉とする
と,式(5.2)となる.
Z0|F〉=Z1|F〉=Z2|F〉 Z3|F〉=Z4|F〉=Z5|F〉 Z6|F〉=Z7|F〉=Z8|F〉
(5.2)
5.2 他の制御ゲートを用いたエラー検知訂正回路
この為検知できるエラーはXi(i = 0…8)もしくはZjZj+1Zj+2(j = 0,3,6)であり,検 知できるエラー数はエラーなしを含めても,3×9 + 1ではなく,9×2 + 3 + 1から22種 類である.Shorの9Qbitエラー検知で導入するオペレータを式(5.3)で示す.エラー検知 で用いる交換反交換の組み合わせは表(5.2)で示す.
M0 =X0X1X2X3X4X5 M1 =X3X4X5X6X7X8 N0 =Z0Z1
N1 =Z1Z2 N2 =Z3Z4 N3 =Z4Z5
N4 =Z6Z7
N5 =Z7Z8
(5.3)
表5.2 Shorの9Qbitエラー検知時のエラー対応表
I Z0Z1Z2 Z3Z4Z5 Z6Z7Z8q X0 X1 X2 X3 X4 X5 X6 X7 X8
M0 + − − + + + + + + + + + +
M1 + + − − + + + + + + + + +
N0 + + + + − − + + + + + + +
N1 + + + + + − − + + + + + +
N2 + + + + + + + − − + + + +
N3 + + + + + + + + − − + + +
N4 + + + + + + + + + + − − +
N5 + + + + + + + + + + + − −
Shorの9Qbitでは表(5.2)で示すとおり1Qbitエラー訂正しか行うことができないが,
然るべき補正を行うことによって,一部の多Qbitエラー訂正を行うことが可能になる.た だし,X フリップエラーに対しては3Qbitごとにエラー訂正を行うため,3Qbitごとの区
5.2 他の制御ゲートを用いたエラー検知訂正回路
切り内で2Qbit以上のエラーが混入している場合には対応できない.またShorの9Qbitエ
ラー訂正が制御 3Qbitエラー訂正の拡張であるが,単純な多数決原理を用いた回路に拡張 を行うことはできない.拡張を行うためには,新たにオペレータとしてZ2Z3,Z5Z6 を導 入する必要がある.しかし元々の9Qbitエラー訂正で用いるオペレータM0,M1 に対して,
可換関係にならないため導入することが出来ない.
Shorの9Qbitエラー検知で可能な複数ビットエラー
Shor の9Qbit では 1Qbit エラーまでの検知しか対応をしていない。しかし,Shor の
9Qbitエラー訂正は3Qbitエラー訂正の拡張であることから,3Qbitごとに1QbitのX フ リップエラーまでは対応することができる.この為,最大では混入したエラーが Xi,Xj, Xk(i = 0…2,j = 3…5,k = 6…8)である場合には正しくエラー検知を行うことが出来る.
またZ フリップエラーの検知はX フリップエラーとは別に行われているため,X フリップ エラーの検知結果には影響されない.
第 6 章
結論
今研究ではX フリップエラーのみが混入するモデルと,X,Y,Z フリップエラーの全て の入る場合の2種類のエラー混入モデルを用いてシミュレーションを行った.量子ビットは 重ねあわせ状態であるため,A.2よりベリーの位相によって発生する位相エラーが重要とな る.実際にエラー訂正を行う場合,位相エラーについても考慮する必要性がある.このた め,古典エラーのみが発生するX フリップエラーのみが混入モデルよりも,位相エラーも 発生するX,Y,Z フリップエラーが混入するモデルが実際に混入する全てのエラーに対応 している.このことから今回行った5種類のエラー訂正の中ではShorの5Qbitエラー訂正 と制御ゲート5-3Qbitエラー訂正の2種類が量子エラー訂正に適しているといえる.また実 際に各訂正アルゴリズムに対してエラー訂正シミュレーションを行った事によってエラー訂 正効率の定量的な評価を行うことができた.
制御ゲート 5-3Qbit併用エラー訂正の利点として 2Qbit エラーの訂正が全てできるこ とが挙げられる.Steaneの7Qbitエラー訂正でも訂正不可能な XiXj,YiYj,ZiZj,XiYj
,YiZj(i≠j) を含む全ての 2bit以下のエラー訂正可能である.欠点としては 5Qbitのエ ラー訂正のために必要な補助ビットが8Qbitと多く,他のエラー訂正回路と比べてエラー検 知,訂正に用いる回路が複雑になることが挙げられる.
エラー混入率が高い場合の対応として,二つの方法が考えられる.一つは少数のフリップ エラーにのみ対応するアルゴリズム効率を追求し,複数のエラーが混入しないほど十分頻 繁にエラー訂正を行うことで,複数のエラーが残るのを防ぐ方法である.Shorの5Qbitエ ラー訂正やSteaneの7Qbitエラー訂正等がこれに当たる.もうひとつの方法が,アルゴリ ズムに冗長性を持たせることで,一度のエラー訂正でできるだけ多くのフリップエラーに対
応できるようにすることである.単純な多数決を用いたエラー訂正がこれの極限当たる.今 回示した制御ゲート5-3Qbitエラー訂正はこの二つの方法の中間的な解法に対応している.
.
現在開発されている量子エラー訂正では2.4で示したエンタングルメントを利用して量子 エラー訂正を行っている[6].実際に実実験が行われ,エンタングル状態の9Qbitエラー訂 正に成功している.エンタングルメントを利用したエラー訂正方式では,量子エラー訂正を 行う対象ビットがエンタングル状態でなくてはならない.しかしエンタングル状態は作成,
維持,利用が難しいという欠点がある.今回行った量子エラー訂正では対象ビットがエンタ ングル状態である必要はなく,また対象ビットがエンタングル状態であったとしてもエラー 訂正を行うことができる.今回シミュレーションを行った量子エラー訂正を実装するために は,量子ワイヤー,半導体での実装など,実際に実験を行うためには技術的に難しい.
量子エラー訂正は量子計算の一分野である.量子計算の分野においてはShorの因数分解 などの演算速度をあげることを目的としているものが多い.それに対して量子エラー訂正で
はexponentialの加速とは違った側面を持っている.
謝辞
本研究において指導教員および主査として終始御指導とご鞭撻を賜りました,全卓樹教授 に心から感謝いたします.本研究の副査を御引き受けいただき,多くのご助言,ご指導を賜 りました,情報システム工学科の岩田誠教授,浜村昌則准教授に心から感謝いたします.
本研究を進めるにあたりましてご助言,御指導を賜りました高知工科大学情報システム工 学科教員並びにスタッフの方々には心より感謝いたします.共に卒業研究に取り組み,日頃 よりご支援いただきました,同研究室の岡崎信也氏に心から感謝いたします.
参考文献
[1] N.David Mermin,木村元訳,“マーミン 量子コンピュータ科学の基礎”,丸善株式会 社,2009.
[2] D.P.DiVincenzo,P.W.Shor,“Fault-Tolerant Error Correction with Efficient Quantum Codes”,Phys.Rev.Lett.77(15):3260-3263,1996.
[3] 高エネルギー加速器研究機構,
“Belle 実験が B 中間子の「量子もつれ」を観測”,News@KEK プレスリリース,
http://www.kek.jp/ja/news/press/2007/BellePress9.html,2007.
[4] 石井茂,”量子暗号 絶対に盗聴されない暗号を作る”,日経BP社,2007.
[5] 北海道大学,三菱電機株式会社,科学技術振興機構,情報通信研究機構,“単一光子源 量子暗号システムで世界最長の80kmの原理検証実験に成功”,JST プレス 共同発表,
http://www.jst.go.jp/pr/announce/20070115/index.html,2007.
[6] T.Aoki,G.Takahashi,T.Kajiya,J.Yoshikawa,S.L.Braunstein,P.v.Loock, A.Furusawa,“Quantum eroor correction beyong qubits”,Nature Physics 5:541-546,2009.
[7] Colin P.Williams,Scott H.Chearwater,西野哲朗,荒井隆,渡邉昇訳,“量子コン ピュータの実現へ向けて量子コンピューティング”,シュプリンガー・フェアラーク株 式会社,2000.
[8] K.Fujii,Y.Tokunaga,“Fault-Tolerant Topological One-Way Quantum Compution with Probabilistic Two-Qubit Gates”,Phys.Rev.Lett 105.250503,2010.
[9] A.M.Steane,”Error Correcting Codes in Quantum Theory”,Phys. Rev.Lett.
77(5):793-797,1996.
[10] P.W.Shor,“Scheme for reducing decoherence in quantum conputer memory”, Phys.Rev.A 52(4):2493-2496,1995.